アーザムローズ

作者:犬塚ひなこ

●殺戮の時間
 真夜中の交差点は行き交う人も疎ら。
 青から黄色へ変わる信号機が明滅し、夜の狭間に鈍い光を落とす。
 終電間際の駅前に居るのはざっと数えて十数人。家路を急ぐ人々、その姿を何者かがビルの屋上から見下ろしていた。
「人間ってのはちっぽけなモノだよなァ」
 それは薔薇のように紅い鎧を身に着けた巨躯の人影。
 彼はエインヘリアル。コギトエルゴスム化から解き放たれ、地球に送り込まれた罪人だ。
「だが……あんなに小さくて弱そうなら、殺し甲斐もあるってもんだ」
 くく、と喉を鳴らして笑った罪人エインヘリアルは背に携えていた大剣を抜き放ち、その切先を眼下の人々に向けた。
 誰も未だそのことに気付いておらず、人々は信号が変わるのを静かに待っている。
 やがてその光が色を変えた、そのとき。
「泣け、喚け、叫べ! オレに恐怖の悲鳴を聞かせやがれ!」
 狂気に満ちた声が頭上から響き、横断歩道の真ん中にエインヘリアルが降り立った。
 突然のことに驚いて動けぬ人々は本能的に知る。あと数秒後にはもう此処に生きた者は誰もいなくなるだろうということを――。
 そして、昏い夜の最中に薔薇の如き赤い血の花が咲いた。

●罪人の凶行
 それが未来に視えた光景なのだと話し、少女は俯く。
「そのエインヘリアルは、過去にアスガルドで重罪を犯した凶悪犯罪者さんらしいのでございます。このまま放っておくと人々の命が無残に奪われてしまいますです」
 雨森・リルリカ(花雫のヘリオライダー・en0030)はぐっと掌を握り締め、集ったケルベロス達に事件の解決を願った。
 今回の敵を放置すれば人々に恐怖と憎悪がもたらされ、地球で活動するエインヘリアルの定命化を遅らせることも考えられる。人命の為、そしてこれからの戦いの為にもこれは絶っておくべき事件だ。
「敵は一体だけ。ですが、とても強い相手です」
 今すぐに向かえばエインヘリアルが交差点の中心に降り立つ直前に現場に到着できる。避難誘導や声掛けを行っている時間はないが、ケルベロスが敵の気を引けば周りの人々が逃げる時間を稼げるだろう。
 幸いにも敵の思考力はそれほど高くない。
 攻撃、もしくは言葉で挑発をすれば逃げた一般人を追うようなことはしないはずだ。
 後は全力で戦って敵を倒せばいいと話し、リルリカは敵の詳細を語ってゆく。
「エインヘリアルはすごく大きなゾディアックソードを装備しています。それから、薔薇みたいに真っ赤な鎧を着ているので見つけるのも難しくありません」
 そもそもが派手な登場なのだから何かと見紛うこともない。
 罪人だけあってその性質は凶暴で邪悪。一撃の重さも注意すべき点であると告げ、リルリカはそっと息を吐いた。
「相手はアスガルドで凶悪犯罪を起こしていたような危険なエインヘリアルです。そんなのを野放しにするわけにはいかないのでございます。ですから――」
 必ず敵を倒してください。
 しっかりとした声で告げた少女の瞳には、番犬達への信頼が宿っていた。


参加者
巫・縁(魂の亡失者・e01047)
松永・桃李(紅孔雀・e04056)
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)
翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525)
クララ・リンドヴァル(本の魔女・e18856)
アミル・ララバイ(遊蝶花・e27996)
堂道・花火(光彩陸離・e40184)
金剛・小唄(ごく普通の女子大学生・e40197)

■リプレイ

●交差するもの
 静かで平穏な夜を穢すのは、忌むべき存在――デウスエクス。
 翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525)は交差点の陰から頭上を見上げ、ビルの上に佇む影を見据える。
「この場に殺戮は似合いません。人々の命、必ず護りましょう」
 風音の声に頷く形で匣竜のシャティレが身構え、そのときを待つ。
 巫・縁(魂の亡失者・e01047)も罪人エインヘリアルが降り立つ瞬間を見逃さぬよう、斬機神刀を強く握った。その傍らにはオルトロスのアマツも控えている。
「こういう唾棄すべき輩は早く処理をするに限るな」
 それ以外思うこともあるまい、と縁は戦いのことにだけ意識を向けた。松永・桃李(紅孔雀・e04056)も気を引き締め、敵が行おうとしている殺戮を思う。
「悪趣味で参るわね」
 桃李が溜息にも似た言葉を落とすと、金剛・小唄(ごく普通の女子大学生・e40197)が連れている翼猫の点心がぴくりと反応した。
 敵が動いたと察した小唄が、来ます、と仲間に呼び掛ける。
 次の瞬間。
 影が跳躍し、交差点の真ん中に降り立った。
 すかさず番犬達がその周りを取り囲み、イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)が先手の一撃を見舞うべくして地を蹴る。
「待ちなさい、エインヘリアルの罪人!  罪なき人々を手当たり次第に襲うなんて言語道断です! 私達と戦いなさい!」
 銀天剣、イリス・フルーリア――参ります。
 名乗りと共に振るうは銀天剣・玖の斬。
「泣け、喚け、叫……あァ!?」
 対する敵は弱い人間しかいないと思っていたらしく、一閃に弾き飛ばされる。
 痛てェ、と相手が呻く中、クララ・リンドヴァル(本の魔女・e18856)による爆破の一撃と、アミル・ララバイ(遊蝶花・e27996)の雷刃の突きが放たれた。
 そして、小唄は戸惑う一般人に呼び掛けた。
「ケルベロスです、ここは危険なので、早く安全な場所へ退避してください!」
 その一声で駅前交番の警察も動き始める。
 これで避難に関しては心配ないだろうと感じ、風音と縁は頷きあった。
 身構えた堂道・花火(光彩陸離・e40184)は起き上がった敵に向け、バンテージを巻いた拳を突き出す。
「こんな夜中に大暴れなんて迷惑ッスよ! お前の相手はこっちッス!」
 そして、地面を蹴った彼は高く跳躍して流星を思わせる蹴りを放つ。その一閃は体勢を立て直した敵に避けられてしまったが、これでいい。
 一撃目は敵の気を引くもの。
 その狙い通り、敵は巨大な剣の切先を此方に向けた。明滅する信号機の光を映したそれを見据え、クララはくすくすと笑う。
「とっても巨大な剣。か弱い人類を細かーく微塵切りに? ……ああ、なるほど。さてはハッタリという奴ですね」
「何だとォ!?」
 怒りをあらわにする敵に対し、アミルも挑発の言葉を落とす。彼女の傍に立つ翼猫のチャロも毛を逆立て、静かに敵を威嚇していた。
「あら、立ち向かってくるあたし達じゃなくて、かよわい人々なら殺し甲斐があるの? 犯罪者の割に、実力に自信がないのねぇ」
 怒ったなら倒してごらんなさいな、と告げたアミルも薄く笑う。そして、逃げる人々を背に護る形で布陣した桃李は桜花を思わせる彩の双眸を敵に差し向けた。
「図体ばかり大きくても、中身がちっぽけなんてそれこそつまらないわ」
「許さねえ。血祭りにあげてやる!」
 双方の眼差しが交差した刹那、真夜中の戦いは巡り始めた。

●赤い薔薇
 エインヘリアルが振るった刃から星座の斬撃が放たれる。
 蠍毒が突き刺さるかのような衝撃が小唄や桃李達、前衛に迫った。しかし、彼女達の前に縁とアマツが立ち塞がり、二回分の衝撃を受け止めた。
 今の内に、と告げるような縁からの視線を感じ、クララは光の剣を具現化する。
「“不変”のリンドヴァル、参ります……」
 何とも、向こうには重罪人が山ほどいるものだろうか。クララがそう考えているとイリスも肩を竦めて思いを言葉にする。
「罪人エインヘリアル、一体何体居るんでしょうか……」
 次々と送り込まれる敵を数えるのも面倒だとしてクララは刃を振りあげる。イリスも総数がわからなくとも、自分のやることは変わらないと感じて攻勢に移った。
「これ以上地球で好き勝手されては、たまりません」
「地球へと送られてくる者達を一体残らず倒す。それが私達の役目です」
 二振りの刃から放たれる光の斬撃が敵を貫き、鋭い痛みを与える。
 その間に風音はシャティレと共に仲間の援護に入ってゆく。
 百識の陣を示した風音が九尾扇を振れば、破剣の力が仲間達に宿った。
「人々だけはなく、皆さんも護ってみせます」
 敵から放たれる氷の一閃は風音にとって思い出したくはない過去を想起させる。だが、仲間を同じ目に遭わせたくないと思う気持ちの方が強い。
 守護への意思を固めた風音はいつでも癒しを施せる体制に入った。
 其処へ、身を翻した桃李が追撃に向かう。
「鬼サンこちら、ってね――悲鳴一つ、あげてなんかやらないわ」
 地に伏すのはアナタよ、と静かな声を落とした桃李は一気に敵との距離を詰め、渦巻く地獄の焔を龍と成す。
 戯れるように放たれた遊欺の炎が収まらぬ内に、花火が戦場を駆けた。螺旋の杭打機を掲げ、花火はひといきに力を揮う。
「人を殺すことしか考えてない敵……ぶっ飛ばし甲斐があるってもんスよ!」
「……ッ、この野郎!」
 しかし、敵も剣でそれを受ける。雪さえも退く凍気と星の加護を抱く刃。ふたつの力は真正面から衝突しあい、激しい火花を散らせた。
「く……強さは本物みたいッスね!」
 花火は咄嗟に後退して衝撃を緩和し、頼んだッス、と仲間に声を掛ける。退いた彼の代わりにアミルが射線に入り、音速を超える拳を打ち込んだ。
 風圧で淡い銀糸の髪が揺れる中、アミルは敵を睨み付ける。
「ちっぽけな存在が懸命に生きている。それだけで素晴らしいことなのよ」
「はッ、何処がだよ」
「あなたには、わからないでしょうね」
 敵が吐き捨てるように告げて反撃に入ろうとした次の瞬間には、アミルは夕闇色の翼をはためかせて上空に跳躍していた。
 エインヘリアルの視線が上を向いたが、本当に注意すべきは前方だ。
「こらこら、あんたの相手はこっちだよ」
「!?」
 その声の主は豪快に、むんっと力こぶを作ってみせた小唄。其処から如意棒を繰り出した小唄の一撃は重い。
 更に点心が清浄なる翼を広げて仲間に加護を与えていく。
 舌打ちをした敵にアマツが炎を放ち、縁も間髪容れず駆けた。
「殺し甲斐があると言いながら弱者にしか手を出そうとしないとは――」
 振り上げた槌が瞬時に砲撃形態へと変化し、敵を捉える。
「卑怯千万甚だしいな」
 そして、縁は一気に竜砲弾を解き放った。
 それによって敵が纏う緋色の鎧に傷がつく。その目立ちすぎる姿は黒に身を包んだ魔女、クララとは対照的だ。
「戦場で目立つ格好をする感覚は自分にはよくわからないですね」
「赤薔薇よりも、ここに似合うのは青薔薇かと」
 風音も頷き、この場に不釣り合いな赤を見つめて自らの青薔薇型の釦に触れる。
 その花言葉は、理解。
 敵には人々の命の尊さなど解らないだろう。だが、だからこそ斃すべき存在なのだと感じて、番犬達は敵を強く見据えた。

●穢れた刃
 罅割れたアスファルトが衝撃波によって散り、肌を掠めていった。だが、花火はそんなことになど怯まずに攻めていく。
「とにかく全力、お前の動きは止めさせてもらうッスよ!」
 電光石火の一閃で敵を穿ち、花火は更にもう一撃を叩き込んだ。
 敵は邪悪そのもの。ならば遠慮は要らない。絶対に被害は出させないッス、と意気込む彼に続き、桃李も炎を迸らせた。
「そろそろバテてきたんじゃない?」
「誰がだ、クソ……!」
 敵に視線を送れば悪態が返って来た。桃李は懐く地獄も心根も綺麗に粧い隠し、涼しげな振舞いを崩さぬまま。
 そして、その間に死角に回り込んだイリスが妖刀を振り下ろした。
「『紅雪』に眠る数多の呪詛―――耐えられますか?」
 散華の名を抱く刃は敵の腕を貫き、穢れた力を注ぎ込んでいく。イリスの刃が敵を蝕んでいく最中、チャロと共に敵を注視していたアミルは弱点を見破っていた。
 情報を仲間達に告げたアミルは流星の蹴りで以て敵を貫く。
「その紅い鎧はこの夜に派手すぎるわ。あたし達で汚してあげましょ、チャロ」
 呼応する形で翼猫が尻尾の環を飛ばした。
 しかし、それらの痛みを堪えたエインヘリアルも星の刃を振るうことで凍り付いた一閃を放ち返す。
 小唄と縁が懸命に仲間を庇ってはいるが、衝撃は重く苦しい。
 氷が舞う度に記憶が呼び起こされ、心まで氷漬けにされそうだった。されど、風音とシャティレは癒しを止めない。
「――花の女神の喜びの歌。春を謳う命の想いと共に響け」
 紡がれるのは花と春の二重唱花。
 春の女神が喜び、歌い踊る様を歌う風音の声は聴く者の身体を癒していく。その歌に後押しされた気がして、小唄は力強く笑んだ。
 そして、小唄は堂々と敵を見つめる。
「あんなか弱い人間をいじめるなど、あんたもただの臆病者だよね」
「うるせえッ、このゴリラ!」
 敵が叫んだがそれは彼女にとっては当たり前のこと。それが何? というように小唄が重力鎖を乗せた一撃を放てば点心も続く。
 拳と爪の衝撃が腹に諸に入ったらしく、敵は激しく咳き込んだ。
 ふ、と短く息を吐いた縁は敵に刃を向ける。
「それが女性に対する態度か。ああそうか、弱い人間しか倒せないからそうせざるを得ないのだな、それは失礼した」
「勝手に納得してんじゃねえ!」
「何だ、怒ると言う事は図星なのか」
 敵は逆上して縁に重力剣を放ってくる。しかし、それを牙龍天誓で容易く受け止めた縁は流れるような切り返しで鋭い反撃を放った。
 其処に加えた刃でアマツが追撃に入り、敵の身を揺らがせる。
「蛮勇ですね。ええ、とても」
 クララも呆れた様子でファミリアを放ち、溜息を吐いた。
 敵は弱りはじめている。
 言葉こそ強いが、それが虚勢であることは風音にも分かった。シャティレが癒しを施していく中、風音は敵を見つめる。
「薔薇の色は美しいですが、その色はただの血の色です」
 数多の命を尊く、それを護ることが風音の信条。
 だから、と鋼の鬼を纏った風音が攻撃に移った様に気付き、花火も巡り来る戦いの終わりに思いを馳せた。
 最後まで全力、けれど突っ走らないように。
(「オレが頑張るのは敵の足止めだから……冷静に、でも気合を入れて」)
 途端に両腕の地獄の炎が燃え上がり、夜の闇を明るく照らす。
 ――火力全開、手加減なし。
 花火が地面を強く蹴った瞬間、叩きつけられた旋風の炎が空気ごと敵を焦がした。
 イリスは花火が作った大きな隙を感じ取り、標的に刃を差し向ける。
「貴方の『命』――少しばかり頂きますよ!」
 喰霊刀から放たれた斬撃は敵を穿ち、その力を奪い取っていく。イリスの一閃によってエインヘリアルは体勢を崩し、片膝を付いた。
 アミルはチャロに敵の妨害を任せ、氷の様に澄みきった刃に敵を映す。
 攻防を重ねた相手の鎧は深く傷つき、汚れていた。
「あなたも少しは綺麗かもしれないわねぇ。すっかりに真冬になったんだもの。あなたもこのまま融けずに、息絶えて頂戴な」
 そして、そう告げたアミルが刃を振るうと絶対零度の世界が広がった。
 されど呻いた敵も氷の一閃を穿ち返す。
 手痛い衝撃が巡ったが、小唄は点心と共に仲間を癒してゆく。在り方を言われただけだが、罵倒のお返しに、と小唄は心に秘めた女子力を全力で放出した。
 桃李は自分に巡った癒しに双眸を細め、仲間の頼もしさを感じる。
「血の花なんて咲かせやしない。代わりに――」
 そして桃李は再び焔を巻き起こし、焔の籠を敵へと解き放った。
「地獄の炎で、心行くまで飾ってあげるわ」
 其の龍に囚われたが最後、巻き付いて滾る烈火は燃え尽きるまで離れない。
 縁はアマツと共に駆け、高く跳躍した。
「一は花弁、百は華、散り逝く前に我が嵐で咲き乱れよ」
 百華――龍嵐。
 振り下ろした一閃からもう一撃が放たれ、縁は敵を天に打ち上げる。そして身を引いた彼は仮面の奥から視線を送った。
 花火とイリス、そして風音も攻撃の機を得た仲間に思いを託す。
 あと、一撃ですべてが終わる。
 クララはそれを感じ取り、指先を宙に躍らせた。其処から蠢く黒い波が現れたかと思うと一瞬で獲物に群がる。
「――久方ぶりの宴と参りましょう」
 瞬く間に蜘蛛の群に覆い尽くされた敵の紅い鎧は今や漆黒に染まっていた。
 深夜の交差点に響くのは只々、破砕音と咀嚼音のみ。

●夜の静寂
 剣が地面に落ち、エインヘリアルが倒れ伏す。
「何故オレが、こんなところで……」
 動く事すら出来ぬ彼は呼吸も儘ならず、悔しげに拳を握り締めた。長手袋を脱ぎ、戦場にふわりと落としたクララはそんな相手を見下ろして問い掛ける。
「……ああ、そうそう。あなた、お名前は?」
「誰が、テメェらなんかに、」
 教えてやるかよ。そう告げる言葉が言い終わるか否かの瞬間、エインヘリアルの身体は跡形もなく消え去った。
 縁が無言のまま何もなくなった地面から視線をあげれば、アマツも空を仰ぐ。
 信号機は何事もなくいつも通りの点滅を繰り返していた。
「終わったか」
「これで平穏な夜に戻ったわね」
 桃李も周囲を見渡し、普段通りの時間が巡っていく様を確かめる。
 人気はなくなってしまったが真夜中ならばこれが普通。逃げた人々もきっと無事に家路についている頃だろう。
 イリスは交番に戻ってきた警官が敬礼をしている姿に気付き、風音もひらひらと手を振って応えた。そうして風音はシャティレを連れ、イリスも壊れた周辺を直す為のヒールを始める。
 更には桃李とアミル、縁や小唄、花火とクララも加わって修復作業に入った。
 番犬達の癒しによって、崩れた道路は元通り。
 アミルはチャロがてしてしと前足で幻想化したアスファルトを軽く叩く様子を見守った。
「これで大丈夫ですね」
「ちょっと可愛くなったかな? まあ可愛いのは悪い事じゃないよね!」
 仲間の声に頷き、小唄も満足気に点心を撫でる。
 花火は翼猫達と主が戯れる姿に微笑ましい気持ちを抱き、すっかり日常の姿になった交差点を見遣る。
 真夜中のしんと澄み切った空気。
 赤と黄色の色だけを点滅させる信号機。そして、車通りのない道路。
「夜中の交差点……なんかワクワクするッス」
 この光景は世界にとっては日常だが、花火にとっては非日常。
 真夜中の向こう側には何か違った景色が見えるかもしれない。探検を兼ねた散歩でもしようかと考え、花火は夜空を振り仰いだ。
 クララも仲間に倣って頭上を見上げ、桃李はくすりと笑む。
 きっと、今日くらいはちいさな冒険をしても誰も咎めることはない。
 何故なら――彼らは今夜、死の惨劇を救い、新たな未来の路を繋げたのだから。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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