ミッション破壊作戦~吠えよ猟犬、命燃やして進め

作者:ほむらもやし

●ブラック依頼再び
「新年あけましておめでとう。で、元旦早々に恐縮なのだけど、一ヶ月が経過してグラディウスが再使用できるようになったから、ミッション破壊作戦を進めよう」
 ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)は3.21秒で年賀の挨拶を終えると、依頼の話を進める。
「とてもシンプルな作戦だから、未経験の君でも大丈夫! 分からないことは親切な先輩や、既に公開済みの情報を確認しよう。ここまで出来たら大活躍も夢では無い。で、一応お約束だから説明すると。これがグラディウス。通常の武器としては使えないけれど、『強襲型魔空回廊』を攻撃できる武器だ。使い方はバリアに刃を接触させるだけ。貴重品で再利用するから捨てずに持ち帰る。後は撤退戦。諸君の撤退を阻む敵を倒し、ミッション地域中枢から離脱する」
 作戦は魔空回廊への攻撃と、撤退戦の二つの段階からなる。
 前者は個人的な思いだけでも大丈夫だろう。
 後者は仲間との連携が上手く行かなければ最悪の事態になるから死力を尽くそう。
 というわけで、これから向かえるのは、攻性植物のミッション地域のいずれか。
 実際の行き先はパーティの力量も鑑みて皆で話しあって決めて下さい。
 不運にも向かえるミッション地域の全てがとんでもない強敵ばかりだった場合は腹を括るしかない。後退は無いから先に進むしかない、命を尽くして頑張ろう。

「ようしー。ボクにも出来るような気がしてきたよ!」
 下手な腹話術を演じつつケンジは話を進める。
「素晴らしい心意気だ。心は決まったようだね。だから注意事項だ。まず撤退に時間を掛けすぎれば、全滅する危険がある。戦闘中に増援の到着を許せば致命的だ。なぜなら敵の占領地域である以上『時間が足りないから戦いをやめて撤退します』と言うことは出来ない」
 しかし、敵はグラディウスの攻撃の余波である爆炎や雷光、同時に発生する爆煙(スモーク)に視界を奪われて大混乱に陥っている。これはとても有利な状況だ。
 少人数の奇襲でも、殆どの場合1回の戦闘で強敵を撃破して撤退に成功している。
「参考までに、スモークはグラディウス攻撃を終えた後は急速に薄まって行く。向かった場所やその日の状況で多少の違いはあるけれど、何十分も効果が持続するものでは無い」
 但し、今までミッション破壊作戦中に、ケルベロスが死亡した事例は無く、暴走した少数の者も、此方で把握している限りは漏れなく救助作戦が実施されている。
「あとグラディウスは使用時に気持ちを高めて叫ぶと威力が上がると言われる。君の熱い思いがミッション地域の解放に繋がる。これは素晴らしいことだ!」
 しかも攻撃を掛けるのは、通常のミッション攻撃の手段では、決して辿りつけないミッション地域の中枢にあたる、強襲型魔空回廊だ。さらに高高度に侵入したヘリオンからの降下攻撃が出来るのは、このミッション破壊作戦ぐらいだ。

「叫びはグラビティを高める為の手段と言われているけれど、何をもって強い叫びとされるかは解明されていない。ただ心にも無い美辞麗句の羅列よりも、本気の思いをぶつけた方が僕は自然だと思う」
 なおミッション破壊作戦とは、何度も攻撃を繰り返して、ダメージの蓄積による強襲型魔空回廊の破壊を目指す作戦である。
 過去に1回、2回の攻撃で破壊に至った事例もあるが、希なケースである。
 故に1回の攻撃で過大な戦果をするべきではない。それよりもスピーディーな帰還を優先して欲しい。
 ミッション地域は、日本の中にあっても、人類の手が及ばない敵の占領地。
 毎日ミッション地域へ攻撃を掛ける有志旅団の力を持ってしても、防備の固い中枢近くまでは、手が届かず、魔空回廊の位置すらも特定出来ないのが現実だ。
 敵の戦闘傾向は既に明らかにされている情報が有用だ。
 ダメージ耐性や命中回避の耐性が分かっているのだから使わない手は無い。むしろ活用すべきである。もちろん戦闘でも撤退でも速やかに動けるように作戦やプランを立て、実現のための行動をすることも重要だ。
 それだけやっても、スモークの効果が無くなるほどに時間が掛かりすぎてしまい、敵が追撃態勢を整えたなら、降伏してなぶり殺しにされるか、暴走に一縷の望みに掛けて撤退を強行するしかない。

「デウスエクスは人々が正月休みを楽しんでいる間でも、お構いなしに攻め込んでくる。今日にでも、どこかの街を制圧してミッション地域に変えてしまうかも知れない」
 今、あなたの目の前に見える風景が、平和に見えたしても、地球が侵略を受けている日常は危機である。
 そして、この危機を救い得る力を持つのは、あなた方ケルベロスだけだ。


参加者
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
アラドファル・セタラ(微睡む影・e00884)
白井・敏(毒盃・e15003)
ラスキス・リアディオ(ルヴナンの讃美・e15053)
森嶋・凍砂(灰焔・e18706)
ユグゴト・ツァン(パンの大神・e23397)
ケル・カブラ(グレガリボ・e68623)

■リプレイ

●鈴鹿山脈上空
 鈴鹿山脈は滋賀と岐阜三重県境に跨って走る南北およそ60km東西に10kmに渡る地質学上の地塁を指し、北は関ヶ原、南は那須ヶ原山と布引山地との間にある地溝に区切られていると言われる。
 地形は、三重県側が伊勢平野に向かって急な崖となっているのに対して、滋賀県側は緩やかな傾斜を描き近江盆地へと繋がっている。
 敵を知り己を知れば百戦危うからず。
 白井・敏(毒盃・e15003)の証言と共に最低限知っておくべき情報を頭に叩き込むと一行は撤退プランと装備品の確認をしつつ降下攻撃に備える。
「時間との勝負です。気を引き締めて参りましょう」
 ラスキス・リアディオ(ルヴナンの讃美・e15053)はアラドファル・セタラ(微睡む影・e00884)と敏の方を見て言うと、窓の外に視線を向けた。
 前方の眼下には広大な濃緑の山並み。さらに先に朝日を反射する琵琶湖の水面が見える。
 機体の傾きはヘリオンが急速に高度を上げていることを告げている。
 大丈夫。やるべきことをやればそうそう失敗するものではない。
 敵はデウスエクス『ゲヘナマザー』。警戒すべきは毒を伴う強力な破壊攻撃。回避しきるのは難しいとしても、確実にダメージを低減できる属性を見誤る者はまさか居ないだろう。
 間も無くヘリオンは速度を緩めて動きを止める、次いでロックが外れる音がして、ユグゴト・ツァン(パンの大神・e23397)の手によってドアが開け広げられる。
 ゴワッと音を立てて、冷たい外気が機内に流れ込んでくる。
 かくして各員の万全の対策を信じて、鈴鹿山脈へのミッション破壊作戦は開始された。
 真っ先に飛び出たユグゴトの髪が金色の炎の如くに靡く。防護バリアへの接触までは1分ほど、ユグゴトは赤い瞳を遙か下方に向ける。
 種を撒いて貪る存在、母親を冒涜するような植物だ。
 手にしたグラディウスの柄を強く握り、落下方向へと威圧する様に突き出した。
 故に破壊するのが、私であろう。千の仔を孕む黒山羊の怒りを此処に。
 少し前までは掌ほどの大きさにしか見えなかった、バリアは距離が近づくにつれて急速に大きさを増す。
「自身で種を撒き強化を行う餓鬼か。随分と成長した存在だが私が『望む』事は変化せず。貴様の如き強欲な仔はお仕置きされるべきだろう。戯れを止めて破壊を齎すのだ」
 そして今、空と自身を映す見渡す限りの壁と化したバリアに対して、ユグゴトは叫び、刃を突き出したまま己が身を一本の矢の槍の如くにして突っ込んだ。
 脳を揺さぶる衝撃が手の先から足の先に向かって突き抜けて、同時に刃の先から溢れた光が橙色の輝きが生まれる。衝撃に抗うかのようにさらに力を込めるユグゴト。
「視よ。私こそが全生命の母親。醜悪なる母体の偶像。黒山羊の輪郭――生命を暴食する愚物に鉄槌在れ!」
 次の瞬間、衝撃波が地上に向かって突き抜けて、膨張した橙色の炎がバリアの表面を流れ落ちて津波の如くに森を薙いで行く。
 膨張する炎の色を映して、赤みを増した瞳を見開いて、シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)は戦慄した。
「綺麗だった山の木をそんなノーロックな姿に変えてしまうなんて許すまじ! デス! 見かけも中身もノーロック!」
 悪性腫瘍の如くに広がった攻性植物を取り除くためには、周囲の健全な森をも傷つけなければならない。どうしようもないこととは分かっていても、気づかないふりは出来なかった。
「キミたちが変えてしまった木は元には戻らないデスが、新しい木を植えることはできるのデス! ロックにキミたちをぶっ飛ばして緑化活動に勤しむのデス! 山の木は落ち着いてピクニックしながら見るのが一番なのデスから!」
 ピクニックができると言うことは人の手が入った自然であることを意味する。人の営みには前後の時間軸がある。何気ない峰や川、谷のひとつひとつにまで名前がつけられていることに気がつけば、目に見えないものまでが見えてくるような気がする。
「覚悟はいいデスか? ボクの歌を聴けぇぇぇぇデーース!」
 内に秘めた思いと共にシィカはグラディウスの力を解放し叩きつけた。
「命を吸い上げ、眠りを妨げるのはお前か」
 その問いに答える者はいない。
 膨張する爆炎巻き上がる爆煙を裂いて落下を続ける先、アラドファルは逆巻く火焔の間に見えるバリアに狙い定める。
「最期に得られる安らぎを邪魔するのは許さない」
 重力の加速と共に持てる力の全てを込めて叫び、グラディウスを叩きつける刹那、アラドファルの脳裏に巡るのは2人の友への思い。
「人も、草木も、動物も、返してもらおう、本当の終わりへと。そしてお前も、眠るがいい」
 友との因縁があるならば、なおさらだ。衝突、直後に弾き飛ぶアラドファルの身体。
 樹枝状の雷光が立ち上り、末枝の広がりと共にあふれ出たスモークが、地を潤す湧き水の如くに斜面を流れ落ちて風景を濃い灰色で覆って行く。
「んう、山、うねうねだらけ。かなしいひと、いっぱい。ここの木もきっと、つらい。つらいがいっぱい……もやもやする」
 伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)は思う。
 住処を追われた動物たち、故郷を離れざるを得なかった人々、その場を動くことも出来ないまま侵され続ける植物たちの無念を。
「わかってきた、これが怒ってるってことだ。ぼくはこれをこわしたい。だからいこう、グラディウス……!」
 他者の痛みを感じることは出来ない。
 他者が痛がっているように見えたと言うのが正確である。
 そして目で見た情景から想像した他者の痛みを想像によって感じられるのは心があるから出来ることではないのか。
 閃光が爆ぜる。上と下の感覚が無くなるような白光が視界を塗り替える中、間髪を入れずに突っ込んでくるのは敏だった。
「なんぼお母ちゃんでも、お前にタマちゃんは返さん!!!! ワイら好き合うて一緒におるんやからな!」
 愛用する攻性植物への思いと共に敏はグラディウスを振り下ろした。その思いの大きさを表すが如き光が爆ぜ衝撃が大地を揺らした。
「欲望の侭に全てを取り込む――なんておぞましい色。花々よりも図太く、厚かましいんでしょうね。私のよく知る誰かに似ている、だからこそ、疎ましい」
 ラスキスは思いつく限りの憎悪を言葉に込める。
 爆炎の生み出す膨大な熱に導かれた空気が強烈な上昇気流を生み出し、地上のあらゆる物を空に巻き上げ、煌めく雷光がそれらを容赦なく貫き、塵に変えて行く。
「あれもこれも欲しいと伸ばす蔓を、蔦を、根を、見せびらかすように咲かせる花を、実を、全てめちゃくちゃに壊してあげるわ——」
 普段は見せない莫大な加虐衝動の限りを乗せ、満身の力で壁を突き破らんとラスキスは刃を突き出す。
 瞬間見開いた青い瞳に入って来たのは、炎と煙の逆巻く空と刃を突き出す自身を、鏡の如くに映すバリアの面だった。
「そう、だってあなたみたいな存在は、私たちよりもずっと早く朽ちていく運命『さだめ』なのよ」
 直後、青白く発光する太陽の如き輝きが爆ぜた。

 山は大火災に見舞われていた。爆炎は遮る物の無い谷間を溶鉱炉の如き灼熱地獄に変え、地表に在る有機物を焼き尽くしていた。雷に貫かれた攻性植物がそのまま果てたのか、コギトエルゴスムと化したかを確かめる余裕は無いが、高熱に晒された崖が崩落する様を目にして、勇名の幼い思考の中に、これは本当に人類の手で制御できる力なのだろうかと、疑問が沸く。
「なんぼ、けったいな力でも、使えるもんは使わなあかんのや……」
 敏の何気ない呟きを裏付けるように、これほどの力を行使してなお、魔空回廊もそれを防護するバリアの圧迫感は変わらず、誤魔化しようのない存在感が、頭上に在り、度重なるデウスエクスの攻勢に追い詰められる人類の状況を象徴しているように見えた。

 残るは2人、使用可能なグラディウスも2本。
 ケル・カブラ(グレガリボ・e68623)は此所で砕かなければならないと、闘志を燃え上がらせる。
「命を奪われる恐怖も住処を壊される悲しみも解っているつもりデス。ボクも一方的にやられる側でしたからネ。その理不尽は一生忘れられない。自分が強くなるためだけだっていうなら尚更のことデス」
 そして今、故郷をデウスエクスに蹂躙された記憶が、同じ苦しみを抱く人々のイメージと重なって感じられ、人類の側に立つケルベロスとしての使命感となった。
「そんなに欲しがりさんなら、どでかいのをくれてやりまショー」
 叫びと共にグラディウスを振り下ろし、叩きつけた。重力に逆らう様に身体が浮かび上がる感覚がした刹那、ドンという衝撃を腕先に感じた。初めて行使するグラディウスがガリガリとバリアの表面を傷つけながら滑る感覚がして、同時に全身を焼けた鉄板で撫でられる様な激痛が走る。そして痛みに耐えるケルの瞼の裏に小さな団扇を持って楽しげに踊る子ども達の集団の幻が見えた。
「一方的に仕掛けて山を食い荒らしたんだ。ただで帰してもらえるとは思わないことダ。魔空回廊もろとも蒸発してしまえ!!」
 瞬間、大音響と共に光が爆ぜて、ケルの身体はバリアを離れて地表に落下して行く。
「新年早々会いに来てあげたわよ、感謝なさい」
 不機嫌そうに言い放ち、森嶋・凍砂(灰焔・e18706)はグラディウスを構えた。
 白井と縁のある敵だからと思って来てみたが、普通の戦いとはどうも様子が違う。
 目の前を横切った雷光が空中に舞い上げられた異形の影を貫いて一瞬で塵と変える。攻撃が開始されてから、数分しか経っていないのに山並みには絨毯を敷き詰めた様な灰色が広がっていた。
「古今東西欲張りってのは、破滅するって相場が決まってんのよ。罪とか罰とかそういうの全部飲み込んであんたの子孫にしてくれるって? ゲヘナマザー、大きなお世話だわ」
 爆炎に埋もれかけているバリアの曲面を見定める。
 グラディウスはあそこにぶつければ良い。
 ややこしいことは考えないことにして、凍砂は自分の耳で聴き目で見て感じたままの気持ちをグラディウスに込める。
「あんたが今まで飲み込んだもの全部全部燃やしてあげる。それで、あたしたちの世界を取り戻すわよ」
 教わったとおりに、叫びと共に眼前に広がるバリアにグラディウスの刃を触れさせる。
 グラディウスに蓄えられたグラビティ・チェインが瞬時に解き放たれ、衝撃と共に灰色の閃光が爆ぜた。

●撤退戦
 一行は視界ゼロとも言える爆煙、濃いスモークの中を進んでいた。
 強襲型魔空回廊の破壊がならなかったと分かった今、増援がいつ送り込まれてきてもおかしくは無いし、退路を阻みそうな敵の気配はそこかしこにある。
「要は早く決めちゃってってことデス!」
 ケルの言葉に同意の頷きを返しつつも撤退を有利に導く手立てがグラディウス行使の余波であるスモーク以外に無いことには一抹の不安を覚えていた。
 それでも一行は人類の勢力圏を目指して山を下り続け、この地を侵略するデウスエクス『ゲヘナマザー』と遭遇する。
 狭い谷間、焼け焦げた巨木に絡む蔓から放たれる斬撃を見れば、これを斃さねば此所を突破できないことは一目瞭然であった。スモークは未だ十分な濃さを保っているが、此所に来るまでに掛かった時間も考慮すれば、余裕があるとも言えなかった。
 流石に格上の戦闘力を誇る敵に対し、パラライズを受けたままでは不味かろうと勇名は地に描いた守護星座の加護を前に立つ者たちに送る。
 アタッカーとしてダメージを叩き込んで行くのは、シィカとアラドファルであった。しかし被弾の対策を疎かにしたシィカに攻撃が集中する。
「此度の相手は自給自足の自己中心。私の愛の方が強烈だと知れ」
 壁役を買って出る、ユグゴトの愛やケルの決意を以てしても、被弾のダメージが大きいシィカを最後まで守り抜くことは厳しかったが、攻撃が倒しやすいと見えたシィカに集中したことは、他のケルベロス達にとって、攻撃に集中できる状況となったことを意味した。
 願ってもない僥倖であった。
「あんた、どこに目をつけているのよ?」
 全くマークされることも無かった、凍砂のチェーンソー剣が唸りを上げ、回転する刃が異形の巨躯をバリバリと音を立てて抉って行く中、重ねられていたバッドステータスを一挙に花開く。
 帰りを待っている人がいる。
 死ぬことも、暴走して行方不明になることも誰も望んでいない。
 傷つき倒れたシィカの脇を抜ける様にして前に出ると、アラドファルは強く一歩を踏み込んで進化可能性を奪い去る超重の一撃を叩き込む。
 強烈な打撃に態勢を崩すゲヘナマザーに向けて、敏の杖先から放たれた雷撃が爆ぜて、続けて鋭い爪と牙を、致し方なく剥いたラスキスが肉薄する。
「嗚呼、仕方ありませんね。仕方ないです。どうしようもないです。本当にこればっかりは」
 直後、その幼さを感じさせる端正な見た目とはかけ離れた獣の如き所作で、ラスキスはその獰猛さを発現させるのであった。
「さっさと燃えて無くなってしまいなさい」
 爆炎の魔力を孕んだ無数の弾丸が回転する銃身から撃ち出され、ゲヘナマザーの巨躯は瞬く間に炎の輝きに包まれる。
「ボクが見えて無いデスカ!? それはそれでムカつきマス!!」
 戦闘の力量では及ばないところがあっても、ケルは黒色の魔力弾を撃ち出して、ゲヘナマザーが記憶の奥底に隠しているトラウマを呼び覚まして、具現化する。
「あとちょっとや。歯ァ、食いしばれや!」
 苦痛に唸るゲヘナマザーに向けて、ケルベロスを甘く見て貰っては困る、と敏は小さく笑みを浮かべた。
 直後、至近距離からの殴打が決まり、ゲヘナマザーは増援に位置を知らせる様な断末魔の悲鳴を上げて、その場に崩れ落ちるのだった。

●戦い終わって
 かくして、谷間に立ち塞がっていたゲヘナマザーを、無事に撃破した一行は背後からの敵の気配を振り切る様にしてスモークが薄まった森を全力で駆けた。
 スモークが消えた空には攻撃開始前の青空とは違う濃灰の雲が広がっていた。
 まもなく墨汁の様な真っ黒な雨が降り始める。
「いっぱいもえたあと、くろいあめ、ふるって、ほんとうなんだ」
 魔空回廊があり限りすぐにまた山はうねうねだらけになるのだろう。そんな思いを抱きつつも、勇名の顔はすっきりとしていた。
 それは自分たちが最初の道を切り拓いた自負と、後に託す仲間たちの健闘を信じているからだろう。
「うむ、ここまで来れば大丈夫で在る」
「ギリギリセーフだったのデース!」
 シィカに肩を貸して、ここまで駆け続けてきたユグゴトとケルがやれやれと言った様子で腰を下ろした。
「さあ、これ以上、遅くなってはいけないわ。報告に参りましょう」
 凍砂が目をつり上げて言うと、まったくだという声が誰彼ともなく漏れた。
 寒さの少し緩んだ、冬の日のことだった。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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