リザレクト・ジェネシス追撃戦~沸血のギアツィンス

作者:のずみりん

 白百合騎士団一同を前にレリの訓示が高らかに響く。
「砕け散った宝瓶宮グランドロンの探索――それがお姉さまからの指令だ。お姉さまはこの結末を見通していた! グランドロンの四散に備えるべく、我らをこの地に留めていたのだ! 流石、お姉さま。常に先の先を見ておられる……」
 リザレクト・ジェネシスの戦いにおいて、準備万端に戦力を整えていた彼女らだが、ケルベロスとの小競り合いに終始し、敬愛する第二王女ハールからの命令も届くことはなかった。
 それはケルベロスたちがレリら白百合騎士団を恐れていたから。それは第二王女が秘密兵器として自分たちを温存していたから。
 鼓舞する第四王女レリの声に『沸血のギアツィンス』の心は燃え上がらず、ただ静かに不完全に燻っていた。
「それもこれも全て……ケルベロス」
 レリ殿下はいうが、ケルベロスは強く、勇猛だ。そう認めなければ散っていった仲間たち……連斬部隊、騎士イリス、参謀格をであった『魔謀のミュゲット』、彼女らの死が報われない。
 そして現実を認めるほど、第二王女ハールの行動の不可解さがギアツィンスの心を締め付ける。
『ハール王女はレリ殿下を騙し、自分たちをいいように使い捨てようとしている』
 以前の彼女なら、そんなことを考えた事も、考える必要もなかった。
「我らの目的はあくまでもグランドロンの探索、ただ一つ! それを忘れるな。可能な限り、戦闘は避けよ!」
 高らかに響く主君の訓示も、ハール王女への疑念を振り払うかの如く聞こえるのはギアツィンスの心ゆえだろうか?
 その姿に、ギアツィンスは俯きかけた頭を意識して持ち上げた。
「……我が主、レリ王女殿下の御心のままに」
 自分は打ち砕くもの、切り開くもの。第二王女など関係ない、ただレリ殿下の命を力尽きるまで果たす、ただそれだけだ。

「リザレクト・ジェネシスの勝利、ありがとう。大げさかもしれないが、今回も世界は救われた」
 集まったケルベロスたちをねぎらいつつ、リリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)はデウスエクスたちの動向と次なる作戦を告げる。
「戦いはひとまず勝利したが、戦場からは多くのデウスエクスが離脱している。この状況で禍根を断つためにも、追撃戦を行うことになった」
 リリエが残敵から指し示すのはエインヘリアル、第四王女レリと配下の白百合騎士団。
「私たちの担当は白百合騎士団、連斬部隊を率いてきた『沸血のギアツィンス』だ」
 沸血のギアツィンス……過去に連斬部隊と呼ばれる白百合部隊の精鋭と共に、女勇者選定の事件に関わってきた親衛隊の一人だ。
 彼女は、東京六芒星決戦でも配下と共にレインボーブリッジを守り、その強さと苛烈な忠誠心、仲間への情熱をありありと見せてきた。
「もっとも、最近の戦いと第四王女の様子に心穏やかというわけではないようだが……そちらは後ほど話そう」

 話を戻そうとリリエは白百合騎士団の現状について説明する。
 リザレクト・ジェネシスの戦いでは目立った動きを見せなかった第四王女レリだが、ここにきて彼女らは第二王女ハールから宝瓶宮グランドロンの探索を依頼されたらしい。
「王女も親衛隊の面々も第二王女ハールの動きには何かしら思うところがあるらしいが、命令には従って探索に向かおうとしているようだ……その探索に向かう途中を強襲し、撃破する」
 言い方は悪いが『暗殺』という奴だ、とリリエ。
「ただし第四王女と白百合騎士団は軍勢で行動しており、結束は固い。確実に倒すには、かく乱や陽動、或いは、奇襲・強襲作戦の方法を考える必要があるだろうな」
 あるいは第四王女は比較的騙されやすいので、会談を申し込んでその席で暗殺を試みる……あるいは戦力差が圧倒的なら交渉によって優位を得ることを考えてもいいかもしれない。
「だが忘れるな。彼女らはエインヘリアルであり、デウスエクスだ。人間の情に訴え、変わることに期待するようなお願い……説得は通用しないと考えた方がいい」
 特にギアツィンスは仲間思いだ。よほど弁の立つものが効果的な交渉を行わない限り、戦闘は避けられないだろう。
「奇襲の作戦と状況にもよるが、ギアツィンスはこれまでと同様に連斬部隊の銃士たちを率いている。うまく陽動をかけても二人か三人は同時に相手にすることになるだろう」
 幸い、これまでの戦いで彼女らの能力はほぼ判明している。過去の戦闘記録を元に作戦を立てれば優位に戦いを進められるだろう。

「今回の第四王女襲撃作戦は六チームで連携して行う予定となっている。他の班ともうまく連携し、勝利をつかんでほしい」
 危機はしのいだが、デウスエクスたちは未だ精強だ。今回の作戦で勝利の足場を改めて固めていこうとリリエはまとめた。


参加者
フィルトリア・フィルトレーゼ(傷だらけの復讐者・e03002)
ハインツ・エクハルト(光を背負う者・e12606)
アーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895)
ソフィア・フィアリス(傲慢なる紅き翼・e16957)
空木・樒(病葉落とし・e19729)
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)
リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)
クネウス・ウィギンシティ(鋼鉄の鎧を纏う武装エンジニア・e67704)

■リプレイ

●三度目の対峙
 三度目となる白百合騎士団『沸血のギアツィンス』との対峙は、奇妙な形で始まった。
「今度は何を企んでいる」
「言ったとおりだ、あんたたちの姫さんと話がしたい。話がまとまるまで停戦したい」
 ハインツ・エクハルト(光を背負う者・e12606)は『Heiligtum:zwei』ライオットシールドを地に立て置き、見下ろす女巨人のアメジストに似た輝きの双眸を見つめ返す。
 芝浦の陣地より出陣しようとした彼女らを捕らえた状況は一触即発。長銃の引き金に手をかける連斬部隊の銃士を手でいなす彼女だが、その利き腕は大斧を肩に構えたままだ。
「武器をとれ、ケルベロス」
 内の激情を抑えたような、静かな声が命じてくる。一方的な蹂躙は誇りが許さないということか。
 それは過去の彼女らの所業と矛盾も甚だしく思えるが、ケルベロスたちを一個の戦士と認めたという事でもあるのだろう。
「あまり高望みはしていなかったけれど、意外と冷静なのね」
「無防備な相手を切り捨てて、イリスの無念がはれるかッ!」
 だが口で言うほど心中が穏やかならざることは、ソフィア・フィアリス(傲慢なる紅き翼・e16957)への答え一つ、脇を固める七宝・瑪璃瑠らを睨みつける瞳一つをとっても明白だ。
 声が震え、握る手が音を立てる。いま感情のままに大斧が振り下ろされれば、もはや互いに引くことはできなくなる。
「信じて待ち続けるのも、スナイパーらしいですが……最悪、手を汚す必要がある時は」
「まぁ結果はまだです。焦らず気負わず参りましょう」
 地に下ろした『R.F.Buster Rifle「Avenger」』を確認するクネウス・ウィギンシティ(鋼鉄の鎧を纏う武装エンジニア・e67704)は、やんわりと微笑む空木・樒(病葉落とし・e19729)にわかっていますと頷き返す。
 歴戦のケルベロスたちも柔ではない。交渉はする、最後まで待つが、価値を譲る気はこの場の誰にもありはしないのだ。
「伏兵や奇襲を行う相手ではない、とは思いますが……」
 だから楽観視はできないまでも、アーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895)は砲を下ろし仲間たちを待った。
 仲間たちを信じないわけではない、だが頑なな彼女らの姿と過去の経験が不安を呼び起こす。それは無言で背中を預けてくれているマーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)も同じだろうか。
 赤銅をまとう黒鋼の騎士は手にした『DMR-164C』ライフルを捧げ銃に構えながら、微動だにしない。
「リティさん」
「大丈夫、まだ連絡はないわ……いえ、待って」
 リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)の『増設レドーム・センサーユニット』が聞き耳たてるように動いたのは、アーニャが呼びかけたまさにその時。
 その意味は一拍遅れ、ケルベロスたち……そして恐らくギアツィンスにも聞こえた。鬨の声、足音、喧噪が混然となった反響。本陣の方角から聞こえたそれが示す事は一つ。
 ただ予定と異なるのは決裂を示す信号弾がまだ上がってはいないという事だ。
「交渉は続いているのよ。部下の不始末はレリ王女に後ろめたさを与えるかも」
「黙れ。それ以上は我が主君への侮辱とみなすぞ!」
 銃士たちを制していた手が下がり、大斧を握る。牽制するソフィアの呼びかけもギアツィンスは止められない。
「戦うしか、ありませんか……?」
「我々はレリ様を御守りに馳せ参ずる。止めなければ貴様らの仲間が傷つき死ぬぞ。それでも戦えぬ腰抜けか、フィルトリア・フィルトレーゼ!」
 最上級の好敵手への叱責へ、フィルトリア・フィルトレーゼ(傷だらけの復讐者・e03002)は地に置いた戦鎚『フォルティシモ』を取り、ただ構える。返事は地を叩く鬨の音、それだけでいい。
「こい、ケルベロス!」
「仕事の時間ですね。ならば、するべきことをしましょう」
 準備を整えるケルベロスたちを満足げにみやり、ギアツィンスは大斧を振りぬいた。
 クネウスの手がライフルを構え、動力コアへ共に接続された動力甲冑『R.F.Power Armor「Blitz」』が駆動する。祈る前に、まだすべきことはあると。

●応戦、迎撃戦
 瓦礫の礫を伴った怒涛の衝撃波が前衛を跳ね飛ばす。
 接地用パイルを突き立てて耐えるマークの、構えた『HW-13S』ショルダーシールドから覗く瞳に赤い光が輝いた。
「アンタが俺達を憎むのはわかる。だが俺達にも譲れないものはある。それを信じてくれとは言わん、戦闘で確めろ……SYSTEM COMBAT MODE」
「連斬部隊は引き受けます。この紫水晶の輝き、貴方に無視できますか?」
 声と同時、フローネ・グラネットのドローンが紫水晶の輝きを放つ。突撃するギアツィンスに割り込み、『アメジスト・フラッシュ』の輝きが白百合騎士団、連斬部隊の注意を奪う。
 反射的に銃剣を構え、奇襲の相手を探す彼女らの前にはソフィア・グランペール(レプリカントの鎧装騎兵・en0010)と、瑪璃瑠たち協力者らの姿。
「フィルトリアさん、ギアツィンスさん……決着を」
「余計な気遣いを……連斬部隊、気を抜くな、分断されるぞ!」
 一礼する瑪璃瑠の背にかかるギアツィンスの声は呆れか、溜息か。ともあれ彼女らの戦いはこちらで、これからだ。
「呼ばれてきたっすけど厄介な仕事っすねぇ……まぁとりあえずやるっすけど、お年玉頂戴っす」
「帰ってからな!」
 ライオットシールドを構えたハインツも銃声に負けない声で蒲に叫ぶ。
 ギアツィンスの率いる連斬部隊は五名。できる限りを引き離してほしいが、それは仲間たちに負担を強いる事でもある。戦力差は双方、無事に帰れたら万々歳だ。
「残り三人か……いくぜ、チビ!」
「オゥ!」
 飛び出すオルトロス『チビ助』の剣が、連斬部隊銃士と激しく切り結ぶ。戦線を押し上げるようにハインツは盾を一気に前へと押し出した。
「押し返してくるか、いいだろう!」
 迎撃してくるのは闘気の弾丸。フィルトリアの大槌と打ち合いつつでありながら、逆手で放たれたそれは瓦礫に爆発してケルベロスたちを炎に包む。だがまだだ。
「ギアツィンス様、後ろを……あぅっ!?」
「狙撃だと!?」
 突出しすぎた。
 ギアツィンスが気づいたのは、援護する銃士へとクネウスの対デウスエクス兵装『Georgios』アームドフォートのフォートレスキャノンが叩き込まれた後。
「補足完了。手加減して捕縛できるのが最善ですが……」
「あまりえり好みはできません、銃士隊はお願いします」
 救援に向かおうとするギアツィンスを阻むアーニャの砲撃。
 連斬部隊の面々がフローネに誘導されたように、彼女自身もマークの放った『RED EYE』の怒りに誘われている。部隊はケルベロスたちの思惑通り、まんまと分断されていた。
「このまま銃士たちを抑えるわ。オウガ粒子、広域散布」
「見え透いた連携など、恐るるに足りません。今の貴女ではね」
 リティの『メタリックバースト』に導かれ、樒の『殺神ウイルス』と声がエインヘリアルの勇者たちを捕らえていく。
「見てきたような、口を聞く……ッ!」
「な、しまっ……ッ!」
 だがそれでも揺るがないのがギアツィンスの強さだ。大振りに叩き込まれる斧刃はフィルトリアの戦槌を跳ね除け、振り抜く勢いを乗せた回し蹴りが『ブレイザークロス』越しに突き刺さる。
「フィルトリアさん!」
 アーニャの声と激烈な砲撃が追撃を妨害せんと放たれるが、ものともせずに女騎士は爆風の嵐をかいくぐった。理不尽、だが眩しいほどに一直線な戦い方にソフィアは思わずため息をつく。
「愚直さは時に美徳、ではあるけど……あぁもう」
「どうした、小細工は終わりか!?」
 ソフィアの指示にミミック『ヒガシバ』の放つ『武装具現化』の武具と打ち合うギアツィンスの姿は、言葉と裏腹に楽しげにも思えた。

●拳と資格
「でしたら! 時よ凍って、テロス・クロノス……!」
 もはや猶予はない、躊躇わずアーニャは切り札を切った。
 逆ハの字を描くガトリングガンとバスターライフル、アームドフォートの一斉射撃と同時に全グラビティを開放、停止した空間の中に更にもう一巡の一斉射撃。
「なに……っ!?」
「これが私の全力攻撃! デュアル……バーストっ!!」
 そしてダメ押しの一打。アーニャ全力の同時二重攻撃には、さしものエインヘリアルの女傑も踏みとどまれない。吹き飛ぶ姿を追撃するミサイルが更に猛追し、爆風が連斬部隊もろとも姿を消し飛ばしていく。
「この程度……怯むかぁ!」
「SURVIVE TARGET……2……3……!」
 だがまだだ。油断なく構えたマークとハインツの大盾に打ち返される呪いの聖弾が断続的に穴をあけ、連斬部隊の生存と意地を伝えてくる。
「痛みは溜まってきているはずです。、今のうちに立て直しましょう。リティさん、例の者を」
「了解。ドローン各機、支援対指定完了……薬剤指定、『王薬【囁く岩】』、用法、用量データロード。ドローン、樒式薬事・医療術式による支援を開始」
 リティの『メディカルドローン』に乗せて、樒は『王薬【囁く岩】』を処方する。
 かつてポリネシアのとある部族が決戦に用いたとされる禁断の戦意高揚薬は、ケルベロスたちに魔弾に対抗する破剣の力と癒しを力強く与えていく。
 連斬部隊の癒し手たちも癒しの弾丸を打ち合って体制を立て直しているが、散布された殺神ウイルスのぶんと手数においてケルベロスたちに幾分劣る。
「にしても……過半数をメディックとは、大胆というか、慎重すぎじゃないかね」
「貴様らの力は存分に見せてもらったがゆえだ」
 蒲たちが誘い込んだ二人のうち一人もメディックのポジションだったとハインツは記憶している。
 それが場を離れてなおメディックが二人……五人中三人が癒し手という構成は、ずば抜けて強力なギアツィンスを軸にする戦術としても少々いびつだ。
『推論、攻撃的防御、ないし戦力の温存』
「あるいは……恐れている? 仲間を失うことを?」
 マークの『R/D-1』戦術システムAIからリンクされてくる情報にクネウスは思わずつぶやく。
「Boot CODE……マークさん」
「ROGER……!」
 試すようにマークに合図、『R.F.Buster Rifle「Avenger」』を連斬部隊のメディックに構えた瞬間、『FAILNAUGHT』のチャージ開始よりも早く、ギアツィンスの衝撃波と礫がクネウスたちへと襲い掛かる。
 どうやら予想は的中のようだ。
「これ以上はやらせん」
「これ以上? それは、なにを……ですか?」
 本人も認めたくない迷いを、樒は声に出して指摘する。ケルベロスたちを十分に押し返せる余力を残しながら、ギアツィンスの顔はひどく焦燥して見えた。
「黙れ……!」
 主君の命とあらば、彼女ら白百合騎士団に戦いへの恐れは微塵もない。だが今の主君の言葉の背後にいるのは本当に主君なのか? 押し殺し切れない疑念と、主の思いへの憂心は確実に刃振るう手を鈍らせている。
「愚直さは時に美徳だけど、参謀がいない今、広い視野で支えてくれる人がレリ王女には必要じゃない?」
「いなくなってなお面倒をかけてくれる……ミュゲット……」
 先に逝ったミュゲットのように聡くはなれない。かといって、考えなしの馬鹿にもなりきれない。
 罵声よりも、反論よりも、先に漏れた小さな本音が聞こえた気がした。だが。
「余計な考えはやめろ」
「そう……ならおしゃべりは終りね。策はできたわ、リティは私と抑えに、ギアツィンスには……」
「了解しました……!」
 矢継ぎ早かつ『偉そうに指示を出す』ソフィアの、しかし的確な連携でケルベロスたちは再び騎士団と対峙した。
 引き抜かれる銃剣を家電めいたミミック『ヒガシバ』が食らい抑えたところにリティの殺神ウイルス弾が炸裂、高めたオーラごとよろめかせる。
「く、させるか!」
「TARGET LOCK」
 なおも迫るギアツィンスだが、マークの相手は彼女ではない。『メインブースター』を点火、突進。大地を吹き飛ばしての飛翔がエインヘリアルの勇者すら振り切り、目標目掛け舞い降りる。
「BOOST PURGE」
「なっ!?」
 瞬間移動のように迫った巨体に固まった連斬部隊の後衛を銃床で殴り倒す。突破口を開くや、ハイパワーブースターユニットを投棄。身を固めたスナイパーへと叩きつけて、一気に離脱。
「YOU HAVE」
「アイハブ……確かに受け取りましたよ」
「え……っ!?」
 増槽を振り払い、追いかけようとした連斬部隊を爆発が襲った。
 切り離されたメインブースターには燃料が残っていたのだ。絶妙のタイミングでクネウスの対神アームドフォートが針の穴を通すような狙撃。『FAILNAUGHT』レーザーは由来の通り、必中の一矢を叩きこんだ。
「やられたな……傷の深いものは離脱しろ。後は私がやる……!」
 時間にして数秒、虚を突かれつつもギアツィンスの立ち直りは早い。それは部下たちへの一撃が必中なれど、必殺ではなかったこともわかってだろうか?

●言伝
「なげぇ戦いだが……あと一歩、頑張ってこうぜ! トイ、トイ、トイ!」
 ハインツが故郷の魔除け言葉で仲間たちを激励する。仲間傷つき後退する連斬部隊をケルベロスたちは追わない。追う余裕もない。
 目の前には最大の強敵、ギアツィンスがまだ健在なのだ。
 ひび割れ地獄の漏れるフィルトリアの籠手をハインツが伸ばす蔦状の『激励の鬨《蔦》』が守る、フィルトリアは再び強く地面を蹴った。
「ピスケスよ輝け! 勇者の戦いに勝利を!」
「我が主よ、アスガルドの神々よ、照覧あれ!」
 篁・悠の描く双魚宮の紋章を撃ち抜くように放たれる、燃えさかる地獄の『フレイムグリード』。迎え撃つはギアツィンスの手から伸びる炎の気弾。
「ぐぅっ!」
「がぁっ!」
 二つの炎は交錯し、クロスカウンターのように突き刺さった。
 地獄の炎にも耐えうる『ブレイザークロス』が燃えている。王女より下賜されたであろう白鋼の胸甲が音を立てて砕けていく。
「ハール王女はレリ王女を利用し、捨て駒にするつもりです。あなたの使命は、レリ王女をお守りする事ではないのですか!」
「そうであろうが! 確かに命は下されたのだ!」
 柔肌を痛々しく晒し、尚も二人はぶつかりあう。
 踏み込むリーチはギアツィンスが巨体で勝るが、小回りはフィルトリアの方が上で速い。
 拾い上げた勢いで『フォルティシモ』が間合いの内より、がら空きの腹を轟竜砲がしたたかにうつ。
 鼓に似た重低音が響き、エインヘリアルの兜が爆ぜる。
「イリスさんを、守れなかったあなたにレリ王女を守り切る事は……ッ!」
「苦しいな……心にもない、物言いは……!」
 だが遮られた。ギアツィンスは血を吐きながらも、振りぬいた斧柄を腕の内へと引き戻し叩きつけた。自らの体と斧の柄の間にフィルトリアを挟み込み、締めあげる。
「か、は……わかっているのなら……っ!」
「貴様と共に逝くのも悪くない……が」
 フィルトリアの手には純白の『弔いの葬火』が燃えている。間合いは密着、斧柄に首と魂をへし折られても息の根が止まる前には殺し切れるだろう。
 だが決着は三度、やってこなかった。
「続けるなら死ぬのはあなただけです、沸血のギアツィンス」
 アーニャのまとう全砲門がギアツィンスを捕らえていた。ギアツィンスが彼女を殺し切るまでは一瞬、だがこのレプリカントの少女には、その一瞬を数十倍へと引き延ばす力がある。
「多くは申しません。が、あなたの行いはあなたへ跳ね返っていくでしょう」
 聞く人が聞けば『お前が言うか』というであろう樒の言葉に、ギアツィンスは、どうやらそうらしいと締め上げる手を緩めた。
「どうやら貴様らの仲間の言葉はレリ様に届いたようだ。そして我らは『可能な限り、戦闘は避けよ』との命を賜っている」
「戦う理由はもはやない、と?」
 頷くギアツィンスに一拍置き、クネウスは『MN18-EAGLE EYE』スコープに手をかけた。
 気が付けば戦場の音は静まり返っている。万が一には自らを犠牲とする選択肢もあったが、どうやら最悪の事態は免れたようだ。
「レリ様は慈悲深くも厳格なお方だ。この体たらくに罰は免れんだろうな」
「だったら、そんな楽しそうにしている場合ではないでしょう……?」
 やっかみ半分、忠言半分。ソフィアの呟きを理解しているのか、ギアツィンスは好戦的に笑った。
 表も裏も、憂いもないぶつかり合い……少なくなったレリ王女の近衛として苦心する彼女には楽しかったことだろう。
 だが、こんな事は何度も繰り返せはしない。
「ケルベロス。貴様らの名前と顔は覚えたぞ」
 わかっているから、それは彼女なりの面倒くさい返礼なのだろう。
「騎士イリスと先立った盟友の名にかけて、貴様らを殺すのは白百合騎士団『沸血のギアツィンス』だ。その日まで、必ず覚えておけ!」

作者:のずみりん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月11日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 2/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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