飛ばないドローンはただのダモクレス!

作者:麻香水娜

●秘境に現れるダモクレス
 福島県滝川渓谷──。
 雪に彩られ、滝の水面は氷が張っている。
 秘境として有名な光景には不釣り合いな小型の機械──ドローンが滝の中にある岩と岩に挟まっていた。

 ――カタカタ。

 そのドローンの中にコギトエルゴスムが入り込むと、眩い光を放つ。

 バーン!!

 派手な音と共に細かい氷がキラキラと宙に舞い、岩が吹き飛んだ。光が引いて現れたのは巨大化して自動車のような大きさになったドローン──ダモクレス。
 4つのプロペラを回して少しだけ浮き上がる。
『撮ルヨ! 撮ルヨ!』
 前面部についているカメラを光らせ、周囲の木々をプロペラで斬り倒しながら進みだした。

●どうして置いて帰っちゃうの!
「ドローンにも色々と種類があるようですが……」
 ホビードローンと呼ばれる初心者向けのドローンがダモクレス化してしまう、と祠崎・蒼梧(シャドウエルフのヘリオライダー・en0061)が説明を始める。
 紅葉シーズンにドローン空撮をして、急な突風で見失ってしまったドローンが置き去りにされた挙句、ダモクレス化してしまうようだ。
「置いて帰っちゃうのはダメだよ、ダメだよ!」
 アイリス・フォウン(金科玉条を求め・e27548)が、持ち主に対してプンプンと憤慨する。
「全くです。そもそも、自然を撮りにきたのでしょうに、その自然を損なうような行為は褒められたものではありません」
 頭の痛そうな顔をした蒼梧だが、気を取り直して説明に戻った。

 時刻は13時すぎ。
 冬場は駐車場が閉鎖されている事もあり、周囲に人はいない。
 積雪や凍結で足場が良いとは言えないが、ケルベロスには問題ないだろう。
「このダモクレスですが、プロペラがチェーンソー剣になっており、カメラからビーム、上面からミサイルも大量に出せるようになっています」
「なんか強そうだね」
 蒼梧の説明にダモクレスの姿を想像したアイリスがぼそりと呟いた。
「実際強いですから……火力もそれなりにありますが、注意するべきは状態異常です」
 十分注意して下さい、と続く。
「元がドローンと言っても、巨大化の影響でプロペラも大きくなっているのですが──」
 ダモクレスになってしまった事でかなりの重量になってしまい、多少浮くのが精いっぱいで飛行する事はできないらしい。

「幸いにして人のいない場所でありましたが、このままでは下山して大量虐殺が行われてしまいます。どうか、撃破をお願い致します」


参加者
クリム・スフィアード(水天の幻槍・e01189)
トエル・レッドシャトー(茨の器・e01524)
比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)
アイリス・フォウン(金科玉条を求め・e27548)
小鳥遊・涼香(サキュバスの鹵獲術士・e31920)
天喰・雨生(雨渡り・e36450)

■リプレイ

●何処にいった?
「ドローンかあ……こんな景色を上から眺められたら気持ち良いだろうな……」
 小鳥遊・涼香(サキュバスの鹵獲術士・e31920)が、岩と岩の間という話だったが、どの辺に落ちているのだろう、と滝の中に視線を走らせながら呟く。
「うん。気持ちよさそう、気持ちよさそう!」
 隣で景色を眺めながらドローンを探していたアイリス・フォウン(金科玉条を求め・e27548)が明るく笑って頷いた。
「技術は文字通り日進月歩、どんどん便利な世の中に変わっているが……」
 それを扱う人々がルールを正しく捉えるのはもう少し先かもしれない、とクリム・スフィアード(水天の幻槍・e01189)がぼそりと漏らす。
「そうだよ! 置いてっちゃうからこんな事になっちゃうんだね! ドローン君はホントは悪くないのに! のに!」
 クリムの言葉に振り向いたアイリスがプンプンと憤慨した。
「ほんと、落としたってわかってるならちゃんと持ち主の手で片付けて欲しいものだけど」
 一本足の高下駄で雪の上を軽やかに歩く天喰・雨生(雨渡り・e36450)も頷く。
「置いて帰った人が被害にあうのは自業自得とも言えますが……」
 どこか空虚な視線は滝の中からを見つめたまま動かず、やれやれ、とトエル・レッドシャトー(茨の器・e01524)が息を吐いた。
「……探しはしたけど見つけられなかった、って事なんだって信じたいですね」
 次々と漏らされる苦言に、機理原・真理(フォートレスガール・e08508)が苦笑する。
「それなら救いはあるね」
 滝から顔を上げたマルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)が表情を変えぬまま真理の言葉に頷いた。
「ん? どうしたの?」
 ウイングキャットのねーさんに袖を咥えて引っ張られた涼香が首を傾げる。
 そこへ、真理のライドキャリバーであるプライド・ワンが滝の中にライトの光を向けた。
「あれだね。時間は……もう少しだね。じゃ……」
 ドローンを見つけて時間を確認した比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)が視線を鋭くして殺気を放つ。
 これで万が一にも一般人が近づくことはない。
 あとはダモクレスになったドローンを倒すだけだ、とケルベロス達は物陰に隠れて息を潜めた。

●君は悪くないけど
 ──バーン!!
 ケルベロス達が見つめていた岩が吹き飛び、自動車のような大きさになったドローン──ダモクレスが現れる。
「浮くのが精いっぱいと言っても、これだけの大きさが飛び回るのは驚異的だな」
 実物を目にしたクリムが、もしこれが住宅地に現れていたら、と僅かに背筋を凍り付かせた。
『撮ルヨ! 撮ルヨ!』
 カメラを光らせケルベロス達が身を潜める森の方へと向かってくる。
(「撮影したがってるみたいですし……」)
「ピース! です!」
 自分に引き付けようと飛び出した真理がダモクレスに向かって笑顔でピースサインのポーズをとった。
『撮ルヨー!!』
 キラリと光ったカメラから真理に向けてビームが放たれる。
「くっ……!!」
 両腕を胸の前で交差させてビームを受け止めた。
「寒いし、さっさと片付けて終わらせちゃおう」
 左半身に刻まれた梵字の魔術回路を赤黒く輝かせた雨生が、呪怨斬月で美しい軌跡を描く斬撃を放つ。
 その横を炎を纏ったプライド・ワンが突撃し、すぐに真理の横に戻った。
「確かにこれは結構痛いですね」
 眉を顰めながら態勢を立て直した真理は、サッとプライド・ワンに騎乗し、高速演算を始める。
「そこです!」
 プライド・ワンに乗って一気にダモクレスの右側面に痛烈な一撃を叩き込んだ。
(「ダモクレスになっちゃったの、残念……」)
 空を飛べる事を羨んでいた涼香は、一瞬だけ寂し気な表情を見せたが、すぐにキッとダモクレスを見据えてトラウマボールを放つ。
「置いてかれちゃったのは可哀想だけど……このままにはできないんだ、できないんだ!」
 アイリスが高々と飛び上ると、丁度プロペラの中心に斧を思い切り振り下ろし、上面部分にめり込ませた。
 次々と攻撃が続き、今のうちだとねーさんがふわりと跳び上がり、前衛に清浄の翼で邪気を祓いながら、真理の傷を少し回復させる。
「ドローンに憑依したけど飛べなくなったダモクレスね……飛ばない分相手にはしやすいかな?」
 ぼそりと呟いた黄泉が、軽々と飛び上がり、スターゲイザーで側面に飛び蹴りを入れて重力の錘をつけた。
「逃がして他に被害を出すわけにはいきません」
 真っ直ぐ強くダモクレスを見据えたトエルが、ツルクサの茂みのように変形させた攻性植物を絡みつかせ、その視線と同じように強く締め上げる。
「君に罪はない。だけど倒させてもらう」
 マルレーネが無表情のままダモクレスを見据え、攻性植物に宿させた黄金の果実で、聖なる光を後衛に浴びさせた。
「詠唱(キャスト)――豊饒なる大地。揺るがぬ大樹。幻となりて、輝きを此処へ」
 クリムが4種のルーン文字を起点とした魔法陣を地面に描き、世界樹の幻影を召喚する。光輝く世界樹の幻が真理の傷を癒し、前衛の生命力を増強させた。

●再び空へ
『飛ブヨー!!』
 ダモクレスが4つあるプロペラを高速回転させて少しだけ浮上する。そのまま真っ直ぐ雨生目掛けて突進した。
「ッ!!」
 プロペラで思い切り胸のあたりを斬り裂かれ、苦し気に膝をつく。
 真理がちらりと雨生の具合を確認するが、まだ大丈夫だろうと、プライドワンにコンッと軽く足で合図してダモクレスに向かわせた。まだ大した傷のついていなかった左側面にズタズタスラッシュで斬りつける。と、プライド・ワンは飛び上がって左前のプロペラの根本に着地しながら激しくスピンをしてダモクレスを傾かせた。
 痛みに顔を歪めながらも立ち上がった雨生は、トンッと跳躍して憑霊弧月で斬りつけ、アイリスが踊るように軽やかな足取りでスターゲイザーで蹴りつける。
「くるり、くるり」
 涼香がその場でターンすると、袖がひらりと舞い、生まれたゆらぎがを癒しの風となり、ねーさんの翼からも清浄の風が吹いて、共に前衛を回復させた。
「よいしょっと」
 見えない何か──涼香に与えられたトラウマに攻撃を受けているダモクレスに、黄泉が小柄な体で巨大な斧を振り上げると一気に振り下ろし、アイリスがつけた傷の上に更に深い傷をつける。
 トエルはピッと自分の指先を傷つけ、ダモクレスを指差した。
「戒め、砌絶つ堰よ……ここに」
 詠唱と共に、自らの血を媒介に錬成した魔力を撃ち込む。着弾した途端、錬成された魔力は茨のようにダモクレスを蝕み、体中を走る回路に異常をきたした。
 マルレーネがスターサンクチュアリで中衛の仲間に守護をつけると、クリムがエレキブーストで雨生を大きく回復しながら戦闘能力を向上させる。
 ダモクレスが後衛目掛けて大量のミサイルを発射すると、涼香がクリムを庇い、パッっとプライド・ワンから降りた真理はトエルを、プライドワンはねーさんをそれぞれが庇った。
 真理はトエルの無事を確認すると、再びプライド・ワンに騎乗する。その背を視界に入れたマルレーネが強酸性の桃色の霧を発生させた。
「いきます!」
「霧に焼かれて踊れ」
 真理からフォートレスキャノンが放たれた瞬間、桃色の霧がダモクレスを包み込む。
「随分弱って来たね」
 雨生がさっと手をかざすと滝の水が吸い寄せられ、自らの魔力と融合させてダモクレスに掌底を撃ち込んだ。
『!?!?』
 内部に送り込まれた魔力と水は回路をショートさせながら各所を破壊し、ガタガタと音を立てだす。
「ダモクレスにされちゃった事で翼も無くしちゃったんだね。最後に、空を飛ぼう、天に還そう」
 哀し気に呟いたアイリスが軽やかに踊り出した。高く真っ直ぐ上げられた足は、焼けた靴を履いたかのように炎を纏い──一気に振り下ろして深々と傷つけられていた上面に踵をめり込ませる。
『……飛、ブ……飛ンデ、写真……撮ルーーーーーーーー!!!!!』
 スッとアイリスが飛び退いた瞬間、ダモクレスは派手な音を立てて爆発した。

●綺麗な景色に戻そう
「折角ですから、記念に写真撮りたいですねマリー」
「うん。綺麗な場所だしね」
 真理が微笑みかけると、マルレーネが頷く。
「でも、まずは綺麗な景色に戻さないとです」
「そうだね」
 真理がダモクレスの残骸である金属片を拾い出すと、マルレーネも黙々と拾い出した。
「そういえば、空飛ぶ車の開発にもドローンの技術が使われているとか」
 少し離れた場所で金属片を拾っていたクリムが、ふとテレビの特集で見た情報を思い出して呟く。
「へぇ! 車が空飛ぶんだ!」
「それは、ちょっといいな」
 呟きが聞こえたアイリスが瞳を輝かせ、涼香が顔を上げた。
「まだ開発中みたいだけど。いつかできるかもね」
(「……どんな技術もやはり使い方次第だね」)
 あの自動車のようなダモクレスが飛び回っていたらそれは脅威でしかないが、人を乗せて空を飛ぶ車なら夢がある、と目を伏せるクリム。
「楽しみだね、楽しみだね!」
「そうね」
 アイリスがはしゃぐと、涼香も頷いて微笑んだ。
「このくらい、でしょうか……」
 流れ弾で傷ついた木々にヒールをかけていたトエルが小首を傾げる。
「そうだね。あんまり完全に治そうとしちゃうと幻想化で形変わっちゃうかもだし」
「この景観は損ねたくないしね」
 黄泉が口を開くと、金属片を拾っていた雨生も頷いた。

作者:麻香水娜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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