●新年にはお餅を
新たなる年が訪れた頃に、事件は起ころうとしていた。
正月の料理はもちろん様々あるが、その中でも人気者の1つは餅だろう。
昔ながらのうすときねで餅つきをする家庭もあれば、店で買ってすませる家もある。
そして、餅つき機を使う場合もある。
だが年が明けて早々、とある街のマンション前に、粗大ゴミのシールをはった餅つき機が捨ててあった。
新しい機種を買って不要になったのか、あるいは機械を使わない別の手段を選ぶことにしたのか。いずれにしてもそれは用済みと判断されたのだ。
そこに、手足が生えた拳大の宝石が近づいていく。
もち米を入れる釜のふたを外し、コギトエルゴスムはそこに滑り込む。
内部で何か作業をする音が響き、餅つき機に改造が施されていく。本来なら四角い本体の上部に炊飯器の釜のような形をしたもち米を入れる場所があるはずだが、それがまるで1つ目のように前方に向けられていた。
「ペッターン!」
やがて、餅つき機は人よりも大きなサイズとなって、高らかに叫んだ。
グラビティによって作り出したもち米を激しくつきあげる。猛烈な勢いでもちを飛ばし、近くにあった塀を破壊する。
そのまま、ダモクレスと化した餅つき機は獲物を求めて歩き出した。
●餅つきは危険の香り
「この時期、餅つき機のダモクレスでも現れるんじゃないかと予測して調べてたんだが、案の定だったな」
集まったケルベロスたちに告げたのは潮・煉児(暗闇と地獄の使者・e44282)だった。
廃棄された家電がダモクレスと化してしまう事件は、残念ながらいまだに後を絶たない。
「ヘリオライダーの予知によれば、どうやら捨てられた餅つき機がダモクレスになってしまうらしい」
幸いなことに、まだ犠牲者は出ていない。だが、このまま放置しておくと、ダモクレスは近くの公民館で開かれる餅つきイベントに突撃するらしい。被害は甚大だ。
「そうなる前に現場へ向かってダモクレスを片付ける必要があるということだな」
煉児は言った。
ヘリオライダーが煉児の後をついで詳しい説明を始めた。
「敵は全高2m強の餅つき機型のダモクレスです。単独で出現し、配下などはいません」
巨大な1つ目のように餅をつく釜が前面に見えている。自動開閉するふた付きだ。
「攻撃手段ですが、グラビティチェインで作ったもち米をついて、できた餅を速射砲のように撃ち出してくることができます。痛いのはもちろん、ねばつく餅で足止めもされてしまいます」
他に細長い手足で敵を捕らえて釜の中に放り込み、もちつき用の羽でついてダメージを与えることもできる。回転させられながら全身をつかれて、体が麻痺してしまうという。
他にもちを蒸すための熱風を吹き付ける範囲攻撃もできる。食らうと防具が破かれ、もちのように柔らかくなってしまうようだ。
現場は住宅地の一角だとヘリオライダーは言った。
「出現したダモクレスは獲物を求めて人の多い場所を目指します。近くでもちつきイベントが行われており、そこを目指す可能性が高いでしょう」
とはいえ、イベント会場の公民館まで多少距離があるので、避難は警察に任せてケルベロスたちは敵をそちらに向かわせないことに注力すべきだろう。
「うまく片付ければ避難させたもちつきイベントは再開できるだろう。なんなら、俺たちも気が向いたら参加していってもいいかもしれないな。少なくとも、新しい年の早々から悲劇を起こすわけにはいかないだろう」
全力を尽くそうと、最後に煉児はケルベロスたちに告げた。
参加者 | |
---|---|
燦射院・亞狼(日輪の魔戒機士・e02184) |
リュートニア・ファーレン(紅氷の一閃・e02550) |
東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771) |
ルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993) |
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815) |
マイア・ヴェルナテッド(咲き乱れる結晶華・e14079) |
潮・煉児(暗闇と地獄の使者・e44282) |
ヴィル・ルールド(懺悔の追憶・e65938) |
●響く羽の音
へリオンで近くに降り立ったケルベロスは、ダモクレスが現れる現場へ急いでいた。
公民館で行われているというイベントを目当てだろうか、通りにはまばらながら人の姿が見える。
とはいえ、あともう少ししたら皆、避難することになるだろう。
「正月早々一騒ぎだね。今回はユニークなダモクレスだけれども、人に危害を加えようとするなら見逃せないよ」
守るべき人々の前で、男性のような口調を意識してミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)は言った。
「ダモクレスって何にでも取り付くんだ……。元に戻せないなら倒すしかないのかな」
リュートニア・ファーレン(紅氷の一閃・e02550)は、ボクスドラゴンのクゥをしっかりと抱え、その体に顔を埋めるようにしながら走っている。
「倒したほうがいいんだよ、きっと。だって、機械は人の役に立つために存在しなきゃいけないんだから」
有賀・真理音(機械仕掛けの巫術士・en0225)が言った。
「難しい事は何も考えなくていい。いつも通りに戦って人々を護るだけ。さあ、いつも通りに勝って皆を守ろうか」
きっぱりとした声でルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993)が告げる。
「そうだね。役目を終えた餅つき機に安息を与えよう」
「頑張ろうね、クゥ」
ミリムやリュートニアが、ルージュに同意する声をあげた。
道路の向こうから、耳障りな音が聞こえてきた。
「みんなっ、ここから離れて! デウスエクスが来るよっ!」
敵に近づく方向へと歩いてきた一般人に、東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)が小さな体で通せんぼをした。
視界の端には歩いてくるダモクレスの姿が映っている。
「よぉケルビーが来たぜ、後ぁ任せな」
逃げてくる一般人とデウスエクスの間に、燦射院・亞狼(日輪の魔戒機士・e02184)が割って入った。
「はぁ、新年早々仕事なんて面倒だわ」
マイア・ヴェルナテッド(咲き乱れる結晶華・e14079)がやる気のなさそうな顔をしながら、それでも戦闘に巻き込まれそうな一般人たちを避難させている。
「せいや!」
前方をふさがれて敵が足を止めたところで、後方に回り込んだミリムが無数の虚無魔法を放って注意を引く。
「粗大ゴミがダモクレス化……か……。ケースとしては少なくないが、切ない話よな」
ゲシュタルトグレイブを構えて、後衛から狙いをつけながら、ヴィル・ルールド(懺悔の追憶・e65938)が呟いた。
「こういうダモクレスが増えてくると、家電の処分の仕方も考えなくてはならないな。まあ、こうなってしまった以上は俺達の仕事か」
オーラを身にまとい、守りを固めながら潮・煉児(暗闇と地獄の使者・e44282)は餅つき機のダモクレスと対峙する。
「ペッターン!」
咆哮を上げて、ダモクレスはケルベロスたちへと襲いかかってきた。
●ケルベロスをつく餅つき機
まるで一つ目のような釜から、グラビティ・チェインで生み出された餅が飛んできた。
苺は飛来する無数の餅の前へとっさに飛び出した。
熱々の餅が黒のツインテールや眼鏡にはりつく。
「ああ、できたてだねー。お餅作る機械でお餅作るのは大変だけど楽しいよねー。できたてのお餅とか食べるとおいしいしねっ。でも、このお餅は遠慮したいなあ」
ダモクレスの影響を受けると危なそうだと思ってはいたが、真っ先に体でその危険を確かめる羽目になったようだ。
もっともバトルオーラを張り巡らせて身を守っている彼女を、一撃で打ち倒すほどの威力はさすがにない。
フェアリーブーツをはいた足に力を込め、苺は前進した。
「マカロンもブレスで援護して! その後は、回復をお願いね!」
ボクスドラゴンのマカロンに指示して、彼女は脚を高々と振り上げる。そして、地を砕くほどの蹴りをダモクレスへと叩き込んだ。
アスファルトが割れて、ダモクレスの足が止まった。
そこにマカロンが吐いたブレスが敵を包み込む。足元がさらに崩れて、ダモクレスの足が止まった。
他のケルベロスたちも攻撃をしかけた。
「おぅヤローども、殺っちまえ」
亞狼が言葉と共に他の者には見えない攻撃を放ったようだった。さらに、ルージュが呪いを込めた刀を振るう。
もっとも、コミカルな見た目に反してダモクレスの動きは素早く、命中したのはその片方だけだった。
攻撃している間に、他の者たちが支援の技を発動させる。
攻性植物になった果実が放つ黄金の輝きと、ゾディアックソードやケルベロスチェインが描き出す結界が、前衛のケルベロスたちを守る。
「有賀殿も中衛で支援を願います!」
言葉を発しながらも、ヴィルはしっかりと狙いをつけて、空の魔力を帯びたグレイブで敵を切り裂いた。
「わかった! がんばるよ!」
応じた真理音が、腕に巻き付けたオウガメタルから感覚を研ぎ澄ます粒子を放っている。
前衛が守りを固めたのを見て、ダモクレスは後衛に釜を向けた。
放たれた熱風から、煉児がリュートニア、マカロンがヴィルをかばう。
「きゃっ!」
ミリムは屠竜の構えをとったまま、熱風を浴びて短く悲鳴をあげた。
とはいえ歴戦のケルベロスである彼女が範囲攻撃で倒れるようなことはない。
視線を下げて火傷の状態を確かめようとして、ミリムは改めて大きな悲鳴をあげた。
「きゃぁあああ!? 熱風で服が溶ける!」
身につけた防具が柔らかくなって穴まで開いていたのだ。思わず片手と尻尾で穴を隠すが、攻撃の手を止めるわけにはいかない。
青い炎をまとった剣をもう片手に構えて、ミリムは突撃した。
後のことを考えて上の空だったのが悪かったのかとも一瞬思ったが、集中していたところで攻撃はかわせなかっただろう。デウスエクスはケルベロスよりはるかに強いのだ。
しかし、後方から狙い済ました突撃をかわせるほどの実力差ではない。
力を込めた一撃が、敵の武器である釜をいくらか損傷させる。
「苦戦はするかもしれないけれども、ケルベロス9人で掛かればチョチョイのパーです!」
後方に離脱しながら、ミリムは剣をかまえた方の手でも体を隠した。
「素敵な格好ね。じっと見ていられないのが残念だわ」
「み、見ないでください……」
マイアの魔力を帯びた視線は言葉通りダモクレスに向いていたが、ミリムは思わず顔を赤らめていた。
少しくらい武器を傷つけたくらいでは、まだまだ敵の攻撃は激しい。ケルベロスたちはさらに損傷させ、あるいはつけた傷を広げることを狙っていく。
その間、亞狼や苺とマカロン、そして煉児が守りを固めて攻撃をしのいでいた。
敵を憎悪をかきたてる技を使っている亞狼に、徐々に攻撃が集中し始める。
煉児は亞狼を捕らえようと伸ばしてきた手の前に飛び込んだ。
「多少は頑丈なつもりなんでな、俺が引き受けよう」
鎧に身を包み、がっしりとした体格の彼を細い手が軽々とつかみあげる。
釜の中に放り込まれた煉児に、激しく餅つき用の羽がぶつかってくる。
「いちいち礼は言わねえぞ」
亞狼の声が外から聞こえた。別にそれを言うために近づいたわけではなく、そのまま彼は惨殺ナイフで敵をジグザグに切り刻む。
「ほぃガラクタは廃棄だ。ぽあぽあ」
ダモクレスの傷口を彼が切り開いた隙に、煉児は釜から飛び出した。
「別に礼は不要だ。それに、すぐに取り戻す」
地獄によって取り戻した骨から、炎を放つ。それはダモクレスの体に食らいつき、煉児の傷を癒す糧に変えていた。
リュートニアは仲間を守る者たちを後方から支えている。
攻撃を受けた煉児に近づきながら、彼へと手を伸ばす。
小さな手に握っているのはboite a malices。押すとなにが起きるかわからない、神秘のボタンだ。
「これなら、あと少し……! クゥは亞狼さんをお願いね!」
サーヴァントに指示をしつつ、リュートニアはボタンを押す。
命中した相手の傷を癒す萌葱の弾丸が手の中から飛び出して、煉児に当たる。
ほとんど同時に、クゥもまだ傷が残っている亞狼に属性をインストールして癒していた。
ダモクレスを倒すまで、まだまだ時間がかかりそうだ。リュートニアとクゥは、長い戦いの中で仲間を支え続けた。
●餅つき機を砕け
守りを固めていたおかげか、戦いは長引いていたが今のところ誰も倒れてはいなかった。
攻撃を受けているのは主に亞狼だが、だからといって他の者たちがまったく狙われないというわけではない。
熱波が中衛へと襲いかかる。
「オラっどけや」
亞狼が真理音を蹴り飛ばした。乱暴なやり方だが、一応かばったのだろう。歴戦のケルベロスに比べれば、彼女は体力に劣る。傷だらけでも亞狼のほうが耐えられるはずだ。
「勇敢なる戦士に戦う力を与えたまえ!」
苺が亞狼に駆け寄って、生命力を高めた手で彼に触れた。
同じく攻撃を受けたマイアには、リュートニアが黄金の光を向けていた。
「大丈夫ですか、マイアさん」
「ええ、私はあまり攻撃を受けていなかったから。でも、ありがとうね」
礼を述べた彼女はダモクレスへ視線を向けた。
「まだまだ敵の攻撃は厄介ねえ。あーあ、こんな仕事は早く終わらせたいんだけど」
マイアはやる気なさげに息を吐く。
だが、ぼやきながらも目はしっかりと敵を凝視している。
琥珀の結晶花やスライム、さらに煉児が放った鎖が動きを制限しているのが見えた。
苺が回転しながら突撃したのにタイミングを合わせて、煉児がまた混沌の水を放った。
「――切り裂き、縛れ。 我に宿りし怒りの蛇よ」
水は蛇と化してまた敵を縛る。
攻撃を受ける敵をじっと見つめていたマイアの赤い瞳には、強い魔力が宿っていた。呪いの瞳はは身体機能や神経系を阻害し、狂わせる。
ダモクレスの釜……1つ目がマイアへと向けられた。
今や敵は実際に縛られているのの何倍も絡みつかれていると感じているはずだ。
「……ふふふ、私は何もしてないわよ? 貴方を狂わせるのは他ならぬ貴方自身よ」
感情なるものがあるとは思えないが、それでも蠱惑的な瞳をダモクレスに向けて見せる。
長引く戦いの中で、マイアの技は敵を縛り続けていた。
「裂き咲き散れ!」
緋色の闘気を剣にまとわせ、ミリムが緋牡丹を描いて敵を切り刻む。
「綺麗な牡丹だね。でも、僕が描く月もなかなかだろ」
そう声をかけながら、ルージュの刀も美しい軌跡を描いて敵を斬った。
だが、どれだけ追いつめられてもダモクレスが戦いをやめることはない。もっとも、仮に逃げようとしてもそれを許すケルベロスたちではなかったが。
「ペッターン!」
さらに戦いが続く間、敵はただ途切れることなく攻撃をしかけてきた。
「自分を使って欲しくて餅つき大会を目指しているのか? ……悲しい話だが、お前の役目は終わったんだ」
ヴィルはその姿を見て、悲しげな声を吐き出した。
ダモクレスに感情はないのかもしれないが……それでも、敵は必死にもがいているように、彼には思えた。
捨てられるのは、きっと機械でも寂しいだろうから。
だが、寂しがっているとしても、ヴィルがしてあげられるのは倒すことだけなのだ。
「これ以上餅塗れになる前に、片づけさせてもらおう」
煉児が混沌の水で敵を縛った。
おそらく決着のときは近い。そう感じて、ヴィルは黒炎を帯びた邪剣を構える。
「格の違いを知れ」
素早く敵の懐へと飛び込んだ彼は、渾身の一閃でダモクレスを深く傷つける。
次いでミリムの剣がまた緋牡丹を描いた。
ダモクレスが走り出した。
「ぁ? 文句あんのかよ」
亞狼は自分に向かってくる敵に黒い日輪を見せる。敵にだけ見える日輪と、敵だけが感じる熱波は彼への敵がい心を抱かせる。
もっとも、敵がなにを感じていようがどうでもいいことだった。
大事なのは敵にここを突破させないことと、倒れたときに味方が1人でも立っていること。
細長い手をナイフで受け止めようとするが、手はすり抜けて亞狼をつかむ。
釜の中に放り込まれた傷だらけの体が何度も羽に叩かれる。
もはやボロボロの敵にできるのは、せいぜい亞狼を倒すことだけだ。
「勝ちゃなんでもいんだよ」
嘯いて、彼は地面に叩きつけられて意識を失った。
亞狼を倒したダモクレスを、リュートニアが放った時空凍結弾が凍らせ、苺の地を裂く一撃とマイアの胸元から飛び出したスライムが敵を捉えた。
ルージュは瞳に地獄の炎を集中させた。
「垣間見るは朽ちた未来。ならば、僕はそれに紅引き否定しよう。この手が誰もが望む未来に届くまで!」
見える数秒先の景色を幾度も否定し、そして望む未来へと彼はたどり着く。
未来をつかもうと伸ばした手の先に握られている刀は、ダモクレスを貫き、そして打ち砕いた。
●餅つき大会
周囲は多少建物が壊れている箇所があったものの、人には被害がないようだ。
「無事に片付いたみたいだね。みんなお疲れさま」
ルージュが仲間たちに告げた。
「クゥもお疲れさま、ありがとう。これで、お餅が食べられるかな?」
リュートニアがクゥを撫でてやる。
「少し直してから帰らなきゃいけないわね。正月早々迷惑な話だわ」
マイアがため息をついた。
「片付けに餅突き? なもん若ぇ奴らでやっとけ」
傷だらけのまま、亞狼が身を起こした。
「後ぁ任せたぜ。……どれ1杯ヤってくか。おでんの餅巾着でヤっかな」
デウスエクスがいなくなれば用はないとばかりに、彼はそのまま去っていく。
「……仕方ないね。あれが、あの人の流儀なんだろうから」
一瞬の沈黙のあと、ルージュが言った。
もっとも、そのやり方は彼女が求める正義とはとても合致しないものだっただろうが。
しばしの時間をついやして、ケルベロスたちは手当てと簡単な片付けを終えた。
「無事に餅つき大会も開けそうだね。参加する人は楽しんできてねっ」
真理音が言った。
「あの……。俺、あまりそういうイベントに参加した事無いから…一緒に行ってくれないか?」
ヴィルが彼女に声をかける。
煉児やミリムにも誘われた彼女はちょっと首をかしげて、それから笑顔でうなづいた。
「いいよ。それじゃ、ボクもつきあわせてもらうかな」
「お正月だしこういう行事は楽しまないとねっ。いっぱい食べられるといいなー」
苺が笑顔を見せた。
無事に餅つき大会は公民館で開催され、多くの人々が参加している。子供たちをはじめ一般人にしばし話しかけられてから、ようやく彼らも大会に参加することができた。
「有賀さん杵持って! 私は臼のもちを返しますので……」
「わかった! でも、手に当たっちゃったらごめんね」
ミリムに渡された杵を、真理音が振り上げる。
「大丈夫ですよ、痛いだけですから……そーれペッタン! ペッタン!」
息が合っている……というよりは、ミリムが合わせているのだろう。うまくもちをつく2人を見て、周りの人々が拍手してくれた。
少しの間餅つきを楽しんでから、真理音はリュートニアに顔を向けた。
「よかったら、ファーレンさんもやってみる? 楽しいよっ」
杵を渡されて、少年がクゥを抱えたまま頷いた。
年相応の笑顔を見せるリュートニアを、足元からクゥが応援するように見上げていた。
「手が空いたなら、返し手を頼めるか? 結構コツがいるが、大体わかった」
煉児が真面目な表情で真理音に声をかける。
「うん、任せて、潮さん。こうやってみんなで騒ぐのが、楽しいってことだよね」
確かめるように呟き、真理音が今度は臼の横にしゃがみこんだ。
餅つきをしばらく楽しんだ後、それぞれに好みの味の餅を食べていた。
「せっかくだしいろんなお餅作って食べたりしたいかも。慌てずゆっくり食べようねっ」
苺は並んでいる様々な餅に目移りしているようだ。
「なんにしようかな……クゥ、どれがいいと思う?」
リュートニアはクゥの前にかがみこんで問いかける。
「有賀さんも、みんなも餅を一緒に食べよう! 私はきな粉と餡子です」
「俺は醤油餅が好きだな……」
ミリムやヴィルがそれぞれ好みの餅を手に取る。煉児もミリムと同じくきな粉と餡子を選んでいる。
「どれも本当に美味しそうだよねえ。全部食べたらお腹いっぱいになっちゃうかな」
真理音が笑顔で言った。そう言いながらも、きな粉に餡子、醤油……他の者が食べている種類のすべてに手を出している。
「こういう場、こういう空気、悪くないもんだな」
「そうだな。これで、ハッピーな気分で帰れそうだ」
煉児の言葉にヴィルが頷く。
新年の冷たい空気を、つきたての餅がしっかりと温めてくれていた。
作者:青葉桂都 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年1月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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