宮城県のとある市街地。
夜の大通り。普段は静かに立ち並ぶ街路樹たちが、今はきらびやかに光を放っている。冬限定のイルミネーションだ。
12月を彩る光の道を、人々が楽し気に歩き、眺め、撮影している。まもなくここが、悲劇の舞台になるとも知らず。
……どぉん!
イルミネーションの向こう、巨大な音と共に、何かが姿を現わした。牙より変じた異形……竜牙兵だ。
「イルゾ、イルゾ! ヒカリにムラがるムシケラドモガ!」
「ワレらのニエにナリにキタノカ? ナラバ、ソノグラビティ・チェイン、ゾンブンにイタ ダクトシヨウ!」
哄笑混じりに振るわれた竜牙兵の刃。その一撃は、輝く木ごと客の首を刈り取った。残された体からしぶく血が、白い光を赤く染めていく。
誰かの悲鳴が、人々の恐慌のスイッチを押した。
人々の命が、イルミネーションが、竜の牙によって汚されていく……!
黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)が慌てた様子で、ケルベロス達を招集した。
情報を確認しにやってきたケルベロス達の中には、沫雪・ありす(泡沫の白・e62457)と、ボクスドラゴンのグリの姿もあった。
「大変っす! 竜牙兵がクリスマスのイルミネーションで賑わう宮城県の市街地を襲撃するっす!」
人々が集まるイベントは、グラビティ・チェインを求める竜牙兵にとって、これ以上ない『狩場』。予知の現場に向かい、竜牙兵の襲撃から人々を守って欲しいというのが、今回のダンテの依頼だった。
「イルミネーションを観に集まった人は多いっすけど、避難は警察に任せて、皆さんは敵の相手に集中して欲しいっす」
イルミネーション会場に襲来する竜牙兵は、全部で4体。
「その中でクラッシャーは1体。簒奪者の鎌のグラビティを使うっす。ジャマーが1体、こいつはゾディアックソードのグラビティを使うっすね。それとスナイパーが2体で、どっちもバトルオーラ使いっす」
敵の襲来地点は、イルミネーションに彩られた木々に挟まれた大通り。一般人の避難後ならば、広さは十分。戦闘に支障が出る要素はない。
竜牙兵の戦意はいずれも高く、撤退する事はないだろう。
「人々の心を癒すイルミネーション、竜牙兵なんかの惨劇の場所にさせちゃいけないっす! 絶対阻止して欲しいっす!」
ダンテの言葉に、ありすもグリも、こくんとうなずいたのだった。
参加者 | |
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ロナ・レグニス(微睡む宝石姫・e00513) |
藤守・つかさ(闇夜・e00546) |
トエル・レッドシャトー(茨の器・e01524) |
ニュニル・ベルクローネス(ミスティックテラー・e09758) |
楪・熾月(想柩・e17223) |
星野・千鶴(桜星・e58496) |
初芝・涼香(迷い鬼・e61972) |
沫雪・ありす(泡沫の白・e62457) |
●狙われた煌めき
「ひゃ、寒い! ……なんて言ってられないね。それじゃ、行こうか」
北国の夜風に吹かれつつ、星野・千鶴(桜星・e58496)が、敵の襲来場所へと急ぐ。
白く輝くイルミネーション。その荘厳な風景には不似合いな襲撃者達……武器をかざし市民を殺害せんとする竜牙兵の群れがやって来る。
その身勝手な殺意と凶刃を遮断したのは、トエル・レッドシャトー(茨の器・e01524)達だった。
「この寒いのに、まぁよく励みますね……。それに比べて……」
「……その、サボりじゃないんですね、みたいな視線はやめろよ、トエル」
トエルの冷ややかな眼差しに、藤守・つかさ(闇夜・e00546)はささやかな抵抗を試みた。
「みたいな、じゃなくて事実です。竜牙兵掃除が本職のくせに、サボらないでくださいね」
なら、仕事に励んでいると証明しよう。つかさが、竜牙兵を挑発する。
「精鋭気取りの格下が元気なもんだ」
「カクシタ、ダト……!」
「否定するなら、証明して見せろ。その武器は飾りか?」
憤る竜牙兵達の背後から現れたのは、楪・熾月(想柩・e17223)。
「俺たちさ、君らと煌めきを見るつもりは無いんだよね」
熾月の陰から、シャーマンズゴーストのロティも姿を見せる。
元より退く気はないか。一斉に、ケルベロス達へと襲い掛かる竜牙兵の群れ。
「やれやれ、街はこんなにも煌びやかなのに、竜牙兵も懲りないものだね。良い年越しを迎える為にも仕事納めといこうか。ね、マルコ?」
クマぐるみのマルコに語り掛けながら、ニュニル・ベルクローネス(ミスティックテラー・e09758)は仲間達の攻撃に加わった。
「この綺麗な景色とみんなの楽しみを奪うなんて、ゆるせないわ。頑張りましょ、ね、グリ」
ボクスドラゴンのグリと一緒に、敵と交戦する沫雪・ありす(泡沫の白・e62457)。その後方では、駆け付けた警察により、人々の避難が行われている。
「ムシケラドモが、ムダなマネを!」
「イルミネーションは綺麗で癒されるもの。それを惨劇に変えようとする貴方達のほうが、余程害虫です。かかってきなさい。潰してあげます」
初芝・涼香(迷い鬼・e61972)の言葉が、竜牙兵達に刺さる。
「せっかく、ねんにいちど……まちがおめかし、するのに。たのしみにしてきたひとに、ひどいことするの……ぜったい、だめ」
観客の気配が離れていくのと入れ替わりに、ロナ・レグニス(微睡む宝石姫・e00513)の殺気が辺りの空気を威圧し、見えざる結界を作った。
イルミネーション会場を舞台に、戦いは激しさを増していく。
●光を救うもの
がきぃん!
光輝く木々の間、殺す者と守る者が激突する。
殺意の塊めいた敵に、無表情で立ち向かう涼香。だが、竜牙兵には見通せない。無表情の奥で燃え盛る、怒りという感情を。
トエルの瞳にも、強い意志が宿る。普段は、表情や感情の豊かな方ではない。だが、相手が明確な敵とあらば、話は別だ。
最初の標的は、敵ジャマー。
そちらへ仲間達が集中できるよう、つかさが動く。黒く染まるオーラよりほとばしるは、黒雷。冬の空気を裂いて飛翔する光の筋が、スナイパー達を襲う。
「マタ、オマエか!」
「何、直ぐに皆が相手してくれる。それまでは俺と遊んでくれよ」
その間に、魔法の木の葉をまとったロナが、オーラを手元に収束させた。仲間に当たらぬよう狙いを調整して放った気弾が、ジャマーの肩に食らいつく。
痛みをこらえ、剣を振り上げるジャマーに、静かに忍び寄るニュニル。その掌がジャマーにそっと触れた。瞬間、体内で炸裂する螺旋の力。
衝撃で空中に舞い上げられた敵を、ウイングキャットのクロノワが追った。ひっかく。
「シュウチュウコウゲキか!」
「ほら、よそ見しちゃだめ、あなたはこっち」
ジャマーの援護に回ろうとするクラッシャーに、千鶴の声が降って来る。見上げれば、星瞬く夜空に、虹がかかっていた。
降下してきた千鶴のキックが、クラッシャーをアスファルトに沈める。
「オノレ……!」
体を起こしたクラッシャーは、千鶴へと猛然と襲い掛かる。
仲間が攻勢に回るなら、守り、癒すのは熾月の役目だ。エクトプラズムを呼び出すと、後衛の仲間に宿らせ、保護。
一方、ロティは、千鶴に協力して、敵クラッシャーのけん制に回っていた。タイミングを計って踏み出すと、爪で敵の魂を切り裂く。
そうして他の竜牙兵が牽制されている間に、トエルがジャマーの始末にかかった。
触手と化した蔦が、敵の腕を、足を絡めとる。攻撃特化のトエルの破壊力により、蔦はジャマーの体に食い込み、四肢をきしませる。
ケルベロス達の足並みを乱そうと、スナイパーの気弾が、つかさを狙う。
もう1体のスナイパーも、咆哮とともに拳をねじこんだ。
また別の場所では、ジャマーの剣が、ニュニルの加護を打ち破る。
しかし、剣を振り切って隙のできたジャマーは、ありすのドラゴニックハンマーの照準にとらえられていた。
トリガーを引くありす。轟音を伴い、ジャマーを砲撃が飲み込む。
力の奔流から抜け出したジャマーを、今度はグリのタックルが迎えた。
たたらを踏んだところに、ひときわ高い木の上から、涼香のかかと落としが炸裂する。
「そこで這い蹲っててください」
「グッ……!」
膝を折るジャマー。激しい衝撃は痺れにも似た作用をもたらし、即時の反撃を封じたのだった。
●闇照らす光達
「イテツケ、ケルベロス!」
攻撃、そして氷結の力をぶつけてくる敵群に対し、熾月も守りから反撃に転じた。
虚空を走る静電気が、スナイパーの体で弾けると、もう1体へと伝播した。2体の間を飛び回る様は、まるで雷獣のごとく。
ロティは、一旦回復を行い、クラッシャーへの攻撃タイミングを整える。
戦いの中、イルミネーションをバックに、ニュニルが舞い踊る。光との共演。
手の動き、足の運び。ニュニルの1つ1つの動作からこぼれ落ちた光の花びらが、皆の体を侵す氷を溶かしていく。
回復を受けつつ、クラッシャーに張り付く千鶴。二振の刀から連続して繰り出された斬撃は、時間差で相手の霊体を切り裂いた。
クラッシャーが押さえられているうちに、つかさが縛霊手をジャマーへと向ける。掌から放射された光弾が、ジャマーの視界を、そして体を骨の髄まで焼き尽くした。
同朋を失った竜牙兵、しかし、その戦意は薄れる事を知らぬようだ。それは、ケルベロスも同じ。
前進し、踏み込んだロナの拳が、クラッシャーに炸裂した。吹き飛ばされながら、光が散る。その身に宿っていた、加護の破片だ。
不意に、トエルのオーラの色が変わる。地獄の炎を更にまとったゆえだ。勢いよく叩きつけられた火炎は、クラッシャーの骨身にしみわたる。
だが、炎を破り、猛然と襲い来るクラッシャー。
敵の鎌を、二刀でさばく千鶴。背に仲間をかばいながら。守るためならば自らが傷つくことさえいとわない。それが守り手としての矜持だ。
「やっかいな敵さんね……でも、負けないんだから!」
千鶴に守られながら、ありすが涼香と足並みをそろえ、攻撃した。氷結の射撃が、竜牙兵の体を凍てつかせていく。
「グリ、回復を!」
敵の注意をいたずらに引く事のないよう、ありすはすぐに後退すると、グリに声を送った。属性の力を発動し、負傷者を万全に回復する。
ならばと、クラッシャーも態勢を立て直そうとするが、
「隙だらけ、ですね。害虫さん」
味方の陰から飛び出した涼香が、バールを投じた。
綺麗、と言って差し支えない軌道を描いた後、クラッシャーを直撃する。
「ム、ムシケラゴトキに……!」
手元に戻って来たバールを構え直した涼香の眼前で、クラッシャーは骨片へと変わった。
●冬灯り、煌々と
魔力を帯びたつかさのファミリアが、スナイパーの傷を深く広げる。これまでのつかさとの交戦で、損傷のかさんだ身には堪える。
そして、ありすから、グラビティのプレゼント。力場に封じられたスナイパーの力と悪意が、みるみるうちに中和されていく。
「力なら負けません」
言いつつ、涼香がパンチを放った。シンプルな力こそ、強い。敵の加護を打ち砕く。
ロナとスナイパーの視線が、虚空でぶつかり合う。竜の眷属たる兵の身には余る、神殺しの矢。それが、敵の気弾と交錯する。
果たして、相手を貫いたのは、ロナの矢の方だった。砕け、消滅していくスナイパー。
最後に残ったもう1体のスナイパーに、ニュニルが無音で迫る。影のごとき接近……そして、敵の背中を搔き切った。クロノワは、負傷者の手当てに奮闘中。
そして新たに生まれる光、1つ。熾月の手元に、光球が招来される。満月の如きその光は、優しく仲間を癒す。その一方で、人の心を惑わす輝きは、仲間を強化……狂化させる。
「そろそろ、おしまいにしようか」
千鶴から、桜吹雪があふれ出す。
視界を埋め尽くされ、困惑するスナイパー。気づけばその腹から、刃が突き出していた。千鶴のグラビティがこめられた刀は、敵の胴を薙ぎ払う。
そこへ、翼を広げたトエルが、身を空中で回して攻撃をかわしながら突進する。翼を媒介にした力は文様となり、トエルの体を彩る。神速の一撃が、敵を穿ち、灰燼に帰した。
掃討、完了。
無事、敵を撃破した後、ヒールでイルミネーションを修復していく。
少しばかり様子が変わってしまったかもしれない、と思うケルベロス達だったけれど、これはこれでいいものです、と実行委員の人は笑ってくれた。
やがて戻って来た人々を、再びイルミネーションが迎えた。いつでも見られるものではない。ケルベロス達もその中に混じり、この光景を堪能させてもらう事にする。
連なる灯り、その1つ1つに、人々の思いがこめられている。そのせいだろうか、人工的な輝きはどこか温かく、心さえ癒す力を持っているようだった。
光の列に目と心を奪われ、ニュニルのマルコを抱く手に、優しい力と熱がこもる。
「綺麗だね……この光景を守れて本当によかった。少しお腹が空いてきたし、あっちの出店でクレープでも頼もうかな?」
「クレープ、わたしもたべる……! いちごチョコ、あるかな……」
ニュニルの提案に、ロナが賛成した。
ロナ達が声をかけようと視線をさまよわせると、ちょうど熾月は、煌めく大樹を背景にロティとぴよを写メに収めていたところだった。
「ん、いい感じ♪」
家で待つ家族のための1枚、その出来に満足すると、熾月は、呼ばれた方へと。
「なるほどな……確かに綺麗なもんだ。記念に一枚くらいは撮って行こうか」
つかさは、トエルにも感想を求めたが、相変わらずつれなかった。イルミネーションの煌めきという魔法も効かないようだ。まあ、慣れた塩反応、ではあるが。
「きらきらしててすてきね……お星さまみたいだわ」
ありすとグリ、千鶴も、輝きの景色を楽しむ。その瞳もまた、きらきらと輝いている。
2人と一緒にあちこちを見て回っていた涼香は、ここ、という場所を決めると、皆の元へと戻った。
「よろしければ、あそこのイルミネーションを背景に写真、とりませんか?」
「……わぁ、とって、とって……!」
「すてきね! 撮りましょ、撮りましょ!」
ロナや、グリを抱いたありすも大賛成。さっそく、Vサインの練習をするロナ。
次々と集まる仲間達に、熾月も加わる。人懐っこいロティやぴよは、皆と並んで嬉しそう。
ニュニルとマルコも手を上げて。
そして、涼香の合図で、皆が1つのフレームに納まる。
その写真は、1年の締めくくりに相応しい1枚になったのだった。
作者:七尾マサムネ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年12月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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