熱風、烈風、熱暴走!

作者:雷紋寺音弥

●真冬の熱帯夜
 その日は真冬にしては、妙に暖かい夜だった。
 否、暖かいというよりも、むしろ真夏のように蒸し暑い。どう考えても、異常気象だ。そんな愚痴を零しながら、テンペスタ・シェイクスピア(究極レプリカントキック・e00991)は夜風にでも当たろうと、建物の屋上へと歩を進めていた。
「まったく……なんなんだ、この暑さは。これじゃまるで、真夏に逆戻りしたような……!?」
 そこまで言って、テンペスタは屋上に佇んでいる、コートの女に目が留まった。
「何だ、あの女は……?」
 真冬だというのに、コートの下は薄着の軽装。だが、それ以上に凄まじいのは、目の前の女より発せられる圧倒的な熱気だ。
「ようやく獲物が現れたか。正直、待ちくたびれたぜ」
 女の口元が、笑みの形に歪んだ。バイザーのような物の奥で、赤い瞳が怪しく光る。
「こいつはダモクレスか……。だが、しかし……この熱気は……?」
 女の足元から立ち上る白い煙。そして、近寄るだけで焦がされそうになる凄まじい熱波。それらを隠すこともなしに、女はコートに手を掛けて。
「お前、ケルベロスだろ? だったら、アタシと戦いな」
 それだけ言って、躊躇うことなくコートを脱ぎ捨てる。瞬間、今までにない熱風が辺りを焦がし、女から発せられた熱気だけで、目の前の空気が熱せられて視界が歪んだ。
「悪いな。冷却コートを脱いじまったから、もうアタシにも止められねぇんだ。大人しく、丸焦げのローストチキンになっちまいな!」
「言ってくれるな。だが、私とて、そう簡単にやられるつもりはない!」
 こうなれば、細かいことは後回し。眼前に迫る灼熱の機人を迎え撃つべく、テンペスタもまた武器を構え、熱気の渦巻く中心へと突撃して行った。

●F型実験体、現る
「召集に応じてくれ、感謝する。テンペスタ・シェイクスピアが、ビルの屋上で宿敵であるデウスエクスの襲撃を受けることが予知された」
 至急、現場に向かい、彼女を援護して欲しい。そう言って、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)は集まったケルベロス達に、自らの垣間見た予知について語り始めた。
「テンペスタを狙って現れる敵の名前はオラージュ・フレイム。アンドロイド型のダモクレスで、炎を操ることを得意としているようだな」
 もっとも、強過ぎる火力は本人にとっても制御が難しいようで、平時は冷却コートで熱暴走を防いでいる。それでも、いるだけで周囲の温度を上昇させる程に、敵の体温は高いのだとか。
「敵の武器は、手から発射する超高熱の火炎だ。それ以外に芸はないが、とにかく攻撃力が高い。油断していると、あっという間に丸焦げにされて、そのまま戦闘不能にされてしまうだろうな」
 オーラジュ・フレイムの繰り出すグラビティは敵を火達磨にするだけでなく、炎を媒介に相手のエネルギーを奪うこともできる。間合いを問わずに攻撃を繰り出せる上に、元の威力も高いため、下手に持久戦を挑めば却って追い込まれかねない。
 戦場となる場所に一般人の姿はなく、戦いに専念できることが唯一の幸いだ。もっとも、敵の火力を考慮すると、周囲の障害物に何の被害もなく戦いを終えるのは難しそうだが。
「今から行けば、テンペスタがオラージュ・フレイムと接触した直後に介入できるぜ。相手は最初から、手加減なしのフル火力で挑んでくるからな。熱気にやられて、冷静な判断力を失わないよう気をつけろ」
 高い火力を誇りつつ、スタンドアローンでの戦闘にも長けた厄介な相手だ。それらを踏まえた上で、しっかりと対策を練って挑んで欲しい。
 最後に、それだけ言って、クロートは改めてケルベロス達に依頼した。


参加者
テンペスタ・シェイクスピア(究極レプリカントキック・e00991)
ムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)
ルティアーナ・アキツモリ(秋津守之神薙・e05342)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
八久弦・紫々彦(雪映しの雅客・e40443)
星乃宮・紫(スターパープル・e42472)
終夜・帷(忍天狗・e46162)
 

■リプレイ

●灼熱の冬
 真冬の風が熱風に変わる。屋上に設置された室外機から排出される空気など比べ物にならない。冷却コートを脱いだ今、オラージュ・フレイムの熱暴走は、彼女自身にも止められない。
「真冬なのに、真夏日とかあったのこいつのせいか!?」
「さぁて、どうだろうね? そんなことより、アタシは気が短いんだ。御託ならべてないで、さっさとかかってきな!」
 もしくは、尻尾を巻いて逃げ出すか。ダモクレスらしからぬ挑発的な言動を繰り返すオラージュ・フレイムを前にして、テンペスタ・シェイクスピア(究極レプリカントキック・e00991)も覚悟を決めた。
「いいだろう。それほどまでに戦いたいと言うのであれば、私が相手になってやる」
 ここで背を向け、逃げ出したところで、敵が見逃してくれる保証などない。実力の差は、百も承知。ならば、最初から下手に小細工などせず、正面から相手に挑むのみ。
「貴様が炎の掌なら、私は氷の杭!! 喰らえ、イガルカストライク!!」
「ハッ……! その程度の氷で、アタシを冷やそうっていうのかい?」
 対するオラージュ・フレイムも、燃える拳で迎撃してきた。
 激突する杭と拳。しかし、やはり勢いでは相手の方が上なのか、反動でテンペスタが吹き飛ばされた。
「くっ……まだだ!」
 咄嗟に杭を向ける先を敵から床へと変え、テンペスタは強引に屋上の床へ金属杭と突き立てて踏み止まろうと試みる。フェンスに激突したことでようやく止まり、ふと後ろに目をやってみれば、柵が歪な形に歪んでいた。
 予想はしていたが、それにしても凄まじいパワーだ。炎だから、冷やせば効果があると思っていたが、甘かった。敵の放つ圧倒的な熱量を前にしては、確実に直撃を食らわせなければ、こちらの方が反対に燃やされる。
「つまんねー相手だな。こんなんじゃ、満足にデータ取る前に黒焦げにしちまいそうだ」
 既にテンペスタへの興味も失ったのか、オラージュ・フレイムは早々に止めを刺す体勢に入った。だが、再び放たれた炎の拳がテンペスタの身体を焼こうとした瞬間、その一撃は突如として割り込んで来た、屈強な肉体によって遮られた。
「火を扱うのが自慢か、ならまずは俺を焼き尽くしてみせるといい」
 もっとも、この程度の火力では不可能だと、ムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)は自らの胸筋で拳を受け止め弾き返し。
「はーっはっはっは! どうやら手こずってるようですね、テンペスタさん!」
「大丈夫!? 助けに来たわ!!」
 ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)と星乃宮・紫(スターパープル・e42472)の二人も、颯爽と上空から現れる。が、真冬にも関わらず、周囲はオラージュ・フレイムの放つ熱気によって、常夏の海より酷い温度になっており。
「私が来れば百人力! ありがたく思うといいので……って、あっぢぃいいい……!」
 着ていた上着を全て脱ぎ捨て、ミリムはげっそりと項垂れた。
 いったい、これは何の罰ゲームだろう。それとも、真冬恒例の我慢大会か何かだろうか。
「寒空の下、暖かいのは歓迎だが……」
「冬場に熱風は勘弁願いたい……」
 終夜・帷(忍天狗・e46162)も八久弦・紫々彦(雪映しの雅客・e40443)も、辟易した様子で呟いた。何もせずとも額から汗が流れ落ちて来る時点で、その暑さが想像できるというものだ。
「はた迷惑にもほどがあるわ! そういうのは、もっと寒冷地域行け! 欲しがる者もおろうて!」
 もはや、歩く天災以外の何者でもないと、ルティアーナ・アキツモリ(秋津守之神薙・e05342)は完全にブチ切れながら、防御の鎖を広げて行く。
「増援か……コイツは、少し面白くなって来たぜ。アタシの炎が鎮まるまで、お前達で試し焼きのデータを取らせてもらおうか!」
 再び炎が燃え上がり、周囲の温度が更に上がった。オラージュ・フレイムの掌から放たれた炎は瞬く間に周囲へと燃え広がり、戦場は一瞬にして灼熱の地獄と化した。

●荒ぶる焔
 真夏の太陽さながらに、自らの熱気を余すところなく放出するオラージュ・フレイム。紅蓮の炎は触れただけで瞬く間に燃え広がり、果ては絡み付いて体力を奪う。
「どうした、番犬ども? 言っておくが、このモードになったアタシは、お前達を燃やし尽くすまで止まらねぇぜ?」
「止まれない、ね……。いいや止まれるさ。俺たちが無理やりでも止めてやる!」
 放たれる炎をその身で受け、ムギは敵の攻撃から仲間達を庇う。だが、攻撃を受け止められたにも関わらず、オラージュ・フレイムは余裕の態度を崩さなかった。
「ハッ……! そんなに肉壁になりてぇなら、アタシが焼肉にして食ってやるよ!」
 その言葉と同時に、ムギに絡みついた炎が、彼の身体から恐ろしい程の速度で生命力を奪って行く。ダモクレスでありながら、しかし魔術に近い攻撃を繰り出すことで、オラージュ・フレイムはムギの纏っている鬼衣の防御を突破した。
「……っ!?」
 思わず顔を顰めるムギ。先程から、敵は絶妙のタイミングで、体力を吸収する炎を繰り出してくる。元の火力が高いことも相俟って、奪われる体力もまた大きい。ヒールに閊えるグラビティを一切保持していないオラージュ・フレイムではあったが、継戦能力は馬鹿にできない。
「この程度で、俺の筋肉を破壊できると思わないことだ!」
 気合で負傷を吹き飛ばし、ムギは再び仲間達の盾として立ち上がる。だが、単に耐え続けているだけでは、今に押し切られてしまうだろう。
「……暑いのは嫌いなんだ、さっさと終わらせよう」
「行くわよ! パープルソードキック!」
 入れ替わるように紫々彦と紫の蹴りが炸裂したが、それでもオラージュ・フレイムは、何ら動ずる素振りさえ見せなかった。
「アタシの動きを止めようってのか? だが……その程度で、勝った気にならねぇことだな!」
 効いていないわけではない。単純に、敵の力が強過ぎるだけだ。そもそも、攻撃に特化したオラージュ・フレイムにとっては、多少のダメージなど気にする必要もないものなのかもしれない。
「逃げ場をなくす、合わせよっ!」
「うぅ……は、早く終わらせて帰りたいです……」
 ルティアーナとミリムの二人が、挟み込むような形で不可視の球体を発射した。触れただけで、全ての物質を削り取る虚無の弾丸。どれだけ防御を固め、どれだけ素早く逃げ回ろうと関係ない。あらゆる物質を対消滅させる魔法球の前には、防御などさしたる意味もなさない。
「……チッ! 味な真似しやがって……」
 さすがに、これの直撃を受けるのは拙いと察したのか、オラージュ・フレイムは敢えて着弾点をずらすことで、二人の攻撃を受け切った。
 だが、その程度のことは、ケルベロス達も計算済みだ。追尾性能の高い技は、あくまで牽制用に過ぎないもの。目の前の攻撃に意識を集中させ過ぎれば、その分だけ足元が疎かになるのは自明の理。
「……しまっ!?」
 真正面から、帷の視線に射抜かれた。それをオラージュ・フレイムが察した時には、既に遅かった。
 極限まで意識を集中させ、敵の着地する瞬間を狙って爆破する。ダメージこそ大きくはないものの、爆風によってオラージュ・フレイムの身体を包んでいた炎と熱気が吹き飛ばされた。
 口元の汚れを拭い、再びヒートアップしようと身体を燃やすオラージュ・フレイム。しかし、その熱が広がることは決してない。
「アタシの炎を吹っ飛ばすとはね。やってくれるじゃ……っ!?」
「今度は逃がさんぞ……。貴様の身体……芯まで冷やして砕いてくれる!」
 いつの間にか背後に回り込んだテンペスタが、鉄杭でオラージュ・フレイムの右肩を貫いていた。
「右半身温度低下……戦闘継続に支障はねぇが……」
 バイザーの奥で光る赤い光が、不規則に点滅し、揺れていた。
 溶かそうにも溶かすことのできない氷。ほんの一撃に過ぎなかったが、戦いの流れは微かにケルベロス達の方へと傾き始めていた。

●究極の必殺技!
 炎を払われ、右肩を凍らせられてからも、オラージュ・フレイムは強かった。
 元より、攻撃力に特化したダモクレスだ。こういう敵は一気呵成に攻めて短期決戦で倒すのがセオリーだが、しかしケルベロス達は火力の面で、完全にオラージュ・フレイムに劣っていた。
 足を止め、動きを封じ、そこまでは良い。しかし、問題なのは瞬間火力。敵が炎を使って体力を吸収してくることを考えると、それを大幅に上回るダメージを与えられねば、どうしても持久戦をせざるを得ない。
 せめて、猛毒で相手を内部から腐食させるか、あるいは装甲を破るための技を持って来ていれば、あるいは結果が少しは違っただろうか。
「雪しまき、呑まれて消える人影よ……」
「逃がさないわよ! パープルビーム!」
 紫々彦が吹雪を呼んで敵の足元を固めたところで、紫が呪弾により自由を奪う。しかし、それらの直撃を受けているにも関わらず、オラージュ・フレイムは未だ倒れる素振りさえ見せず。
「いい加減、鬱陶しいぜ! 今のアタシは、核爆弾でも止まらねぇ!!」
 雪に足を取られ、回路の一部を遮断されているにも関わらず、繰り出す炎は相変わらずの業炎だ。長引く戦いによって威力こそ当初よりも落ちているが、それでも脅威であることに変わりはなく。
「面倒だ! お前達、全員纏めて消し炭にしてやる!」
 バイザーの奥で光る赤い瞳が、ケルベロス達の姿を照準に捉えた。放たれる炎は全てを飲み込む紅蓮の奔流となって、怒涛の様に襲い掛かるが。
「やらせん! 筋肉全開、筋肉旋風を見せてやる!」
 再びムギが正面に立ちはだかったことで、全ての炎は彼の身体に集約される形で、燃え広がることは決してなかった。
「まずは一人、丸焼きってところか?」
 焔に包まれ、倒れ伏したムギの姿を見て、オラージュ・フレイムは満足そうな笑みを浮かべる。だが、次の瞬間、その表情は直ぐに消え、歯噛みするような顔へと変わっていった。
「……言っただろう、まずは俺を焼き尽くしてみろとな……。俺はまだ、生きているぞ……」
 全身を焼かれ、炎に包まれながらも、ムギはゆっくりと立ち上がる。
 生きていられるはずがない。全身を炎に包まれた生物は、例外なく肉体機能に致命的な障害を負って死亡するはず。ましてや、それがケルベロスにも効果のあるグラビティによるものであれば、見た目の損傷だけでは済まないはず。
「くそっ……どうなってやがる……」
 予想外に事態に、オラージュ・フレイムは慌てて演算の修正を行った。ムギの身体を覆っている炎。その温度や性質、全てを瞬時に分析したところで、彼女もまた気付いたのだろう。
「……その炎は!?」
「俺の炎とお前の炎、どちらが上か示そうか? 我が心臓よ燃え上がれ、炎を喰らう魔炎となりて敵を討たん……」
 胸元に赤い紋様が浮かび上がると同時に、ムギの手にした刃に全ての炎が集約されて行く。彼の身体を包んでいた焔。それは他でもない、彼の心臓より溢れ出す、地獄の業火に他ならなかったのだ。
 こいつは拙い。そう判断し、身を引こうとした時は既に遅かった。
「……くっ! この程度の熱量で、アタシを止めようなんざ……」
 避ける暇もなく、ムギの繰り出した一撃を、オラージュ・フレイムは片手で受け止める。しかし、衝撃までは完全に殺せなかったのか、黒い腕甲に亀裂が走り。
「大元帥が御名を借りて、今ここに破邪の劔を顕現せしめん! 汝、人に災いを為すものよ。疾くこの現世より去りて在るべき常世へと赴け!」
 凍結した右半身を狙い、ルティアーナが三鈷剣による一撃を叩き込んだ。
「……なっ! ば、馬鹿な!」
 氷と鋼の砕け散る音が周囲に響く。極端な温度変化によって、脆くなった場所に攻撃を受ければ、いかに強靭な装甲とて破砕することは可能だ。
「くそっ! ここは一度、距離を取って……」
 接近戦は不利と判断してか、オラージュ・フレイムはムギやルティアーナから距離を取るべく後退した。しかし、ここで彼女を逃がすケルベロス達ではない。
「オーライ、オーライ……ファイア!」
 待ち構えていたかのように、ミリムが衛星兵器から光と魔力の奔流によるピンポイント射撃!
 降り注ぐ魔光を真上から受け、オラージュ・フレイムの身体を覆う擬態皮膚さえも燃えて行き。
「グ……計算外、ダ……。アタシガ……ココマデ……」
 全身から煙を発するオラージュ・フレイムの姿は、既に大半の装甲や擬態皮膚を損傷し、内部の骨格が剥き出しになっていた。発生システムまで損傷したのか、声もまた随分とノイズの混ざったものになっており。
「……ガっ!?」
 瞬間、後ろから帷に刺されたことで、オラージュ・フレイムの胸元から火花が溢れた。
 最後は、そちらで仕留めるがいい。目線で合図する帷に、テンペスタもまた頷き跳躍する。排水管を蹴り飛ばし、その反動で身体を空中で幾度も捻り。
「あれは……テンペスタさん、必殺の!?」
「いけー! レプリカントキック!」
 見上げる紫と、応援するミリムの声を受け、テンペスタの脚がオラージュ・フレイム目掛けて炸裂した。
「サ、サセル……カァッ……!!」
 両手から噴き出す炎で、オラージュ・フレイムはテンペスタの蹴りを相殺せんと試みる。しかし、肉体の損傷も激しく、火力も著しく劣っている今の状態では、到底不可能な話だった。
「この蹴りは叫ぶのがお約束っ。究極っ!! レプリカントキック!!」
「ウ……ガァァァッ!!」
 炎を割るようにして切り裂くテンペスタの蹴りが、オラージュ・フレイムを粉砕する。熱暴走を続ける灼熱のダモクレスは、真冬の空の下、木っ端みじんに吹き飛んだ。

●灼熱の終焉
 戦いの終わった屋上には、再び冬の風が冷たい空気を運んでいた。
「まったく……女を殺すのは、どれだけ経っても慣れないな。は~いや、慣れない事にほっとすべきなのかね……」
 粉々に砕け散ったオラージュ・フレイムの残骸を前に、ムギはなんとも言えぬ微妙な心境になり、空を仰いだ。
「良かったです……本当に……」
 見れば、制服姿に戻った紫が、テンペスタの無事に安堵の溜息を吐いていた。
「今日のところは、貸し一個だな。礼としてなんでもするぜぃ」
 ただし、それはこの屋上の損傷を、全てヒールし終えた後になりそうだが。
 真冬の街に現れた、真夏の太陽の如きダモクレス。彼女の残した季節外れの爪痕を補修するのは、それなりの手間もかかりそうだと。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月30日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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