封印城バビロン決戦~竜の心臓 番犬掌握戦

作者:ハル


「皆さん、リザレクト・ジェネシス追撃戦、お疲れさまでした。そして、お見事でした。戦場で討伐しきれなかった多くのデウスエクスを撃破する事ができたのですから!」
 作戦を終えて戻ったケルベロス達を、山栄・桔梗(シャドウエルフのヘリオライダー・en0233)が笑顔で出迎える。だが、その笑顔にはどことなく硬さが。無論、ケルベロス達も知っている。
 ――まだ、何も終わってなどいない事を。
「数多の戦場の中でも、城ヶ島のドラゴンとの戦いは熾烈を極めました。結果、『堕落の魔王』『ジエストル』『魔竜ヘルムート・レイロード』……3竜の撃破には至りましたが、それでも敵は強大なドラゴン。命を賭した迎撃に晒され、固定型魔空回廊が完成、竜十字島から多数のドラゴンが城ヶ島に出現しています」
 冷たい汗が、桔梗の背筋を伝う。
「人口密集地である東京圏にドラゴンの拠点が……その恐ろしさ、脅威は言うに及びません。我々は、皆さんの奮闘を信じ見守りながら、城ヶ島の奪還作戦について検討を始めていました。そんなある日――」
 複数のヘリオライダーが、予知をした。想像するだに恐ろしい、最悪のものだ。
「その予知に伴い、ドラゴン勢力が命を捨ててでも城ヶ島に執着していた理由も判明しています。それこそが、日本列島に走る龍脈、フォッサ・マグナだったのです!」
 いまいちピンと来ていないケルベロス達。桔梗はその脅威を知ってもらうために、一枚の地図をモニターに表示した。
「ご覧ください。日本列島は、北アメリカプレート、ユーラシアプレート、フィリピン海プレートの3つの境目となっています。そして、城ヶ島からプレートの裂け目に沿って北に進むと……そこに存在するものこそ、『封印城バビロン』なのです」
 地球に――特に日本に住む人々ならば、海洋プレートの名を聞いただけで、ある種の懸念が脳裏を過ぎる。まして、そのプレートに沿うように、ドラゴンの拠点があるとなれば。
「ドラゴン勢力は、封印城バビロンと城ヶ島を結ぶフォッサ・マグナを暴走させるつもりです。目論見通りとなれば、関東圏は壊滅してしまうでしょう。加えて、ドラゴンは大量のグラビティ・チェインを獲得。そのグラビティ・チェインをもって、『惑星スパイラスに閉じ込められた』ドラゴン勢力の救出を目論んでいるのです」
 ケルベロス達は絶句する。関東圏が壊滅となれば……日本は……。
「この目論見を打ち砕くための方法は二つ。作戦の起点である『城ヶ島』か『封印城バビロン』、どちらかの破壊です」
 一方の城ヶ島では固定型魔空回廊が既に完成しており、ドラゴン勢力は竜十字島の全戦力を投入する事が可能だ。必然、竜十字島決戦を覚悟する必要がある。
「――要するに、私達に残された手段は一つ。『封印城バビロンの破壊』こそが、関東圏の壊滅を阻止する唯一の手段なのです!」
 作戦の第一段階として、封印城バビロンの探索を行って欲しい。


「作戦の概要を説明します」
 モニターの表示が、地図から封印城バビロンに切り替わる。
「説明した通り、敵の作戦を阻止するためには『封印城バビロンの破壊』――要塞竜母タラスクの心臓部を撃破するしかありません。しかし、ここで問題が。というのも、通常の方法では心臓部に到達する事は不可能なのです」
 心臓部への到達を不可能にしている要因が三つある。

 無尽蔵の『竜牙竜星雨』。
 ドラゴン戦車を供給する戦車工廠。
 サルベージした戦力を操る死神。

 上記の存在だ。
『竜牙竜星雨』を止め、戦車工廠と死神を破壊及び撃破する必要があった。
「そこで皆さんにお願いしたいのが、以前も私達を苦しめた『竜牙竜星雨』の停止です。竜牙竜星雨を発生させているのは、寄生型ドラゴン『ハートドラゴン』。その撃破をお願いします」
 だが、やはり困難は多い。『竜牙竜星雨』は竜牙兵を利用した圧倒的なまでの物量戦術だ。ハートドラゴンも当然の如く竜牙兵によって護られている。
 ダンジョン突入後、竜牙兵の群れを薙ぎ払いつつハートドラゴンの元に向かい、撃破する必要がある。
「大量の竜牙兵は、ハートドラゴンによって生み出されている模様です。その規模、総数を考えれば、複数チームによる攻略が必要となるでしょう。具体的には、宮元さん、大淀さん、そして私――桔梗がご案内する、3チーム合同ヘリオンチームでの作戦です」
 それぞれの役割は、大まかに三つに分けられる。
「協議の結果、大淀さんチームが、先行してハートドラゴンまでの道を切り開いてくれます。宮元さんチームは、ハードドラゴン周辺の竜牙兵を抑え込む役割を。お二人のチームが、大半の竜牙兵を抑え込んでいる間に――」
 桔梗の瞳が、力を宿す。それは、信頼という名の力だ。
「私達のチームで、ハートドラゴンを討ち取るのです!!」
 残念ながら、ハートドラゴンを守る無尽蔵の竜牙兵を全滅させる事は不可能だ。
 しかし、ハートドラゴンを撃破すると、ハートドラゴンの力によって動いていた竜牙兵は力を失い、コギトエルゴスム化する。
「ハートドラゴンは、個体としての戦闘能力はそこまで飛びぬけたものを有している訳ではありません。しかし、それはドラゴンの中では……というだけの話であって、私達から見れば格上の存在である事に変わりありません。催眠の力を宿す怪光線は言わずもがな、使用頻度は低いですが、ここぞという場面で行使する捨て身の突進攻撃には注意が必要です。また、自身を守護する配下の竜牙兵を援護しつつ、連携を駆使して襲い掛かってくる点も見逃せません」
 桔梗が、一息つく。
「今回の作戦の成否には、東京圏の浮沈が関わってきます。絶対に失敗は許されません。封印城バビロンの探索を行ってくれた方々はもちろん、増援のドラゴンを迎え撃ってくれている方々、戦車工廠、死神、そして要塞竜母タラスク……それぞれの戦場で奮闘している皆さんの努力に報いるためにも、私達も力を合わせて『竜牙竜星雨』を止め、『ハートドラゴン』を撃破してしまいましょう!」


参加者
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
レベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392)
リューデ・ロストワード(鷽憑き・e06168)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
風魔・遊鬼(風鎖・e08021)
深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)
植田・碧(紅き髪の戦女神・e27093)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)

■リプレイ


 廃城『封印城バビロン』は、ホラー映画にでも登場していそうな退廃的な空気を纏って、ケルベロス達を出迎えた。
「この戦い、俺達が失敗したら、全部、失敗に終わる……んだよな」
 突入を間近に控え、水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)が、「責任重大だぜ」そう苦笑を交えて呟く。
「ですね。ですが、負けられないのは今回に限った話ではありません。共に闘っているみなさんのためにも……」
 此度の作戦には、大規模な戦力が投入されている。深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)は別働隊に思いを馳せ、そして共に突入する2チームに視線を向けた。
 すると――。
「このダンジョンへの攻撃も今日で最後! ・・・…に、できるようがんばろー!」
 自らを、集った24名の仲間達を鼓舞するように。シルディ・ガードが、天真爛漫に声を上げた。
「さぁ、油断せずに行きましょう」
 封印城バビロン攻略において、ハートドラゴン撃破という大役を担うのは他でもない自分達だ。ヘアゴムを咥え、赤の長髪を纏める植田・碧(紅き髪の戦女神・e27093)が表情を引き締める。
「みんなで力を合わせて、日本切断計画を叩き潰すよ!」
 リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)は、その人形のように澄ました相貌に、されど決意を滲ませ、隣のミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)を見上げた。ミリムはリリエッタを力強く見返すと、言葉に代えて彼女の小さな手を握り、決意に応える。
 ――と。
 居城の門扉が開け放たれ、蒼桐・景継を先頭に突破班が竜牙兵の蠢く城内へと雪崩れ込んでいく。
「必ず勝たないといけないですね」
 多くの期待と責任に、レベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392)はニードルガトリングガンを強く握りしめた。

 ハートドラゴンの元へと辿り着くために、一体何体の竜牙兵と交戦しただろうか。それは20や30ではとてもきかず……。
 その間、突破班に守られたケルベロス達は無用な戦闘を避け、体力の温存に尽くした。必然それは、突破班が傷ついていく様を黙って見ているという意味でもあり。
「…………」
 夢中で駆ける中、負傷した突破班の血が宙を舞い、風魔・遊鬼(風鎖・e08021)はそれを目元に浴びる。遊鬼はその血を無言で拭いながらも、赤い瞳を無用な感情で揺らしはしない。その代わりに、掌に付着した温かい血潮をギュッと握りしめた。
(「竜牙兵……か」)
 リューデ・ロストワード(鷽憑き・e06168)が、夥しい竜牙兵に抱く感情は複雑だ。かつて自分を害した存在であり、幾度となく矛を交えてきたドラゴンの配下。今では、竜牙兵の主人であるドラゴンに、ある種の敬意すら抱いているのだから、心とは分からぬものだ。
 階段を駆け上がって4階へ。突破班の先導に従ってバビロン内部の扉を、建ち並ぶ柱をいくつも越えて進むと。
「……あそこか」
 リューデ達ケルベロスは、ハートドラゴンの位置する最後の扉にまで到達する。
「ここまでありがとうございました! 必ずあの臓を倒し、竜牙竜星雨を止めて見せます!」
 突入の間際、ミリムは一瞬だけ振り返り、突破班全員に心からの感謝を。
 リリエッタは、琴宮・淡雪と誓いを込めて視線を交わす。
「此処まで露払いしてくれた皆さん、ドラゴンと対峙する皆さん。そして、私たちも。必ず、皆で戻りましょう」
 レミリア・インタルジアが最後にそう告げれば、
「こっちは大丈夫。お任せだよ! そっちお願いね!」
 シルディは、笑顔でハンマーを掲げてくれた。
「淡雪達のおかげで万全の状態で戦えるね。リリ達もしっかり役目を果たすよ!」
 駆けながら、リリエッタは呟く。淡雪達に、そして自分自身に刻むように。


 その部屋は、比較的余裕のある空間。だが、感じる異様さは群を抜いていた。
 胸部のハート型の心臓が、ドクドクと鼓動し、蠢いている。中央の結晶部位が怪しげに煌き、光源が拡散すると、照射されたポイントから新たな竜牙兵が生み出された。さながらここは、竜牙兵の生産工場のようで……。
「よぉ来たのぅ、小童共よ。まずは死地へようこそ……そう挨拶しておこうかのぅ」
(「ドラゴンとの戦いは半年ぶりかしら。随分と様子が違うみたいだけれど」)
 そして部屋の奥で、今作戦のターゲットであるハートドラゴンが、老獪さを隠しもせずに呵呵と嗤った。碧がこれまで相対してきた重厚感と威厳を宿すドラゴン種とは一線を画するその姿…… さりとて封印城バビロンの一角を任されたドラゴンが、見た目通りの訳もなく。
「その血肉、竜牙竜星雨の糧として、貴様らの同胞を鏖殺せしめん!!」
 この宇宙における食物連鎖の頂点に立つ事を自負するように、ハートドラゴン――その蒼の眼光が嗜虐に濁る。
 同時、生み出されたばかりの大量の竜牙兵が武器を手に、統率の取れた動きでケルベロスの退路を断とうと迫った。
 しかし、選ばれた精鋭16名のケルベロスにとって、死地は日常。恐れなく。
「おっと残念、そこでストップです」
 先んじて、据灸庵・赤煙が鍼を打ち込み竜牙兵の行く手を遮る。
 その後にも、彼等は竜牙兵に対して優れた動きを披露していく。
(「助かるぞ、レミリア。ハートドラゴンの心臓を奪い、お前達への感謝としよう」)
 リューデは雷光迸るゲシュタルトグレイブを果敢に投擲するレミリアの姿に、僅かに金の瞳を細めた。
「ここは僕らに任せてもらおうか。……貴方達は貴方達で、為すべき事を」
 冷静、静謐ながら、その奥に強さと優しさの垣間見える赤の瞳が向けられる。館花・詩月との一瞬の交信。レベッカは微笑する彼女へ、ある種の信頼を込めて見返した。
「その大きいハート。お任せ致しますわね。勿論、一匹もそちらには行かせませんので、ご安心してくださって結構ですわ。では、行きますの!」
 最後に、スノー・ヴァーミリオンが自信に満ちた声色と表情で告げると。
「ここで私達が負けるわけにはいかない! お前達にこの地を渡してなるものか!!!」
「自分達の役目を果たしましょう。この命に代えても」
 ルティエと遊鬼が、一喝と共に踏み込む。
 ――呵呵、それを待ち構えていたようにハートドラゴンの哄笑と、律動する心臓からの怪光線が広範囲を薙ぎ払うのであった。

「くぅ……!」
 後衛に狙い澄ましたかのように直撃した怪光線に、さしものルティエも足を止めずにはいられなかった。心の奥底から浸食してくるような不快感に、ルティエは眉を顰める。
「……植田さん、ご無事ですか?」
「ええ、なんとか! ハイドンさんのおかげでね」
 それでも、遊鬼が怪光線を回避し、碧はレベッカに庇われている。メディックが二人共無事なのは、僥倖でもあった。
 そして、この場にはもう一つ僥倖が。
「ほぅ?」
 ハートドラゴンが、感嘆の吐息を漏らす。件のケルベロスチームが、卓越した手練手管を駆使し、ハートドラゴンへと至る道程に存在する竜牙兵を一掃してみせたからだ。
「やりますね、手間が省けます」
 レベッカが、称賛を贈る。
「死地にいるのはお前達の方だぜ、ドラゴン共」
 鬼人は首に提げたカリンの木でできたロザリオに、軽い口付けを。
(「こう見えても、帰りを待ってくれてる人がいるんだ。笑顔で帰らなきゃ……情けねぇだろ」)
 脳裏に過ぎるのは、愛しい彼女の歌声。その歌声に背中を押されるように、ハートドラゴンに向けて業物の太刀を構えると、鬼人は卓越した技量をもって斬り掛かる。
「カカッ、こう見えて儂もドラゴンよ。現状竜牙兵と分断されたとはいえ、そう易々とこの命、取らせはせんよ!」
 ――が、太刀の軌道が浅い!
「そのあなたの無駄口を塞いでやります!」
 続くミリムの竜砲弾も、紙一重で躱される。
「準備はいいな、紅蓮!」
 ルティエは染みついた殺戮のキオクを呼び覚まし――ネェ、モットワタシト遊ビマショウ? 薄笑いを浮かべてハートドラゴンの背後を取って攻め立てる。ハートドラゴンは翼を旋回させて攻撃に応対。その間に、紅蓮がリリエッタに、スノーが前衛に耐性を。
「風魔さん」
「無論、 諒解しておりますよ、植田さん」
 歴戦のメディック二人。状況判断はお手の物。碧が前衛の背後にカラフルな爆風を発生させて後押しすると、すかさず遊鬼が連携して後衛にオウガ粒子を散布して、リューデ以外の催眠の解除に成功する。
「命を賭けるか。ならば俺もだ」
 リューデはここが、誰にとっても死地であると知る。互いに、その背に負う訳や命がある限り。
「その心臓、貰い受ける」
 心中を犯す不快感に堪えながら、リューデが己が心臓に宿る地獄を引き摺り出し、炎を蔦のように操ってハートドラゴンを絡め取った。地獄は常時よりも強力に蠢き、頑と捉えて離さない。
「手始めに、風穴を開けてあげましょう」
 そこへ、レベッカの折り畳み式アームドフォートの主砲から、次々と砲撃が発射される。
 モクモクと粉塵が室内を埋め尽くす中、
「……やっぱり、そう簡単にはいかないね」
 リリエッタは呟いた。
 サブウェポンのリリ・リリ・スプラッシュから凍結光線を放つ彼女の青の瞳は、大口を開け、毒々しい血の塊を放とうとするハートドラゴンを捉えていた。


「逃がすかよぉ!!」
 ダイス模様を浮かび上がらせた鬼人の左腕から地獄の業火が噴き上がり、無名刀へと伝う。振るわれた太刀はガードのために差し出されたハートドラゴンの片翼に灼熱の十字を刻む。
 ミリムの蒼炎を纏う大剣が、ハートドラゴンの翼を斬り払う。手を休めず、リューデの投射したウイルスカプセルが、ハートドラゴンの堅い外殻に僅かにめり込んだ。レベッカの爆炎の魔力が込められた大量の弾幕が急所を捉え、外殻を越えてついに柔らかい体内へと撃ち込まれていく。
「役目を晴たすって、淡雪達に約束したんだから!」
 リリエッタは、LC-80 Type ASSAULTを構え、前掛かりにエネルギー光弾を射出する。一連の流れを鑑みても、ハートドラゴンの機動力がある程度低下しているのは明白。
 隙を見て、遊鬼が後衛の陣形を整え、催眠を一つでも多く駆逐する。
 互いに、攻撃の中で催眠を最優先で排除し、耐性を最優先でブレイクされ……そんな、一進一退の攻防が続く。
「闘争とは、こうでなくてはのぅ」
 ハートドラゴンの心臓が大きく律動する。溢れ出た光は、列やアンチヒールをものともせずに驚異的なヒール量を生み出し、翼を再生。よりにもよって、機動力低下のためのバッドステータスの大半を駆逐した。
 だが、ケルベロスに動揺はなく、横目で顔を見合わせたリューデとルティエは、何度でもその足を止めてやる! そう金と藍の瞳に力を込めて、ハートドラゴンを見据えている。
「二時方向、竜牙兵の増援!! 4体確認できたわ!」
 瞬間、ハートドラゴンの――ではなく、戦場全体の異変を察知した碧が警告を上げる。
「包囲網から抜け出てきましたか!」
 無尽蔵に生み出される竜牙兵、個体としての能力は低くとも、多勢に無勢。遊鬼達は、ハートドラゴンに加え、そちらにも手を割くことになる事を覚悟するが。
 少し離れた地点で、こちらに駆ける竜牙兵の背に刀剣の瞬きが、オーラが、雷の波動が、縛霊手が、如意棒が立て続けに叩き込まれる。射程から逃れる紙一重の距離で、なんとか食い止めてくれたのだ。
「ありがたいぜ――うおっ!?」
 しかし、機をうかがっていたハートドラゴンが、取り戻した機動力で再行動。前衛に怪光線を浴びせ、鬼人が呻く。加え、急所に直撃を受けた紅蓮が堪えきれずに消失した。
「あぐッ! 負けません! 理不尽をぶっ壊すまでは!」
 全身に走る傷と、心を澱ませる闇の声。それらをなんとか乗り越え、ミリムが加速したハンマーを叩き付ける。太刀筋こそ浅いものの、序盤とは違ってハートドラゴンに纏わり付く凍傷が軋み、威力の補助となっていた。
 ダメージは徐々に、確実に、真綿で絞め殺すように。
「本領を発揮できずにこの強さ……さすがはドラゴンね。でも、今なら!」
 また、ディフェンダーの枚数こそ薄いが、こういう時のためのメディック2人と一匹体勢だ。ミリム以外のアタッカーに手番が回る前に、碧がオウガ粒子を放出する。碧は背筋を冷たくしていた。竜牙兵の増援がない事に、心の底から他チームの助力に感謝しながら。
 スノーのヒールグラビティーを浴びながら、懐に潜り込んだ鬼人が達人の一撃を放つ。
「よくも紅蓮を! だが、この程度で私達が怯むと思うな!!」
 ルティエが銀狼のそれに獣化した手足で、狩人のように立ち回ってハートドラゴンを殴りつける。宣言通り、バッドステータスを再び一から積み上げていくために。

 やがて――。
「往生際のよい死に様など、犬にでも喰わせておけ! この命尽きる瞬間まで、足掻いて足掻いて足掻き尽くしてやるわ!」
 ハートドラゴンが、その心臓を誇示するように天高く舞い上がる。その心、ハートは誰にも負けぬと主張するように。
 ケルベロス達は正念場を感じ、体勢を低くして身構える。豪と突風を纏い、破壊の権化と化したハートドラゴンが、標的として定めたのはミリムだ。これまでの戦闘の経過で、耐性の薄さを見定められている。
(「……運命、でしょうか」)
 ここで出会ったのは、まさしく。「ミリム!!」反射的にチョーカーを握りしめながら叫ぶリリエッタの声を耳にしながら、ミルムは不思議な感慨を。
「仕方がありません。後は任せます、そこをどいていてください」
 だが、感慨に浸る暇はない。間一髪レベッカが割って入ると、ハートドラゴンとのインパクトと同時に、彼女の身体は城壁に打ち付けられてしまう。半身を壁に埋めた彼女は、意識を失っている。だが――。
「大丈夫だ! 傷はそれほど深くはないみたいだぜ!」
 リリエッタを中心とした火力抑制が功を奏したか、鬼人が安堵の吐息を吐きつつ、刀を振るう。
 ルティエが、ハートドラゴンの背後を取った。
「今度こそ、その心臓貰い受ける」
 間髪入れず、リューデが時空凍結弾を放つ。
 しかし、ディフェンダーを失った事で、ハートドラゴンのブレスと怪光線が吹き荒れ、猛威を振るった。
「凌ぎましょう、ハートドラゴンも限界のはず」
 遊鬼が、ヒールでなんとか後退を押し止める。
 碧は光の翼に宿らせた癒やしで確実に。
「よくもミリムを狙ったね。そしてレベッカを……。リリは許さないよ!」
 リリエッタの凍結光線が、心臓を完全に凍らせる。竜牙兵の生産が、ようやく止まった。
「そう――これは運命です。私達があなたと出会い、倒すという!!」
 青い炎が唸りを上げ、ミリムの振り上げた大剣がハードトラゴンの心臓を完膚なきまでに破壊する。
 次の瞬間、ケルベロス達の脅威となっていた竜牙兵もまた、コギトエルゴスム化して力を失うのであった。

作者:ハル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月30日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。