リザレクト・ジェネシス追撃戦~最後まで立ってろ

作者:あき缶

●不穏なる祈り
 千葉県館山湾にあるネレイデスパレスの最奥部、その祈りの間にて『輪廻の死神』オーピス・ネレイデスは部屋の入口に背を向け、一心不乱に何かに祈りを捧げていた。
 オーピスの祈りと背を守るのは、これまでネレイデスが手駒にしてきた屍隷兵、サルベージした竜牙兵、アメフラシ……その精鋭中の精鋭達である。

●選りすぐり
 『リザレクト・ジェネシス』の勝利を、香久山・いかる(天降り付くヘリオライダー・en0042)は祝う。
 しかし、今回の戦争ではたくさんのデウスエクスが逃げ延びている。
 このまま放置する訳にはいかないのだ、といかるは告げた。
「勝って兜の緒を締めよ。これから千葉県館山湾のネレイデスパレス行って、追撃することになったさかい、よく聞いてや」
 狙うは、ネレイデスの首魁『輪廻の死神』オーピス・ネレイデスである。
 だが、首魁だけあってオーピスはあまりにも強い。しかも単身無防備にいるわけもなく、精鋭の配下を侍らせている。
「このままでは勝ち目が無い。せやから、君らにはオーピスから配下を全部引き剥がすっちゅうのをお願いしたい」
 ネレイデスパレスの周辺を守る死神は他のケルベロスが対応する。
 彼らの戦闘の混乱に乗じて、ネレイデスパレスに侵入すれば損傷なく侵攻できるだろう。
「で、君らはオーピスが居る祈りの間に先に飛び込んで『本気で殺しに来た』と分かるような攻撃をオーピスにぶちかましてほしい。絶対陽動やと悟られたらあかんで。オーピスから一発は食らうけど、そのまま部屋の外に移動や。そしたら、オーピスは必ず配下に掃討を命じる」
 配下が釣れたらしめたもの、そのまま全部の配下を引き連れて祈りの間から出る。そして丸裸のオーピス本体を狙うケルベロスと交代し、部屋の外で配下を足止めするのだ。
「うまいこと釣れたら、あとは君らが一人でも立ち続けている限り、配下を足止めできるはずや」
 配下とはいえ、オーピスの選りすぐりの配下なのだから、当然強い。いままでも同型の敵とは戦ったことがあるケルベロスもいるだろうが、オーピスの護衛の強さはそれらとは段違いだ。苦戦を強いられるのは明白である。
「それでも、オーピス暗殺担当のケルベロスが祈りの間から出てくるまで持ちこたえてほしい」
 倒せなくてもいい、耐えきってほしい。といかるは言葉を重ねる。
 戦場に、特に戦闘に支障がありそうな障害物や罠は存在しない。
 配下の内訳は、前衛にパイシーズ・コープスが三体。中衛に縛炎隷兵、ウツシ、寂しいティニーが各一体。そして後衛にアメフラシが三体の計九体。
 前衛は防御と挑発に専念し、中衛が各自炎や氷、毒でケルベロスを苦しめる。後衛は仲間を癒やしたり、ケルベロスのヒールを邪魔してくる。
 確かに目的は耐えきることなのだが、ヒールはすべての傷を癒やすことは出来ない。
 敵の手数を減らさず、ただ防御と回復に徹しているだけでは全滅もあり得る相手である。
 またおそらく、オーピスの周辺を守るパイシーズ・コープスや屍隷兵、アメフラシは他にも居るだろう。敵に増援がある可能性は排除できない。
 耐久していたら、いつの間にか大量の敵に囲まれていた……なんて展開になれば万事休す。増援が来ても対応できるよう、出来る限り相手の数を減らすことも重要になる。文字通り攻撃は最大の防御だ。
「配下を剥がしたオーピス単体でも、確実に殺せるとは言い難い強さや。でも可能性を少しでも高めるために、皆の仕事はめっちゃ大事やから、お願いするな」
 いかるは硬い表情で一同に頭を下げた。


参加者
シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)
ウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)
エレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027)
ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)
嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574)
一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)
アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)
名雪・玲衣亜(不屈のテンプレギャル・e44394)

■リプレイ

●交差
 死神とケルベロス達の戦闘に混乱する中、ネレイデスパレスの廊下を走り抜けた先にある祈りの間。
「ここが……! みんなの作ってくれたこの好機、逃すわけにはいかないっ!」
 シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)は見えてきた間口を見て、唇を引き締める。
 奥にいるのはオーピス・ネレイデスと彼女を守護する死神たちだということはわかっている。
 一同は速度を落とさぬまま、ただ覚悟だけを固める。
 祈りの間に足を踏み入れるなり、ウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)は叫んだ。
「この一撃で倒すつもりで!」
「一発大きいのいくよっ!」
 ウォーレンの螺旋より一瞬早く、シルの精霊魔法が侵入者に気づいて振り向こうとしたオーピスの輝く翼を射抜く。砲を追うように迫る螺旋と、嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574)の呪針はオーピスの胸部に迫り――彼女の前に浮遊する剣の一閃で叩き落とされた。
 床に落ちた呪針に込められた怨念らが、無念に呻きながら失せていく。
 しかし、剣による防備の一瞬のスキをついて、アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)とボクスドラゴン・コキュートスがオーラとブレスで攻める。
 たおやかなオーピスの肌がジリリと焼けたが、流石はネレイデス首魁、その程度の損傷は意にも介さぬようだ。
「チッ、さすがに一撃じゃ倒れないか……」
 アビスが舌を打つ。
「手加減する余裕は、ないので」
 一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)が向けた黒檀のヌンチャク『練達』が、目にも留まらぬ速度で伸び、オーピスの腹を正確無比かつ強かに突く。
 体勢を崩したのを見逃さず、
「その首、取らせてもらいます!」
 エレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027)がエクトプラズムを圧縮、輝く霊弾に変えて放った。彼女のサーヴァント、ラズリはその後を考慮して前衛へと祓魔の翼を羽ばたかせる。
 間髪入れずに、バスターライフルに変形させた祖父譲りのガジェットにハリネズミを詰め込んだ名雪・玲衣亜(不屈のテンプレギャル・e44394)は次の瞬間、
「よーし頑張ってこーい!」
 無慈悲な掛け声と同時にハリネズミを射出。
 オーピスの額に霊弾と共に丸まったハリネズミが当たる。てん、ててん、と落ちたハリネズミはあたふたと玲衣亜の元へと戻っていった。
 ちなみに、本ハリネズミはファミリアである。この『テキトービーム』を放つにあたりいかなる動物虐待も行われていない。
「戦争で討ち取られなかったのを良い事に、懲りずに十二創神の蘇生儀式など……させませんわ!」
 邪気禍々しき七つの妖刀を巧みに操るミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)の剣気がオーピスに襲いかかる。
  が、首魁を狙った攻撃はパイシーズ・コープスに身を挺して庇われた。
 一糸乱れぬ連携でのケルベロスの先手を受けて尚、オーピスは涼しい顔で優雅にその黄金の羽を大きく打ち振るった。
 光輝が雨あられとケルベロスに降り注ぐ。しかし彼女の反撃を予測していないケルベロスではない。アビスがエレを、ウォーレンが瑛華を庇う。盾として耐久力はあるはずだが、突き刺さる光線はまるでガラス片のように皮膚を破り、肉を裂き、血管を貫く。吹き上がる赤で祈りの間が汚れていく。
 オーピスの手が楚々とケルベロスを指し、周囲の彼女の護衛達は一斉にケルベロスに殺到した。
 屍隷兵三種による横一列の業火、貫かんとする氷、呪詛のごとく移される毒。
 竜牙兵は手にした得物で、ラズリが与えた破邪の力を剥ぎ取る。
 アメフラシは主に降り掛かった災難を無かったことにしようと慈雨を降らせ、またどす黒い雨をケルベロスの頭上に降らせてはヒールを阻害せんとした。
 窮鼠を思わせる猛攻に、ケルベロスは死神陣営の本気を思い知る。
「え、あんま効いてなくね?! 一旦バックバーック!」
「え、効いてないっ!? わわ、一旦退こうっ!」
 玲衣亜の一声をきっかけに、エレが踵を返す。芝居の始まりだ。悟られてはならじと、ミルフィが呼応する。
「渾身の力を以て攻撃致しましたけども……わたくし達だけでは……此処は一旦退いて、仲間の方々と合流し、今度こそは……!」
 陽治が叫びながら、祈りの間の外へと走り出す。
「手応えはあった、一旦立て直して次こそ討つぞ!」
 突入と同じくらいの速度でケルベロスは撤退を始める。
 全員が外に出たのを確認し、ウォーレンはダメ押しのように言い置いて、身を翻す。
「うん……僕らだけじゃ勝てない。一旦退こう! 外で戦ってる皆と合流すればまだ勝機が――!」
 雪崩打つように走るケルベロスの背を見て、オーピスは護衛に追討を命じた。
 ぞろぞろと竜牙兵や屍隷兵、アメフラシがケルベロスを追う。
 ついて来た面々を認め、ケルベロス達は『しめた』と内心笑んだ。
「一、二……。九体すべて、釣り出せましたね」
 瑛華が頷く。
 走るさなか、オーピス暗殺組が交差するように祈りの間に飛び込んでいったのも横目で確認した。
 十分に引き離したところで、ケルベロスは足を止め、死神達に相対する。
 作戦は成功だ。ならばあとはオーピスが倒れるまでここで粘るだけ。
「……ふぅ。さてと、それじゃあ我慢比べといこうか」
 アビスは眼鏡越しの冷たい視線をデウスエクスに向けた。

●穿孔
 エレの脚が残像をもってパイシーズ・コープスを斬るかのように蹴る。
 陽治は、止まらぬ出血に衣服を真っ赤に染めている盾役達に目を向けた。
「俺が此処に着いた以上は怪我を残さないようしっかり癒してやっからな」
 ウィッチドクターは、ウォーレンの断たれた血管、筋肉、そして皮膚に至るまで、動かすのに支障ないレベルまで繊細かつ巧妙に縫合を行う。
「誰も悲しまないよう、最善を尽くしましょう!」
 大自然の力とアビスを、心霊治療士たるエレを媒介して接続すると、アビスの酷い裂傷がみるみるうちにエクトプラズムの疑似肉体で埋められていった。
 アビスは問題なく動くようになった腕で腕輪から紙兵を撒く。配下からの攻撃で受けたダメージを少しでも軽減したい。
 コキュートスのボックス突撃でパイシーズ・コープスから骨片が散った。
 ブンと風切り音をたてながら、半魚を思わせる竜牙兵の翼爪、鎌、盾がミルフィに迫る。ラズリが爪と鎌までは受け止めたが、盾による突撃までは止められず、ミルフィが突き飛ばされた。
 ラズリの愛らしい羽ばたきで、ミルフィの怪我はある程度癒やされたが完全ではない。アメフラシによるヒール阻害が効いている。
 ジャラリとグラビティによって生成されたチェーンが鳴るなり、翼爪の竜牙兵を捕らえた。
「終わりにしましょうか」
 瑛華はぐいと鎖を引き、否応なしに引き寄せられた敵へと容赦なく弾丸を叩き込む。
「名雪さん」
 と、自分に向けられた青い艶めいた瞳に気づき、運び屋の後輩は元気に頷く。
「おーし、えーかサン。まかしといてー!」
 ダーンッと轟音と共に放たれた玲衣亜の竜砲弾が、瑛華が捕らえるパイシーズ・コープスを粉々に砕き尽くす。
「まずは一体……ぐッ!」
 捕縛先を失って消える鎖を見て瑛華は呟くも、死角から迫っていたウツシが彼女に氷杭を叩き込んだ。
「えーかサン!」
 ぞっとするほどの冷たさが瑛華の臓腑をも氷結せしめるが、玲衣亜に心配をかけまいと瑛華は無理やり微笑んで見せた。
 守りきれなかったことに歯噛みしつつも、続く寂しいティニーの爪をウォーレンがなんとか庇い切る。だが突き立つ黒爪から注ぎ込まれる毒による、寂寞すら感じる悪寒は如何ともし難い。
 それでも毒にはまだ耐えられると判断し、ウォーレンはまずピンクのミストを瑛華を融かすために使った。
 後衛を襲う緑炎の列が彼らの魂をも焼き尽くそうと燃え盛る。火だるまの生ける死体、縛炎隷兵の技が、エレ達を苛む。
「サキュバスの魅惑の眼差し……たっぷりと味わって下さいまし……♪」
 ミルフィの瞳がじいっとパイシーズ・コープスを睨めつける。彼らの思考が少しでも揺らぐならこちらのものだ。
 アメフラシがミルフィの思惑に気づいたのか、慈雨を前衛へと振りかけていく。
 またヘドロのように黒い雨も容赦なくケルベロスに降り注いだ。ウォーレンがシルを庇うも、彼の凍った海を思わせる武術服にねとりとしたタール雨がまとわりつく。汚泥不汚の魔力をこめてある服に、黒雨は染み込みはしないが粘度高くへばりついて落ちない。
 アビスはもう一度紙兵を撒いて、敵のジリジリと削ろうとしてくる悪意に抗った。
「かったいけど、それごと撃ち砕くよっ!」
 シルの掌上で四属性のエネルギーが一点に収束、盾のパイシーズ・コープスを貫く。
「おいちゃんも踏ん張るとすっかねえ」
 陽治が前衛に薬液を撒く。どろどろとしたアメフラシのタールめいた雨が薬液に反応し、蕩けて落ちていく。
 ハッと鋭い気合と共に瑛華の脚が空にて一周、乾いた音と共に盾持つ半魚の髑髏が吹き飛び、首の主たる骸骨は戦慄きながら崩壊するのだった。

●忍耐
 星の加護がエレの祈りに応えて、中衛に輝く。
「煌めく星の加護を、此処に。降り注ぎ、満ちろ!」
 加護を得たミルフィの縛霊手が唸り、巨大光弾が敵前衛を呑む。
 ケルベロスはパイシーズ・コープスを砕いて回っているが、あと一体というところで新たな盾役の補充が来ていた。
「こ、このままじゃ、いつまでたってもウツシ達に取り掛かれないよ……!」
 シルがもどかしさを口にする。
 今もなお健在の縛炎隷兵や寂しいティニー、ウツシ、アメフラシがどんどんケルベロスを狙ってくる。
 敵中衛のしつこいスリップダメージを狙う技に、ケルベロスは疲弊していた。
 ウォーレンが何度目かのステップを踏む。フェアリーブーツから溢れ出る花びらの幻影が降り注いで呪いを解く……が。
 踊るウォーレンの脚をパイシーズ・コープスの鎌が冷酷にもなぎ倒す。華麗な花びらを撒き散らしながら、サキュバスの青年は沈んだ。
「あれは絶対止めないと……最後まで立たないといけない、のに……」
 ヒール可能なダメージ量を超えてしまった彼は、もう立てない。
(「嫌な予感がしたんだ……」)
 ウォーレンは遠ざかる意識の中で想う。
 戦っている最中、ふとしたことで心が持っていかれそうになっていた。
 ――己の根幹に、深淵につながっているような、そんなうっすらとした恐ろしい予感……。
 それが何を示すのか、はっきりわからぬまま、ウォーレンの意識はふつりと途切れた。
「とっとと、潰れろっつーの!」
 玲衣亜が纏っていたパリピ系オウガメタルが黒い太陽で竜牙兵を照らす。
 絶望の光におののく竜牙兵を、ラズリの爪とコキュートスのブレスがようやく粉砕せしめた。
「追加は来ない……か、今のうちだな」
 陽治が言うまでもない。コキュートスが盾の補充となるべく前衛へと移動する。
 降魔の一撃をふりかぶるシル、瑛華のチェーンが、ウツシめがけて飛びかかった。
 彼女らめがけ、縛炎隷兵が炎を放つ。
「……まだ倒れてもらっちゃ困るんだよね」
 六角の氷がケルベロスにまとわりつこうとする緑炎を阻んだ。アビスの氷盾結界・不可侵障壁である。
 シルの横腹を狙う寂しいティニーの攻撃をアビスが庇う。ぞぶりと嫌な音を立てて深く彼女の脇腹の中に沈む毒爪だが、陽治が直ちに除去、薬液による洗浄消毒と仕事を完遂する。
 ウツシも氷塊をぶつけて対抗しようとするも、それはラズリがその小さな体で受け止め、跳ね飛ばした。
 そのスキをついて、クラッシャー二人はウツシに容赦ない攻撃を浴びせる。
 猛攻をうけて崩れかけたウツシに、アメフラシがせっせと慈雨をもたらして支えるも、ミルフィの愛刀、牙裂兎がとどめを刺した。
 よし、と頷きあうケルベロスだが、ゆらゆらとパレスの奥から竜牙兵がやってくるのを見て顔を曇らせる。
 まだ祈りの間から出てくる者はいない。
「……耐えてみせるっ……! わたしには帰る場所があるんだっ!」
 シルは無意識に左手薬指のプロミスリングに右手を重ね、誓うように叫んだ。
「笑っていれば、絶対に大丈夫ですっ!」
 エレが鼓舞しながら癒しの風を巻き起こす。

●光明
 倒しても倒してもきりがない、と錯覚するほどに、気の遠くなるほど戦いが続いた。
 追加されたパイシーズ・コープスをようやく倒しきって、再び中衛にとりかかるケルベロス。
「火よ、水よ、風よ、大地よ……。混じりて力となり、目の前の障害を撃ち抜く矢となれっ!!」
 燃え盛る緑の屍隷兵へとシルが精霊速射砲を叩き込むも、屍隷兵も巨大な火焔球で相殺する。
 寂しいティニーの巨腕がアビスを羽虫を叩くかのように叩き潰した。開いた寂しいティニーの手と手の間、ゆらりと傾いだと思った瞬間、ついに声もなく膝から崩れ落ちるヴァルキュリアの少女。
 そろそろケルベロスも前衛を中心にヒール限界に達してきている。
「次はアタシか……。絶対帰るから待っててね、おばーちゃん」
 覚悟も新たに玲衣亜はディフェンダーを代わるべく、虎視眈々と移動のタイミングを伺っていた。
 しかし……。
「ん? んん??」
 玲衣亜は戸惑った。相手の様子がおかしい。アメフラシを筆頭に敵が退いていく。まるで潮が引くようだ。
「こりゃぁ、もしかしてだな……」
 陽治は祈りの間へと視線を移した。人影が見える。満身創痍だが、急いでいる様子はない。
「こりゃあすげえ! オーピスを倒したんだな!」
 陽治の声が明るく弾む。
 ならば、配下を追い打ちする必要はない。ようやく終わったのだ。
 玲衣亜がハリネズミくんを投げ上げ、歓声を上げる。
 ほっと胸をなで下ろしたエレは、頬に擦り寄るラズリをモフモフと撫でてねぎらってから、倒れた主の上を気遣わしげに旋回するコキュートスへと駆け寄る。
「コキュートス、もう大丈夫ですよ」
 ボクスドラゴンに声をかけてから、エレはアビスの応急処置に取り掛かった。
 陽治も倒れたウォーレンを救護に走る。
「ああ、これで十二創神を……聖王女様をサルベージする企みは潰えましたのね……!」
 ミルフィは感極まって己を抱きしめる。ずっとオラトリオたる幼き主の心痛を慮っていたが、これで憂いも断たれた、とミルフィは息を吐いた。
 瑛華はそっと右手の腕時計に触れ、目を閉じた。暴走の覚悟までしていたが、誰一人死ぬことなくネレイデスパレスを後にすることができる……。

作者:あき缶 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月11日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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