●三竜留まりて
城ヶ島の西側、楫の三郎山神社。
そこにいるのは亀のような、背に大量の触手を生やした巨大なドラゴン。淡い光が周囲を漂う中、巨体に見合った触手を天を掴むように伸ばしていた。
もっともその触手は半分程は萎びたよう、残り半分も各所が裂け損傷していた。周囲を見れば千切れ落ちた触手が大量に転がっている。
それでもなおそのドラゴン――堕落の魔王は陣を描き続ける。材料は竜の血、そして身体の一部。
「……儂と残った配下の全て、これだけ絞り出してもまだ足りぬか」
竜は大きく息を吐き、周囲に視線をやる。遠くに見えるのは配下の堕落の蛇。殆ど竜十字島へと帰島し、それでも残したのは儀式の遂行に必要な数だけ。
改めて自身の触手を千切り、地へと転がして蓄えられていた力を陣に注ぎ込む。すると陣の上の淡い光の濃度が増し、空へと伸びていく。
この儀式の完成により作り出されるものは、巨大な『固定型魔空回廊』。三年前にケルベロス達の活躍により突破されたそれが再びこの地に創り出されようとしているのだ。
この魔空回廊が完成すれば、竜十字島の戦力を大量にこの地に呼び出すことができる。つまりは橋頭堡。創り出す為に力を大きく削られているが、それも竜十字島に帰還できれば癒やすことも出来るであろう。そして、
「力を取り戻した暁にはこの苦痛の億倍を人間に味合わせ、絶望の悲鳴を肴に酒池肉林と……グッ!」
邪悪に口角を吊り上げたドラゴンの口から苦痛の呻きが漏れる。成しえたとしてもそれは遠い先、今すべき事はこの魔空回廊の完成という現実だ。
その名に反して勤勉に、堕落の魔王は己の力を儀式遂行の為に注ぎ続けている。
「『リザレクト・ジェネシス』の戦いおつかれさま! デウスエクス達の野望も挫かれ一安心だ」
勝利を祝う雨河・知香(白熊ヘリオライダー・en0259)、そして表情は笑顔から真剣なものへと移り変わる。
「ただ、知っての通り多数のデウスエクスが今回戦場となった地域の周辺に残っている。だから今のうちに追撃戦を行うことになった」
数多くの敵がいた戦場、討ち漏らした敵も多く、このまま逃がすとなると後々に大きな禍根を残すことになるだろう。
「今回アタシが連れて行く先は城ヶ島。つまり……ドラゴンだ。戦ってもらう相手は『堕落の魔王』と呼ばれている」
その言葉に空気が僅かに緊張を帯びるが、知香は言葉を続ける。
「配下である『堕落の蛇』とは戦ったことのあるケルベロスもいるかもしれない。先日の戦いでも配下を率いて来ていたようだが、今はその一部を連れて、城ヶ島で他の強大な二竜と共に固定型魔空回廊を設置するための儀式を行っているんだ。それも三年前にあったものより巨大で、完成した場合は竜十字島から大兵力の移動を可能にしてくるだろう」
その儀式を阻止するためには三竜いずれかの撃破、もしくは儀式陣の破壊が必要だとヘリオライダーは言う。
「三竜は島の各所に散らばって儀式を行っていて、さらに残った配下が島を警備しているから正面から仕掛けてもかなり厳しい」
そこでだ、と知香は話を区切る。
「アタシ達ヘリオライダーがドラゴン達の頭上まで運び、直接奇襲をかける。儀式のためか、堕落の魔王のすぐ近くにはすぐ動ける配下はいない。そこを一気に叩いて欲しい」
そして知香は地図を広げ、説明を始める。
「堕落の魔王が陣取っているのは島の西側にある楫の三郎山神社。周辺に堕落の魔王の背の触手が千切れて散らばっているけれど、戦闘には問題ないだろう。配下の堕落の蛇はすぐ駆けつけてこれるような状態のは近辺にはいなくて、比較的近くにいるのは儀式のために力を捧げて消耗しているのですぐには動けない」
だから、堕落の魔王との戦いに集中して問題はないと彼女は言う。
「堕落の魔王自体の戦闘能力だが……ドラゴンらしくかなり巨大で、背中に生やした触手とブレスで攻撃してくる。大量の触手を広範囲に一気に叩きつけてくる攻撃は生命力を奪ってくるし、狙い澄まして突き出してくる一撃は、突撃槍の一撃のような貫通力がありとにかく強烈。また、ブレスはこちらの動きを鈍らせる効果がある。万全な状態でないから勝ち目はあるが……堅実に戦闘を進めてくる強敵だ。心してかかって欲しい」
それと儀式の破壊についてなんだが、と知香は続ける。
「堕落の魔王の撃破以外にも手段はある。周囲に転がっている触手のうち、特に巨大ないくつかは儀式の要の一部になっている。これを四本破壊することでも儀式の阻止自体はできるだろう。ただ、堕落の魔王自体が戦闘で相当消耗するまでは障壁のようなものがあって攻撃が届かない。いずれにせよ、堕落の魔王にある程度以上傷を与えることは不可欠だろうな」
そこまで話した白熊はケルベロス達を見やる。
「消耗しているとはいえ敵はドラゴン、困難な依頼になるだろうけど……今は撃破する為の大きなチャンスでもある。可能なら撃破を、そして無事にみんなで帰ってきてほしい」
知香はそう締め括り、ケルベロス達をヘリオンへと促した。
参加者 | |
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平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547) |
ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707) |
ルーク・アルカード(白麗・e04248) |
ロウガ・ジェラフィード(金色の戦天使・e04854) |
鏡月・空(たゆたう朧月・e04902) |
機理原・真理(フォートレスガール・e08508) |
スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079) |
リリベル・ホワイトレイン(堕落天・e66820) |
●空より来たれり
城ヶ島は異様な気配に満たされていた。身を削り陣を刻みそれにつれて空へ上る光の粒子は増していく。
竜が怠そうに空を見上げる。虫の予感、或いは敵意を感じ取ったか。直後、空を切り裂き金の影が巨大な翼を広げ果敢に地へと突撃。金の髪に咲く薔薇より芳香と視線の波動、時空制御の三重干渉を同時に仕掛けるのはロウガ・ジェラフィード(金色の戦天使・e04854)だ。
さらに赤い流星の追撃が命中。展開された銀の粒子を切り裂いて鏡月・空(たゆたう朧月・e04902)の飛び蹴りが続くも、流石に連続攻撃に慣れたのか触手で受け流される。
次に落下してきた白い影を叩き潰そうと触手を振るい地面を凹ませるが、それは偽物。本体は触手の群を挟んだ尻尾側に既に着地していた。彼、ルーク・アルカード(白麗・e04248) の二本のナイフが閃き鋭い斬撃を見舞ったが、浅い。
反撃に伸ばされた触手を機理原・真理(フォートレスガール・e08508)が割り込み防ぎ、黒のライドキャリバー、プライド・ワンが炎を纏い突撃、触手の表面を焦がす。
「魔空回廊など作らせるわけにはいきません」
その為に、自身の全身全霊を。赤い流星、もといエルフの魔術師、ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)の言葉は冷静、けれど決意は固い。
「うにゅらー! 魔空回廊の設置なんてさせないぞー!」
幼い少女のような言動と仕草で平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)が声を上げる。
「そしてお前の肉をよこせー!」
やたらと力強く、叫んだ。
(「ドラゴンは只でさえ厄介なんだ」)
そんな相手に足を与えるのは何としてでも阻止しなければならない、ルークは思考しながら体勢を整える。
「魔王相手とか面白いじゃん。勇者パーティの実力みせてやるぜ」
銀の粒子を前衛に展開しつつ、傲岸に言い放つのはリリベル・ホワイトレイン(堕落天・e66820)、その横に飛ぶシロハも心なしか偉そうだ。
(「ヒーラーだけどね!」)
勝てない相手とは戦いたくない位に小心者ではあるが、それでも口でさえ負ける訳にはいかない。
「ここで止めに来る。組みし易いと……いや、他も同時に狙っているのか? ここで八つ裂きにして宴でも開いてやろうか」
「……どうもドラゴンの中でも相当に質が悪いタイプのようですね」
邪悪に嗤う堕落の魔王の言葉に、空が呟く。
「これが堕落の蛇達の親玉ですか……見た目は、想像通りではあるですね」
配下である堕落の蛇とは幾度も交戦している真理、碌でもないと予想していたが見た目はその通りのようで、けれど想像よりは幾分貧相に見えるのは背の触手の惨状のせいか。
それでも竜の瞳に宿る殺意は楽観を許さない。
(「大蛇が出る伝承があるとは聞きましたが、そういう繋がりで来たんでしょうか……?」)
元々巫術士だったスズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)は推測するが、正確な所は不明だ。ただ、神社を穢すドラゴンの所業を許す訳にはいかない。傍らの古い木箱型のミミック、サイと共にこの戦いに臨む熱意は十分。
「今こそ神敵の野望に、一気に終止符を打つ時! 二度と竜の通り道を作らせてなるものか!」
人々を守る戦天使はその姿通り上品に、朗々と宣言する。嘗て地球を守った先達、そして散っていった番犬の為にも負ける訳にはいかない。
(「禍根を残さない為にもここで倒せることができれば何よりなのですが……」)
それが上手くいくかどうか。いずれにせよ今はやるしかない。空は蒼き炎を宿す刀を振るい、戦闘態勢をとった。
●蹂躙に耐え
最初に飛び込んだのは真理。構造的な弱点を高速演算で見抜き、その点を狙おうとし――触手に阻まれる。同時に側面に回り込んだ和が星型のオーラを蹴り込むが、肉厚の触手にぬるりと流される。
そこにウィッカの放った凍結光線が触手の守りを縫うように命中、霊力を纏った空の斬霊刀もそれに続き、斬り裂いた。強烈な斬撃、けれどそれを意に介した様子もなく竜は触手を暴れさせ接近していたケルベロス達を弾き飛ばす。
「それにしても……戦争の時にいましたっけ?」
オウガ粒子を前衛へと展開しながら銀の狐耳を揺らし、こてんと首を傾げるスズナの言葉。それを聞かなかったかのように堕落の魔王は後衛へとブレスを吐く。ロウガは咄嗟に戦天使の大盾を割り込ませたが防ぎきれない。その瘴気のような期待に触れた瞬間、何もかもがどうでもよくなってしまうような虚無感に襲われる。
風が、吹く。シロハの羽ばたきにより邪悪な息吹が祓われブレスを受けたケルベロス達は現実に立ち返る。
「ぽちっとな!」
猫に負けじとリリベルが腕部装着型キーボードのスイッチを力強く押し込むと、士気を高めるカラフルな爆発が起きる。
その援護を受け、薄金に輝く流星の光を乗せたロウガの踵落としが竜の頭を地へと叩きつける。同時に側面に回り込んだルークが螺旋を宿す掌底を軽く当て、内部に破壊を解き放つ。竜は反撃の触手を暴れさせるが、サイが割り込み防ぐ。お返しにエクトプラズム製の武器が振るわれたが、触手で勢いを殺がれ有効打にならない。
その間に和が銀の粒子を再度前衛に展開。真理も再び飛び込み、阻もうとした触手を改造チェーンソー剣の鎖刃で無慈悲に切り破る。
けれど守りは固い。致命打を与えられるようになるには遠そうだ。
数度、触手が蹂躙し堕落の吐息がケルベロスを襲った。
和が変形したナイフで肉を切り裂かんとするが、刃筋が立たず流される。さらに空がグラインドファイアを見舞ったが、分厚い触手で火を纏った蹴りの軌道を逸らされる。攻撃に専念する空だが、中々当たらない。活性化された感覚を以てしても、足止めが効果を発揮しないタイミングでは格上に命中させる事は困難。
一方、ウィッカとロウガは確実に命中させて呪縛を蓄積させていた。
「我が父は太陽(カミ)に似たる者、快楽の狂気――優雅なる魔性、魂を灼く者――」
その身に流れる父の、サキュバスの血を誇るロウガは揺るがずに言葉を紡ぐ。
「どうか、その歩みに悦びを」
嗅と視に働きかけ、時空制御を重ねて堕落の魔王の空間認識を狂わせる。苛立たしげに乱雑に振るわれた触手の一つを、ウィッカがヌンチャク型になった魔杖で受け流し、叩き落とすように胴体部へカウンターとしてぶち当てる。
「……そろそろ行くぞ」
けれど、それも竜には些事。竜の触手は数を増し、後衛を飲み込もうと波濤のような勢いで押し寄せる。前衛は必死に庇おうとするが、運悪くリリベルとルークが飲み込まれてしまう。
「ぐっ……!」
ブレスに動きを僅かに鈍らせたルークは逃れ切れず、締め上げられる。全身がバラバラになりそうな痛み、けれどそれを押し殺し振り払って触手を斬り裂く。返り血は白狼の傷を癒やすが、不足。
「援護、するですよ!」
真理がドローンの群れを操り、リリベルの周囲を護衛するよう展開する。前衛を無視して後衛を広範囲で狙い続ける攻撃の全てを庇いきる事は困難。故に回復で補う。
「サンキュー、まだまだやってやんよ!」
調子よくに返すリリベルだが負傷はまだ癒やしきれない。そこにスズナが自然とリリベル、そして自身を霊的に接続し、傷を一気に癒す。
「なんですか、少女一人倒せないんですか?」
「黙れ小娘」
前衛に意識を向けさせるための狐の少女の挑発。それに対し、声は静かに、けれど攻撃は荒々しく。ケルベロス達の攻撃を躱しつつ放たれたブレスが後衛へと向かう。今回、ケルベロス達は触手攻撃に対する防具を合わせている。けれど、軽減できないブレスのタイミングで回復に手を割かねばならない程被害は大きい。
堕落の魔王のこれまでの攻撃は全て後衛狙いだ。護り手が大半の前衛を狙うよりはそちらが効率的だと判断したのだろう。被害を抑える為の呪縛も効果を十分発揮させる程の数が重なるまでには時間がかかり、その前に致命的に不利になる可能性は高い。
特に、後衛を狙われる場合は庇われる事を考えても総量はかなりの物となるのだから。
「特製ひん、ですよっ!」
その状況を変える為にスズナが札を投げつける。
命中したそれは巫術の力を籠めたもの。スズナの姿が敵の本来狙いたい誰かに見せかける効果を持つそれは、十全に効果を発揮する。
その間にリリベルがスズナに金属片を吹き付け守りを固める。シロハも消耗が酷いが、羽ばたきを止めず仲間を癒やし続けている。
ケルベロス達の生命力を奪いながら戦う堕落の魔王、その戦いは消耗戦の様相を呈していた。
●竜殺し
竜の触手が嵐のようにケルベロス達に殺到する。けれど狙いは序盤と異なり前衛。
「あなたは元気になるでしょう、多分」
一嵐が過ぎた後、リリベルが囁き強く祈るとスズナが柔らかな光に包まれ、傷の大半が癒される。さらにスズナは檳榔子黒を胸の前に、周囲の無機物に意識を集中して同調し癒しの力を高める。攻撃が前衛に惹きつけられるようになり、回復に余裕が出てきていた。
「魔竜の血族程、恐ろしくはありませんね!」
「……そんなに先に死にたいか?」
地の底から響くような竜の声、それに気圧されそうになりながらも、スズナは目を逸らさない。
ケルベロス達に憎しみを籠めたブレスが前衛に放たれた。攻撃手である空をサイが庇ったが、耐性が合っていても何度も攻撃を受けては耐えきれない。その姿を消失させた。
竜の力を噴射し、加速した空のハンマーが回避しようとする竜を追いかけ捉えると、更に和が釘を生やしたエクスカリバールを竜の頭部にフルスイング。後衛が着実に重ねてきた足止めが累積し、彼らのグラビティも当たるようになっている。
それに続いてルークの呪いを乗せた斬撃が防ごうとする竜の触手の間隙を正確にすり抜け本体を斬り裂くと、ロウガも漆黒の長剣に空の霊力を纏わせ追走させ傷を拡大させる。 ゆらり、と赤い影。急接近した魔術師の少女が視認困難な斬撃を喰らわせ、更に真理がチェーンソー剣で切りつける。
個体能力に優れるドラゴン相手に、ケルベロス達の有利な点として手数がある。それを活かす氷も徐々に体力を削っている。それに加え呪縛を増幅させる攻撃が当たり始めれば、呪縛を解除する手段を持たぬ竜の状況は一気に悪化していた。
「首と肉置いてけ! なあ! ボクのロマンになれオラー!」
「強者である儂を単なる狩りの得物とでも思っているのか!」
単なる挑発なのかもしれないが、和の言葉に苛立ったように刺突を向けようとするがスズナに引き寄せられ、鐘撞のように叩きつけられた。
「……っ!」
スズナがとうとう倒れる。呪縛の増幅により殆どすべての攻撃が前衛に惹きつけられるようになっていた為、消耗が大きくなり過ぎたからだ。
けれど彼女が稼いだ優位は大きい。前衛はサーヴァントを含め二人倒れたが中後衛は既に状況を立て直しているのだから。
ケルベロス達の攻撃は着実に堕落の魔王の体力を削っていく。脇腹と思しき位置に潜り込んだ空が蹴り上げる、僅かに移動した竜の反対に現れた空がもう一発、連続で攻撃を喰らわせ最後に頭部に踵落としを見舞った。破壊力の高いそれに流石の堕落の魔王も声を漏らすが、それは即座に怒りへと転じ、
「まだ終わらん!」
竜の息吹が前衛へ。前衛に攻撃が集中する事で、回復不能の傷が重なっていた点を狙った攻撃により、空も倒れてしまう。
それでもリリベルは諦めずヒーラーとしての役割を継続させる。
相手も相当負傷している。ならもう少し、もたせる。
「――知に勝るものなど何もない。我が知の全てをここに示す!」
和の詠唱と同時に堕落の魔王の頭頂に分厚い本の角がめり込む。落雷に等しい速度の一撃を躱せるはずもなかった。さらにロウガの鉄槌の如き踵落としが突き刺さる。さらに真理が纏う主砲を一斉に放つが、目的への執念の為か、鈍った動きながらも太い触手の一本を盾に防ぎきった。
「舐めるなっ!」
堕落の魔王が接近していたルークを東部で叩き潰し大きく息をする。それは眼前の敵を薙ぎ払う触手の蹂躙の準備。護り手も減り、癒し切れぬ負傷が重なっている今、自身を癒やす為の一手。
けれど、攻撃に転じようとするその瞬間は好機。
踏み潰されたのは分身。ドラゴンの巨大な頚の上に現れたルークはその双刃を閃かせる。直後、激しく噴出した鮮血は致命傷の証。それと同時、ウィッカが飛び込むが、
「まだ……終わらぬ!」
破城槌と見紛う勢いで触手が突き出される。そのカウンターは速度も相まって避けきれない、はずだった。
けれどそこに黒いライドキャリバーが割り込み、身代わりとなった。ばらばらと部品を散らすプライド・ワンを背に、ウィッカが魔術文字を刻んだ魔剣を突き込み、五芒星を描いて黒の禁呪により作られし呪いを撃ち込む。守りの薄い部分に走った針を刺したような痛み、それが内部を蝕む激痛に変化し、呻き声を上げ竜は触手を地に投げ出した。
「未来を見る事は叶わなかったが……負けでは、ない」
その言葉が最期、堕落の魔王はその生命を終えた。
●災厄の門
激戦だった。
空とスズナは完全に戦闘不能で他のケルベロスも倒れてないのが不思議な位の負傷。とにかくまず治療を、とリリベルが倒れた二人をまず癒そうとして気付く。
「えっ……なんで堕落の魔王が死んだのに」
陣が消えてないの、その言葉に緩みかけていた雰囲気が硬直する。
千切れ落ちていた触手が風化するように崩れ、その下の土が発光を始める。上空から見れば遺骸を中心に陣が描かれているように見えるだろう。
地から伸びる輝きが一際高まると、それを飲み込むように空から光が堕ちる。光が弱まり、目を開いたケルベロス達はそれを見た。
「あれは……魔竜!?」
ウィッカの示す先、島の中央上空にドラゴンの姿があった。それも一つどころではない。次々と、絶望が増えていく。
「まさか、魔空回廊……?」
ロウガの呟いた言葉は正解、竜十字島にいるはずの存在が大量に現れていた。
それはドラゴン達の執念の産物だったのか。少なくとも、今城ヶ島に居るケルベロス達は窮地に追い込まれた。
「早く逃げるんだよ!」
和が仲間を促す。消耗しきったケルベロス達ではどうにもできないだろう。
幸い、この場所は海に近い。急いで海へ逃げれば逃げ切れる可能性は高いだろう。
「でも、他の……」
チームは、そう口にしかけたルーク自身も理解している。
合流に時間がかかる上、足手まといになりかねない現戦力では仲間の無事を信じて逃げる事が最善なのだと。
ケルベロス達は負傷者と共に海岸へと駆け出す。真理に助けられながらスズナが一度社の方を見やり、
(「今年もドラゴンは厄介そうですね……」)
迫りくる災厄から逃れる為、苦々しい思いを胸に抱えたままケルベロス達は冷たい冬の海へと身を躍らせた。
作者:寅杜柳 |
重傷:鏡月・空(たゆたう朧月・e04902) スズナ・スエヒロ(涼銀狐嘯・e09079) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年1月11日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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