その剣技、もらい受ける!

作者:麻香水娜

●静かな冬の森
「…………」
 目を閉じ、精神を集中して周囲の気配を探る四方堂・幽梨(義狂剣鬼・e25168)は、カッと瞳を開くと瞬時に抜刀して風に舞う葉を斬る。
 斬られた葉が地に落ちると、スッと音もなく納刀した。
 自然の気配を感じ、風を読み、刀を走らせる。
 亡き師の教えを何度も胸に蘇らせながら。

 その時、自然の中に殺気混じりの気配を感じ、視線を鋭くした。

 ──キン!

 風を切る音を捉えた瞬間、納刀していた刀を瞬時に抜刀、自分に向かってきた金属の何かを弾く。

『ヒュ~! いいね! 見事な抜刀術! ますます欲しくなっちゃう!』
 幽梨が弾いた金属の何か──雪の結晶を思わせるような螺旋手裏剣を左手で取った少女が興奮気味に瞳を輝かせた。
「……誰……」
『誰でもいいでしょ? だってアンタはここで死んじゃうんだから!』

●救援要請
「まずい予知が見えました」
 眉間に皺を刻んだ祠崎・蒼梧(シャドウエルフのヘリオライダー・en0061)が口を開く。
「四方堂・幽梨さんがデウスエクスの襲撃を受けてしまうのです。急いで四方堂さんに連絡を取ろうとしたのですが、繋がらなく……」
 幽梨は静かな森林公園の一角で自己鍛錬をしていたらしい。
 彼女を襲撃するのは、零禍道・杏無という螺旋忍軍。様々な武技を集める目的で動いているようで、幽梨の剣技に目をつけ、狙ったようだ。
 武技を集めると言っても、師事して習得するわけではなく、殺害してその肉体に残る情報を読み取る何らかの手段を持っているものと考えられる。
 そうでなければ、いきなり襲いかかる理由がわからない。
「一刻の猶予もありません。急いで四方堂さんの救援に向かって下さい」
 時刻は16時すぎ。町はずれにある森林公園だ。
 春は花見、夏はキャンプやバーベキューと人も来るが、この時期は閑散としている。
 自然を感じながら自己鍛錬をするにはもってこいの場所だ。
 それ故に、周囲に人影はなく、一般人を巻き込む事はない。
「この螺旋忍軍は、螺旋手裏剣と攻性植物を装備していまして、螺旋忍者同様のグラビティを使います」
 可憐な少女に見えるが、小柄な体を活かして非常に俊敏な動きをするようです、と注意を促す。
「このままでは四方堂さんが危険です。どうか、彼女を救い、螺旋忍軍の思惑と共にその存在を撃破して下さい」


参加者
皇・絶華(影月・e04491)
八神・鎮紅(夢幻の色彩・e22875)
四方堂・幽梨(義狂剣鬼・e25168)
愛篠・桃恵(愛しの投影・e27956)
アシュリー・ハービンジャー(ヴァンガードメイデン・e33253)
加藤・光廣(焔色・e34936)
之武良・しおん(太子流降魔拳士・e41147)
深街・睦月(超テンションキーボーディスト・e62408)

■リプレイ

●間に合った!
『誰でもいいでしょ? だってアンタはここで死んじゃうんだから!』
 螺旋忍軍の少女が右腕の攻性植物を変形させる。
「……あぁ、そのツラ……零禍道か……」
 見覚えのある少女の顔に四方堂・幽梨(義狂剣鬼・e25168)が、うんざりしたように吐き捨てた。
『やっと思い出した? そう、ボクは零禍道・杏無だよ。ボロボロに傷つけて、たっぷり愛してから、それ、貰うね』
 杏無は、キラリと獲物を狙うように目を光らせる。
「アンタ、零禍道でも沫莉とは違うんだろう。恨みも何も無いよ。だが、アンタが零禍道である限り、同じ事をするだろうさ」
 やれやれと息を吐いた幽梨は腰を低く落として構えた。

「ゆりさん!」
 その時、緊迫した空気に深街・睦月(超テンションキーボーディスト・e62408)の声が響く。

 ──ブォンッ……キキー!

「『さきがけの騎士』アシュリー、助太刀させていただきます!」
 幽梨と杏無の間に、ライドキャリバーのラムレイに騎乗したアシュリー・ハービンジャー(ヴァンガードメイデン・e33253)が割り込んで、杏無に砲槍ロンゴミニアドを向けた。
「貴様の在り方は否定はしない。私もそうやって盗んだ技はあるからな」
 更に、アシュリーと共に幽梨を庇うように、皇・絶華(影月・e04491)が剣を構える。
「だが、幽梨の剣技は幽梨が受け継いだモンだ、お前さん如きには奪えんよ。ましてや、その手で扱おうなどとはおこがましいにも程がある」
 絶華の言葉を続けるように口を開いた加藤・光廣(焔色・e34936)も杏無を睨みつけた。
「間に合った!?  間に合ったよね!? ゆりさん生きてるよね!?」
 睦月が幽梨に駆け寄り、
「幽梨ちゃん無事?」
 共に駆け寄った愛篠・桃恵(愛しの投影・e27956)もその顔を覗き込む。
「……皆……どうして……」
 驚きに何度も目を瞬く幽梨の口から、ぼそりと漏れた。
 自分を中心に──守るように集まった仲間達。
「予知があったんです。だから皆で急いで来ました」
 八神・鎮紅(夢幻の色彩・e22875)が、武器を構えながらも、幽梨が無事であった事に小さく口元を緩める。
「何やら因縁のありそうな相手ですが……」
 之武良・しおん(太子流降魔拳士・e41147)は、薙刀を構えて杏無を見据え、ちらりと幽梨の様子を伺う。
「…………」
 幽梨はその言葉に、何から話すべきか迷っていると、
「次から次へと……」
 忌々しげに唇を噛み締めた杏無が、幽梨に向かって攻性植物をけしかけた。

●動きを止めろ!
「させんぞ!」
 蔦触手形態になって伸びる攻性植物が幽梨に辿り着く前に、光廣が体を割り込ませて腕を絡め取られる。
「ふん……っ!」
 そのまま引き寄せようと力を入れるも、攻性植物の拘束はすぐさま解かれ、勢い余って尻もちをついてしまった。
「技とは見切り修練して己の物とするもの」
 攻性植物が戻っていくのを追い越すスピードで迫った絶華が飛び蹴りを放つ。
『!!』
 杏無はギリギリのところで体を反転させながら後方へ飛び退いてかわしてしまった。
(「あたしを狙って……周りを傷つけて……」)
 杏無の動きをじっと観察しながら蘇る苦い記憶。
「あたしが四方堂である限り、それは変わんないんだろうねぇ」
 静かに口を開く幽梨は、一瞬にして気を張りつめさせ、緩やかな弧を描く斬撃を放つ。
『っぶなーッ!?』
 しかし、杏無はまたもや軽やかに刃から逃れてしまった。
(「動きをどうにかしないと」)
 火力の高い2人の攻撃が当たらないと話にならない。全員が同様に内心で歯ぎしりする。
「欲するものを欲するままに……其れは、恐らくヒトにも言える性と言うもの」
 静かに口を開いた鎮紅が、ちらりとアシュリーに視線を送った。
「なればこそ、制するものも在る。我侭な子供には、躾が必要ですし、ね?」
「Get Ready! Get Set! ──Go!!』
 狙いすました鎮紅の竜砲弾が見事に左脛に命中する。そこへ、ラムレイに騎乗したままのアシュリーが爆発的な加速をしながら突っ込み、手にした砲槍で右太腿を刺し貫いた。
「しおんさん!」
 加速の勢いのまま背後にあった樹木に縫い付け、叫ぶ。
「オンアニチマリシエイソワカ」
 その声に、しおんが摩利支天の加護を願うと、背後に日輪が浮かび上がった。一気に距離を詰めて薙刀『星薙ぎ』を振るう。
『……ッ』
 苦痛に顔を歪めた杏無は、見事な連携を決めた3人を忌々しげに睨みつけた。
「やってくれるのお……」
 体勢を立て直した光廣は、尻もちをついた時に握った砂を思い切りぶちまける。
『!?』
 砂がくるとは思っていなかった杏無は虚を突かれて一瞬目を瞑って、顔の前を手で払った。その時、腕に衝撃を感じて目を開けると地獄の炎弾が当たって、生命力を奪っている。
「回復は任せてなの!」
「みんな準備はいい? 体は温まってるよね? 最初からトップギアでいくよ!」
 桃恵が前衛に雷の壁を構築、更に睦月もショルダーキーボードで前衛に『紅瞳覚醒』を盛大に鳴らした。
「おお、助かったぞ」
 多少は奪い取った生命力で回復したとはいえ、みるみる傷が塞がれ、攻性植物に絡め取られた時に動かしづらくなっていた腕の万全の状態になった光廣が2人に笑顔を向ける。
『……ッ、こ、のくらいで……!』
 杏無は螺旋手裏剣を幽梨目掛けて放った。

●四方堂と零禍道
 執拗に幽梨を狙ってくる攻撃は、光廣とラムレイが必死に庇う。仲間達の攻撃で動きが鈍くなってきて、今度こそ避けさせない、と絶華は得意の剣術と足技を巧みに使って確実にダメージを蓄積させた。
 幽梨も庇ってくれる仲間のお陰で思い切り動く事ができ、鎮紅とアシュリーは正確な攻撃で確実に状態異常を与える。
 仲間達のお陰で攻撃がかわされなくなってきたしおんは、本領発揮と言わんばかりに体の自由を奪った。
 始めこそ余裕の表情だった杏無の顔は、次第に苦し気に歪められていく。傷だらけになった体が思うように動かなくなると、分身の幻影を纏って凌ごうとした。
 しかし、回復を重視しながらも時折投射される桃恵の殺神ウイルスと、味方の能力を上げるよう支援を重ねる睦月が破剣を付与させた攻撃は、思うように回復させてはくれない。
 数分が過ぎる頃には、杏無も殆ど動けずにかなり弱っていた。
 なんとか力を振り絞り、攻性植物を仕掛ける。
「幽梨には指一本触れさせんっ」
 しかし、今度も光廣に阻まれた。
「我が身……一の刃成り……彼の身に刻むのは鮮血の華……!」
 瞬時に接近した絶華が、すれ違いざまに超高速の斬撃を浴びせる。刀を鞘に納めた瞬間、杏無の全身から血の華が咲き乱れた。
『……ッ!!』
 杏無はがくりと片膝を折り、苦痛に歪む顔で幽梨を睨みつける。
「この斬滅四方堂、誰にも渡すわけにはいかないんだよ」
 強い視線を受け止め、それ以上に強い決意を言葉に乗せる幽梨は力を抜いた──ように見える程、緩慢に構え、伊吹により建機を練り上げた。
「抜き打つ……受けてみろ……!」
 裂帛の気合と共に納められていた刀を抜き打つ。剣気の乗った斬撃は明らかに剣の間合を超えて杏無を正面から斬りつけた。
『……────!!!!』

 ドサリ。

 正面からの強烈な一撃──手に入れたかった幽梨オリジナルの剣技によって、杏無は前のめりに倒れる。

「さよならアンナ……その名と生き様、四方堂が背負っていく」
 静かに納刀した幽梨が瞼を閉じた。

●色々考えるのは後にして
 杏無が倒れて幽梨の背を見つめる仲間達。
 万が一また動き出す事や、最後に何か仕掛けられている可能性だって皆無ではない。

 サァ──……。

 しかし、杏無の体が崩れ、吹き抜けた冷たい風が跡形もなく攫っていく。
 すると、桃恵の歌声が静かに流れだした。
(「せめて安らかに……僕のせめての手向けなの」)
 それはヴァルキュリアの鎮魂歌。
(「お休み……今度は強くなる方法を間違っちゃだめだよ」)
 想いの込められた歌声をその場の誰もが聞き入り、静かに黙祷を捧げる。

 歌が終わると、幽梨がくるりと振り返り、
「皆、ありがと」
 深々と頭を下げた。
 今度の友は守る必要が無いどころか、手を貸してくれる。なんと頼もしく、有難い事か。
「ゆりさん無事で良かった! 予知があってほんとに良かったよーっ」
 睦月が、しんみりし出した空気を和ませようと、幽梨に飛びついた。
「……っ、う、うん……」
 いきなり飛びつかれて少し呆気にとられながらも、睦月の背を優しくぽんぽんと叩く。
「四方堂さん、本当に無事でよかった」
 しおんも、にこりと微笑んだ。
「お疲れ様です。想う所は多々有るかと想いますが、一先ずは休む事も重要です」
「そうだね! もう暗いし寒いし、鍋でも食べて温まろうよ!」
 穏やかで優し気な鎮紅の言葉に、睦月が明るく提案する。
「いいですね。皆であったかいごはん!」
「ほう、いいのお。俺も混ぜてくれんかのう」
 声を弾ませたアシュリーの言葉に、光廣もにやり口端を上げて話に混ざった。
「僕も行っていい? お腹空いちゃった」
 静かで美しい歌声を響かせていた桃恵が、楽しそうな話題に笑顔で乗ってくる。
「絶華さんも……あれ? 絶華さん?」
 アシュリーが声をかけようとすると姿が見えなくなっていた絶華を探した。
(「この戦いは何らかの因果……ならば私が関わる事ではないのだろうからな」)
 自分を探している気配を背後に感じ取った絶華が、振り返りもせずに片手を軽く上げてそのまま闇に消えて行く。
 幽梨はその後ろ姿に、再び頭を下げた。感謝を込めて──。

作者:麻香水娜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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