剛腕ザクロス

作者:零風堂

 秋の空を夕陽が照らし、朱に染めていく。
 とある高校からは生徒たちが帰路につき、校門から外へと歩み出ていく。またある者はクラブ活動に勤しみ、グラウンドで練習を続けていたりもした。
「おらっ!」
 そこへ突如として現れる巨躯の戦士、エインヘリアル。戦士は生徒のひとりを乱暴に掴むと、強引に投げ飛ばし、地面へと叩き付けた。
「ぐぎゃ…………!」
 投げ付けられた生徒は衝撃で肉体が砕け散り、辺りに血肉が四散する。
「きゃああああっ!」
 見ていた生徒たちから悲鳴が上がり、混乱の中で生徒たちは逃げ惑う。
「逃げるなよ。思い切りぶん投げてやるからよぉ!」
 そんな生徒たちを追いかけては掴み、投げ飛ばすエインヘリアル。この圧倒的な暴力によって、生徒たちの命は次々に打ち砕かれていくのであった。

「……という事件が、いただいた情報をもとに行った予知によって判明しました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はそう言って、傍らに立つエメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)へと視線を向ける。エメラルドは独自の調査によって、情報を集めていたということだ。
「現れるエインヘリアルは過去にアスガルドで罪を犯した凶悪犯罪者らしく、放っておけば多くの人々が殺害されるばかりでなく、その話を見聞きした人々に恐怖と憎悪をもたらし、地球で活動するエインヘリアルの定命化を遅らせることにも繋がるでしょう」
 急ぎ現場に向かい、敵を撃破して欲しい――。セリカの言葉にケルベロスたちも、黙って頷いた。
「敵は徒手空拳……、なかでも相手を掴んで投げ飛ばす技を得意としているらしく、こちらの身体を掴み、地面に叩き付けようとしてくるようですね。かなりの攻撃力を誇るようなので注意して下さい」
 それからセリカは、周辺の様子についても説明を加えていく。
「敵が現れるのは夕方の学校で、校庭や校舎にはまだ多くの生徒や教師の方々がいると思われます。該当の自治体や警察には避難の協力をお願いしておきますが、皆さんはできるだけ敵の注意を引いて、万が一にも巻き込まれる人の出ないようにして下さい。また、このエインヘリアルは自分から撤退するような動きは無さそうです。もしかしたらエインヘリアル勢力としても、使い捨ての戦力として送り込んで来たのか、撤退させようとする動きや援護なども無いようです」
 敵勢力からも見放された犯罪者だが、罪も無い人々にとっては脅威でしかない。
「このように危険な存在を放置はできません。皆さんで力を合わせて、この敵を撃破するようお願いします」
 セリカはそう言って、ケルベロスたちを激励するのだった。


参加者
ラティクス・クレスト(槍牙・e02204)
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)
土方・竜(二十三代目風魔小太郎・e17983)
影月・銀(銀の月影・e22876)
エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)
浜咲・アルメリア(捧花・e27886)
エイルルーネ・シュヴェルトライテ(優しく儚い歌・e34396)

■リプレイ

「きゃああああっ!」
 夕暮れの校庭に、絹を裂くような悲鳴が響き渡る。
「そら、もっといい声を聞かせてくれよ!」
 この場に送り込まれたエインヘリアルの凶悪犯が振るう暴力に、抗える者は何も無く、ただ惨劇だけが繰り広げられる――。そう思われた、次の瞬間!
「――何処まで逃げてくれますか?」
 女生徒に伸ばされた剛腕に、ヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354)の放った『Wahnsinnig attentat』が命中して弾き上げる。間一髪でケルベロスたちが現場に到着したらしい。
「あなたの武術、武術というにも烏滸がましいわ。……洗練も技術も、魂も感じられない」
 浜咲・アルメリア(捧花・e27886)は絶対に犠牲を出さないという覚悟を以って戦いに挑む。女生徒に攻撃が通らないよう前に立ち、オウガメタルから白銀の輝きを光の粒子に変えて展開していった。
 アルメリアの肩にはウイングキャットの『すあま』がふわりと着地して、翼から清らかな波動を仲間たちへ放っている。
「なんだ貴様ら? 邪魔する気か」
「よう、木偶の坊。ちょっとオレらと遊ぼうぜ」
 相手の言葉を遮るように、ラティクス・クレスト(槍牙・e02204)が槍に稲妻の力を込めて突き出した。一撃を受けて、僅かに敵の動きが揺らぐ。
「格ゲーで言ったらレバー回転系か、迷惑なこったぜ。俺の尻尾の毛先でも掴めたら褒めてやらあ!」
 続けざまにランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)が駆け込んで、ダッシュの勢いのまま輝く蹴りを打ち込んでいった。
「ザクロス。貴様の勝手、此処までだ!」
 エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)は降下と同時に言い放ち、連続で矢を撃ち出してザクロスを牽制する。その直後にちらりと肩越し目線を向けて、ティニ・ローゼジィ(旋鋼の忍者・en0028)と視線を交わす。コクリと頷いたティニは、女生徒を連れて生徒たちの避難誘導へと向かって行った。
「ねぇ、根性なし。あ、ごめん。根性なしって言葉の意味わからないか。人間じゃないから。ごめん。ごめん。根性なしっていうのはね………」
 土方・竜(二十三代目風魔小太郎・e17983)は敵の注意を引くように、懇切丁寧に根性なしという言葉の意味を教えて煽る。
(「やはり、人が集まる場所は狙われやすいのか」)
 影月・銀(銀の月影・e22876)は校舎の位置を確認して、念のためそちらには敵が向かわぬよう立ち位置に注意していた。そうして伸ばした如意棒を構え、真っ直ぐに相手を突く。
「邪魔するなら、おまえたちからだな」
 バキンと如意棒はザクロスの胸を打つものの、相手はダメージに耐えて笑みを浮かべていた。そして両腕を大きく振り上げ、何かを抱き締めるように素早く交差させる。
 その腕の間合いに、捕まるような者は今、居ないが……。
 轟っ!
 腕の振りが空気を揺るがし、衝撃波を生んでケルベロスたちに襲いかかってきた。
「エインヘリアルの暴虐……、止めなければ」
 エイルルーネ・シュヴェルトライテ(優しく儚い歌・e34396)が地を蹴って、敵の間合いへと踏み込んでいく。
「罪無き命を守ること。それが私にできる贖罪……」
 フェアリーブーツに虹色の光を宿して、思い切り顔面に蹴りを叩き込む。
「……!」
 ザクロスは一撃を受けて揺らぎながら、怒りの眼差しでエイルルーネを睨みつけるのだった。

「――!」
 ヴォルフが注意を引くように、敵の正面から側面に回り込むように移動しながら槍を突き出す。雷光が閃くも、一撃はわずかの差で敵の腕に柄を振られ、逸らされてしまった。
 ならば次は、もっと鋭く角度をつけて放つ。ヴォルフは冷静に分析しながら、敵との間合いを取り直す。
 入れ替わりにラティクスが踏み込むが、その身体を掴もうとザクロスが手を伸ばしている。
「子供の遊び、おふざけ以下ね」
 割り込んだアルメリアが代わりに掴まれ、思い切り地面に叩き付けられる。
「迷惑なことこの上ねえな、ホント」
 だが生じた隙をラティクスは逃さず、火神の名を冠す砲台から、破鎧衝を叩き込んでいた。
「……正面向いて戦ってみなさい、あたしたちと」
 投げられたアルメリアもすぐに立ち上がり、魔人の力をその身に降臨させて力を滾らせるのだった。
「うっわ、近寄りたかねえなあ……、ムサい野郎に掴まれても嬉しかねえんだよ!」
 言いながら、ランドルフが敵の懐へと滑り込む。身を屈めて腕を空振りさせ、生まれた隙に掌を突き出して螺旋を叩き込んだ。
「近寄りたかねえとは言ったがよ、『Short rangeが苦手』とは言ってねえぜ?」
 反動でランドルフは後ろに跳び、挑発するように言い放つ。
(「……被害を出さないよう、気を張らなければな」)
 その間に銀が身に纏う闘気を練り上げて、癒しの力に変えてアルメリアを回復させる。
「我はヴァルキュリア、雷鳴と共に駆け、勇気ある者を選定する使いなり! 今、我が雷鳴と共に汝の道が切り開かれん事を願う!」
 エメラルドも雷鳴の加護を発動させて、その身を守るように展開させる。
「さぁ、根性なし、此処からが本番だからしっかり付いて来なよ?」
 竜がザクロスへと踏み込み、螺旋の力を込めた掌を突き出す。しかし相手は僅かなステップで螺旋掌を避け、横に動いて竜から離れる。
「こちらですね」
 エイルルーネがその動きに合わせ、稲妻を纏う突きを抱いて踏み込んだ。ばちんと脇腹に一撃が閃き、ザクロスの身体が僅かに揺らぐ。

(「……あと少し、3、2、1」)
 ヴォルフは戦いを重ねる間に、相手の動きを何度も見ていた。踏み出す角度、歩幅、身を躱すときの可動域。それらの情報を組み合わせ、避けられぬタイミングを狙って【嘆き】の意を持つ刃を繰り出していく。
「……しっかり倒していくしかねえか!」
 ラティクスの踏み込みに、アルメリアが反応して逆サイドに跳ぶ。何度も見たラティクスの攻撃タイミングなら、同時に合わせられると判断してのことだ。
 稲妻突きと戦術超鋼拳に挟まれて、ザクロスの身体がぎしぎしと歪む。
「まだ終わりじゃねえぞ!」
 左右の攻撃に怯んだザクロスに、ランドルフが正面から突っ込んだ。相手が腕を振り下ろすより早く、紅の短刀で斬撃を刻み付けて、股下をスライディングで滑り抜ける。
 空振りした相手の頭上からは、エイルルーネが舞い降りた。
「私はこちらですよ」
 ファナティックレインボウの虹を纏い、踵落としの要領で頭を蹴り抜く。
「お、のれ……」
 ザクロスは怒りの形相でエイルルーネを睨みつけ――。
 轟っ!
 後衛を巻き込み、空気の衝撃波を撃ち出してきた。
「……まだだ、怯むな!」
 エメラルドはロッドを地面に突き立てて踏ん張り、ライトニングウォールで雷の障壁を展開していった。
「忍びはその姿を見た者を決して生かしておかないからだよ」
 その間に竜が毒手裏剣を投げつけて、ザクロスの動きを牽制する。
「援護は任せて下さい」
 銀は戦場を美しく舞い踊り、足元から花びらのオーラを降らせ、仲間たちを癒していくのだった。

 ダメージを受けても即座に回復する盤石の戦法で、戦闘はケルベロスの優位に進んでいるように見えた。
「……!」
 ヴォルフが敵の隙を見抜き、素早い一撃で腕を貫く。
「ぐっ……、この野郎!」
 しかしその直後、ザクロスの闘気が膨れ上がった。何かやる気だ。
 咄嗟に前に出たアルメリアの身体をザクロスは掴み、空中へと飛び上がる。そしてアルメリアの脳天を地面に向け、回転しながら急降下する!
「ぐ……」
 オウガメタルを頭部に集めて辛うじて防御したアルメリアだったが、かなりダメージが高かったらしく立ち上がれない。しかし技を放ったザクロスも渾身の一撃だったためか、闘気が薄れて隙だらけになっていた。
「あなたが虐げてきた人達の気持ち少しは分かりましたか?」
 エイルルーネが星型のオーラを生み出し、蹴り飛ばして攻撃する。
「……ここで決める」
 続けざまに銀も如意棒を伸ばしてザクロスの胸を突き、その上体を起こさせた。
「ティニ君!」
「はいっ!」
 エメラルドが連続で矢を放ち、ザクロスの腕を縫い留めるように射抜いていく。動きが止まったその胸に、ティニが虹色に輝く蹴りを突き入れる。
「お願いします!」
「応!」
 そのまま駆け抜けるティニに続き、ランドルフとラティクスが駆け込んだ。
「闘刃形成……収束、貪れ『刃群』!」
 ラティクスが闘気を刃に変えて収束させ、槍の穂先に集めていく。
「コイツは近寄らねえと当たらなくてな! その分痛えぞ!」
 ランドルフは気を練り上げて特殊弾を生成し、白銀のリボルバー銃へと装填する。
「叢雲流牙槍術奥義、零式・饕餮!」
「喰らって爆ぜろ! グルグル野郎ッ!」
 突き刺した穂先が体内で炸裂し、ズタズタに引き裂く。更にほとんど同時のタイミングで、着弾したランドルフの弾丸が炸裂し……、外部からも肉体を破壊した。
「が……」
 内外からの衝撃で肉体を破壊され、剛腕の戦士はここに力尽きたのであった。

「おツムの回転も良くしときゃあな、折角学校に来たってのによ」
 ランドルフはリボルバー銃をくるくると回し、小さく呟く。
「ま、手遅れか」
 それからチャキッとホルスターに納め、口元に笑みを浮かべるのだった。
「学校は多くの人が利用する施設、日常生活に支障が出ないよう、なるべく元通りにするのが望ましいだろう」
 それから銀の提案もあって、一同は周囲にヒールを施していた。
 エイルルーネも頷いて、大きな被害も無くてよかったと微笑む。
「今回も無事に終わって何よりだ」
 エメラルドはヒールを施しながら、良いコンビネーションを発揮できたとティニに拳を突き出す。
「皆さんで力を合わせたお陰ですね」
 ティニも拳をコツンと合わせ、無事に終わって良かったと微笑みを浮かべるのだった。

作者:零風堂 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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