年初め牡丹鍋

作者:柊透胡

 京都への交通の要として古くから栄えていた城下町――丹波篠山。武家屋敷や町家など、歴史を伝える貴重な建物も多く、市街地から少し離れれば、風光明媚な自然も残る土地柄。
 1年を通して美味も沢山だが、秋から冬に掛けてが最も実り豊かな頃。特に11月より猪猟が解禁となり、冬は正に「猪鍋」の季節だ。
 静岡の天城山、岐阜県の郡上、そして丹波篠山が日本の三大猪肉名産地と言われているが、美味しい野の幸、山の幸で肥えた丹波篠山の猪は、絶品! その猪肉を鍋に仕立てのが猪鍋――又の名を牡丹鍋だ。
 『牡丹鍋』の基本は、味噌仕立て。出汁を張った鍋に白味噌や赤味噌で調味し、山椒をまぶした猪や野菜を煮込む。淡泊な猪肉は煮込めば煮込む程柔らかくなり、食べるにつれ、身体が芯から温もってくる。
 丹波篠山には牡丹鍋発祥のお宿もあり、正に郷土食と言えるだろう。
 そんな名物を堪能するべく、丹波篠山の旅館で年を越した観光客も少なからず。年明けて早々のお夕食は勿論牡丹鍋で、野生の猪肉と丹波篠山産の地野菜に舌鼓を打っている――それが突如、旅館の食堂に大きな鳥が乱入して来ようとは。
「干支の神聖なる動物を食べるなど言語道断! 2019年に牡丹鍋は許さん!」

「……うん、年明け早々から、迷惑な鳥さんやね」
 呆れた表情のユーラシアオオヤマネコなウェアライダーの呟きに頷き、都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)は、集まったケルベロス達の方に向き直る。
「定刻となりました。依頼の説明を始めましょう」
 新年早々、丹波篠山の旅館を、怒れるビルシャナが襲撃する。
「何でも、『牡丹鍋』を亥年に食べるのは、干支に対する冒涜だそうです」
「確かに、干支に因んで牡丹鍋が狙われる気がしていたけど……直球過ぎるよね」
 むぅっと顔を顰めるのは、小車・ひさぎ(二十一歳高校三年生・e05366)。年越して、一寸気が抜けてしまっていた所に、お仕事の話とか……縁起が良いのか悪いのか。
「小車さんの懸念がヘリオンの演算にヒットしましたので、皆さんに集まって頂いた次第です」
 個人的な主義主張によりビルシャナ化してしまった人間は、もう元には戻れない。丹波篠山の旅館に乱入される前に、ビルシャナを倒してくるのが今回のお仕事だ。
「今回のビルシャナですが……幸い、悟りを開いて間がない為、信者はいませんし強くもありません」
 精々、『干支の動物は神聖だ』という経文を唱えて、敵を洗脳しようとするくらいだ。
「旅館の非常口から忍び込もうとするので、待ち伏せして速やかに片付けて下さい」
 信者とグラビティ・チェインで、すぐ手強くなるからビルシャナは油断ならない。悟りを開いたばかりの今の内に。
「牡丹鍋……わたくし、この歳になるまで食べた事が無いの。お仕事の後に、その旅館でお食事してもいいかしら?」
「問題ないでしょう。折角ですし、一泊されても良いかと思います」
「まあまあ、それは嬉しいわねぇ」
 創の返答に、花綻ぶように笑み零れる貴峯・梓織(白緑の伝承歌・en0280)。
「油断してはいけないけれど……楽しみだわ。2019年の仕事初め、頑張りましょうね」


参加者
秋芳・結乃(栗色ハナミズキ・e01357)
ソロ・ドレンテ(ドラゴンスレイヤー・e01399)
小車・ひさぎ(二十一歳高校三年生・e05366)
八崎・伶(放浪酒人・e06365)
蓮水・志苑(六出花・e14436)
巽・清士朗(町長・e22683)
交久瀬・麗威(影に紛れて闇を食らう・e61592)
フレデリ・アルフォンス(ウィッチドクターで甲冑騎士・e69627)

■リプレイ

●亥年になっても、鳥さんは悟ります
 新年早々、丹波篠山も冬本番。寒気が沁みるこの季節、体の芯から温まりたいものだ。
 冬至も過ぎたが、冬の日暮れは早い。午後4時半を過ぎて既に薄暮の中、何かもっふりした和装の影が旅館に忍び寄る。
 ナァ~ゴ。
「むむ……っ!? 何だ、猫か」
 突然の鳴き声に思わず身構えたもっふり、もといビルシャナだが、物陰から現れた猫の姿に、ホッと胸を撫で下ろす――。
 フギャァッ!
 何の前触れもなく、引っ掛かれた。この猫、尻尾を膨らませて、すっごいヤル気だ!
「何だ、干支になれなかった分際で。というか、ネズミに騙された間抜けが、栄えあるお酉様に……痛い痛い!」
 言葉が通じるのか、唸り声を上げて飛び掛かる猫。ビシバシ猫パンチに続き、ザックリ爪を突き立てる。
「は、離れろ、このっ!」
 そんな事を叫びながら、よろよろと後退するビルシャナ。図らず、路地に追いやられた鳥影がぐるりと取り囲まれる。
「新年早々ビルシャナ……おや、なんかちょっと新年らしい」
 一見、宮司風なビルシャナの出で立ちに、交久瀬・麗威(影に紛れて闇を食らう・e61592)も、ほんのちょっぴり感心の風情。確かに季節感は大事。
「牡丹鍋が狙われるんじゃないかな? とは言ったけど。まさか年初めから、地元で鳥に暴れられるとはー」
 ヒラリとビルシャナから飛び降りて、猫は一瞬にして人型に姿を変える。そうして、やれやれと溜息を零す小車・ひさぎ(二十一歳高校三年生・e05366)。
「確かに直球。息をつく暇もないが――おかげで旅館の皆さんの平穏を守ることが出来る、それは良い事だろう?」
 巽・清士朗(町長・e22683)は、にこりと笑みを浮かべた。居並ぶ中でダントツの薄着ながら、何処吹く風の涼しい表情が粋でいなせな町長だ……まあ、防具特徴の賜物だけど。
「猪肉は育った方が食べでがあるが、ビルシャナはひよこの内に、だな」
「……何? 亥年に猪を食す、だと?」
 清士朗の言葉に、ビルシャナの禁句センサーがビビッと反応!
「干支の神聖なる動物を食べるなど言語道断! 2019年に牡丹鍋は許さん!」
「お前の言い分だと亥の仲間の豚だって駄目だし、同じく干支の牛や鶏も駄目だろ」
「何を言うか! 豚は猪に非ず。それに、その年の干支の動物を食すな、と言っておるだろうが!」
 フレデリ・アルフォンス(ウィッチドクターで甲冑騎士・e69627)の突っ込みにも、ビルシャナはクワッととさかを立てて言い返す。多勢に囲まれながら、全く引く様子が無いのはビルシャナならではか。
「……ややこしいんだか都合がいいんだか、分かんないな」
「その年の干支の動物を食べちゃダメってことはー……鶏はいいって事だよね? ね?」
「う……あ、ああ……」
 ズズイと迫る秋芳・結乃(栗色ハナミズキ・e01357)の勢いに、ビルシャナも思わずこっくりと。
「じゃあ、おまえをフライドチキンにしてやろうかー!?」
 えー? そこはせめて鍋じゃないですか?
「そんな野菜がもったいないこと、できるわけないじゃないー♪」
 ……この頃、価格も高騰しているしね、お野菜。
「2019年は亥年……よし、鳥類の出番は今年も無いな」
 八崎・伶(放浪酒人・e06365)も不敵に笑んで腕まくり。ついでにヒールドローンを展開する周到さだ。相棒の焔はその名の通り、こんがりと焙る気か、口元がチラチラと陽炎う。
「今週のヤラレ役はお前か。信者がいないとは、珍しいビルシャナだな」
 とうとう容赦なくぶっちゃけられた。サックリ、チキンハートをぶっ刺していくソロ・ドレンテ(ドラゴンスレイヤー・e01399)。
「説得する必要もないなら、遠慮なく行かせてもらおうかい!」
 じんわり涙目のビルシャナなんか、知ったこっちゃない。ソロの頭の中は最初から牡丹鍋の事で一杯だ!
(「味噌スープとの相性が抜群なんだよな……いかん、ヨダレが」)
「新年から賑やかですね」
 何か主に食欲的な方向で混沌としてきた空気を、蓮水・志苑(六出花・e14436)はにこやかに払拭する。賑やか、良い言葉だね。
「主張なさるのは結構ですが、それを理由に人々に迷惑を掛けるのは止してください」
 志苑の言葉は、あくまでも正論だ。主義主張が相容れないのは仕方ない。だが、押し通そうとする余り、害を成すのであれば、ケルベロスも黙っている訳にはいかない。
「も、問答無用! 干支の動物は神聖――」
「私は迷信など信じない。ただ食欲にのみ従うだけ!」
 頑張って洗脳しようとしたビルシャナだけど、単体相手でも油断の欠片もないケルベロスに隙は無かった。

●鳥のち猪、処によりあったかお鍋
「どっせい! メガトンソロちゃん落とし!」
 勢いよくビルシャナを頭上高く投げ飛ばすや、自らも跳躍するソロ。流れる様な体捌きで逆向きにしたもっふりをがっちり固定、超重力も掛けて頭から真っ逆さまに叩き落とす! うん、実に恐ろしい技だ!
「うぐぅ……」
 アスファルトにバウンドする鳥躯。落下地点に待ち構えていたひさぎが、すかさず戦術超鋼拳を叩き込む。
 パッと舞い散る羽毛。更に伶の破鎧衝が追い打ちを掛け、焔のボクスブレスがその軌跡を追う。
「嗚呼、もう……止められない」
 丸焼きにする勢いで、麗威が赤雷纏う縛霊手を振り抜けば、咽喉を抉られたビルシャナは嘴をパクパクさせる。声もろくに出なければ、洗脳の経文も唱えられまい。
 メディックも3名と回復に厚い布陣だが、この調子なら、攻撃に回る方がきっと早い。
「……捉えるっ」
 超集中の果て、瞳孔をも絞り切り、急所を確実に撃ち抜く結乃。
「はいはい、おとなしくしましょーね!」
 サクッと片付けるべく、フレデリは時空石化剣を構える。時空の調停者の名残とも言える力を、存分に振るった。
 集うは氷雪、煌くは氷結の刃――冷気の刃は三日月の軌跡を残す。志苑の氷霞雪月刀斬が鮮やかに閃くや、ゆらりと動いたのは清士朗。
 陰陽の 和合を知らぬ 仕手はただ 片おもひする 恋にぞありける――。
 清士朗が修めた据え物切りの極意「天真正伝鞍御守神道流小具足腰廻 陰陽」。端的に言えば、敵の体軸を避けきれぬ状態に崩して撃つ。
 どうと崩れ落ちた鳥躯を前に、静かに納刀して言い放つ。
「この忙しない年明けに、悟ってしまった己の不運を嘆くがいい」
 ――結果、四方八方からぼっこぼこにされて、ビルシャナは敢え無くご臨終となりましたとさ。

「まあまあ。皆さん、本当にお強いのねぇ」
 ヒールの必要もなかったわ……と呟く貴峯・梓織(白緑の伝承歌・en0280)に、「おばさま、お疲れ様!」と駆け寄るひさぎ。
 ビルシャナの骸が失せる間に、周辺のヒールもつつがなく完了。アスファルトが紅白におめでたく染まったのは、お正月らしいご愛敬だ。
 そうして、いよいよお楽しみの時間。忙しないご時勢だからこそ、ケルベロスだってゆったりしたい!
 という訳で、旅館に向かったケルベロス達は、殺伐などまるで無かったように――旅館や泊り客に心配を掛けぬよう、和気藹々とチェックイン。
「宴会前に、まずは風呂だろう」
 当然のように1泊する気満々の清士朗だが、反対する者はいない。夕食の時間まで、それぞれ部屋で一休みだ。ちなみに、フレデリは早速、売店で猪カレーとかソーセージとかベーコン、ハムとか、お土産を色々ゲットしたらしい。
「そうだな……よし、のんびりして最高の年始にしよう!」
 ソロのお誘いで、女性陣は家族風呂で寛ぐようだ。
「皆さん、お疲れ様でした」
 はしゃいだ様子の仲間を微笑ましく見送り、麗威はエリアス・アンカーが待つ部屋に向かう。
「おう、お疲れさん!」
 ビール瓶を振り振り、エリアスは上機嫌でお出迎え。
(「早速、出来上がってるし」)
 既に、地ビールで酔っ払っているようだ。
「それにしても、新年早々、鳥退治とはなぁ……仕方ねぇ、真面目な番犬を1つ労ってやるか!」
 早速、味噌ベースのお出汁に、エリアスはじゃんじゃん猪肉を入れていく。
「一緒に野菜も入れる方が」
「何だったら、猪ごと持ってきてくれてもいいくらいだぜ。しっかり食えよ、麗威?」
 土鍋に具材を入れたら、蓋をして待つ事暫し。沸騰したら数分で食べられる。もうもうと湯気立つ中、猪肉をたっぷりよそおうエリアス。
(「肉好きのエリアスが、俺に肉をくれるなんて……!」)
 ちゃんと労ってくれた事に、ジーンと感動するのも束の間。大量の猪肉が追加で届き、だろうなと麗威は乾いた笑みを零す。
(「うん、追加がなかったらくれないよな……」)
 それでも、個室で差し向かい。お酒も注しつ注されつ、牡丹鍋を囲むのは楽しい。
「あれ、エリアス?」
「ちょっとくらい大丈夫、1泊すんだもんな」
 心配そうな麗威に笑ってみせて、普段は飲まない日本酒も景気良くガバガバと。
「……ちょ、っと……トイレ……いや、すぐ戻る。俺の肉残しとけよ!」
「判ってるよ」
 案の定、悪酔いしたらしい彼を見送って、麗威はのんびり牡丹鍋を突く。炊きっぱなしでも硬くならないのが、猪肉の良い所だ。
 そう言えば、2人で泊まりなんて初めてだ。ちょっとした旅行気分が楽しくて、麗威も日本酒が進むというもの。
「うーん……」
 そうして、長い時間、飲んで食べて――漸く満腹の様子でごろりと大の字。
(「今だけは、独り占め……なんて、甘い言葉は届かない、か」)
 エリアスの至福の表情に、麗威は眼鏡越しの双眸を細めた。

●年初め牡丹鍋
 風呂上がりの浴衣と羽織は正義。ほかほか湯上りでお座敷に揃えば、いよいよ年初め牡丹鍋の始まり始まり。
「お疲れサンでした、乾杯!」
 大人は地酒、未成年者はジュースで、伶の音頭で乾杯。
「勝利の美酒は格別だ!」
 豪快に杯を干して、ソロは次々と卓に並ぶ大皿をワクワクした表情で眺める。
「これは、見事だ!」
 文字通り、牡丹の花のように盛り付けられた猪肉に、目を輝かせるフレデリ。
「この季節のジビエは冬眠前に食べた木の実の甘味があって、たっぷり脂が乗っている。1番美味しい時期だね」
「うん! 猪肉はしっかり煮込むと、この厚い脂が甘くとろけて最高なんよ」
 祖母が猟師というひさぎは、牡丹鍋の美味しさを力説する。地元愛の為せる業だ。
「あら、長く煮て、大丈夫なの?」
「猪肉は牛よりしっかりした肉質だから、火を通すほど柔らかくなるし、油も崩れないんよ」
 薄めの猪肉ならぬるいお出汁から、沸騰したら弱火で更に5分くらい。これで大体15分。分厚い猪肉はプラス10分。とろとろにしたいなら更に10分だ。店によっては、40分しっかり煮込んで饗する所もあるようだ。
「結局、好きなように食せ、という事だな」
「そうそう。新鮮なお肉は臭みもないから、焼いても美味しいもん。万病予防に効くって言うし、いっぱい食べて!」
「お野菜も、美味しそうですね」
 志苑は地野菜にも興味津々。牡丹鍋定番のお野菜は、白菜、ゴボウ、えのき、しめじ、シイタケ、こんにゃく、山芋等。最初に肉と一緒にお鍋に入れて煮込むと、お野菜の出汁で猪肉が更に美味しくなるのだ。
(「受験前の一休み。本日はゆっくりと羽を伸ばしたく」)
「……そろそろ良さそう? じゃあ、よそおっていくね!」
 取り皿を手に、結乃は嬉々とした表情。お待ちかねの初牡丹鍋は、すっごく楽しみで、皆でお鍋を囲んで突くのも確かに楽しそうだけど。
(「今回は、皆の給仕もしたい気分っ」)
 お鍋を取り分けたり、お酌をしたり。クルクル元気よく動き回る。勿論、合間に舌鼓を打ちながら。
「亥年に猪肉って、今年をメチャクチャ乗り切れそうだ」
 初めての牡丹鍋に健啖ぶりを見せる伶は、それ以上によく呑んでいる。どうやら、酔ってからが本番の酒豪タイプらしい。
「そう言えば、伶、闘技場の旅団1位と個人2位、おめでとう! 年初めから縁起がいいよな」
「ああ、ソロも飲め飲め」
 今は同じ旅団の誼、ソロと注しつ注されつ。
「その、これまで何度も私の背中を守ってくれて、感謝してるんだ……これからもよろしくな!」
「こっちこそ、いつも世話になってるからなぁ」
 鷹揚に笑う伶はソロより8歳上。色めいたものはない筈だけど……ちょっとだけ気になるのも本当で。
(「まあ、頼もしい奴だよな! 普段2人でこういう場所には来ないし、偶にはいいよな」)
 脳の一部は電子頭脳、四肢はカラクリ、心は乙女――自ら納得させるようにうんうんと頷いて、ソロはグイッと地酒を飲み干す。
「貴峯さんも是非是非」
「ああっ、あたしもおばさまにお酌するー!」
「では、私からも。小車さんも如何ですか?」
「まあまあ、ありがとう」
 お猪口を両手で持って少しずつ。さり気に、ボクスドラゴン相手に杯を重ねていた梓織は、ほんのりと頬が染まっている。介抱してくれる人もいない独り暮らしが長い為、酔っ払うまで嗜む事はないそうだが、結構酒に強いかもしれない。
(「数日後だったら呑めたのに……」)
 酒宴特有の賑やかさに、二十歳までもう少し足りなかったフレデリは残念そう。
「梓織さん、人生の先輩として、女心を掴むコツとか教えて下さい」
 でも、誰憚る事無く飲める方がきっと気持ちいいから。今日はすっぱり諦め、お酌に徹する。梓織への質問は「誠実、時々、嬉しいサプライズ」という回答で、参考になったかどうかはフレデリ次第だろう……というか、相手は亡き旦那様一筋30年な訳で。
「やはり猪は脂だな」
 これだけの料理に酒を合わせないのは罪だと、地酒に梅酒と飲み比べ。鍋も突きながら、清士朗はほろ酔い気分。ふとカラオケセットが目に留まって、折角だからと梓織にデュエットを申し込んだが。
「……から、おけ?」
 まず、そもそもの説明からだった。尤も、彼女にとって『ウタ』は、旦那様に教えられた妖精の伝承歌が総てだ。きっと、カラオケには入ってない。
「フーン……」
「なんだ、ひさぎも歌いたかったのか」
 じとっと上目遣いのひさぎに、清士朗は飄々と。ツーンとそっぽ向いた彼女は、パクリとデザートのスイーツに嚙り付く。
「……あ、この黒豆タルト、美味しい!」
「栗きんとんとマロングラッセも絶品だぞ」
「こちらの南瓜のマフィンもお勧めです」
 何あろうとも、女の子は甘いものが大好き。一しきり、女子会のようにベジスイーツで盛り上がって。
「ふわっふわだけど、酔ってにゃいよー」
 とうとう酔いが回ったひさぎは、ニャンコの姿でコテンと清士朗を膝枕。
「正月も指定席になったな」
「あら……雪ですね」
 気が付けば窓の外は、雪化粧。降りしきる牡丹雪が、闇夜を白く染めていく。
「清士朗お兄様、雪見酒でも致しますか?」
「そうだな……だが、同じ『雪』なら」
 何を思い付いたか、清士朗が仲居から借りたのは三味線。
「舞手に見合わぬ弾き手で恐縮だが」
「私こそ未熟な舞ですが……僭越ながら」
 爪弾かれる旋律に合わせ、志苑は舞う――暖かな座敷、美味なる滋養、そして、人の姿を借りた『雪』を堪能して。年初めの丹波篠山は、静かに更けていく。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 3
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