サンタはお持ち帰り

作者:八幡

●キャバクラの悲劇
 どことなく閑散とした商店街の端に、やたらごてごてと装飾された城のような建物がある。
 その建物の中に入れば、黒い服を着たお兄さんが出迎えてくれて……しばらくすれば傍らに女性が座ってくれる。そう、ここは所謂キャバクラと言われる店だ。
「ほんと男ってこういうの好きよねー」
「だよね、あ、三丁目のパパに営業入れとこっと」
 そんなキャバクラの更衣室では、店から用意されたやたら丈の短いスカートのサンタっぽい衣装を前に女性たちがやれやれと首を振ったり、熱心な営業メールを送ったりしながら準備をしてた。
 彼女たちが居る更衣室はかなり広く、最大で30人は入れそうだが……今は10人くらいの女性しかいない。
 とはいえ女盛りの女性が10人、それも全員が下着姿や露出の高い衣装となれば、なんというかむんむん……そう、むんむんした空間になる。
 むんむんした空間の中、1人の女性が自分のロッカーを開けると、
「ま、今日も張り切って――」
 そこには真っ黒な穴が開いており、思わず言葉を失った女性の目の前で、その穴から次々と豚面の化け物が這い出してきた。
 唐突の事に言葉も出ない女性を背中から生える触手でとらえた豚面の化け物……オークは戦利品のように女性を高々と掲げ、
「「「サンタ狩りじゃあああ!」」」
 下品な笑いを浮かべながら女性たちの体へと触手を伸ばすのだった。

●サンタはお持ち帰り
「大変だよ! 魔空回廊からオークが沢山出てきて女の人たちをさらっちゃうんだよ!」
 小金井・透子(シャドウエルフのヘリオライダー・en0227)はケルベロスたちの前に現れると、両手を握りしめて大変だと主張する。
 沢山のオークが出てきて女性たちをさらう。それはとても放っておける事件ではないだろう。
 だが、出現場所と時間が分かっているのならば予め女性たちを避難させておけばいいのではないか?
 オークがわらわらと出てくる場面を思い出したのか、両肩を抱えて身震いしている透子にケルベロスたちが視線を向けると、
「うぅ……先に避難をしてもらったりすると予知が変わっちゃうんだよ」
 透子は残念そうに首を横に振った。
 オークは女性が多くいる場所に現れる、となれば先に移動させてしまっては現れる道理がないと言うことだろう。
「オークたちはキャバクラ? の更衣室に現れるんだよ」
 ならばどうするかと思案するケルベロスたちへ、透子は説明を始める。
「この更衣室は大体30人くらいが入れるんだけど、女の人たちが10人、出てくるオークは15体なんだよ。オークは更衣室の一番奥にあるロッカーから出てくるから、入口から女の人たちを逃がしてあげれば大丈夫だと思うんだよ!」
 オークが出現する場所が更衣室の奥であるなら、女性たちを逃がすのは容易いだろう。
「ただ、更衣室の出口は1つしかないから気を付けないと詰まっちゃうかもしれないんだよ」
 そう考えるケルベロスたちに透子はむむむとうなりながらそんなことを言う。
 普通の扉に10人の人間が駆け込めば詰まる可能性もあるだろう。さらに、更衣室の外から中へ入ろうとする者が居た場合は言わなずもかなである。
 そうなると、ケルベロスたちがオークが出てくるまでに待機する場所も考えなくてはならない。
「女の人は更衣室に混じっていてもなんとも思われないと思うけど……男の人はロッカーに隠れるか、外にいるしかないと思うんだよ」
 どこか適当なところはないのかと言う視線を感じた透子は口に指をあてながら首を傾げる。
 女性ならば問題なく……男性の方はどちらを選ぶか、あるいは別の手段を探してくるか。いずれにしてもそれなりにドキドキしそうではある。
 一通りの説明を終えた透子はケルベロスたちを真っ直ぐに見つめ、
「女の人に酷いことをするオークは許せないんだよ! 絶対倒してきてね!」
 両手の拳を小さく握り、透子の話を聞いていた、藤守・大樹(灰狼・en0071)はニヒルに笑うと、
「サンタ狩りじゃあああ!」
 握りしめた拳を高々と突き上げたのだった。


参加者
深月・雨音(小熊猫・e00887)
月見里・一太(咬殺・e02692)
片白・芙蓉(兎晴らし・e02798)
コマキ・シュヴァルツデーン(翠嵐の旋律・e09233)
空木・樒(病葉落とし・e19729)
神寅・闇虎(鬼貫の雷虎・e25652)
草喰・伽(天狗だっつってんだろ・e30292)
凍夜・月音(月香の歌姫・e33718)

■リプレイ

 更衣室の扉が不意に開いたかと思うと、美しい白髪の女性が静かに入ってきた。
 それからその女性……凍夜・月音(月香の歌姫・e33718)は室内を見回して誰もいないことを確認してから壁を小さくたたいて合図を送り……数秒後、扉の横からニョキっとトナカイが姿を現す。
 時期的に浮かれたトナカイが迷い込んだのか……否。そのトナカイは万が一の時にキグルミを着た、月見里・一太(咬殺・e02692)である。
 トナカイは素早く室内に転がり込んでから月音に頷いて見せると入り口付近の誰も使っていないっぽいロッカーを開けた……その脇に何故か動物変身で小型の犬になった、藤守・大樹(灰狼・en0071)を抱えて。
「ふふふっ、今日は楽しみだぜぇ」
 ギュム! とか言う擬音が聞こえそうなくらいに頑張ってロッカーに収まろうとしているトナカイの後ろを通り過ぎ、神寅・闇虎(鬼貫の雷虎・e25652)はダンボールを1つ床に置く。
「じゃっ、隠れるとするかな」
 それから自身はロッカーの上に飛び乗って、用意していた紙袋を複数並べてその中に隠れる。これまたずいぶん大きな紙袋になってしまったが、床のダンボールがフェイクになってバレないはずだと闇虎は主張する。
 それは無理じゃないかしらね? なんて月音が突っ込もうとするも、廊下の方が賑わって来ていることに気づくと、月音はとりあえずトナカイと犬を無理やりロッカーに押し込み、中から外が見えないように目張りを張り、ついでに闇虎が隠れた紙袋の前に別の紙袋を置いて室内を見えないようにしておく。
 丁度偽装が終わったところで、ガヤガヤと女性たちが更衣室に入ってきた。月音の姿を見た女性たちは、驚いたように立ち止まるが……今日は個性的な新人さんが多いわね? なんて言いながらそのまま入ってくる。
 個性的な新人さんとは、女性たちと一緒に入ってきた、コマキ・シュヴァルツデーン(翠嵐の旋律・e09233)と、空木・樒(病葉落とし・e19729)、それから、深月・雨音(小熊猫・e00887)のことだろう。
「準備は出来ていますか?」
「ええ、後はお客様の来店をお待ちするだけよ」
 樒の問に月音が答え、それを聞いた樒とコマキは予め目をつけておいたロッカーの前で着替えを始める……せっかくだからサンタっぽい衣装を着ようというのだ。
 コマキなどは地毛が緑なものだから、一回り浮かれた感じになっている。ちなみに着替えは男たちからは見えないので問題ない。問題はないのだが、あ、そういえばと着替える真似をしていた雨音は目張りがしてあるロッカーをそっと開けてみて、
「大樹のおじちゃん、大丈夫にゃーー」
 そっと閉じた。
「どうしたの?」
 そんな雨音の行動に小首をかしげたコマキに、雨音は何でもないにゃと笑顔を返す。雨音の様子に余計にコマキは首をかしげていたけれど、きっと見ない方が良いんだろうなと判断し、
「ぶかぶか……」
 ついでにサンタっぽい衣装を着てみてから胸元を押さえてボソッと呟いた樒の言葉も聞かなかったことにした。
「なんかいい匂いする……あとお化粧のテクが凄い……」
 それからコマキは、原形をとどめないほどに顔が変わっていくキャストたちのテクニックを眺めながら、お客様の来店をお待ちすることにした。

「フォフォフォメリー! 私よ!」
 にぎやかな更衣室の外で待機しつつ、片白・芙蓉(兎晴らし・e02798)は誰へともなく主張する。ちなみに芙蓉はメリーな気分の芙蓉は白もふな付け髭をしていて、普段のフフフがフォフォフォになっているのだ。
「クリスマスにキャバクラの廊下で待機する私たちって客観的にどうなのかしら」
 そんな芙蓉の横で待機する、草喰・伽(天狗だっつってんだろ・e30292)が唐突に問いかける。
 防寒対策が完璧な露出の高いバニーの衣装に身を包んだ伽が小粋なトークを仕掛けてきたのだ。現実ってやつを直視したいお年頃なのだ。
「かわいいわね!」
 問われた芙蓉は迷わずにかわいいと答える。だってかわいい私がいるのだもの、かわいいに決まっているわと。
「クリスマスにキャバクラのロッカーの中に待機している仲間たちって客観的にどうなのかしら」
「かわいいわね!」
 迷わず答えた芙蓉に、ならばと伽はロッカーの中で待機するへんた……男たちについてどうなのか、現実的にと問いかけてみるも、再び芙蓉は即答する。トナカイの恰好をしていたしかわいいに違いないのだ。そこは迷うところではない。多分。
「おさけのみた――」
 なるほど、それはさておきお酒飲みたい。そう伽が口にしようとしたところで、更衣室の中から大きな物音が聞こえた。

「あなたたち綺麗だから気を付けない、男は全員かはん――」
 キャストの1人がコマキたちへそんな注意をしながらロッカーを開けると、そこにはあるはずのものが無く、無いはずの真っ黒な穴が開いていた。
「早く逃げるにゃ!」
 その穴から豚の化け物ことオークが出現するより早く、雨音はもふもふの尻尾でもふもふとロッカーを開けたキャストを入口の方へ追い払う。
 だが、行き成り逃げろと言われても体が動くものではない。キャストたちが戸惑っている間に、ロッカーの穴かからオークたちがわらわらとわいてきて……ようやく事態を察知した女性たちが悲鳴を上げ始めた。
「フォフォフォ! さぁ逃げなさい!」
「お帰りはこちら」
 その悲鳴を聞きつけた芙蓉と伽が入口の扉を解放し、芙蓉のテレビウムである帝釈天・梓紗が、その顔のディスプレイに『デウスエクスが現れました。付近の方は更衣室から離れて下さい』というテロップを流し始めた。
 逃げ場を明示したことによりキャストたちの混乱は消えて、一斉に扉へ駆け出す。駆け出す半裸のキャストたちを見たオークはゲヘヘと下種な笑いを浮かべて触手を伸ばそうとするが、オークとキャストとの間に月音と樒が割り込む。
 月音と樒はどちらもセクシーなサンタっぽい衣装に身を包んでおり、オークから見たら良い餌に見えただろう。ただ、月音がちょっとだけ胸元を下げてみせると……オークの触手が一斉に月音へと向かって蠢いた。それはもう樒の姿が見えてないくらいに。
「……いえあの、素で無視しないで頂けませんか」
 そんなオークたちの反応にも樒は笑顔を絶やさない。常に冷静沈着、笑顔を絶やさぬプロの暗殺者たる樒は己の感情をも常に殺し続けているのだ。故に笑顔を絶やさない……絶やさないのだ。
「やったわね! 2人のおかげでお姉さまたちは粗方逃げたみたいよ!」
 失われた愛しい想いを歌い上げ、世界を愛する者達を癒やしながらキャストたちを誘導していたコマキが月音と樒に囮成功よ! と親指を立てて見せるとオークたちの触手がピクリとコマキに反応する。コマキもなかなかにナイスバディなのでオークの食指が動いたようだ。
「私は何もしてませんけどね? そして何もナイです」
 そのさまを見て樒は笑みをこぼしていたけれど……何がナイのかは触れてはいけない。しかし、如何に月音やコマキが魅力的だからと言ってすべてのオークを惹きつけられる訳ではない、何体かはキャストたちを追って入口へ向かい……唐突に入口付近のロッカーが開く。中に入っているのはミッチミチに詰められて色々歪んだトナカイと、関節がおかしな方向に曲がった犬。
「「ヒィ!?」」
「ひゃっはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! サンタ狩りだぁぁぁぁぁぁ!!」
 キャストとオークがともにビクゥ! とする中、ロッカーからスポンと抜けたトナカイが、流星の煌めきと重量を宿した蹴りでオークの頭蓋を消し飛ばす。消し飛ばした勢いで飛沫となった赤い何かがキャストの裸体に近い体を赤く染めるが……クリスマスなので問題ないだろう。それから間髪入れずにトナカイは犬を別のオークに向けて放り投げる。
「悪いが、何処の豚骨か分からねぇ奴に、お姉さん達を触らせる気はないぜ?」
 投げられた犬はオークには当たらずロッカーに激突するが、激突したロッカーの上から落ちた紙袋の中から現れた闇虎が勢いよく飛び出し、飛び出した勢いのままに獣化した手でオークの胴体を薙ぎ払う。
 闇虎に薙ぎ払われたオークの胴体はそれこそ紙袋のようにあっさりと裂け、豚骨もぽっきりと折れて内臓をぶちまけた。

「違います。こんな格好ですけどお姉さんたちの仕事仲間じゃありません」
 あなたも早く逃げて! なんて腕を掴まれた伽は冷静にその手を外す。言われたキャストは小首をかしげるも、今日はバニーの日じゃないものねと納得した様子ですぐに走り去っていった。
「コマキ達は大丈夫かしら……お仕事とはいえ露出して体を張るなん……」
 それにしてもと、芙蓉は悩まし気に言葉を紡ぐ。お仕事とはいえ乙女の肌を晒すなど、大変ではないかしらと。
「いけそうね! 任せましょう!」
 だがその途中で、常に露出の高い自称天狗がすぐそばにいることに気づいたのだ、当然のように露出が高すぎて忘れていたけれど。

 キャストたちが全員逃げきったところで芙蓉と伽が更衣室に入ると、そこには地獄絵図が展開されていた。
「別に触られたり見られても気にしないし、多少ならサービスをしても構わないのだけれど……」
 相手はオークだ簡単に一線は越えてくる。当然よねと太ももを這ってきた触手を月音は見つめ、
「この駄犬……ではなくて、駄豚。待てが出来ないなんて、去勢ものね」
 その触手の主であるオークの懐まで一息で駆け込むと、影の如き視認困難な斬撃を繰り出す。
 両手に持った惨殺ナイフは違わずオークの喉笛を掻き切り、
「もふもふ・ている・ですとろーい!!」
 切り裂かれたオークが仰向けに倒れるより早く、流麗なステップを踏んで別のオークの目の前に踏み込んだ雨音が自慢の尻尾で、豚の面を往復ビンタする。
 雨音の尻尾はとてもふわふわだが……その和やかな見た目とか技名とかとは反してとても力強い。オークの首は一発目でゴキリと嫌な方向に曲がり、二発目で吹っ飛んでいった。
「くっ、メリクリ!」
 伽に向かって吹っ飛んできたオークの首をぺしっと撃ち落とし、オークにとっての地獄絵図と化している戦場へ芙蓉は飛び込む。
「ひぎぃ!」
 それがルールだと教えられた変な声を出しながら、獣化した足で高く飛び上がると、そのまま重量のある一撃をオークの頭に落とす。胴体に頭蓋がめり込んだオークはふらふらと倒れ……倒れる寸前にオークを足蹴にした芙蓉は再び宙を舞う。
 宙を舞う芙蓉を別のオークの触手が捕えようとするが、
『ひぎぃ!』
 その触手は帝釈天・梓紗が代わりに受け止めた。そしてディスプレイには主と同じ悲鳴が……帝釈天・梓紗の方が主よりも用法をよくわかっているようである。
「ヒギィ!」
 帝釈天・梓紗を捕えた触手の主も次の瞬間には、無言でその後ろに現れたトナカイが手にした炎を纏うチェーンソー剣で頭からギュイーン! とひぎぃしながら真っ二つにされた。
「トナカイさんには負けてられないわね! そーれ!」
 血まみれなトナカイに紅水晶のような瞳を輝かせてコマキは乙女の鉄槌を砲撃形態に変形させ、伽へ触手を伸ばそうとしていたオークを横から砲撃する。
「わぁ、もぐらたたきみたーい! たのしー!」
 放たれた竜砲弾はオークの上半身を触手ごと吹き飛ばし、その様を見たコマキはうふふと笑う。やっぱり何ごとも暴力で解決するのが一番よねぇと。
「……あなたたちは先ほど私を無視したオークですよね?」
 清楚な見た目に反してとてもバイオレンスなコマキに後ずさりするオークたちの後ろで、樒が変わらぬ笑みを浮かべている。こんなにセクシーな服装をしている私を無視しましたよね? と笑みを浮かべている。
「顔を背け、目を逸らし、泣き叫び、苦しみ悶えながら何処までもお逃げ下さい。世界は貴方を責め立てる敵なのです」
 オークたちは樒にチガウと言おうとするも、樒は返答を求めていない。否、それ以前に後ずさった時点で踏み込んだ樒の領域に散布されている、世界の果てにあるという凍える大地の猛毒を吸い込んでいたのだ。
 猛毒はオークたちの精神を静かに優しく蹂躙し、心に封じた傷を抉り嬲り尽くして……、
「「クッ、ペチャパイ!」」
 何のトラウマを見ているのか、そんなことを口にするオークに笑顔のままの樒の指がピクリと動いた。
「こんな話を知っている? 山河に潜む怪物を。路地裏から覗く化物を。暗闇に棲むひとでなし。さて。今、あなたの後ろにいるのはだあれ?」
 頭を抱えて震えるオークたちへ語りかけながら伽が大きな蜘蛛の妖怪の絵を描く。描かれた妖怪は伽の言葉とともに実体化し、オークたちへ襲い掛かかるとさらにその心を抉っていった。
「「ウウ……オッパ――」」
「だから言っただろうが! おっぱいにさわらせるかぁぁあああっ!!」
 何のトラウマを見ているのか分からないが頭を抱えてオッパイ言うオークに、闇虎は全身を覆うオウガメタルを鋼の鬼と化して、拳をオークに叩き込んだ。

「あと少しにゃ」
 いよいよ片手で数えるほどしかいなくなったオークたちに対してもケルベロスの攻撃の手が止むことはない。雨音は空の霊力を帯びた透き通る氷みたいな唐刀でオークの首をはねる。
「お前をこうして! 我らがゆくわっ!」
 雨音にはねられたオークの首が地面に落ちるよりも早く、芙蓉は氷結の槍騎兵を呼び出すと特に意味もなくタンデムする。
 そしてオークの首が落ちると同時に、御業の海がオークたちの足元へザバーンし夏のスイカよろしく首がオークたちの足元に転がった。
 オークたちがヒェッとしている間に、芙蓉を乗せた氷結の槍騎兵はオークたちの頭上へ侵攻し……その頭上をどかどかと走り去る。走り去るついでに御業の海が凍り付く。
「乙女心を刃にのせて、舞ってみましょうこの一戦」
 芙蓉の技でグワーとなっているオークの1体へ、コマキは魔力で作り出した斧を叩きこむ。
 魔力で作られた斧は竜由来の魔力を秘め、その魔力は星のように煌めき、妖精由来の魔力は菫のように匂やかだ。斧を叩きこまれたオークは文字通り消し飛び、その跡は薄紫にキラキラしていた。
「太陽を喰らった魔狼の咢、味わってけよ」
 そんなキラキラを見てわーと楽しそうに笑うコマキにオークたちはギョッとしているが、その逆側からもトナカイが近づいていた。
 トナカイは両手を牙のように咬み合わせてオークの体に喰らいつくと、喰らいつかれたオークはあっという間に熱を奪われ凍り付き……1秒も待たずに全身氷漬けとなった。
「雷の如く翔け、飛燕の様に儚き武……人に夢がある限り、この爪を奮うことを御許しあれ」
 氷漬けになったオークが砂のように消滅していく中、闇虎はオークとの間に無数の刀剣を呼び出す。
 それからオークへ向かって駆けながら闇虎は獣人の姿へと変わり、呼び出した刀剣を拾い切り上げ、拾い薙ぎ払う。猛獣がまるで鋭き爪を奮うかのようなその姿の前にオークは成すすべ無く肉塊へと変わった。
「オレ、オッパイ、ナイオンナ、ダイチュキ」
「ありがとうございます。死んでください」
 そして最後に残ったオークが苦し紛れかそんなことを口走るも、笑顔のままに近づいた樒のシャドウリッパーであっさりと首の骨をへし折られた。

「あのねえ、聖夜はターキーやチキンを食べる日であって、豚肉は呼んでないのよ!」
「コマキ、豚のロッカー詰めは食べられないわ」
 呼んでないのよと言いつつロッカーにオークの残骸を詰め込んでいるコマキに、芙蓉がもっともな突っ込みを入れる。
「終わり、ですね」
 そんなコマキたちを眺めつつ、首の骨をへし折ったオークを放り捨てると、樒は心なし晴れやかな声で終了を宣言する。なんとも失礼なオークたちであったが、キャストの女性たちも全員無事に避難することができ、ケルベロスの完全勝利と言える状況だろう。
 心に色々傷を負った気もするけれど、結果良ければ全て良しである。
 それもそうねと樒に頷き……そういえばと芙蓉は大樹の姿を探す。サンタを狩るとサンタ協会からの報復がおヤバいのだ。そこは警告しなければなるまいと。
「この極上のもふもふ、もうたまらないにゃ」
 探してみたところ、犬はすでにレッサーパンダの子に捕まっていた。もふもふにゃーと抱き上げられた上にもふり頬ずりされ、虫の息だった。
「男って本当、コスプレが好きよね」
 そしてさらに、妙にサンタっぽい衣装に興味を示していたし大樹も好きなのかしらと月音が話しかけ……狩りではなくお持ち帰りしてみる? なんて問うたから大変だ。変なところから血を流し始めた。
「折角だし着てみて――」
 そんな犬と一緒に一緒のサンタっぽい衣装を着て写真を……と言おうとした月音だが、唐突にトナカイが月音と雨音の間に入った。そして有無も言わさず犬を回収すると、そのまま夜の街へと走り去っていった。
 手持無沙汰になり、あららという顔をしている雨音と月音を見て、芙蓉はフォフォフォと笑う。今日はクリスマス、トナカイさんは忙しいのじゃと。

「おさけのみたい」
 それから更衣室を片付けた後、そう言って伽はふらふらとお店の方へ歩いて行き、
「サンタコスのお姉さんたちに、抱っこされに行ってくるぜ!!」
 伽の後を追うように、良い笑顔で宣言した闇虎が動物に変身してお店の方へ走っていったのだった。

作者:八幡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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