リザレクト・ジェネシス追撃戦~黒雨

作者:桜井薫

 12月23日に行われたケルベロスウォー、『リザレクト・ジェネシス』。
 ケルベロスたちの戦場制圧によって、多数の有力敵が落ち延びた。
 死神勢力においてはネレイデスの幹部たちが、千葉県館山湾に出現した巨大な神殿……『ネレイデスパレス』に集結していた。
 ネレイデスパレスは白を基調とした全体に、意匠が凝らされた太い柱が立ち並び、その様子はあたかも、ギリシャの宮殿や神殿を彷彿とさせる。
 その最奥では、『輪廻の死神』オーピス・ネレイデスが今まさに祈りを捧げている最中だった。

「…………」
 神殿外部の少し外れの方にある、大きめの扉。
 量産型の配下を出入りさせる搬入口として使用されているその場所には、黒いドレスを身にまとった少女が佇んでいる。
 少女の周りには『黒い雨』が漂い、手にした大きな黒い鎌は、遠目に見ると雨傘のようにも見える。
 彼女……『黒雨の死神』ドーリスは、周りに多数のアメフラシたちを引き連れ、出入り口を守っているようだ。
 その整った白い顔からは特定の感情を読み取ることはできず、心中をうかがい知ることはできない。しかし彼女が強敵であることは、かつて東京六芒星の東京タワーにおける戦いを思い出すまでもなく、気配から明らかだ。
 オーピス・ネレイデスを守る少女は、黒い雨の中、招かれざる客……ケルベロスたちを、静かに待ち受けていた。

「押忍っ! 先日の『リザレクト・ジェネシス』では、まっことお疲れ様じゃった。全ての作戦目標を達成できたのは、皆の頑張りあってのことじゃ」
 円乗寺・勲(熱いエールのヘリオライダー・en0115)は、直立不動の最敬礼でケルベロスの健闘をたたえ、状況の説明を始める。
「じゃが、多数の有力敵が逃げおおせたのもまた、知っての通りじゃ。幸い、その多くの居場所を掴むことができたじゃて、追撃戦を行うことになったんじゃ。何かと忙しい時期じゃが、どうかよろしく頼むじゃ、押忍っ!」
 勲は一礼して、ここに集まったチームの目標となる有力敵について、具体的な説明に入る。
「皆が向かってもらうんは、逃げのびた死神勢力が集っておる『ネレイデスパレス』じゃ」
 勲によると、千葉県館山湾に出現したネレイデスパレスには、『名誉の死神』クレイオー、『暗礁の死神』ケートー、『先見の死神』プロノエー、『黒雨の死神』ドーリス、『輪廻の死神』オーピス・ネレイデスの、計5体の死神が待ち受けているという。
「神殿の奥で何やら祈りを捧げちょるオーピス・ネレイデスを、他の幹部たちがそれぞれの持場で守っておる、っちゅう状況じゃな。ここに集まった皆に向かってもらうんは、『黒雨の死神』ドーリスじゃ」
 かつて『東京六芒星』の東京タワーでケルベロスたちと交戦し、逃走していた『黒雨の死神』ドーリス。先日は戦場に姿を見せるに至らず再び逃亡していた彼女は、現在ネレイデスパレスの量産型配下搬入口を守っている、と勲は言う。
「二回交戦した時と同じく、配下のアメフラシを大量に引き連れておるようじゃな。分かった範囲の情報を全て伝えるじゃて、参考にしてつかあさい」
 続いて勲は、戦場や敵の攻撃内容詳細について説明する。

「ドーリスの周りには、常に黒い雨のごたる水が漂っちょる。奴はその『黒い雨』を操り、広範囲に毒を与える攻撃をしてきたり、自己回復を行うようじゃな。それから、手に持った大きな黒い鎌での攻撃もあるようじゃ」
 リーチの長い鎌による攻撃では、守りを削ぐ攻撃と、状態異常を増やす追加効果があるようだ。
「それから、大量のアメフラシがドーリスを守るように展開しちょる。具体的な数は分からんじゃが、間違いなく二桁は居るようじゃな。戦法も複数取っておるようじゃて一概には言えんが、リザレクト・ジェネシスでのデータが参考になるじゃろうの」
 高い戦力のドーリスと、力はそれほどでなくとも数を頼みに襲いかかっているアメフラシ。どちらも厄介だが、何とかその両方に対応して欲しい、と勲はケルベロスたちに頭を下げる。
「この戦場をしっかりと乗り切ることが、ひいてはネレイデスパレスにおる他のチームのためにもなるじゃて、どうか宜しく頼むじゃ、押忍っ!」
 勲は腹の底から響くエールを切って、最後にケルベロスたちを激励する。
「敵戦力は強大で、はっきり言って厳しい戦いになるんは間違いなか。じゃがこれは、二度逃した相手を仕留めるまたとないチャンスじゃ。どうか皆の力で、今度こそ引導を渡してやってつかあさい」
 もう一つ力強いエールを切り、勲はケルベロスたちを送り出すのだった。


参加者
メイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)
ラティクス・クレスト(槍牙・e02204)
峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147)
日月・降夜(アキレス俊足・e18747)
一之瀬・白(闘龍鍛拳・e31651)
風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)
霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)

■リプレイ

●降りはじめ
 千葉県は館山湾に現れた死神勢力の神殿・ネレイデスパレス。
 集結したネレイデスらの企みを阻止するため、ヘリオンから降下したケルベロスたちは、脇目も振らずにそれぞれの目標に向け、走る。ここに集った8名が向かう先は、神殿外部の少し外れの方にある、大きめの扉……『黒雨の死神』ドーリスがアメフラシと共に守る、配下の搬入口だ。
「和希、行こう」
「はい、アンセルムさん」
 アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)にうなずき、霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)は親友と肩を並べ、一番に駆け出す。
「……来たのね。相変わらず、鬱陶しい人たち」
 二人の正面に佇む、黒いドレスの女が呟いた……『黒雨の死神』ドーリスは、戦いに積極的な様子でこそないものの、確かな殺意をにじませ、急迫するケルベロスたちを睨みつけた。その周囲には赤・青・黄色の体色もカラフルな、一見すれば可愛らしい生き物たちが、彼女を守るように取り巻いている。その数は、おおよそ15体前後というところか。
「…………」
 和希は無駄口を叩かず、ドーリス目がけ、動きを妨害するようにメタリックな白色のバスターライフルから、狙いすました牽制射撃を放つ。
 だがその一撃は、死神をかばうように割り込んできた赤いアメフラシに阻まれ、ドーリスには至らない。キュッと声を上げて身体を縮めたアメフラシの様子から、痛打であったことが伺えるのがせめてもの救いだろうか。
「まあ、これも想定内だから……まずは君たちを何とかするのが、ボクたちの仕事だね」
 事前にすり合わせてきた作戦で、この場に居る全員、数を頼みのアメフラシがドーリスをかばうのは織り込み済みだ。アンセルムは気落ちした様子もなく、氷河期の精霊を呼び出し、立ちはだかるアメフラシの大群に向け、太古の吹雪を放った……氷の奔流は勢いよく広がり、多くのアメフラシと、そしてドーリスをも巻き込んだ。
「ドーリスも、前に立ち自ら身を守ってるのか。まあ、それで有利不利があるわけじゃないけどな……行くぜ、皆」
 敵の立ち位置を冷静に把握し、味方に共有する。ラティクス・クレスト(槍牙・e02204)は自分の戦いのみならず全体の作戦を円滑に運ぶことを念頭に置きつつも、震鎚《サラスヴァティー》を砲撃形態に変形させ、大きく轟く竜砲を放つ。
「ああ、好き勝手させてたまるか。ここでテメェを食い止めて、んでもってぶっ倒す!」
 峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147)がラティクスに呼応し、グラビティが生む氷の礫をまとった日本刀を振りかざし、勢いよく横薙ぎに斬りつける。
「そら、凍えちまいな!」
 雅也の『雪華』は文字通り雪の華となって、居並ぶアメフラシたちとドーリスを冷たく切り裂いた。巻き込んだ数が多く多少の減衰はあるものの、破壊力を高められた一撃は、アメフラシたちにとってはそれなりに効いてるようだ。
「暑苦しい……私、そういうの、嫌い……」
 ドーリスはかすかに眉をひそめ、身体に纏う黒いドレスから『雨』を生み出すように、周囲の空気の密度を高めてゆく。一瞬の後、それは文字通りの黒い雨となって、一番にドーリスを狙った和希を含めた後衛のケルベロスたちに降り注いだ。
「通さんし、逃さんよ」
「全員、守り抜いてみせるさ」
 割って入ったのは、日月・降夜(アキレス俊足・e18747)に、一之瀬・白(闘龍鍛拳・e31651)。毒を伴った黒い雨は、複数を狙う攻撃であってなお、楽に受け止めきれる威力ではない。しかし、守り手としての矜持を持って、降夜と白は仲間への攻撃を肩代わりする。
「……ハッ!」
 むろん、攻撃を受け止めるだけでは終わらない。白は八極拳の掌底を思わせる形で気合を吐き、オウガメタルに覆われた掌で、最初にドーリスをかばったアメフラシに追い打ちをかけた。白のビハインド『百火』も彼に寄り添うように、念を込めたポルターガイストの一撃を合わせる。
「打ち勝つために、今は耐える力を」
 降夜は自身に言い聞かせるように呟きつつ、攻性植物を収穫形態に変化させ、降夜を含めた前に立つケルベロスたちを黄金の果実からなる光で包む。継続してダメージを蓄積させる力を持った攻撃手段を多く持つ敵との戦いでは、一見地味にも見られがちな耐性の強化こそが、勝利を引き寄せると信じて。
「我が名を以て命ず。其の身、銀光の盾となれ」
 メイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)は、今しがた攻撃を代わって受けた白に向け、オウガメタル『Atlas』に己の魔力を分け与えた流体の盾を施した。明らかに戦力で勝る相手に対して、今回唯一の癒し手であるメイザースの役割の重さは、誰よりも彼が知っている……いつ誰を癒し、強化し、どんな状況で誰を優先するのか。綿密にシミュレートしてきたメイザースの動きには、わずかな迷いも無かった。
「たくさん、巻き込むんだよ」
 こちらは降夜にかばわれた風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)も、今回の己の役割である後ろからの攻撃に集中し、ずんぐりとしたボディからミサイルポッドをスタンバイし、一気に放つ。やはり数の多い前列相手には多少勢いが殺され、痺れをもたらした標的も限られてはいたが、それもまた敵を無力化する確実な一歩に違いない。
「なんか企んでるようだが、やりたいようにはさせてやらねぇ……確実に潰させてもらうぞ」
 全員がきちんと感情を繋いでいたことで、本来よりも早く動けた者も多い……しっかりと備えをしてきた仲間を、そして何よりも己自身を信じて、ラティクスは敵を見据える。
 まずは、及第点以上。
 次々と触覚にエネルギーを蓄えるアメフラシたちの反撃は厳しいものになりそうだが、それに怯むケルベロスは、一人たりともこの場には居なかった。

●本降り
 ドーリスの強烈な技をどうにか凌ぎつつ、アメフラシを捌き、見切りを避けて一番確実な技を繰り出す……12分を過ぎた頃には、ケルベロスたちにダメージが着々とかさんではいるものの、アメフラシの数も数匹までになっていた。
「……これ、ボクで大丈夫かな」
「ああ、大丈夫だ。間違いないよ」
 アンセルムとメイザースの短い会話は、それだけ聞くとよく分からないものだ。だがそこには、味方のグラビティの属性を把握しドーリスの弱点を観察するという行動と、共有した作戦に基づく、大幅に省かれた意味合いがあった。
 すなわち、ドーリスには『破壊』が一番通っているのが確信できたので、しかるべきアメフラシを全滅させた時点で、アンセルムが標的をドーリスに切り替える、と。
「よっしゃ、なら俺は、こっちだな……行くぜ、【刹那】の太刀筋、受けてみやがれっ!」
 そしてもう一人の前衛攻撃手である雅也は、その破壊力を活かし、残ったアメフラシの殲滅に回る。愛用の日本刀を利き腕に、もう一刀を逆腕に……雅也は二振りの刀を交差させ、青いアメフラシの身体を一刀両断に切り裂いた。
「生きて帰れるって思ってた? ……術式展開。いくよ……!」
 それと同時に迸ったのは、アンセルムと和希が力を合わせた、とっておきの一撃だ。
「……!」
 和希の瑠璃の瞳が、言葉なき強き意志をたたえる。
 アンセルムの白と和希の黒は肩を並べ、それぞれの色を持つ精霊を呼び出し、ぴたりと合った呼吸に合わせ、その力を解き放つ。並び立つ黒と白は互いが導く楔を伸ばし、ドーリスの身に、確かな手応えの一撃を打ち込んだ。
「生きては帰れないし、今さらその気もないわ……でも、無様に負けてあげる気も無いの」
 ドーリスの瞳は冷静な色を変えず、声も淡々として、激しい感情は見えない。
 だがその言葉からは確かな覚悟と、死ぬならばあわよくばケルベロスも道連れにしようという、揺るがぬ決意が感じられた。
 黒衣の死神は、大鎌をまるで重さを感じさせず軽々と振り上げ、前に立つアンセルムらをまとめてジグザグに斬りつける。
「く、さすがに厳しいけど……まだ、倒れられない」
 仲間の分まで強烈な一撃をかばい、白の身体がぐらりと揺らぐ。だが白は守りの戦術と耐性を合わせた防具の力で何とか踏みとどまり、持ちこたえた。
「この『歌』で、何とか……!」
 まだ仲間を護る役割を、止めるわけにはいかない。そんな白が少しでも力を持ち直すために頼ったのは、『比翼龍焔歌』……愛する少女の想いが具現化した癒しは、白の体力を大幅に戻す。とは言え、回復できない負傷がかさみ、彼の身体を支えているのは既に半ば気力のみだ。
「彼は、私が。次に動ける者は、ラティクス君を」
「俺が引き受けた」
 メイザースに応えるのは、降夜。
 回復が追いつかない状況だからこそ、過剰な回復は命取りになる。メイザースは強引な手術でまだ傷の深い白を、降夜は気力を溜めたオーラでラティクスを、声を掛け合って治療する。
「叢雲流牙槍術、弐式・窮奇!」
 感謝の言葉を述べる暇で、全力の攻撃を敵に叩き込む。ラティクスは見切りを含めこの手番で一番命中の高い、槍を薙ぎ払って風の刃を結界とする我流の技で、目前のアメフラシを一閃した。標的の黄色いアメフラシはあやまたず貫かれ、悲鳴すら上げずに消滅する。
「痛銃達、僕と踊って!」
 アメフラシがあと3体まで減ったのを見て取り、錆次郎はドーリスに『BULLET BALLET』で渾身の攻撃を仕掛けた。絵面こそ多少色々とアレではあっても、戦術で補った高い命中力は仲間が削ったドーリスの回避力と相まって、錆次郎が叩き出せる最大の威力で死神の黒衣を切り裂いた。
「……私、嫌いよ。あなたみたいに……滑稽なふりをしてるくせに、本気な人……」
 ドーリスはかすかに眉をひそめ、服の裾と足元に確かな傷を残した錆次郎を睨みつけ、鎌を高々と振り上げた。
「それはどうもありがとうねぇ。そっちも顔に似合わず必死みたいだけど、死神にはのっぴきならない事情でもあるのかな」
 飄々と返す錆次郎に、ドーリスはかすかに首を横に振り、独り言のように応えを返す。
「私には……興味ないわ。難しいことは……他のお姉様たちが、考えるから……」
 何かしらの計画を練っていた死神は居るのかも知れないが、彼女自身は関心がないようだ……そして、ドーリスは、頭上の鎌を勢い良く振り下ろした。
「……!」
 ラティクス、降夜、白はこぞって錆次郎をかばおうと動いたが、須臾の差で早かったのは、ドーリスの鎌。
 死を招く鎌は一切軽減されることなく彼を切り裂き、錆次郎の意識ごと切り飛ばした。
「……これ以上は、絶対にッ!」
 全員の生還はもとより、できれば全員無事に自分の足で立って、戦いを切り抜けたかった。
 白の最良の形での願いは、この時点で叶わなくなったが……それで心折れる弱さなど、持ち合わせていない。
 マインドリングから遠当てのように光を迸らせ、白は残るアメフラシの1体を蒸発させた。
 残りわずかなアメフラシとドーリスに、最初の戦闘不能者を出したケルベロス。
 戦いの天秤は激しく引き合い、わずかな切欠で傾く緊迫した状態で釣り合っていた。

●大雨の行方
 ほどなくアメフラシは蹴散らされ、ドーリスは単独でケルベロスたちと対峙する。
 だが、アメフラシを全滅させてようやく本番と言わんばかりに、ドーリスの攻撃は苛烈を極め……激しいぶつかり合いは、息つく暇もなく9分目を迎えていた。
「嫌い……みんな、嫌い……お姉様……」
 その『お姉様』は、今パレスの奥にあるネレイデスか、東京タワーで彼女を『生かした』ようにも見えたマイラか、はたまた他の死神か。
 その答えはドーリス自身しか知る由もないが、ケルベロスの渾身の攻撃を受け続け、無尽蔵に見えたドーリスの体力もまた、限界が近くなっていた。美しかった黒いドレスは切り傷や焦げ跡で見る影もなく、彼女自身の傷もまた、白い肌に痛々しい。
 そして全てを拒絶するかのような黒い雨が、辺り一面に巻き起こった。
「……済まねぇ」
 ラティクスの短い言葉に込められていたのは、無念。
 鎌に防御を合わせ、黒雨に回避を合わせ、守りの戦術でここまで持ちこたえてきた。
 だがどれだけ最善を尽くしても、限界というものはある。意識までは手放さず、最後に気の弾丸をドーリスに飛ばしたのは、ラティクスせめてもの最後の意地だったが……守れるものは全て守りきり、ついにラティクスは地に膝をついた。
「後は私たちが引き受けた。大丈夫だ……こちらも苦しいが、間違いなくあちらも苦しいのだからね」
 メイザースはことさらに落ち着いた声色で、残るケルベロスたちを励ましつつ、生命を賦活させる電気ショックを雅也に飛ばす。焦りを表に出すのは信条に反するし、戦局に対して何一つプラスにならない。メイザースの冷静な振る舞いは、確かに仲間への力となっていた。
「ああ、わかってる……俺のテリトリー、守りきってやるぜ!」
 ここ房総半島は、雅也の地元。メイザースから受け取った援護に、仲間を、そしてこの地を守りたい意思……強化と思いに支えられた一撃は、雅也の体内に流れるグラビティを存分に日本刀に乗せ、ドーリスを真正面から叩き切る……!
「……っ。本当に……嫌な、戦い……!」
 渾身の一撃を受けたドーリスの身体が揺らぎ、黒衣の裾をたなびかせて、踏みとどまる。
「皆……嫌い……!」
 強烈な衝撃から体勢を立て直したドーリスは、ゆらりと鎌を構え、忌々しい一撃をもたらした雅也を含めた一帯を、幅広く薙ぎ払った。
「……ぐッ!」
「……!」
 前衛に向けて薙ぎ払われた黒い大鎌は、雅也を、そして降夜を派手に弾き飛ばし、二人の身体を地面に叩きつけた。
「峰岸、日月!」
 自身もあと少しで倒れ伏すところだったアンセルムが、二人の名を叫ぶ。
「せめて……其処に居てもらうぞ」
 降夜がギリギリで踏みとどまりながら放ったのは、その名の通り強烈なグラビティを針のように凝縮させた、『烈』。最後の力を振り絞って相打ちにも似た反撃を浴びせたのち、降夜は倒れ伏した。
「これは……」
「いや、大丈夫だ! お前らなら、やれる……!」
 白が最後の覚悟を決めかけた、その時。
 意識を手放す直前、雅也はいっそふてぶてしく微笑み、残った4人の全力攻撃を促し、目を閉じた。
「……分かった」
 決めてきた撤退や、数人の『最後の手段』の条件にかかる状況ではあるが、だからと言って、あと一歩で倒せる敵を逃すことはない……雅也の意志を受け取った和希は、たった一言短く応え、バスターライフルをしっかりと構え直した。
「…………! お、姉、さま……」
 そこから放たれたのは、戦いにあって冷静冷徹を心掛ける和希の魂が現れたような、冷たい、冷たい光だ。
 ドーリスの胸を貫いた光弾……それは、戦いの終わりを告げる知らせの狼煙。
 満身創痍のケルベロスたちは、ついに黒い雨を晴らしたのだった。

作者:桜井薫 重傷:峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147) 風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月11日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 13/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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