輝きの夜

作者:志羽

●輝きの夜
 クリスマスマーケットで賑わう通り――その、影で。
 賑やかな通りより一歩はいれば、そこは表と裏のように静謐。
 何かの建設予定地なのか、ぽっかりと空いた土地。その端に雑多に摘まれたものがある。
 積み重なった段ボールは雨ざらしでもあったのだろう、朽ちてボロボロだ。その中へとぴょんと跳ねてもぐりこむものがいた。
 機械でできた蜘蛛の足。小型ダモクレスは奥の方にあったものへと飛びついた。
 おそらく、どこかの店の店頭に置かれていたライトだったのだろう。
 ぼろぼろのクリスマスツリーに絡まっていたイルミネーションライト。それは周囲の物を巻き込んで――むくりと立ち上がった。
「メッリー! クリィスマスゥ!!」
 クリスマスツリーの形をした、びかびかと眩い光を遠慮なく放つダモクレス。
 それは人の多い通りへと、歩み出したのだった。

●予知
「クリスマスマーケット……シュトーレン……やだおいしそう……シュトーレン……」
 と、端末からあるクリスマスマーケットの情報を拾いつつ、ザザ・コドラ(鴇色・en0050)は溜息零し、これみてーと疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998)へとその画面を見せる。
「ワンコインで色んな料理もあるみたいだな……ホットワインも楽しみだ」
「くっ! 大人だけの楽しみよねお酒は……!」
 そんな、クリスマスマーケット楽しみ談義中の二人の隣で、ダモクレスが現れるのだと、夜浪・イチ(蘇芳のヘリオライダー・en0047)は話始めた。
「お察しの通り、あるクリスマスマーケットの近くなんだ」
 クリスマスマーケットも色々ある。他にも何か起こる場所があるのではというヒコの危惧から予知された事。
 どこかの店で使われていたのか、ツリーに絡まったままで捨てられていたイルミネーションライトがダモクレス化するというのだ。
 まだ被害は出ていないが、このまま放っておけばクリスマスマーケットに現れてしまう。それなれば多くの人々が虐殺されることとなる。
「ということで、クリスマスマーケットが賑わい始める前に、敵を倒してきてほしいんだ」
 ダモクレスが現れるのは、クリスマスマーケットで賑わう通りから少し入った場所。
 何かの建設予定地なのか空地があり、その端に寄せられた段ボールの中からダモクレスは現れるという。
「現れる敵は一体。クリスマスツリーの形をしてるんだけど、びっかびかの電飾……イルミネーションライトが撒きついて、手足をつくって二足歩行。凄く眩しい歩くツリーだよ」
 攻撃方法は、イルミネーションライトを鞭のようにしならせての攻撃。そして目つぶしの如く、ぎらぎらと輝きを放ってくる。
「自己主張激しそうだな」
「あー、なんでもびかびかすればいいってものではないわよね」
 と、ヒコとザザが言葉挟み、そうだねぇとイチも頷いて。
「周囲の人払いはお願いしておくから、そういうのに気を回す必要はないよ。油断したりよっぽどの事がなければ決して難しい相手ではないだろうし」
 だから被害が出る前に対処をお願いするよ、とイチは続けた。
「任せろ、きっちり倒して、きっちり楽しんでくるからな」
 行こうぜ、とヒコは集ったケルベロス達に告げる。
 ダモクレスを相手取るのも大事な仕事だが、クリスマスマーケットを楽しむのも大事な事だと笑って。


参加者
ウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)
疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998)
黒斑・物九郎(ナインライヴス・e04856)
深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)
結城・勇(贋作勇者・e23059)
朝霞・結(紡ぎ結び続く縁・e25547)
終夜・帷(忍天狗・e46162)

■リプレイ

●路地裏に輝く
 その姿は探さずともすぐにわかるほどに。
「……何というかまぁ、随分と自己主張の激しいイルミネーションで。サクッと元に戻してクリスマスマーケット楽しみましょう!!」
 深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)は踏み出した。
「イルミネーションはそこまで主張しなくていい! そこまでいくとうざい!!」
 ルティエはぺかーっと眩しい敵へと、獣化した手をむける。そこには重力が集中され、向けられた一撃は重量のあるもの。
 そしてボクスドラゴンの紅蓮は吐息を見舞う。
 朝霞・結(紡ぎ結び続く縁・e25547)は仲間達が動く合間に、後列の皆へと加護を。
「加護の翼、蒼き焔を纏って、ここに」
 自らのグラビティを蒼く、燃える翼に変えて。そして結のボクスドラゴン、ハコは結へと自らの属性を分け与えていく。
「この時期にツリーの化けモンたぁ季節感があって結構だが、ちぃとばかし派手すぎるみてぇだわな?」
 一般人達に被害がでねぇよう倒しちまおうと結城・勇(贋作勇者・e23059)は攻撃役として動く。
 意気投合し相棒となったオウガメタルが鋼の鬼となる。勇の突きだした拳が、敵の身の一端を打ち砕く。
 けれど輝きは変わらずある。
 夜が長い時期、あちこちで飾られるイルミネーションの灯りは嬉しいものだけど。
「眩しすぎるのは困るね」
 ウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)と零す。それほどに眩いのだ。その眩しさに瞳細めながら、ウォーレンは急所狙って脚を振り上げる。
「クリスマスのかたちで人に危害を与えるなんて、そんなことはさせない」
 注意引きつける様に、すぐ近くに。
 君の相手はここだよと。好きなだけ光においでとウォーレンは紡いだ。
「本当ダモクレスだきゃクリスマス邪魔すんのスキですよなー」
 しかし、黒斑・物九郎(ナインライヴス・e04856)は準備万端だった。
「悪のクリスマスツリーがナンボのモンですかよ」
 こちとら対抗装備でバッチリと掲げてみせたのは。
「ツリーをブッた斬るならコレ! ハイ! チェ~ンソ~剣~!」
 そして。
「あと眩しい光を遮る用ゴーグル! オッケーコレで完璧うおっまぶしっ!」
 と、そちらは完全には処しきれなかった様子。
 しかし今は気にせず攻撃を。
 物九郎は――祟る。
「ブチ折ってやりまさァ! ブチネコだけに!」
 猫にまつわる民間伝承を取捨選択・拡大解釈し実再現する秘奥『信仰の具現化』でもって、敵の輝きを鈍らせた。
 そこへ放たれたのは終夜・帷(忍天狗・e46162)の氷結の螺旋。
 まっすぐ敵に向けられた帷の視線。それが外れる事ないのと同じように、攻撃は敵を捕らえ氷つかせていく。
「……輝くにも限度ってモンがあるだろう。そのナリ、まるで倒して下さいと云わんばかりだぜ」
 狙いやすくてありがたいがと疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998)は零しながら、流星の輝きと重力を脚へ乗せ飛び蹴った。
 何とも景気の良いこったとグレイン・シュリーフェン(森狼・e02868)は零し瞳眇め。
「それにしたって眩しすぎるぜ」
 グレインは大自然のエレメントに働きかけ、力を引き出す。それを向けるのは、紅蓮に。
「貸してくれ、傷つけないための力を」
 展開された球形は守りの、盾の力にもなるもの。
 攻撃を受けた敵は攻撃を繰り出してくるがすでにその力はそぎ落とされている。
 戦いは始まりからケルベロス達優勢だった。

●眩しさの終わり
 一体のみの相手に、ケルベロス達が遅れを取るわけなどもちろん無く確実に攻撃をあて、その体力を削りゆく。
 敵の攻撃ももちろんあったのだが、それで誰かが追い詰められることもない。
「東風ふかば にほひをこせよ 梅の花――……忘れるな、この一撃」
 双翼で起こした辻風と共に蹴撃見舞うはヒコだ。
 命中精度の最も高いその一撃叩き込めば、敵はふらふらと揺れている。
 しかしぶるりと身震いのような動きをして。
「クリスマスゥ、ライッ!」
 と、気合入った声と共に眩しき光をその場に振りまいた。
 その光の眩しさからウォーレンは皆を守るように動く。
 ウォーレンの影より静かに走り込んだのは帷だ。
 構えた忍者刀は突きに特化したもの。その鋭き切っ先は敵の急所を刺し貫く。
「まぶしっ! けど、もう終わりっスよ」
 ぴかっと刺激的な光から脱した物九郎も前へ。
 唸るチェーンソー剣の刃振り下ろせばその枝葉でつくられた手を斬り裂いていく。
 敵の攻撃は、そのまぶしさにより動きを鈍らせてくるものだ。
 だが結は大丈夫と一声かけて、蒼く燃える翼を広げた。
 敵の阻害への耐性と共に、受けた物を払い皆の援護を続ける。
 回復手は、結一人で十分で間に合っていた。
「回復は、不要かな」
 仲間達の様子を見て、ウォーレンは氷の魔力を秘めたチェーンソー剣を唸らせる。その刃は電飾の一端巻き込んで、引き裂いた。
 クリスマスは幸せな日。ツリーが暴れるというのは、ウォーレンにとっては少し悲しい事。
「もうそろそろ、詰めだな」
 グレインもその手に螺旋手裏剣を。
 放たれたそれは螺旋の軌跡を描き、敵を斬り裂いていく。
 攻撃によって敵の姿は目に見えてぼろぼろに。
 よたた、とよろめくところへルティエが走る。
「氷蔓を伸ばしてその身を縛り、氷華を咲かせて絞め殺さん……紅月牙狼・雪藤」
 刃に氷塵を。その斬撃の痕から氷の藤蔓が伸び、巻きついた部分から、氷ついていく。
「ツリーは歩くな……邪魔っ!」
 全体の景色、雰囲気が主役なのであって、お前単体で主役になることはない、と言い切ったルティエ。
 もはや歩みを止められた敵に為す術はない。
「全身全霊の一撃、お前にみせてやるよ!」
 そう声高に告げたは勇だ。
 一時的に召喚するは十二星座それぞれを宿した12本のゾディアックソード。
 勇の周りに浮遊するそれは、号令によってその切っ先を敵へ。宿す星座の幻影と共に空中を舞い、切り裂き貫いて攻撃していく。
 その怒涛の攻撃に敵の身は散り散りになり、やがて倒れた。
 ころんと足元に転がってきた電飾ひとつ、ウォーレンは拾い上げる。うちのツリーに飾ろうと、小さく笑み零しながら。
 人々を楽しませていたであろうものは、人々を傷つけることなく人知れず、果てたのだった。

●きらきら輝く
 何かあったのだろうか――そう思う人々もいる様子。
「何もねぇぜ。もう終わったあとだからな」
 散った散ったとぶっきらぼうに勇は告げる。もうここには何もないのだから、クリスマスマーケットに戻れと。
 そう声をかけつつ、勇はザザへと声かける。
「ちょっとぶらつてみるかい?」
「ええ! 私シュトーレン探してるのよね。美味しそうなのが見つかるといいんだけど」
「片っ端から試食していけばあるんじゃねぇか?」
 その勇の提案に、ザザはそうね! と笑って返す。
 美味しいシュトーレン探しは始まったばかりだ。

 きらきら輝くアクセサリーやオーナメント。
 その店先を結は冷やかしながらも、ひとつふたつと荷物は増えていく。
「これどう?」
 と、結は手にしたアクセサリーを迅へと向けて見せる。
 けれどいまいちと判じて元に戻しては、やっぱり自分のとすぐに決めてしまう。その思い切りの良さに迅は笑みを零していた。
「色々買い込んでたらお腹空いちゃった!」
 ハコと一緒に迅へと結は訴える。それに食事にしましょうと迅は紡ぐ。
 迅はグリューワインとつまめる程度のものを。結はピザとホットチョコレートを。
 口に運べば、この場ならではというのも含めて美味しい。
 結が笑み零す、その挙動一つ一つが酷く彼女を思い出させると迅は思う。
 少しだけ、面影も重なってしまい視線は外れることがない。
 その視線に気付いた結は首をかしげ。
「んー? 顔に何か付いてる?」
「口許、ピザのソース付いてるわよ」
 その言葉にあうあうと小さく結は慌てて手で拭う。それを見た迅はナプキンを差出し、結はありがとうと紡いだ。
 煌びやかな夜に迅は瞳細めて、その素振りに少しだけ懐かしさを貰う。
 何となく、大事にされているのはわかる。そしてなんだかとても懐かしい感じがすると結は迅を見上げるのだが、その理由はまだ知らない。

「彩る光はこうでなくちゃな」
 賑わいの中に足向ければ人々の楽しそうな声。
「お疲れさま」
 と、熾月はぴよとロティを連れてグレインにもふもふぎゅっぎゅ。
「お、ははっこりゃあったかいな」
 グレインはそれに笑って白い息をひとつ。
 そして皆で散策を。クリスマスの贈物やなにやら。
 それぞれ気になるものを買っていけば、一休みのころには荷物がいっぱいだ。
「ホットワインで乾杯もいいかも? ぴよたちはココアとかホットチョコね」
「へへっ、格別の一杯だな」
 仕事を終え、友と飲む。それは格別の一杯以外の何でもない。
 ぴよにクッキー与えながら、ふと向いたのは熾月への荷物。
 熾月はそれに気づいてこれはねと買ったものを見せる。けれど。
「後はナイショ」
 そう言って隠すもの――それが何か。それは用意に察する事ができてグレインも笑って。
「それなら俺も内緒だな」
 そう言いながら、揺れる尻尾は当日が楽しみだと言っているよう。
「今年の終わりも近いなんて信じられないね? 君と桜を見たのもパフェを食べたのも、そんな遠くない記憶みたいなのに」
 言われてみりゃそんなに経つのかとグレインもまた今年の事を思い起こす。
「でも君となら終わる気がしないのも何か不思議」
 その言葉に、きっとこれからも続いていくんだろうなとグレインは返した。
 それは自然な事として、ずっと。

 周囲の片付けも終わり、ルティエはユアと一緒にクリスマスマーケットへ。
 お買い物、と重なった二人の声は楽しげに響く。
「プレゼント、何がいいかなぁ……」
 と、ルティエが視線を巡らせた先。
「あ! ユアさん、月モチーフのアクセが沢山ありますよ!」
「わ、ホントだ~! お月様のモチーフ沢山!」
 示された先にユアは視線向ける。そのうちの一つを手に取って可愛いと呟きつつ目に留まったのは。
「あ! にゃんこのモチーフもあるよ、あるよ♪」
 お土産はやっぱりにゃんこかな? と悩んで楽しんで。
 そして再び廻れば、今度は良い香り。
「おっ、ホットワインある~!」
「温かい飲み物~♪」
 寒い時間にそれは嬉しい物。どうしようかなと店先を覗く。
「ホットワイン……飲んでいいかな、怒られちゃうかな?」
「やや? 今日はボクとルティエさ……ルティエとのおデートだよっ」
 女子会な気分で楽しもうよ! と紡ぐ言葉は少しドキドキとしている。
 親愛を篭めて、その名だけを紡ぐ。
 それはユアなりの、友達としての絆の表現。
「ふふ、そうだね……ユアとデートだ!」
 それにルティエもまた、同じように返して。
 笑いあうその微笑みは、互いに深くなる。

 クリスマスって不思議と千鶴は零す。
 何でだろう、と小さく零した言葉の続きは胸の内に。
 いつもよりどきどきするのは……秘密の片思いのせい? と。
 名前を呼ぶ声に千鶴は顔をあげて、帷のもとへ一目散に。
 その手にはふたり分の飲物とローストチキン。
 いただきますと千鶴はローストチキンを頬張る。
 それは期待通りに美味しくて幸せ。自然と笑顔も零れる。
「帷さん、それお酒?」
 と、帷の手にあるホットワインに千鶴は興味津々。
 いいなあ、と小さく零れたのは、大人にみえたから。
 その視線に駄目、と返し千鶴から見えない様に。けれどこれは代わりと差出されたものがある。
 千鶴が渡されたのはココアだ。一口飲んで甘いとすぐ笑顔満面。
「あっさり嬉しくなっちゃうの、えへへ」
 そう言って照れるように笑む千鶴へと帷は尋ねる。
「千鶴はクリスマス……好き? 俺は好き」
「私もクリスマスは好き。だって、今すごく楽しいから!」
 この少し寒い夜。そしてきらきらと賑わう空気。
 それは心躍るもの。
「ん、俺も楽しい……とても」
 そう静かに紡ぐ帷。千鶴はふふと笑んで悪戯を思いつく。
「帷さん、こっち向いて?」
 呼びかけて、振り向いた瞬間に――その口に星をひとつ運ぶ。
 オレンジピールの星型のチョコ。
「ココアのお返しにあげる」
 星の味、なんだってと笑う千鶴へと帷は頷きながら舌の上でとろかして。
「……星とは、甘酸っぱいものなんだな」
 その言葉に千鶴はそうなの! と今日一番の笑み浮かべた。

「そのヘンでシュトレン買うー! 甘いモンの次はチキン的なの食うー!」
「シュトーレンとチキンいいねー。クリスマスらしさがあるな」
 と、物九郎の言葉にそれもかおうとももは言うが――視線は別のものに。
「だが私はこのクリームとイチゴソースのクリスマス風ワッフルを食う!」
「あっももおねーさんがチョイスされてますワッフルも興味アリ!」
「欲しい?」
 その声に欲しい! と一声。ももはにっこり笑って。
「そっかー欲しいかー、自分で買え」
 ちょっぴり塩対応であっち、と指さし示す。
 そんなやりとり重ねながら、物九郎は年末の準備。
「自宅警備術用にクリスマス系の飾り買いたかったんスよ」
「クリスマスの売り場って見てるだけで楽しいよね。イベントの季節はこうして歩くだけで楽しめるんだよな」
 モミの木ミニチュアの入ったスノーグローブとかー、サンタ捕獲用のデカい靴下とかーと店先で手に取り品定め。
 サンタを捕獲できるサイズの靴下ってもう寝袋じゃない? とももは呆れつつ、これにしようと手に取ったのはシルバーのブレスレット。
「時にももおねーさんは何買われてるんでっしゃろ」
 と、チラ見。その視線にももは気付いて。
「クリスマスらしくないからってあんまりじろじろ見るなよ?」
 そう言って、あっちの靴下の方が大きそうと示せば物九郎の興味はそちらへ。
 その間に――ももはそれを、ふたつ、気づかれぬように。

「迷子にならないように気を付けてね……ってもういないー?」
 と、共にめぐるはずだったリリウムの姿がもうすでにない。
 普段とは異なる様相の街並みに瞳キラキラ輝かせて、わーい! と元気いっぱい楽し気な雰囲気に釣られ駆けだしていったのだ。
 どこだろうと探しつつ巡らせた視線。
 リリウムより先にウォーレンが見つけたのはドーナツ屋台。そしてツリーの形に盛られたドーナツ。
 リリウムちゃんが好きそうー、と思っていればちょこちょこと見覚えのある姿が見える。
「はっ……! ま、またしても迷子になってしまいましたです……!」
 そう零しながら見上げたのはドーナツ屋台。
 迷子という事実にしょんぼりしつつも、鼻をくすぐるココアの甘い香りと大好物のドーナツの香りはリリウムの心くすぐる。
 それに視線釘付けになっていると。
「見つけたー」
「ウォーレンおにーさん! きぐーですねっ」
 聞きなれた声にぱっと振り向けばそこにはウォーレン。
「奇遇かなー? でも見つかって良かった」
 再開の祝杯はドーナツとココアで。
 でも、迷子には気を付けようねと、ウォーレンはほんのり苦言すとリリウムは頷く。
「もーすぐクリスマスですからサンタさんが来てくれるようにいい子にしてます……!」
「うん、良い子にしてたら迷子になってもサンタさんが見つけてくれるよ」
 柔らかに、ウォーレンはリリウムへと微笑む。
 そして今度は手を繋いで、どこに行こうかと歩み始めた。

「よーっす、仕事お疲れさんっと」
「待たせたなっと。さ、早速呑みに行こうぜ」
 笑って市松にひらりとパンフレットを振る。ヒコはもう目星はつけてるんだと、ご機嫌だ。
「クリスマスマーケットなんてお洒落だよなあ」
 一気に飲みたい所だが、今日は大人しく飲むという市松。
 なんたってオレは大人だからなあと紡ぐ言葉にヒコは笑ってそうかいと返した。
 温かな葡萄酒片手に息は白く。
 ふかした芋を持ち上げればとろりとチーズが糸引いた。
 それをはふりと頬張れば、美味いの一言しか出てこない。
「お、美味そうなの食ってんじゃん」
 美味いぞと進めつつ、ヒコの手は市松の皿へも遠慮なく。
「オレにもよこ……あーー、先手を取られちまった!」
 悔しがりつつ、こっちはライプクーヘンっつーやつらしいぜーと市松は芋にムースをたっぷりつけて口へ。
「ほれ、こっちのリンゴムースもつけてみ?」
「……ん、此方も中々。林檎が不思議と合う」
「だろ? ヒコのもいただき!」
 どれも外れ無し。美味さと寒さで酒が進むと、もう一杯。
 そういや去年もこの時期に飯を食ったなとヒコはその時の事をを思い出す。
 市松はもう一年経つのかいと、時の流れを感じて。
「なあ、今年は市松にとってどんな年だった?」
「今年も相変わらず楽しかったぜ」
 けらりと笑う言葉になら良かったと紡ぐ。
 その居心地の良さに市松はにっと口端上げた。
「おうおう、ヒコのお陰で去年の何倍も何十倍も、美味くて楽しい一年になったぜ!」
「俺はお前の楽しいに貢献出来たなら悪かない一年だったよ」
「来年も嫌って言っても沢山連れ回すからよ、覚悟しとけよー!」
「うし、来年に向けて覚悟を決めておくかね。次の年明けは市松の食いたいモンから食べにいこう」
 その約束忘れねぇからなあ! と市松は今までのお返しとばかりにヒコの皿に手を伸ばす。
 最後の一口は、頂きと。

作者:志羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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