狂いし緑の影に

作者:幾夜緋琉

●狂いし緑の影に
 流れ落ちる滝壺が凍り付いた「氷瀑」の綺麗な、青森県の奥入瀬渓流。
 周囲の自然も、雪化粧の中に染まり、何処か奇妙な美しさを覚える。
 ……が、そんな雪化粧も漆黒の闇の中となっては、なかなか美しさを感じることは出来ない。
 そんな冬の森の奥地……姿を現わしたのは、人型の攻性植物。
 しかし雪の上を歩くその身体は、様々な所がボロボロで……最早仮死状態であるのは間違い無い。
 だが……。
『……ふふふ……』
 妖艶に漆黒の中、微笑むは女性型死神。
 彼女は雪上でのたうつ攻性植物をそっと追いかけ……そして、その肩へ『死神の因子』を埋め込む。
 埋め込まれた攻性植物は、一瞬動きを止めてしまうが……すぐに。
「さぁ、お行きなさい。そしてグラビティ・チェインを蓄え、ケルベロス達に殺されて来るのです」
 との指示を受けると、攻性植物はむくりと立ち上がる。
 そして。
『……グゥガアアアア!!』
 と、苦しみの咆哮を上げると共に、暴れ始めるのであった。

「ケルベロスの皆さん、集まって頂けましたね。新年早々申し訳ありませんが、皆様へ依頼を御願いしたいのです」
 と、セリカ・リュミエールは、集まったケルベロス達へ一礼すると共に。
「青森県十和田市、十和田湖に連なる奥入瀬渓流の銚子大滝の付近に、死神によって強制的に復活させられた、死神の傀儡の攻性植物が現れた様なのです」
「このデウスエクスは、大量のグラビティ・チェインを得る為に、人間を虐殺しようと企んでいます。もしも、このデウスエクスが大量のグラビティ・チェインを獲得してから死ねば、死神による強力な手駒になりかねません」
「このデウスエクスが、人間を殺してグラビティ・チェインを得るよりも早く、撃破しなければなりません。急ぎ現場へと向かい、デウスエクスの撃破を御願いしたいのです」
 更にセリカは。
「相手となる攻性植物ですが……一度死に瀕したところで死神による手ほどきを受けた様で……既に正気を失っている様です。それ故言葉に対する反応は無く、ただただ対抗してくる者を殺戮する事しか考えていない様な状況です」
「ただ、死神により復活させられた存在という事は、注意するべきなのは、普通に倒してはならない、という事です。彼を普通に倒すと、その死体から彼岸花の様な華が咲いてしまい、それは何処かに消えてしまいます」
「ですが、デウスエクスの残り体力に対し、過剰過ぎる程のダメージを与えて死亡させた場合には、死体は死神に回収される事無く、完全に崩壊する様です。可能な限り、その死体が残らぬ様に仕留めてきて下さい」
「又、周囲は暗闇に包まれており、足元も雪に覆われて滑りやすい状況です。なので、滑り止めなどの対策はしっかりしておく様に御願いします」
 そして、最後にセリカが。
「飽きる事無く続く、死神の動きは不気味ではありますが……暴走するデウスエクスの被害は食い止めねばなりません。ケルベロスの皆さん、どうか宜しく御願いします」
 と、頭を下げた。


参加者
燈家・陽葉(光響射て・e02459)
水咲・玲那(月影の巫女・e08978)
タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)
湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)
氷鮫・愛華(幻想の案内人・e71926)
 

■リプレイ

●奇跡の姿
 流れ落ちる滝壺が凍り付く、『氷瀑』の現象の起きている、綺麗な青森県の奥入瀬渓流。
 周囲の土肌も雪化粧に彩られ……それに何処か奇妙な美しさを覚える風景を描いている。
「氷瀑、綺麗だね……」
 と、その光景を見て、燈家・陽葉(光響射て・e02459)が思わず零した一言。
 余り見た事の無い、美しい光景は感動を呼び起こすものである。
 ……しかし、そこへと姿を現したのは、死神と、死にかけの攻性植物。
「……攻性植物に死神の因子ですか……植物とは言え、こんな寒い中で瀕死なのは可哀想ですね」
 と湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)がぽつり呟くと、それにタキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)も。
「ええ……また新年早々、死神の動きがありましたか……」
 やれやれと言った風に、肩を竦める。
 それに氷鮫・愛華(幻想の案内人・e71926)が。
「ううー、寒いですね。寒さ対策していても、やっぱり寒いものは寒いです。そんな中の攻性植物……私たちも負けずに頑張らないといけませんね」
 滑り止めの靴を確認し、紐を締め直す……そして上には厚い防寒着を着用。
 もこもこした服は、ちょっとばかし動きにくそうだけど、その動きがちょっと可愛く見える。
 そして陽葉が。
「うん。攻性植物を倒さないとね。死神の女性に狂わされて、哀れかもだけど……手加減はしてあげられないから」
 と呟くと、タキオン、麻亜弥、水咲・玲那(月影の巫女・e08978)も。
「死神に強力な手駒を渡すわけには行きませんね」
「ええ。死神の手駒にならせないよう、私たちの手で引導を渡してあげましょう」
「綺麗な奥入瀬に、こんな危険な生物を仕掛けるなんて許せません。被害が出る前に仕留めないと」
 三人がそれぞれ頷き合う。
 そしてケルベロス達は、急ぎ攻性植物の現れし氷瀑へ急ぐのであった。

●美しさを破壊せし
 そして、滑りやすい道を急ぎ進む。
 新雪に人の足跡がついてない、深い雪山の中へと分け入っていく。
 そんな奥入瀬渓流を分け入り、幅20m、落差7mを誇る銚子大滝の下まで辿り着いた、その時。
『……ウォォゥ……』
 と、雪山の中から響く咆哮。
 ……その咆哮に気付いた玲那が。
「敵は、奥入瀬にあり! さあ、こっちです!!」
 と威風堂々、ずびしっ、と指を差す。
 それに苦笑するタキオンが。
「まぁ……余り先に行きすぎない様にして下さいね?」
 と、釘を刺しつつ、攻性植物の呻き声のした方向へ。
 そして……足を踏みしめつつ、滝の脇から、雪深い森の奥へ。
『ウグゥ……ォォォウウ……!!』
 と、怒りの咆哮と共に、暴れ廻る攻性植物。
 そんな攻性植物に対し、ケルベロス達は大きく包囲網を作る。
 すると、攻性植物は蔓を力任せに振り回す。
 その一撃を、陽葉は咄嗟にカバーリング。
「っ……中々強力な攻撃ですね……ですが、負けません」
 と、唇を噛みしめ、耐える陽葉。
 そして直ぐに、メタリックバーストを己含む前衛列へメタリックバーストを付与。
 命中を強化された玲那と麻亜弥の二人が、続く。
「海の暴君よ、その牙で敵を食い散らせ……」
 と、麻亜弥の『暗記【鮫の牙】』が、敵に襲いかかる……が、攻性植物は、その一撃を回避。
 しかし、回避した先に玲那が禁縄禁縛呪で、その足を地へと縛り付ける。
 そして、後衛の愛華が。
「白き時の空間よ、敵を閉じ込め、動きを封じよ!」
 と『ホワイト・エターニティ』で攻撃、そして最後にタキオンは、仲間の状況を見据えた上で。
「皆さん、大丈夫そうですね。では……クラッシャーの皆さん、その力を更に強めてあげます。強力な一撃を、御願いしますよ」
 と声を掛けながら、エレキブーストによる壊アップを付与する。
 そして、次の刻。
 攻性植物の攻撃は変る事なく、熾烈に仕掛け続ける。
 しかし、その攻撃を、確りと陽葉はディフェンダーとして仲間達をカバー。
 そして、自分の体力状況を見据え、バレットタイムによる自己回復。
 更に麻亜弥が。
「炎に包まれなさい、これでも喰らえ!」
 とグラインドファイアで炎に包み込むと、玲那が合わせて。
「集え、蒼き冷気。凍てつく刃よ、我が敵を切り裂け!」
 と『氷刃蒼破斬』で一閃。
 炎と氷の連携を加え、攻性植物の蔓一つを一刀両断。
 そして、愛華が。
「重力を乗せた拳を、受けてみなさい!」
 と獣撃拳を叩き込む。
 そしてタキオンは、陽葉の体力状況に。
「大丈夫ですか、緊急手術を施術します!」
 とウィッチオペレーションを飛ばし、共鳴ヒール。
 そして3刻目……陽葉は、攻性植物の一撃をギリギリの所で躱す事で、ダメージを回避。
 流れる様に、陽葉がクイックドロウの一閃で、その頭部を鋭く射抜く。
 ……緑色の体液が噴出し、頭を掻くように暴れる攻性植物。
 ……しかし、決して油断する事無く麻亜弥は。
「その動き、封じてあげますよ」
 と、スターゲイザー。
 そして玲那も、熾炎業炎砲を重ねていき、ダメージを蓄積。
 同時に愛華が「深空」の武器封じで、相手の手数を封じ、タキオンもゼログラビトンを重ねる。
 その後も、少々時間は掛かりつつも、少しずつ、少しずつ……攻性植物の体力を削り続ける。
 そして……攻性植物と正対し、十数分が経過したその時。
「これで、叩き潰してあげますよ!」
 と、麻亜弥がブレイズクラッシュをその身へ放った……その瞬間。
『ウォォォォオン……!!』
 獣の如き咆哮と共に、蔓が飛び散り……残りは一つ。
 ……最後の蔓を雪にバタンバタンと叩きつける攻性植物……だが、それは死を間近に、どうにか切り抜けようというあがきの如く。
 そんな攻性植物の動きに、タキオンが。
「どうやら、終わりが近い様です。一気に仕掛けますよ!」
 と仲間達に号令。
 その号令と共に、タキオンが前衛陣を更にエレキブーストで強化。
 そして強化された陽葉、玲那、麻亜弥の三人が、攻性植物へ接近。
 攻性植物は、ちょっと距離を開けようとするが……。
「させません!」
 後ろに回り込んだ愛華。
 そしてそのまま。
「私の理想図を、貴方の中に描いてあげますね!」
 と、更にゴッドグラフィティを使用し、前衛強化。
 多数強化を付与された陽葉が。
「響け、大地の音色」
 と『大地の弓』を、その身に射ると……大きく風穴を開く。
 更に麻亜弥のが『暗器【鮫の牙】』の一撃で、鮫の牙の如き一閃で、攻性植物を斬り裂くと……攻性植物は、最後の蔓を失う。
 ……攻撃する為の蔓を全て失い、叫ぶ彼。
 それに……。
「これで終わりです!」
 逃さず、玲那の『氷刀蒼破斬』が攻性植物を一刀両断。
 ……強烈な一閃に、攻性植物は耐え切れず……完全に崩れ墜ちるのであった。

●氷瀑に映る
 そして……どうにかケルベロス達は、死神の傀儡化となった攻性植物を仕留める。
「……ふぅ……終わりましたね。死神の因子は、どうなりましたか?」
 と、麻亜弥が周囲を見渡す。
 ……幸い、死神の花が咲き誇る事も無く、遺骸の跡も無い。
「……どうやら、無事に討伐出来た様ですね……皆さんも、お疲れ様でした」
 とタキオンが頷き、息を吐く。
 周りの仲間達も安堵の一息を付きつつ、周囲を見渡す。
 遠くからちょろちょろと流れる瀧の音……氷瀑の下、ほんの僅か流れる水の音。
「氷瀑も、生きている様ですね……」
 と、思わず笑みを浮かべた陽葉。
 そして、手分けしてケルベロス達は、周囲の壊れた所などを修復。
 一通り修復が終わった後に……凍り付いている氷瀑の下へ。
「凄い……冬の滝も、氷柱があって綺麗ですね」
 と微笑む玲那に、愛華も。
「そうですねぇ……本当、綺麗ですぅ……」
 と、寒さに手を擦り合わせながら、美しい氷瀑の光景に暫し、目を奪われるのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月17日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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