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色とりどりのイルミネーションがきらきらと輝き、町はより一層クリスマスムードになっている。
仲睦まじく歩く恋人たち、家族連れなど多くの人々がそこかしこを行き交っている。
広場の真ん中に大きなクリスマスツリーがあり、そこを待ち合わせ場所に指定する人々が多いのか付近には人がごった返している。
「ごめん!メイクに時間かかっちゃって!待った?」
「い、いや!俺も今きたところ……」
そんな会話がどこかから聞こえてきた……その時だ。
ズン!と大きな音が周囲に響いたかと思えば、ほぼ同時に人々の悲鳴があがる。
クリスマスツリーのすぐ傍に、巨大な牙が突き刺さる。その牙が、鎧兜をまとった竜牙兵へと姿を変えた。
「オマエたちの、グラビティ・チェインをヨコセ」
「オマエたちがワレらにムケタ、ゾウオとキョゼツは、ドラゴンサマのカテとナル」
竜牙兵は、そう言うと、周囲の人々を無差別に殺戮し始めた。
聖なる夜が、血塗れの夜となってしまうのだった。
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「クリスマスで賑わうデートスポットに、竜牙兵が現れ人々を殺戮することが予知されました」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が予知された事件について告げる。
「竜牙兵が出現する前に周囲に避難勧告をしてしまうと、竜牙兵は他の場所に出現し、被害が大きくなってしまいます。そこでヘリオンで急行し、事件を阻止していただきたいのです」
ケルベロスたちが戦場に到着した後は、避難誘導は警察などに任せることができる。
「避難誘導については警察などにお任せして、皆さんは竜牙兵を撃破することに集中してください」
続いてセリカは竜牙兵についての情報を伝える。
「出現する竜牙兵の数は3体です。3体のうち1体が『ゾディアックソード』を装備しており、2体が『簒奪者の鎌』を装備しています」
ケルベロスとの戦闘が始まった後は竜牙兵が撤退することはない。
「数は少ないですが、1体1体はケルベロスと同等の強さです。油断せず、挑んでください」
「どうか人々が聖なる夜を穏やかに過ごせるよう、討伐をお願いいたします」
セリカはケルベロスたちに一度深々と頭を下げた。
参加者 | |
---|---|
ティアン・バ(マリンスノー・e00040) |
サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394) |
タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641) |
プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432) |
フィーラ・ヘドルンド(四番目・e32471) |
八久弦・紫々彦(雪映しの雅客・e40443) |
終夜・帷(忍天狗・e46162) |
不知火・妖華(夕焼けの魔剣・e65242) |
●夜の街に煌めくイルミネーション
夜の街にイルミネーションがきらきらと輝き、それぞれの電飾が己が最も美しいのだと主張する。
行き交う人々は、白い息を吐きながらいつもより浮ついた雰囲気を醸し出しているような気がした。
駅の方角から、クリスマスツリーへ向かって走ってくる少女の姿。
少女はきょろきょろと周囲を見回した後、探していた人物を見つけるとぱあっと笑顔になり、その人物のもとへと駆け寄った。
「ごめん!メイクに時間かかっちゃって!待った?」
「い、いや!俺も今きたところ……」
ズン!と大きな音が周囲に響いたかと思えば、ほぼ同時に人々の悲鳴があがる。
クリスマスツリーのすぐ傍に、巨大な牙が突き刺さる。
その牙が、鎧兜をまとった竜牙兵へと姿を変えた。
「オマエたちの、グラビティ・チェインをヨコセ」
「オマエたちがワレらにムケタ、ゾウオとキョゼツは、ドラゴンサマのカテとナル」
人々の悲鳴と、竜牙兵たちの下卑た笑い声が広場に響く。
「よっ! おさみしいクリスマスに花を添えたりに来ましたよ」
サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)が竜牙兵たちに向かって声をかける。
「!?」
「ほぉら綺麗」
竜牙兵たちが口を開く前に、サイガは詠唱する。
翳す手ひとつで『気』に干渉するサイガの神経攻撃『絲裁』をまともに喰らった竜牙兵は、動きが鈍くなったように見えた。
「皆さん、落ち着いて避難してくださいね」
慌てふためく人々を落ち着かせるように、隣人力を上手く使用しながら不知火・妖華(夕焼けの魔剣・e65242)が駆け付けた警察官に避難誘導を任せる。
「聖なる夜でも、竜牙兵の脅威は相変わらず、ですね」
妖華は警察官に誘導され避難していく一般人たちを見送りながら、ぽつりと呟く。
「避難誘導は任せて大丈夫そうだね、早く倒して脅威を取り除くよ」
プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)がその妖艶な瞳をちらりと警察官に向けて言う。
言葉ひとつひとつにもどこか艶やかさを感じてしまうのは、彼女がサキュバスだからなのだろうか。
「イイ夢見せてあげる」
黒色の魔力弾がゾディアックソードを装備している竜牙兵に命中する。
「ガッ……」
残念ながらイイ夢を見ることは叶わなかったのだろう。
竜牙兵が苦しげな声をあげる。
「狙うならこっちを狙うといい。憎悪も拒絶もティアンがもっている」
ティアン・バ(マリンスノー・e00040)が憎悪と拒絶の入り混じった瞳を竜牙兵に向けながら言う。
「イマイマしい……!」
竜牙兵は恨めしげに言葉を零す。
ティアンは出来る限りツリーやイルミネーションを壊さぬように注意しながら、リボルバー銃のmonoを引き抜くと目にも止まらぬ速さで弾丸を放った。
ズガンという命中音。
人々が避難し終わり、竜牙兵とケルベロスたちだけとなったそのデートスポットで戦いの火蓋は切られた。
しんと静かになってしまったその場所ではイルミネーションだけが変わらず輝いているのであった。
●メリークリスマス
とある雑誌にはデートスポットとして取り上げられていたその広場は、クリスマスとは思えないほどにしんと静まり返っている。
冬特有の冷たい空気が流れ、緊張感でその場の雰囲気はピリピリしているようにも感じられた。
終夜・帷(忍天狗・e46162)は静かに螺旋手裏剣を構える。
ケルベロスたちに反撃しようと動く竜牙兵たちに、大量に分裂した螺旋手裏剣の雨が降り注ぐ。
「グ……」
呻き声のようなくぐもった声が竜牙兵から漏れる。
帷はその竜牙兵たちの様子を一体一体冷静に観察しながら、撃破するためにはあと何発か攻撃を与えなければならないなと考えていた。
その予想通り、攻撃を受けた竜牙兵たちにはまだ余裕があるように見えた。
「グラビティチェインは渡せないな」
本能の赴くままに動く竜牙兵たちを視界に入れながら、八久弦・紫々彦(雪映しの雅客・e40443)が独り言ちる。
その立ち振る舞いからは堂々とした大人の余裕というものを感じる。
「フン! オマエたちもミナゴロシだ……!」
一体の竜牙兵が叫び、走り出す。手に持った鎌を、妖華に向かって振り下ろした。
ザン!
空気を切るような音と共に、妖華の白い肌に赤い血が滲む。
「っ……!」
傷口からじわりと滲む赤色、じくじくと傷口が熱くなる。
(「これもケルベロスの仕事……! 頑張らなくてはなりませんね」)
斬りつけられた傷口を押さえながら、妖華は心の中で自分自身に言い聞かせる。
その瞬間に、先ほどの竜牙兵と同時に動いていた竜牙兵が妖華に斬りかかろうとした。
「危ない……!」
既に傷を負っている妖華を庇うように、ティアンが飛び出した。
狙いとは違う獲物が飛び出してきたせいもあってか、竜牙兵の攻撃はティアンにそれほど痛手を負わせることは叶わなかった。
竜牙兵たちは、妖華を集中砲火するつもりであったのだろう。
その挙動に注意を払っていたティアンは、竜牙兵たちの考えを予想することが出来た。
「ティアンさん……!」
「これくらい、平気だ」
ティアンがじろりと睨むと、竜牙兵はさっと後ろに下がり二人から距離をとった。
「妖華さん大丈夫ですか、緊急手術を施術しますね」
竜牙兵が仲間から離れたのを確認すると、タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)が妖華のもとへと駆け寄っていく。
そして、魔術切開とショック打撃を伴う強引な緊急手術によって妖華を回復させる。
タキオンの回復により、妖華の傷は癒えてゆく。
「せっかくのすてきな夜の、じゃまをしたら、だめ」
フィーラ・ヘドルンド(四番目・e32471)が幼子の様に言う。
ゆったりとしたように見えるが、無駄のない動きでフィーラは竜牙兵を捉える。
フィーラが掌からドラゴンの幻影を放ち、竜牙兵を焼き捨てていった。
「ギャッ!」
集中的に攻撃を受けた竜牙兵が短く悲鳴をあげる。
「その動き、封じます……封魔剣!」
妖華が魔力を帯びた剣を媒介とし、糸状の霊気を放って竜牙兵を絡み取ると仲間に目配せをする。
「ティアン!」
サイガが、腐れ縁のティアンの名前を呼ぶ。
その声に反応し、ティアンはこくりと頷いた。
「メリークリスマス!」
サイガとティアンが、呼吸を合わせ竜牙兵たちをぶち抜いた。
叩き潰され、弾丸で撃ち抜かれた竜牙兵の一体が膝から崩れ落ちていく。
「まずは一体……といったところですね」
タキオンが眼鏡を押し上げて、仲間を鼓舞するように言う。
ケルベロスたちはその言葉に呼応するように、こくりと頷いた。
●ホワイトクリスマス
プランが氷河期の精霊を召喚し、竜牙兵たちを氷に閉ざす。
その吹雪が、辺りを白く染めていく。
「ホワイトクリスマスだね」
口元に指をあて、にっこりとプランは微笑んでみせる。
妖艶に微笑むその姿はまるで雪の女王のようだった。
氷漬けにされた竜牙兵たちは、まるでプランの美しさにまるで骨抜きにされてしまったかのようにその場に立ち尽くす。
骨しかない竜牙兵たちが文字通り骨抜きにされてしまったら、彼らのアイデンティティは失われてしまったも同然であろう。
帷は竜牙兵の隙を見ながら、静かに動く。
相手の一瞬の隙を見抜き、素早く先手を打つ。
「ギッ……!?」
忍者刀の鋭い切先が、竜牙兵の急所を貫いた。
帷にほんの一瞬の隙を突かれた竜牙兵は、たった今起きたことが理解できていなかったのか素っ頓狂な声をあげている。
その間の抜けた姿を帷は一瞥しながら、この個体はそこまで永くないだろうとゆっくりと息を吐いた。
そして、帷は己が信頼をしている紫々彦を見やる。
「……ああ、そういうことか」
帷の視線の意味を理解した紫々彦は、ふっと笑ってみせた。
その瞬間、冷たい風が吹き荒れ始め激しく霰が降り出す。
「白魔よ、吹き荒れろ」
激しく振り出した霰は白い渦となり、荒れ狂う獣に変化した。
鋭い冷気と氷の粒を纏った獣は、呻き吠えながら弱った竜牙兵に襲い掛かる。
「ギャアア!」
竜牙兵の苦しむ叫び声が広場に響く。
その苦しみもがくような断末魔を最後に、竜牙兵は地に堕ちていった。
最後の一体となった竜牙兵が、サイガに向かって走ってくる。
「地獄の底までよろしくしてろ」
キィン……!
竜牙兵の攻撃をサイガは自身の武器で受ける。
武器から伝わる衝撃にジンジンと腕が痺れるような感覚になる。
「癒しの雨よ、皆を助けてあげて下さい!」
先の戦闘で傷などを受けてしまった仲間たちを確認していたタキオンが、薬液の雨を戦場に降らせる。
その雨は、傷ついた仲間たちを癒すように流れ落ちていく。
「ん、大丈夫、すぐ、おわるから」
フィーラが掌からドラゴンの幻影を放ち、竜牙兵を焼き捨てる。
ごうごうと音をたてて焼かれていく竜牙兵は、やがてゆっくりと崩れ落ち消えていくのであった。
ようやく終わったのだと、ケルベロスたちは思った。
緊張の糸が緩み始めた頃、ふわふわと白い雪が降り始めた。
「あ……ゆき……」
フィーラの手のひらに、真っ白な雪が落ちて、すぐに溶けてしまった。
平穏を取り戻したその場所に、再びクリスマスソングが流れ始めた。
●聖なる夜に、誓いを
戦闘により、荒れてしまった箇所をケルベロスたちがヒールしていく。
完全な元通りといかずとも、平穏が訪れたその場所には自然と人々が戻ってくる。
恋人たちや家族、友人など様々な関係の人々が思い思いのクリスマスを楽しんでいる。
「よかった……皆さん何もなかったように楽しまれていて」
「そうですね、頑張った甲斐がありましたね」
タキオンと妖華は、各々のクリスマスを楽しむ人々を眺めながら微笑むのだった。
「こんなところに……随分素敵なアクセサリーショップがあるのね」
雪をモチーフにした可愛らしいアクセサリーが置いてあるショップに足を止め、プランは商品を眺める。
キラキラと輝くそれを手に取れば、奥に立っていた女性店員がうっとりとプランを見つめていた。
美しすぎるのも、罪なのかもしれない。
フィーラは、イルミネーションが綺麗に見える広場でほっと一息ついていた。
(「無事にすんでよかった」)
心の中でそう呟きながら、きらきらと輝くイルミネーションとその光に照らされる白い雪を瞳を輝かせながら見つめているのであった。
ティアンは人混みから少し離れたところでデジタルカメラを持って、イルミネーションの写真を撮る。
道行く人々の笑顔の眩しさも、カメラ越しにその瞳に映す。
(「聖夜を過ごす誰もかれもが幸あるように」)
心の中で、そう願いながら。
今日はホワイトクリスマス。
どうか全ての者にとって、素敵な一日となりますように。
作者:黄昏やちよ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年1月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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