スネグーラチカの絡繰歌

作者:柚烏

 ――それは、或る冬の真夜中のこと。降り積もる白雪のヴェールは、ささやかな音さえ呑み込んで、痛いほどの静寂を辺りに齎している。
 そして、郊外にある古びたお屋敷でもまた、朽木が軋む音や窓枠が揺れる音に紛れて――かさりかさりと蜘蛛足を動かす、ちいさなダモクレスの音を覆い隠してしまっていたのだった。
 ――カタ、カタカタカタ。
 うず高く埃の積もった物置部屋、其処に忘れ去られたまま放置されていたのは、機械仕掛けのオートマタ。嘗ての優美な姿を、辛うじて偲ばせるぼろぼろの自動人形は、潜り込んだダモクレスによって新たないのちを与えられる。
『……ア、アア。ウタヲ、ワタシノウタヲ、キイテ』
 ――艶やかないろを取り戻した白銀の髪と、雪結晶の如く澄んだ硝子の瞳が、雪明りに浮かび上がって。やがて、ぱちりと瞬きをしてから身を起こした少女人形の動きは、ひとと寸分違わぬ滑らかなものだった。
 その唇から紡がれるオルゴールの音色は、儚くも冷たく辺りに反響し――粉々に砕かれた窓硝子から吹き込む雪を従え、無慈悲なダモクレスと化したオートマタは、主無き館をゆっくりと後にする。
 そう――嘗て『雪の妖精』と称された姿そのままに、ひとびとを襲い、グラビティ・チェインを奪うため。

 季節が幾ら廻ろうとも、騒動の種は変わらずにそこかしこに眠っているものらしい。年の瀬が近づき、慌ただしさが増してきた中ではあるが――ダモクレスの事件が予知されたのだと、エリオット・ワーズワース(白翠のヘリオライダー・en0051)は静かに告げる。
「場所は郊外にある洋館でね。廃墟になって大分経つんだけど……其処に放置されたままのオートマタが、ダモクレスになってしまうんだ」
「オートマタ……と言うと、アンティークっぽい絡繰人形のこと、でしょうか?」
 艶めいた仕草で白銀の髪を掻き上げて問う、一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)に向けて、エリオットはちいさく頷いて。精緻な美貌を持つ、瑛華のような雰囲気だ、とは――流石に言えなかったらしく、曖昧に微笑んでエリオットは誤魔化した。
 ともかく色々と種類はあるみたいだが、今回のものは骨董と言うには新しく、電動で自動演奏を行う機械人形であるとのことだ。
「オルゴールの音色に合わせて、瞬きしたり唇を動かしたりする女の子の人形で、『雪の妖精』と名前がついていたみたいだね」
 ――しかしダモクレスとなった今、その音色は破滅を齎すものへと変わった。その名の通りに雪を操り、容赦なくひとびとを襲う『雪の妖精』を止めて欲しいのだと、エリオットは瑛華たちに討伐を頼む。
「……ダモクレスが市街地に向かう前、現場の洋館で迎え撃って欲しい。嘗ては『人形館』と呼ばれていたみたいだけど、館を手放した際に人形や家具なんかは殆ど撤去されたから、周囲に気を遣ったりしなくて大丈夫だよ」
 敵はダモクレス一体のみ。その攻撃は、元となった電化製品に由来するものとなっていて、今回はオルゴールの音色を広範囲に響かせてくる。主に氷によって、身動きを取れなくしてくるだろうから、気をつけて欲しいとエリオットは言った。
「……雪の妖精、ですか。以前は愛らしい人形だったのでしょうけれど、全てを凍らせてしまうのは本意ではない筈、ですよね」
 ――そう、未だ冬はやって来たばかり。静謐を取り戻すため終焉の弾丸を贈ろうと、瑛華は指先を銃の形に曲げ――そして鈴の音のような声で、ぽつりと呟いた。
「……ばんっ」


参加者
キース・クレイノア(送り屋・e01393)
ジゼル・クラウン(ルチルクォーツ・e01651)
アルルカン・ハーレクイン(灰狐狼・e07000)
一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)
蓮水・志苑(六出花・e14436)
藍染・夜(蒼風聲・e20064)
左潟・十郎(落果・e25634)

■リプレイ

●静謐と孤独
 しんしんと静かに雪が降り積もる夜――夜の闇に浮かぶ雪の白は、僅かな灯りさえも反射して、辺りを仄かに浮かび上がらせてくれる。
(「……冬で一番好きな、景色」)
 雪明りが己の往く道を照らしてくれるような気がして、蓮水・志苑(六出花・e14436)は紫の瞳を微かに和らげた。静謐さを湛えた夜の世界の中で、時に聴こえる音は星囁きだろうか――それとも、誰かの口ずさむ歌声なのだろうか。
(「ああ……雪は余りに冷たく、そして美しい彩だね」)
 一方のラウル・フェルディナンド(缺星・e01243)は、その柔和な美貌にひとさじの悲哀を滲ませて、空から降る六花の欠片に手を伸ばした。それは己の心に広がる、寂しさや悲しみ――そして死の痛みすら、静謐を孕みながら無垢な白で覆い隠してくれる。
「雪の降る季節は、良いものですよね。空に舞い散る花、静謐の白……自分しかいない思考の世界へ沈むには丁度良い」
 そんなラウルらの想いを汲み取ったように、道化めいた調子で朗々と語るのはアルルカン・ハーレクイン(灰狐狼・e07000)。灰色の髪にまぶされた雪を優雅に振り払うと、彼は表情を一転――獣の鋭さを宿した瞳で、行く手に聳える屋敷を見遣る。
「……なんて、感傷的な気分は置いときまして。番犬としての一仕事、少しは熱を取り戻すと致しましょう」
「ああ……寒いのは苦手でね。手早く済ませるとしよう」
 外套の襟を掻き合わせつつ、淡々と告げるジゼル・クラウン(ルチルクォーツ・e01651)の唇からは、白く凝った吐息が夜に溶けていって。機械の半身を持つ自分でも、熱い血が通っているのだと不意に思い知らされたような気がしたが、そんな感情もおくびに出さずにジゼルは扉に手を掛けた。
「此処が嘗て、人形館と呼ばれた屋敷か……って、魚さん」
 廃墟と化した屋敷を、茫洋としたまなざしで見渡すキース・クレイノア(送り屋・e01393)だったが、シャーマンズゴーストの魚さんはふらふらと、さっそく好奇心の赴くまま歩き出そうとしている。
「……人形館って言われていたけど、撤去されて人形は残っていないから。探しても無いから」
 ちょっぴりお馬鹿なのはいつものことだと、魚さんの手を引くキースはしかし、館に残るたったひとつの人形のことを考えずには居られなかった。
「雪の妖精……スネグーラチカとでも、呼ぶべきだろうか」
 ――それは、ダモクレスへと変貌した少女のオートマタに付けられていた名前で。その名を耳にした、一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)はややあってから、こくりと首を傾げて空を見上げた。
「確か、ロシアで言うところのサンタクロースと関係があったような……」
「ジェド・マロースの孫娘。雪で作られ命を吹き込まれた少女のこと、だね」
 淀みなく問いに答えた藍染・夜(蒼風聲・e20064)はきっと、彼女がダモクレスと化した境遇に、皮肉めいたものを感じていたのかも知れない。掲げる灯りは鳥籠を模した洋灯であり――それは館に閉じ込められたままの歌姫と、少し似ているような気がした。
(「童話めく名を持つ人形……嘗ては、大層愛でられた事だろう」)
 しかし、忘れ棄て置かれた末路を思った夜は、一度きりの瞑目をして。一方で、隣を歩く左潟・十郎(落果・e25634)はと言えば、少女人形の辿った運命に複雑な感情を抱いているようだ。
(「彼女を愛した主人は、何処へ行ってしまったやら。こんな所に一人置き去りでは、さぞ寂しかったろう」)
 どんな経緯で、此処が廃墟となったのかは分からない。何か、やむを得ない事情があったのかも知れないが――それでも取り残される孤独は、十郎にとって十分に理解出来るものだった。
(「六花纏う少女の唇が紡ぐのは、大切な誰かへと贈る歌――」)
 其々の用意した灯りが、朽ちた屋敷の広間を幻想的に浮かび上がらせる中、ラウルの瞳は廊下の向こうから吹き込んでくる雪の切れ端を捉える。カタリ、カタリと規則正しい音を立てて、純白のドレスを靡かせ此方に近づいてくるのは――雪の妖精の如く繊細な、オートマタのダモクレスだった。
(「――白銀の彩りを抱いた唄だったのかな」)
 その少女人形のダモクレスは、ゆっくりと首を巡らせて侵入者を確認すると、身も心も凍らせるべくオルゴールの調べを奏で始める。ああ、今は嘗ての音色とは違うのだと、ラウルが切なげに武器を構え――一方で瑛華は、オートマタの相貌に幼い頃の自分を重ねつつ、愛用の銃を手に取った。
「……少し、似ているでしょうか。わたしも銃を握ることが無かったのなら、彼女と同じように、うたっていたのかもしれませんね」
 ――白銀の髪と青の瞳、その身に宿る色彩は同じ。しかし瑛華は銃を手に取ることを選び、普通の生活は捨ててしまった。だから自分はもう、彼女のようにはうたえない。
「――目一杯歌うと良い、どうか心残りの無いように」
 そんな中で十郎は、不愛想ながらも精一杯オートマタへと言葉を投げかけ、今夜は自分達が観客になってやると頷いた。
「凍てつく刃だろうと、構やしねぇさ。受け止めてやる」
 きっとそれはラウルやキース、仲間たち皆の想いだ。ジゼルが足元にばら撒いたケミカルライトが、色とりどりの光で辺りを幻想的に浮かび上がらせると、夜の操る刃が宵闇を裂いて煌めいた。
「……さあ、終焉の舞台の幕を開けよう」
 ――その一閃は風の歌聲を思わせる、静謐な宵に響く羽搏きを生んで。今宵、スネグーラチカのラストステージが密やかに幕を開けた。

●雪の妖精はうたう
『ウタ、ウ……ワタシハ、ウタヲ……』
 ――吹雪と氷を従えて、オートマタのダモクレスは軽やかな仕草で踊り、歌う。これは随分と荒っぽい舞台になりそうだと、アルルカンは口の端を上げて竜鎚を振りかぶった。
「……さて、本格的な冬が訪れる前に『雪の妖精』だったモノを、あるべき所へ還そうではありませんか」
 轟音と共に放たれた砲弾が、ダモクレスの足を縫い止める中――間髪入れずにラウルの生成した魔弾が踊るように宙を舞い、驟雨の如く降り注ぐ。
「その凍てる声音が命を散らさぬよう、雪花咲かせるお嬢さんの歌が尽きるまで付き合うよ」
 戦場を彩るその綺羅星の群れは、標的の四肢を穿ち地に縫い止めていって。更に志苑が後方の付与を確固たるものにするべく、美しくも儚き幻影の術を紡いでいった。
「ああ、本当に雪の妖精のよう。……そうだったのですよね、嘗ては」
 はらはらと舞い散る桜花のまぼろしの向こうで歌う、ダモクレスへと投げかける志苑の言葉は、とても静かで慈しみに満ちている。出来れば余り傷つけること無く、美しい姿のまま静かに眠って欲しい、と――彼女が抱いた願いを、瑛華もまた持ち合わせていたらしい。
(「……格闘戦を仕掛ける方が楽そうですが、今回はやめましょう」)
 ――オートマタの少女を殴るのは、何だか気が引けてしまうので。そっとそう呟いた瑛華だったが、手心を加える気は更々ない。
「狙撃手として、あなたを殺します」
 最適な位置を割り出して態勢を整えた後で、計算し尽くされた瑛華の跳弾が、死角よりダモクレスに襲い掛かった。瞬間、氷の砕けるような音と共に、陶器の肌に細かなひびが入ったものの――少女人形は顔色ひとつ変えずに淡々と、オルゴールの音色を響かせ此方を凍えさせてくる。
(「誰もいなくなってもそうしてキミは、仕事を全うしようとするのだね」)
 雷の壁を構築し、仲間たちを護るジゼルの貌に一瞬、慈しむような微笑みが浮かんだが――彼女は直ぐに表情を消し、淡々と己の役割を果たすべく戦線の維持に努めていった。共に皆の盾となるキースも、魚さんと協力して耐性を高めていき、氷の呪縛や麻痺と言った脅威から仲間たちを庇う。
(「歌を聴いて欲しい。その想いはどんなに一途だったろう」)
 吹き付ける六花の冷たさにも怯まずに、十郎は真っ直ぐに『雪の妖精』を見据え、自問していた。何故一人置いて行かれたのかと、何度問いかけても答えは出ないまま――だけど。
(「もう要らない? 俺と、同じ?」)
 ――寒さでかじかんだ手が、酷く冷たい。時折夢に見る過去を思い出した十郎は、咄嗟に己の身を掻き抱こうとしたものの、ゆっくりと頭を振って思考を払った。
(「……いや」)
 目の前で優雅に刃を振るう、夜の姿を見つめる十郎のまなざしには最早、迷いは無い。自分が背を護っていてくれること――それがとても心強いと、夜の背中は無言で語っていたから。ならば此方も、攻撃に集中している夜の信頼に応える為、回復に注力しようと誓う。
(「そしてどうか、真白の少女に本当の静穏が訪れるように――願うよ」)

●ラスト・ソング
 十郎の解き放った光輝く粒子が薄闇を照らし、仲間たちの感覚を研ぎ澄ませていく中で、一方のダモクレスの少女は得意の回避能力を封じられていた。これならば、確実に攻撃を当てて一気に決着をつけられる――そう判断を下した一行は、迅速に行動を開始する。
「その体を血に染める前に、貴方は美しい雪の妖精のままで居て下さい」
 氷の霊力が宿る刀で以って、霊体のみを侵食する斬撃を繰り出すのは志苑。雪女憑きと謂れのある霊刀で、雪の妖精を斬り伏せることに複雑な感情を抱きつつも、その剣先には些かの迷いも無い。
「どうか静謐なる雪と共に、此処でお眠り下さい」
 ――そして、まるで姿無き歌声に合わせるようにアルルカンが無音の剣舞を披露し、無数の花弁の幻想がダモクレスに襲い掛かった。その美しき呪縛を、更に確かなものとするべくジゼルが妖精の一矢を放つと――ラウルは呪詛を孕んだ妖刀を制しつつ、月の弧を描く刃をダモクレスへと振り下ろす。
(「……雪は冷たくも美しい。でも、今はそれだけじゃない」)
 笑うように舞う柔らかな雪には、心を燈してくれる優しさが――寒さの中に命を繋ぐ温もりが在ると、彼は知っていた。忘れていたその感情を、思い出させてくれた人とラウルは出逢えた。だから――。
(「雪色宿す少女も最期に、優しく奏でる本当の唄を思い出せるように……」)
 今はただ、凍てつき生命を奪う為の歌を繰り返す、自動人形に成り果ててしまったけれど――地獄と化した心の焔をしるべに変えるキースも、雪の妖精の終わりを送ってあげようと、もう一度皆に力を与えようと、人差し指に癒しの炎を灯す。
「……胸にある全部、歌い切って。どうぞ、優しい爺様の待つ場所へ」
「ああ、君が歌う最後の調べは、人を傷つけるものと成り果ててしまったが」
 祈るような十郎の囁きに、静かな夜の声が重なって。雷の霊力を纏う刺突を繰り出した夜は、ダモクレスの装甲を削いだ後、その幕引きを瑛華へと託した。
「降り積む真白のヴェールが、其の罪を雪ぐから。ジェド・マロースの待つ天へ還そう」
 ――きっと瑛華の放つ弾丸の軌跡が、永遠の安らぎへと導いてくれる。その声に送り出されるようにして、ダモクレスの元へ駆け出す瑛華の腕からは、グラビティで生成された鎖が伸びて。互いを縛りつけたふたりは決死戦を演じ――その刹那、彼女の脳裏には幼い頃の思い出が蘇っていた。
(「……あれは、雪降るクリスマス」)
 病院で過ごしていた自分へ、面会に来てくれる父はたった一人の家族であり、その来訪をまるでサンタクロースが来るように待ちわびていたこと。けれどいつかの冬は、幾ら外を眺めていても父が来ることはなくて――後に、父は死んだのだと聞かされたこと。
(「記憶に霞がかかるくらい、とおいむかしのこと」)
 それから復讐の為に銃を取ったことを、瑛華はゆっくりと思い出す。自分が父親に会えるのは、この世界を生き切った後になるだろうが――『雪の妖精』は、スネグーラチカは一足先に、空の果てで大切なひとと会えるようにと、引き金を手にただ願う。
「良い、夢を」
 ――乾いた銃声に混じって、遠い場所から鈴の音が聞こえたような気がした。うたが止み、オートマタのダモクレスの身体が雪結晶のように砕け散っていく中、ジゼルはそっと彼女に労いの言葉を掛ける。
「長い間お疲れ様。キミはゆっくりと、お休み」

●冬空の下、紡ぐ言葉
 再び静寂を取り戻した館を振り仰いで、ラウルは今宵の出来事をゆっくりと思い返していた。いのちを吹き込まれた少女の人形が、最後の歌をうたった舞台――なんて言うと、まるで御伽噺みたいだったけれど。
「俺は此の雪降る宵を忘れないよ、ありがとう」
 一方、ぽつりと雪の中に佇むキースが想うのは、はるか遠い北の故郷のことだ。今はもう帰ることも出来ないけれど、其処も夜は静かで辺り一面真っ白で――雪の妖精の話だって、信じられていた。
「とても美しかったと、思う」
 もう、故郷の皆に会うことは出来ないけれど――降り積もる雪も、雪の妖精も、キースにとっては珍しいものでは無かったけれど。その音色も歌声も、とても綺麗だったと彼は呟く。
「おまえはとても、美しかった」
 ――オートマタが消え行く際、煌めく結晶に手を伸ばしたのだと思った。しかし、どうやら触れたのは吹き込む雪の欠片だったらしい。掌で光る雫をそっと拭ってから、夜は外套の襟を合わせて外へ出る。
「寒いな」
「……けれど、冬の厳しさは嫌いではないよ」
 先に外で待っていた十郎が声を掛けるが、その面差しが何処か沈んでいるような気がして、夜は静かに微笑んだ。その貌が重い心を掬ってくれたのか、十郎はやがてぽつりぽつりと言葉を紡いでいく。
「俺も、冬の厳しさや静けさは好きだ。拒むとも包み込むとも思えて……皆平等に」
「でも、やがて冬を越え、天上から降り注ぐ陽光が氷を融かし、水は大地を潤す。そうして芽吹きを……春を呼ぶだろう」
 ――そう、いずれ春は来る。けれど溶け消えた雪のこともきっと、忘れないだろうさ。そう言った十郎に、夜は優しく頷いた。
「あぁ、忘れない。……その雪水は、スネグーラチカからの祝福の歌だから」
 会えて良かった、君が傍に居てくれて嬉しいのだと呟き――そして未来に幸いあれと願いを交わすふたりを、遠くから見つめていた瑛華は、やがて空を仰いで左手を天へと伸ばす。
 ――嘗て一発の弾丸に全てを奪われて。そして今、一発の弾丸で何かを救えたのだろうかと自問しながら、瑛華は見えない銃の引き金をひいた。
「……ばんっ」

作者:柚烏 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 0
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