リザレクト・ジェネシス追撃戦~尊大なる死神の反抗

作者:澤見夜行

●ネレイデスパレス
 十二月二十三日、『リザレクト・ジェネシス』はケルベロス達の勝利に終わった。
 敗残した死神勢力――そのうちネレイデス幹部達は、千葉県館山湾に出現した本拠地、ネレイデスパレス内で顔を付き合わせていた。

 ギリシャ風の宮殿内。白い柱が並び立ち荘厳な雰囲気を作り上げている。
 その最奥では『輪廻の死神』オーピス・ネレイデスが、何事か祈りを捧げていた。
 そして、それ以外のネレイデス幹部達は、彼女の祈りを妨げる事がないように、守りを固めていた。
 いくつかの出入り口守護する形となったネレイデス幹部だが、その中に『名誉の死神』クレイオーが、忌々しげに顔を歪めていた。
「己、ケルベロス共め、一度ならず二度までも我らの邪魔立てをするか」
 東京六芒星決戦、そしてリザレクト・ジェネシスと二度の敗北を喫したクレイオーは怒りに身を窶していた。
「だが、ここまでだ。これ以上の邪魔立てはさせん。
 イアイラを始め我らの為に散っていった同胞の為にも……決してオーピスの祈りは邪魔させぬ」
 決意するように呟くクレイオーは配下の屍隷兵達と共に、一人防備を固めるために歩き出した――。


「リザレクト・ジェネシスお疲れ様だったのです。
 皆さんの活躍のお蔭で、無事に死神勢力に勝利を収める事が出来たのですよ」
 集まった番犬達にクーリャ・リリルノア(銀曜のヘリオライダー・en0262)がニコニコと先の戦いの活躍を褒める。
 しかし、直ぐに真剣な表情となって、先を続けた。
「その上で、リザレクト・ジェネシスで撃破できなかった多くのデウスエクスが残されているのです。
 これに対し有効な予知が働いた為、追撃戦を行う事になったのです」
 クーリャはモニターに地図を表示する。
 千葉県館山湾を表示した地図がクローズアップされた。
「皆さんに行って貰いたいのはここ千葉県館山湾なのです。ここに出現したネレイデスパレスと呼ばれる巨大神殿を強襲するのです」
 ネレイデスパレスには、その名の通りネレイデス幹部達が集結している。
 有力敵は、『名誉の死神』クレイオー『暗礁の死神』ケートー、『先見の死神』プロノエー、『黒雨の死神』ドーリス、『輪廻の死神』オーピス・ネレイデス、の七名だ。
「皆さんに担当してもらうのは『名誉の死神』クレイオーになるのです。尊大ながら泣き虫な死神ですが、その戦闘能力はかなり高く強敵なのです」
 夥しい数の光球を生み出し、破壊的な力もつ光線とともに攻撃してくる。東京六芒星決戦でも倒しきれなかったクレイオーの実力は本物だ。
 クレイオーはデスパレス最奥へと繋がる出入り口の一つを守備している。巨大な神殿だ、戦闘に支障はでないだろう。
「今回は『戦力を集めて確実に撃破する戦術』を取る事ができるのです」
 クーリャはチラリと、横に立つセニア・ストランジェ(サキュバスのワイルドブリンガー・en0274)に視線を送る。
「ああ。私も微力ながら手を貸すつもりだ。
 確実に倒すチャンスでもある、一緒にがんばろう」
 力強く、セニアが微笑んだ。
 説明を終えたクーリャは資料を置くと番犬達に向き直る。
「リザレクト・ジェネシスの勝利を、より完璧なものにする為にも、どうか、皆さんのお力を貸してくださいっ!」
 ぺこりと頭を下げたクーリャは、そうして番犬達を送り出すのだった。


参加者
相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)
コクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)
ウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)
プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)
服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)
彩葉・戀(蒼き彗星・e41638)
ジュスティシア・ファーレル(エルフの砲撃騎士・e63719)

■リプレイ

●空挺突入
 吹きすさぶ風をその身体全体で切り、その身を空へと投げ出した。
 眼下に広がる光景は、まさに悪魔の巣窟か。
 ネレイデスパレス。
 死神集団ネレイデス幹部の集うその場所へと、番犬達は追撃、急襲を掛ける。
 瞬く間に地上が迫り、ネレイデスパレスに作られた”庭園”へと着地する。
 多くの番犬達が互いにハンドサインで武運を祈り、それぞれの目的目指して駆け出した。
 『名誉の死神』クレイオーを狙うこの班の総勢は二十六名。通常編成三チームを越える人数が集まった。
「へっ、心強ェかぎりじゃねぇか」
 自分達の先を行き、居並ぶ屍隷兵達を蹴散らしていくサポートメンバーに相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)が笑みを浮かべる。
「この先にいるクレイオーと戦うには、出来うる限り力を温存した方がよいからな。
 こうして露払いをしてもらえるのは助かるというものだ」
「そうね。
 あの時のように逃がす訳にはいかないもの」
 東京六芒星決戦でクレイオーと一戦を交えた経験からか、慎重に戦力を見定める コクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)と円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214) 。二人は今一度、『名誉の死神』に挑む機会を得た。三度目はない。ここで必ず決着をつける心算だ。
「いつも、なら、逃散されてしまって、なかなか追撃など、は、できないところです、が……、
 もっと、も、彼らにして、も、勝算も覚悟もあってのこと、でしょう。気を引き締めかかりま、しょう」
 敵はここネレイデスパレスに集結し、自らの足場を固めようと防戦にでた。それは先の東京六芒星決戦や、リザレクト・ジェネシスの結果を受けて、逃げうる先を見失ったと思われる。敵も生き延びることに必死だ。ウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)の言うように、慎重に気を引き締めて挑むことが必要だろう。
「ふふ、今度は逃がさないから。
 もう一度私の力で気持ち良く果てさせてあげる」
 以前クレイオーに抱きついたときの記憶を思い出しながら、プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)が自らの唇の舐め上げる。悦めかしい輝きが反射した。
「ほお! 本当にこんなところに神殿をのう。
 ここに踏み止まりたるはやつらも死戦は覚悟の上であろうな!」
「戦争では相まみえることはなかったが……彼奴等も後がない事は重々に承知しているはずじゃ。
 ここを年貢の納め時としたいところじゃのう」
「それは善哉! 精々死合おうではないか!」
 一度は逃がした相手だ。今度こそ決着がつけれるものと考える服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)はからからと笑う。
 彩葉・戀(蒼き彗星・e41638)もまた他の者と同じ気持ちだ。ここを決着の場とし、逃がす事など考えてはいない。
「前回は上手く分断することができませんでしたが……今回は多くの仲間が力を貸してくれることです。
 『名誉の死神』クレイオーに確実に止めをさして見せます」
 クレイオーに付き従っていたイアイラを仕留めたことを誇りするジュスティシア・ファーレル(エルフの砲撃騎士・e63719)が東京六芒星決戦を思い出しながら、集中力を高めていく。あの時と同じミスは繰り返さないと、万全を期する構えだ。
 サポートメンバーのシェミア、泰地、コロッサス、ヴィルフレッド、絶華が先行して屍隷兵『寂しいティニー』を次々と薙ぎ払い道を切り開く。
 そうして出来た通路の先、広いホールに辿り着く番犬達。ホールの奥では玉座に座った『名誉の死神』クレイオーが、尊大に見下ろして番犬達を睨めつける。
「ふん、騒々しい犬どもが群れて来おったか」
「相変わらず容姿にそぐわぬ尊大さか。
 先日の借り……返させて貰おうか」
 鼻を鳴らしたクレイオーが、手にした杖で一突きすれば、ホール一面に広がるティニーの群れ。これだけの犠牲者がいたことに戦慄すると共に、怒りがわき上がる。
「このネレイデスパレスに足を踏み入れたのだ。これくらいの歓待は想像していたであろう?
 これよりは後にも先にも行けぬと心得よ。貴様等犬どもは、ここで悉く果てさせてやるわ」
 玉座より立ち上がるクレイオー。番犬達を下とみながら、しかし侮ることはもうしない。
 最初から本気だろう。広がる殺気と肌を痺れさせる圧力に、心が闘争心の火を熾す。
「さぁ、我が圧倒的な力を前に、平伏すがいいケルベロス!
 我はクレイオー! 『名誉の死神』なるぞ!!」
 爆発的な殺気が広がると同時、一斉に戦いの火ぶたが切り落とされた。

●憤怒猛るクレイオー
 襲い来るティニーの群れに対し、サポートメンバー達がグラビティを迸らせ戦線(ライン)を作り出す。
 フレック、リューイン、右院、トートの連係攻撃が押し目となってティニー達を一歩下がらせ、そこに切り込んだ鬼太郎、そしてリリエッタ、ルーシィド二人の連携的グラビティがティニー達を薙ぎ払い、クレイオーへの道を作り上げた。
「さあ、行って!」
「悪ィな! 助かるぜ!」
 作り上げられた道を走り抜けるメインメンバー八人。ティニーの群れを越えると同時、夥しい数の光球が降り注ぐ。背筋の凍る思いをしながら地面を這って避けきると、尊大に見下ろすクレイオーが八人を睨めつける。
「ふん、一人くらいは殺れると思ったが、存外動きは俊敏よな」
「イヤねぇ……自分一人で気持ち良くなるなんて、マナーがなってないよ」
 プランがすぐに飛び起きて、一足飛びにクレイオーへと接近する。掌から生み出したドラゴンの幻影を撃ち放つとクレイオーを炎上させる。
 だが――。
 立ち上る火炎を者ともせずクレイオーが飛び出しプランの腹部を錫杖で叩きつける。
「チッ――! この野郎ッ!」
「一気に攻めるぞ――!」
 吹き飛ぶプランと入れ替わるように竜人とコクマが飛び出して、クレイオーへと攻め手を伸ばそうとすれば、クレイオーを守るようにティニーが立ちはだかる。
 当然その動きは見越している。サポートメンバーが多くのティニーを抑えてくれているが、それでも敵ディフェンダーと思われる数はかなり多いのだ。無茶な追い込みはせずに、まずは順当に数を減らしていく。
 猛る雷光を抑えつけ、強弓となした竜人の影矢が守るティニーを撃ち貫き、回転力をもったコクマの一撃が、痺れるティニーを叩き潰して影の泡沫へと帰した。
「負け犬は大人しく尻尾巻いて帰ってりゃ良かったんだよ」
「ふん、姦しい犬め。一度の勝利で調子づいたか」
「はっ――なあ。
 まさかとは思うがちょっと距離と時間置けばもう俺らから狙われないだろうと思ってねえよな?
 悪ィが、俺らはしつこいぜ――」
「知っているとも、故に禍根はここで断つ。貴様等の首を晒し上げ二度と反抗など考えぬようにな!」
 クレイオーより放たれる光線が、キアリを狙って放たれる。その一撃をウィルマがその身を盾に防ぎ切る。
「だ、大丈夫、で、すか?」
「ありがとう、助かったわ」
 感謝の言葉を述べるキアリの横から無明丸が疾駆する。
「わははははは! ここで会ったが百年目! さあ今度こそ白黒着けようぞ!」
「ふん、どいつもこいつも見知った顔だな! 覚えてるぞ貴様、我に拳を叩きつけた奴であろう!」
 今一度繰り返される景気づけの無明伝説(全力殴り)をクレイオーはティニーを盾に防ぎ切る。
「見知った顔ならばわかっていよう。
 イアイラを犠牲にせねば生きながらえることの出来なかったお主が、妾らに勝てると思うてか?
 力尽きるその時まで、決して逃がしたりはせぬぞ」
 仲間からの要請で命中の底上げの必要を見た戀がオウガ粒子を散布し、仲間の集中力を高めていく。
「イアイラの名を貴様等が口にするなっ!
 決して許しはせぬ! あの場に居合わせた者である以上、貴様等こそこの場から逃げられると思うでないぞ!」
 憤怒に猛るクレイオーが怒りのままに夥しい数の光球を番犬達に叩きつけていく。
「イアイラを殺した私達が憎い?
 あの下衆人魚がそんなに大切だったの?」
「なにおう!」
 ジュスティシアの言葉にクレイオーが目を剥いた。クレイオーにとってはかけがえのない存在だったかもしれないが、イアイラのしてきた事を考えれば、番犬達にとってイアイラは悪鬼羅刹に他ならない。
「大丈夫、あなたも同じ地獄へ送ってあげる」
 ヒールドローンを展開し、足下に守護星座を描き出せば、仲間の防御力と破邪の力を高めていく。大事を成す前の下準備として十分なものだろう。
「六芒星決戦の時は、殺し切れなくてごめんなさいね、クレイオー。
 今度こそしっかり殺してあげるから。
 あの世で大好きなイアイラと再会して咽び泣きなさい!」
 屍隷兵に埋もれてクレイオーが見えなくなる事も危惧していたキアリだが、その心配は杞憂だったようだ。『イアイラへの暴言』というのも聞いてみたいところだったが、無駄に敵を怒らせる必要もないだろう。それに暴言のようなものはジュスティシアが行ってくれているので、これ以上は必要ないと考えた。
 夥しい光球に対して、雨の様に放たれる竜砲弾。グラビティを中和するエネルギー光弾は確かな光を持ってクレイオーの攻撃を弱化させる。
「くっ……、あの世でイアイラに詫びるのは貴様等のほうだ! その身を地獄の釜で茹で上げられながら、イアイラへと許しを請うがいい!!」
 先の戦争では僻地の担当となり、番犬達に報いを受けさせる事の叶わなかったクレイオー。今こそイアイラの無念を晴らすときと、目を剥き怒りのままに憎しみを叩きつける。
 東京六芒星決戦から続く禍根。それを後に引き摺ることは良しとはしない。
 その為に、総員二十六名――これだけの番犬達が集まったのだ。
 名誉ある死神の反抗を、番犬達はその牙で食い破らんとしていた。

●何も掴む事無く
「傷を受けた者は一度下がって立て直せ!
 数は多いが、私達が優位に立っている、一気に押し込めるぞ!」
 セニア・ストランジェが声をあげ、士気を高める。サポートメンバーの多大な活躍によってホールを埋め尽くしていたティニーの数は目に見えるほど減っていた。
 クレイオーが悔しさに顔を歪ませる。数的優位を取りながらも質で劣るというのか。イアイラの用意してくれた尖兵達が一体消えるごとに、イアイラとの絆も失われていくようで。その考えに頭を振るう。そうはさせまいと、自ら先陣を切り番犬達と相対する。
 一方で、番犬達もこれだけの人数を用意しておきながら、余裕のある戦いというわけではなかった。
 サポートメンバーの多くはティニーとの戦いで消耗し、クレイオーへと挑む余力は少ないだろう。クレイオーへの攻撃を視野に入れていたサポートメンバーと共に挑むが、やはり彼我の戦力差は大きい。
 暴走――という手段を取りうるほどの劣勢ではない、が、油断をすれば一気に崩れていってもおかしくはない、そんな戦いだ。
 幸いディフェンダーと思しきティニーの排除は叶った。こうなれば一気にクレイオーへと攻撃を集中することができるだろう。
 戦いは互いに譲れぬものを抱えて、徹底的に抗い合う戦いへと移り変わっていった。
 ここからは意地と意地のぶつかり合いである。
「さようなら」
 醒めた殺意が、地獄から蒼炎の巨大剣を呼び出す。ウィルマの詠唱に合わせて縦横無尽に対象を滅多斬る暴の剣。クレイオーの身体に斬撃の後が刻まれるも、クレイオーは一歩も引く事はない。
「見事! じゃがこれはどうじゃ!! ぬぅあああああ――――ッッ!!」
 無明丸の弾丸の如き拳が叩きつけられる度にクレイオーの身体を凍結させる。光速で放たれる凍結のストレートにクレイオーは歯噛みするも、無明丸の得意レンジに立ちながら圧倒する反撃を見せ無明丸を蹴り飛ばす。
「まだじゃ、倒れさせておくわけにはいかんぞ。
 お聞きあれ。幻想曲」
 星々の儚き光を連想させるその一曲は響き共鳴し傷を癒やしていく。対象となった無明丸の目には優しき癒やしの光が舞い降りていたはずだ。
 強力なクレイオーの攻撃の数々に攻め手へと回る余裕はないが、戀の的確な回復によって膝付き倒れる者はまだいなかった。
「アロン、まだいけるわね!」
 サーヴァントのアロンに声を掛けながら、キアリが繰り返し攻撃を浴びせていく。徹底的な行動阻害は、クレイオーのヒールを持ってしても排除すること叶わず、時間を掛ければ掛けるほど、優位を取っていく形となった。何度となく邪魔をしてくるキアリをクレイオーが睨む。そういった反応を得られることこそ、効果があった証明だ。
 その隙を狙ってプランがクレイオーに取り付く。乳房へ回る手、股間へと侵入する気配にクレイオーが目を剥いた。覚えている、あの感覚がまた来る。
「イかせてあげるね 真っ白に果てていいよ」
「あぐっ……! こ、この――ヤメロぉ!!」
 快楽と苦痛の強制に、上気した顔を青ざめさせて、クレイオーが取り付いたプランを殴り飛ばす。吹き飛ばされて地面に着地したプランはしかし、楽しそうに舌で親指を舐めた。
「オラァ! 観念しちまいな――ッ!!」
 愛用の鎌を回転させて投げると同時、今一度猛る雷光の弓で、影矢を射る。斬撃と雷の破壊の力にクレイオーが身体を震わせる。
 竜人の勢いは止まらない。
 一足飛びに間合いを詰めると刹那の呼吸で、身体を回転させる。ドラゴニアンとしての特徴である太い尻尾がクレイオの横腹に叩きつけられ、その強靱な一撃にクレイオーは肺の中の空気をすべて吐き出した。
「イアイラは貴様を護って死んだ」
 そこに、コクマが言葉を紡ぎながら肉薄する。燃えさかる地獄の炎が武器に纏う。
「なにを――」
「ああ、勘違いするな。
 奴は実に満足そうだった。貴様の無事をな」
 叩きつけられる地獄の炎。クレイオーは焼かれながら東京六芒星決戦を思い出す。

 クレイオー様……良かった……あなたさえご無事なら、悔いは――。

 イアイラの最後を思い出し瞳に涙が溢れてくる。しかしその涙は地獄の炎に焼かれて蒸発した。
「――だが、そんな事は許されない」
 コクマは言う。イアイラの願いは届かない。届かせない。
「奴は咎を悔いる事なく死んだ。
 ――ならば。
 奴の命を懸けた行為を無為にしてやろう」
 そこに慈悲などなく。多くの犠牲者を生み出したイアイラ、そしてその主たるクレイオーへの罰を求める。
「貴様は、唯無意味に死ね」
「――ふざけるなぁぁ……!!」
 巨大化した青白い水晶の刃もつ鉄塊剣による横薙ぎに切り飛ばされながら、クレイオーは怨嗟を零し目の前に立ちふさがる地獄の番犬達をその瞳に焼き付けた。
「イアイラを殺しただけでは飽き足らず、その願いすらも踏みにじろうというか!
 人より生まれた番犬が……! よくぞそこまで増長できたものよ!!」
 次々と光球が生み出されていく。その量はホールを埋め尽くし、なお増え続ける。
「許さん……貴様らだけは絶対に許さないぞ!!」
「上等だよ。こっちもテメェらを許すつもりなんざ、毛頭ねェ」
「可愛い相手だけれど――今度は逃がさないよ、此処で終わらせるね」
「さあ! いざと覚悟し往生せい!」
 豪雨のように光球が番犬達目がけて降りしきる。
 その悉くを集った二十六の番犬達がグラビティによって、打ち返し走る。
「ぬしらが手駒とした者は何ものか。
 ぬしらが儀式の糧とした魔力は誰から奪ったものか」
 括の言葉に犠牲者の顔が浮かぶ。死神達の行いは決して許されるものではないのだ。
 ベルーカの一撃にクレイオーが一歩たじろぐ。肉薄するナナツミがくくと忍び笑いを漏らした。
「名誉の称号もこれまでだねぇ……これからは不名誉の死神として語り継がれるのかなぁ?
 名誉ある死を……ふふっこれでキミはようやく真の死神になれるんだよぉ?」
「だまれ、だまれ、だまれぇ……!」
 涙を零すクレイオー。その本質は幼い子供にすぎず、今は唯癇癪を起こしているだけにすぎなかった。
「皆さん行きますよ――!」
「お供しよう」「いくぜ――!」
 ジュスティシアと既知の中であるアルベルトとフレデリが同時にグラビティを編み上げる。
 叩きつけられる渾身の一撃に、クレイオーがついに膝をついた。だが、まだ力は尽きていない。
 止めへと急ぐプランを光線で吹き飛ばし、癒やしの力を編み上げた戀に今一度光線を放つ。しかし、その一撃は最後まで盾として立ち続けたウィルマに阻まれた。
「おわりだ」
 コクマが腰だめにした大剣を手にクレイオーへと突撃する。青白い水晶の刃がその腹部を貫くと同時、クレイオーが見果てぬ天井へと手を伸ばした。
「イアイラ……同胞達よ……すまぬ、すま……」
 言葉は最後まで紡がれることはなかった。戦艦をも一刀の元に両断する横薙ぎが、確かな手応えとともにクレイオーの身体を上下に切断したからだ。
 涙の乾いた顔は、ただ真白に空を見上げる。
 伸ばした手は何も掴む事無く、ただ、誰か(イアイラ)の手を求め伸ばされた。
 重力の鎖が、その魂を絡め取り、ゆっくりとクレイオーが消滅していく。
 東京六芒星決戦より続いた禍根は、今此処で断たれたのだった。
 同時、ネレイデスパレス全体に鬨の声があがる。
 共に降り立った仲間達もまた、勝利を掴んだのだろう。
 何も掴めなかった死神達に裁きの牙を突き立てた番犬達は、勝利を手に、ヘリオンへと戻るのだった――。

作者:澤見夜行 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月11日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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