封印城バビロン決戦~龍魚の群れとの激闘を

作者:長野聖夜


「リザレクト・ジェネシス追撃戦お疲れ様でした。皆さんのお陰で戦場で撃ち漏らした多くのデウスエクスを撃破する事に成功しました」
 微かに息を一つつきながら、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が集まったケルベロス達に一礼し、特に・・・・・・と先を続ける。
「城ヶ島のドラゴンとの戦いは熾烈を極めており、皆さんは3竜の撃破には成功しました。ですが、ドラゴン達の命を賭した迎撃によって、固定型魔空回廊が完成、竜十字島から多数のドラゴンが城ヶ島に出現しています」
 人口密集地である東京圏に、ドラゴンの拠点がある危険性は言うに及ばないことだろう。
 故に、城ヶ島の奪還作戦について検討を進めていたのだが・・・・・・。
「・・・・・・その中で、複数のヘリオライダーによって、恐ろしい予知がもたらされたのです」
 それが、日本列島に走る龍脈、フォッサ・マグナである。
「この地図を見て下さい」
 恐ろしい予知の内容について簡潔に説明を行いながら、セリカが地図を指さし、順繰りに説明を続けた。
「日本列島は、北アメリカプレート、ユーラシアプレート、フィリピン海プレートの3つの境目となっています。その城ヶ島からプレートの裂け目に沿って北に進むと、そこにあるのは・・・・・・『封印城バビロン』になるのです」
 どうやら、ドラゴン勢力はこの封印城バビロンと城ヶ島を結ぶフォッサ・マグナを暴走させて関東圏を壊滅させると同時に大量のグラビティ・チェインを獲得、そのグラビティ・チェインを使い『惑星スパイラスに閉じ込められた』ドラゴンの勢力の救出を行おうとしている様だ。
「このドラゴン達の作戦を阻止するには、作戦の起点である『城ヶ島』か『封印城バビロン』のどちらかを破壊する必要があります。しかし・・・・・・」
 と微かに憂いげに眉を潜めるセリカ。
「・・・・・・城ヶ島には、固定型魔空回廊があります。その為、ドラゴン達は竜十字島の前線力を投入することが可能になります。この場合、竜十字島決戦・・・・・・決死戦と言っても過言では無いかも知れませんが・・・・・・これを覚悟しなければなりません」
 その為、現実的に見て攻略が可能なのは、『封印城バビロン』のみ。
 戦力が城ヶ島程集結していない此処であれば、まだ戦える余地はある。
「結果として皆さんにお願いするのは封印城バビロンの攻略です。皆さんには、その第一段階として封印城バビロンの探索を行って頂きたいと思います。どうか宜しくお願い申し上げます」
 祈りと共に告げられたセリカの言葉に、ケルベロス達はそれぞれの表情で頷き返した。


 とは言え、ドラゴン勢力も決して間抜けでは無い。
 ドラゴン勢力も又、ケルベロス達によるバビロン城攻略作戦の意図は察知している。
「その為、ドラゴン勢力は『竜影海流群』をバビロン救援の為に、応援として差し向けてきました」
『竜影海流群』は、竜十字島近海の防衛ラインを構成していたエルダードラゴンの一種。
 その移動速度と一糸乱れぬ集団戦は、ドラゴン勢力でも屈指のものだとされている。
「もしこの援軍が大挙して封印城バビロンに到達してしまえば、バビロン攻略は困難になってしまいます。そこで、皆さんにはこれを阻止するために、バビロン城探索の前に『竜影海流』戦って頂きたいのです」
 尚、その為に世界中からありったけの飛行船や気球を集めて空中に城塞が築かれ、迎撃態勢は整えられている。
「皆さんには、この飛行船と気球を足場として、飛来するドラゴンを迎え撃ち、撃退して頂けます様、お願いします」
 そう告げると共に静かに一礼をするのに、ケルベロス達がそれぞれの表情で返事を返した。


「さて次は、具体的な状況なのですが・・・・・・先ず『竜影海流群』は、一直線に封印城バビロンを目指しています」
 そのコースは分かっているのでその途上に気球と飛行船による『戦場』を用意した状況になっている。こうしておけば気球と飛行船をロープや鎖で繋げる事で、空を飛ぶドラゴンとの空中戦が可能になるからだ。
「皆さんの身体能力でしたら、ロープや鎖で繋がれた船上を、縦横無尽に走り回りながら、ドラゴンと戦うことが十分出来るでしょう」
 無論、相手はドラゴンである。
 移動速度と一糸乱れぬ集団戦もさることながら、その群れを作る一体、一体の『個』自体が強敵となる。
「ですので、皆さんで一組を作り、互いに連携しながら戦う必要があるのです」
 この辺りは、普段の戦いと同じだろう。
 ただ・・・・・・此処で異なってくるのは、今回の戦場が空中にあるということだ。
「つまり、戦場から離脱、或いは何らかの攻撃によって落下させられた場合、高空から地面にたたき落とされることになりますので再び戦場に戻ることは出来ません。せめてもの救いは、落下した時はとても痛いですが、それ以上の負傷を負うことは無い、と言ったところでしょう」
 一度倒されてしまったり、戦場から離脱してしまえば戦場への復帰は不可能だが、逆に言えば逃げようと思えば直ぐに逃げることが出来るという事でもある。
「もし、ドラゴンの攻撃により危機に陥った場合は、落下による離脱も視野に入れてみるのも良いかも知れませんね」
 或いは戦場でとどめを刺されぬ様に、戦闘不能者を離脱させると言った様に。
 セリカの言葉の意味をそれぞれ耳にしながら、ケルベロス達は頷き返すのだった。

「敵の進路を予知して迎撃態勢を整える事は出来ましたが、戦場を構成する飛行船や気球は、ドラゴンの攻撃に耐える事は出来ず、戦闘の余波で破壊されていきます」
 そのため、この空中の戦場でまともに戦える時間は、15分程度となっている。
「敵を突破させない事を優先するのでしたら、1班につき、1体以上の敵を撃破すれば問題ありません。ですが、可能でしたら複数体の撃破を狙うのも有効です。最も簡単にはいかないとは思いますが・・・・・・どうか、お気を付けて」
 セリカの言葉に背を押され、ケルベロス達は静かにその場を後にした。


参加者
月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)
クーデリカ・ベルレイム(白炎に彩られし小花・e02310)
瀬戸・玲子(ヤンデレメイド・e02756)
瀬戸口・灰(忘れじの・e04992)
西院・織櫻(櫻鬼・e18663)
レイニー・インシグニア(舌切り雀・e24282)
清水・湖満(氷雨・e25983)
瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)

■リプレイ


「・・・・・・あなたは飛べるから良いですね」
 気球の上で緊張したクーデリカ・ベルレイム(白炎に彩られし小花・e02310)が愛猫クルムをもふもふする。
 微かに不安を滲ませる声音を感じたのだろう瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)が大丈夫だ、と軽く彼女の肩を叩いた。
「その時は高度が下がっているだろうから、俺達が抱えるよ」
「ああ、そうだぜ。だから、安心してくれよな」
 右院に頷くはレイニー・インシグニア(舌切り雀・e24282)。
 クーデリカを励ます右院達を見ながら月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)が周囲の鎖やロープ、気球や飛行船の位置を確認。
「予め戦場を知っておけばそれだけ落下の可能性も減るものだよね」
「そうやな。私もそう思う」
 右院達に声を掛けられクーデリカの不安が紛れているだろう事を察した清水・湖満(氷雨・e25983)が頷くのに瀬戸・玲子(ヤンデレメイド・e02756)もまたそうよね、と頷き目を迫り来るドラゴンに、意識を自分達の背の封印城バビロンに向けた。
(「封印城バビロン攻略か。ずっと気になってたのよね」)
 現在、あそこのかつての城主である大罪竜バビロンのコギトエルゴスムはどうなっているのか。
 封印城に封印されていると言う話しではあるが・・・・・・案外タラクスに喰われてしまっているのかも知れない。
 或いは・・・・・・。
(「ドラゴン達の作戦が成功したら、復活したりするのかしらね」)
 ならば、この作戦は絶対に失敗できない。
 其々の思いを気に留めぬままに西院・織櫻(櫻鬼・e18663)は静かに瞑目する。
(「例え、如何なる状況においても」)
 刃を鈍らせず戦うべし。
 それこそが織櫻の『至行を目指し刃を磨く』為に進むべき道。
「皆さん・・・・・・接近してきましたよ」
 殺気を感じた織櫻が目を開き周囲に呼びかける。
 彼等の前に現れたのは、一体のドラゴン。
 竜影海流群の内の一体。
「これは、願っても無いことですね」
 『瑠璃丸』、『櫻鬼』と銘打たれた二刀を構える織櫻。
「さて、お出ましだな。あのドラゴン共も、仲間を助けたくて必死らしい」
「そうやね。でも、それは私等も同じやろ」
「そうだね。だから、俺達も負けられないよ」
 湖満が頷き磔壊を構えるのに頷いた右院が霊峰天津紫茨を青眼に構え、玲子がマテバ・オートリボルバーを竜の角に突きつける。
「気合い十分だな。それじゃあ・・・・・・この場所で確実に食い止めるぜ!」
 瀬戸口・灰(忘れじの・e04992)の叫びに応じて右院達も一斉に行動を開始した。


「先ずは動きを封じます!」
(「・・・・・・白炎解放、縛めの呪いを焼き付けよ・・・・・・」)
 最初に動いたのは、握りしめた掌をふわりと広げたクーデリカ。
 開かれた手から何処か妖艶さを感じる怪しげな揺らめきを描く白炎が迸り、竜の角に傷をつける。
 そこから侵入した炎の戒めが敵の動きを鈍らせた。
「・・・・・・そんじゃ、まぁ」
 クーデリカの攻撃に動きを止めた敵へとレイニーがダブルジャンプで空中から接近、人差し指を突きつける。
 ――意地の張り合いといこうじゃねェか!
 同時にレイニーの左右に現れた2体のファミリアを混ぜ合わせ、白鯨を模した合成獣を生み出す。
「これがアンタの”Fine”になる」
 宣告と同時にトップテノールでFeeding・Callを歌うレイニー。
 その歌声は激しく大気を震撼させ。
 声音に押される様に煙雨をまとい、正しく『空』を泳ぐ白鯨が標的足る竜のヒレを食らう。
「ちょっと出遅れちゃったけれど、皆、頼んだよ!」
「ああ、任されたぜ!」
 レイニーの生み出した隙を逃さず、右院が全身を覆うにゃんこメタルから光り輝くオーラを解き放ち、灰達の力を強化。
 右院からの支援をその身に帯びた灰が一条の銀の流星となって敵に肉薄、そのヒレを狙う。
 竜はその場で素早く反転、強打を背中へずらした。
「オノレ・・・・・・!」
 呻きと共に口腔から紫のブレスを吐き出す竜。
 吸い込めばそれだけで体を内側から腐らされるであろうブレスに臆すること無くすり足で接近する湖満をリキが庇いながら地獄の瘴気で威嚇。
「こういう時に言うことじゃねぇが、良い出汁が取れそうなドラゴンだよね」
「緊張感ないんやね。まあ、その位の方が良いかも知れんやけど」
 朔耶に微笑みながら湖満が磔壊の刃先を怪しく光り輝かせて振り上げた。
 力任せの一撃が腹部を切り裂き鮮血が飛ぶがその血飛沫は暴風によって何処かへと流されていく。
 それを見ながら朔耶が湖満達の足下に魔方陣を描く。
 防護の加護を受けたクルムに庇われた織櫻が螺旋の渦を描いた掌底を放つ。
 螺旋の渦にその身の一部を凍てつかさた竜が全身を震わせた。
「夜朱!」
 灰の指示に夜朱が翼を羽ばたかせクーデリカ達を守る青白い淡い光に包まれるのと、吹雪が織櫻達を包み込んだのはほぼ同時だった。
 織櫻をリキが、湖満をクルムが庇うが、その寒さに体に霜が張りつく。
「……くっ、まだまだ……!」
 クーデリカは敵を睨みつけながら、霜により凍てつきかけたマインドリングに纏わせた白炎で霜を溶かし、被害を最小限に抑えた。
「このタイミングね……!」
 マテバ・オートリボルバーを天に掲げ引金を引く玲子。
 凝縮されたオウガメタルの光の弾が天で弾け湖満達を癒す雨となる。
「回復は私がするわ! クーデリカさんも援護をお願い!」
「了解です。クルム……お願いします」
 クーデリカの呼びかけにクルムが白い羽を羽ばたかせ、白き清浄なる風を起こす。
 張り付いていた霜が玲子の支援もあって徐々に溶けていった。
(「二回行動……手数で攻めてくる竜、と言う訳ですか」)
 その様子を見ながら織櫻が冷静に敵を分析。
 回避は然程でも無いが、この手数の多さは攻撃力の高さに直結する。
「……面白いな」
 思わず口元を綻ばせた織櫻が駆けた。
「スナイパー、やね。灰、右院、任せたわ」
「分かったぜ」
「任されたよ」
 湖満の指示に灰が間合いを詰めて縛霊手から霊状の網を生み出して竜を締め上げ、右院があずき棒から射出された杭でその身を射貫いて凍てつかせる。
「キサマラ・・・・・・!」
 竜が織櫻を刃と化したヒレで引き裂こうとするが、代わりにクーデリカが舞う様に白炎を展開して強化したオウガメタルで受け止めた。
「・・・・・・この位で・・・・・・!」
 凄まじい斬撃と同時に再度全てを凍てつかせる吹雪を吐く竜の攻撃から、クルムに庇われつつ祈る様に両手を組む。
「お願いします・・・・・・!」
 祈りと共に放たれた光の粒子に包み込まれた織櫻が逆手の瑠璃丸を下段から振り切った。
『空』の力の籠められた刃が腹部を斬り裂く手応えを感じながら、大上段に構えていた『櫻鬼』を振り下ろす。
「我が斬撃、遍く全てを断ち切る閃刃なり」
 周囲の雹を悉く切り裂き、更に空中で凝固されつつあった水・・・・・・即ち雨粒をも切り裂く一閃がヒレを切り裂き更に湖満が着物で軌道を隠した回し蹴りを放ちその身を切り裂く。
「今や、朔耶、レイニー」
「そこだぜ!」
 冷静に、冷酷に。
 湖満に告げられたそれにレイニーが頷き、竜の周囲の時を止める弾丸を解き放って既に広がりつつあった竜の氷を更に拡大し、朔耶がパチン、と指を鳴らす。
「解放・・・・・・ポテさん、お願いします!」
 合図と共に現れた白いコキンメフクロウの姿をしたファミリアに朔耶自身の魔力を上乗せして解き放った。
 白い流星と化したポテさんが真正面から竜に衝突し全身を痺れさせる。
「クァァ・・・・・・!」
「今の内ね」
 動きを鈍らせた竜の隙をついた玲子が素早く脳髄を賦活させる弾丸をマテバ・オートリボルバーに装填して射出。
 その弾がクーデリカを癒やす間にリキが口に咥えた神器の剣で竜を切裂き、更に夜朱が清浄な風を起こし、クルム達を回復がまだ戦いはこれからだ。


「あっちでも頑張っている奴らがいるんだ、負けられないぜ」
 玲子からの銀の粒子の援護により、体に張り付いた霜を削ぎ落された灰が竜の口に向けて拳を放つ。
 拳と共に放たれた網状の霊的結界が口腔内を締め上げ、毒のブレスを吐く隙を封じる程に竜を怯ませた。
「厄介やね」
「だからこそ、磨き甲斐がある」
 答える織櫻に頷きつつ磔壊を下段に構える湖満。
「悔い改めよ」
 まるで死神の様に断じながら湖満が磔壊で弧を描いた。
 本来なら音を伝える役割を果たす空気事その空間が切断され、静かに、そして無慈悲に竜の腹部を深々と切り裂く。
 唯一血飛沫が舞う音だけがまるで残酷な神への賛美の様に耳に届くが、織櫻は気にする事無く大上段から『櫻鬼』と『瑠璃丸』を振り下ろした。
 白刃に刻まれた桜の象嵌と、黒刃に刻まれた瑠璃の象嵌が怪しげな輝きを放ち、白と黒の衝撃波となって混ざり合い、竜の体を残酷に切り裂いていく。
「続くよ。・・・・・・濡れるもまた、風情」
 そこに右院がブレスによってボロボロになった気球を蹴って空中を飛び回る竜へと肉薄。
 落下する気球には目もくれず、霊峰天津紫茨に水の霊力を帯びさせて、一閃。
 横一文字に振るわれたそれに腹部を切り裂かれ、既に体中に回っていた氷柱が全身に広がり、艶やかに濡れる氷の花が腹部に咲き、その命を吸い取る様に艶めかしく輝く。
 花に取り込まれた竜にレイニーがファミリアロッドの先端から、魔法の矢を雨あられと降り注がせた。
「これで・・・・・・どうだ?!」
 寒さに軽く身を震わせながら朔耶がポテさんを射出。
 リキが睨み付けて凍り付いた竜を焼くと同時にポテさんが白い光となって竜に体当たりを放ち、その炎と氷を拡大。
(「・・・・・・まだまだやね」)
 クーデリカの爆破スイッチを押す音と共に、既に足場としての意味を失い落下していた気球がカラフルに爆発爆風に押された湖満が物干し竿でもある影干で竜の腹部を貫いている。
 思わぬ攻撃に動揺したか態勢を大きく崩た竜が全身を震わせブレスを吐き出し、分散した位置に陣取っていた玲子達の立つ足場を崩す。
「しまったわ!」
 マテバ・オートリボルバーから癒しの弾丸を射出、ブレスによる直撃から自分やレイニー達を守り消えかけるクルム達を回復しながら落下しかける玲子。
 レイニーは空気が薄かったが、一瞬だけ翼で空を切り直ぐに次の足場に移動し、フック付きロープを近くの飛行船に引っかけて踏み留まる玲子を見て息を呑む。
「玲子!」
「グルァァァァ!」
「夜朱!」
 再びブレスを吐きかけ玲子を飛行船事落下させようとする竜を見たレイニーと灰の叫びに応じる様に夜朱が尻尾のリングを飛ばして竜の気を逸らした。
 すかさず灰が差し伸べた手を玲子が掴み着地しようとするが・・・・・・。
「グルアアア!」
 竜の雄叫びが周囲を震撼させて風を起こし、灰達を纏めて落とそうとしたその時。
「灰、これや」
 湖満が影干を突き出し灰に掴ませて玲子を引き上げさせる。
「そこだな」
「この位じゃ倒せないぜ!」
 織櫻が雨粒すらも切り裂く疾風の斬撃を瑠璃丸と櫻鬼で繰り出し、朔耶がポテさんを解放し自らの魔力を上乗せして白い弾丸と化させて撃ちだし、竜を大仰にのけぞらせる。
「畳みかけるよ!」
 右院が青眼に構え直した『空』の力を蓄えた霊峰天津紫茨を脇構えに持ち替え、そのまま振り上げる。
『空を絶つ斬撃』
 その名の通り、目で捉えられぬ剣閃が竜の体に蕾となって残っていた氷の花を咲かせてその命を削り取り、更にそのヒレをも切り裂いている。
「同じ手を二度もやらせはしないぜ!」
 レイニーが周囲を飛び回りながらホーミングアロー。
 放たれた矢が竜の身を射貫き、更に重傷を負わせたところで竜が咆哮と共に毒のブレスを吐く。
 そのブレスから織櫻をリキが守り、お返しとばかりに殺気を叩き付けながら消滅し、更に最後の仕事と言わんばかりにクーデリカを庇ったクルムも又、清浄なる風を吹き起こしながら消滅。
(「まだや・・・・・・最後まで、戦い抜く・・・・・・!」)
 湖満が誓いを胸に、灰の流星の如き蹴りと共に突進し、磔壊を大上段から振り下ろしてその身を切り裂いた。


「まだ行けますよね、湖満さん・・・・・・?」
「私は、大丈夫やね。だから、織櫻達を守ってや」
 荒い息をつきながら問うクーデリカに肩で息をしながら湖満が頷く。
 同様に傷だらけの織櫻を爪で切り裂こうとする竜。
 しかしその攻撃は最後の力を振り絞り、その場に立っていたクーデリカが受け止めた。
 それは、彼女の意識を失わせるに足る一撃だったが。
(「ならば・・・・・・せめて・・・・・・!」)
 かっ、と目を開いたクーデリカが白炎をエアシューズに纏わせて一筋の白い彗星となって蹴りを放つ。
 その蹴りが竜の腹部に決まり、同時に竜の全身に氷が広がるのを見て唇を微笑の形を作りながら、足場と共に落ちていく。
「この隙・・・・・・見逃さないわ!」
 その隙を逃さず玲子が素早く術を詠唱。
「全術解放、圧縮開始、銃弾形成。神から奪いし叡智、混沌と化して、神を撃て!」
 魔導書に刻まれた全ての魔術を解放し、マテバ・オートリボルバーに籠めた一発の弾丸に託して引金を引く。
 全ての魔力が凝縮された魔力弾が竜の身を射貫くと同時に、レイニーがマジックミサイルで無数の魔法の矢を降り注がせて竜の全身を射貫き灰が縛霊手を起動。
「これで、終わらせようぜ!」
 夜朱がその身を引っ掻きその気を逸らす間に、灰の解き放った霊状の網が竜の全身を縛り上げた。
「終わりだぜ!」
 朔耶が辛うじて残っている足場となっている鎖を駆けていく。
 既に幾度もの竜からの攻撃を受けてボロボロになっていた鎖達は、朔耶の生み出した摩擦に耐えきれずに崩れていくが、朔耶はこれ以上無い程に加速、強烈な炎の塊となった。
「喰らいやがれ!」
 叫びと共に放った朔耶の渾身の炎の蹴りが竜を焼き、右院が雨花仙を解き放てば、竜に張り付いていた氷の蕾が一斉に咲き竜の全身を凍て付かせる。
「これで・・・・・・全ての花が咲いた」
 既に勝利を様に、霊峰天津紫茨を納刀する右近。
 その間に湖満と織櫻が左右から肉薄。
「悔い改めよ」
「終わりだな」
 湖満の磔壊が竜の喉を掻っ捌き、織櫻が腹部に蹴りを叩き付けると共に『瑠璃丸』と『櫻鬼』を大上段から振り下ろし傷だらけの腹部に突き刺した。
「グ・・・・・・ガァァァァァ・・・・・・!」
 絶叫を上げる竜から飛び離れ既にボロボロの気球へと何とか着地する2人。
 高度が低くなった所でレイニーが落下中のクーデリカを辛うじて光の翼で飛行しながら掴んだ。
「・・・・・・周囲の戦いもほぼ終わったみたいだね」
 その一部始終を見た朔耶が周囲の戦況を見つつレイニー達に呼びかける。
「ああ・・・・・・そうだな」
 クーデリカを抱えたレイニーが全班のケルベロス優勢の動きを見ながら、そっと息を一ついたのだった。

作者:長野聖夜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月30日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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