リザレクト・ジェネシス追撃戦~波間に集まる徒花

作者:ほむらもやし

●朽ちない徒花たち
 12月23日に行われた『リザレクト・ジェネシス』によって、敗残した死神勢力、ネレイデスの幹部達は千葉県館山湾に出現した巨大な神殿——ネレイデスパレスに集結した。

 屋根を支える透き通る白大理石の如き列柱が目につくネレイデスパレスは巨大な柱や梁の形からギリシャ建築におけるドーリア様式を連想させる。
 そしてこのネレイデスパレス最奥では、『輪廻の死神』オーピス・ネレイデスが祈りを捧げている。
 彼女の祈りが妨げられる事の無いよう、他の死神達はパレスの守りを固めていた。
「何事もなく済むのが最善ではあるが、警戒は怠らぬように。ケルベロス達が来ようとも、決してオーピスの邪魔をさせてはならぬ」
 パレス正面入口前。『暗礁の死神』ケートーは、従えた屍隷兵達へ告げる。斃れて行った同胞達を想う声は厳しい。
「──ケルベロス達よ、いつでも来るが良い」
 けれど、彼女の唇は高揚の笑みをも刻んだ。彼らは臆さず攻め来るだろう。それを押し返す、否、叩き潰すために彼女達は此処に居る。
「勇敢なるお前達の魂、今度こそ刈り取ってみせよう」
 輝かんばかりのあの存在を今一度──期待は戦意と燃え上がる。

●これ以上好きにさせない
「リザレクト・ジェネシスの戦い、お疲れ様でした! 皆の活躍により企ては完膚なきまでに粉砕された。本当にありがとう!!」
 ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)は拍手で讃えた。
「しかしだ。壊滅を免れて敗走した敵の再集結の動きを予知した。予定のある者も多いと思うが、ことがことだ。申し訳ないけれど、至急の対応をお願いしたい」
 そう言ってケンジは、サッと東京湾を中心とする南関東の地図を貼り付けると、手際よく広げて東京湾内の東側、房総半島の南西部を指し示した。
「今から向かうのはここ千葉県館山湾。出現したネレイデスパレスと呼称される巨大神殿に強襲をかける」
 ネレイデスパレスに集まっているのは、死神勢力である。
 有力敵は、『名誉の死神』クレイオー、『暗礁の死神』ケートー、『先見の死神』プロノエー、『黒雨の死神』ドーリス、『輪廻の死神』オーピス・ネレイデス、の5名が判明している。
「僕達が担当するのは『暗礁の死神』ケートー、ウツシと呼ばれる屍隷兵を大量に引き連れたいけ好かないやつだ。そして屍隷兵の数が多く単独チームでの撃破は無理とみられるから、今回は彼女のチームと力を合わせて対応して欲しい」
 そう言って、篠前・仁那(白霞紅玉ヘリオライダー・en0053) の方に顔を向けた。
 共有すべき情報は、戦場となるのは神殿前の広い庭の様な場所、屍隷兵ウツシの数が多いこと、指揮官であるケートーさえ倒せばウツシは統制が取れなくなること、派手な攻撃でウツシを引きつけることは、神殿に突入或いは他の有力敵の撃破を狙う他のチームへの支援ともなること。
「僕達が担当するのは『暗礁の死神』ケートー、ウツシと呼ばれる屍隷兵を数多く引き連れたいけ好かないやつだ。そして屍隷兵の数が多くて単独チームでの撃破は無理とみられるから、今回は彼女のチームと力を合わせて対応して欲しい」
 そう言って、篠前・仁那(白霞紅玉ヘリオライダー・en0053) の方に顔を向けた。
 共有すべき情報は、ケートーとの戦場となる広場は神殿前の整えられた庭の様な開けた場所で、包囲するのが無理であるほどたくさんの屍隷兵ウツシがいる。指揮官であるケートーさえ倒せばウツシは統制が取れなくなる。派手な攻撃でウツシを引きつけ、あるいは、神殿に突入或いは他の有力敵の撃破を狙う他のチームへの支援にも繋がる——ぐらいだろうか。
 ウツシを倒しきるのは難しいだろうから、その動向にも気を留めておいた方が良いかもしれない。
「ここに集められたウツシが、数え切れない程の者を殺して作られたことは疑いないだろう」
 ケンジは目を伏せて、静かに息を吐く。
 ほんの短い間、瞼の裏に形容し難い虐殺のイメージが浮かぶ。
「出発の時間だ。必ず成功して下さい」
 再び開かれた目は穏やかに細められているように見えたが、眼光は闇を裂くような鋭さを孕んでいた。


参加者
ノーフィア・アステローペ(黒曜牙竜・e00720)
アイラノレ・ビスッチカ(飛行船乗りの蒸気医師・e00770)
綾小路・鼓太郎(見習い神官・e03749)
マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)
カーラ・バハル(カーラバハルのそっくりさん・e52477)
犬曇・猫晴(銀の弾丸・e62561)

■リプレイ

●徒花の意地
 ケートーとウツシ達は、ここデスパレスの正面でケルベロスの襲来を待ち侘びていた。
 予知能力があるわけではないが、此所を見つけ出し必ず攻撃を掛けて来ると、ケートーは確信していた。
 正面の防衛を任せて貰えたことには感謝すら抱く。再び全力のケルベロスと戦えるのだから。
「まずはウツシとケートーの分断を狙いましょう」
 敵の陣容を見定めた、アイラノレ・ビスッチカ(飛行船乗りの蒸気医師・e00770)は、見知った戦友たちの顔を認めて、一瞬目を細めた。
「やあケートー! この時を楽しみにしてた!」
 ノーフィア・アステローペ(黒曜牙竜・e00720)が無造作にケートを狙った、轟竜砲がウツシに食い止められ、続けて、ボクスドラゴン『ペレ』が吐き出すが、大理石の床を僅かに焦がすに留まる。
「ラーシュ、一緒に頑張ろうね」
 己のボクスドラゴンには顔を向けぬままに言い置き、マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)は霊力を帯びた大量の紙兵を放った。
 数え切れない程のウツシの攻撃が前に立つ者たちと交わり合った瞬間、後ろから放たれた炎の輝きが帯状に広がって立ち上がる様が見えた。
「あ・た・れッッ!!」
 カーラ・バハル(カーラバハルのそっくりさん・e52477)の薙ぐGadgetWeapon——チェーンソー剣が唸りを上げる。炎の壁を破るブーメランの如き挙動との二段構えの広範囲斬撃に足並みを乱したウツシの群、それに乗じて直接ケートを狙おうとペスカトーレ・カレッティエッラ(一竿風月・e62528)は乱れた敵群の間にカモメ型のルアーを投じるが、膠もなく叩き落とされる。
「今は狙っても無駄だね」
 アイラノレと犬曇・猫晴(銀の弾丸・e62561)による六つ重ねのメタリックバーストの助力を得ていてもケートーに向けられた攻撃は沢山のウツシのいずれかに阻まれてしまう。
「断言しよう。態勢を整える方が先だ」
 リューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)が描いた守護星座の輝きが広がって後衛に邪気を払う加護がもたらされた瞬間、その加護の及ばぬ前衛を覆う様にケートーの放った火炎が爆ぜて鮮やかな橙に煌めいた。多すぎるディフェンダーの間を抜いて命中を狙うのでは効率が悪すぎる。
 直後燃えさかる炎から飛び出した、綾小路・鼓太郎(見習い神官・e03749)はドラゴニックスマッシュの噴射加速に乗ったまま大量のウツシの中に突入すると、眼前の1体を打ち砕いた。
 人々の無念、思い知らせてやる……!
 ケートーの繰り出す強烈な斬撃の前に躍り出た、リューディガーが突き立てたゾディアックソードを握りしめながら、崩れそうな膝を支える刹那、共鳴する莫大な癒しの気配に包まれる。
 今回の1班だけの戦いでは無い、2班16人で同じ敵に対している。補完し合える仲間の存在に心強さを感じながら再び膝に力を込めると、リューディガーは並び立つウツシに鋭い眼光を向けた。

●苦しい時間
 後衛を内側に円弧を描くイメージで前衛が展開する要領で布陣する一行。
「分断したとも、囲まれたとも言えます」
 意図した通りの立ち位置を定める困難を自覚しつつ、アイラノレは癒しの雨を召喚する。機を合わせる様に、カーラは鋼の如き鱗に覆われた巨尾を薙いで、数に任せたウツシの圧力を押し戻さんとした。
 せめてケートーを自由にさせなければ多少楽に戦えたかも知れないが、その状況を作り出す為には立ちはだかるウツシを斃すしかない。
 鼓太郎は半歩後ろに退きながら、呼応するように距離を詰めてくる敵群目がけて絶望の黒光を浴びせた。地に縫い付けられるように敵群の足取りは重くなる。
「こりゃ入れ食いだネ。といっても外道ばっかりだけどさ」
 皮肉を孕んだ呟きと共に、ペスカトーレは主砲を一斉射。爆炎の輝きに包まれたウツシが微塵に砕け散り、それとほぼ同時、別のウツシが氷に包まれて倒れ伏した。
 次の一瞬、二つの弾道が居並ぶウツシの間を抜けて、ケートーに直撃した。
「やっほーケートーちゃん、久しぶり。また会ったね。決着をつけに来たよ」
 それを目にした、猫晴は緩い言葉に決意を乗せて、精神操作の鎖を伸ばす。淡い期待に基づいた攻撃はあっけなく阻まれるが、射線に割り入ったウツシは力尽きて前のめりに倒れる。
 ノーフィアはその屍を乗り越え、突破口を開かんとさらに前に進む。
「黒曜牙竜のノーフィアより暗礁の死神たるケートーへ。海と刃の祝福を」
 そして己の心意気を示さんと叫んだ。
 しかしケートーは何も応えない。
 代わりにもたらされたのは至近から打撃、後方から乱れ飛んで来る数え切れない程の斬撃だった。
 一つ一つの攻撃は耐えきれるものであっても、集中すれば瞬く間に危機に陥る。
 マイヤが慌てたようにして、溜め込んだオーラを全力で解放し、継いでボクスドラゴン『ラーシュ』が癒力を注入して、ノーフィアを癒して事なきを得るが、直後にウイングキャットが力尽きる様が見えて、自分が持ちこたえたのは、ただの幸運だったのかも知れない、ノーフィアは背筋を寒くした。
「無理はするな。俺たち皆の手で、痛ましい悲劇に終止符を打つのだ」
 盾の加護をもたらす光を展開しながら、リューディガーは攻撃を捨てて守りを固め続けていた。自分たちにとって有利な加護はたちまち消されてしまうし、常に庇えるわけでも無いから回復が不要な瞬間は滅多に生まれない。アイラノレや猫晴も味方の支援に重点を置かねばならない点では彼と同様であった。
 そして高い耐久性をもつリューティガーであったとしても、癒しきれない内に続けざまに攻撃を受ければ、遠からず限界に達するのは目に見えている。さらに危険なのは鼓太郎やノーフィアであった。
 だから一刻も早く敵のディフェンダー陣を突き崩し、ケートーに直接攻撃を掛けなければならない。
 その思いを胸に、カーラは被弾に顧みずに敵陣に突入して唸る回転刃を振るい、2人に攻撃が向かわぬ様に踏ん張り続けていた。
 真っ直ぐな軌跡を描いて、ペスカトーレの放った極太の光条が狙い違わずウツシを焼き払った。
 直後、ケートーの放つ紫霧が襲い来て、マイヤの視界が怪しく歪み、仲間の背中を刺さねばという気持ちが溢れて来るが、それは刹那のことで、祈りからの光が満ちるまでには消え去っていた。
「信じて、希望と光に変えてみせるから!」
 直後、自身と後衛に向けて、眩き光輝の羽根が虚空へと舞い上がり、心を惑わす闇を穿ち、希望に塗り替える。不意を突いたケートーの後衛への一手は、防戦一方であった前衛に立て直しの猶予を与えた。
 頭上を越えてウツシの群れに襲いかかるアイラノレの巨大な光弾、乱れ飛ぶ光線、間髪を入れずに、唸りを上げるカーラの斬撃が次々と敵を裂く様を目にした、鼓太郎は流れに乗じて黒光を放つ。黒い光のもたらす絶望に灼かれる敵群に、追い打ちを掛ける様に橙色の炎が燃えあがり、閃光、そして弾幕が爆ぜた。

●血路は開かれた
 敵群の大半を占めていたディフェンダーが崩れ落ちて、ケルベロスたちはケートを射線に捉える。
 開かれたとても空間は大きく、残っているウツシだけで取り繕うことが出来ないだろう。
 当然、打って出る。
 戦いに転機が訪れたと直感したケートーは勢いづく攻撃に被弾を重ねながらも、残存するウツシに指示を飛ばしつつ、さらに牽制の一手を薙いだ。
 まだ負けていないし、戦力も残っている。此所で戦いケルベロスを釘づけにする時間は、このデスパレスを維持する為に役立つはず。攻撃にはそんな意思が籠められているようにも感じられた。
「こっちの回復は任せて。わたし達の意地を見せてやろう!」
 燃え上がる炎、マイヤの放った紙兵がその身を灰と散らせながらも癒力と加護をもたらし、強風と共に吹き付ける雪が篝火を消し去るが如くにして、その火勢を削り取ってゆく。
「ケートー、俺達は決して貴様を許さない」
 銃弾を叩き込みたい気持ちを抑えながら、リューディガーが展開するマインドシールドの光が満ちて行く。感情の任せ、直接攻撃を叩き込むばかりが戦いでは無い。攻撃を阻み敵の思惑を打ち砕くことは勝利のために必要なことと知ればこそ。そしてダメージを重ねている者はいるものの、ここまで仲間の内からは誰も倒れていない。
「暴風警報! 嵐が来るぞー!」
 ペスカトーレの放ったカモメ型のルアーの後に鋭い嵐が巻き起こり、逆巻く風の中に赤い燐光を放つ血液を噴出させた。
「行くよ。ペレ、前は任せろ!」
 魔杖鞘『龍の顎門』を砲撃形態へと変える刹那に、ノーフィアはボクスドラゴン『ペレ』と拳を突き合わせて、続く所作で巨大な竜砲弾を撃ち放つ。爆ぜる爆炎、積み重ねられる足止めの効果にケートーは急速に動きを鈍らせる。
 ウツシの数が減少するにつれて、当初は周囲を包囲されていた形だった戦いの構図も、ディフェンダー陣を突き崩したことで今度は逆にケルベロス達が正面と左右からケートーを圧迫するような形へと変化しつつあった。
(「ケートー、今回こそ逃がさない」)
 信を胸に、アイラノレは敵群を滅ぼす巨大光弾を縛霊手の掌より召還する。それはケートーと共に戦うウツシたちの頭上から襲いかかり、満身創痍の状態にあったディフェンダーを残らず屠った。
「ねえ、この辺で手打ちにして、ぼくたちの仲間にならない?」
 ケートーの身につき立った得物に繋がるオーラを操りつつ、猫晴は言葉で揺さぶりを掛けようとするも、勝利によって事態を打開しようとしているケートーは歯牙にも掛けなかった。
 次の瞬間、重ねられたバッドステータスが一挙に花開き、開かれた傷口から血があふれ出る。
 それを好機とみた、鼓太郎はケートーの前に出て、フェイントに似た動きから側面に足を踏み込む。足裏と大理石の地面が擦れる感覚と共に身体を半回転させ、無駄の無い所作から繰り出した刃の一閃がケートーの巨体に深い斬撃の跡を刻む。同時に重ねようとした氷結の冷気は阻まれたが、その苛烈なダメージがよほど印象に残ったのかケートーは浅く笑った。

●徒花散る
 この痛みは、ケートーの手で無残にもウツシに作り変えられた人々の無念。
 激痛と共にウツシの攻撃を受け止めた、リューディガーは歯を食いしばり、鋭い口調で警告を飛ばしながら銃口を向ける。
「貴様達に勝ち目は無い。無駄な抵抗はやめろ!」
 続けて放たれる連続して威嚇射撃、銃弾は直撃こそしなかったが、圧倒的な決意に裏打ちされた気迫が少なくない数のウツシの動きを押しとどめ、或いはその意識を迷わせる。
 鼓太郎は命中の見込みの薄い攻撃ではなく、ホーミングの効果で一層の命中を期待を出来るドラゴニックスマッシュ——ドラゴニックパワー噴射の勢いをヘッドに乗せた重い一撃を繰り出す。
 どうしても当てたい。
 ヘッドが当たる瞬間、鼓太郎は眼孔を鋭くし祈りにも似た思いを込める。
 次の瞬間、衝突の凄まじい衝撃が腕に伝わって来る中、ケートーの顔色は急激に変わる様が見えた。確かな手応え。だがケートーはハンマーヘッドを身体にめり込ませたまま両手で空間を撫でる。幾筋もの斬撃が生まれそれらは、鼓太郎の足下から噴き上がる様にして襲いかかり、縦横に身体を断ち割った。
 落下した花弁の如くに鼓太郎の身体が崩れ落ちるのと同時、ケートーの口から鮮血がこぼれ落ちる。
 だが熱に爛れた血塗れた姿でなお不敵な笑みを浮かべ、そして命じる。
「今は退け、ウツシ達よ。お前達はデスバレスのために──」
 自ら作り出した兵への愛情からか、それとも最後の一兵まで役目を果たさせようという忠誠心からなのか。人間的な感覚として理解しようとすれば、そんな想像になるだろうが、真意はケートーにしか分からない。
「彼らの誇りを穢す『生』は、此処で断ち切らせて貰う」
 誰かの声が聞こえた。
 勿論ケートーの所業を知っていれば、感傷に付き合うお人好しなどいる筈も無い。
 ノーフィアはそれを斃す好機と見て立体形状の魔方陣を宙に描く。
「我、流るるものの簒奪者にして不滅なるものの捕食者なり。然れば我は求め訴えたり——」
 詠唱と共に作り出された漆黒の球体が構築される。
「奪え、ただその闇が欲する儘に!」
 意思を感じさせない直線的な動きで、それは襲いかかり鎖に繋がれた獣の首を抉り取る。だが赤い眼光は追い打ちを掛けようとするボクスドラゴンは見逃さず振り上げた蛸足で叩き落とす。
「ゴーゴーゴー総攻撃だよ!」
 マイヤは癒しの為に振るい続けた力を攻め手に変え、時を凍らせる弾丸を放った。次の瞬間透き通る弾丸はケートーのふくよかな胸に突き刺さり、その時間を永遠に停止させる。
 もはや周囲に攻撃を阻む者は居ない。カーラはケートの眼前に踏み込み唸る回転刃を振上げて振り下ろす。今は攻撃することが最大の防御となる。このままケートーを斃さねば、ウツシの撤退を許してしまう。そして追い詰めているとは言っても高い戦闘能力が衰えているわけでは無い。
 故にペスカトーレは慎重に狙い定め、重ねて貰ったエンチャントを目一杯乗せて主砲弾を撃ち放った。炸裂する砲弾の破片は容赦なく肉を抉り、爆炎は生きたままの身体を焼いた。
 もはやケートーには幾許の体力も残っていないことは確か。しかし眼光は鋭いまま。
 ならば、すぐに死なせてやろうと、猫晴は絡ませた鎖に念を送り込み、強かに締め上げる。すると、白い肌、触手の脚、獣の頭部を、元の形を思い出せない程に破壊されたケートーは音も立てず静かに崩れ落ちた。
「やった……よね」
 周囲には数え切れない程のウツシの残骸が散らばっていて、その死の気配がほんの僅かの間、ケルベロス達の判断を狂わせてしまったのかも知れない。
「筐」
 己の名を呼ぶ声に顔を向けようとしていた青年を狙い定め、ケートーは突然に動き出し襲いかかって来た。
 至近距離からの凄まじい殺気と共に繰り出される斬撃、しかし実際に引き裂かれたのは狙われた青年では無く、類い希なる反射神経で飛び込んできた小柄な緑の髪の少年、カーラであった。
 常に誰かを守れる自分でありたい。
 意識がある間、カーラは常にそれを体現した。その思いに応じるように恭志郎はあらん限りの力を込めて、ケートを討ち滅ぼした。
 勝利を喜びあう間も無く、ケルベロス達は残された屍隷兵ウツシの撃滅に舵を切る。
 心ならずも屍隷兵にされてしまった人々の無念に終止符を打つ。
 それを己が背負った十字架の如くに思い戦い続け、目につくウツシは全て撃破したが、逃がしてしまったウツシが居なかったかと問われれば、若干とはいえ撤退を許してしまったのも事実だった。
 大理石の如き床に散らばる無数のウツシは、投げ棄てられた花の如く。継ぎ接ぎだらけの肌が弄ばれた生命の悲しさを象徴しているようだった。

作者:ほむらもやし 重傷:綾小路・鼓太郎(見習い神官・e03749) カーラ・バハル(ガジェッティア・e52477) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月11日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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