リザレクト・ジェネシス追撃戦~波涛

作者:ヒサ

 ネレイデスパレスの最奥では『輪廻の死神』オーピス・ネレイデスが祈りを捧げている。
 彼女の祈りが妨げられる事の無いよう、他の死神達はパレスの守りを固めていた。
「何事もなく済むのが最善ではあるが、警戒は怠らぬように。ケルベロス達が来ようとも、決してオーピスの邪魔をさせてはならぬ」
 パレス正面入口前。『暗礁の死神』ケートーは、従えた屍隷兵達へ告げる。斃れて行った同胞達を想う声は厳しい。
「──ケルベロス達よ、いつでも来るが良い」
 けれど、彼女の唇は高揚の笑みをも刻んだ。彼らは臆さず攻め来るだろう。それを押し返す、否、叩き潰すために彼女達は此処に居る。
「勇敢なるお前達の魂、今度こそ刈り取ってみせよう」
 輝かんばかりのあの存在を今一度──期待は戦意と燃え上がる。

 先日の『リザレクト・ジェネシス』、その勝利はケルベロス達の尽力あってこそ。
 だが今回、結構な数の敵が生き延びた。撤退した彼らが態勢を整えいずれ新たな作戦にと動くであろう事を思うと、今のうちに叶う限りの追撃を掛けて貰いたい。
「わたし達に視えなかった敵も居るわ。でも、あなた達の力を借りられれば、かなりの数の敵をここで止められる筈」
 『ネレイデス』の死神達に関しての予知を得た一人である篠前・仁那(白霞紅玉ヘリオライダー・en0053)は、『暗礁の死神』ケートーの撃破を眼前のケルベロス達へ依頼する。
 ケートーは多数の屍隷兵『ウツシ』を率い、パレスの正面入口を警護しているという。以前、『東京六芒星決戦』に臨み彼女にまみえたケルベロス達がかなりの数のウツシを倒したが、それでも未だ、彼女に囚われ虚ろに侍る者達が在る。
 そしてその敵数ゆえに今回、彼女の部隊へは二チームで当たって貰う事となった。
「あなた達とは別に、外部を守る他の死神や、内部に居る死神へ対処するチームも居るわ。だからあなた達には、彼らを援護する意味でも、ケートーの部隊へ派手に攻撃を仕掛けて貰いたいの」
 二チームがかりでも、彼女の部隊を殲滅するのは楽な事では無いだろう。だが、皆が目立ってウツシ達を根こそぎ惹きつけてくれれば、他の死神を狙う面々が動き易くなる筈だ。
「ケートーは、ウツシ達に護られる形になると思う。でも、ウツシ達を先に殲滅して……とするには、ケートーは危険な相手よ。勿論ウツシ達も放っておくわけにも行かないでしょうけれど……出来る範囲で急いでケートーを倒して貰えたら」
 指揮官である彼女さえ倒してしまえれば、ウツシ達は統制がとれなくなると見られている。
 戦場となるのは建物同様に美しく整えられた広い庭。敵も同様ではあろうが、ケルベロス達ならば存分に力を発揮出来ようと少女は口にした。他所の敵部隊の事は担当の者達に任せて構わない、眼前の相手に集中し確実に仕留めて来て貰いたい。それが他チームのため、及び全体の──今後のためにもなる。
「ネレイデスを放置しては危険、というのは勿論だけれど。……彼女の被害者をこれ以上増やさないためにも、力を貸して貰えたら、わたしは嬉しい」


参加者
シルク・アディエスト(巡る命・e00636)
罪咎・憂女(刻む者・e03355)
神宮時・あお(綴れぬ森の少女・e04014)
月鎮・縒(迷える仔猫は爪を隠す・e05300)
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)
霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)
筐・恭志郎(白鞘・e19690)
櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)

■リプレイ


「お相手願いましょうか。余所見は許さないわ」
「お前達にこの星は、ひとかけらだって渡さない!」
「──参ります」
 戦意は高らかに凛と。声と共に弾が炎が宙を駆け、屍隷兵の群れを炙る。死神へと手を伸べたとて、その青波に阻まれる──今はまだ。
(「なら、それを抑えれば」)
 死神に寄り添う狼頭達が咆哮する。炎熱がケルベロス達を襲う。されどそれで勢いを減ず彼らでは無い。炎を裂くよう駆け抜けて敵前衛へと迫る。
(「さあ、魅せてやってくれ」)
 勇ましい、うつくしい、彼らの戦いを、支える者として。櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)は手にした赤緒を振るう。綴り繋ぐためのそれは友からの借り物で預かり物。何事も無く返せる結末に至れれば良い。
 守護の陣が描かれる。たとえ幾らも保たず乱されようとも、それまでの間、皆へ加護をと。それを受け、熱の苦痛を減じ得て。筐・恭志郎(白鞘・e19690)が紅炎帯びた棍を振るい、霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)は銀鋼纏った拳を打ち込む。刹那拓けた道を、翼広げた罪咎・憂女(刻む者・e03355)が駆ける。斬撃が敵後衛を狙い凍えた。
(「この数を活かされる事は避けたいが」)
 しかし死神は兵達の奥に。分断してしまえれば、とは思えど、包囲されでもすれば動き辛くなる。危険を顧みずに押し込める相手では無い事は承知の上。各々が務めを果たせるよう、動き易く在れるよう、ケルベロス達は互いに気を配り、敵の動きに注意を払う。まずはウツシの波を御し、ケートーへ僅かでも攻撃を届かせる事を目指す。
 死神の発した光が荒れる。共闘するチームの盾役が受けた苦痛を和らげるため、癒し手は梅杖を操る。加護を願い、屈さぬための助けになれればと。この場において仲間とは、八名と二体のみでは無い。声を掛け合い此処を共に歩む者の数ならばその倍、この戦いの意義を思えばそれ以上。ゆえにこそ眼前の暴威にも、突きつけられる悲劇の痕にも、竦む事無く抗える。
 独りではそう在れぬ者とてこの場には居ただろう。だが彼らも他者が居ればこそ奮い得た。護るべき人々のため、かけがえのない者のため、あるいは眼前の『彼ら』を慮って。生を死を歪められた異形の姿は、ケルベロス達の目には痛ましいほど。これ以上を生まぬよう終わらせるべく、彼らは行く手を阻む者達を拳を振るい押し留め、刀雨を浴びせ怯ませて、魔光で以て圧した。容易く降し得る数では無いが、着実にと。
 数に任せ絶え間なく攻め来る敵を懸命に抑えるのは盾役達。牙を、毒をあしらい、軋る声に眉をひそめ、仲間達を護る。飛び掛かって来た一体の牙を受け止めたシルク・アディエスト(巡る命・e00636)が光線を放ちその敵を薙いだ。斬られ押し返された個体は既に傷を負っていた事もあり、此方の前衛達にとっては狙い易い相手。
「ありがとうございます、倒しちゃうね!」
「お願いします」
 月鎮・縒(迷える仔猫は爪を隠す・e05300)が氷結を放ち仕留めた事で眼前の敵壁に、僅かなれど隙間が生じた。
(「──今」)
 それこそが、アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)が待っていた機。ケートーの姿を捉え彼女は砲撃を。次いでその黒瞳に招かれ続いた神宮時・あお(綴れぬ森の少女・e04014)が凍弾を撃つ。屍隷兵達の穴はすぐに塞がれてしまったけれど、その二撃が標的の肌に爆ぜる様を彼女達は確かに見た。
(「決して、届かないわけ、では、無い……」)
 容易くは無くとも、皆の力があれば。今度こそ、と願いあおは口を引き結ぶ。
 アウレリアは再び前を塞ぐウツシ達へ銃口を向けながら、その眼差しは奥に在る骸の繰り手を透かし見る。
「預かりものを返しきるまでは終われないわ、覚悟なさって」
 眼前の死神に弄ばれた魂達の嘆きの全て、その身で贖わせるために。


 ウツシ達に阻まれて、ケートーを直接叩く事はままならない。だがケルベロス達は警戒と牽制を続け、少しずつ攻めて行った。壁となる敵群を討ち崩して行きながらも、足下を掬われることの無きように──迅速にとは難しくとも、堅実に。
「お支え致しますわっ! ふぁいとですの!」
 ちさの応援もまた癒し手達を手伝い戦線の維持を。屍隷兵の波に呑まれる事無く立ち回るケルベロス達へ、ケートーもまた全力で応じている様子だった。後衛から叩き込まれる破呪の力を乗せた攻撃は、その一撃一撃が重い。
 死神が放った紫霧が広がる。知覚を眩ませる魔が後衛を包む。
 が。盾役達の手を借りるまでも無く身を翻し侵食を打ち祓い得たのは千梨。裳裾を払い障りの残滓すらも退けた彼の手が霊体を生む。
「案ずることは無い、すぐに癒そう」
 傷が深まるより早く、抗うための力を紡ぎ、皆へと分け与える。敵屠らんと猛る者達を支え抜くために彼は出来る限りを備えて此処に居り。
「──ッ……!」
 屍隷兵の牙に身を抉られながらも死神の魔光には眩まぬ憂女はその身で以て仲間を助けるために叶う限りを尽くしていた。彼女の傷を急ぎ癒したのはシルクが操る木の葉の護り。伴った加護は遠からず再び食い破られようが、それが他の面々の助けとなり得る。重ねた護りを崩されず済めば、癒し手達の負担も減ろう。
「ですが、どうかご無理は」
「ああ、留意する」
 案じる言葉を寄越す少女とて、盾を御し皆を護るべく努め既に傷だらけだ。それでも前を見据え揺らがぬ彼女の在り方もまた誇り。緋龍の剣士は端的に、されど信頼と敬意を乗せて言葉を返した。護りたいと懸命に手を伸べるその想いはきっと近しい色。
 目的を果たすまでは果てる事も退く事も自分達に許せはしない。失うべきで無い者を余さず護り抜き、遂げるべき事を正しく終えるために、己に出来る事があるならば何なりと。そう、彼らは各々覚悟を胸に戦いに臨み、奮戦を続けた。重ねる刻と攻防の分、疲労と負傷は積もって行ったが、想定内と食い縛る。治癒はそれを担う者へと託して進む。敵波を崩し、標的へと至る道をより早く、より多く、見出すべく。
 光線が乱れ飛び、風が渦巻く。出でた黒光がウツシ達を灼く。合わせて恭志郎は炎を生んだ。白光は熱を連れ青い群れを薙ぎ払う。真なる死に瀕していた者達を正しく送り、追って縒の黒猫杖が撃った火が爆ぜて更に幾体かが後を追う。
 それは、死神の害意から射手を護ったエクレアが限界を迎えるに至ってから僅かののちのこと。敵陣に、繕いきれぬほどの綻びが生じた──道が拓けた。その数で以てしても、否、その数をこそ減らされたがゆえに、容易く塞ぐ事など叶わない。踏み込んで死神を殴るには未だ障害となる敵達も居はしたが、その盾となり得る者達は最早幾らも残っていないと見て良いだろう。


 敵陣の変容を見、すかさず射手達が動く。アウレリア達の銃弾が連射を浴びせ死神を穿つ。あおの唄が祈りを紡ぐ。
(「大丈夫、です……。必ず、倒しきって、……皆様、を──」)
 『と』と接ぐには少女は未だ弱過ぎた。だが、在る意味を果たすための強さは十分にあった。かつて在ったものと今此処に息づくものを慮り、護らんとする不確定を遠く仰ぎ、少女は詩を。声無き声は風を織り、風はあるべき流れを作り、屠るべき者を手繰る助けと成る。
 ケルベロス達は並行してウツシ達へも警戒を。新たに盾へと遣られる者が出ても厄介だ。そのような隙など与えぬよう、ちさと縒は果敢に攻める。舞い駆けて蹴りを見舞う桃嵐の上、円い金瞳が月めいて二つ、捩れを作る。憂女の一閃が熱を奪い、更なる痛みを蒔いた。
 共闘班の面々の力ゆえもあり、不安などは無い。始めに少々手間取って焦れはしたが、それだけだ。このまま、最後まで突き進むだけ。恭志郎の斬撃が死神を捉え、シルクの砲口は凍光を撃つ。敵の傷が癒えるより早く──此方が霧に囚われ死神に与してしまわぬうちに、決着をと加速する。千梨に限っては、それを見守る側だ。変わらず治癒を紡ぎ、皆が憂い無く戦えるようにと努める。それすら叶わぬ時を想定した備えは無論各々あるが、それが役に立つような事など無い方が良い。
 そうしてやがて、誰もが、ケートーへも直接拳を届ける事が叶う。ウツシは未だ残っているが、後回しでも良いだろう。ケルベロス達とて続く戦いに消耗し、各々傷も深い。倒れた者こそ少ないが、過ぎる負傷を押し気力だけで立ち続けているような者は居た。
 死神の光弾が命刈らんと駆ける。その狙いは弛まず己が標的を狙い続けていた一人であるアウレリア。だが、黒い淑女の眼前にて盾と成ったのは騎兵の少女。
「すみません。後を……お願い、します」
 幾重にも傷を負い、幾たびもの治癒を受け。武装を砕かれ傷と血に染まった姿でシルクはそれでも、自身が護った仲間を顧み、護れた事に安堵するかのよう微笑んだ。
「ええ、必ず」
 託して倒れた少女が死へと誘われぬために、夜纏う銃手は半身と共に敵を圧す。求める終わりはそう遠いものでは無いと、最早誰の目にも明らかだった。

 数の護りを崩し、標的を苛み続け──死神たる彼女をこそ遠からず死に追い遣るであろうほどの傷を、ケルベロス達は刻んだ。
 血にまみれ熱に爛れた姿でケートーは、しかしなお不敵に嗤い。
「今は退け、ウツシ達よ。お前達はデスバレスのために──」
 己の傍に在る者達を一瞥し、そう命じた。
 彼女の真意は、ケルベロス達には判らない。ウツシ達の意思の在処とて。
 だが。
「させないわ」
「彼らの誇りを穢す『生』は、此処で断ち切らせて貰う」
「そちらの待遇がそう良いものとも思えんしな」
 彼女の思惑通りに進めさせるわけには行かぬとケルベロス達は奮起する。指示に従い退かんとするウツシ達は未だ死神の支配下にあると見て取れた。
「彼女を倒してしまえれば、彼らの動きも鈍るかもしれません」
 屍隷兵達が牙を剥かぬのならば、攻撃にだけ注力すれば良い。ケルベロス達の技によって、風が荒れ、光が爆ぜる。重く冷たい銃弾が、質量持たぬ龍が、宙を駆ける。確実に、と狙いながら、瀕死の兵をも眠りへと送った。
 そうして、白い肌を、触手の脚を、狼の頭を、ズタズタに傷つけられた女は、呻きの一つもあげぬまま頽れる。
 死神の肉体が存在を保てなくなるまで攻撃を撃ち込まんとする者が居た。退き行く兵達を急ぎ追わんとする者も居た。ケルベロス達の意識はその時それぞれに散って──だからこそ、各々違和に気付いた。屍隷兵達の様子に変化が無い。そして。
「筐」
 千梨の手が赤色を繰り、護りを織った。その時恭志郎の眼前には光があった──未だ息を継いでいたケートーが放った殺意。それは手近な獲物と見なし得たのであろう青年を襲わんと迫り。
「バハルさん!」
 至る寸前、咄嗟に身を割り込ませた少年によって、その目論見は阻まれる事となった。案じて声を上げた縒が急ぎ駆ける。兄の如く慕う青年を護ってくれたひとの身がこれ以上苛まれる事の無いようにと、己が体で以て護るべく前へ。
「お返しだーっ!」
 父に、兄姉に、そして母に。今この場だけでも勇ましく在れるように力を貸して欲しいと願った少女の意志は、仲間達への想いをも乗せて、氷雪の形で爪牙と成った。獅子のそれの如き鋭さでケートーを怯ませ二人から引き離し、仲間の追撃へと繋ぐ隙を作る。
「今度こそ、ですの!」
 ちさの蹴りが鋭く見舞われる。アウレリアの銃が火を噴き、アルベルトが更に敵の動きを鈍らせる。あおが携えた銃は凍てつく光を放つ。憂女が降らせた刃の雨の中を駆けてケートーへと向かったのは恭志郎。彼の瞳が、刃が、傷に濡れた女を間近に捉え。
 肉よりも奥、その魂を、存在を、斬り祓い──悲嘆織り上げる器ごと、浄め滅ぼした。

作者:ヒサ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月11日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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