詣らぬ穢れを祓い給へ

作者:木乃

●参道埋め尽くすは死屍累々
 年の始め、祈願をかけようと石畳を進む人という波。
 押し合いへし合い、流れに沿ったその先こそ神域たる境内。
 本殿へ連なりし人々は就職、受験、商売繁盛など一年の願を掛けようと目指していく。
 そんな目出度い時期には屋台も軒を連ねて、景気よい掛け声と共にソースやザラメの香りを漂わせていた。
 ――そこに溜まった見えざるニオイに引き寄せられ、招かれざる客が飛来する。
「なんだ、あれ?」
 空を仰げば無数の鋭い歯牙が大地に迫っていた。
 三角錐の柱は石畳を穿ち、地響きに周囲の人々が足を止めた――パラパラと柱は瓦解すると共に姿を変える。
「カ、カカカカ……溢レンばかリのグラビティ・チェイン……!」
「奪イ尽クセ! 殺シ尽クセ!! 全テハドラゴンサマの血トナリ、肉トナル!!」
「憎メ! 怨メ!! 絶望シロッッ!!」
 おぞましい叫びを上げて竜牙兵の狂宴が始まる。
 ――臓腑で飾り立てた御前は最強たるドラゴンのために。

「……人通りが増えるだけに警戒して正解だったか。神社まで行かずとも、そこへ連なる参道も人で溢れかえる」
 グレッグ・ロックハート(浅き夢見じ・e23784)は長い指で顎を撫でながら、神妙な面持ちで視線を下げる。
 調査を頼まれていたオリヴィア・シャゼル(貞淑なヘリオライダー・en0098)も『予想通り』といった様子だ。
「このまま放っておけば混乱する人々を竜牙兵は蹂躙し、大惨事となるでしょう……怨嗟と憎悪を求めるドラゴン勢力にとっても格好の餌場でしょうね」
「……避難勧告は、今回も出せないか」
 グレッグの問いかけに、オリヴィアは「はい」と短く返す。
 竜牙兵が出現する前に避難勧告を出せば、警戒した竜牙兵は他の場所に出現してしまう。
 そうなれば事件を阻止できず、甚大な被害を出してしまう可能性が高い。
「ケルベロスの皆様が到着すれば、巡回していた警察官も避難誘導に専念出来ますわ。皆様はとにかく竜牙兵の撃破を最優先に、迅速に場を収めてください」
 作戦目標を伝えると、オリヴィアは続けて周辺の状況についてふれる。
「場所は神奈川県にある神社の参道……えーと、神社まで続く道、ですね。露店で簡易的な屋台通りが出来ているようです。初詣に向かう人々で溢れかえっており、すでに交通整理や案内などでパトロールしている警察官もいらっしゃいますわ」
 よって「ケルベロスの到着と同時に、避難誘導は開始します」とオリヴィアは補足する。
 しかし、人が多いだけに誘導も時間がかかる。
 オリヴィアからも『デウスエクスはケルベロスにしか倒せない、押さえ込むことを優先して欲しい』と念押しする。
「竜牙兵は全部で3体です。『簒奪者の鎌を持った主力の2体』と『ゾディアックソードをもった遊撃兵が1体』となっていますわよ。ゾディアックソードをもった竜牙兵は前線を維持するように動き回るため、命中率を気にしつつ早めに打破することが大切でしょう」
 当たらぬ弱体化より、増える自己強化。
 スピーディーさを求められる状況だからこそ、確実性は重要になるだろう。
 一通り説明を終えると、オリヴィアはポンと手をたたく。
「もし早めに修復が終わりましたら、御本尊へご挨拶……もとい、初詣に行かれてはいかがでしょうか? お召し物をどこかで着替えて、というのは難しいでしょうが」
 近くまで立ち寄るのだから遠慮なく足を運んできて欲しいと、オリヴィアは一言添えてヘリオンの発進準備に向かう。


参加者
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
ノル・キサラギ(銀花・e01639)
楪・熾月(想柩・e17223)
ティユ・キューブ(虹星・e21021)
ジェミ・ニア(星喰・e23256)
グレッグ・ロックハート(浅き夢見じ・e23784)
塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)
エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)

■リプレイ

●災厄の禍津風
 襲来する異形から逃れるべく、人々が波紋のように広がる。
 怒号響く参道から避難させようと警察官が集まるが、錯乱する市民は互いを押し合い、我先に避難すべくかきわけていく。
 逃げ惑う人々を嘲笑うように、顎骨を揺らし鳴らす竜牙兵が得物を振りかざしたとき――彼らは現れた。

「凶つ骨、お焚き上げのお仕事ですのよー」
「本当、君たちはいつも騒がしいね」
 ふわりと着地するフラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)に続き、呆れ気味の楪・熾月(想柩・e17223)が石畳に降り立つ。
 続々と現れたケルベロスが包囲網を作ろうと動くや、ゾディアックソードを携える一体が星座を地に描く。
「番犬ごと屠レ! 全テはドラゴンサマの為ニ!」
 包囲を破ろうと半月の刃が踊る。
 受け止めるべく積極的に飛び出し、ティユ・キューブ(虹星・e21021)は星雲に似たオーラ・星霞と縛霊手でぶつかりあう。
「そちらの点数稼ぎはマイナス収支とさせてもらうよ……ペルル、援護よろしく!」
 ボクスドラゴンのペルルは主人の呼びかけに、翼を大きく羽ばたかせ、戦場を旋回する。
 互いをはじき合うようにして間合いをとり、ティユは指先にオーラをまとって宙をなぞった。
「導こう――極星の光で!」
 星の輝きは点から線へ、星図となり戦場に半円の天球を展開させた。
 もう一体は塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)と白蛇竜のボクスドラゴン・シロが連携して制止す。
「ったく、正月休みしてりゃいいものを!」
 短くなった煙草を踏み消し、翔子は爆破スイッチに指をかける。
 生じた爆風は、包囲するケルベロスを追うように連鎖し、はじかれたようにノル・キサラギ(銀花・e01639)が飛びだす。
 狙うは遊撃の竜牙兵――前衛の間を瞬時にすり抜け、ノルは足下へ滑りこむ。
「まずは支援を、絶つ!」

 動きをセーブさせようとノルが片足を蹴り抜き、後方で構えるジェミ・ニア(星喰・e23256)ががら空きになった上体に照準合わせ。
「グレッグさん!」
「ああ、畳みかける」
 ジェミの砲撃の合間を縫って、接近するグレッグ・ロックハート(浅き夢見じ・e23784)から蒼い焔が立ち上る。
 白波のごとき残滓を漂わせ、凍えるような焔は竜骨に吸い込まれていく。
「――……少し、大人しくして貰おうか」
 コートの隙間から蒼華が咲き乱れる。
 鎧ごと蹴り砕かんと放たれたグレッグの健脚に、骨子の軋む、けたたましい音を響かせ、竜牙兵は屋台へ雪崩れこむ。
「グ、ォオ……! 星ヨ、輝ケ……ッ!」
 自らに守護星座を付与する竜牙兵に、エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)はすぐさま対策を講じる。
「竜を破リ、星をも砕ク……破竜砕星陣。その護り、崩してみせましょうカ」
 鎮扇をヒラリと振るい、もう一振り。
 エトヴァが見出す陣形は竜を破り、星をも砕く勇猛なる布陣。
 名付けられた陣は言の葉をまとい、魔を破らんと、フラッタリー達の得物に宿る。
 白椿のたおやかさと清楚が服を着たようなフラッタリーだが、
「煉獄ヲ此処二……灼熱ノ華ハ龍nO焔ヨRIモ尚ナオ赫ク!!」
 ――今は歪な笑みを浮かべ、石畳に足跡を焼きつけながら遊撃手へ猛進する。
 艷やかな髪と着物の袂が乱れるのも構わず、豪快にとびかかるフラッタリー。
 いなそうとする竜牙兵の動作は、彼女にとって鈍重にすら思えた。
「――オォoおアぁaァAあぁァ亜ぁァAあッッ!!」
 細腕からは想像もつかぬ膂力で大太刀を操る。
 燃えさかる刀身は、障壁ごと鎧に炎の華をを根付かせる。
 悲鳴。絶叫。喚声――あらゆる負の感情が混じり合う中、ティユ達は襲撃者を押し留める。
 その間に警察官隊も誘導に徹し、市民達の流れが引いていく。

 数で勝る、とはいえ一撃の重さには流石に堪えた。
 翔子の白衣が大きく裂かれ、射線が開いた一瞬の隙に大鎌が後方の熾月へ放たれる。
 シャーマンズゴーストのロティが主人を守ろうと斜線上へ飛び出し、創傷の浮かぶティユが快癒の星光でフォローする。
「ありがとう、ロティ。そのまま牽制して!」
 遊撃手を陥落させた後、主力を各個撃破する手はずだが……狙撃するケルベロスの狙いは一点に集中していた。
 少しでも消耗させるよう熾月は要請し、癒やしの風を前方に吹かせる。
 青みがかったたてがみを揺らすロティは、ランタンから炎を飛ばし、星座の庇護を焼失させていく。
 シロも封印箱ごと突撃し、竜牙兵の傷を増やすものの、生命力を吸い上げる痛撃に弱りつつある。
「いたた……さすがに打ち合いじゃ分が悪いか。持ち堪えてるうちに落としとくれよ!」
「少しでも猶予を作るから、よろしくねっ」
 流れるように綺羅星を操るティユと翔子。
 ペルルも属性を注入し、予防線を強化していく。
 ――主力の損害は軽微だが、集中砲火を浴びる遊撃兵は陥落寸前。
 守護星座の加護も焼け石に水でしかない。
「微塵モ残Siハ、シnAイ……灰燼ト成レェE!!」
 両手に持つ刃を振り回すフラッタリーの一撃を撥ねのけても、死角からは倍以上の攻撃が迫る。
「ノル、合わせるぞ」
「わかったグレッグ! ――せー、のっ!!」
 音速のストレートが、駆動音を響かす正拳突きが竜牙兵の胸骨を捉えた。
 元より空っぽだった肋骨は砕け散り、白熱するオーラを纏うジェミが頭蓋を注視する。
「神域を荒らす不届き者は……こうです!」
 闘気はより鮮明に、白鷺へと姿を変えていく。
「――穿てッ!!」
 放たれる白光が軌跡を描いた直後――竜牙兵の頭蓋がはじけ飛ぶ。
 頭部の破損により、残る竜骨は音を立てて崩れ落ちた。

 エトヴァは狙いを残る2体に切り替える。
(「損耗ハ、サーヴァント達のほうが酷いようデスネ」)
「押しの一手と行きまショウ」
 爆風で後衛の士気をさらに押し上げ、エトヴァは飛来する大鎌の軌道を扇でスルリと逸らす。
 シロのグラビティを吸収し、霧散させた竜牙兵の元にジェミ達が殺到する。
「乱リ骨灰、散りヂLiニ!!」
 狒々のように強引に飛びつくフラッタリーが極炎をねじこみ、ロティの炎が竜骨をさらに焼き焦がす。
 翔子達をバックアップしていた熾月も僅かに余裕が生じ、肩に乗せたファミリアに手を伸ばした。
「ぴよ、君のゆめを見せてあげて?」
 雛鳥が小さな翼を懸命に動かす。
 チリチリと静電気をまとったと思うと、両翼を高々と掲げ――雷光が戦場を突き抜けた。
 晴天に轟く雷鳴。閃光は尾を引くように薄れ、ペルルが追撃を叩きこむ。
「逃がさないんだからっ」
 気力を溜めて自傷を癒やすと、ティユは前屈みに滑走する。
「ほらほら、ついてこられないのかな!?」
「小癪ナ、グォッ!!」
 オーラに乗って超加速するティユはまさに流星少女、乱れた隊列に星霧が巻き上がる。
「アンタに処方すんのはこっちだよ、有り難く受けとりな!」
 手のひらに投薬用カプセルを握りしめ、翔子は一斉に投げつける。
 噴出したウイルスは骨髄を蝕み、竜牙兵は所々変色して自壊していく。
「あと一体だよ!」
 鉄槌を下すジェミの背を飛び越え、頭上からノルの一閃が竜牙兵の背に傷を刻む。
 振り向きざまに反撃を試みるが、ロティに阻止させ、エトヴァと視線がかちあう。
「――………und Sie?」
 人差し指を唇に当て、妖艶な氷の微笑で釘付けにする。
 大きな隙が生じ、血のように赤黒い焔を纏うフラッタリーと、凍えるように冷たい蒼炎を揺らすグレッグが一気に詰め寄る。
「掲ゲ摩セウ、煌々ト……――!!」
「奔れ、蒼華。災厄を絶て」
 二色の炎が天高く立ち上る。
 蒼き枝葉に紅蓮の花火。残酷なまでに鮮やかな獄炎は敵影を飲みこみ、全てを葬り去るのだった――。

●祈願参拝
 破壊された屋台や石畳を修復し、参道は再び活気を取り戻しつつある。
 熾月達も身なりを整えてから鳥居をくぐり境内へ。
「うわぁ、大きな拝殿だね」
「今年二度目のお参りだけど、やはり神社の空気はいいですね……清廉、というのでしょうか?」
 ロティと手をつなぐ熾月とジェミは辺りを見回し、感嘆の息を漏らす。
 戦の興奮も醒めたフラッタリーは巾着に手を忍ばせ、
「五円玉9枚でー、四十五円ー。『始終ご縁』でしたわねぇー」
 お賽銭箱へ立つ前にちゃっかり準備し、ノルが「あっ」と声を上げた。
「語呂合わせだよね? いいな、俺もやるっ」
「あー、5円玉ないなァ……50円玉で『十分な御縁』ってのはアリかな?」
 神前とあって煙草は自重した翔子も小銭を一枚握り、ティユも財布をしまう。
「勝ち星をつけたところでお詣りっていうのも幸先いいね」
「日頃の行イ、トいうものでしょうカ。神様ニモご挨拶いたしまショウ」
 人波に流されつつ、エトヴァ達も古びた賽銭箱を前にして小銭を投げ入れる。
 チャリン! 独特の甲高い金属音が響き、箱の中へ奉納されていく。

 提げられた鈴を鳴らし、二拝二拍子一拝――念入りにお祈りを済ませ、ジェミはエトヴァの顔を覗きこんだ。
「エトヴァは何をお祈りしたの? きっとまた似たようなことだったりして」
「ええ、きっと似たようなことなのデス」
 大切な家族と友人達の安全、幸せを願う……家族だから通じ合うこともあると、二人の笑顔は物語っていた。
「……ノルも念入りにお祈りしていたが」
 グレッグの問いかけと視線に、ノルは気恥ずかしそうに頬を掻く。
「グレッグにも皆にも、ここにいる沢山の人々にも……いいことたくさんな一年で、みんな笑っていられますようにって。大きなお願いだからしっかり届いて欲しいなってさ」
(「……友や仲間に留まらず、か」)
 なら、自分は望むものを守れる自分で在ろう――グレッグは願いを胸に秘める。
「折角だから色々見て回らない? 出店もいっぱいあるし」
「うふふー、寄り道もいいですねぇー? 美味しい屋台料理もいっぱいですわぁー」
 ティユの提案にフラッタリーもおっとり賛成表明。
 後ろを一歩離れて歩く翔子も(「焼き鳥、カルビ、ビール……」)とイメージを膨らませた。
「エトヴァ、いこ!」
「グレッグもはやくはやくー!」
 元気いっぱいに走りだすジェミとノルを追って、屋台が連なる参道へ移りゆく。
 熾月は一人、鳥居の前で振り返る。
「……ロティ、ぴよ、今年も良い一年にしようね」
 慎ましい願いは、たくさんの願いと共に――激動の一年がまた始まる。

作者:木乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。