●
「覚悟は出来てんのか?」
掛けられた声に男は笑い、かぶりを振る。
「こっちの台詞だ。……やることは分かってんだろ?」
問われるまでもない、と眼差しは語っていた。
やるべきことは、戦うことだけ――手に入れた、攻性植物の力を使って。
敗北すれば彼らの属するグループは、勝者のグループの元に下る。
「そっちは金、溜め込んでんだろ? 俺らが全部使ってやるから感謝しな」
「オメェのとこ、イイ女がいたよな? 好きに出来ると思うと楽しみだ」
暗い笑みを交わし合い。
「じゃ――始めるとするか!」
それぞれ赤と黒の実をつけた二人は、戦いを始めた。
●
「攻性植物化した若者たちが戦ってるっすか?」
森宮・侑李(雷火砲・e18724)に、高田・冴(シャドウエルフのヘリオライダー・en0048)はうなずく。
「茨城県かすみがうら市で、若者のグループ同士の抗争が多発している」
ただの抗争ならば、ケルベロスらは関知しない。
だが、攻性植物が関わっているならば話は別だ。
「攻性植物化した者同士が、互いのグループを賭けて戦っているんだ。……攻性植物を一体でも撃破し、この争いを止めることが、今回の目的となる」
抗争は深夜、もう使う者のいない駐車場で行われる。
「周囲に人はいないみたいだ」
攻性植物の力は強い。巻き込んでしまうことを恐れて、彼らはグループの面々に来てはならないと厳命したのだろう。
「今回気を付けて欲しいのは、相手取ることになる二名がいずれも攻性植物だということだ」
二人を敵に回し、同時に攻撃を受けるようなことがあれば非常に不利だ。そのような事態を防ぐための手段は考えておいて欲しい、と冴は言う。
「赤い実の男のグループはお金を、黒い実の男のグループは女性をそれぞれのグループから奪うために、抗争を始めたようだね」
この情報を参考にし、どのように立ち回るかを検討するべきだろう。
「ちなみに赤い実はナンテン、黒い実はスイカズラだ。実の種類は違うが、単体を高威力で攻撃し続けるという攻撃主体のスタイルを取る点は同じだ」
最後に、冴は言う。
「抗争を防ぐことが目的だから、どちらかを撃破すれば目的は達成だ。工夫は求められるが、ぜひ頑張ってきて欲しい」
参加者 | |
---|---|
ルア・エレジア(まいにち通常運行・e01994) |
シヲン・コナー(清月蓮・e02018) |
琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774) |
紫藤・リューズベルト(メカフェチ娘・e03796) |
アルベルト・アリスメンディ(ソウルスクレイパー・e06154) |
滝川・左文字(緋色蜂のモフリスト・e07099) |
峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147) |
ヒルメル・ビョルク(夢見し楽土にて・e14096) |
●
ケルベロスたちの前では、戦いが繰り広げられていた。
それぞれの持つ枝に実った赤い実と黒い実が揺れ、ちぎれ落ちては戦闘の衝撃で潰れ消える。
滝川・左文字(緋色蜂のモフリスト・e07099)は双眼鏡【木眼】で戦闘の様子を窺い、介入のタイミングを見計らっていた。
二体同時に相手取ることは難しい。彼らは戦闘の様子をしばし傍観し、二体の攻性植物にダメージが蓄積した頃に割り込むつもりだった。
ヒルメル・ビョルク(夢見し楽土にて・e14096)やシヲン・コナー(清月蓮・e02018)が隠密気流を使っていること、攻性植物らは目の前の敵しか見ていないこともあって、気付かれる様子はない。
ルア・エレジア(まいにち通常運行・e01994)は看板の陰から戦いを眺め、独り溜息をつく。
「最近、この手の抗争多いよねぇ……」
ルアを心配そうに見上げるのはシヲンのボクスドラゴン、ポラリス。それを微笑ましく見つめながら、紫藤・リューズベルト(メカフェチ娘・e03796)も自らのサーヴァントにもたれかかる。
アルベルト・アリスメンディ(ソウルスクレイパー・e06154)の持参したランプ『偲ばせの淡宵』の仄かな明かりが周囲を照らしている。左文字の持つ望遠鏡のレンズが明かりに反射すれば気付かれるかもしれない、と思うアルベルトだったが、今の所その心配はいらないようだ。
峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147)は、かすみがうらで同様の事件が多発していることに思いを馳せて。
(「何でこうも攻性植物が絡む事件が多いんだろうな……田舎にヤンキーが多い理屈と一緒か?」)
かすみがうらに攻性植物が多く出る理由も気になるところだ、と思う雅也の隣では、琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)がつぶやく。
「女性を狙うってそんな素敵な子が沢山居るのかしら……是非とも私に見せてもらいたいわねぇ」
黒い実、スイカズラのグループは、赤いナンテンの実のグループの女性を求めている。
抗争に発展するほどの女性とは一体――淡雪は妄想を繰り広げるあまり、思わずよだれをこぼしていた。
……どこからともなく冷たい目線を感じる淡雪だったが、視線の先を辿れば淡雪から努めて目を逸らすケルベロスたちがいるので、一体誰のものかは分からない。
「……っ」
ぴくん、と左文字の狐耳が反応する。左文字は手にしていた物を置き、代わりにエアシューズを履いた足を確かめる。左文字はバイクを取りに闇へ消え、ケルベロスたちも戦いの用意を始めた。
●
終着の時が近いことは、彼らにも分かっていた。
熾烈さを増し、めちゃくちゃになっていく攻撃――ほどけそうにもないほど絡まった枝は、しかしほどけてはまた絡み合う。
そんな戦いの最中、突如として浴びせかけられたのはライトの眩さ。
「っクソ!」
「誰だァ!? 来んなって言ってんだろ!?」
目潰しを受け、口々に怒りを表明する二者。光のせいで割りこんで来た者が誰かは彼らには分からなかったが、闖入者へと向けられた怒りのままに二人は枝を伸ばす。
闖入者であるバイクに乗った左文字へと殺到する二人分の枝――それを受けとめたのは、素早く陰から現れたアルベルト。
色とりどりであるがために目立ってしまう、そう思い隠していた翼を大きく広げると、アルベルトの顔には笑顔が浮かぶ。
「楽しそうな事してるねー! 僕達も混ぜてくれないー?」
返事を待つことなくアルベルトはリボルバー銃を構え、スイカズラの黒い実を持つ者へと弾丸を撃ちこむ。
「さあ、命のやりとりをしよう!」
求めるのは血の赤だけ――無心で撃ち続けるアルベルトだったが、残念ながら敵の体は既に植物に近く、弾痕から赤いものが滴ることはなかった。
「ちぇっ、つまんないの!」
二人分のツルに巻きつかれたアルベルトの手足には細かい擦過傷が残る。シヲンはケルベロスチェインで魔法陣を描き、アルベルトやルアの前衛陣に癒しを届けた。
「邪魔してんじゃねーよッ! 誰だテメェら!!」
ナンテンの攻性植物は怒りの声を上げ、再び左文字を狙う。それを阻んだのはポラリスだ。
淡雪の全身にまとわりついていたブラックスライムとシャーマンズカードがほどけて広がり、網の形に変わってスイカズラの攻性植物を覆う。
ルアがガトリングガンで弾丸をばら撒くと、何度もスイカズラの攻性植物の体が揺れた。
「行くのです」
リューズベルトはライドキャリバー『マークザイン』に手短に告げ、ガトリングガンから弾丸をスイカズラの攻性植物へ射出。ツルや枝に触れた弾丸の内側では魔力が弾け、爆炎が上がった。
マークザインは激しくスピンし、ポラリスの体を締め付け続ける攻性植物の枝を断つ。
「君に加勢するぞ!」
雅也はナンテンの攻性植物に告げ、スイカズラの攻性植物へ日本刀による斬撃を加える。ざん、と激しい音がして、スイカズラの枝がちぎれていく。
太い枝でどうにか雅也の攻撃を受けとめ、スイカズラの攻性植物は黒々と淀んだ瞳を雅也へ向ける。
「クソ……! 卑怯だぞ!」
「卑怯上等! これが戦略って言うんだよ」
馬鹿正直に戦っても勝ちには繋がらない――言う雅也の背後、ナンテンの枝が伸びる。
「頼んでねーんだよっ! 邪魔だからとっとと失せろッ!!」
一対一の決闘に割り込まれたことそのものに苛立って、ナンテンの枝もまたケルベロスたちに攻撃を仕掛ける。
ケルベロスたちは共闘についての言葉かけをすることもなく、二体の攻性植物からの攻撃を受けながらも戦力をスイカズラの攻性植物へと集中させる。
ヒルメルが両腕を広げると、魔力の木の葉が辺りに散らばる。巻き起こる風に赤茶けた髪を軽く揺らしながら、ヒルメルは戦場を見つめるのだった。
●
スイカズラの攻性植物も、ナンテンの攻性植物も既に消耗はしていた。
リューズベルトに狙い澄ました一撃を打ち込まれ、スイカズラの攻性植物は苦しげな息を漏らす。雅也も絶空斬で後に続き、スイカズラの攻性植物の消耗具合を見るために茶色の瞳を向ける。
「もうそろそろ――ってところだな!」
言って雅也は飛び退き、ナンテンの攻性植物の攻撃を避ける。
ルアは古代語での高速詠唱の後にスイカズラの攻性植物へ魔法の光線を射出、体が鈍重になったスイカズラの攻性植物へと、淡雪はそっと歩み寄り。
「ちょっとだけあなたの、性的な欲望頂きますわね。相手が居ても大丈夫。私の虜にさせますわ」
淡雪が蠱惑的な微笑みを浮かべれば、スイカズラの攻性植物の持つ獣欲が快楽エネルギーとなって放出される。不可視の鎖からそれを受け止め、淡雪は自らの気力を充填した。
吸い上げられていくスイカズラの攻性植物のエネルギー……スイカズラの攻性植物は最後の一撃を淡雪に叩きつけようとして。
「おーっと、女のコに暴力はダメだよ!」
割って入って来たアルベルトに阻まれてしまう。
ビリビリと痺れるような、蝕まれるような痛み――仲間が治してくれると信じているアルベルトは、槍の形に変形させたブラックスライムをスイカズラの攻性植物の眉間に突き刺し。
……スイカズラの攻性植物は、その場に倒れる。
どすん、という衝撃を背後から覚えたアルベルトが振り向けば、彼の胴体には無数の枝とツル触手が這いまわっている。
「耐えてくれ……すぐに治す」
言葉はシヲンのもの。オーラの力による癒しを送りながら、シヲンはポラリスとルアにも目を配る。
白く柔らかそうな体を舞わせ、ポラリスは大丈夫だと言うかのように金色の瞳を瞬かせる。ルアも怪我を負った様子はなく、それにシヲンは安堵する。
一体は撃破したのだから、もう撤退しても構わない――しかし、出来ることならばいずれも撃破してしまいたい。そう思い、左文字は口を開く。
「この××××な! △△△で! ■■■の※※※※野郎! 臭ェんだよ、近づくな! 鼻が曲がる!!」
とても聞くに堪えない罵詈雑言を口走る左文字に、残るナンテンの攻性植物は瞳をギラリと輝かせる。
怒りに攻撃を繰り出す攻性植物に、闘志を宿したままで戦闘を続けるケルベロスたち――見渡して、ヒルメルは思わず苦笑いしてしまう。
「随分と冒険心が旺盛なご様子で……私とは大違いですね」
攻性植物の攻撃を受けたマークザインが耐えきれずに消滅し、リューズベルトは仕返しとばかりに歌声を張り上げる。
高い位置に結んだリューズベルトの髪が美しくなびく様子にヒルメルは藍色の瞳を細めてから、ハーブオイルの香りを仲間に広げる。
「失礼いたします。こちらをどうぞ」
不可思議な香りに否が応でも戦意が高揚し、雅也は力強い太刀筋を攻性植物に浴びせかける。本当は何の香りなのかなどということは、詮索しない方が良いだろう。
何度目かの攻性植物の攻撃――何度目かの庇い立て。
「っ……! 大丈夫なのです!?」
瞠目し、問いかけるのはリューズベルト。
問われたアルベルトの翼は力なく垂れ下がり、膝は地面に着いていた。
●
スイカズラとナンテン、攻性植物はいずれも体力を消耗していた。
だが、いずれも一体でも強い敵であることに違いはない。サーヴァントもまたディフェンダーの位置にいたが、体力面で優れたケルベロスのディフェンダーは彼一人だった。
「皆を庇うんだから、倒れるわけにはいかないよ……!」
言って自らを癒すアルベルト――しかし、ヒール不能のダメージが彼を苛み、思うようには動けない。
なおも力を振るう攻性植物の前に、アルベルトはほとんど反射のように飛び出していく。
「退避は、如何なさいますか」
冷静に、ヒルメルは仲間へと問いかける。
慎重な性質のヒルメルからすれば、既に成功条件は満たしているのだから撤退しても十分。しかし、リューズベルトはかぶりを振る。
「出来れば、二人とも倒したいなのです」
「余力次第だとは思うけど……」
リューズベルトに続いたルアの言葉はちょっと戸惑いがち。
無理はしたくない、余力があったら二体の撃破をする――その意志はおおむね一致しているケルベロスたちだったが、そう判断するための敵や味方の体力のボーダーラインは決めていなかった。
戸惑いに攻撃の手が鈍ったところを狙い、攻性植物がルアを締め上げる。
「なっ――!」
表情の変わらなかったシヲンの瞳が揺れ、表情に影が差す。ポラリスも体力の限界が近いのかふらつきがちなことも、シヲンの気持ちを不安定にしていた。
「……投降してくれないか」
問いかけるのは左文字。しかし、その言葉は一笑に付されてしまう。
「攻性植物の部分を君から剥がすことが出来るなら、君はそれを――」
「うるっせえんだよ!!」
吼える攻性植物――謎の闖入者でしかない彼らの言葉を聞く気もないのか、武器を構えない左文字へと容赦なくツルを伸ばす。
瞬間、攻性植物を覆い尽くしたのは網状に放出された霊力。
「滝川様、怪我はありませんか?」
淡雪の禁縄禁縛呪による守りを受け、左文字は頷きを返す。横からの突然の攻撃に攻性植物は驚き、ツルの狙いは大きく逸れていた。
「望まない、か……。残念だが、もう人には戻れない」
攻性植物となってしまった彼がスーツを着て仕事をすることなど、出来るはずもない。
もう、社会に溶け込むことは出来ない――思って、左文字はエアシューズに力を込める。
「仲間を傷つけないため、連れてこなかった事は認めてやる。だから……済まないがここで死んでくれ……」
目を伏せての言葉を合図に、ヒルメルは攻性植物へ飛びつく。
「まずはその足を頂きます」
鎖が長く伸びて攻性植物の足元をすくい、絡み付いて離さない。雅也は自身の頬をぱんと叩き、気合を入れ直す。
「仕切り直しといきますか!!」
こちらの消耗も激しいが、敵もそれは同じこと。ヒルメルは小型無人機を飛ばし、これ以上誰も倒れることがないように癒しを高めていく。
致命的な打撃を受けたアルベルトは戦線から離脱しながらも、いつもと変わらない笑顔は浮かべたまま。戦闘としての支援は行えないが、代わりに金色の瞳で戦いの行く末を見守り続ける。
「仕留めてやるのです!」
リューズベルトは気合も十分に叫び五つものサイコパワーブースターを全開、全力のブレイジングバーストを叩きこむ。
噴き上がる爆炎の合間を縫って飛ぶのは淡雪の霊力。ルアは拳に黒豹の力を込めて叩きこみ、シヲンへと目をやる。
「大丈夫」
シヲンの呟きは小さい。先ほどのように狼狽した様子はもうないが、まだ治りきっていないルアの傷を見ると目を伏せ、それから手榴弾を攻性植物へ投げつける。
「……食らうとほんの少し、痺れるだけだ」
閃光――昼間かと思うような輝きが満ち。
戦いは、一人の負傷者と二体の撃破をもって、終わった。
作者:遠藤にんし |
重傷:アルベルト・アリスメンディ(ソウルスクレイパー・e06154) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2015年11月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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