天使の様に舞え

作者:白鳥美鳥

●天使の様に舞え
「今年の冬のオリンピックのフィギュアは良かったな~! 私もあそこまでとはいかなくても良いけど、綺麗な演技をしたいな。……まあ、現実は厳しいけど」
 そんな事を呟きながら冬香は、待ち合わせの昇降口に向かっていた。鞄にはスケートシューズ。これから練習に行くのだ。
「あなた、悩みを抱えているのね? もし良かったら、私に話してくれないかしら?」
「え?」
 見知らぬ女学生に声をかけられた冬香は、何故か彼女に悩みを打ち明けてしまう。
「あのね、私、フィギュアスケートをやっているんだ。でもね、中々、良い演技が出来なくて……頑張ってるんだけどね。難しいね」
「そうなの? 演技が上手な人……例えば、身近な人ではどんな人かしら?」
「うーん、やっぱり一緒に練習してる彩絵ちゃんかな。同い年なんだけどね、凄く綺麗な演技をするんだ。あんな風に出来たらって憧れちゃう」
 その言葉に女学生は薄く微笑む。
「だったら、その理想の自分になる為に、その理想を奪えば良いのよ」
 そう言うと、女学生は冬香の心臓を鍵で突く。崩れ落ちていく冬香の傍には天使の様な可愛らしい衣装を纏ったドリームイーターが生れたのだった。

「冬香ちゃん、遅いなあ……」
 昇降口で冬香を待つ彩絵の前にドリームイーターが現れると彼女に襲い掛かったのだった。

●ヘリオライダーより
「みんなの中にもフィギュアスケートが好きな人っているんじゃないかな。やるだけじゃなく、演技を見るのもね?」
 デュアル・サーペント(陽だまり猫のヘリオライダー・en0190)は、そう言ってから、事件のあらましを説明する。
「今、日本各地にドリームイーターが出現していてね、高校生の持つ強い夢を奪ってドリームイーターを生み出そうとしているみたいなんだよ。それで、冷泉・椛(ただの女子高生・e65989)が予知した出来事が起きてしまったみたいなんだ。被害者から産み出されたドリームイーターは強力な力を持つんだけど、この夢の源泉である『理想の自分への夢』が弱まる様な説得が出来れば弱体化させる事も出来るんだ。例えば、今のままでも魅力がある、とかね。上手く弱体化させる事が出来れば戦闘を有利に進められるんじゃないかな?」
 デュアルは状況を説明する。
「現場は昇降口。放課後だから、ある程度学生がいると思うし、避難の呼びかけはした方が良いかな? ドリームイーターは、天使みたいな衣装を着たフィギュアスケーターみたいな姿をしている。攻撃方法もそれに則っているみたいだよ。それから、みんなが駆けつけたら、ドリームイーターの興味はみんなの方に向かうから、襲撃を受ける相手を救出するのは難しくないと思う。で、このドリームイーターの弱体化の方法なんだけど……実は、このドリームイーターって被害者の冬香の心と繋がっているんだ。だから、みんなの説得は、直接冬香に届くと思って良い。だから、きつい言葉は冬香が夢を諦めてしまう可能性もあるし、自らの理想を失ってしまう可能性もある。出来れば、冬香が理想に向けて前を向いて進めるように……そんな説得をして貰えたら……そう思うよ」
 デュアルの話を聞いていたミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)は、むむむと頭を悩ませている様である。
「ミーミアもフィギュアスケートを見るのはとっても好きなの。凄く綺麗だから。だから、もっと上手くなりたいし憧れる気持ちもよく分かるのよ。でも、それでお友達同士に悲劇が起こるのは許せないの。ねえ、みんな、冬香ちゃんを助けるために力を貸して欲しいの!」


参加者
四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)
ファルケ・ファイアストン(黒妖犬・e02079)
遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166)
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)
唯織・雅(告死天使・e25132)
黒岩・白(すーぱーぽりす・e28474)
カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)
冷泉・椛(ただの女子高生・e65989)

■リプレイ

●天使の様に舞え
「冬香ちゃん、遅いなあ……」
 昇降口で冬香をまつ彩絵。そんな彼女の前に、天使の様な衣装を纏った少女が踊り出た。
「……え!?」
 突然の出来事に言葉を失う彩絵の手を、唯織・雅(告死天使・e25132)が引く。
「冬香さんは、私達が……保護します。貴女は、避難を」
「は、はい」
 雅は一度、彩絵を安全な場所へと誘導する。一方で、イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)とカロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)、そして冷泉・椛(ただの女子高生・e65989)が、下校中の生徒達に避難を呼びかけた。
「邪魔……するの?」
 天使の様なドリームイーターは、現れたドリームイーターに対して問う。
「冬香さん! 貴女の理想は、彩絵さんの命を奪うことで実現するんですか!? 奪ってしまえば、そこで全てお終いです! 彼女と共に高みを目指すことも、笑い合うことも出来なくなるんですよ!」
 イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)の言葉に、ドリームイーターは言葉に詰まる。
「彩絵ちゃんと一緒に笑いあう事が出来なくなる……それは、嫌。……でも……」
 冬香と繋がっているドリームイーターは、それに対して拒否感がある様だ。しかし、このドリームイーターは、そもそも理想を奪うために生れてきた。だから、理想に対して直ぐに諦めがつく訳では無いらしい。そんなドリームイーターに対して、カロンが言葉を重ねる。
「理想を奪うことが君のやりたかった事なのかい? その手を汚してしまえば、君は二度と舞台には上がれない。目標としていたはずの、彩絵さんの演技を見ることも出来なくなりますね」
「……彩絵ちゃんの演技が見れない」
 四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)も言葉をかける。
「自分の理想、満足する演技。それは奪うことで手に入るものなのか? 彼女の演技は彼女のものであって、奪ったところでコピーでしかない」
「コピー? ……ううん、コピーになりたい訳じゃない。彩絵ちゃん自身になりたい訳じゃないの」
 揺れるドリームイーターに、黒岩・白(すーぱーぽりす・e28474)も声をかける。
「ゴールだけ見て、コースを見失っちゃいないっスか? あるいは、ゴールを勘違いしてたり。……たとえその人になれても、その先はどうするんスか? その先を示してくれるものはなくなるっスよ?」
「彩絵ちゃんは……私の……冬香のライバルで……一緒に頑張ってて……元々、一緒に更なる先を目指していて……。彩絵ちゃんみたいになりたいけど……それは彩絵ちゃんが一緒にいるからで……」
 そんなドリームイーターに、沙雪はもう一度声をかける。
「彼女と共に切磋琢磨してきたんだろう。近づきたくて君も頑張ってきたんだろう?」
 こくりと、ドリームイーターは頷く。
「……うん。一緒に頑張ってきた。多分、一人では出来ない」
「人の力を奪ってした演技はもう冬香さんの演技じゃないし、今まで冬香さんのしてきた努力が無駄になっちゃうよ。それに自分の力でした演技だからこそ満足感が出ると思うんだ……!」
「……うん。やっぱり、自分がやってこそ、だよね」
 椛の言葉に、ドリームイーターの心の揺れは更に大きくなる。雅も言葉を紡ぐ。
「私は、フィギュアスケートの事は。良く知りませんが……技術とは、誰かでは無く……自分との戦いでは、ないでしょうか? 自分が満足できる、演技を目指す。正しい道だと、思います」
「……自分との戦い……」
 戸惑いをみせるドリームイーターに、遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166)は、自身の体験を元に話し始める。
「わたし、フィギュアをやっていた事があるんです。兄さまが上手で憧れて。……でも、家の都合でやめるしか無くて。兄さまがやめてしまったのは今でもとても残念です……」
「……フィギュアが出来なくなってしまったなんて。そう考えたら私は幸せ者ね。フィギュアそのものが出来るんだもの」
 ドリームイーターは辛そうにしている。大前提であるフィギュアが出来なくなるという事は、とても哀しい事だから。
「だから、分かる事もあります。フィギュアって色んな要素があるでしょう。技術要素と演技構成……ジャンプやスピン、ステップ、それにあなたが憧れている表現力……」
 そう話す鞠緒に、ドリームイーターも頷き、聞いている。
「僕はファルケ。ガンスリンガーなんだ」
 ファルケ・ファイアストン(黒妖犬・e02079)は、まず自己紹介をする。
「僕はスケートはやらないけど、技を極めるって意味ではガンスリンガーも共通点があるよね。好きなことの技術を磨いて、上手な人に憧れる。僕もそうさ。理想のヒーローに憧れた。だったら、倒すべきは憧れの存在じゃないよね」
「……私は」
 どうすれば良いか分からないという顔のドリームイーター。
「冷静に考えてみてほしい。貴方が本当にやりたかったことは何なのか」
「あくまで自分のやり方を、自分の道を見つけるんスよ!」
「貴女の望む道を、しかと。見据えて下さい」
「自分の足で自分の道を切り開いて下さい!」
 カロン、白、雅、イリスが、そう声をかける。そして、最後に鞠緒がドリームイーターの背中を押した。
「ライバルであり一緒に切磋琢磨する友達がいるからこそ楽しく上を目指していけるのではありませんか? 勝たなくちゃいけないのは自分に、です!」
 その言葉に、ドリームイーターは頷く。
「そうだね、そうだよね。……うん、冬香にもみんなの言葉、届いているよ」
 ドリームイーターは、そう言って微笑んだ。
「じゃあ、私の舞も見てくれるかな?」

●天使姿のドリームイーター●
「鞠緒嬢、ミーミア嬢。今依頼でもよろしく」
「はい、こちらこそ」
「沙雪ちゃん、ミーミアも頑張るのよ!」
 戦闘に入る前、沙雪は何度も戦いを共にしている鞠緒とミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)に挨拶を交わす。それに、二人は頷いた。
 そんな中、ドリームイーターは、まるでリンクの上で滑る様に舞い踊り始める。華麗なジャンプやステップが天使の衣装も合わさって魅力的でいつまでもその演技を見ていたくなる様なもので……。
 その魅惑的な演技に、フィギュアを知っているが故に鞠緒の心をかき乱していく。そこに、応援で来てくれていたイッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)がオーラを使って、素早く回復していく。
「流石、見事な踊りだね。さて、素早い相手に上手く当たるかどうか……」
 ファルケは滑る様に動くドリームイーターに向かって凍結の一撃を放つ。ドリームイーターは避けようと動くが何とか当たった感じだ。
「やっぱり素早いね。みんな、確実に狙っていこう」
 愛用のガンナーズハットを押さえながら、敵から離れたファルケは皆に注意を促す。
「分かりました。今は上手く当たる事を願うのみですね」
 そう頷くとイリスは、ドリームイーターに名乗りを上げる。
「銀天剣、イリス・フルーリア―――参ります!」
 イリスは光を集め、それを鎖としてドリームイーターに向かって放つ。同様にドリームイーターはさけようとするが、これも何とか絡みついた。ウイングキャットのセクメトは清らかな風をファルケ達へと送っていく。
「陰陽道四乃森流、四乃森沙雪。参ります。……阿梨、那梨、莵那梨、阿那盧、那履、狗那履……」
 沙雪は、ドリームイーターに向かって神咒を一言ずつ飛ばし、精神を縛っていく。
「これは、あなたの歌。懐い、覚えよ……」
 鞠緒は歌を歌う。本当に求めることを自覚させ考え込ませる様に、と。ウイングキャットのヴェクサシオンは重ねるようにファルケ達に清らかな風を送り、護りの力を高めていく。
 カロンは鞠緒と白に向かって、守護星座による加護を与えていった。雅はファルケ達にオウガ粒子を放って集中力を研ぎ澄ませていく。
 白は大地をも割る強烈な一撃を放つが、こちらは滑る様にドリームイーターがかわしていった。
「うーん、やっぱり、まだまだ素早いっスね」
 舞うように滑るドリームイーターを見ながら、白は言う。それにしても、天使の様に輝き美しく舞うものだ。流石、フィギュアの憧れを元にしたドリームイーターだけある。見惚れてはいけないのだけれど。
「……でも、冬香さんの為に、君はいたらいけないんだよ」
 椛は、自らにも言い聞かせるようにそう言うと、ドラゴニックハンマーを変形させて竜砲弾をドリームイーターへ向かって撃ちこんだ。
 ミーミアは様子を見て、白達へと向かってオウガ粒子を放ち集中力を放っていく。ウイングキャットのシフォンは椛達に向かって清らかな風を送り、加護の力を高めていった。
 プログラムを演じるように踊る様に滑るドリームイーター。それは、いつの間にかメロディも刻んでいく。その音楽は寂しくも悲しくもあり……。だんだんと冷気を纏ったそれはイリスに襲い掛かるが、雅とセクメトがそれを防ぐ。
「大丈夫……ですか?」
「はい、雅さん。ありがとうございます!」
 イリスは雅にお礼を伝えると、魂を啜る呪われた斬撃をドリームイーターへと放つ。雅は今までの状況を見て、オウガ粒子をファルケ達に重ねてかけていった。
 ファルケはリボルバー銃にグラビティ・チェインを乗せるとドリームイーターへと撃ち放つ。見事に命中した。
「みんなのお陰で、しっかり狙えそうだ。とはいえ、油断はしないようにね」
 ファルケの言葉に、皆は頷く。沙雪は御業をドリームイーターへと飛ばして、その動きを封じる。鞠緒は『深空』を歌いはじめる。その音色はドリームイーターの力を削いでいき、ヴェクサシオンは雅達に清らかな風を送っていった。イッパイアッテナはオーラで、カロンもマインドリングを使って光の盾を作り上げて雅を癒していく。
「今度こそ当ててみせるっス」
 白は拳銃を構えた。
「本当の天使ってのを見せてやるっスよ! アリエル降臨!」
 白の拳銃を天に向けて引き金を引く。放たれた銀の弾丸は巨大な機械天使と変形すると、ドリームイーターへと向かって拳で殴りつけた。続けて、椛は素早く剣を振り抜き、グラビティで生まれたカマイタチを放った。
「ファルケちゃんに力をあげるの!」
 ミーミアはファルケに向かって、雷の力を使い、力の底上げを図る。
「ありがとう」
 そう声をかけると、ファルケはドリームイーターを見据える。
「3つ同時に火を吹くぜ!」
 銃を抜きざまに、高速の3発の連射をドリームイーターへ向かって放った。それを受けたドリームイーターは、天使の羽根のようにキラキラと舞い消えていったのだった。

●友達でありライバル
 壊れた昇降口をヒールしつつ、冬香も見つけた。冬香にもヒールを施し、意識を取り戻して貰う事に成功する。
「……すいません、皆さんにご迷惑をおかけして」
 そう謝ってから、冬香ははにかんだ。
「……でも、皆さんの言葉、考えさせられたし……何より嬉しかったです」
 そんな風に言われると、一生懸命説得したかいがあったと思い、ケルベロス達も嬉しくなった。
 また、説明を受けた彩絵も戻ってくる。彼女を見て冬香は戸惑ったが、彩絵は微笑んだ。
「私はケルベロスの皆さんのお陰でこうして無事だし……冬香ちゃんが無事で良かった。……だって、私も冬香ちゃんに憧れる事もあるし……冬香ちゃんがいるから頑張れるんだよ?」
「彩絵ちゃん……。うん、私も彩絵ちゃんがいるから頑張れる。頑張れるんだよ」
 そんな二人をみて、彼女達の深い絆を感じた。

 二人の通うスケートクラブに行く事になった椛達ケルベロス一行。二人のスケートが見たいという事になったのだ。
「冬香ちゃんも彩絵ちゃんも、みんなもお腹空いたと思うの! ミーミア、ホットサンドと温かいココアとか紅茶とかを持って来たの!」
「僕もお弁当を持ってきました」
 ミーミアに続いてカロンも用意してきたコンビニ弁当を広げる。
「うわあ……」
 育ちざかりの冬香と彩絵は目を輝かせた。
「……影響ない程度なら食べても良いかな?」
「……きっと、大丈夫だよ?」
「じゃあ、みんなで一緒に食べましょうなの!」
 広げられたホットサンドやお弁当を皆で食べながら、二人にフィギュアについての話を聞いたりする。何せ、戦ったドリームイーターも見事な舞をしていたので、フィギュアスケートを知らないメンバーも興味を持ったからだ。色々な話をしながら、皆は感じる。冬香と彩絵は本当にフィギュアスケートが好きで、お互いが最高の友達でありライバルであるという事を。笑い合って話す彼女達を見て、事件が無事に解決して嬉しく思う。
 それから、二人のスケートを見に行く。二人は一つ一つの動きの練習を始めた。
(「久しぶりに兄さまを誘って滑りに行きたいな」)
 鞠緒は二人に昔の自分達を重ねる。
「フィギュアスケートの事は良く知りませんが……こうして見ていると二人の演技を見たくなりますね」
「うん、後で見られるか聞いてみようか?」
 興味を示す雅に、椛が笑顔で返す。沙雪、イリア、ファルケ、カロン、白達も優しい笑顔で二人を見つめていた。
 友達でありライバル。きっと二人が互いに高め合いながら素晴らしい演技が見られる事を心から願いながら――。

作者:白鳥美鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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