クーリャの誕生日~星茫の木の下で

作者:澤見夜行

●星茫の木

 都内某所。
 お洒落な商店街の一角に立てられた一際大きなモミの木。
 飾り立てられたその木の頂点には星が輝き、ライトアップされたその様相はロマンチックなクリスマスを演出する。
 煌びやかな夜の光景に目を細めて見上げれば、きっと貴方の願いを叶えてくれるだろう。
 一年に一度の聖夜、星茫の木と一緒に夜空を見上げませんか?

「うん、これは素敵なのです」
「おや、どうしたんだいクーリャちゃん」
 ニッコリ満天笑顔で資料を見ていたクーリャに、訓練を終えたユズカ・リトラースとセニア・ストランジェが近寄る。
「ユズカさん、セニアさんも。
 実はもうすぐ私の誕生日なのです。今年もケルベロスの皆さんを誘おうと企画していたのですよ」
「ほう、誕生日か。
 それはさぞ素敵なことになるだろうな」
「今年はどんなことを考えているの?」
「ふふふ、私ももう十九歳。立派な大人なのです。食い意地を見せてる場合ではないのです。
 だからお洒落に都内にある大きなクリスマスツリーを見に行ければなと思っているのですよ」
 腰と頭に手を当て身をくねらせる様はセクシーさのカケラもないが、本人が鼻を高くしていうのだ、突っ込むことはやめて差し上げよう。
「ならば、私達も手伝おうか。
 招待状を渡すのにも人手がいるだろう?」
 セニアの提案に、クーリャはパッと顔を輝かせて、
「ありがとうなのです! 二人も当日は来て下さいなのです!」
 と、元気に言うのだった。


「と、言うわけで、クリスマス当日の夜、ゆっくりとクリスマスツリーを見に行きませんか?」
 招待状を手渡して、クーリャはニッコリそういった。
「一年、いろいろな事があったのです。
 その事を思い出すも良いし、仲の良い人とクリスマス当日を落ち着いて過ごすのもよいと思うのです。
 商店街にあるクリスマスツリーなので、近くでショッピングもできるのですよ」
 ただ星空を眺めることでも良い。クーリャは兎に角お世話になったケルベロス達と一緒の夜を過ごしたいだけなのだ。
「気が向いたらで良いのです。
 遊びに来て欲しいのですよー」
 そう言って、忙しそうに駆けていく。
 クリスマス当日。多くの人が来てくれる事を祈りながら。


■リプレイ

●星茫の木の下で
 都内某所。
 招待状に記されたその場所に集まってみると、一際大きな木の下でクーリャ・リリルノアが待っていた。
「ようこそなのです。
 来てくれてありがとうなのですよ!」
 ニコリと笑ったクーリャは、その後ろに立つ大きなモミの木を見上げて言葉を紡ぐ。
「一年に一度のクリスマス当日なのです。
 賑やか……とはちょっと違いますが、ゆったりと楽しんで欲しいのですよ」
 日頃の環境とは違う、クリスマスの商店街。
 今日という日に、ケルベロス達はどんな過ごし方をするだろうか――。

「クーリャさん、お誕生日おめでとうございます!」
「クーリャ様はお誕生日おめでとうございます!」
「わわ、二人ともありがとうなのですよ!」
 ロゼ・アウランジェ(七彩アウラアオイデー・e00275)とエルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)の祝いの言葉にクーリャは満天の笑顔で答える。
「私と同じ日だなんて親近感を感じちゃいます!」と言うロゼに、クーリャは驚きに目を丸くして。
「わあ、そうなのですか! それならロゼさんもお誕生日おめでとうなのですよ!」
 と、祝いの言葉を返した。
「お二人はこれからお買い物なのですか?」
「ええ、何か良い物が見つかればよいのですが」
「ふふふ、きっと素敵な者があるはずなのです。いってらっしゃいなのですよ!」
 クーリャに見送られ、二人は肩を並べてお店の中へと入っていく。
「うーん、目移りしてしまいますね。もふもふのぬいぐるみに綺麗な髪飾り、美味しそうなお菓子もありますね……。
 あれもこれもかわいい! きれい! 欲しい!」
 そんなエルスの様子にクスりと笑い、ロゼも商品へと目を向ける。
 どんなものにしようかな? 新しい何かとの出会いに期待を膨らませて視線を動かしていく。
「素敵なものが沢山でわくわくしますね!」微笑みかければエルスも微笑み返し。
 そんなエルスはこっそりロゼへのプレゼントも購入済みだ。友達の分も、そして――の分も。顔の紅潮はすぐに消えてくれるだろうか。
 目移り続けるロゼの品定めはいくつかの品物をチェックする。
「歌う雪うさぎのオルゴールもいいし、薔薇を閉じ込めたスノードームも素敵。
 揺蕩う月のネックレスも……」
 と、そこで見つけたのは銀の小鳥のチョーカー。きっとエルスに似合うと、ロゼもこっそりと購入を済ませると、
「なになに、ロゼ様は何かいいもの見つけたの?」
「わ?!」
 背中から覗き込まれて吃驚と声をあげる。
「あ、素敵ですね、ひょっとしてあの人へ?」
 つんつんと肩を叩けば、少しばかり頬を紅潮させて、
「えと、彼へのは……うふふ、秘密です!
 エルスさんはどんなのにしましたか?」
「私はやっぱり無難にお菓子ね」
 クッキー缶を見せてまあ美味しそうと、二人の小腹がきゅーとなる。二人は顔を見合わせて笑い合った。
 見つけた鯛焼きを頬張って、お腹も心も満たされれば素敵な聖夜になったともう一度笑い合った。

「あ、将さんなのです!」
 クーリャがめざとく見つければ、そこにはクーリャの下へと近づいて来た戦場ヶ原・将(エンドカード・e00743)と柚野・霞(瑠璃燕・e21406)の二人がいた。
「ハッピーバースデイ!
 クーリャちゃんにはおんなじ黒猫師団のよしみがあるからね」
 そう言ってバッと取り出したのはなにやらカードセットのようなものである。
「おぉーなんですかこれは?」
「最新TCGのスターターデッキだぜ!」
 自分の尺度でしか物事を測れない男と自省しつつも、しかしクーリャは目を輝かせて受け取った。
「おぉー、これが噂に聞くとれーでぃんぐかーどげーむと言う奴ですか!
 私はテレビゲームばっかり遊ぶのでカードゲームには詳しくないのです。初心者でも遊べますか?」
「もちろんさ! こんど一緒に遊ぼうぜ!」
「わーい、やったのです! ありがとうなのですよ、将さん」
 ぴょんぴょん跳ねる様は十九になる大人の女性からはほど遠い。しかし察する力はさすがヘリオライダー、並び立つ将と霞を見て、ピョコンと空気を察した。
「お二人はこれからデートですか?
 うふふ、楽しんで欲しいのです」
「……いや、うん」
 口にされると気恥ずかしさに口をつぐんでしまう。そんな二人に微笑んでクーリャは二人を見送った。
「それじゃ買い物するか」
「はい、そうですね」
 クリスマスの商店街をウィンドウショッピング。久々に出かけたという霞は心なしか声も弾んでいる。
「あっ、あの服とかかわいくないですか」
「お、おう。……ちょっと露出が高いような。いやでも良いと思うぜ」
 そんな微笑ましい二人のショッピングは徐々に距離も近づいて、
「やれやれ、ずいぶん冷えるようになったね。寒くねーかい」
「確かにちょっと寒いですね……あっ、雪です」
 ぱらつく程度だが、ちらちらと雪が舞いだして、道理で寒いわけだと微笑み合う。
「それじゃそこのカフェにでも……。
 そうだ。霞、今年で二十歳だったな」
 問いかけに霞が頷いて。
「……えーっと、その。
 近くにアルコール軽めの美味しい果実酒置いてる店があるってさ。
 もしよけりゃ、遅い誕生日祝いを兼ねて僕がおごるぜ」
 将のすこし勇気をだした提案にポンと手を合わせて霞が言葉を零す。
「そういえばもう飲めるんでした。美味しいお酒、教えてくれますか?」
 なんて少しの照れをごまかしながら返した霞。でもその返答は将にとっては最高の返事に他ならない。
 そうして二人は、少し大人な夜を過ごすために、一軒の店へと入っていった。
 きっと二人の距離はもっと近づくことだろう。

 ツリーを見上げるクーリャの下に、二人が走り寄る。
「クーリャ、誕生日おめでと! ホントにおめでとうだよー!」
「お誕生おめでとう、クーリャ」
 エヴァンジェリン・エトワール(白きエウリュアレ・e00968)と小早川・里桜(焔獄桜鬼・e02138)。笑顔を見せる二人とは、ホンの些細なきっかけから生まれた縁だ。繋がりが続いていることに、クーリャも嬉しくて、満天の笑顔でお礼を返す。
「ありがとうなのです!
 里桜さん、エヴァンジェリンさん二人とも来てくれてありがとうなのですよ!」
 挨拶を済ませた三人は茫と輝く大きなツリーを見上げて思いを馳せる。
「わわっすごくキレー! キラキラしてる!」
「誕生日に星やツリーを見上げるって素敵ね。
 特にこのツリーは、大きくて、綺麗で――不思議と希望が溢れる気がするの」
「希望でキラキラ? なのかも!」
 眼を輝かせ、少しの輝きに目を細めながら空を望む。
「クーリャ、アナタは何を想う?」
 エヴァンジェリンの問いかけに、クーリャは一度瞳を閉じて、そして真剣な――ヘリオライダーとしての――表情を見せる。
「人々の平和を。
 この世界はまだ悪意が多く残されているのです。辛く悲しい予知も見る事が多いのです。
 でも、きっと皆さんが――ケルベロスの皆さんがなんとかしてくれると想うのです。
 その願いを、私はこのツリーと星空に願うのですよ」
「ふふ、素敵ね」
 その願いはきっと叶うだろう。三人はそう信じている。
「……今年は色々あったケド、
 友達とこんなキレーな景色見れたから幸せだなーって思うんだ。
 エヴァとクーリャと南米料理や焼き芋作ったのも楽しかったし!」
「すこし焦げたポンデケージョと、ちょっぴり炭化したシュラスコ、美味しかったのです」
「あーんしあった焼き芋、とってもスイーツで美味しかったわね」
 少しずつ増える三人の思い出。それが積み重なっていくのが嬉しいと感じる。
 ツリーを見終えた三人は商店街も回る。
 三人でならなにもやっても楽しいと感じられた。二人が選んでくれた少し大人なイヤリングのプレゼントをクーリャはきっと大事にすることだろう。
「寒いから温かい飲み物買おっか!
 エヴァとクーリャはなにがいる?
「ホットレモン! なのです!」
「そうね……コーンポタージュにしようかしら」
 それは出会いの記憶が蘇るチョイスだろうか。クスりと微笑み合った。
「でもその前に……ね、写真撮ろ?」
「わーい! 写真、撮りたーい!
 ほら、クーリャはここ。今日の主役はクーリャだから、真ん中に!」
「わわっ、えへへぎゅうぎゅうなのです!」
 三人肩を寄せ合って、カメラのレンズに視線を向けた。
「それじゃあ……はい、チーズ!」
 思い出が、また一つ形となった。

 大きなクリスマスツリーを見上げる。
 そんな他愛もない企画であったが、それを良い意味で裏切ったペアもいた。
「よし、それじゃいくぜ」
「う、うん」
 天音・迅(無銘の拳士・e11143)の合図に些か緊張気味に頷くのは此野町・要(サキュバスの降魔拳士・e02767)だ。
 迅に所謂お姫様だっこの形で抱きかかえられ、首に回した腕は幾分緊張の中にあって硬く握りしめている。
 ゆっくりと、迅がその真白な翼を羽ばたかせ、中空へと舞い上がっていく。
 普段と違った景色とツリーを見せたいと考えた迅のアイデアだが、その大きなツリーを”見下ろす”ことが出来るのは今この場に二人しかいない。
 ゆっくりと旋回しながらツリーの上部へと昇っていく。
 煌めくツリーの飾りに目を細めながら、視線を向ければ、空を見上げる迅の顔が間近に見える。
 とっても嬉しいし、ツリーも綺麗だけど……と、要はやや頬を紅潮させて思う。
 この状況は、他の事が一切考えられない。
 自分の為に演出をしてくれる迅の顔についつい見惚れてしまって、心の鼓動が忙しそうに跳ね上がる。
 バレンタインから始まった素敵な時間に感謝をこめて。
 この一年の最後の思い出を作り上げるように、迅と要の遊覧飛行は続いてく。
 ちらつく雪も演出となって、二人の熱を確かめ合わせる材料となる。
 不意に、迅が要を見つめて言葉を零す。
「いつもありがとさん。ずっと一緒に居られたらいいな」
「……え、あ、うん勿論だよ」
 見惚れすぎて迅が何を言っているのかなんて分からなくなって居たけれど、コクコクと頷くように言葉を返した。
 そんな慌てる様子に迅が微笑んで、速度を上げる遊覧飛行はツリー最上部にある大きな星を越えていく。
 見下ろした先の星、見上げた先の星。
 星に挟まれたこの日だけの遊覧飛行はゆっくりと終わりを告げる。
 地上に降り立ち、丁寧に要を下ろすと迅は一度大きく翼を広げてからしまった。
 ようやく落ち着いた要が、振り返り言葉を紡ぐ。
「メリークリスマス! 今日はありがとね。
 プレゼントはまだだけど、何が良い? 時間があったら見て帰ろ」
 その言葉に頷いて、二人は一緒に商店街へと繰り出した。
 二人のプレゼントが何になるかは、二人だけの秘密だ。

 クーリャの誕生日を祝おうと集まった中、サプライズと称して悪巧みをする二人がいた。
 ルル・サルティーナ(タンスとか勝手に開けるアレ・e03571)とチロ・リンデンバウム(ウェアライダーの降魔拳士・e12915)の二人だ。
 義務教育を許さぬちびっこで在るところのルルはまずレシートくらいの紙に何事かサラサラと書くと、器用にくるくると丸めて一本の棒を作り上げる。
 その横では悪を許さぬ正義のわんこで在るところのチロが、綺麗に洗った酒瓶に何事か詰め込んでいた。最後に栓をすれば完成だ。
 揃って来ているTシャツは『闇墜ち』と筆で書かれたなんとも怪しい装いである。
「準備はいいかいチロちゃん」
「ばっちり抜かりはないぜルルたん」
 この二人、実に悪そうな顔をしている。
 二人は揃ってツリーを見上げるクーリャの傍へと近づくと、満を持してそのサプライズを開始した。
「クックック……ちょっと一服しちゃおっかな~スパァ~プハァ」
「クックック……飲んじゃおっかな~、どうしようかな~、飲んじゃうか~」
 紙を丸めたルルは煙草を吸う芝居を見せて、酒瓶抱えたチロは今にも栓をあけるような動きを見せる。
 未成年二人の飲酒喫煙を思わせる事態に、シナリオ管理センサーを持つクーリャが反応した。
「ピピーッ! こら~! 飲酒喫煙はあれほどダメと言ったのです!
 逮捕! 逮捕なのですー!!」
 ぷんすこ怒り出したクーリャが足をぐるぐるにしてルルとチロを追いかけ始める。
「クーリャちゃんが怒ったー!」
「クーリャちゃんが怒ったー!」
「ぷんすこぷんぷんなのですよ! あ、こらー待つのですー!」
 俄にざわめき立つ商店街。
 しかし二人はしめしめと笑いながら逃げ回る。
 一対二だ。クーリャ一人では追い切れるものではない。
 だが、クーリャにも頼もしい仲間が居た。
「二人を捕まえればいいんだね」
「ふむ、協力しよう」
 こういうこともあろうかと本シナリオにはNPCが三人参加しています。
 ユズカ・リトラースとセニア・ストランジェ、そしてクーリャの三人が追い回し、ルルとチロの二人は呆気なく捕まるのだった。
「ぷんすこぷんぷん、さぁいけないアイテムは寄越すのです!」
 まだ怒ってるクーリャに、悪戯顔で笑う二人は、ごめんなさいと頭を下げる。
「サプライズだよ、ごめんね!」
「ごめんね! サプライズだよ」
 ルルが煙草に見える紙を開けば「お誕生日おめでとう! ソフトクリーム無料券」と書かれた文字が。
 チロが栓を抜けば派手な音ともに「お誕生日おめでとう」と書かれた旗がピロピロとともに出てくる。
「わわ、びっくりしたのです! 見事にダマされたのですよ!
 ……それはそれとして、私は大人な女性なので今年からは食い意地は張らないときめたのです」
「え……クーリャちゃん大人の女性だから、ソフトクリームなんて食べないの?
 マジかよ……」
 愕然とするルルとチロを前に、クーリャは顔を赤らめて言葉を零した。
「……やっぱり食べたいのです。一緒に食べようなのです!」

 大きなツリーの足下で、大切に想い合う二人が肩を並べていた。
 どうしてか、少しばかり距離が遠い。そんな気がすると互いに思ってしまう。
 大きなツリーが見れるとアレクサンドル・サハロフ(天邪鬼な魔術師・e37193)を誘ったのは、イヴァン・サハロフ(瑠璃唐草の魔導士・e37199)の方だった。
 のんびりとツリーを見たかったんだ。そうイヴァンは言うが、アレクサンドルはどうにも彼の気持ちを掴めずにいた。
(「クリスマスって大事な人と過ごす日だけど、ボクと一緒で良いのかな?」)
 もちろん自分は嬉しい……だけど。
 内心に抱えるもどかしい思いを発散する方法に気づくまで、少しの時間を無駄にしてしまっただろう。
「わ、おっきいし、星もきらきらしてて綺麗だね!」
 そう言うイヴァンも、表面上はそう見せなくてもアレクサンドルの事をとても意識してしまっていた。
 イヴァンの言葉に、内心にくすぶる思いを横に置き、アレクサンドルも二人の時間を楽しもうと言葉を返す。
「クリスマスのこう言う幻想的な風景、とても良いね」
 余計な事なんか考えずに、今、一緒にいるときを大切に、大事に過ごす。そこに気づければ、二人の距離は俄に縮む。
 昔は当たり前のように一緒にいた二人。
 今は傍にある小指にすら触れる事が難しいと感じる。
 アレクサンドルの思いは、同時にイヴァンも感じていることだ。
(「寒くないかな? 寒さにかこつけて、手を繋いでみるのはだめだろうか」)
 小さい頃なら出来た事も、この年に――いや、この気持ちに気づいてしまうと難しい。
 それでも、勇気をだしてその微妙な距離を縮めたい。
 クリスマス。二人で過ごす特別な日。
 ちらつく雪が、身体を冷やし、肌のぬくもりを求めさせる。
「……寒くない?」
 イヴァンの言葉に、アレクサンドルはハッとして、でもその先を求めて返事を返す。
 アレクサンドルを見つめるイヴァンと瞳が合った。
「少し、寒いかも」
 互いに少しの勇気を振り絞り、そっと差し出された手をゆっくりと握り返す。
 分け合うぬくもりは、きっと何物にも変えられない。
「……なら、こうしてよっか」
 今はまだ、これが精一杯だけれど。
 きっと、いつの日か、二人の距離は密接に近づくだろう。
 その時を夢見て、二人はもう一度高く高く伸びるツリーを見上げるのだった。

 静かに、一人ツリーを見上げる。
 モニカ・ソル(レプリカントのブラックウィザード・e72684)は人知れず、そうしていつまでも過ごしていた。
 どうしてか、その背に言葉を掛ける事は躊躇われた。理由が在るわけではない、ただ彼女を一人にしておこうと、そう思われた。
 煌びやかに輝くツリーの飾り。
 その一つ一つに視線を這わせるモニカ・ソル。
 そうしてゆっくりと今日がなんと呼ばれる日なのか気づいた。
 クリスマス。
 聖夜と呼ばれたその日その時である。
「ああ、そういえばこういう日もあったな……」
 それはどのような思いで呟かれた言葉だろう。
 周囲で同じように見上げるケルベロス達の中、モニカ・ソルは一人ただただツリーを見上げているのだった。

 いつまでも輝き続けるクリスマスツリー。
 その輝きを見上げながら、クーリャは今日という日をしっかりと心に抱き留める。
「またいつか、見に来るのです」
 一歩大人へと近づいたクーリャは、早く平和になりますようにと願いを込めた。
 燦然と輝く星々とツリーが、いつまでもその小さな彼女を見下ろしていた。

作者:澤見夜行 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月1日
難度:易しい
参加:13人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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