アンデッドソルジャー・ウィズ・テック

作者:鹿崎シーカー

 ファオーウー! ファオーウー!
 サイレンと回転するレッドランプに満たされた機械回廊を、瀬部・燐太郎(殺神グルメ・e23218)は全力で疾走していた。ヘッドセットから流れる砂嵐じみたノイズを聞く彼の頬を汗が伝う。
「通信不可……自力で切り抜けるしかないか。しかし……」
 呟きながら、肩越しに背後を振り返る。直後、その鼻先を銃弾がかすめた。反射的に前方ジャンプして床を転がる燐太郎の真上を複数の鉛弾が突き抜けていく! 銃撃が止むと同時に低姿勢ダッシュする彼の目前、天井から降りたシャッターが通路を塞ぎにかかった。
「くっ!」
 速度を上げる燐太郎! 床から次々に飛び出す背の低い隔壁を飛び越え、かわし、迂回してシャッターの隙間めがけて一直線に駆けていく。最後の隔壁をステップでよけた燐太郎の視界に丸い影が差しかかった。眼前に投げ入れられた手榴弾だ! 両足を足を踏ん張り後ろへ跳んだ燐太郎の前で手榴弾が爆発し、飛び散った破片が頬を斬り裂く。後転して片膝立ちの姿勢になる燐太郎を余所に、シャッターは完全に閉ざされた。頬の傷を親指でぬぐいながら、燐太郎は立ち上がった。
「……やってくれる」
 振り向くと、通路の奥からゆっくりと歩いてくる人影がひとつ。赤いランプが照らし出すのは、全身黒ずくめの装備。腹部にベルト状のものを巻いたロングコートに、歯車が刻印されたヘルメット。顔面を覆うガスマスクの奥から緑の眼光を光らせた影は、手にした小銃を燐太郎に突きつける。マスクの口から漏れるくぐもった呼吸音。燐太郎は義手の両腕に炎と水をまとわせた。
「ただでは逃がしてくれないか。ならば……」
 身を低くして身構え、水と炎を強制励起。サイレンがつんざく中で、燐太郎が敵影を睨む。
「押し通るッ!」
 彼が床を蹴ると同時、人影は引き金を引いた。


「レブナント……ダモクレス製の?」
 跳鹿・穫は資料を見る目を丸くした。
 ケルベロスが一人、瀬部・燐太郎(殺神グルメ・e23218)がデウスエクスの襲撃を受けることが予知された。
 彼に牙を剥いたのは、『ラウドネス・クラウデッド・クラウド』。ダモクレスが屍隷兵の製法を元に生み出した、量産型の尖兵である。詳しい理由は不明だが、燐太郎はこの屍隷兵がいる場所に足を踏み入れ、見つかってしまったらしい。
 量産型とはいえ、相手はデウスエクス。一人で対処するのは流石に厳しい。
 今すぐ現場へ急行し、燐太郎に加勢。しかるのちにラウドネス・クラウデッド・クラウドを撃破してほしいのだ。
 ラウドネス・クラウデッド・クラウドは、バイオ技術を用いて生み出したクローンをサイボーグ化して作られた兵士で、本来は複数体で戦うのが基本コンセプト。しかし不幸中の幸いというべきか、燐太郎を襲っているのは一体きりで、他にデウスエクスの影は無い。主武装は小銃、グレネード、コンバットナイフの三つ。これらと機械化により強化された身体能力を用いて、臨機応変な戦いを可能としている。
 次に、二人が戦う場所だが、こちらは広大な機械回廊だ。ケルベロス八名が一斉に暴れても余裕がある程のスペースを誇るが、床下には遠隔操作で出し入れできる小型隔壁が多く仕込まれている。隔壁はラウドネス・クラウデッド・クラウドの一存で起動・収納が出来るようだ。
「ダモクレスが作ったレブナントっていうのも気になるけど、今は瀬部さんの救出が第一! 無事に連れ帰ってあげて!」


参加者
天谷・砂太郎(燃え尽きた灰・e00661)
土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)
瀬部・燐太郎(殺神グルメ・e23218)
清水・湖満(氷雨・e25983)
ジュスティシア・ファーレル(エルフの砲撃騎士・e63719)
如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)

■リプレイ

 銃口が火を噴き鉛弾が飛ぶ。ロケットスタートを決めた瀬部・燐太郎(殺神グルメ・e23218)はジグザグスプリントで弾幕をかわしながら、ラウドネス・クラウデッド・クラウドに肉迫! 間にそびえた小型隔壁を飛び越えた彼はその場で止まった。クラウドの姿が無い! 同時に、彼の周囲で小型隔壁が次々と迫り出し、ダンジョンめいて視界をふさぐ。隔壁に背をつけた燐太郎は、左手親指をコイントスじみて弾いた。指先に点いた炎を煙草に灯して素早く一服。
「かくれんぼをご所望か。全く……」
 鋭い視線を左右に走らせ、油断なく警戒を続ける燐太郎。直後、隔壁を挟んで背後で銃声が鳴り、背を預けていた隔壁が引っ込んだ! 振り向いた燐太郎に飛来する鉛弾! とっさに防御態勢を取る彼の目の前で、鋼の床が爆発。土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)を右肩に乗せ現れたマーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)は左肩の装甲で鉛弾を防御した。岳は燐太郎に微笑みかける。
「お待たせしました! 全力で支援させていただきます!」
 言うなり岳は前方回転跳躍し、小ぶりな槌を振り上げる! バク転するクラウドが居た場所を粉砕する一撃! 床に開いた大穴から飛び出した天谷・砂太郎(燃え尽きた灰・e00661)は黒くよどんだオーラをまとった大剣を振り上げ、クラウドに斬りかかった。クラウドは掲げた銃のバレルで斬撃を受け、サイバネ膂力で押し返す! 後ろに弾かれた砂太郎に鉛弾の雨が突き刺さる!
「チッ……!」
 蜂の巣にされるも舌打ちで止まり。着地した砂太郎は左手を突き出し橙色の電光を発射! しかし稲妻はクラウドを隠した隔壁に阻まれて四散する。砂太郎の脇を駆け抜けた清水・湖満(氷雨・e25983)はクラウドを隠した障壁にすり足で肉迫し、居合い! 一瞬にして斬り飛ばされた壁の後ろに敵影無し! だが湖満の視界端が、別の隔壁へ走る黒衣の背中を捉えていた。
「瑠璃、左!」
「はい!」
 玄武をあしらった武術棍を手に、源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)が身を隠しかけるクラウドを追う。クラウドは瑠璃を横目で捉え、隔壁に半身を隠しての銃撃! 棍で弾丸を弾き返しながら迫った瑠璃の殴打を隔壁に隠れる形で避けたクラウドは、置き土産めいてピンの抜けたグレネードを放る。
「しまった……!」
 殴打を空振りスタンした瑠璃の足元でグレネードが爆発! だが爆煙が晴れた先の彼は無事である。彼の周囲を螺旋状に囲う鎖が爆弾を防いでいた。床に剣を突き刺したジュスティシア・ファーレル(エルフの砲撃騎士・e63719)が展開した魔法陣の下、鎖に繋がれた帽子型懐中時計を手にした如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)が瑠璃を呼んだ。
「瑠璃、離れ過ぎないで!」
 瑠璃は沙耶の方を振り返り、クラウドのいた場所を見やる。敵の姿は既に無い。瑠璃がバックジャンプで魔法陣の下に飛び退ると同時、八人の周囲で無数の小型隔壁が、モグラ叩きのモグラめいて出現と収納を繰り返し始めた。燐太郎は辺りを警戒しながら、背中越しに謝意。
「皆さん、救援に感謝します。頼もしい限りです」
「何を言います! 仲間の危機に駆けつけずして、何がケルベロスでしょうか! 全力で支援させていただきます!」
「気にせえへんで、燐太郎。ごりごり削って、どんどん攻めてくから、好きなようにやってね」
 湖満と岳が身構えながら言い、砂太郎とマークが出ては隠れる隔壁を見据える。
「さて、再会を祝してゆっくり駄弁りたいところだが、まあ後回しだな。ひとまず、奴さんを引きずり出さないと」
「まずはこの隔壁を蹴散らし、速やかに奴を破壊する。それが最善だ、誰にとっても。……始めるぞ。SYSTEM COMBAT MODE」
 マークはマシンアイを輝かせ、重厚なライフルを構えた。銃口にクリアグレーの光をチャージし、目の前の隔壁達が一列に並ぶのを待つ。射線上の隔壁が全て顔を出すのと共に、マークは引き金を引いた。
「ゼログラビトン、発射」
 クリアグレーの光線が放たれる! しかし直後、射線上の隔壁全てが一斉に引っ込み光線を回避。同時にマークの背後に立つ沙耶をめがけてクラウドが飛び出した! 不意打ちのライフルを掃射を前にして沙耶はスイッチを押し込む。周囲に現れた星めいた輝きが爆発して弾丸を跳ね返す。光の粒子を溜めた銃を上空に向け、引き金を引く。
「オウガ粒子装填完了。ファイア」
 撃ち出された光粒子弾が空中で拡散。そのひとつを背に受けた瑠璃はクラウドに飛び蹴り! クロスガードで蹴り足を受けたクラウドは後方に押し返され、着地。そこへ跳躍した岳が蒼い光と粒子をまとい、流星じみて蹴りを繰り出す!
「でぇいッ!」
 ガードを解いたクラウドは対空サイバネパンチでこれを迎撃! 勢いを殺して岳の足首をつかみ、ひねり壊しながらジャイアントスイング! 弾丸じみてすっ飛んだ岳を隔壁が覆い隠した。クラウドの懐に踏み込んだ燐太郎の目が冷たく光る!
「こっちを見ろッ!」
 瞳が雷光じみて輝くも、隔壁が燐太郎の視線を遮る。燐太郎は構わず鉄拳で隔壁を破壊。しかし隔壁を飛び越えたクラウドの空中回し蹴りが彼の側頭部を打った! 真横に吹き飛ぶ燐太郎! 湖満は巨大な杵を横薙ぎに振るい着地したクラウドに純白の斬撃を飛ばす。後方回転跳躍回避したクラウドはそのまま隔壁の群れへと消えていく! そちらに銃口を向けるマーク!
「バスタービーム、発射」
 飛翔した一条の光線がクラウドが隠れた辺りの隔壁をまとめて薙ぎ払った! 高度跳躍してこれを避けたクラウドは、マスクの奥で緑の眼光を点滅させる。出ていた隔壁が一斉に下がり、広くなった空間をクラウドはコンバットナイフ二本を手に駆ける! 迎え撃つのは砂太郎! 両腕をオウガメタルで覆い、インファイトを挑む!
「ふっ!」
 右フックをクラウドはスウェー回避し、砂太郎の腹に膝蹴りを入れる。蹴り足を抱え込んだ砂太郎はクラウドを振り回し、肩の筋線維を立つナイフを無視して投げ飛ばした!
「ジュスティシア!」
 宙を舞うクラウドに、ジュスティシアが大型クロスボウの照準を定めた。ダモクレス製の屍隷兵。眼差しを鋭くしたジュスティシアはレーザーじみた矢を放つ! クラウドは空中で身をひねって矢を蹴り飛ばし、ナイフを構えてジュスティシアに急降下! 割り込んで両拳を打ち合わせるマーク!
「重力装甲、展開」
 振るわれた逆手持ち刃を不可視の壁が阻んでみせる。反動で後方に着地したクラウドは振り返り、湖満の居合いをナイフでガード! ナイフ二刀流と居合道が高速でぶつかり合い金属音と火花を散らす。剣戟の中、コンバットナイフが湖満の頬の皮を断ち、刀がクラウドの両腿を浅く斬り裂く。首狙いの斬撃を身を反らしてかわし、後退する湖満は雅やかに笑った。次の瞬間、地獄の焔をまとった大剣刺突がクラウドの脇腹を抉る! 沙耶の月光を背に受けた燐太郎は大剣を押し込んだ!
「はあああああああッ!」
 弾き飛ばされたクラウドは空中で弧を描きながらコマめいて回転! 着地点に出現させた障壁を蹴って燐太郎に反撃強襲。その後方、岳はクラウドが使った障壁に飛び乗り、蹴り砕くほどの勢いで跳躍した。ジルコンが描かれたカードをベルトのバックルに挿入!
「ジュエルモール、ドライブ!」
 宝石の輝きを得た急降下ドロップキック! クラウドは地に足つけて急停止しつつ反転、クロスガードで岳の蹴りを防いで押し返す。後方回転しながら着地した岳は、コンバットナイフ二刀流で攻め来るクラウドの両腕を拳で弾きながら訴えかけた!
「もうやめてください! もう戦う必要はないんです! どうか武器を捨てて下さい!」
 だが岳の下顎を黒いブーツが蹴り上げる! 追撃のサイドキックで岳をふっ飛ばしたクラウドはすかさず銃撃。迫り出した隔壁に背中からぶつかった岳を襲う弾丸の雨を、段ボールめいたミミックが割り込みで庇う。銃弾を吐き切ったライフルをリロードするクラウドの後ろに燐太郎!
「どっちを見ている。お前の相手は……」
 左腕の義手に赤黒い液体が巻き付き、槍を形成。刺突を繰り出す!
「こっちだッ!」
 振り向いたクラウドの鳩尾を槍が貫く! 燐太郎はマスクの目を見て邪眼を光らせ、渾身の右拳を鼻面に叩き込む! マスクが砕けて現れたのは……リトルグレイじみた無毛無表情の顔だ! クラウドは左肘から圧縮空気を噴出しながら燐太郎の腹にボディブロウ! インパクトがコート越しに燐太郎の背を抜け、血反吐を吐かせた。
「がはッ……!」
 振り抜かれた拳に後退させられた燐太郎に、クラウドはグレネードを投げた。背中を折って踏みとどまり、しかしスタンした燐太郎の顔面に迫る爆弾を、横合いから砂太郎がつかみ取る。手を吹き飛ばされながらも、砂太郎は炎をまとった上段蹴りでクラウドの鼻面を蹴り飛ばした! クラウドへ飛びかかる彼の後方、片膝を突いた燐太郎に沙耶が駆け寄る。
「燐太郎さん!」
 沙耶の手の平から現れた月光が腹部を押さえる燐太郎を包み込む。燐太郎は離れた場所で砂太郎の大剣を裏拳で弾くクラウドを見た。砂太郎の腹にナイフを突き刺し、後ろを取った湖満にエルボー! サイバネ肘を反射的居合いで迎撃した湖満は背負った杵をクラウドの肩に振り下ろす! そこへ滑り込んだジュスティシアが拳を心臓部に叩き込むが、クラウドは一切動じずブレイクダンスめいた回転蹴りで三人を打ち払った。胸の風穴から火花を飛ばすクラウドに、燐太郎は奥歯を噛みしめる。
「胴体に、ハァ……穴を空けても死なないか……! ゾンビでサイボーグ、一粒で二度美味しいぜ、クソッ!」
 毒づく燐太郎に光を浴びせる沙耶は複雑な表情。一方、クラウドに飛びかかった瑠璃は月光じみた輝きで編んだ大剣を大上段に振り上げた。力に耐えかね震える両腕にむち打ち振り下ろす!
「はああああああッ!」
 とっさに飛び下がったクラウドの近くで鋼の床が大爆轟を引き起こした! 爆風に煽られて転がったクラウドは片膝立ちの姿勢で復帰。その眉間にジュスティシアがクロスボウの狙いを定めた。エイリアンめいた顔に口髭を蓄えた男の顔が重なった。
「……っ!」
 ジュスティシアは顔を歪めてクロスボウ射出! クラウドは足元の隔壁が飛び出す勢いに乗って跳躍してこれをかわした。宙を舞うクラウドを目で追ったマークは両踵のパイルを地面に打ちこみ、背中の砲塔をセットアップ!
「セーフティパイル、接地。XMAF-17A/9、オープン。フォートレスキャノン、発射」
 砲門が火を噴き、撃ち出された砲弾がクラウドに命中・爆発! 宙に膨らむ黒煙から脱したクラウドはリロードした小銃をありったけぶっ放す! マークがショルダーガードを、砂太郎が剣の腹を盾にして鉛弾を防ぐ。岳は蒼光宿した斧で床を裂きながら走る!
「ぜえええええいッ!」
 蒼い軌跡が黒コートの背を斬り上げた。白い肉と金属の欠片が飛び散り、クラウドは前のめりに一歩踏み出す。インプラントアイが高い駆動音を放つと同時、クラウドを取り囲む形で小型隔壁が出現! が、隔壁の周囲に星めいた輝きが複数煌めき、爆発して壁を取っ払った。銀河じみた煙を突っ切った瑠璃と湖満がそれぞれ槌を振り下ろしてクラウドの両膝を砕き、跪かせる。反撃のナイフを瑠璃とそろってバックジャンプ回避した湖満は小さくつぶやく。
「とどめは任せたよ、さあ行ってきて」
 その時、太陽めいた暗赤色の炎がクラウドの目を射抜く! 左腕を業火の巨拳に変えた燐太郎は炎をジェット噴射しながらクラウドに真正面から突撃を敢行! インプラントアイの視界が隔壁を仕込んだ位置をスキャンするも、全て損失済みだった。
「上手く立ち回ったつもりでしょうけれど……障壁ももう使えないみたいですよ?」
 離れた所に陣取り、岳が悲しげに目を伏せた。
「戦うために生み出され、命じられるまま戦うしかないとはお可哀想に。こんな救い方しかできませんが……どうか、安らかに」
「おおおおおおおおッ!」
 燐太郎の咆哮と共に炎の拳がクラウドに迫る! 拳を振り上げた燐太郎とクラウドの無表情がかち合い……振り下ろされた爆炎が、クラウドを叩き潰して大爆発した。


 数分後。鋼の床に広がる焦げ付きを前に、燐太郎は一服していた。焦げ付きを挟んで反対側には、両膝をついた岳が両手を組んで祈りを捧げる。言葉は無く、静かであった。クラウドは完全焼滅し、溶け残った鉄クズが地面にへばりついているのみ。それを見つめる燐太郎の後ろから、ガシャンガシャンと足音がした。
「瀬部」
 煙草を握り潰して消し、振り返る燐太郎。そこには、武装を格納したマークと片手をポケットに突っ込んだ砂太郎が佇んでいた。
「ナインさんに天谷さん。治療はもういいんですか?」
「大して傷ついていないからな」
「俺も別に。燐太郎さんこそ、腹は? 結構重いの食らってたように見えたけど」
「如月さんのおかげで、どうにか」
「そうっすか。……お互い、生きてて何より」
 マークが不意に歩き出し、燐太郎の隣に立つ。広がった焦げ付きを見下ろすマシンアイが、目を伏せるように光量を落とした。
「屍隷兵を作るダモクレスか。嫌なもんだな」
「…………」
 燐太郎が、煙草を握った義手に力を込める。震える拳を耳障りな音を立てて軋ませながら、彼は深く頭を下げた。
「色々手間をかけてしまい、すみません。申し訳ついでに、俺の調査に付き合ってくれませんか。これを作ったダモクレスの情報が、少しでも欲しい」
「構わないさ。むしろ、個人的に気になったから来たようなものだ。顔を上げてくれ、瀬部」
「あ、他の四人はもう向かった。今回のコレ、気になってたのが何人か居たみたいで」
 顔を上げた燐太郎は、真剣な表情で二人を見た。
「重ね重ね感謝します。急ぎましょう。開戦も近い」
 そういって、足早に回廊の奥へ急ぐ燐太郎を、砂太郎が追いかける。振り返りかけたマークはふと、祈ったままの岳を目を向けた。
「土竜、行かないのか?」
 岳は一度手を解く。膝を突いたままマークを見据えて言った。
「もう少し、祈っていてもいいですか? すぐに行きますので」
「……わかった」
 マークが踵を返して歩き出す。立ち去っていく三人の背中を見送った岳は、再度両手を組んで祈り始めた。

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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