雪晴やリバウンド拾ってシュート

作者:奏音秋里

「ご馳走さまでした! さぁて、続き続き~♪」
 始業式後の昼休み。
 少年はひとり、バスケットボール部の部室で漫画本を開いた。
「やっぱ何度読んでもかっこいいなぁ!」
 不良の高校生が、荒れたバスケットボール部を立て直していく話だ。
 主人公も成長していき、3年生では全国大会にも出場する。
 もう何度目かなんて覚えていないくらい読んでいるが、飽きない。
「ここでスリーポイント決めるとかミラクルすぎるっ!!」
 それどころか主人公に憧れて、髪型とかシューズとかを少しでも似たモノにしている。
 少年は、カタチから入るタイプのようだ。
「立派な不良になって、バスケも強くなるぞ」
「ふふふっ。見つけたわよ、不良。私が更生させてあげる」
「え。オレのこと、不良って呼んだ?」
 嬉しくって、ついついにやけてしまう少年。
 しかし少女には、そんなことどうでもよかったようで。
「あなたのような不良はきっと、ヒトにもモノにもバスケットボールをぶつけまわって、一般生徒を震え上がらせるのでしょうね!」
「そーいう始まりもいいな! 俺は、あんたの言うようなすごい不良になってみせる!」
「素敵な夢ね。私が手伝ってあげるわ」
 少女、もといイグザクトリィが、満面の笑みで鍵を具現化させる。
 少年の胸を貫けば、少年の姿をしたドリームイーターが創り出された。

「あけましておめでとうございます! みんな今年もよろしくお願いします!!」
 笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)が、ぺこりと頭を下げる。
 集まったケルベロス達も、ねむに新年の挨拶を返した。
「早速ですが、ドリームイーターを倒しに出られる方はいらっしゃいますか!?」
 訊ねるねむの隣で、空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)もよろしく……と呟く。
「冬休み明け、始業式の日に、ドリームイーターの出現を予知しました!」
 ドリームイーターの標的は、強い夢を持つ高校生。
 夢の強さに応じた、強力なドリームイーターを生み出そうとしているようだ。
「狙われたのは『クスナ』という生徒です! 不良への強い憧れを持っています!!」
 被害者から生み出されたドリームイーターは、強力な力を持っている。
 しかし、夢の源泉である『不良への憧れ』を弱めるような説得ができれば。
 戦闘前に、ドリームイーターを弱体化させることも可能だ。
「不良になるのを諦めさせるような説得か、不良そのものに嫌悪感を抱かせるような説得でも大丈夫です! うまく弱体化させられたら、戦闘を有利に進められます!!」
 生み出されるドリームイーターは、1体のみ。
 ケルベロス達が到着する頃には、扉を打ち破って部室の外へ出ているだろう。
「ドリームイーターは、ケルベロスを優先して狙ってきます! 一般の生徒達には、戦闘場所から出るように指示すれば問題ありません! 戦闘が可能な場所は、部室棟の横にある体育館か、正面にあるグラウンドですね!」
 午後からも通常の授業がおこなわれるため、ほとんどの生徒達は教室にいる。
 部活動の準備や委員会の仕事をしている十数名だけだが、被害者は出したくない。
「攻撃グラビティの範囲外にさえ出てもらえれば、被害も出ないでしょう!」
 ドリームイーターは、常にモザイクで創られたボールをドリブルしている。
 触れるとダメージを受けるため、パスを出されても受けとってはいけない。
 鋭い直線のパスだけでなく、山なりのふんわりしたパスにも要注意だ。
 そして大跳躍からのシュートは、喰らった相手を容赦なく大地へ打ちたてる。
 逃亡の危険性はないため、確実にしとめたい。
「高校生の夢を奪ってドリームイーターを生み出すなんて、ねむは許せません! けど不良になられても困るから、どうにか諦めさせてほしいです!」
 ねむ曰く、被害者はバスケットボール部の部室に倒れているらしい。
 ドリームイーターを倒すまでは、眼を覚まさない。
 彼に声をかけるか否かはお任せしますと、ねむは付け加えた。


参加者
空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)
ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)
春花・春撫(プチ歴女系アイドル・e09155)
ヒエル・ホノラルム(不器用な守りの拳・e27518)
カヘル・イルヴァータル(老ガンランナー・e34339)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)

■リプレイ

●壱
 予知された高校へ到着したケルベロス達は、二手に別れて作戦を開始した。
「また、不良にさせられる子……その子のためにも、ほかの子のためにも、引き留めてあげた方が、いいよね……」
「そうですね。クスナさんの無事のためにも、がんばりましょう。けど、不良に憧れる……ですか。ルールや規則を破ったりするのが苦手な私には、理解できない考えですね」
 空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)が、いつもの無表情で淡々と喋ると。
 親友の、ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)が首を縦に振った。
「ドリームイーターは、またヒトを唆してるんだね」
「次から次へと……許せません」
 リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)も、無表情に感想を述べる。
 抑え気味に、春花・春撫(プチ歴女系アイドル・e09155)も感情を発した。
 無月、ミント、リリエッタ、春撫は、体育館にいる生徒達を避難させる組である。
「私達はケルベロスです。此方は戦場になりますので、みなさん避難されてください」
「校舎に入って、体育館には来ないでね」
 ミントとリリエッタが積極的に呼びかけて、無月と春撫は出入り口で誘導した。
「お、どうやらお出ましのようだ」
「バスケット選手に憧れるのならいいんじゃが、不良に憧れるとはいけない子じゃな。どれ、悪い手本でも見せるとするかのう」
 残るふたりは、部室からドリームイーターをおびき寄せる組だ。
 ヒエル・ホノラルム(不器用な守りの拳・e27518)の視界に、それが動く。
 カヘル・イルヴァータル(老ガンランナー・e34339)が、煙草に火を点けた。
「こうすると若いヤンチャな頃を想い出すのう……不良というのに憧れているのならば、此方に来るがいいわい」
 サングラスをかけ、手には酒瓶をさげて、すぱぁーと煙を吐くカヘル。
 歩き始めるドリームイーターの後ろを、ヒエルとサーヴァント達もついて歩いた。

●弐
 ドリームイーターの誘導と生徒達の避難を成功させたケルベロス達は、説得を開始する。
「貴方は不良に憧れているそうですけど、不良になることでいまの貴方自身を変えられると思っていますか? 貴方はいま、バスケットボールを持っていますよね。それを手にして、バスケの頂点を目指したいとは思いませんか? 不良になるより、バスケの頂点に登る方が、貴方のためになると思いますよ?」
 まずはミントが、優しく疑問符を並べた。
「漫画には並々ならぬ想いがあるのでしょう。ですが、すでにバスケ部の人間が不良になって問題を起こしてしまうと、そこから物語がスタートするどころか、停学になったり、部活も大会に出られなくなったりと、問題が多すぎるような気がします」
「そうだよ。バスケットボール、好きなんだよね? なら、不良になるのは、止めた方がいいと、思う。現実的に、不良が、試合に出してもらえるわけ、ないと思うから。他生徒への暴行で、自宅謹慎で、練習にも出られないし。それは、イヤだよね……? だったら、真っ当な生徒として、バスケットボールを練習した方が、いいよ」
「始まりが不良というのは、成長物語として憧れるのかもしれない。だがいまの時代、実際には不良が問題を起こした時点で謹慎、部活動自粛、場合によっては廃部や退学も有り得る。ドラマチックな展開に憧れるのはいいが、漫画を鵜呑みにし過ぎると始まる前にバスケ人生が終わるぞ」
 春撫、無月、ヒエルが、次々に具体的な問題を提示する。
「不良というのは学校とかいうところでバスケとかいう玉入れ遊びなぞやらんのじゃ! 酔い暴れるための酒ぇ! 我がモノとできる女ぁ! そして金も権力も奪える暴力ぅっ! 煙草を吸い盗んだ単車で爆走しハジキでサツのタマをとる度胸があるかのう? 不良を舐めてんじゃなかろうな若造、おぉん!? オラ! 酒飲めぃ! 飲むんじゃ!」
 ドスの効いた声で問い詰め、カヘルは体育館の床に煙草の火をグリグリ踏み消した。
 愛用のリボルバー銃をとりだすと、床へ天井へとぶっ放す。
「ふーん、こんなのがかっこいいんだ? 不良って教室の窓ガラス割ったり、盗んだバイクで走り出したりするんだよね? それじゃあ、器物破損と窃盗、無免許運転で逮捕だね」
 リリエッタが無表情に告げる罪状を聞き、ドリームイーターがたじろいだ気がした。
「不良かバスケ、どっちをやりたいんじゃ? おぬし!」
 だからカヘルも、爆破スイッチを押しながら畳みかける。
 前衛陣の背後にカラフルな爆発を発生させ、ボクスドラゴンは属性を注入した。
「むぅ。不良に憧れるとかリリちょっとよく分からないけどだからって、ドリームイーターに奪わせていいものじゃないもん!」
 エアシューズで大地を蹴り、跳躍からの蹴りを喰らわせるリリエッタ。
 ドリームイーターを、体育館のど真ん中へと足止めする。
「連携重視……見切られないよう、違う属性で攻撃する」
 無月も、フェアリーブーツにめいっぱいの理力を籠めて。
 星型のオーラを、ドリームイーターに蹴り込んだ。
「待っていてください、クスナくん。絶対に助けます」
 春撫の掌に、バトルオーラから精製された『物質の時間を凍結する弾丸』が出現する。
 被害者への想いを籠めて、射出した。
 やられっぱなしでは済まさないと、ドリームイーターもパスを出してくる。
「おっと、危ない!」
 だがモザイクボールは、目標へ届く前にヒエルにカットされてしまった。
「いてて……魂現拳、援護を頼む。これでお前達の攻撃は必ず当たる。これまで培ってきた経験が生きるはずだ」
 精錬された拳士の氣で以て、ヒエルは前列のメンバーの集中力を高める。
 呼ばれたライドキャリバーは、主を乗せて、炎を纏って突撃した。
「ありがとうございます、ヒエルさん。さぁ、私の蹴りで痺れてしまいなさい!」
 ぎゅんっと懐へと入り込むと、ミントが電光石火の蹴りを放つ。
 見事に命中して、ドリームイーターにパラライズが付与された。

●参
 ドリームイーターの反応が、段々と鈍くなってきている。
 ケルベロス達には、そんな共通認識があった。
 跳躍は序盤ほどには高くなく、シュートも容易に叩き落とせるようになっている。
「よし、あと一息ってところかな。いくぜ、魂現拳!」
 気合いを入れた叫びで、自分の傷を治して次なる攻撃へと備えるヒエル。
 相棒も負けじと、この戦闘では最大の炎を纏っての突撃を決める。
「痛みはあるが我慢じゃ」
 ほぼすべての反撃を身代わりに受けてきたヒエルの背中に、弾丸が撃ち込まれた。
 カヘルとボクスドラゴン、ダブルの癒しの力は、体力を完全回復させる。
「これでもう、あなたは走れない」
 ドリームイーターの背後へとまわりこみ、バスタードソードを振るう無月。
 黒く輝く刀身はふくらはぎを切り裂き、膝を着かせた。
「いくよ、スパイク・バレット!」
 リリエッタの射出する弾丸には、荊棘の魔力が籠められている。
 ドリームイーターの右腕に喰らいついて、離れない。
「貴方の魂を奪ってさしあげましょう」
 間髪入れず、ミントがドリームイーターの顔の前へと両手を差し出す。
 魂を喰らう降魔の一撃が、を放たれた。
「もう少しです。楽になれますよ」
 ドリームイーターの急所めがけて、春撫は跳ぶ。
 蹴りこんだ瞬間の衝撃波が、蹴りの速さを物語っていた。
「あまつ風 雲のかよひ路 ふきとぢよ をとめの姿 しばしとどめむ」
 続けざま春撫が百人一首の第12首を唄えば、美しい天女達の幻影が現れる。
 その美しい舞い姿は、ドリームイーターから戦闘する気力を奪った。
 だからドリームイーターは、モザイクボールを手放したのだ。
「リリ、こんなボールいらないよっ!」
「わしもじゃ」
 短いスカートを翻して、鋭い蹴りでボールの軌道を変えるリリエッタ。
 更にカヘルが、理力を籠めた星型のオーラをボールに命中させる。
 モザイクボールは、ドリームイーターの手許に戻り、消失した。
「大丈夫ですか、リリエッタさん。すぐに回復しますね!」
 即座にミントが、バトルオーラをリリエッタへと贈りこむ。
 優しくて柔らかくて、癒される温かいオーラだ。
 加えてカヘルのボクスドラゴンも、せっせとヒールする。
「……月の無い夜空は、星が綺麗」
 稲妻を帯びたゲシュタルトグレイブが、ドリームイーターの中心を貫いた。
 放電を終えた長大な刃は、まるで満天の星の空のような色合いを魅せる。
「魂現拳、よくやったな。さぁ決めてくれ、ふたりとも」
 足許へ戻ってきたライドキャリバーに、労いの言葉をかけるヒエル。
 ドリームイーターには、もう立ち上がるだけの力も残っていないようだ。
 ここまでの攻防で、最もダメージが大きいのはふたりの攻撃だと分かっている。
 ヒエルは、己のうちに残る『氣』を託した。
「……行こう。華空……わたし達の力、刻んで果てて……!」
「大空に咲く華の如き連携を、その身に受けてみなさい!」
 双方しかと頷いて、ドリームイーターを左右から挟み込む。
 縦横無尽に槍を振るい乱舞攻撃をしかける無月と、連続射撃を放つミント。
「これで、終わり」
「安らかにお眠りなさい」
 息を合わせて、槍の突撃と強烈な一発の弾丸を叩きこむ。
 ドリームイーターの鼓動が、静かになり、やがて完全に消えた。

●肆
 戦闘の終了から間もなく、ドリームイーターの亡骸も消滅。
 ケルベロス達が、特にカヘルが念入りに、体育館をヒールする。
 そのあとは全員で、バスケットボール部の部室の扉を開いた。
「気分は如何でしょうか?」
 意識が戻り、上半身を起こそうとしていたクスナに、春撫が問いかける。
 思いやるような声音でケルベロスだと名乗って、全員で状況を説明。
 事態を理解したクスナは、感謝と反省の意を述べた。
「この波乱の出来事がお前にとっての始まりだ。此処からカッコよく成長してみせろ」
 笑って、ヒエルがクスナの背中を軽く叩く。
 元気に「はい」と、答えが返ってきた。
「その不良主人公より、ライバルのエリートバスケ選手を見習ったらどうじゃ?」
 カヘルの指摘に、思わず眼を輝かせるクスナ。
 漫画を知ってくれている者の登場は、単純に嬉しかった。
「おぉ、それは名案だね! この主人公は不良だからカッコいいんじゃなくて、好きなことを一所懸命やってるからカッコいいんだよ」
 実はリリエッタも、この漫画のあらすじや登場人物について調べてきている。
 クスナとカヘルとさんにんで、あーだこーだと漫画談義。
 楽しい時間は、あっというまに過ぎていくのだった。

作者:奏音秋里 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月17日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。