サーシャの誕生日~おみくじクッキング

作者:森高兼

 自分の誕生日が近いある日のこと、サーシャ・ライロット(黒魔のヘリオライダー・en0141)は甘い香りに誘われて、お菓子を作る綾小路・千影(がんばる地球人の巫術士・en0024)のところにやってきた。
「やぁ、君がキッチンにいるのは珍しいか」
「そろそろサーシャさんの誕生日ですので、少々料理などの練習をしておりました」
「なるほどな」
 スイーツといえばサーシャ。その例に漏れず、千影も準備を進めていたのだろう。
 サーシャが顎に右手を添えて艶っぽい表情で考え込む。
「また真面目な企画を催すのは芸がないかしら?」
 不意に……僅かに口角を上げた。
「たまには羽目を外してもらうのもいいな」
「そ、その心は?」
 何故か、千影は手を止めて真顔で問いかけてきた。
 小悪魔少女のように笑みを浮かべたサーシャが、二十歳となる直前における悪ふざけと言わんばかりに答える。
「今回は奇抜なものを作ることを推奨しよう。ちょっとした来年の運試しさ。材料を自ら選ぶ以上、しっかりと食べてもらうが」
 千影が一口サイズのお団子とワサビを交互に見やった。
 罰ゲームの定番だからといって、噛まないと危なそうな食べ物へと簡単に入れていい食材ではない!
 そう思いはしたけど、サーシャはあえて千影に何も言わなかった。水中でも窒息しないケルベロスだから、万が一にも喉に詰まらせたって心配無用だ。彼女は彼女で手持ちのチョコと和食の材料に注目する。
 ひょっとすると、発想が似た者同士の2人なのかも。

 サーシャがイベント開催を聞きつけたケルベロスに告げる。
「というわけで、今回はどんな味に当たるか予想できない料理パーティだ。まぁ、無理におかしなものを作らなくて構わないぞ。全てを好物にするのも夢があっていいだろう」
 ただし、作るからには絶対に食べる自己責任。そこは譲るつもりがないようだ。
 ケルベロスの小さな戦いが、始まったりはしない……はず?


■リプレイ

●天国の宴(比較的)
 料理やお菓子に必要な基本の食材はパーティ会場に一通り揃えられていた。もしも珍食材があれば、それは参加者の誰かが持ち込んだことになる。とりあえず、異臭を放つものは紛れ込んでいなかった。
 半沢・寝猫が無難な味のチョコを運んでいたサーシャに酒瓶を差し出す。
「お誕生日おめでとうや。千影はんは未成年やからあかんけど。サーシャはんの誕生日祝って祝い酒のプレゼントやで」
「もう二十歳になったわけだからな。感謝する」
「大人になられたサーシャさん……!」
 妙に感心している千影を愛らしいと思いながら、サーシャへと冗談っぽく笑って告げる。
「少し値が張ったんよ?」
「チョコは酒のつまみに合うと聞いたことがあるぞ。上等品ならば尚更だろうか」
 初めての飲酒となるため、サーシャはお酌しようとする寝猫に少量だけと頼んできた。チョコと一緒に酒を嗜み、微かに火照らせた顔で……小さく息をつく。年相応か、それ以上の色気が大爆発だ。
「本当にマッチするのね」
「お、大人ですっ」
「良い飲みっぷりやな」
 プレゼントの手応えを実感できた寝猫は、ふとある事を思い出した。
「そうや、千影はん。わさび団子はどこにあるんやろか? おばちゃん、大丈夫やで。そもそも死ぬもんやないから。間違っても自分で解決したらあかんよ?」
 あえて言い聞かせるために千影の頭を撫でる。真面目と小動物の気質でおろおろしそうな彼女のため、まずは美味しいものをいただいて満足気な表情を浮かべてみせる。やっぱり素直な子だから簡単に気を逸らせることに成功した。
(「ヨッシャー、ばっちこいや」)
 別の皿にあったわさび団子を何食わぬ顔で口に放り込む。ちょっと鼻にきたかと思いきや……それだけ。千影の遠慮がちな量じゃ仕方ないだろう。
 むしろオーバーな反応をしちゃう心配が無かったから助かったのかも。
 ミリム・ウィアテストがサーシャに祝辞を述べる。
「サーシャさん、誕生日おめでとう!」
「ありがとう」
 それから、わざとらしく自作のロシアン団子が山盛りの皿を持つ手を滑らせた。
「おっとぉ」
 ミリムと千影の団子が、交ざってしまった?
「仕方ありません。私と千影さん……いえ、3人で食べ分けていきましょう」
 でも、千影の団子はよく見比べてみると小振りらしい。さすがに一粒と呼ぶのは大袈裟ながら、幼児だって難なく頬張ることができそう。
 さらに、どこか圧を感じる笑みを浮かべてくるサーシャ。ひょっとして酔っている?
「戦う君達に及ばないとはいえ、私も多少は目に自信があるのだ」
 似たサイズの団子の中で、ミリムの団子だけが次々と言い当てられていった。
 監視の目を光らせていたサーシャによって仕分けは済んだものの、あっちに『奴』が潜んでいる可能性はまだあるはず!
 注目の1個目において、ミリムは王道である餡子入り団子を引き当てた。
(「美味しいけれども、インパクトは無いかな?」)
 運勢占いとしては『吉』と言ったところだ。ちなみに口溶けが良いチョコクリーム入りは『大吉』、たっぷりマスタード入りは『大凶』に相当だろう。
 忘れた頃に大凶たる『奴』を思い切り噛んでしまって、怒涛の辛さが口一杯に広がった。
「みず! 水をください!」
 千影が慌てふためいた上で水を注いだコップを手渡してくる。
 結果的にはちゃんと自己責任を果たして、ある人に言われた『男らしい』姿勢を女ながらも貫けたのだった。

●地獄の宴(確定)
 チーム『みょんズ』の先生気分になって、リーズレット・ヴィッセンシャフトがジャミラ・ロサと瑞澤・うずまきの顔を見やる。
「今日は2人が一年でどれだけ成長したかを見届けたいと思う!」
「了解であります、リズネー教官」
「ボク、めっちゃ頑張っちゃう☆」
 うずまきは料理下手が無自覚の頃に、当たり前のようにおにぎりの具で生クリームなどを使っていた。今回までに励んできた練習の成果をジャミラのお手伝いで発揮したい。
 レシピ通りの料理は完璧にこなすメイド、『ロサ』のキッチン出張スペシャル始まり始まりだ。
 自己責任の以外はルール無用で、ジャミラが料理に用いる食材の下ごしらえを進めていく。
「本機の本気を見せ所でありましょう」
 今宵のレシピはジャミラの創作料理だった。余興の前菜『発砲菜(はっぽうさい)』から各国で旬のフルーツを盛るデザート『古鬱怠吐(ふるうつたると)』まで、とてもスリル満点のメニューになっている。
 色々と嫌な予感がしてきちゃったリーズレットは、引きつった笑顔で額からとめどなく汗を溢れ出させた。
「待って、ジャミラさん……ケーキの名前ってどんな風に書くのかなー?」
「レシピに書いてあるのであります」
 そういう問題じゃないだろう。
 サーシャが誕生日ということはパーティの名目に過ぎない。だからといって、まさか運勢の決まる特別レシピが使われるとは夢にも思わなかった。モノがモノだけにサーシャから断固受け取り拒否されそうで、とにかく2人に一般的なフルーツタルトの用意も指示する。
 ジャミラはアイズフォンでレシピを検索しておいた。
 極々普通のマジパンを2つ作ってから、うずまきが生クリームを泡立てながらリーズレットに声をかける。
「リズ姉、どうしたのかな」
「おっ、うずまきさん! 料理の腕上がったのでは!?」
「褒められちゃった☆」
 リーズレットは合格点を出せるうずまきの手際に驚かされて、天文学的数値の淡い希望を抱かずにはいられなかった。
 しかし、うずまきが容赦なくリーズレットが不安になりそうな様子で首を傾げる。
「う~ん……お誕生日ケーキなんだから、カラフルに賑やかにしたいよね」
 徐に懐から複数の着色料を引っ張り出した。リーズレットに制止する間すら与えず、惜しみなく容器を逆さにする。食した者が即座に何らかの症状を引き起こしそうな全部かけだけれど、あくまでも本人は真剣だ。
 リーズレットが七色に染まるマジパンの側で顔を青ざめさせていく。
「あっ……あぁ……」
「ジャミラさんがいるから、何かあっても大丈夫!」
「本機の出番でありますか? 万が一、鬱や倦怠感、吐き気等の症状が出たとしても手厚く看護致します。安心安全でありますね」
 もちろん、うずまきの自信に根拠は無いし、ありえなさそうな不調をきたす可能性がある時点で安心安全でもない。
 待ち受ける地獄絵図を想像して打ちひしがれるリーズレット。
「あんまりだよ……!」
 窓より眺められる夜空には、心の癒されそうな星々が瞬いていた。でも、自己もとい監督責任からは逃げられない!
「私達はどこで道を外してしまったのだろう……」
 ジャミラは時折片目を閉じながらも写真と同じフルーツタルトを作り上げていった。その仕事ぶりは確かに『出来るメイド』の姿だ。
「リズネー教官、完成であります」
 最初からそうしてほしかったと言わんばかりの死んだような目で、リーズレットがサーシャにフルーツタルトを贈呈する。断じて、古鬱怠吐の方などではない。
「リズ姉、リズ姉! ボク達の料理は何点だったかな!?」
 うずまきは発砲菜と古鬱怠吐の出来栄えが気になって、リーズレットに期待の眼差しを向けた。彼女の瞳がまぶしいのは上手にできたつもりだからだろう。
 ガマの穂みたいに刺激を受けると口内で膨張する前菜と、未知なる化学反応で七色に輝くデザートはリーズレットを惨劇の渦へと飲み込んだ。
 平和的なフルーツタルトを存分に味わい、サーシャが何とも形容しがたい状態に陥っているリーズレットを一瞥する。
「……慣れないことを提案してしまったのかしら」
 そんな企画者の身もふたもない呟きと共に、宴はお開きとなるのだった。

作者:森高兼 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月10日
難度:易しい
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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