オ掃除ノ時間!

作者:麻香水娜

●廃墟に響く機械音
 あと数時間もすれば年が変わるという静かな夜。
 住宅街の外れにある、元はオフィスとして使われていた3階建ての廃墟。

 ――カタカタ……カタカタ……。

 無人である筈の2階の部屋の隅から小さな物音がした。
 その部屋はデスクが並び、隅には業務用掃除ロボットが置かれている。
 掃除ロボットから眩い光が放たれたかと思うと、みるみる巨大化した。

 ギュイーン!!

 けたたましい音を立てながら回転を始め、底面から噴流を吹き出して数十センチ浮き上がる。
『オ掃除! 開始時間!!』
 掃除ロボット──だったダモクレスは機械的な音声を上げて、周囲のデスクを弾き飛ばしながら部屋から出て行った。

●今年のダモクレス、今年のうちに!
「大晦日は大掃除もしっかり終わらせて、テレビでも見ながらのんびりしたいものですが……終夜さんの危惧されていたダモクレスが現れます」
「……大晦日に大掃除をする羽目になるのか」
 祠崎・蒼梧(シャドウエルフのヘリオライダー・en0061)が軽く嘆息しながら口を開くと、終夜・帷(忍天狗・e46162)は表情も変えぬまま、ぼそりと呟く。
 かつてはオフィスとして使われていた廃墟で、そのまま残されていた業務用の掃除ロボットがダモクレス化するようだ。
 会社が倒産し、書類やオフィス用品等は処分されているが、デスクやコピー機、休憩室のテレビ等の大型電化製品類はそのままにされてしまったらしい。
「場所は2階の一室でありますが、デスクがあって戦いにくいかもしれません。1階のエントランスならば広さもありますし、戦いやすいでしょう」
 2階でダモクレスになっても、窓を突き破って外に行くわけではなく、階段を通って外に出るようなので、戦いやすい通り道で待ち伏せが得策だろう。
「変なところで真面目だな」
 活用されていた頃は、終業時間になって誰もいなくなったオフィスを掃除していたようだ。人のいない所を走るのは、その時の習性のようなものかもしれない。
「このダモクレスですがチェーンソー剣を内蔵しておりまして──」
 続いてダモクレスの使うグラビティを説明すると、非常に高い攻撃力を持っているので注意して下さい、と説明を締めくくった。
「まったく、何を掃除するつもりなのか……年を越せずに虐殺される方を出すわけにはまいりません。どうか、ダモクレスの撃破をお願い致します」


参加者
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)
鈴森・姫菊(クーガー・e34735)
終夜・帷(忍天狗・e46162)
星野・千鶴(桜星・e58496)
交久瀬・麗威(影に紛れて闇を食らう・e61592)
如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)
アーデルハイト・リンデンベルク(最果ての氷景・e67469)

■リプレイ

●今年最後の
「掃除機、最近やっと使い方覚えたばかりですが、業務用に用意された掃除機もあるのですね」
 予知を聞いて、そんなものもあるのかと初めて知った如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)が、キョトンとした顔で呟いた。
「業務用の掃除機……広い場所をお掃除するんだから色んな機能が付いてるんだろうね」
 隣で周囲を確認していた源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)が振り向く。
「まあ、人の命を『お掃除』するのは止めないとね」
 そして、苦笑混じりに続けた。
「そうですね、人の命を『お掃除』するようになってしまったなら、止めて上げないとですね。一杯お掃除頑張ったので、休ませてあげないと」
 頷いた沙耶は、穏やかに、ダモクレスになってしまった掃除ロボットを労うかのように微笑む。
「こちらは完了しましたよ」
 出入り口にキープアウトテープを貼っていた交久瀬・麗威(影に紛れて闇を食らう・e61592)の声が響いた。
「有難う、交久瀬」
 念の為、通りかかった一般人が入り込んでしまわないようにと対策をしてくれた麗威に、終夜・帷(忍天狗・e46162)が近づいて声をかける。
「まさしく年末の大掃除ね」
 準備が整ったという声に、鈴森・姫菊(クーガー・e34735)が気合を入れた。
「そうね、今年の汚れは、今年のうちに。きれいさっぱり、片付けてしまいましょう」
 アーデルハイト・リンデンベルク(最果ての氷景・e67469)も頷いて微笑む。
「キレイにピカピカ☆ スッキリ! サッパリ! キッチリね☆」
 姫菊がアーデルハイトに顔を向けて笑いかけた。
「じゃ、お掃除は除夜の鐘が鳴るまでにしちゃおうか!」
 2人の言葉に、明るい笑顔を広げた星野・千鶴(桜星・e58496)は拳を振り上げる。
「えぇ。お任せ下さい」
 準備の間ずっと本を読んでいたクラウディオ・レイヴンクロフト(羽蟲・e63325)が顔を上げて微笑んだ。

●大掃除開始!
「とばりんとは初仕事ね。ヨロシクね☆」
「あぁ。頼む」
 姫菊がにこりと笑いかけると、帷が頷く。
 その時、階段の方から音が聞こえてきた。

 ギュイーン!! ゴゴゴゴゴゴ──。

 次第に大きくなる音は、ダモクレスの姿が目視できるくらいになると、かなりの音量で。
「年の瀬にまでお掃除を頑張っちゃうの、良くないと思うな。そのお掃除、お終いにしようか」
 千鶴が春透かす桜のカードを遊ばせるように浮かべる。
「騒々しいですね」
 7人が武器を構えても読書をしていたクラウディオが、パタンと閉じた本を仕舞った。
「しかし……階段を降りてくるお掃除ロボというのは想像していたよりもシュールですね……」
 改めてダモクレスを視界に入れて呟く。
「そうね……それに、なんだかとても多機能なダモクレスね……デウスエクスでさえなければ、一家に一台欲しいくらいなのに」
 残念だわ、とアーデルハイトが小さく息を吐いた。
『オ掃除! スル!!』
 ケルベロス達を見つけたダモクレスが、前衛に向けて大量のミサイルを放ちながらスピードを上げて近づいてくる。
「危ない!」
 帷の前に姫菊がさっと飛び出し、攻撃に専念してもらうためにその身を盾にした。
「最高の一撃やっちゃってー!」
 2人分のダメージに顔を歪ませるも、帷の無傷を確認して明るく叫ぶ。
 姫菊に無言で頷いた帷は、即座に味方の状況とダモクレスの動きを確認するべく視線を走らせた。
「く……!!」
「まあ、かなり痛いわね……」
 麗威がダメージに眉を顰めると、アーデルハイトは些か不機嫌そうにするも余裕を崩さず呟いた。
「……っ! お返しをしなくちゃだね!」
 瑠璃は、ミサイルの直撃で腕に痺れが走るも、武器を握り込んで痺れを誤魔化す。
「いくよ!」
 攻撃のタイミングを知らせるべく声を響かせ斉天截拳撃を叩き込んだ瞬間、帷から氷結の螺旋が放たれた。
「貴方の運命は……閉塞して身動きが取れなくなる、ですね」
 更に占いを得意とする沙耶が、吊るされた男という運命を示すと、ダモクレスの動きが鈍る。
 3人の連携攻撃にダモクレスからバチバチっと火花が散った。
「態勢を立て直しましょう。僕は後衛を」
「じゃ私は中衛ね」
「回復は任せて!」
 紙兵を構えた麗威が声をかけると姫菊も紙兵を構え、千鶴は空に五芒星を描く。
「天つ星、鳥ともなりて鳴き渡れ」
 紙兵が舞う中、五芒星が散るや鶴翼を広げ、流星の如く前衛に降り注ぐと、傷を癒しながらミサイルで受けた体の痺れを取り除いた。
「負けてばかりではいられないわ。さぁ、行くわよ」
 麗威と姫菊、千鶴の連携した支援と回復に満足げに微笑んだアーデルハイトがクラウディオに目配せする。
 そして、さっと圧縮したエクトプラズムで大きな霊弾をつくり放った。
「要らぬのならば削ぎましょう。不要な頁は、断ち落とさねば」
 頷いたクラウディオは、数多の魔導書を創り、廃棄し続けた『魔法の断裁機』をダモクレスの上に召喚する。
 プラズムキャノンが直撃した瞬間、上から断裁機の刃がまっすぐ落ちてチェーンソー剣になっている左側のサイドブラシを欠けさせた。

●掃除されるのはどちらか
『ゴミ! 吸イ取ル!』
 サイドブラシを回転させて瑠璃目掛けて猛突進するダモクレス。
「させませんよっ」
 チェーンソー剣になっているサイドブラシに警戒していた麗威が、瑠璃の前に飛び出した。助走で勢いをつけて跳び上がったダモクレスのサイドブラシを体の前で交差させた腕で受け止める。
「ありがとう」
 瑠璃は庇ってくれた事に報いようと、ドラゴニック・パワーを噴射し一気に加速したハンマーでダモクレスの正面を思い切り殴りつけた。そこへ瑠璃の動きに合わせた沙耶のバスターライフルからゼログラビトンが撃ち込まれる。
 帷がちらりと麗威を見た。傷は大丈夫かと。その意図を察した麗威はニッと笑みを作る。頷いた帷はダモクレスを見据えた。その背は、大丈夫なら攻撃を合わせろと言っているようで。
(「掃除機……なら雷には弱いだろうか」)
 頷いた麗威は全身に赤い雷を纏う。
 小さく頷いた帷がサイコフォースを放つと、赤い雷を左足に集めた麗威が無傷だった右側のサイドブラシを思い切り蹴りつけた。更に2人の遣り取りを後ろから目にしていたクラウディオもタイミングを合わせ、無貌の従属で招来させた『混沌なる緑色の粘菌』を機体内部に侵入させる。
「お見事ね」
「負けてられないね」
 一切声を出さずに見事な連携を決めた3人に称賛を送ったアーデルハイトは、間髪入れずにハンマーを振るった。そのハンマーの影から身軽に飛び出した姫菊はダモクレスの上に乗り、獣撃拳を思い切り叩き込む。
「交久瀬さん!」
 千鶴がもっともダメージの大きな麗威に気力溜めを使って、ダメージを回復しながらボロボロにされた服も元に戻した。
 瑠璃に殴られてへこんだ正面部分をカパっとあけたダモクレスは、千鶴に向けてビームを放つ。それをすかさずアーデルハイトが庇い、瑠璃と沙耶からカウンターで2発の時空凍結弾が放たれた。命中と同時に帷の忍者刀が突き刺さる。
「我らが父なる海淵の神よ。わたしのこの手に、力を」
 すぐに体勢を立て直したアーデルハイトが、優れた命中効果を持つエクトプラズムを生み出し、武器に纏わせると、帷の忍者刀のすぐ横に突き立てた。更に側面から麗威のグラインドファイアが決まる。
 千鶴は気力溜めで自分を庇ってくれたアーデルハイトのダメージを癒し、姫菊が縛霊撃でダモクレスを緊縛。そこへクラウディオのスターゲイザーが重力の錘をつけて機動力を奪った。
『オ、ソウ……ジ……シナ、イト……』
 度重なる攻撃や氷に炎、更にトラウマまで付与されて、あちこちから火花を散らすダモクレスは、ボロボロになっているサイドブラシを回転させ麗威に飛び掛かる。
「そんなにそれで掃除したいのか」
 飛び掛かってきたダモクレスを両手を広げて受け止め、痛みに顔を歪めながらもダモクレスをガッチリ捕まえた。
「今です!」
 麗威が叫ぶと、
「うん、ちょっと重いけど、行くよ!!」
 瑠璃が太古の月の女神の力を大きな剣に変え、一気に振り下ろす。その瞬間、麗威はダモクレスから手を放して即座に後ろに飛び退いた。
『!!!!!!!!!』

 ドスン!!

 麗威から解放されて床に落ちる。
 次の瞬間には派手な音を上げて爆発した。

●大掃除終了!
「ヒールかけてこの子使えるようにならないかしらね」
 姫菊が爆発で砕け散った残骸を見ながらぼそりと呟く。
「ここまでバラバラだと難しそうですね」
 服を直しながら近づいてきた麗威が苦笑を浮かべた。
「今までお掃除頑張ったんです。もうおやすみさせてあげましょう」
「そうだね。会社の人が帰った後にお掃除頑張ってたんだよね」
 沙耶は柔らかく微笑み瞼を閉じると、頷いた瑠璃も瞼を閉じる。
 ダモクレスになって人の命まで掃除しようとしてしまったが、それまではしっかり掃除を頑張っていたのだと。
 ゆっくり休めるよう、その場の全員が黙祷を捧げた。

「さ! 大掃除最後の締めはヒールしよう!」
「そうね。いくら使われていない建物でも、このままにはしておけないわ」
 千鶴が空気を切り替えるように、パンッと両手を鳴らすと、頷いたアーデルハイトは周辺のヒールに取り掛かり出した。
 全員がヒールや散らばる破片を片付け出すと、あっという間に戦闘開始前と同じ、いや、それ以上にすっきりと片付く。
「ふふ、これで大掃除は完了、でしょうか」
「そうだな。今年最後の大掃除、無事に終えることができた」
 クラウディオが周囲を見回しながら口を開くと、帷も頷いて仲間達の顔を見渡した。
(「大変ではあったが、年末を皆と過ごすことができて良かった」)
 口には出さずに、共に闘った仲間達に感謝を込めて目を伏せる。
「今年最後のお仕事、お疲れさま」
 アーデルハイトが優雅に柔らかく微笑んだ。
「これで気持ちよく年を越せますね?」
「じゃ、除夜の鐘を聴きながら帰ろうか」
 麗威がにこりと目を細め、千鶴が明るい笑顔を広げる。
 8人のケルベロス達は、最後に綺麗にした建物を後にした。

 ──良いお年を!

作者:麻香水娜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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