●城『の』休息
東京都は中央区、月島。
もんじゃ焼き屋ばかりが軒を連ねた通りも有名な、活気溢れる町の姿は今やどこにも無い。
現在は機工城アトラースが城砦を築いて、自らは見晴らしの良い高所に陣取り、『リザレクト・ジェネシス』で負った傷の治療に努めていた。
その周りでは、恐らくアトラースの内部に控えていただろう奴の防衛隊たるスチームギア達がわらわらと城砦の防衛にあたっている。
4本の脚をぐったりと投げ出して自己修復しているアトラースと、その周りをちょこまかと動き回るスチームギア達は、まるで女王蟻と働き蟻のような風趣だ。
ただ、スチームギア達の動きは働き蟻と比べても統率が取れていない。
『リザレクト・ジェネシス』による敗戦から、月島城壁全体が混乱しているのだろう。
リザレクト・ジェネシス当時と比べても、とても防衛網が機能しているとは思えない、スチームギア達の狼狽ぶりである。
だが、機工城アトラースとて、全てをスチームギアに任せて無警戒というわけではなく、棘のようにびっしり生えた数多の砲塔からいつでも迎撃できるよう、神経を張り巡らせているのだった。
●いざ機工城へ
「皆さん、『リザレクト・ジェネシス』の勝利、お疲れ様でした〜!」
小檻・かけら(麺ヘリオライダー・en0031)は、まず嬉しそうに戦勝を労ってから、説明を始めた。
「ですが、此度の戦いでは未だ多くのデウスエクスが戦場に残っている為、皆さんに追撃戦を行っていただくことになりました」
小金井・透子(シャドウエルフのヘリオライダー・en0227)殿のヘリオンへ乗り込まれるチームとの共同作戦であります——微笑むかけら。
その2班が追撃をかける相手は『機工城アトラース』。
終末機巧大戦では第三の儀式場にて歯車を守り抜いた上、リザレクト・ジェネシスでもその頑丈さをケルベロス達へ見せつけた、かなりの強敵である。
「それでも、終末機巧大戦時に姿勢が傾くほどの損傷を脚へ受けたのが原因で、移動機構に不具合が発生しているのであります。加えて、戦争時に装甲へ受けたダメージも尾を引いているようですから、勝機はあります」
かけらは豊かな胸を張って請け負った。
「作戦としては、まず月島城砦へ潜入、スチームギアの群れを掻い潜って機工城アトラースの元へ向かってください」
何分スチームギア達が混乱している為、奴らに気づかれないような工夫をしっかりと凝らせば、無傷で機工城アトラースの所まで辿り着く事も不可能では無いだろう。
「そして機工城アトラースと戦っていただくのでありますが、戦闘が長引くにつれてスチームギア達が平静を取り戻し、アトラースへ加勢として集まってくるのであります。その辺りも考慮なさって、なるべく早く撃破なさってくださいましね」
機工城アトラースは、数多くの砲台や砲塔からミサイルをばら撒いて攻撃してくる。
「その一斉射撃は射程が長く、着弾したミサイルの爆発によって確実に火傷を負うでありますからお気をつけて」
また、虫のような逆関節の脚を器用に動かして足払い攻撃を近距離の敵複数へ仕掛け、装甲を引き裂いてくるという。
「更には、前面に張り出した一番目立つ砲塔から、『正面限定集中砲火』も浴びせてくるであります。近距離の敵複数人へ凄まじい威力で連射してきます」
だが、正面限定との注釈が示す通り、他のグラビティと違って——あくまで拠点ダモクレス基準としては——射程範囲が狭い。
「なればこそ、あえて正面から立ち向かいこの反撃を誘導する事により、2班全体で見た時の損害を減らす事ができるであります」
そこまで説明を終えると、次は戦略の話に移るかけら。
「さて……皆さんもご存じの通り、機工城アトラースは拠点型ダモクレスであります」
即ち、かの都市制圧型移動要塞アンドロケートスやクロム・レック・ファクトリアみたいに、内部潜入が可能という事である。
「終末機巧大戦の時のように、以前開いた突入口から中へ入り込み、内部から攻撃する戦法もアリなのであります。中枢を内側から攻撃すれば大ダメージを与えられますし」
但し、突入口が綺麗に丸々残っている訳ではない為、多少危険を犯して集中攻撃に時間を割かねばならないリスクもある。
「内部から攻撃していたら、加勢に戻ってくるスチームギアとの接触を先延ばしにできそうでありますね。同時にスチームギアへ拠点内へ来られると逃げ道も無くなりそうではありますが」
そうして補足を告げると、かけらは彼女なりに皆を激励した。
「リザレクト・ジェネシスの勝利をより完璧なものへするためにも、どうか皆さんのお力をお貸しくださいましね♪」
参加者 | |
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久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163) |
伏見・万(万獣の檻・e02075) |
ラーナ・ユイロトス(蓮上の雨蛙・e02112) |
愛柳・ミライ(宇宙救済係・e02784) |
若生・めぐみ(めぐみんカワイイ・e04506) |
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716) |
宇原場・日出武(偽りの天才・e18180) |
トリューム・ウンニル(碧き天災の運び手・e61351) |
●
月島。
総勢40名ものケルベロス達は、互いに時計の針を合わせて作戦開始時刻を確かめてから、機工城アトラースがいる月島城砦へ乗り込む。
まず先陣を切るのは、スチームギア達の注意を引きつける役を買って出た足止め班。
「切り刻む!」
ジュスティシアはスチームギアの群れへ果敢に突撃。
ゾディアックソード<乙女座>による高速の剣戟を浴びせて、1体の神経回路がズタズタになるまで斬り刻んだ。
「ほれ、早速出番だ」
次いでアルベルトがオウガメタル改に『黒太陽』を具現化させ、集まってきたスチームギア達を絶望の黒光で照らす。
「はいはい、気ぃつけていってらっしゃーい」
回復役が性に合っているというウィッチドクターのフレデリは、メタリックバーストでアルベルトの集中力を高めた。
彼らやガイバーン・テンペスト(洒脱・en0014)がそれぞれスチームギアへ攻撃を仕掛ける傍ら。
「逃がす理由はねえ、ここで仕留めるぜ!」
筋骨隆々たる熱血漢も吼えながらスチームギアへ突撃。
「よお、俺との再会楽しみだったろ?」
鈍色のケルベロスコートを着込んだ灰髪のシャドウエルフも、大立ち回りを演じて奴らの注目を集めている。
「……どうか、ご無事で」
足止め役2班の援護に勇気づけられる潜入班を、蒼穹の髪鮮やかなレプリカントが見送ってくれた。
(「アトラースへ潜入したのがつい昨日のよう……彼――ラグナロクは、どんな思いで私達を待っていたのだろう」)
潜入班——機工城を内側から攻撃する8人の中での先導役は、愛柳・ミライ(宇宙救済係・e02784)。
生きる罪を肯定する歌に出会ったのが転機となり、電波なアイドルとして生きていくと決めた、高校デビュー系ミュージックファイターである。
(「残されたアトラースは、何を支えるのだろう」)
都市迷彩服を身に纏い、消音素材のブーツを履いて尚、足音を立てまいと超低空飛行するミライの備えは万全だ。
「……いけないいけない。スチームギアを撹乱してくれてるみんなの為にも、集中しないと」
唯一万全でないのは、機工城アトラースの中で辛酸を舐めさせられた彼女自身のメンタルか。
ミライは仲間の顔を思い浮かべて悶々とする思考を振り払い、仲間へのハンドサインに専念した。
「こうして時たまには、簡単に忘れてられない昨日ってのもあるのよね!」
彼女に続いて城壁の中を駆け抜けるのは、トリューム・ウンニル(碧き天災の運び手・e61351)。
日々を思いつくに任せて生きている、行き当たりばったり精神が小気味良いハイテンションなガジェッティアの少女だ。
「はいはーい、ワタシの記憶が確かなら、こっち側からアトラースに穴を開けたハズよ」
トリュームもまた、以前機工城内部へ突入した1人故に斥候を買って出ていた。
しっかりと隠密気流を起こして気配を絶ちながら低く飛んでいる辺りも、実に頼もしい案内役である。
一方。
「わたしは天才だ~! 天才のわたしがいるから何も心配いりませんよおホッホッホ」
宇原場・日出武(偽りの天才・e18180)は、最大限の虚勢を張って笑いながら、反りくり返って丸い腹を突き出し懸命に走っていた。
傲慢かつ他人を見下す性格故か、自らが医と武の天才だという根拠のない思い込みのみで自尊心を保っているというウィッチドクターの男性。
しかしその物腰は低く、傍目には道理を弁えた常識人としか映らぬ温厚な善人——もとい偽善者である。
「ホーッホッホ。このわたしの力をもってすれば、スチームギアどもに気づかれずアトラースへ取りつくぐらい容易い容易い!」
とにかく自分を大きく見せるべく、息をするかの如く大口を叩く日出武。
だが、特殊な気流に助けられつつの彼の言葉は瓢箪から出た駒のように、仲間を勇気づけているのだった。
「急拵えとはいえ、ダモクレスの根城の真っ只中……時計が狂わされないことを祈りましょう」
若生・めぐみ(めぐみんカワイイ・e04506)も、仲間を追って機敏に駆け出す傍ら、そんな事を心配していた。
『この世界に現れるため、思いの欠片より、人の姿を取り戻した、神の卵』という設定で活動する新人アイドルのミュージックファイター。
ちなみに、豊満になりたいとの本人の願望とは裏腹に、ぺたんこである。
「終末機巧大戦のやり残しを今度こそ片づけるためにも、手抜かりないようにしたいですね」
時々、ナノナノのらぶりんが自分の速さについてきている事を視界の端で確かめながら、めぐみは薄い胸に固い決意を抱いて走った。
「さて、戦争であんまり貢献出来なかった分、今回は頑張らないとな」
久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163)も、めぐみ同様に終末機巧大戦で心残りがあるらしく、真剣な面持ちで前を向いて走っている。
短く整えた黒髪と意思の強そうな赤い瞳が印象的な、現役高校生ケルベロス。
かつて、面倒臭がって髪を伸ばしていたら頻繁に女子と間違われた為、中学時代は極端に髪を短くしていたらしい。
「アトラースの破壊、かー。中々ハードだが、まぁやるしかないな」
航は愛用の白いロングコートのお陰で皆と同じく隠密気流に包まれ、気配を殺して移動していた。
「スチームギア、本当に混乱しているみたいね……」
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)は、次々と擦れ違うスチームギアが足止め隊との戦闘にすっかり気を取られている様子を見て、内心胸を撫で下ろしていた。
後ろでひとつに纏めた黒い髪と大きな灰色の瞳が可愛らしい、清楚な雰囲気の少女。
また、短くない期間過ごしてきた師団の影響か、ツッコミやボケをさらりとこなす逞しさも身につけていたりする。
「それにしても、アトラースへ突入した事のあるトリュームさんやミライさんがいてくれて心強いわね」
やはり例に洩れず隠密気流を纏って、かぐらは頼りになる斥候2人を追いかけた。
他方。
「……よし、今んとこどいつにも気づかれてねェな」
伏見・万(万獣の檻・e02075)は、まるでガンを飛ばすチンピラのような鋭い目つきでぎょろぎょろと周囲を警戒していた。
目つきの悪さと精悍な体格、フサフサした尻尾が目を惹く、狼のウェアライダーの青年。
見た目に違わぬ粗暴な性格で酒好きだが、塒に居候を住まわせてあげる優しい一面もあるようだ。
「ま、早いとこアトラースのどてっ腹に風穴開けてやろうぜ」
そう意気込む万は、流石に走りながらスキットルを傾ける横着はしなかった。
さて。
「年始初任務です、気合い入れていきましょうか」
相変わらずの感情が読めない笑顔で班の最後尾を務めるのはラーナ・ユイロトス(蓮上の雨蛙・e02112)。
誰かのためより自分のために動き、戦う——そんな信念の元、日々自らの務めを果たすウィッチドクターの女性だ。
「対スチームギアを引き受けてくださった皆さんの手前、負けられませんしね」
虫のように大量発生したスチームギアと仲間との乱戦を横目で見ながら、涼しい顔で走る速度を上げるラーナだ。
●
トリュームとミライの誘導で8人がアトラースの側面へ最接近した時、正面攻撃班もマントを羽織った青年がハンドサインを駆使して先行するのへ従い、反対側へ回り込んでいった。
機工城アトラースはあらゆる砲台からミサイルを撃ち出し、挟み撃ちのような布陣でいる16人へ向かって、一斉射撃を仕掛けた。
「させませんよ……らぶりん!」
らぶりんへ指示を出すと共に、自分も万の前へ躍り出てミサイルの直撃を喰らうのはめぐみ。
らぶりんはすかさずトリュームを小さな背中で庇い、砲弾の爆炎に巻かれても必死に堪えた。
「突入口が開くまで、クラッシャーと私を庇うんだよ、いいね」
ミライからそう言い聞かされていたポンちゃんも、忠実に彼女の身代わりとなって大きな火傷を負っている。
機工城アトラースの突入口は、幸いにも完治しておらず、十全な状態の装甲と比べるとやはり目視でも判るほど薄い。
「こちらは中に入ります。お互い頑張りましょう」
自分や仲間の体から黒煙がもうもうと立ち上る中、めぐみが正面攻撃班へと声を投げる。
「ええ、こちらは任せてください」
いかにもデスメタル風な長髪男が、視線はアトラースから外さないまま答えてくれた。
「せっかくだし楽しまなきゃな!」
一斉射撃の超火力を目の当たりにしても、日出武の空威張りは依然として健在。
「ホーッホッホ!」
それでいて、臆病な自分を密かに鼓舞するためか、余裕に聞こえる笑い声を上げつつ、塞がった突入口へ星型のオーラを蹴りつけた。
「えーと、今度こそアナから手を突っ込んで奥歯ガタガタいわすわ、うちの村長がね!」
果たして日出武の強がりを真に受けたのか、奇跡の村村民のトリュームがアトラースへ威勢良く啖呵を切って、
(「えっわたしが!!?」)
日出武を内心オロオロさせている。
「村長も皆も頑張って!」
そんな動揺など露知らず、全身から光輝くオウガ粒子を放出して前衛陣の超感覚を覚醒させるトリュームだ。
「ガンガン攻撃しちゃってください」
と、めぐみは前衛陣の背後へカラフルな爆発を起こして、爆風を背にした彼らの士気を高める。
何せ、学生服にブルマという出で立ちの現役アイドルである。そんな格好で応援されれば自然とやる気が出る男性陣がいるかもしれない。
らぶりんも早速破壊力の上がっためろめろハート光線を撃って、突入口へ着実にダメージを重ねている。
「どんなに願っても 涙は枯れはしない ゼロを1に変える魔法が 生まれたときから君に掛かってる」
咄嗟の判断で戦線の維持を優先し、KIAIインストールを熱唱するのはミライ。
願望こそ人類の原動力だと証明する歌が、もう少し頑張れるようにめぐみの傷を癒した。
ポンちゃんも主の意志に忠実に属性インストールを敢行、かぐらの治療にあたった。
「貫け! 流星牙!」
とにかく早く突入口を開けるべく、航はドラグソードで火力重視の一太刀を振るう。
エンブレムミーティアからヒントを得たという、紋章の力宿りし神速の突きが、突入口の傷跡を深く抉った。
「へっ、奴さん、こっちにはまだまだ来られねェみてェだな」
万はスキットルの中の酒をガブ飲みしながらも、スチームギアの増援がないか仲間へ具に報せている。
その傍ら、フェアリーブーツを履いた足で理力のこもったフォーチュンスターを蹴飛ばし、アトラースへ一撃くれるのも忘れなかった。
実際、スチームギアは足止め班によって次々と城砦入り口へ集められ、着々と数を減らされていた。
「皆さんを守ります!」
高らかに叫ぶフローネは、低い体勢からスチームギア1体へがっぷりと組みつき、決死の覚悟で自分に攻撃するよう仕向けている。
「今、回復するね……」
スチームギアの大群にも怯む事なく悠然と構えたアトリは、クールに一言呟いてケルベロスチェインを展開、フローネ含む足止め班前衛陣を守護した。
キヌサヤも懸命に清浄な翼を羽ばたかせて、前衛へ異常耐性を付与している。
「開放します! サン・ニー・イチ・開放!!」
スチームギアの頭上へフックつきの棒を伸ばすのは文香。
それだけで何故かスチームギアの動きが鈍るのだから不思議だが、本人曰く相手のやる気スイッチを切断してるだけだそうな。
「何……こうした裏方は勇者を歓待していた時から、何度もやっていたのよ。とても遠い遠い記憶だけどね」
フレックはにっと笑って、光の翼を群れなす刃翼から聖剣神剣宝剣魔剣のレプリカへと変異させ、スチームギア達へ容赦なく連射している。
一方。
「残り物には福があるとか言うけど、これは残しちゃいけないしね……」
かぐらは皆のグラビティが通りやすくなるようにと、アトラースへ雷刃突を見舞う。
雷の霊力を帯びしドラゴニックハンマーが目にも留まらぬ速さで振り下ろされ、突入口の装甲を遠心力に任せて突き破った。
「城に火をつける……こんな暴挙が許されるのも相手がデウスエクスだからですね」
ライトニングロッドへ地獄の炎を纏わせて、アトラースの突入口を景気良く何度もぶっ叩くのはラーナ。
ゴォオオォォ——!
燃え盛る炎に包まれた突入口は、遂に穴が人1人通れる程の大きさにまで開いた。
「いきましょう」
ホッとした顔で突入口まで飛んで向かうミライを見て、
「気をつけて」
スチームギアと交戦中のアトリが声をかけた。
8人が突入口へ乗り込んだ時、果たしてバランスを崩したのかそれとも振り落とそうとしたのか、機工城アトラースがぐらりとよろけた。
「!」
すると、スチームギア達がその異常に気づいて駆け戻ろうとするも、
「ワタシも、大切な友達の力になりたいから……!」
すかさずマヒナが、スチームギアの頭上へヤシの木の幻影から落ちたココナッツをゴチンと命中させて、それを阻止した。
アロアロもワイルドファイアを懸命に撒き散らし、スチームギア達へ火傷を負わせている。
「どこに行くの……」
その近くでは、赤髪のレプリカント少女が、右脚の地獄を激しく散らして奴らの前に立ち塞がっている。
「僕たちを置いていくなんてさみしいじゃないですか」
縛霊手より巨大光弾を撃ち出し、スチームギアを焼き尽くすのは金髪色黒の刀剣士だ。
「music……start」
惺月は無表情のまま古より伝わる『戦いと継承の歌』を響き渡らせ、スチームギア達の霊的防護を破壊せしめた。
手足からミサイルポッドを出し、スチームギア達へ大量のミサイルをぶち込むのはアッシュ。
「えぇと、あのっ、あのぅ……」
テンパりつつも、対デウスエクス用のウイルスカプセルを投射するのはクアジューム。
姉のトリュームの知らないところで、彼女もスチームギアの引きつけに活躍していた。
●
機工城アトラースの内部は、正面攻撃班による集中攻撃のお陰もあってか、想像以上に荒れていた。
目に見えないダメージの蓄積が、拠点型ダモクレスの中へ侵入する事で露わになった、稀有な例である。
「構造自体は変わってません、ね」
ミライの記憶を頼りに奥へ進むと、赤く発光する巨大なオーブが何らかの機構らしき赤錆色の内壁へ埋め込まれていた。
「機工城自体が巨大な分、コアも大きいわね……」
煌々と光るコアを目の前にして、驚くと共に感心するのはかぐら。
アームドフォートの主砲を一斉発射して、コアへ強い衝撃を与えた。
「新しい秘孔の究明だ」
日出武は、どことなく哀しい目をしつつ拳をテキトーに叩き込む。
まさに敵を内部から破壊せしめる事ができる、今の機工城へはうってつけのグラビティといえよう。
「彼の地の友に願う、我に助力を」
菌糸で編まれた大きな投網を異世界より喚び出すのはめぐみ。
力いっぱい投網を投げつければ、アトラースのコアは菌糸の齎らす刺激で体力を消耗した。
らぶりんは尖った尻尾をコアへズブリと突き刺し、愛の心を注入。
アトラースのコアを刺突と毒の痛みで点滅させた。
「クッキーちゃん、今こそありったけの拳をお見舞いするのです!」
オウガメタルのクッキーちゃんを鋼の鬼へと変化させるのはミライ。
銀色に光る流体金属に覆われた手でコアを思い切り殴りつければ、コアを包む透明なガラスに似た装甲へ、蜘蛛の巣状のヒビが疾った。
ポンちゃんはボクスブレスを勢いよく吹きつけて、コアのガラスをバキバキに砕いてみせた。
足止め班計24人への絶大な信頼感があるとはいえ、いつスチームギアが大挙して押し寄せてくるかもしれない——という懸念は、否が応でも8人を焦らせた。
「時間が無い! 急ぐぞ!」
航もドラグソードを縦横無尽に振るい、流星牙と月光斬を交互に放っている。
「こうだったでしょうか?」
と、うろ覚えのコマンドを脳内で入力するのはラーナ。
B・B・B・A・右・右・左——そこから繰り出されるテキトーながらも非常に力強い足技が、アトラースのコアを完全に破壊するレベルの威力で迫った。
「狩られるのはテメェだ、逃げられると思うなよ!」
万は、己の構成要素たる獣を幻影として召喚。
解き放たれた獣の群れは影となって地を這い、アトラースのコアへ絡みついた。
「上からくるぞ! 気を付けろー! キャハハハハ!」
トリュームが腕を広げると同時に、装着していたオサレアイテムが分解、脚部装甲へと変形。
起動した『JetPack-DBA』によって飛び上がり、コアへ急降下突撃を仕掛けた。
——バキャッ!!
トリュームの勢いの良い脚が光る表層を貫き、遂にコアを破壊。
刹那、城全体が激しく揺れ始めた。
「崩れる!?」
8人が慌てて来た道を引き返そうとするも、それより早く、
ドゴーーー……ン!!
機工城アトラースの胸から上の部分が、沢山の砲塔砲台を含めてド派手に爆発、粉々に砕け散った。
突然開けた視界に映る青空を眺める8人。
「やった!」
航が歓喜の声を上げると同時に、眼下の正面攻撃班からも勝鬨が聞こえてきた。
「俺たちの勝利だ!」
鍛え上げられた両腕を上げている青年。
「おつかれさん」
黒髪のわんこもとい狼ウェアライダーの声は和らいでいた。
「どうやら天才の帰還をお待ちかねのようですねえホッホッホ」
日出武は変わらず傲岸不遜な態度を貫き、アトラースの腹部から飛び降りた。
バランスを崩して転げ落ちたように見えるのは気のせいである。
作者:質種剰 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年1月11日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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