露天風呂につかりながら、初日の出を見よう

作者:そうすけ


 ヘリオンの掃除をしていたゼノ・モルス(サキュバスのヘリオライダー・en0206)は、クリーナーのスイッチを切って振り返った。
「え、いまなんて言ったの?」
「今年は温泉でお祝いだ! と言ったのだ」
 セルベリア・ブランシュ(シャドウエルフの鎧装騎兵・en0017)は、どや顔でソファーに座っている。
「新年とゼノの誕生日をみんなで温泉につかりながら迎えたいと思ってな、例の場所に温泉を掘った」
「例の場所って……僕が毎年行く山の湖?」
「そうだ。地主に掛けあって温泉を掘らせてもらった」
 こともなげに言ってのけたが、温泉なんてそう簡単に掘り当てられるものではない。
 湖の辺りが一面、穴だらけになった景色を想像し、ゼノが口をあけて呆けていると、セルベリアはすくっとソファーから立ち上がった。
「ちょうど初日の出が見られる場所に一発で掘り当てた。男女混浴の露天風呂だが、水着を着て入れば問題ないだろう?」
 温泉に入るのはちょっと、という人は凍った湖でスケートが楽しめる。
 雪合戦に興じてもいいし、熱い飲み物を片手に冬の星座を眺めるのもいい。
 大晦日の夜から初日の出まで、思い思いに過ごせばいい。
「……というわけで、いまからみんなに声をかけようと思う。ゼノはいつでもヘリオンを飛ばせるように準備しておいてくれ。あ、しまった。アヒルさんを買ってこないと!」


■リプレイ


「あ、お誘いありがとうだよ」
 鍔鳴・奏(あさきゆめみし・e25076)は、せっせとヘリオンから板をおろすゼノに手土産の甘酒を渡した。
「リズさんや……温泉です」
 期待に胸をときめかせ、奏は露天風呂に目を向けながらリーズレット・ヴィッセンシャフト(ツキナミ・e02234)に話しかける。背の後ろ、ヘリオンの中では女性たちが着替えている最中だ。
「混浴です。水着着用です……さあ、その水着姿を見せるが良い!!」
「そう来ると思っていたのだ、しっかり用意しているぞ! 今日の為の水着をな!」
 振り返ると、バンドゥビキニを誇らしげに披露するリーズレットが立っていた。あまりの神々しさに思わず拝む。
「リズさんのビキニ姿、最高です!」
 リーズレットは顔をぱっと輝かせた。服を脱いで水着になった奏と、ご機嫌で露天風呂に向かう。
「お酒も用意したから一緒に入るぞー。あ、リズの指定席は此処ね」
 先に湯に入った奏が、笑いながら自分の膝の上を指示した。
「温泉で飲むお酒って酔いが回るのが早いって聞くけど……指定席を用意してくれてるなら安心、かな?」
 体を火照らせるのは酒か、湯の温かさか、それとも――。
「空が凄く綺麗だから星まで見えて贅沢三昧だなぁ」
 リーズレットは照れ隠しに空を見上げた。
「おー……マジで見れるでやんの。ん、綺麗でとっても贅沢だ」
 新年まであと三時間。
 二人とものぼせなければいいけれど。


「ふーん、温泉にスケート、雪合戦とか豪勢な誕生日会なんだな」
 霏・小獅(カンフー零式忍者・e67468)は辺りを見回した。
「んじゃ、雪合戦で遊んで……え、まずは温泉に行くって? じゃあ、お、オレも、温泉に行こう、かな?」
 いそいそとヘリオンに戻ろうとしたら、ゼノに止められた。
「ちょっと寒いけど、あそこで着替えて」
 板を立てて囲っただけの一角を指さされ、えっ、と固まる。
 外気温は現在、一度。ちょっとどころではないのだが、ヘリオンは女子専用と言われては仕方がない。
 小獅は渋々、衝立の後ろで着替えた。
 アイリス・リーヴィゲイタ(カキツバタの花言葉・e28244)は、静かに降り積もる真っ白な雪を眺めながら、湯けむりが立ちのぼる温泉に歓喜の声を上げた。
「ふふ。大運動会で纏った水着を冬にも着ることになるなんてね」
 露天風呂の前にしゃがむと、右手を湯に浸して腕や胸にかけ、肌に馴染ませてからゆっくりと湯のなかに足を滑り込ませた。
「……それにしても、まさか、一発で掘り当てるなんて。とんでもない豪運というべきか、なんというか」
 湯の中で胸を反らすセルベリアに苦笑しつつ、胸まで浸かる。腕や足に溜まった疲労が削げ落ちて、デウスエクスとの死闘の日々が湯のなかにとろりと溶けていくようだ。
「いいお湯ね。でも、小さい子には少し熱く感じるかしら。リリ、ルー、小獅も。しっかり身体を温めてね。外は寒いから、中途半端だと風邪を引いてしまうかもしれないわよ」
 はーい、とリリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)は元気に返事した。
 湯の中で手足を伸ばす。白い湯気を透かして空を見上げれば、キレイな満月が見え隠れしていた。
「周りは雪が積もってるのに温泉は熱々で不思議。夜空も……以前アマゾンで見た夜空に負けないくらい綺麗だね」
 十数えて湯から出ようとしたら、まだ早いとアイリスに叱られた。
「えー」
 口を尖らせていると、ぱしゃぱしゃと音がした。熱い。
 見ると横で、ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)が、尻尾を振って湯を波立たせているではないか。
 リリエッタが抗議すると、ルーシィドは微笑んだ。
「うふふ。とっても気持ちがよくって……ついつい尻尾が出てしまいました」
 岩で組まれた露天風呂に浸かっていると、極楽気分で日々の煩わしさを忘れられそうだ。本当は水着も着ないほうが気持ちいいのだけれど。
「そんなことより、リリちゃん。じっくりと堪能しないと勿体ないですよ。ね、アイリス様。小獅様も座って。一緒に星空を眺めましょう」
 ルーシィドはリリエッタの腕をとって、引っ張った。湯に落ちた友の腰の下にあったのは自分の尾――。
「きゃ!?」
「大丈夫か?」
 ルーシィドを気遣いつつも、小獅の視線は気になるあの人に釘づけだ。
「ごめんね、ルー。こら、シャオ。どこを見てるの」
「ど、どこって……あ、あっちで雪合戦やってるな。ちょっと参加してくるぜ!」
 水着姿のアイリスから目が離せない、なんてリリエッタに言えるわけもなく。耳をぺたりと寝かして、湯から出た。


「たまにはこういうのも悪くないかな」
 淡島・死狼(シニガミヘッズ・e16447)はゼノと一緒にかまくらを作っていた。
 かまくらの中ならそこそこ暖かいし、初日の出までに体冷やさないようにする場所としてはまずまずだと思うけど、どうだろ?
 そうゼノに切りだすと、「いいね」と気持ちのいい答えが返ってきた。すでに二つほどかまくらを作り終えている。
 きゃあきゃあと、アヒルを手にはしゃぐセルベリアの声を耳にして、死狼は露天風呂を見た。
 コバルトブルーに光る露天風呂は、ライトアップにより幻想的な色を映している。もちろん、星々の光を掻き消さないように、ライトの光量は抑えてあった。美しい星空と光り輝く湯気――かまくらの中で甘酒を温めて飲みながら、静かに満天の星々を数えて過ごすのだ。
(「ところで……なんでアヒル?」)
 後でセルベリアに聞いてみよう、と死狼は思った。


「寒いですが、楽しいですね」
 ジャスミン・フローティア(恋する天使・e02908)は、茶菓子・梅太(夢現・e03999)とラズリー・スペキオサ(瑠璃の祈り・e19037)と一緒に雪だるまを作っていた。
「うん。寒いね。遊んでいれば寒さも紛れる……かなぁ」
 梅太は手袋をはめた手に、はあ、と息を吹きかけた。
「実は、大きな、大きな、雪だるまを作るのが、小さなころから夢だったんだ」
 夜空に上がる白い息を目で追いながら、ラズリーが呟く。
「ふふ、じゃあ寒さも吹き飛ぶくらいがんばろう。三人で大きな子を作らないと、ね」
 梅太は雪をすくうと、両手でギュッギュッと固めた。腰を落として作った雪玉を転がす。
「ジャスミンは頭を、ラズリーは体を作って」
「梅太は?」
「雪だるまの手を探しに行ってくる」
 手ごろな枝や小石、なぜかあったニンジンと赤バケツを持って二人の元に戻ると、もう大きな雪玉が出来上がっていた。
「いいところに戻ってきたね。ちょっと押すの手伝って」
 うんと頷き、バケツの中に集めた素材を入れて雪の上に降ろす。胸まで高さがある雪玉に手をついた。
「わわ、これは押すのもたいへん……すごく頑張ったね」
 二人で一緒にごろごろ、雪玉を転がす。
 その横を、ジャスミンが三分の一程度の大きさの雪玉を転がして歩く。
 おおきくなーれ、おおきくなーれ、といいながら。
 楽し気な三人の合唱が湖畔に響き、凍った湖に映る星がさんざめいた。
「可愛くお洒落に出来たら、みんなで写真を撮ろうね。ところで雪だるまの表情はどうしようか、ジャスミン」、とラズリー。
「笑顔!」
「……あっ、ジャスミンさん。雪だるまの顔に良さそうな棒が落ちていました。使いますか?」
 はい、と天使の笑顔を向けられて、梅太は赤バケツを取りに走った。


「えへへ、みんなで温泉、素敵です、ね……って、アウラさんがいなーい!? 遅刻ですヒドイ!」
 華輪・灯(幻灯の鳥・e04881)は、ぱしゃりと湯を打った。ウイングキャットのアナスタシアが驚いて、湯の中に垂らしていた尾をあげる。
「先に楽しんじゃいましょう、お姉ちゃん……」
 すっかりむくれて耳まで湯につかる灯。
 オルネラ・グレイス(夢現・e01574)はやれやれと苦笑した。じき、顔を真っ赤にするだろう。のぼせないようにしなくては。
 ウイングキャットのノイアが岩場に座り、にゃんと鳴いた。前足で雪をかく。
「そうだわ。もし温泉が熱かったらこうやって露天風呂に積もった雪を溶かして調節するのよ、知ってた?」
 オルネラは岩の上に降り積もった雪をかき集めると、手で固め、真剣に話に聞き入っていた灯の頬にぶつけた。
「ぴゃっ」
「うふふ、ちょっとした悪戯よ」
 そこへ「寒い、寒い……!」といいながら、アウラ・シーノ(忘却の巫術士・e05207)がやってきた。巫女装束を脱いで水着になると、手に甘酒と御猪口を乗せた盆を持って湯に入る。
「おそーい!」
「すみません。実家の椎野神社の初詣準備を、ちょっとだけ抜けて参りました!」
 ぶすっとむくれる子のご機嫌を取りながら、御猪口に甘酒を注いで配る。
「たまには温泉で飲む甘酒も良いわね。皆で乾杯♪」
 オルネラが音頭を取り、三人で御猪口をつきあわせた。
「アウラには灯がお世話になっているみたいね、いつも感謝してるわ」
「こちらこそ、お世話になっております」
 それからしばらく、三人でお喋りしながら湯の中で過ごした。
 甘酒を豪快に飲み干して、灯がぷはぁ、と息を吐く。
「もう、この味に慣れすぎて、アウラさんの甘酒しか飲めなくなりそうです。来年もどうぞよろしく……って、聞いてないし!」
 いつの間にか湯から上がったアウラは、すでに帰り支度を整えていた。
「ずっと浸かっていたいですけれど……仕方ございません。もう神社に戻らないと。来年もよろしくお願いいたしますね」
「そんなに忙しいなら手伝いますよ!」
 灯が巫女の後を追う。
「あら、濡れたまま走ると滑って転ぶわよ。せめて飛びなさい?」
 一緒に行くつもりのようだが……おいて行かれたとむくれた顔に、また雪玉をあててやろう。
 オルネラはふふふ、と笑った。


 ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)は、手伝います、とゼノたちに声をかけた。
「雪も温泉も両方楽しめるせっかくの機会ですから」
 空飛・空牙(空望む流浪人・e03810)と一緒に雪を集め、かまくらのブロックを作っていく。
「雪の中で温泉ってのも良いもんだ。けど、湯船ちかくじゃ、流石に溶けるな」
 空牙がけらけら笑いながらヒールで補強する。
 水着の上にパーカーを羽織っただけなので、とても寒い。ミリムと交代でときどき足を湯に浸し、体を温めながらブロックを積み上げていった。
「意外と早くできましたね」
 小さいが、二人が過ごすならちょうどいいサイズだ。
 空牙はヘリオンへ火鉢と毛布を取りに行った。その間に、ミリムはかまくらのなかで水着に着替えた。
「ふひー……この一年間溜まった疲れが癒されます」
 岩に二人並んで腰掛け、足を湯に浸し、この一年の出来事を振り返る。
 年の初めはビルシャナと戦っていた。酉年の終わりから年をまたいで二連発……そこからずっと戦いっぱなしだった。
「そういえば、今年はビルシャナが暴れませんでしたね。……空牙?」
 横から顔を覗き込む。
「大丈夫です?」
 だめだ、のぼせている。
 湯から引き上げ、背負ってかまくらに入った。
「あー……前とは立場が逆な」
 空牙はミリムに担がれながら、前は自分が抱えてたなぁ、とぼんやり考えた。
「湯冷めには気をつけてな」
 自分のことは棚上げにして、二人で毛布にくるまる。
「この季節は星がよく見えるな」
 日の出までふたりで肩を寄せ合い天体観測。流れ星が見えたなら、なにを願おうか。


「皆さんの水着、素敵ですねっ」
 露天風呂につかりながら幸・鳳琴(黄龍拳・e00039)はみんなに声をかけた。
「適切な言葉ではないかもしれませんが本当に可愛らしい」
 鳳琴は来年の夏に思いをはせた。
(「私も、夏はもう少し華やかな水着を着ましょうか」)
 リノ・ツァイディン(旅の魔法蹴士・e00833)は、ボクスドラゴンのオロシと一緒に湯につかった。
「はぁ……広いお風呂って良いね♪」
 オロシを抱いて足伸ばす。
 横でシル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)がフリルをぷかぷか湯にそよがせながら、リノと同じように息を吐いた。
「あ、水着といえば、シェミアさん、相変わらずかわいいよねー。ほんと、とってもお似合いなの~」
「ふふ、ありがとう……でも、シルだってかわいいよ……。パレオがぷかぷか浮いちゃってるのが邪魔そうではあるけど……」
 シェミア・アトック(悪夢の刈り手・e00237)は湯から上げている右腕で、揺れるフリルを指さした。苦笑いを湯けむりが隠す。
(「右腕は一応お湯に浸けないでおかないと……」)
 地獄の炎で湯が沸き立つ……万が一にもそんなことになったらみんなに迷惑がかかる。
 シェミアは右腕をさりげなく背の後ろの岩に預けた。
 シルは顔を横向けると、「リノさんもとってもかわいいよっ!」、といった。
「わーい、有難う。シルもとても可愛いよ」
「あ、でも、いまのは男の子に失礼だったかな?」
「うん? 僕は気にしないよ。可愛いも誉め言葉でしょ?」
 ふうん、と呟いた瞳がきらりんと光る。
「で、でも女装は断固拒否するよ」
 オロシを頭に乗せて、慌ててシェミアの横へ逃げた。
「あ、見えてきたよ……」
 湯気の向こうに美しく弧を描く初日の出が昇り始めると、雪原がキラキラと光った。
「……今年は良い年になりそうです」
 鳳琴は感極まりながら、湯の中でシルの手をぎゅっと握りしめた。
「幸せたくさんの一年になりますように」
 手を握り返えされて振り向くと、とびきりの笑顔で見上げられていた。
「ふふ、今年もよろしくね、琴ちゃんっ♪」
 頬が紅潮するのを感じつつ、心の中で、お祈りを付け加える。
(「大切な、大好きな、あなたと一緒に……!」)
 あちらこちらで新年とゼノの誕生日を祝う声が上がりだすと、鳳琴も、かまくらの中から初日の出を見つめるゼノに、おめでとうと言った。
「そして、皆さん昨年も頑張りましたね! 今年も頑張りましょう! 私も頑張ります!」
「ふふ。ところでみんなは、どんなお願いをしたのかな?」
「そうだね……この平和を守れるように、かな……」
 リノは、とシェミア。
「僕は特に何も願わなかったな。というより、忘れてたんだけどね。それよりお腹がい空いたよ。暖かい物が食べたい……何か希望ある?」
 最後の問いはシェミアだけにむけて。
 寄り添うカップルを残し、リノたちは一緒に露天風呂から上がった。


「ありがとう」
 ゼノは死狼から甘酒を受け取った。
 死狼の膝には湯疲れして眠るセルベリアの頭が乗っている。
 三人が暖を取るかまくらの中を眩い光が照らした。
 初日の出だ。
「改めて、誕生日おめでとう、ゼノ。今年もよろしく」
 かまくらの外から、記念写真のシャッター音が聞こえてきた。
 ラズリーたちだ。
「俺たちも撮ってもらおう」
「いいね」

 カメラロールを確認すると……。
 みんなの笑顔の上で、大きな雪だるまの肩に置かれた黄色いアヒルも笑っていた。

作者:そうすけ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月16日
難度:易しい
参加:19人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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