●
ブロロロロ……。
一台の車が停車したかと思うと、空き地に何かを捨てて去っていく。
静まり返った空き地で、人に放棄された粗大ごみたちがごろりと無造作に転がされている。
先ほどの車が去ってからどれくらいの時間が経ったのだろうか。
キラキラと輝く人の拳ほどの大きさの蜘蛛が現れたかと思うと、風化してボロボロのそれに潜り込んでいく。
ダモクレスが潜り込むと、壊れた機体は修復され作り変えられていく。
「サムカロウニ……サムカロウニ……」
持ち主だった人間の口癖だったのだろうか。
巨大化した石油ストーブが同じ言葉を何度も繰り返しながら、空き地を飛び出し走ってゆく。
人々を襲い、グラビティ・チェインを奪うために。
●
「空き地に不法投棄されている石油ストーブがダモクレスになってしまいます」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が集まったケルベロスたちにこれから発生する事件について告げる。
幸いにもまだ被害は出ていないがダモクレスを放置すれば、多くの人々が虐殺されてグラビティ・チェインを奪われてしまうだろう。
「空き地付近に人はいないため、一般人の避難については心配ありません。皆さん、しっかり準備をしてダモクレスを倒してください」
続けてセリカは、ストーブのダモクレスについての説明を始める。
「今回現れるダモクレスは一般的な石油ストーブを元にしています」
ダモクレスは、巨大化した石油ストーブに機械の手足が生えたような姿をしている。
暖かいを通り越して、暑すぎるくらいの熱風を主な攻撃手段としているようだ。
「このダモクレスを倒し、人々を助けられるのは皆さんだけです。どうぞよろしくお願いします」
説明を終えたセリカはケルベロスたちに一礼すると、ヘリオンの準備に向かった。
参加者 | |
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カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568) |
燈家・陽葉(光響射て・e02459) |
火倶利・ひなみく(スウィート・e10573) |
ルベウス・アルマンド(紅い宝石の魔術師・e27820) |
終夜・帷(忍天狗・e46162) |
風柳・煉(風柳堂・e56725) |
交久瀬・麗威(影に紛れて闇を食らう・e61592) |
アーデルハイト・リンデンベルク(最果ての氷景・e67469) |
●寒かろうに
空き地に不法投棄された粗大ごみたちは、無造作に転がされている。
集まったケルベロスたちは、その様子を見て唖然とする。
「うん、何度考えても一番悪いのは不法投棄した人だよ」
火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)がぎゅっと拳を握り、目の前に広がっている惨状に一言申す。
ひなみくの傍らにいるミミックの『タカラバコ』は、主人の言葉に応じるようにぱかぱかと蓋を開け閉めしている。
「石油ストーブかー、喉が弱い人にはちょっと辛いよね、あれ」
喘息的な意味でと小さく呟き、燈家・陽葉(光響射て・e02459)は、隣に立つ親友のカトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)に同意を求めるように言う。
「石油ストーブですか……それにしてもどうして、石油ストーブが毒や氷の風を出すのでしょうか? やはりダモクレス化したら、性能も変わるのですかね」
考えるように瞳を閉じてからカトレアは言った。
ヘリオライダーによって予知された石油ストーブのダモクレス。
その石油ストーブならぬ攻撃方法に、集まったケルベロスたちも様々な思いを抱いているようであった。
「寒いのは苦手だわ……」
ルベウス・アルマンド(紅い宝石の魔術師・e27820)は仲間たちの傍らで真っ白な息を吐きながら呟いた。
まるでその言葉に呼応するように、予知にあったあのダモクレスのセリフが周囲に響く。
「サムカロウニ……サムカロウニ……」
現れたダモクレスは3メートルは優に超えているように見える。
4メートルには届かない程度であろうその大きな体を動かし、同じ言葉を何度も繰り返しながらケルベロスたちに向かってくる。
「サムカロウニ……ソンナカッコジャ、サムカロウニ……」
繰り返される言葉には、どこか悲哀を感じる。
粗大ごみとしてここに捨てられてしまう前の持ち主の言葉だったのだろうか、誰かを思いやるような言葉を吐きながらダモクレスと化してしまった鉄の塊は動き続けている。
「その身に刻め、葬送の薔薇! バーテクルローズ!」
最前線に立つケルベロスたちに近づいていくダモクレスを視界に捉えながらカトレアは詠唱する。
薔薇の形に斬り裂き、最後の一突きで薔薇の花弁を散らすかの如く爆発を起こし、仲間たちに接近するダモクレスに一撃を与えていく。
「ヌ、ヌアアア……!?」
移動中に攻撃を喰らうとは思ってもみなかったのか、ダモクレスは間抜けな声をあげてバランスを崩した。
●暖めてくださいよ
バランスを崩したダモクレスは体勢を整えながら叫ぶ。
「コゴエテ、死ンデ、シマエ!」
先ほどの言葉とは打って変わって、ダモクレスは暴言を吐き捨てたかと思うとその体の送風口のようなところから冷たく凍った風を吹き出し始める。
狙われたのは前衛で戦闘態勢をとるケルベロスたち。
前衛に立つのは、タカラバコを含めて4人と1箱。
ただでさえ寒い1月のこの時期に、ダモクレスからの冷たい風を受けケルベロスたちはぷるぷると寒さに体を震わせる。
「氷を出してくる石油ストーブなんて聞いた事ない…ッ」
ダモクレスの攻撃を後衛で見ていた交久瀬・麗威(影に紛れて闇を食らう・e61592)が思わず声を漏らす。
麗威は勢い余ってずり落ちてしまった眼鏡をぐいっと直しながら、深く呼吸した。
(「喉がどうとか関係なく、ダモクレスになってる以上壊すだけなんだけど」)
陽葉は心の中で呟くと日本刀、『燈影夜想』を鞘から抜き空中に跳ぶ。
その切先は緩やかな弧を描き、ダモクレスの足の関節部分を的確に斬り裂いていた。
ガキィィィン!
響く金属音。
ダモクレスは再びバランスを崩し、よろよろとよろめいた。
(「熱すぎる熱風に氷……もう少し丁度いい温度にならないだろうか」)
終夜・帷(忍天狗・e46162)は戦況を冷静に見据えながら、心の中で独り言ちる。
ダモクレスが体勢を整えようと重心を傾けようとする、その瞬間を帷は見逃さなかった。
ダモクレスに向け、氷結の螺旋を放つ帷。
氷には氷で攻める。目には目を歯には歯をといった戦法だ。
哀れなダモクレスは、その中途半端な体勢で一時的に氷漬けにされてしまうこととなった。
「あなたの歴史が暖かいものになるように、ここで壊す!」
ひなみくが迷いのない真っ直ぐなその緑の瞳にダモクレスの姿を映し、そう言った。
ドカーーーン!
ひなみくは、前衛の背後にカラフルな爆発を発生させ、爆風を背にした味方の士気を高めてみせる。
「タカラバコちゃん、初手は愚者の黄金だよ!」
相棒のミミック、タカラバコに声をかける。
タカラバコは、ひなみくに言われた通りに偽物の財宝をダモクレスの近くにばらまき惑わせる。
ダモクレスはその光り輝く偽物の財宝に目が眩んだのか、目のように見える部分がじっとその財宝を見つめていた。
「よそ見してると、危険だって……な!」
財宝を食い入るように見つめているダモクレスの背後に忍び寄っていた麗威が、飛び出した。
流星の煌めきと重力を宿し、地面を抉るような勢いの回し蹴りをダモクレスに喰らわせる。
その高身長を活かした蹴りをまともに喰らうことになってしまったダモクレスの心境など、推し量る必要もないだろう。
「グ、ァ?」
何とも言えない間抜けな声をあげるダモクレス。
「全くまだ、寒さは厳しいと言うのに」
風柳・煉(風柳堂・e56725)は、やれやれといったような雰囲気で呟く。
(「ライトニングウォールは……そうか」)
そう心の中で独り言ちた煉は、仕方ないといった調子で別のグラビティの詠唱を始める。
「咲け『炎』よ! 真夏の『向日葵』のように! フィアンマ・ジラソーレ!」
シャーマンズカード『Hot Spot』をダモクレスの足元に投げた後、煉は両手を勢いよく合わせる。
そして、地面に両手をつくと同時に、作り出した発火性のグラビティを『Hot Spot』に浴びせて一気に発火、炎上させた。
「ガ……ガガ……」
壊れた機械音のような音を発しはじめたダモクレス。
仲間たちの様子を確認しながら、アーデルハイト・リンデンベルク(最果ての氷景・e67469)は詠唱する。
「さぁ、頑張って。まだまだ戦えるはず、そうでしょう?」
先のダモクレスによる攻撃で傷ついた仲間たちを癒していく。
癒すだけでなく、仲間を鼓舞する言葉をそっと投げかけるアーデルハイト。
その言葉にケルベロスたちは力強く頷くのであった。
「仲間を傷つけさせはしないわ」
ルベウスが全身の装甲から光輝くオウガ粒子を放出し、前衛に立つケルベロスたちの超感覚を覚醒させる。
「あなたの役目は終わったのよ。愛された道具として天寿を全うしてちょうだい」
ルベウスはその双眸に、かつて誰かに愛された道具であっただろうそれを映して言う。
「サムカロウニ……サムカロウニ……」
ダモクレスは再び同じ言葉を繰り返し始める。
もはやそこには、誰かに愛された道具であった、誰かのために働いていた石油ストーブの原型はどこにもない。
ダモクレスとなってしまった以上、斃してしまう他、ないのだから。
●訪れる静寂
繰り返し与えられる攻撃により、ダモクレスの体は少しずつ傷ついていく。
それでもなお、ダモクレスから発せられる言葉に変わりはない。
「サムカロウニ……サムカロウニ……」
ダモクレスは送風口のようなところから毒の風を送り出す。
後衛に立つ彼らを守るように仲間たちが動いていたのを見ていたのか否か、ダモクレスは後衛に立つケルベロスたちを標的とした。後衛に立つケルベロスは、3人。
「させないよ!」
ひなみくが飛び出し、ルベウスを庇うように前に出て、その攻撃を代わりに受ける。
「あなた……! 何を余計なことを……ありがとう」
ひなみくに庇われたルベウスは、横柄な口調で突っぱねようとするが、根が素直な彼女は冷血な魔女になりきれず、きちんとお礼を言う。
「ルベウスちゃんが今回のカギだからね!」
にっこりと笑ってひなみくは言ってみせた。
「ひなみく、無理は禁物よ」
アーデルハイトがひなみくに声をかける。
それを聞き、ひなみくはまたにっこりと笑ってみせるのであった。
「カトレア!」
陽葉が親友の名前を呼ぶ。
「ええ、わかっていますわ」
陽葉の呼び声に頷くカトレア。
カトレアと陽葉が同時に動き出す。
「僕達の力、見せてあげよう!」
「その傷口を、更に広げて差し上げますわ!」
陽葉が妖精弓『金烏の弓』による牽制射撃を行い、カトレアが日本刀『艶刀 紅薔薇』でダモクレスの傷跡を正確に斬り広げる。
「いい感じだね! 皆もう少しだよ!」
ひなみくは仲間たちを鼓舞しながら、ブレイブマインによるエンチャント付与を前衛に立つ味方に行っていく。
タカラバコもひなみくの言葉に呼応するように飛び出していくと、ダモクレスの傷ついた体にガブリと喰らいついた。
「荒々しい供養になりそうだ」
深く息を吐きながら煉は言う。それと同時に、影の如き視認困難な斬撃を繰り出し、密やかにダモクレスの急所を掻き斬っていく。
「ガッ……ガガ……」
ダモクレスが苦しげな声を漏らしながら、暴れ出す。
仕返しにと言わんばかりに、送風口から氷の風を吹き出した。
再び狙われる後衛に立つケルベロスたち。
「まあ、かなり痛いわね……」
今度はアーデルハイトがルベウスを庇うように前に出る。
痛いと言いながら眉一つ動かさないアーデルハイト。
「あ、あなたまで……ありがとう」
ルベウスは自身の代わりに攻撃を受けたアーデルハイトに礼を言う。
「麗威」
静かな声で、帷は友の名を呼ぶ。
「ああ、帷くん!」
機を見て動いていた二人は視線を合わせるとこくりと頷いた。
「嗚呼、もう…止められない」
麗威は雷を足に纏わせると、その足を高く上げ……振り下ろした。
ズン!
重低音が響く。
「ギ、ギギ、サム、カロ」
錆びついたネジを回す時のような声をあげながらダモクレスは苦しんでいる。
帷はそんなダモクレスに、物音一つ立てずに近寄った。
(「楽にしてやろう」)
帷の突きに特化した忍者刀が、的確に急所のみを刺し貫いた。
刹那。
ダモクレスは事切れるように、ゆっくりと、地面に倒れていった。
ドオオオオオン……。
ダモクレスが斃れた地響きの後、ようやく静寂が訪れた。
●愛された道具として
ケルベロスたちは、戦いの中で傷ついてしまった箇所をそれぞれヒールしていく。
「あらかた修復し終えましたかしら」
「うん、ほぼ終わったと思うよ」
カトレアと陽葉が辺りを見回しながら言う。
「ね、タカラバコちゃん。ここのゴミ、いまある分だけでも綺麗にしよっか!」
「わたしも手伝いましょう、ひなみく」
ひなみく、タカラバコ、アーデルハイトは粗大ごみの中でも比較的軽い物を中心に片付けていく。
「私も出来ることは手伝おう」
煉も皆に続き、その空き地の片づけを手伝い始める。
「不法投棄も考えものですねぇ……」
麗威が粗大ごみの中でも重量級の物を軽々と持ち上げながら言う。
(「さすがはオウガ、力があるな。俺はもう少し小さな物を運ぼうか」)
その様子を感心したように見ながら、帷も片づけを手伝っていく。
ケルベロスたちの活躍により、粗大ごみにまみれていた空き地は綺麗になった。
「来世というものがあるなら、誰かに温もりを与えられるといいわ、ね」
ルベウスは静かに呟くと、白い息を吐きながらその場を去っていく。
再びあの石油ストーブのような、悲しい電化製品が現れないようにと皆が願いながらその場を後にした。
作者:黄昏やちよ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年1月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 1/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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