人の集まる温泉地を狙って

作者:なちゅい

●ただ、そこに人がいるから
 山梨県河口湖温泉。
 この地は、外国客などに高い人気を持つ温泉スポット。
 というのは、この地は温泉に浸かりながら、日本一高い富士山を眺めることができるからだ。
 ゆったりのんびりとしながら、悠然と聳え立つ富士山を臨む。なんとも贅沢な一時を感じさせてくれる。
 年末年始という時期もあり、こうした場所にはたくさんの人々がこの地へと足を運ぶ。
 そうなれば、デウスエクスとしては恰好の襲撃場所となってしまう。

 この時期に河口湖温泉へと、降り立ってきたデウスエクス。
 いささかワイルドさを感じさせるその大柄な男は軽装鎧を纏い、バールのようなものを手に周囲を見回して。
「いいねえ、いいねえ。これならグラビティ・チェインを奪い放題だぜ!」
 そいつは年末年始など関係なく、河口湖へとやってきた観光客へと片っ端なら殴りかかっていく。
「デウスエクス……エインヘリアルがきたぞ!!」
「逃げろ、殺されるぞおっ!!」
 生命の危機を感じて人々も逃げ出すが、エインヘリアルが逃がすはずもなく。
「ヒャッハーッ! 俺様の餌食となりやがれーっ!」
 エインヘリアルは嬉々として人々を殴り倒し、温泉街を血に染めてしまうのである……。

●年の節目に現れる乱暴者
 年末年始という時期はのんびり過ごすか、ひたすら忙しいかだろうか。
「人それぞれだけれど……。どちらにしても、時間を割いてこうして来てくれたことにボクは心から感謝するよ」
 リーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)はそう告げ、ヘリポートを訪れたケルベロス達を労う。
 彼女が依頼説明を始める前に、唯織・雅(告死天使・e25132)がこんな話を口にする。
「人の集まる温泉地は、エインヘリアルも狙ってくるのではないかと」
「うん、ちょうどその話を頼みたかったところだよ」
 この時期に人の集まる河口湖温泉に、罪人エインヘリアルが襲撃してくるようだ。
 アスガルドで重罪を犯した凶悪犯罪者であるエインヘリアル。
 放置すれば、多くの人々の命が無残に奪われるばかりか、人々に恐怖と憎悪をもたらして地球で活動するエインヘリアルの定命化を遅らせることにも繋がってしまう。
「取り急ぎ現場へと急行して、エインヘリアルを討伐してほしい」
 ロドリゲスという名のエインヘリアルは身長が3mほどある。地球人などからすれば非常に大きいが、これがエインヘリアルとしては平均的とのこと。
 軽装鎧を身に着けた敵は荒くれ者といった風貌、性格をしている。
 バールのようなものを2本手にしたロドリゲスはクラッシャーとして、力任せに人々を手にかけてくるようだ。
「グラビティも皆が使うものと同様だよ」
 襲撃現場となるのは、山梨県の河口湖温泉。
 昼間の温泉街にエインヘリアルは現れ、人々へと襲い掛かる光景が予知で確認されている。
 できるだけ急いで人々を助けたいが、エインヘリアルが出現地点を変更する恐れがある為、避難勧告はエインヘリアルが出現してから始めたい。
「あと、敵は撤退することなく戦い続けるから、確実に撃破してほしい」
 これは、自身が使い捨ての戦力として送り込まれていることを自覚しているからだと思われる。
 一通り説明を終えたリーゼリットは厳しい表情から一転、柔和な笑みを浮かべて。
「折角、温泉街に行くのだから、温泉に浸かってくるといいよ」
 人が集まるこの地の売りは何といっても、富士山だ。
 日本最高峰の山を眺めて浸かる湯は、何とも言えない一時だ。新年というタイミングであることも含めて、特別感を味合わせてくれる。
 ケルベロスの希望で、男女別か混浴かは温泉側で状況を整えてくれるようなので、参加メンバー内で話し合って決め、のんびりした一時を過ごすといいだろう。
「以上だよ。それでは、現地に向かおうか」
 リーゼリットは手を差し出し、ケルベロス達を自身のヘリオン内へと案内するのだった。


参加者
稲垣・晴香(伝説の後継者・e00734)
霖道・悠(黒猫狂詩曲・e03089)
夜陣・碧人(影灯篭・e05022)
唯織・雅(告死天使・e25132)
屍・桜花(デウスエクス斬り・e29087)
ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)
草薙・ひかり(闇を切り裂く伝説の光・e34295)
瑠璃堂・寧々花(甲冑乙女・e44607)

■リプレイ

●年末年始に現れる乱暴者
 山梨県南都留郡富士河口湖町。
 ケルベロス一行は、富士河口湖温泉郷……河口湖温泉の人通りの多い場所を歩く。
「あ、ああー」
 フルフェイスの兜と体型が分かりにくい黒い鎧に身を包む瑠璃堂・寧々花(甲冑乙女・e44607)。
 普段とは違う鎧ということもあって不安げな彼女は、後の避難誘導でどもらぬよう発声練習をしている。
 その鎧の中から響く高い声に、周囲を行く観光客が驚く。
「温泉にも入れるしエインヘリアルも斬れる……私的にはいい感じの依頼……」
 普段、無表情の屍・桜花(デウスエクス斬り・e29087)だが、今回は相手と温泉と楽しみが多いこともあって、笑みを浮かべていた。
「ふふふ……でも、一般人も守らなきゃね……」
 この場所には、たくさんの観光客が訪れている。だからこそ、敵は狙いを定めてきたのだろうが……。
「本当にデウスエクス、特にエインヘリアル連中は、こういう『来てほしくないところ』をピンポイントで狙ってきますね……」
 赤いスーツを着た、女子プロレスラーの稲垣・晴香(伝説の後継者・e00734)は警戒を強めるが、殺気立って注目されないよう普通の観光客を装う。
「こんな季節にもせっせと侵略してくるんだから、デウスエクスは熱心だよね!」
 そばには、同じく女子プロレスラーの草薙・ひかり(闇を切り裂く伝説の光・e34295)が地味目のグレーのスーツを纏って。
「まぁ、『地球の年末年始』とか彼らには関係ないか」
 こちらも散策の体で警戒を行うものの、晴香とひかりの2人が揃うと一般人が気づきそうなものだが、それはそれ。
「絶対に思い通りになんて、させませんよ!」
 意気込みを語る晴香と皆同じ気持ちで、この依頼へと臨む。
 そんな中、突如として町中に現れるエインヘリアル、ロドリゲス。
 いかにも荒くれ者といった容姿の大男で、バールのようなものを2本所持していた。
「ヒャッハー、いいねえいいねえ!」
 たくさんの人の姿に、ロドリゲスが気分よく叫ぶ。
 その出現に、温泉街の人々の態度は一変。混乱する人々は我先にとこの場から逃げ出していく。
「皆さん。慌てず、急いで……避難、お願いします!」
 事件を予見したおかっぱ黒髪の唯織・雅(告死天使・e25132)がその人々達へと割り込みヴォイスを使って呼びかけを始める。
「ほら、さっさと逃げるといいさ。死にたくはあるまい?」
 白い外套で全身を覆うペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)がラブフェロモンを振りまいて人々を魅了し、エインヘリアルと別方向へと誘導する。
「ケルベロス一行の到着ですよっと。慌てず騒がず、奥へ逃げなさい」
 眼鏡着用のシャドウエルフ、夜陣・碧人(影灯篭・e05022)がスタイリッシュに変身して見せると、この地に合った浴衣姿になり、逃げる人々を励ます。
「Oh、ユカタ!」
 来日の観光客も碧人の姿に歓喜してから、離れていく。
 仲間達が誘導する中、両耳にピアスをつけた青年、霖道・悠(黒猫狂詩曲・e03089)が避難誘導をしつつ敵の動きを注視して一般人を庇えるようにと身構える。
 ノアことボクスドラゴンのノアールも悠に合わせ、一般人の守りに当たっていた。
「デウスエクスは、私達。ケルベロスが……必ず、撃退しますので……!」
 たどたどしい口調ではあったが、雅の強い決意に人々は心強さを覚えて避難していく。
「おーおー、でかく出やがったなあ!」
 声を荒げたエインヘリアルは此方を見下し、ゆっくり歩み寄ってくる。
「ここは、私達に任せて早く、離れて下さい!」
 すると、重武装モードを展開した寧々花が、外見だけでも普段の甲冑のようにと変化させてから呼びかけを始めた。
 その出で立ちもあって女性だと気づいた人々は驚いていた様子だったが、寧々花が直接デウスエクスへと組み付いたことで、声援を送ってこの場から走り去っていく。
「ここは危険ですから早く離れて! 指示に従ってくれれば大丈夫ですから!」
「すぐ終わるから、今は離れていてね! 私がいるから『絶対に』皆を守って魅せるよ!」
 ダイナマイトモードを発動させる女子プロレスラーの晴香、ひかりはコートを脱ぎ捨てて、リングコスチューム姿となった。
 露出も多く知名度と人気の高い2人のこと、その存在だけでも人々を勇気づける。
「正義の味方様ってか。反吐が出るねえ」
 明らかに不快な表情を浮かべるロドリゲスに対し、桜花は歪んだ笑いを浮かべて。
「あなたどんな斬れ味……? 教えてよ……はははっ!」
 敵へと飛び込み、彼女もまたその足止めへと当たっていったのだった。

●暴れん坊をこの場で抑えて
 粗野で乱暴といった印象を抱かせるエインヘリアル、ロドリゲス。
「こ、ここから先には行かせません」
 組みかかる寧々花に対し、そいつはバールの如き物の先端で彼女の鎧を突き破ろうとしてくる。
「その鎧、バラバラにしてやんぜ!」
 うまく気を引いているなら幸いと、寧々花は敵を抑え続ける。
 周囲ではまだ、温泉街を訪れた観光客らが逃げている状況。
 ロドリゲスがちらりとその一般人に視線を向けようとしたところへ、桜花が仕掛けていった。
「よそ見しないでよ……ふふふふ……!!」
 先手こそ仲間にとられたが、笑顔を浮かべたままの彼女は率先して無数の霊体を憑依させた喰霊刀で切りかかり、敵の鎧の隙間を切り裂いてその傷口から汚染していく。
 毒に侵されるエインヘリアル目掛け、晴香が正面から飛び込む。
 相手の手前で高く跳躍した彼女は両足に流星の力を籠め、プロレス技さながらのドロップキックを叩き込む。
 ビクともせぬロドリゲスだが、僅かに動きを止めてはいる。
 そこで、立て続けにダッシュしていったひかりが飛び込む。
 彼女もまたプロレスラーとして正々堂々と勝負を挑みこみ、同じく両足で強く蹴りつけると敵の態勢が少しだけグラついた。
「ケッ、めんどくせえ」
 楽にグラビティ・チェインを奪えぬと感じ、エインヘリアルは舌打ちをしていたようだ。

 1対4での戦いがしばらく続く。
 抑えメンバーはできるだけ敵を自分達へと引き付け、特に桜花は楽しげに相手と武器を組み交わす。
 その彼女を寧々花がしっかりと守り、晴香とひかりが息の合ったコンビプレイで攻め立てる。
「おらおら、こんなもんかあ!?」
 だが、滅茶苦茶にバールらしき物を振り回すロドリゲスの攻撃は非常に激しく、ケルベロスも押され気味だ。
 程なくして、ある程度近辺から一般人が離れたと判断し、避難誘導を急いでいた面々が駆け付けてくる。
「お気の毒ですが……、刈り取られるのは。貴方の首と、なりましょう」
「ワイルドというか小汚いというか。帰って貰いましょうかね」
 すかさず、雅がこの場のメンバーのフォローへと動くと、碧人が避難状況を改めて確認して殺界を展開し、新たに一般人が接近してくるのを防ぐ。
「回復する、ね」
 悠は前線の壁として入り、傷が増えてきていた寧々花を中心に伸ばす黒い鎖を地面に這わせていき、魔法陣を描く。
 陣は淡い光を放ち、ケルベロス達を守る障壁として機能し始める。
「お前に浸からす温泉は無いさ」
 そして、ペルが飛び込んできて、仲間が気を引く敵へと強く蹴りかかった。
「お前は此処で死んで、死神どもの冷たいデスバレスの中を揺蕩う運命にあるからな」
 仲間達が駆け付けたことで、桜花は呼吸を整えて。
「ふう……ふう……、楽しかったけど、もう終わり……」
「治療は、お任せ下さい。皆さんは……攻勢を」
 雅は支援強化の前に、桜花の傷が深いと判断してその傷を塞ぎにかかる。
「生きる力は、魂の力。それぞれの、存在の形。今、共々に鳴り響き。いざ、生を奏でよ……」
 月の光と夜とが司る『安らぎ』と『休息』をもたらす『生命の場』。雅はそれをこの場に展開することで、仲間の生命力と気力を賦活していく。
 そして、雅の翼猫セクメトは翼を羽ばたかせ、デウスエクスの及ぼす邪気を払ってくれる。
 箱竜達も大活躍だ。悠の箱竜ノアールは前線の壁の一員となりながらも纏う闇の属性を注入して回り、前線のケルベロス達の守りを固めていった。
「ギャウッ」
 碧人が溺愛する箱竜フレアは桜花に陽の属性を注入し、癒しに当たる。
「……名残惜しいけど、一気に斬らせてもらうわ……」
 仲間の到着を受けて彼女も殺界を展開し、攻勢を強める素振りを見せていた。
 先に殺界を展開し終えた碧人が相手を見据え、ロドリゲス目掛けて蹴りかかっていく。
 皆、相手の動きを止め、攻撃を当てやすくしたいという狙いは同じくしている。碧人も十分に相手を弱らせてから、魔法を中心に火力で攻める構えだ。
「大人しく、俺様にやられちまいなーっ!」
 そんなケルベロスの狙いなど全く気にすることなく、目の前のエインヘリアルは力任せにバールじみた棒状の武器で殴りかかってくるのである。

●癒しとは程遠い罪人
 メンバーが揃ったことで、エインヘリアルへの攻勢が強まっていく。
「どうしたエインヘリアル。疲れを癒すために温泉に浸かりにでも来たか?」
 交戦の最中、相手が温泉街を強襲してきたことにちなんで、ペルはロドリゲスを挑発する。
「生憎と、足り無さそうな頭に効く効能の温泉は存在しないのだがな……クク」
 仲間が攻撃を仕掛ける合間、ペルは己の拳に魔力で生み出した強力な白雷を宿す。
「電気風呂の真似事くらいは出来る。疲れも命も吹き飛ぶぞ、食らえ」
 ペルは外套をはためかせ、相手のボディを強く殴りつけた。
 直後、ロドリゲスの全身に駆け巡る雷。
 その痛みに、敵は額に血管を浮き上がらせて。
「おのれえええ!!」
 両手に持つバール的な何かへとそれぞれ黄金の雷を宿し、敵は猛然と振るってくる。
「この身にけして消えぬ魂の鎧を」
 前に出た寧々花は、敢えて外した甲冑にダメージを肩代わりさせる。
 己に物理的な鎧がなくとも、魂に鎧を纏う限りは甲冑騎士であり続ける。それが彼女の矜持だ。
「ふふふふふふ……あはははははは!」
 ロドリゲスの攻撃直後の隙を突き、飛び込んだ桜花が笑い声を浮かべて喰霊刀で幾度も相手の体を切りつける。
 飛び散る血飛沫は本人曰く、桜のよう。されど、切られた本人はとてもそうは思えないはずだ。
「おおおおお!」
 勢いを付け、投げ飛ばされるバールっぽい棒状の何か。
 それを防ぐ悠に対し、雅は特殊な癒しの空間を展開して癒しに当たる。
 相手が単体攻撃だけということもあり、雅は1人1人の回復に当たることが多かったようだ。
 その悠は箱竜ノアールと仲間を守っていた。
 先に述べた通り、相手は単体のみ狙ってくる為、こちらの数が増えれば、対処は楽になる。
 怒りを買う寧々花や桜花の負担はその分大きくなるが、悠達が彼女らをカバーすることでそれも分散されていく。
「辛くなったら、言って、ね」
 仲間への支援は万全。回復の手もしっかりしていることもあり、悠にも攻撃に転じる余裕すら出てくる。
「にゃあ、お」
 ちりんとなる鈴を合図として、幾多の鳴き声を上げる影が「遊んで、構って」とロドリゲスに群がっていく。
「ええい、離せええ!」
「……忍び寄る呪い、静かに、彼の命を深淵の竜の元へ誘わん」
 それらに気を取られる敵へ、碧人が竜語魔法の詠唱を完了する。
 薄暗い地面が裂け、突き出た牙がロドリゲスを捉えようとしていく。
 追い打ちとばかりにペルが仕掛け、『白い喰霊刀』で相手の体を貫いた。
 ペルの刃には呪いが込められており、敵はいるはずもないトラウマが視界に過ぎることとなる。
「止めろ、寄るな、近寄るなああああああああ!」
 バール風の物体を振り回して蘇るトラウマを払拭しようとする敵へ、ここでも晴香とひかりがコンビネーションを見せる。
「私の投げからは逃げられないわ!」
 晴香が相手を左後方から抱え込み、必殺のバックドロップを繰り出す。
 相手が後方へと倒れるその瞬間、ひかりも目にも止まらぬ速さで仕掛けていく。
「女神の『断罪の斧』も逃さないし、必ず砕いてみせるよっ!」
 敵の首が降りてきたタイミングで、振りかぶった右腕を相手の首へとヒットさせる。
「があ…………っ」
 もはや声すら出せずに、地面へと沈む敵。3カウントすら必要なさそうだ。
「ふう……、ふう……あはは……」
 皆が戦いの勝利に喜ぶ中、桜花だけは戦闘の興奮が冷めやらないのか、まだ笑い続けていたようだった。

●くつろぎの一時
 エインヘリアルを討伐し、ケルベロス達は戦場となった温泉街の修復を進める。
「ああ どこまで歩んだら わたしの想いは届くでしょう……♪」
 寧々花の『想捧』が響く中、雅も光の翼を広げて周囲に安らぎと休息をもたらす場を展開する。
 悠は怪我人へと1人1人、気力を発して治療に当たっていく。
 他者向けのヒールを持たぬ桜花はひかりと力仕事でサポート。
 晴香はやってきた人々と交流し、メンタル的なフォローを行っていたようだ。

 その後、メンバー達は疲れを癒すべく近場の温泉へと入っていった。
 かぽーん。
 男湯には、それぞれ箱竜を連れた碧人、悠の姿がある。
 以前は右胸の傷を見られることに抵抗もあった碧人だが、ある程度克服したこともあって比較的気楽にくつろぐ。
 温かい物が大好きとあってはしゃぐフレアは持ち前の好奇心の強さもあって、同じボクスドラゴンのノアールに興味津々な様子。
 陽と闇、反する属性こそ持つ2体の箱竜達は、温泉の中できゃいきゃいと楽しそうだ。
 一方、竹でできた垣根を挟んだ向こう側。
「ひ、一仕事終えた後のお風呂は気持ち良いですね」
「ん……、広いお風呂は、やっぱり。気持ちいいですね……」
 鎧を脱いだ寧々花が湯船の中で羽ならぬ翼を広げると、湯着を着用した雅も心地よさげに息をつく。そばでは、湯を張った桶に乗ったお風呂好きな翼猫セクメトが瞳を閉じて温まっていた。
「はぁ……、気持ちいい……」
 タオルを入れるのはマナー違反と桜花は素肌のままで入浴していたが、いつも以上に湯気が濃く、視界が悪いのは気のせいだろうか。
「やっぱ温泉はいいよね……、身体が軽い……」
 星条旗ビキニでの入浴するひかりはふくよかな胸部を湯に浮かせ、楽な体勢をとる。
「まぁ私は、まだ温泉に頼らなきゃいけないほど老けちゃいないけど、ね」
 こちら、色っぽい黒レースの水着を着た晴香は、暗に示すのが自分だと気づいたひかりに締められていたようだ。
 それにしても、とペルは温泉の外へと視線を向けて。
「悪くない、風流なものだ……」
「お風呂から、富士の山容を……拝せるとは。確かに、ちょっとした……贅沢ですね」
 雅もまた、浴室からの光景をゆっくり眺める。
 さほど遠くない位置に悠然とそびえ立つ富士山は雲一つかかっておらず、幻想的にすら思えた。
 そんな雄大な自然を仰ぎつつ、一行は心行くまで湯に浸かっていくのである。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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