ウォーム・アンド・スーティング・デス・レイン

作者:鹿崎シーカー

 街に紫色の雨が降る。空を覆う濃紫色の暗雲を見上げ、葵原・風流(蒼翠の五祝刀・e28315)は水溜りを蹴飛ばして走る。人気のない道、周囲は暗い。肩で息をしながら、風流はつぶやく。
「この雲、この雨、この気配……」
 差し掛かった通りの角を曲がり、ブレーキをかける。立ち止まった彼女より離れた位置、誰もいない通りを歩く人影が一人。
 肩から背中を大きく開いた黒のゴシックドレスに、雨を弾くドクロの石突を持つ黒い傘。鏡めいて輝く銀の長髪を揺らす黒ドレスの少女は、肩越しに風流を見返った。左右にツンと長く伸びた耳の先に雫が当たり、物静かな赤い瞳が風流の視線とかち合った。
「……久しぶりですね。いつぶりですか? 冥府の紫雲」
「あら……?」
 少女はじっと風流を見たまま、小首を傾げる。
「前にどこかで会いましたか? 地球で? それとも……私の故郷で?」
「あなたの故郷で、です」
 風流は言い、抜いた刀を突きつけた。
「ここで何をしているんですか。まさか観光ということも無いでしょう?」
「お散歩よ」
 冥府の紫雲は傘の外に手を伸ばす。手の平に溜まり、滴っていく紫の水を見て、彼女は愛おしげに目を細めた。
「こんな雨の日なんですもの。少し歩きたくなりませんこと?」
「白々しい。この天気はあなたが呼んだものでしょう。命を枯らせる死の雨なんて、この星には降りません」
 風流はもう一本の刀を引き抜き、二刀流で刃を交叉。身構え、冥府の紫雲の真っ直ぐ見据える。
「すみませんが、今日の天気は快晴です。雲をどかしてもらいます」
 戦闘態勢に入った風流の前で、冥府の紫雲は妖しい微笑みを見せた。

「むう、雨の死神だって……?」
 資料を見た跳鹿・穫は顎を引いて目を見開いた。
 とある市街地において、葵原・風流(蒼翠の五祝刀・e28315)が死神と交戦するとの予知が入った。
 相手の名は『冥府の紫雲』。元はデスパレスに駐在する死神だったが、サルベージした『灰梨・水雲』というシャドウエルフの少女の死体に取りついて地球にやって来たようだ。ルーツの古い死神のようで、その力はとてもケルベロス一人の手に終えるものではない。
 急いで現場の市街地に向かい、葵原・風流の救援に向かってほしい。
 戦場となるのは、市街地の大通り。どういうわけか車はおろか人も通らず、戦場周辺に一般人は存在しない。両サイドに高いビルが並んではいるが、戦う分には困らないだろう。
 冥府の紫雲は元々アメフラシ型の死神で、周囲に敵を衰弱させる紫の雨を常に降らせる能力を持つ。戦闘の際はこの雨水を自在に操って攻撃する他、取りついた少女の種族であるシャドウエルフが持つ力も同時に駆使する厄介な相手だ。動き回りこそしないものの、非常に広い射程距離を持つ上、長時間の戦闘になれば雨水の影響でジリ貧に追い込まれてしまうだろう。連携と作戦が物を言う。よく相談するべきだろう。
「こんな雨が降る中じゃ、ケルベロスでも長時間は戦えないと思う。気を付けてね!」


参加者
天谷・砂太郎(燃え尽きた灰・e00661)
樒・レン(夜鳴鶯・e05621)
草間・影士(焔拳・e05971)
葵原・風流(蒼翠の五祝刀・e28315)
ジュスティシア・ファーレル(エルフの砲撃騎士・e63719)
リリベル・ホワイトレイン(堕落天・e66820)
如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)
フレデリ・アルフォンス(自由とノブレスオブリージュ・e69627)

■リプレイ

 マシンガンじみた無数の紫雫を、葵原・風流(蒼翠の五祝刀・e28315)は二刀流の高速斬撃で斬り払っていく。止まぬ雨粒の弾幕を、風流は回転斬撃で弾き返して真横に走った。雨粒弾に穿たれ砕ける地面を置き去り、緑の光翼を広げて跳躍。ビルの横壁に着地して走る彼女の背後、雨粒弾が壁や窓ガラスを破壊しながら追いすがる! ビル壁面を蹴った風流は冥府の紫雲後方に着地し、雨に濡れた地を蹴り紫雲の背に斬りかかった!
「はっ!」
 肩越しに風流を捉えた紫雲の顔を、X字に生えた水柱が遮る。二刀斬撃を防御した水柱は二本のタコ足に形を変え、風流を打ち払った。弾き飛ばされながらも地に足をつける風流。直後、彼女の足元の水が複数の触手を放出! 触手は風流の首、胴、四肢を締め上げて宙吊りにし、地面の水から巨大なイソギンチャクの形を引き上げる。紫雲は触手を振りほどかんと足掻く風流に冷たい視線を投げかける。
「緑色をした光の翼……思い出したわ。貴女、故郷に来てたヴァルキュリアの一匹ね?」
「……ようやく思い出しましたか」
 風流は雨に打たれ、萎えかける手に力を込める。紫雲は鼻を鳴らした。
「奇遇ね。お互い人の身を得て、こんなところで合うなんて。でも……」
 紫雲が手を握りしめると、イソギンチャクの触手に力がこもり、風流の体が軋みを上げる。
「ぐっ、うっ……!」
「大きく出過ぎではなくて? 群れを成して、ただ逃げ惑うだけだった小蝿が、一匹だけで私に勝とうだなんて。それも、神の力を捨てた定命の身で」
 軽蔑の眼差しを向ける紫雲の前に、四方のビルの隙間から流れてきた紫の水流が寄り集まった。生み出された大きな雫は捻じれながら細長く伸び、一本の長槍を形作った。ひとりでに風流に穂先を向けた水槍の後端に、紫雲の人差し指が触れる。
「でも丁度良かったわ。ちょこまか動いて逃げ惑う貴女達、前々から鬱陶しかったもの。ここで殺して……そうね」
 紫雲の指に押された槍が前に迫り出し、射出! 風流の心臓めがけ一直線に飛んでいく槍に背を向け、紫雲は傘の下から手を伸ばした。
「私のお人形にしてあげる。そのうち、お仲間と一緒に並べてあげるから、安心して死ぬといいわ」
「いいや、そうは行かないね!」
 紫雲が弾かれたように振り返った瞬間、フレデリ・アルフォンス(自由とノブレスオブリージュ・e69627)とリリベル・ホワイトレイン(堕落天・e66820)が風流の前に垂直落下! 腕部装着型キーボードを着けた腕に殴られた地面が金色の爆発を引き起こす! 槍とイソギンチャクごと爆風に吹き飛ばされた風流を、樒・レン(夜鳴鶯・e05621)が抱きとめた。
「夜鳴鶯、只今推参。大事ないか、風流」
「樒さん。……ありがとうございます。助かりました」
 紫雲は掻き消える爆風の中、レインコートをはためかせてドヤ顔を決めるリリベルとフレデリに手をかざす。彼女の周囲に固定された無数の雨粒を、滞空する如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)がビームを連射して消し飛ばした。不愉快な表情をした紫雲は雨水で二本のタコ足を作り出し沙耶のビームを打ち払う。光散らす彼女の背後から飛び出した紫水の巨大ウニが沙耶を襲撃! 沙耶の前に割り込んだジュスティシア・ファーレル(エルフの砲撃騎士・e63719)は剣を突き出し、乙女座の紋様が入った魔法陣を展開。錐揉み回転しながら飛来するウニを食い止めた。魔法陣が激しく明滅!
「影士さん……!」
「引き受けた」
 跳躍した草間・影士(焔拳・e05971)が炎めいたオーラをまとい、巨大ウニをオーバーヘッドキックで蹴り返した! 紫雲の元へ帰ったウニは、彼女が持ち上げた人差し指に触れる寸前で静止し、今度は風流へ飛翔。前に出た天谷・砂太郎(燃え尽きた灰・e00661)はレインコートに突っ込んだ左手を抜き、橙色の雷光を宿す!
「行け」
 突き出した左手掌底が雷撃を投射! 雷の槍がウニを貫き、後ろの紫雲に一直線! だが紫雲の足元の水が盛り上がり、彼女を上空に跳ね飛ばした。真下を突き抜ける電雷を流し見した紫雲の足裏に大量の雨水が凝集し、巨大なクラゲの形を取った。着地した影士は眼鏡とマスクを直しつつ、クラゲの傘に立つ紫雲を見上げた。次いで、濃紫色の暗雲に覆われた空を。
「……嫌な雨だな。状況がそんな気分にさせるのか、それとも奴の能力の影響か。どちらにしろ、こんな雨雲は早く晴らすに限る。……風流」
 影士が肩越しに振り返る。
「二人の因縁は分らないが、少し邪魔をする。どうやら、あれは野放しにできない様だからな」
「ありがとうございます。啖呵を切ったはいいものの、勝算が無くて困っていたところですので」
 そう言って、風流はジュスティシアから受け取ったレインコートに袖を通した。その様を空から見ていた紫雲は不機嫌そうに細まった目で、レインコートを羽織った一同を見下す。
「……無粋ね。そんな恰好でぞろぞろと……見るに堪えないとはこのことかしら?」
「無粋とは、言ってくれますね」
 沙耶がまなじりを逆立て、紫雲を睨んだ。
「人の恰好を嗤うより、ご自分の恰好を見ては如何でしょう。死した他人の肉体を奪い、乗っ取って操るなど……人の尊厳を踏みにじる、唾棄すべき醜悪です」
「雨を降らせる理由は問わん。配下を増やすためにせよ、殺す愉悦を得るためにせよ、貴様をのさばらせていいことにはならないのでな」
 レンが言い切ると同時、一同が一斉に武器を構える。レンは目前に二本指を立て、紫雲を睨んだ。
「今、涅槃へ送り届けてやる。覚悟ッ!」
 直後、地面が震えた。ストリートを挟んで立つ左右のビル群が軋みを上げて傾き始め、紫雲真下のアスファルトが隆起し、ひび割れる。クラゲの上で紫雲が告げる。
「随分な大口を叩くのね。誰を、どこに送ると言ったかしら?」
 亀裂の入ったビル群と地面が爆砕! 巻き散る破片と粉塵の中から巨大な影が現れる。左右に紫水で出来た海竜、地面に紫水のクラーケン。水で作られた怪物達の咆哮が紫の曇天を震わせた。
「死に抱かれて、眠りなさい」
 二匹の海竜が大きく開いた口に紫の水を溜め、激流を放つ! レンが九字印を切ると共に、八人を飲み込んだ紫水のブレスが大渦と化した。だが渦は内側から弾け飛び木の葉の竜巻が出現! 竜巻から飛び出した仲間達の後方、ジュスティシアは巨大な狙撃銃を構える。
「戦闘の開始を確認。援護します」
 撃鉄を鳴らした狙撃銃が八発の光弾を撃ち出した。光の粒子で出来た弾丸は六人と子猫、ミミックに命中し光粒の翼を形成。一気に加速した面々はクラーケンが振り下ろす触手をかわして紫雲へ飛翔! ただ一人、沙耶は後方下を振り返る!
「先に行って下さい。後ろは私が」
 大型ライフルの銃口が純白の光を湛え、吠えながら襲い来る二匹の海竜を狙う。薙ぐように放たれた光線に撫でられた海竜二匹とクラーケンはたちまち凍結、巨大な氷像と化した! 一方、紫雲は周囲にドリルじみた水流を四つ生み出し、向かってくるケルベロスにけしかける。先頭に躍り出たフレデリが両手を広げた。
「食らわせるか!」
 三重レインコートからはみ出た手の平が輝き、オーロラじみた光壁を召喚! 光壁は直撃したドリル水流を真っ向から受け止め、真っ白い火花と電光を散らす。フレデリは背後を見返った。
「穴空けるから上手く抜けてくれ! 当たるなよ!」
「あいよ。じゃ、野郎二人でお嬢さんのエスコートとするか」
「了解した。風流、リリベル、ついて来てくれ」
 拳に稲妻を溜めた砂太郎と炎めいたオーラをまとった影士が光壁へ飛び込んだ。壁に空いた穴を抜け、水流をすり抜けて紫雲に突っ込む! 紫雲は指を振り、二人の前に巨大なクラゲを立てじみて出現させた。減速もせず身構える二人!
「押し通る」
「ああ」
 クラゲに突き刺さる雷の拳と炎の飛び蹴り! 電気と炎を流し込まれたクラゲはボコボコと膨れ上がり爆散蒸発! 立ち込める紫の水蒸気から紫水のシャチが飛び出し、砂太郎と影士に尻尾を叩きつけ地面に落とした。二人に墜落され砕け散るクラーケンの氷像。雄叫びを上げるシャチ!
「虫はそこがお似合いね」
 侮蔑的につぶやく紫雲の前でシャチの首が斬り飛ばされた。ホイールソーめいて高速回転したリリベルが紫雲に肉迫!
「絶対安置で芋&キャリーとかさあ、流石にナンセンス過ぎない!」
 腕を薙いでクラゲバリアを再召喚! クラゲの傘をぶち抜いたリリベルは噛みついてくるシャチの口を両手両足で支え、引きつった顔で精一杯の笑顔を作る。
「シロハと葵原さーん。やっちゃえ」
 背後に回っていた子猫のシロハが紫雲をアッパーカットじみて引っかく! 開いた背中に刻まれる赤い筋。よろめいた紫雲の傘、ドクロの石突の目が光り、傘の下から腕の骨と骨剣型の影を伸ばす。影の斬撃がシロハを斬り捨てたところへ、風流がガラ空きになった紫雲のうなじに剣を振りかぶる!
「そこです」
 一閃! しかし刃は首に食い込む寸前で黒く光る葉に止められていた。影の剣が風流に反撃! レインコートごと腕を浅く裂かれ、飛び下がる風流を二本に増えた影剣持つ手が追いすがる。二刀流斬撃同士の高速剣戟が雨粒と火花を散らすが、僅かに押された風流の足や肩に鉤裂きが生まれ、傷口を死の雨が濡らしていく。紫雲は風流に背を向けたまま棒立ちだ!
「くっ……!」
「風流さん!」
 高所を取った沙耶がクリアグレーの光弾を三連で放つ。紫雲を狙った弾丸はしかし、横合いから飛んできた紫水のシャチが一口に飲み込んだ。シャチは空中で激しい渦に早変わりし、形態変化。ポセイドンの姿へ!
「たとえ誰が何人集まろうとも、無駄なこと」
 咆哮したポセイドンは周囲の雨水を吸いこんで巨大化し、先端にリリベルを閉じ込めた三叉矛を振り上げ、沙耶の頭上に突き下ろす! ドリルじみた水流をまとったそれを、割り込んだフレデリが聖なる光を込めた拳で殴り返すが、押し負けて沙耶ごと地面に打ち下ろされた! アスファルトを巻き上げる渦を横目に、ジュスティシアが次弾装填!
「レンさん」
「承知した!」
 印を切るレンを後ろに、ジュスティシアは紫雲を狙撃! 徹甲弾が生み出されたクラゲバリアを貫通し、紫雲の右頬を裂いて傘に風穴を空けた。風流と打ち合う剣が彼女の胴をX字に斬り、真下に叩き落とす! 木の葉の竜巻で三叉矛を弾き飛ばしたレンがそちらを振り返った。
「風流!」
 その時、地鳴りが響いた。震える大地を下に、紫雲は傘に空いた穴から空を見上げる。
「雨が降り、風が吹き、定命の者は死んでいく。それが理。そして死した魂を集めた冥府が私達。私は死した海の防人にして、弔いの雨」
 地に立つ八人の四方を紫の大津波が取り囲む! 上空では紫水の海神が超巨大な水球を指先に作り出し、天高く掲げていた。紫雲は赤い目を細め、冷酷に言い放った。
「眠りなさい。静謐な死の海の底で」
 ドーム状にケルベロスを囲う津波の頂上に、ポセイドンが水球を投げ落とした! 大津波のドームが潰れ、爆裂! 天を突く紫の大竜巻がまき散らす水飛沫を浴びながら、紫雲は だが次の瞬間、紫の大竜巻が半ばから金色の爆炎と木の葉が噴き出した! 炎の中から飛び出した影士と砂太郎が、燃えるロッドと電気まとう左手を前に突き出す!
「死神だろうが、冥府の紫雲だろうが、全てこの炎で燃え散らす。覚悟は出来たか!」
「ま、出来てなけりゃあご愁傷様だ。殺らせてもらう」
 橙の電光と紅蓮の炎が膨れ上がり、同時に放射! 雷と炎は絡み合い、龍の姿を以って紫雲を襲う。迎撃に入るポセイドンを照らす眩い閃光。皇帝のタロットカードを掲げた沙耶が声高に声高に命じた。
「貴方の運命に、皇帝の権限を以って命じます! 『止まれ』っ!」
 停止したポセイドンの胸に雷炎龍が突っ込み、上半身を爆散せしめる。飛び散る水飛沫を浴びながら紫雲の懐に飛び込む風流! 表情ひとつ変えぬ紫雲の傘、石突のドクロの瞳が再度瞬くと同時に、彼女の真下に待機していたミミックが大口を開けエクトプラズムの武器群を真上に掃射! 足場のクラゲが下から穿たれ、貫通した霊魂の刃が紫雲の体を、傘を斬り裂き体勢を崩す。風流は二刀を握りしめ、振るう!
「はっ!」
 右の剣を薙いで傘の柄を真っ二つに割り、左の剣で少女の胴体を袈裟掛けに引き裂く。そしてサマーソルトキックで傘の上部を蹴り飛ばした! 布をズタズタにされた傘が弧を描いて落ちていく中、少女が絶叫。甲高い悲鳴と共に少女の胸が紫色の雲を噴出し、巨大なアメフラシが姿を現した!
「お久しぶりです、冥府の紫雲。やはりそちらの方が似合っていますよ」
 巨体を見上げ、短く言い捨てた風流は右の剣を逆手に持って回転! 縦になったアメフラシの体を斬り裂きながら駆け上がり、顎下から頭上に抜ける。ジュスティシアが風流の背中に光粒の弾丸を狙撃! 続いてフレデリがスイッチを握り込み、彼に背負われたリリベルがだるそうに持ち上げた手に炎を灯す。
「決めろ! 通り雨はこれで終わりだ!」
「ファイトー。そーれ、燃え上がれー」
 リリベルが投げた炎が鳥の形状になり、光粒弾を背に受けた風流に直撃した。炎と光粒で作られた大翼を広げた風流は剣を垂直に構え、紫雲の本体を見下ろす。金色の爆発に背中を押された風流は垂直降下し、アメフラシの顔面に刀を振り下ろした! 刃がアメフラシの体を上から下まで斬り開く。両断された冥府の紫雲は、甲高い断末魔を上げて爆発四散した。


 暗雲が消え、晴れた夕焼けの空の下。ヒールされたストリートの片隅で、目を閉じ手を組んだ少女の遺体が横たわっている。服や傷は修復住み。少女の傍らに片膝立ちしていたジュスティシアは、ゆっくりと立ち上がった。
「こんなところでしょうか」
「お疲れ様です、ジュスティシアさん。これで、弔ってあげられますね」
 沙耶が悲しげに死に顔を見下ろす。リリベルは後ろ頭を掻きながら、声を上げた。
「あー、一応遺族さんとか探してみるー? 見つかるかどうか微妙だけど」
「それがいい。帰るべき場所があるなら、そこに戻してやるべきだろう」
 眼鏡とマスクを外して影士が言う。フレデリは神妙な顔をする。
「じゃ、本格的な葬儀は後回しだな。この子の家の宗教とかはわからないが……とりあえず、聖歌のひとつでも歌っていいか? このままってのもなんだろ」
「風流嬢」
 砂太郎に目配せされ、風流はうなずく。
「私の敵は冥府の紫雲でしたので。彼女は被害者です」
「そうか。……じゃ、みんな。彼女に祈りを」
 フレデリに促され、一同は黙祷する。片合掌したレンは小さく呟いた。
「ようやく解放されたな。今度こそ静かな眠りを。我らが星の重力に包まれてあれ」
 夕日に、穏やかな聖歌が静かに響き渡っていった。

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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