夜に輝き、闇に去る

作者:黒塚婁

●暴虐
 どんよりと曇った日だった。
 冬の宵らしく、うんと深い闇色を塗り込めたような空。
 それでも、街中は賑やかだ。
 ビルや住居の灯りは元より、街路樹を飾るイルミネーション。
 ましてやその繁華街に面した大通りは、この時期になれば年明けまで、様々な装飾で夜更けに至るまで賑々しい。
 そこへ――巨大な影が覆い被さる。
 鈍色の闇へ、下より街の光が反射すれば、そこに巨大なダモクレスの陰影が浮かび上がった。それは右腕を地に突き刺すような姿勢をとっており――突如、耳をつんざく唸りを上げる。
 ビルに彩られたイルミネーションが、無惨に砕けて土埃に消える。
 木々が薙ぎ倒されたかと思えば、機械の足に踏みつぶされ――火花を散らして引きちぎられた電飾のかよわき悲鳴は、ぷつりと一瞬。
 仄かな灯りが消えて、周囲は真の闇に覆われる。
 不意に、燦と一点に強い光が灯った。まるで中天に浮かぶ月の如く。
 身を起こした巨大なダモクレス、その肩に備えたバスターライフルが力を解き放った。

●破壊指令
「先の大戦末期にオラトリオにより封印された巨大ロボ型ダモクレスが復活した」
 この忙しい時期に、雁金・辰砂(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0077)は忌々しそうに呟いた。
 復活したばかりであるために、其れはグラビティ・チェインが枯渇している状態であり、戦闘能力は低下している。
 これをそのまま放置すれば、ダモクレスはグラビティ・チェインを補給すべく、街を破壊しながら人々の多い場所を目指し、その命を屠らんとするだろう。
 そればかりか、これが力を取り戻した果てには、体内に格納されたダモクレス工場で、ロボ型やアンドロイド型のダモクレスの量産を開始してしまう――。
 当然、看過するわけにはゆかぬ、と辰砂。
 更にこのダモクレスは起動後、七分経過すれば魔空回廊で回収されてしまう。
「要するに、七分間で破壊しなければならぬということだ――疾く向かい、破壊してもらいたい」
 辰砂はかく語り、ケルベロス達を一瞥した。
 さて、件のロボ型ダモクレスは全長七メートルほどある巨大な相手である。
 外装は黒金で人型だ。肩にバスターライフル、右手にチェーンソー剣を備えている。
 如何にも重量級、といった形で節々が太く、基本的に機動は悪くもっさりした動きをする――だが、その頑丈さ、一撃の重みは侮れぬ。
 先も告げた通り、グラビティ・チェインの枯渇によって性能は全般的に落ちているのだが、一度だけフルパワーの攻撃を放つことができる。
 おそらく追い詰められた時にだけ、バスターライフルから放たれるものであろうと、辰砂は予知で見たものを告げる。
 だがそのフルパワーの攻撃を行えば、反動でダモクレス自身もダメージを受けてしまう。
 脅威であり、好機ともなる。そんな一撃だ。
「周囲の避難は完了しており、街の修復はヒールで行えばよい……街そのものの被害は、この際目を瞑り、確実に倒してもらいたい」
 若干不服そうに、辰砂は告げる。
「まったく厄介なものを呼び起こしてくれたものだ……だが、負の遺産を片付けられると思えば、悪くは無い」
 今年最後の一仕事だ――言って、彼は説明を終えたのだった。


参加者
黒江・カルナ(夜想・e04859)
一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)
高辻・玲(狂咲・e13363)
ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)
天羽・蛍(突撃戦闘機・e39796)
錆・ルーヒェン(青錆・e44396)

■リプレイ

●闇浮
 避難勧告が充分行き届き、人通りのない繁華街は静まりかえっている。だが、街に施された装飾は常と変わらずに輝いていた。
「綺麗なイルミネーションだね。それに、これなら夜でも街中の灯りには困らない」
 天羽・蛍(突撃戦闘機・e39796)が柔らかな笑みを浮かべる。
 だが、その表情も――正面を見据えれば、変わる。
 闇を塗り込んだ空に鈍い色の巨体が立ち尽くしており――未だ覚醒しきっていないかのように、それの頭部は俯いていた。
「よお、旧式――壊しにきたぜ」
 尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)は親しみを含んだ笑みを浮かべ、言い放つ。
 その隣、赤熊手を担いだレッドレーク・レッドレッド(赤熊手・e04650)がにやと笑う。
「年の瀬の、人々が忙しい時によくも来てくれたものだ。街が賑やかなのが羨ましくなったか?」
 気さくな言葉を放つ彼のゴーグルの下には、不敵な視線が隠れている。
「冗談はさておき、我々の『仕事納め』だな、キッチリ片付けてやるぞ!」

 ダモクレスとの距離を測り、建物をひとつ飛び越えると、ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)は煙草を消した。
 ひゅうと鳴いた風が、彼女の金の髪を浚って踊らせる。
「しっかし、巨大な敵とビル郡か……なんだかそう遠くない過去に同じシーンを見た気がするぜ」
「予行練習は充分ってことかしら。頼りにしているわね」
 狙撃の準備を淡淡と進めつつ、一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)が艶美に微笑む。
 銀髪の煌めきに目を細めたハンナは口元で笑うだけ。これ以上ない肯定をそこに見て、瑛華も負けられないわね、と誰にでもなく囁く。
 また別のルートよりビルを蹴り、黒江・カルナ(夜想・e04859)は宙を駆け――ひとたび、もぬけの殻となった街を見下ろす橙色の瞳が瞬いた。
 もう間もなく。互いの射程範囲に入るという位置で、彼女は足を止めた。
(「街の煌めき、命の輝き……それを掻き消す光など、あってはならない。闇に静まる世界など、見たくない」)
 ひたと敵を見つめる彼女の瞳に、逡巡などはなく。
 近くに佇んだ高辻・玲(狂咲・e13363)は微笑を湛え、その時へと備えて刀の鍔へと指を掛ける。
 皆が眼下を、敵を見つめる中で――ひとり、錆・ルーヒェン(青錆・e44396)が最後まで天を仰いでいた。
 星も月も見えないかァ、ビルの縁で仰け反るような危うい姿勢で、呟く。
「でも――俺たちが灯したげるよォ!」
 錆びた金属の足が僅かに軋んだかと思うと、踵が堅い音を立て、彼は空へと躍る。
 同じくして顔を完全に上げた黒金のダモクレス――ニエロの瞳は、周囲を取り囲むケルベロスを捉え、鈍い光を灯した。

●黒金
「頼んだよ!」
「任せとけ!」
 蛍が真っ直ぐに駆け出すと、広喜が腕を差し出す。
 目掛け、彼女は実に軽やかに地を蹴った。それを彼が受け止めたかと思うと、力の限り、ぶん投げた。
 縦の距離を一気に縮めた蛍は、ビルの壁面を蹴って戦場を見渡せるよう、方向を変える。
「巨大な敵と戦えるのは嬉しいけれど、みんなが楽しく過ごしている街を破壊させる訳にもいかないからね」
 操縦稈型の爆破スイッチを起動させ、闇夜に鮮やかな爆風を起こす。
 得意げに振り返った広喜に、無言で問われたレッドレークは頭をふって、自ら跳躍した。
 彼が片腕を突き出せば、巻き付いている真朱葛が屋上の手摺りに伸びて絡まり――振り子の要領で一気に距離を詰めた。
「黒くて重量級、俺様は結構好きだぞ! だがもう少し飾り気があっても良いと思う。例えば赤いラインを入れるとかな!」
 それの背へと取り付くなり、レッドレークは構えていた赤熊手を振り下ろす――ドラゴニック・パワーを噴射させ加速した衝撃は、ひどく鈍い音を立て、表面で止まった。
 とても頑固な大地に刃を立てたかの如く相手は微動だにせず、ただ彼の腕ばかりが軋んだ。
 そんなことを思う間に、足場が斜めに傾いていく――ニエロが右腕を振り上げたのだ。
 黒金の腕の先端は正しくチェーンソーの形をしているが、実質は万物を粉砕する重機――振り下ろされた巨大な剣を、ドラゴニックハンマーを換装した右腕で広喜が迎え撃つ。
 強い火花が散って歯が止まる。だが、全身は、これ以上無い負荷が走って嫌な音を立てていた。
「てめえ硬えなあっ」
 それでも嬉々と広喜は言う。そういうものを壊すのが、彼の得意とするところ――食らいついた儘、竜砲弾を轟かせる。
 零距離からの砲撃は彼自身も吹き飛ばす――其処へ、黒衣の青年が飛来する。
「目覚めて早々だけど、今一度――今度は二度と覚めない眠りを与えてあげようか」
 それの頭上をとった玲が、刃を突き立てんと滑り込む。
 雷の霊力と純粋に推進力を乗せた一撃は、空を駆ける彗星の如く。
 対面より、カルナが掌から放ったドラゴンの幻影で挟撃する。
 鮮やかに燃え上がった両者の接触を傍に、ビルの狭間は深い闇で翳った。その間を駆けるルーヒェンはぞくっと震えるような錯覚に、ただ笑みを深める。
(「深い穴の底に落ちてくみたい――なァんて、ね!」)
 彼の踵が力強くコンクリートの壁面を叩けば、小さな火花が散り、彼の辿った軌跡を彩る。
 これが俺の『いるみねーしょん』だよン、と嘯いて、一息で詰める――巨体に回り込んで背面へ、バールを振り下ろす。
「さァさデッカいお人形ちゃん! 俺たちと踊ろー!」
 誘い、打つ。
 ふたつの特殊な鋼が弾く火花も、またイルミネーションの如く。
「姐さん、今だよォ!」
 落下しながら手を振る彼に、ハンナではなく瑛華がくすりと笑い、しなやかに持ち上げられた足が空を裂き、ニエロとを結ぶオーラを走らせる。
 相棒の放った星型のオーラを目眩ましに、ハンナはそれの至近へと飛び込んだ。
「先ずは軽く行こうか」
 ハンナの拳が素早く軽く、ニエロの胴を叩く。確かに重い金属の塊を殴っているような感覚――だが、これはこういうウスノロにこそ効く技だと彼女は確信している。
 元よりジャブ。敵にとっては羽が撫でた程度の打撃であろう。だが彼女の拳が残すグラビティの滞留は確実にニエロを蝕んでいくのだ。

●闇中
 一呼吸、玲が直線的に仕掛ける。
 正面から跳び、重力に従いながらすれ違い様に振り下ろす刃に、纏うは空の霊気。仲間達が刻んだ疵を更に斬り広げる剛の一太刀だ。
 眼前を舞う彼を捉えようとしたのか――ニエロが剣を振り上げたために、近くにあったビルの上層部が叩き壊された。
 崩れゆく建物の中、銀糸が風に乱れゆく。だが瑛華は、落下していく身体を憂うことはなかった。
 瓦礫を蹴って、相棒が駆けつけ――身体が重力に僅かに逆らったことで、彼女に抱き留められたと理解する。
「姐さんかっこいー!」
 遠方からはっきり届いた部下の声音に、ハンナが満更でもない視線で応えつつ、壁面を蹴り飛ばし安全な場所へと逃れゆく。
 それにしても、と。
「お前、昔っから変わらず軽いな」
「ふふ。誰にでも、抱き上げてもらえるように。なんてね」
 悪い笑みで口元を歪めた相棒の一言に、瑛華は笑みを返した。常に浮かべた大人びたものではなく――何処か少女めいた、花が綻ぶような笑み。
 相棒の腕の中、彼女は砲撃形態へ変じたハンマーを構え――撃った。
 それを退けるように、ニエロの剣が吼える。
 薙ぎの一閃を、広喜が身体を張って受け止めようとしたが止まらず――足場が崩れる前に宙に放り出された。
 しかし、彼は嬉しそうに笑っていた。他ならぬ敵への親近感が、彼の機械の四肢に力を与える。
「流石だな――でも負けねぇ!」
 空中でバスターライフルを構える彼の全身に走る回路が青く輝く――チェーンソーの機構を解析し、駆動部分にレーザーをねじ込んだ。
 彼はそのまま低いビルの屋上に落下し、毀れた建物の、瓦礫が降り注ぐ。
「無茶するなあ」
 それらを躱して飛来しつつ、蛍は暗い夜空にオーロラを手向けて嘆息する。
 次いで眼下を見れば、街の光は当初の半分ほどに減っていた――込み上げる怒りを、彼女はその明るい瞳に隠さない。
 否、それは彼女ばかりではない。
「貴方に光差す事は……心が灯る事は無いのですね。この温かな明かりを、何とも思わずに壊すなんて認めない。心と力の全てを尽くして、守ってみせる――さぁ、どうぞ思うままに」
 強く敵を見据えてカルナは小さき友を招く。
 漆黒の身に、煌々と月の輝きを宿す双眸――、其は狂える力を秘める魔眼。
 月夜の精霊は気儘に黒金に飛びついて、呪いを刻む。
「ああ――曾ての同胞として、憐れみすら覚えるぞ」
 深く同意し、レッドレークは赭土鳴で力強く大地を踏みしめ、オーラを放った。

●闇墜
 光線が奔る。其の周囲を跳び回るケルベロスは躱し、仕掛け――頑強なそれの躯も、いよいよ亀裂を走らせ始めていた。
 突き立てられた回転速度が落ちた刃を、ハンナが黒い三節棍で受け止める――切れ味は鈍ったが、架かる重みが、彼女の骨を砕いた。
「特別製だよ、ヒーリングバレット!」
 すかさず、薬品が込められた弾を蛍が放ち、癒やす。
 反撃しつつ、ハンナが距離をとった瞬間、敵は腰を落とした――全身の力を、肩に備えた銃砲へ向けるかのような構えの変化。
 気付いたレッドレークは思わず舌打ちする。
 案ずるのは自身のことではなく、街のこと――今までの応酬を考えれば、フルパワーの一閃が与える損傷は考えるまでも無い。
(「せめて上方に向けて撃たせられれば……そうか!」)
「広喜、俺様を投げろ」
「お、気が変わったのか」
 広喜が半身だけ振り返って問うと、レッドレークは首肯した。
「獲物が上にいれば、奴はそれを狙うだろう――つまり、そういうことだ!」
 言い放つなり駆けだした彼を、なるほどと広喜は掬い上げるような形で迎え、
「ぶっ壊してこい」
 そのまま力の限り放り、宙へ送り出す。
 放出された彼は、真朱葛を厚く束ね――地獄の炎を纏わせ、遠呂智を成す。
「喰らい、焼き尽くせ!」
 暗い世界をうねり暴れる炎の暴龍が、黒金に巻き付き、更に上へと構えを固定すれば。
 それは妙案でございますと、カルナが交互にビルを蹴って、高々と舞い上がり――ドラゴンの幻影を放って、誘導する。
 更に、光射さぬ中天で、掲げられた白刃が月の如く耀いた。
「曇天までは晴らせずとも、せめてこの暗雲は払い除けるとしよう――」
 髪を飾る深紅の薔薇が風に揺れる。
 鋒を天に向けていた玲は、すっと息を吐く。
「心の月の儘に」
 唯斬るために――彼は地を蹴った。
 同時に、放たれる光線。彼は身を裂くような激流に呑まれようと、直進し――玲瓏と映える鋭刃を返す。
 砲口が割れ――二つに分かれた光線はそのまま天へと何処までも伸びていく。
 放ったニエロは自らの重みにすら耐えられないかのように、蹈鞴を踏んだ。
「オッケー、大イチバン!」
 ルーヒェンの金色の瞳が、笑みに似た形で細められる。
 合図に応じて、蛍が燃える翼を広げた。
「行くよ!」
 自身を守るように展開した独立機動砲台が弾幕を張るのに紛れ、緑の髪を風に踊らせる。
 蜂が刺すように、すれ違い様に大斧を振り下ろせば――砲口がぐしゃりと潰れた。
「終わりにしましょうか」
 いつしか至近距離に詰めていた瑛華がグラビティの鎖を伸ばし、互いを繋ぐ。黒檀のヌンチャクを鮮やかに振るってそれの足を砕けば、背中合わせのハンナが玄人を伸ばし、鋭く関節部を貫く。
 地へと引き摺り下ろされるように傾く其れへ、
「行かないで――何処にも」
 縋りつくように、ルーヒェンは残る片足へ枷を掛ける。
「闇の底の、お人形ちゃん――ごめんねェ、君はお外に出られない!」
 憐憫のようなものを金の瞳に浮かべ、心臓がひどく煩いことを掻き消すように、囃した。
 完全に動けなくなったそれの元へ、黒猫が駆ける――投擲した杖を追うは、カルナの謳う別れ。
「街を覆う不穏なる影は、ここに晴らしましょう――お休みなさい」
 そして――ニエロの足元で揺らめく青い炎。
「壊れるまで、逃さねえ」
 演算によって導き出された一点へ、回路に獄炎走らせた広喜が、渾身の一撃を叩き込む。
 すると面白い事に、ダモクレスは一気に粉塵へと姿を変えたのだ。弾け、闇に溶けるように。

●光
「上から見るイルミネーションも、悪く無いね」
 朗らかに言って、蛍は炎の翼を羽ばたかせた。
 独立機動砲台と共に、修復不足はないかと目をこらし――実質、繁華街の空中散歩を楽しんでいた。
 大通りを彩る白い光は、銀河のように。ヒールによって修復されたビルや建物も、幻想的な光を湛えて、一層華やかだった。
「これで暫く客足も増えるか?」
 煙草を咥えてハンナは呟く。元通りとは呼べぬ光景だが、今日一日の補填としては都合が良いか、と。
「ねえハンナ、折角だから向こうまで歩いてみない?」
「いいぜ。何なら、抱えて歩いてやろうか?」
 瑛華の誘いに軽口で応える。相手も慣れたもので、どうしようかと思案するふりをする。彼女は肩を竦め、振り返ると。
 相棒曰く掴み所の無い部下が、ぼーっと天を見上げて立ち尽くしていた。
 ルーヒェンは目の前の景色に唖然としてたかと思えば、
「あァ――そっか。真っ暗だったから、こンなに眩しいのか」
 ひとりごちる。胸に手を置いているその仕草すら、無意識に。
 そして、今日やたらと鼓動が逸った理由を知らぬ儘――仲間と呼んでくれる人達に名を呼ばれて、彼は驚きに目を瞬き――忘れてしまうのだった。

「暗い空にも負けない、綺麗な街でございますね」
 表情こそ殆ど変化はないが、カルナは嬉しそうに街を眺めている。
 この美しい光景は、人の心そのものだと彼女は考えていて――それが再び華やかに灯った。これ以上に喜ばしいことはない。
「そうだね。あの子にも見せてあげたかったな」
 玲は微笑み――思い浮かべるは、愛しき小さな猫。
 眩しいと厭うかな、首を傾げる青年の思案に微笑ましい気持ちを覚えながら、カルナも同じく案じてみせるのだった。

 レッドレークは眩しそうに目を細めた――否、ゴーグル越しなので、眩しいということはないのだが。
「今年俺様は『厄年』だったらしい」
「確かにな!」
 呵々と広喜は笑った。友の反応を疎んじるようなことはなく、ただ静かにレッドレークは頷いた。それすら、恐らくは無意識の成長の証だろう。
「確かに色々あったな……。だが、良い年だった。きっといつまでも忘れられない年になるのだろう」
 しんみりと零す彼に、広喜は無邪気に返す。
「来年も……いや、来年はもっといい年になるぜ――きっと、な」
 そして光り溢れる街を見やる。
 姿も残さず破壊された黒金の果て――あれは唯の鉄屑として、地球の一部と溶け込み、この光輝く街となったのではないか。
 ひょんな思いつきに広喜は笑い、拳を交わした相手へ、別れの言葉を送った。
「じゃあな」

作者:黒塚婁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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