偏愛刀剣乱舞

作者:ハル


「…………ん?」
 頭部に装着された大きなウサミミを揺らし、眠たげな表情で夜道を歩いていた少女――兎之原・十三(首狩り子兎・e45359)は足を止める。
 それはまるで、狂気に吸い寄せられるかのように。
 自身と同類の匂いを嗅いだ十三は、立ち止まった人気の無い路地裏を見渡した。
「……だ、れ?」
 ユルリと、十三が胡乱げな視線を向けた先。そこには杖をつきながら、インバネスコートとシルクハットを纏う白兎の獣人の姿がある。
「これはお嬢さん、急に失礼致しました。――それにしても、良い夜ですな」
「そうだ、ね」
 シルクハットを脱ぎ、紳士的な笑みを浮かべて一礼する白兎。
 十三もそれに対して何食わぬ風に応対するが、すでに肉体は戦闘のために準備を終えていた。
 ――消しきれる訳がないのだ。白兎から漂う血臭も、仕込み杖を愛おしそうに撫でながら、こちらに向ける殺意も……。
「私の名前は刀閃卿と申します。お互いに刀剣に魅入られた者同士、一手お相手願いませんか?」
「じゅーぞーは、初めから、そのつもりだ、よ」
「それは重畳」
 元より、逃がす気などないくせに……。
 形ばかりの紳士さに軽く嘆息しながら、十三は白兎が杖に仕込んであったモザイクの刀身を露わにし、態勢を低くするのと合わせて抜刀するのであった。


「皆さん、大変です! 刀閃卿と名乗るドリームイーターが、兎之原・十三(首狩り子兎・e45359)さんを襲撃する様が予知されました!」
 報告を待つケルベロス達の元へ、山栄・桔梗(シャドウエルフのヘリオライダー・en0233)が慌てた様子で駆け込み、情報を届ける。
 途端、ケルベロス達の間に緊張感が漂った。
「連絡が取れないのは、これまでに襲われたケルベロスの皆さんの時の事例と同じです。と、いう事は――」
 残された猶予はそう長くないという証。
 桔梗は一瞬不安げな色を瞳に浮かばせるが、ケルベロス達の確固たる信念に満ちた瞳に見返され、彼等への信頼を込めて頷く。
「始めに申し上げた通り、敵は『刀閃卿』……ドリームイーターです。紳士的な物腰ではあるものの、彼が携える杖――これは仕込み杖らしいのですが、それら刀剣に向けられた狂気、偏愛を隠す事ができていません」
 もしかすれば、十三を狙った……というよりも、十三の所持する大太刀を狙った急襲という事も考えられる。
「刀閃卿個人の能力はもとより、彼の手にする刀剣の性能は危険視して然るべき……という程のものを感じます。強敵です、ご注意ください」
 現場に人影はなく、避難やそれに類する処遇の必要はない。
「過去の事例や、現場までの到着時間を計算しましても、このままスムーズに皆さんを輸送できれば、兎之原さんと刀閃卿が接触してすぐの辺りで到着できそうです」
 多少の朗報に、桔梗はホッと安堵を。だが、すぐに表情を引き締めると、
「刀閃卿からは、刀剣類に対する狂気だけでなく、相応の知性を感じます。それでも、皆さんならば刀閃卿を撃破し、兎之原さんを救い出す事は十分に可能なはず。どうか、よろしくお願いします!」


参加者
御神・白陽(死ヲ語ル月・e00327)
ベルンハルト・オクト(鋼の金獅子・e00806)
リュコス・リルネフ(銀牙迸り駆ける・e11009)
楪・千夜(黄泉軍・e22564)
ユリス・ミルククォーツ(蛍火追い・e37164)
垓獣帝・浪狼(眠れる子ライオン・e40343)
款冬・冰(冬の兵士・e42446)
兎之原・十三(首狩り子兎・e45359)

■リプレイ


 静かな月夜だった。
 ただただ、冬の冷たい風が肌を撫でるだけ。
 でも、その冷たい風を……素直にそうだと思える者は、きっといない。
 何故なら――。
「……ジューゾー……!」
「自分の欲求のために家族を奪って、残された人もその子孫もみんな不幸にする、そんな最低な奴が今度は十三ちゃんを!?」
 款冬・冰(冬の兵士・e42446)、リュコス・リルネフ(銀牙迸り駆ける・e11009)の身を包む焦燥感や怒りは、寒さを遥かに凌駕するものだったから。
(「剣の借りは剣で返します!」)
 そしてそれは、ユリス・ミルククォーツ(蛍火追い・e37164)達……夜道を駆ける全員が共有している想い。
(「君が何かを背負っていた事は知っていた」)
 だからこそ、ベルンハルト・オクト(鋼の金獅子・e00806)は遅れるわけにはいかない。気兼ねのない友が、自分の力を必要としているのなら。
「さて、この辺りか。近いぞ」
 殺意を刃物のように束ね、御神・白陽(死ヲ語ル月・e00327)が煌青色の鋭い眼光で辺りを睥睨する。
「これ以上あたしの友達を傷付けて奪おうってんなら――」
 ブッ潰す!! 怒気も露わに、垓獣帝・浪狼(眠れる子ライオン・e40343)の口から溢れそうになった罵声が止まり、代わりに肉食獣を想起させる好戦的な金の瞳が釣り上がった。
 浪狼は視線の先に、兎之原・十三(首狩り子兎・e45359)と刀閃卿の姿を捉えたのだ。
 瞬間、先頭に立ち、浪狼は我先にと駆け出そうとする。
 ――が白陽に引き留められた。
 不服そうに振り返った浪狼だが、殺意に濡れた白陽の様子に、止められた意図に気付くと、一転して気配を潜めた。
「……そうか、ついにその時が来たのだな、十三よ」
 十三がもし狂気に囚われた時、楪・千夜(黄泉軍・e22564)は彼女を必ず止めると約束した。それは、友達である十三に刃を向ける事になるのに等しい。千夜は人付き合いが得意な方ではない。ゆえに、十三――そう名を呼べる彼女の存在は……。
「……私の友の安寧の為、我欲で殺させてもらう」
 あったかもしれない未来を消し去るため、千夜は覚悟を決めるのであった。

 【月喰み】を抜刀した十三は、互いに必殺の間合いの中、刀閃卿と剣先を向け合っていた。
『……我らが怨敵の、首を刎ねろ!!』
 十三の脳裏では、兎之原に連なる怨霊達の声が、唸り、嘆き、憎悪と共に荒れ狂っている。
「……素晴らしい出来です」
 と、まるでその怨霊の声が耳に届いているかのように、刀閃卿が三日月のように口角を吊り上げた。悪意、称賛、憐憫、嘲笑、愉悦……ありとあらゆる感情が交じり合った笑み。
「やはり、刈り入れ時のようですね。お嬢さん、どうも今まで、ご苦労様でした」
 シルクハットに手を添えて軽く頭を垂れる刀閃卿は、何の疑いもなく【月喰み】を手中に収められると思っている。事実、現状のままなら遠からずそうなるであろう。
「……ここで、全部、終わらせる、よ」
 にも関わらず、十三は軽く目を細め、怨霊達を宥めるようにそう言った。
 最後の足掻き……十三の言葉をそう受け取ったのだろう刀閃卿が、モザイクの切っ先を十三の褐色の肌に突き刺そうとする。
 だが――何の予兆もなく、刀閃卿がそうと認識するよりも早く、卓越した技量からなる斬撃をその身に刻まれていた。刀閃卿が呆然と路地の壁上を見上げると、夜と月が浮かぶ刃を腰の後ろで交差させ、死神のように冷然と刀閃卿を見下ろす男……白陽にようやく気付く。
「待たせたな、十三」
「十三をこれ以上傷付けさせるもんかよ……!」
 そして突き立てられようとした切っ先もまた、十三には届かない。千夜と浪狼の二人が、十三と刀閃卿の間に割り込んでいたからだ。
 浪狼の肩口には、モザイクに覆われた刀身が突き刺さっていた。三つの鉤爪がついた特殊な形状の螺旋手裏剣と防具を盾にする事で威力は抑えられているとはいえ、威力の増幅されたそれに浪狼は僅かに眉を顰める。が、刀閃卿を真っ向から睨み付ける敵意は些かも衰えず。
「目標捕捉。助けに来たよ、ジューゾー」
「こおり……みんな。来てくれたんだ、ね」
 続く冰の、平坦ながら十三の無事を知って、友人だけが分かる程度に上擦る声に、十三もまた、その頰を友人だけが判別できる程度に緩めた。
「……は、い?」
 刀閃卿は、状況を把握しようと試みている。しかし戦場においては、その刹那の間が命取り。
「十三、妖刀の借り、返しに来ましたよ!」
 ガードする隙も与えず、ユリスの電光石火の蹴りが刀閃卿に突き刺さり、勢いのまま路地のコンクリート壁に衝突させる。
「そんなもので終わりじゃないよ! さあ、人斬り兎を狩りに行こうか! その悪趣味ごと喰い散らかしてやる!」
「手加減はしない、全力を出し切ろう」
 地に伏せる刀閃卿へ、狼のように俊敏な動きで間合いを取り、正確無比に放たれるリュコスの矢が、ベルンハルトの獄炎と共に対象を汚染させるべく無数の霊体の呻きを噴きあげる電雷が追撃に迫る。
「行くよ、【月喰み】」
 さらに、十三の殺意を存分に解放した、火力と精度を両立した美しい斬撃の軌跡が煌めくと、冰の流星の煌めきと重力を宿す蹴りも炸裂する。
「…………やれやれ、参りましたな」
 やがて、刀閃卿がインバネスコートとシルクハットの汚れをハタキながら立ち上がると、その眼前には十三以外に七人のケルベロス達が立ち塞がっていた。
 十三が、ウィッチドクターである冰のポジションに僅かに驚きを見せていると――。
「……我儘を……許して欲しい」
 服の胸元を握りしめた冰が、意を決して、改めて十三の横に並び立つ。
「今宵は……今だけは。支えるのではなく、ジューゾーの隣で戦わせて」
 憧れだった。剣術も、真っ赤な刀を振るう彼女も。
「う、ん。アイツを、倒すために、力を、貸して」
 だから冰は、親友として、戦場のおける対等な剣士として背中を預けられた瞬間、その胸中を充足で満たし、握りしめた柄と鍔だけの刃を前に突きだした。
「『青星』、起動―!」
 二人が攻撃手として戦線に本格的に加わり、浪狼がオーラを溜めている間、千夜がリボルバー銃から目にも留まらぬ弾丸を射撃する。しかし、態勢を立て直した刀閃卿は、弾丸を紙一重で躱す。
 だが、それは千夜にしてみれば織り込み済み。無論、攻撃を命中させられるに越したことはないが、それ以上に仲間を、十三を守る事こそが先決。
「……ち、よ……!」
「なに、十三が生き残れば、何とでもなる。私を気にする必要は、無い」
 刀閃卿の標的は、依然として【月喰み】。前衛を薙ぎ払うように振るわれた刀閃卿の刃が、十三を庇う千夜、冰を庇うユリスを中心に襲った。
「――どこを見ている?」
 刀閃卿の意識が別に向いているのなら、白陽とってそれは的でしかない。間合いを一足飛びに侵略しながら、空の霊力を付与した刃を存分に振るった。
「彼女の刀に囚われ、彼女個人を見ようとしない辺り、貴様の程度も知れる。彼女は強いぞ、貴様が思っている以上にな」
 それは、強さを望み、力を求めるベルンハルトだからこそ分かる事。
「フッ」
 しかし、他者を武器の苗床としてしか認識していない刀閃卿は、ここに至ってもなお鼻で笑う。
「~~~~っっ!!? ベルンハルトくん、あいつムカツくよ! 知ってたけどねっ! 刀諸共ぶっ飛べーーー!!」
 その態度に、リュコスが耳と尻尾の銀毛を逆立て、地団駄を踏みながらも、アームドフォートの主砲から一斉発射する。
 そして、ベルンハルトは妖刀で刻みつけてやる。その身に、永劫消えぬ敗北と死の【トラウマ】を。
「彼女は俺の友人だ。友人を嘲笑う輩を、俺は絶対に許さない。獅子は兎を守るにも全力を出す……知らなかったか?」
「グゥゥゥ!!」
 ジャマーの攻撃によって翻弄される刀閃卿は、無様に呻きを上げ、無我に至って立て直すことを強いられるのであった。


「ユリスくん、来るよ!」
「はいです、リュコスさん!」
 リュコスの警告が路地に響き渡った。
 ユリスは、抜刀の体勢を取りながら千夜に肉薄する刀閃卿の刀剣を、雪蛍で払った。雪蛍を支点に、相応の衝撃がユリスの全身に走り、後退を強いられる。
「――強敵ですね。さすがに十三とその一族が追い求めてきた敵です」
「そう仰って頂けるならば光栄ですな」
 言いながら、ユリスは両脇の千夜と浪狼を一瞥した。二人の敵意は些かも衰えてなどいない。むしろ、浪狼などは「アタシのこと、ナメんなっ! まだまだいけるぜ! ユリスこそ、疲れたんなら休んでていいぜ?」そう言いたげにユリスを強気に見返してきて、彼を苦笑させるくらいだ。
 それでも、刀閃卿が慢心を捨てて以降、徹底して狙われ続けている事からの消耗は隠しきれない。刀閃卿は長期戦になればその卓越したヒールの力を生かし、その点で劣るケルベロス側に対して有利となる。ゆえに、ケルベロス側は前衛――DF陣が瓦解する前に勝負を決めたかった。そして元より、そのための前掛かりの布陣だ。
「全ての咎を、貴様に負わせる気はない。兎之原の一族が何をしようが、その責任は貴様には無いから、な。だが、十三に手を出したとならば話は別だ。貴様に先はないと知れ」
 そのためにも、千夜は倒れる訳にはいかない。
 彼女が咆哮を上げると、
「守って、くれて、ありが、と」
 影の如き斬撃を繰り出す十三を筆頭に、攻撃手達が刀閃卿を守勢に回らせるべく立て続けに攻め立ててる。
「刀だか剣だか知らねぇが、デウスエクスなんかにもう誰一人として仲間を奪わせねぇ……!」
「浪狼さん、もう一踏ん張りです!」
 凶悪なモザイクの刀身が、幾度も浪狼の細身の肢体に突き刺さり、鮮血を撒き散らす。ユリスと浪狼自身のオーラを溜めてなお、ヒール量が不足している。集中的に狙われば、ユリスからしか支援が期待できない状況では限界があった。
「それ以上させない、許さないよー!」
 リュコスの追尾する矢が急所に命中し、冰の緩やかな弧を描く斬撃が続くと、刀閃卿に踏鞴を踏ませる。
 そうして、刀閃卿を消耗させ、貴重な時間を稼ぐ。

 しかし――一分、二分が経過すると。
 刀閃卿の攻撃で、唯一躱せる抜刀術を浪狼は避けれず、小柄な身体がゆっくりと傾き倒れた。
「よくやった。私が変わってやれれば良かったが、それを言うのは無粋か。そうだろう、十三」
「うん、浪狼、ありが、と」
 自分のせいで傷ついた……そんな遠慮を浪狼は望まぬと知っている。だから十三は感謝を告げ、千夜と共に彼女を下がらせた。
 今度こそ、仲間を、親友を守り切った事を確信し、勝利の笑み浮かべ意識を失う浪狼を……。
「死を撒くモノは冥府にて閻魔が待つ。潔く逝って裁かれろ」
「……冥府にて、お待ち申しております」
「ああ、その時は十三に変わって、もう一度殺してやろう」
 無を穿てるのなら、月さえも墜とせよう――己と武装を“虚無”と化した白陽の一刀が、刀閃卿のエンチャントを完膚なきまでに破壊する。
 ケルベロスの火力を前に、刀閃卿は間に合わなかった。もう一分もあれば、歯車が噛み合えば、千夜を戦闘不能に追い込み、逆にケルベロスを守勢に回らせた可能性もゼロではない。
 しかし、戦場においてその一分は、近いようであまりに遠い。
「そんなに刀が好きなら自分の身体で切れ味を味わうといいさ! 十三ちゃんはお前のための玩具でも道具でもないよ!」
 今こそ、全ての因縁を断ち切る時。リュコスが、エネルギーの矢を刀閃卿の心に叩き込む。
「これが、剣士達より引き継がれし魂……わたしの全力―――冬影『乱れ雪月華』」
「あれが、冰さんが剣士の魂たる技を繋ぎ編み出した技……!」
 氷の剣と青星二刀の剣が、雪月華の三段攻撃となって乱れ舞う。冷厳に、鋭く、氷華を散らすが如く。それはきらきらと、まるでステンドグラスのように。
 ユリスがそこに、噴水広場で聞いた彼女の在り方を見て、感嘆を零した。
 そして負けじとユリスも、電光石火の蹴りを放つのだ。
「呪いをも焼き尽くす獄焔と、我が剣技を持って貴様を斬り裂こう」
 ベルンハルトの心と魂にグラビティ・チェインが反応し、彼と周囲を業火が包む。
「灰に還れ」
 電雷を地面に突き刺すと、刀閃卿の周囲で幾つもの火柱が立ち上り、その逃げ場を塞ぐように取り囲んだ。
 千夜が、拘束された刀閃卿に、地獄の炎を纏った拳銃を叩き付ける。
 やがて、ベルンハルトと千夜の視線が、十三に。
「トドメは十三に任せます」
「十三ちゃん、いっけえええええええ!」
 同時、ユリスとリュコスが声を上げる。
「……わたしは、知ってる。ジューゾーが、剣士として一つの極地に至りつつあることを」
 冰が祈る。
 兎之原一族、その憎悪の連鎖に終止符を。そして、十三自身の呪われた過去との清算を。
「……これが、貴方の、最期。その首、貰う、よ」
 黒手袋が、【月喰み】を握る。
 刀閃卿も、最後の足掻きを見せようとするが。
 それは本当に斬撃であったのか、十三以外の誰にも判別がつかなかった。この日のために蓄えた知識と技術が昇華した先にある――天剣・絶兎。
 ただ一つ、確かな事は気付けば刀閃卿の首が舞っていたという現実。刀閃卿は、その刀剣の技と切れを目視できた恍惚と、他者に憎悪を煽るだけの己では決して到達できない次元に至った十三への嫉妬……それらが混じり合ったような表情を最後に晒し、逝った。
「……終わった、よ」
 刀閃卿にとっての死の象徴となった十三が、目から涙を零しながら呟く。
 そして、糸が切れたように、フラリと倒れ込むのであった。


「……ジューゾーっ!」
 倒れた十三の元へ、冰が真っ先に駆け寄った。
「大丈夫、気絶しただけみたい。十三ちゃん今までいっぱい頑張ったんだよね。だから今日はこのまま……ゆっくり寝かせてあげよう」
「ふぅ……眠ってるだけ、か」
 リュコス達は十三の体調を確認し、ホッと安堵を。
 意識だけは取り戻した浪狼も、大きく息を吐き出した。
 少し離れた場所で様子を眺める千夜も、胸を撫で下ろしている。
「あなた、悪いウサギです。でも、おかげでぼくには大事な友達ができた。それだけ感謝しておきます」
 刀閃卿の絶命を注意深く確認し、そのついでにユリスは声をかけた。
「ユリスも十三の元へ行ってあげるといい。その間に俺が後片付けでもしておくよ」
「はい、そうします」
 駆け出すユリスの背に向け微笑を浮かた白陽が、自分にできる範囲で後始末を。
「少しこのままがいいでしょうかね?」
 駆け寄ったユリスが言いながら冰にハンカツを差し出すと、冰がそっと十三の涙を拭う。
「そうだな。今はゆっくりとさせてあげよう。起きないようなら、俺が背負って送ろう」
 ベルンハルトは、改めて十三の小柄な体躯を眺め、
「彼女は打ち勝った、本当に強い娘だよ」
 友に、心からの称賛を送るのだった。

作者:ハル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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