雪祭りを血に染めて

作者:そらばる

●雪を穢す凶刃
 雪祭りに沸く夜の大通りは、降り積もった雪の反射光に、輝かんばかりに明るく浮かび上がっている。
「うわぁ大きな鳥さんだー!」
「見ろよ、でっかいロケットだぜ!? かっけー」
「あらすごい、お城まで雪で作れちゃうのね」
「こっちは偉人像だよ。細かいなぁ」
 古今東西のあらゆるテーマを実体化させた雪像が立ち並ぶ通りを、多くの人々が行き交っていく。はしゃぐ子供たち、寄り添いあうカップル、にこにこ微笑む家族連れ……。
 その賑わいをかき消すように、巨大な質量と轟音が、地球の形をした雪像を真っ二つに穿った。
 雪煙に紛れ浮かび上がったのは、白く巨大な牙。それは瞬く間に融解し、鎧兜の竜牙兵たちへと姿を変えていく。
「ニンゲン……ニンゲン!」
「グラビティ・チェインが、アフレてイルゾ!」
「チカラをヨコセ! ゾウオを、キョゼツを、ドラゴンサマのカテとナセ!」
 竜牙兵が湾曲した刃を振り上げる。その視線の先には、牙の間近に尻餅をついて、ぶちまけられた野菜に囲まれながらなすすべなく恐怖の表情を浮かべる、エプロン姿の女性が一人。
「スベテを――ササゲヨ!」
 振り下ろされた大鎌が、鮮血を迸らせた。
 血と臓物と阿鼻叫喚が、真っ白な雪祭りを赤く穢していった。

●雪祭りの竜牙兵
 竜牙兵襲撃の予知を得た戸賀・鬼灯(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0096)は、早急にケルベロス達を招集した。
「こたび竜牙兵の標的となります現場は、地方都市の雪祭りの会場でございます」
「嫌な勘が当たっちまったか……祭りを狙うとは、連中、好き勝手やりやがって」
 エンデ・シェーネヴェルト(フェイタルブルー・e02668)が苦々しく吐き捨てた。
 事実厳しい状況である、と鬼灯は眉を曇らせる。
「現場には人出が多数。しかし避難勧告を出せば予知を違え、竜牙兵の補足を困難たらしめましょう」
 そうなってはかえって被害が大きくなってしまう。ケルベロスの出番は、竜牙兵が現れた直後だ。
「皆様が現場に到着された直後より、警察や警備に避難誘導を任せる手筈になってございます。皆様は敵の凶行を阻止し、その撃破に集中するよう、お願い致します」

 敵は竜牙兵三体。簒奪者の鎌持ちが一体、ゾディアックソード持ちが二体だ。ケルベロスとの戦闘に突入してしまえば、決して逃走することはない。
「幸いにして、牙の落下に巻き込まれての死傷者はございません。ですが、お一人だけ逃げ遅れてしまう女性がいらっしゃいます」
 どうやら町内会で運営する出店で働いている主婦のようだ。追加の食材を運んでいる最中に、不運にも巻き添えを食ってしまうらしい。
「彼女を助けることが叶えば、あとは敵を撃破するのみにございます」
「なら、そのひとの避難は、おれがやるよ」
 近衛木・ヒダリギ(森の人・en0090)が請け負い、鬼灯も頼みます、と頷き返すと、他の面々へと向き直った。
「人々の憩う白き街を、血で穢すなど許すまじきこと。必ずや敵を撃退し、平和な雪祭りを取り戻してください」


参加者
十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)
倉田・柚子(サキュバスアーマリー・e00552)
エンデ・シェーネヴェルト(フェイタルブルー・e02668)
阿守・真尋(アンビギュアス・e03410)
多留戸・タタン(知恵の実食べた・e14518)
フィオ・エリアルド(ランビットガール・e21930)
プルトーネ・アルマース(夢見る金魚・e27908)
犬曇・猫晴(銀の弾丸・e62561)

■リプレイ

●雪祭りを守るために
 明るい灯火に照らし出される雪祭り会場は、数分後に起こりうる悲劇のことなぞ露ほども知らず、賑やかな人波に賑わっている。
 鮮烈で印象的なコーンフラワーブルーの瞳を細め、青と黒の階調を描く猫の尾のような髪を揺らし、エンデ・シェーネヴェルト(フェイタルブルー・e02668)は首をすくめた。
「さっむ、……まあ、動いてる内にあったまるか。行くぞ、フィオ。さっさと終わらせる」
「はいはい。そんなに急いだって、相手が出てくるまで動けないんだからね!」
 フィオ・エリアルド(ランビットガール・e21930)は気安く小言を返しながら後に続いた。
 ケルベロス一行は大通りを、戦場となるポイントへ進んだ。通りの中心には個性豊かな雪像が立ち並んでおり、人々の目を楽しませている。
「……せっかく見応えあるし、あんまり雪像壊したくねぇんだけど。こう言うの見んの、初めてだ」
 呟くエンデの言葉に、プルトーネ・アルマース(夢見る金魚・e27908)は深く同意し、傍らのテレビウムに語り掛ける。
「夜の雪祭り会場……キラキラしてて、綺麗だよね。ね、いちまる。お祭りの前にちゃんと敵を倒してそれからいっぱい遊びたいな」
「寒い冬には寒いなりの楽しみ方があるわよね。早く倒して、元通りにしないとね」
 寒空の下でも抜かりなく美麗なファッションを身に纏った阿守・真尋(アンビギュアス・e03410)は、広々とした十字路の手前で足を止め、中央を見上げた。
 そこには、地球の形をそのまま模した大きな雪像が、他よりいっそう強い存在感を放っていた。
「ここですね。それでは皆さん、新年早々ではありますが、今回の戦いも頑張りましょう。特にジョナさんは同じ中衛同士、よろしくお願いしますね」
 既知の仲間も多い、とても頼もしい面々に、十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)がにこやかに挨拶した――その時。
 轟音が、地球の雪像を真っ二つに砕いた。雪煙の向こうに突き立つ巨大な牙が融解を始める。
 騒然となる会場を、一行は迷いなく駆けだした。
「たくさんの人が楽しみに来てるところにほんっと嫌な奴らだなぁ君らは!!」
 真っ先に竜牙兵の目前に飛び出した犬曇・猫晴(銀の弾丸・e62561)が、吐き捨てるように叩きつけた。
「ナニ……!?」
「ケルベロス、か……!」
 鎧兜姿に凝集するや、人影に囲い込まれた竜牙兵たちが色めきたった。
「竜牙兵も年中無休で活動中ですね。雪祭りを再開できるように、手早く解決しましょう」
 柔和な表情にサキュバスの色気を乗せて、倉田・柚子(サキュバスアーマリー・e00552)はおっとりと微笑む。
「お祭りを狙うって言うのは、向こうにとっては効率がいいんだろうけど……だからこそ、想定しやすいって言うのかな」
 フィオは小さく肩をすくめると、まっすぐな視線で敵を射抜いた。
「とにかく、察知出来た以上は放っておくわけにはいかない。狩られるのはお前たちの方だよ、竜牙兵!」
 ……皆が竜牙兵の気を引いている隙に、近衛木・ヒダリギ(森の人・en0090)が足音を殺して、腰を抜かしているエプロン姿の女性の元へと歩み寄った。
「すぐにここを離れよう。たてますか?」
 女性は首を縦にぶんぶんと振り、ヒダリギに肩を貸されながら退避していく。気づけば周囲ではすでに警察と警備員による避難誘導が開始されていた。
「行かせませんよ」
「みんなが逃げるまで、こっちに付き合ってもらうから!」
 柚子が、プルトーネが、一般人へと注意を逸らした竜牙兵の視線上に立ち塞がった。
「オノレ、ジャマを!」
 竜牙兵たちは口惜しげに骸骨の歯を鳴らした。番犬に背を向けるほど知能は低くないらしい。
「あけましておめでとうございますのこの時期に、悲惨なことは起こさせません。しっかりと対処させてもらいますよ」
 泉は敵へ言い放ちながら、靴のかかとをコツ、コツ、コツと打ち鳴らした。無事にこの夜を明けるためのおまじないだ。
「タタン知ってるですよ」
 高らかに声を上げ、幼い胸を張る多留戸・タタン(知恵の実食べた・e14518)。
「雪まつりはーいっぱい雪集めてくる人とか、雪像作る人とかいっぱいの人がイッショーケンメー準備してやるです。祭りの最中も降った雪はらったりタイヘンですね! おかげでキレーな像が見れる!」
 ビシィ! と竜牙兵へ突きつけられる、幼い人差し指。
「そんな祭りをダメにしよーとするヤツは! タタンとジョナが許しませんので!」
 ……竜牙兵たちは言葉もなく殺気を漲らせ、番犬たちへと静かに武器を構える。
 雪像見守る雪景色の中、戦いは幕を開けた。

●雪景色の戦い
「おっと、まずはタタンの手番ですよ!」
 啖呵を切ったその勢いのまま、タタンは小動物のようにすばしっこく敵に肉薄した。大鎌を振り上げる竜牙兵の懐でしゃがみこんで足に力を溜めて、ジャンピング頭突き! 兜の下部を砕いて骸骨の顎を強打する!
 さらにその頭上には、人影が天高く舞い上がる。
「脳天にも一発やるよ」
 虹を纏って急降下する猫晴。兜をへこませんばかりの痛烈な蹴撃が竜牙兵を打ち据えた。
「まずはこのまま鎌を持ってる奴を叩こう。行くよエンデ!」
「わかってる。呼吸を合わせろよフィオ」
 青い魔術回路から草花を生やし、冷静に如意棒を振るうエンデ。炎に焼き払われた敵が怯んだ瞬間に、フィオは魔眼で見通したほんの短い未来に従い、鎌持ちを強襲した。投げ針で牽制を仕掛け、その隙を縫うように刀が閃く。
 ――が、鋭く斬り込んだ白刃は、大鎌ではなく剣によって受け止められた。ゾディアックソード持ちの一体が、大鎌の攻撃役を庇ったのだ。
 番犬の戦意が一斉に、露わになった盾役へとベクトルを変える。
「動きましたね。右の剣士が前衛です!」
 カラフルな爆風を巻き起こしながら、味方の攻勢をじっと見守っていた柚子が声を上げた。
「よく見たら少し焦げてるわ。あっさり馬脚を露わしたものね」
 守護星座の加護を輝かせながら、真尋がくすりと笑う。盾役の竜牙兵には、エンデの紅蓮大車輪にしっかり巻き込まれたらしき痕跡が明らかだった。
 敵の布陣は、大鎌の攻撃役と、剣の盾役・回復役という構成。問題は、剣持ちのどちらが盾役なのかが目で見て判別できない点だったのだ。
「これで邪魔な盾から崩せるね! 行くよ、いちまる!」
 すかさず盾役を狙い、プルトーネがウイルスカプセルを打ち込み、テレビウムの凶器が残虐な一撃を追い打ちする。
「確実に当てていきましょう」
 泉の廻が緩やかな弧を描く。そつのない軌跡が、硬い鎧の脚部に鋭い斬撃を叩き込んだ。
「グゥ……コシャクな……!」
「カマワン、ナギハラエ!」
 二体の竜牙兵が剣を真横に振り払い、星座のオーラを叩きつけてくる。凍えるほどのグラビティが立て続けに前衛と後衛を襲い、強化の幾許かが砕けた音を切り裂かんばかりに、回転する大鎌が飛来する。
 刃の軌道に自ら飛び込み仲間を庇いながら、柚子はかすかに表情を曇らせた。
「標的を分けてきた……様子見のつもりでしょうか」
「こちらの力を計っているのかしら、面倒ね……前衛は頼むわ、柚子」
「はい、お任せください。――こんな使い方もできるんですよ」
 真尋の言葉に応え、柚子は濃縮した快楽エネルギーを拡散させた。ウイングキャットのカイロの羽ばたきと共に、桃色の薄霧が同じ前衛で踏ん張る仲間たちを包み、癒していく。
「闇に一番近い色は、青なのだそうよ」
 真尋の歌声は青いオーラに乗って、自身同様後列に陣取るプルトーネの元に癒しの力を届け、氷結効果をたちまち浄化した。
「実際浄化に手を割かれたわけだ。脳みそなんか入ってないだろうに、やることは意外と小賢しいね」
 皮肉っぽくぼやきながら、雷まとう神速の突きで敵の鎧を脅かす猫晴。
「ともあれ周辺の避難誘導はあらかた終わったようですね。あとはここを片付けるだけです」
 順調に遠ざかっていく人々の気配に、まずは一つ肩の荷を下ろし、泉は流星の煌めきを引きながら大きく跳躍した。

●雪と散れ
 動きを阻害され、痺れに貫かれ、防護を剥がれ。集中攻撃を被った盾役の消耗をフォローすべく、敵陣にも守護星座の治癒が輝く。
 かと思えば、次の手番には容赦のない極寒のオーラが前衛と後衛を薙いでくる。攻勢に集中する大鎌の強力なダメージも加算し、予断を許さない状況が続いていた。
「後衛の回復なら手伝えるよ! 大丈夫、あなたはわたしが治してあげる!」
「タタンは誰でもなおせますよ! 甘いは美味い。美味いは甘い。ナイショの一口あげましょね!」
 忙しく飛び交う治癒に、プルトーネとタタンも参戦した。柔らかな風のオーラが、たっぷり蜜入り林檎が、即座に傷ついた仲間を浄化していく。
「治癒とミラージュを交互に打ち続けるつもりか。……長期戦になるな」
 冷静に剣持ちたちの動向を観察しつつ、エンデは魂を養分に咲く草花でオーラを受け止めると、積極的に斬り込んだ。無数の霊体による汚染が敵を蝕むが、その効果も遠からずかき消されてしまうだろう。
 敵陣に治癒役がいる以上は仕方ないと割り切り、ケルベロスは構わず攻撃を重ねていった。激しいグラビティの応酬が、雪祭りの会場を苛烈に彩っていく。
「ガッ……グ、グゥ……っ」
 根比べに先に音を上げたのは、竜牙兵のほうだった。
 盾役の限界を目端に鋭く見取った真尋が声を上げる。
「今よ、行きなさいダジリタ!」
 治癒にかかりきりな主に代わって、一台のライドキャリバーが炎を纏って疾駆した。不意を衝く突進が、竜牙兵の姿勢を大きく崩す。
「守ってばかりじゃ、勝てないですよ!」
 続けざま、タタンは愛らしくも忙しなくくるりと大きく一回転すると、紅玉色のお靴を輝かせて星型のオーラを蹴り込んだ。
「グギャアアアアアア――っ!!」
 醜い絶叫を上げ、盾役の竜牙兵は雪より細かい灰の粒子となって一瞬で霧散した。
「ヌグゥ……ケルベロス……!」
「ヤハリ、イカシテはオケヌ……!」
 髑髏の眼窩にいっそうの危機感を灯して、残る二体が猛攻を仕掛けてくる。
「守護のいない状態では、その陣形は片手落ちですね」
 柚子は治癒の手を止め、余裕をもって攻勢に踏み切った。高速演算が割り出した敵攻撃手の構造弱点を、痛烈な一撃で破壊する。
「さっさと倒そう! おまつりはこれからだもんね!」
 皆が楽しく遊べますように。祈りのような想いを込めて、プルトーネの縛霊手が網状の霊力で敵を捕縛する。
 防護の硬さで持ちこたえた盾役に比べれば、攻撃手は瞬く間に消耗していった。後衛からの治癒も焼け石に水。
 エンデが敵にかける言葉は、唯一、餞の言葉のみ。
「――さようなら、美しい世界にお別れを」
 花の魔術師によって穿たれた頭蓋から命の水があふれ出し、骸骨の全身を突き破って葉が茂る。青々と。青々と。
 すぐさま高々と躍り上がったフィオが、容赦なく点穴針を打ち込んだ。
「凍れ――!」
 雪さえも退く凍気に侵し尽くされ、竜牙兵は草花に覆われた姿のまま凍りつき、儚い音を立てて粉々に砕け散った。
「最後の一体! ジョナ、いくですよ!」
 ミミックと共にタタンの小さな体が果敢に敵の懐に飛び込んだ。鋼の鬼と化したオウガメタルの拳が竜牙兵の鎧を砕き、その傷をエクトプラズム製の林檎飴型こん棒がしたたかに痛めつける。
「これも自信はありませんが、フタツメ、当たれば痛いですよ?」
 より速く、より重く、より正確に。泉は極限まで無駄を省いた一撃を確実に叩き込んだ。たったそれだけの斬の理が、鋭くも激しく敵を打ち据える。
「オノレ……オノレェ……!」
 風前の灯火となった竜牙兵は、なおも抵抗するように治癒を瞬かせた。
「悪あがきね……砕いてあげる」
 真尋が前線へと滑るように躍り出た。摩擦に燃え上がる紅唄が、鋭い蹴撃で敵の耐性を打ち砕いた。
 投げ針の牽制から刀での一撃離脱をしつつ、フィオが声を上げる。
「あと一撃……!」
「任せて。……試してみるか」
 敵の動向を余すことなく観察していた猫晴は、足の裏に溜めたグラビティを一気に放出した。凄まじい速度に乗った肉体が、敵の呼吸に合わせて渾身の一打を抉り込んだ。
「前よりは様になった、かな?」
 呟く猫晴の正面で、竜牙兵は腹部に拳を打ち込まれたまま、絶叫と共に霧散した。

●きらめく日常
 ブルースハープの音色が、レクイエムを響かせる。
 泉は散っていった者たちへの曲をしっとりと弾き終えると、仲間たちへとにっこりと笑いかけた。
「折角の雪まつり、楽しめたらいいですね。まずはヒールをしてから、温かいものを食べましょうか」
「いいわね。景観を損ねない程度にやっておきましょうか。被害も少ないし、すぐに終わるでしょう」
 真尋も晴れやかに同意し、さっそく辺りをヒールの輝きに満たしていった。
 ケルベロスが細心の注意を払ったおかげで、まったく被害がないとまではいかないものの、立ち並ぶ雪像は軽度の補修で済みそうだ。
「作品性を損なうわけにもいきませんし、雪像にはヒールをせずに制作者に任せたほうがいいですね」
「だね。この竜牙兵にやられたやつは一から作り直しだろうだけど、がんば!」
 繊細な治癒を広げる柚子に同意すると、猫晴は戦闘終了を聞きつけてさっそく駆け付けた制作者たちに親指を立てて見せた。
 学生らしき青年たちは、乾いた笑いを上げたりがっくり肩を落としたりとひとしきりへこんでみせたのち、すぐに気持ちを切り替えて雪像の再生に取り掛かった。いっぱしの芸術家として、ヒールに頼らず自力で作り直す覚悟を決めたようだ。
 ヒールが終わった頃には客も会場に戻り、雪祭りは再び活気を取り戻し始めた。賑やかな会場を、ケルベロスたちは思い思いに楽しんでいく。
「お祭り楽しいですねぇ! お写真いっぱいです! あ! ジョナ、雪の滑り台ですよ! 滑りにいくですよ!」
 タタンはテンションあげあげで、ジョナ・ゴールド共に縦横無尽に雪祭りを楽しんでいる。
「雪冷たいねー。あ、みんな見て見て、今日のお洋服はいちまるとお揃いなの!」
 いちまると一緒にきゃっきゃとはしゃいで駆け回っていたプルトーネは、温かいお汁粉を供されひとごこちつくと、嬉しそうに愛らしい冬着を仲間たちに見せて回った。
 会場をひと巡りして再び広場に戻った頃には、驚くべきことに、地球型の雪像は九割がた形になっていた。制作者のチームのみならず、他の雪像を作ったチームも手伝って、急ピッチで再建が進められたようだ。
「雪でこんな精巧なもん作れんだな、すげぇ」
 早くも緻密な世界地図が書き込まれ始めた球体表面の細工に、エンデは感心の声を零す。
「大変だね、雪って重いのに。すごい重労働だけど、でも、みんなで力を合わせれば、あっという間だね」
 フィオは希望に満ちた眼差しで、地球儀の再生を見守った。
 ……仲間にも気づかれずひっそりと会場を後にしていた猫晴は、少し離れた高台から、雪祭りの様子を振り返った。
「あぁやって日常を過ごす人たちの為に、ぼくは居るんだろうね……」
 誇らしげに佇む雪像たちと、人々の楽しそうな笑顔は、雪の反射と照明に照らし出されて、どんな宝石よりもキラキラと輝いていた。

作者:そらばる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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