かの者らは宣った。クリスマスは家族と過ごそう!

作者:東公彦

 そのビルシャナはイルミネーションの準備に忙しい眼下の街並みを見下ろし、きたる日に胸躍らせていた。
「やっぱり、クリスマスは家族と過ごすべきだと思うんです」
 左右の人々に笑いかけ、ビルの屋上その落下防止柵を飛び越えてわずかな足場を平均台のように歩く。
「そりゃ、恋人と過ごすのも良いですけど……。レストランもホテルも人で一杯、予約待ちなんてとこもあるし。ううん、これだってとこに限ってそうなんです。どこに行っても人ばっかりでなんだか落ち着けないし。皆さんもそう思いませんか?」
 ビルシャナが問いかけると居合わせる数人が曖昧に頷く。ビルの角まで行くと、再び方向を変えビルシャナは歩きだした。
「友人と、っていうのも良いですけど。いつものメンバーが揃わないとシラけちゃうんですよね。欠席した理由がクリスマスデートとかだともう最っ低で! これなら会わない方がマシっていうクリスマス会、何度もありましたよ~」
 ビルシャナは泣き笑いといった表情をうかべた。そして踵を返し、屋上の人間、一人々の顔をよくよく見渡し笑いかけた。
「なのでっ、家族と過ごす時間の大切さを理解させ。若い世代の明るい家族計画のためにもっ。クリスマスは家族で過ごしましょう! さぁ布教活動ですよ~!!」
 ビルシャナが屋上から身を投げ大空に舞うと、競って人々も階下へと下って行った。


「家族とクリスマスっすか。嫌じゃないっすけど……毎年それだと寂しいんすよね」
 白い息をはいて黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)がぽつりともらす。
「年に一回のイベント、せっかくなら恋人と過ごしたいっすよね。まぁアテはないんすけど……。皆さんにはビルシャナが説法を始めたところへ乗り込んでもらうっす。ヘリオンを屋上に横づけするんで、どどーっと雪崩れ込んじゃってください。ビルシャナの言葉には強い力があるので放っておくと一般人はすぐに信者化してしまうっす。皆さんの主張で目を覚まさせてあげればいいんすけど……これは中々、賛否わかれそうっすね。まぁなんにせよ」
 恋人がいない人間には辛い時期がやってきたっす。独り身の肌寒さに襟を立てダンテがぼやいた。
「……戦闘予定地点は高層ビルの屋上っす。広さは40m四方ってとこっすかね、飛行できない人は敵の攻撃や自分の行動で落ちないように要注意っすよ。直接のダメージはなくても痛みはあるし、一階から上ってくるのは手間っすからね。屋上にいる一般人は5人で女の子ばかりっす。誰もが教義にはそこそこの興味を持っているみたいっすけど、心酔してるわけじゃないっすから、皆さんの説得によってはコロっと意見を変えちゃうかもしれないっすね」
「ババーンと説得してバシっとビルシャナを倒しちゃいましょうっ。目指せパーフェクトっす!」
 熱っぽく握り拳をつくりダンテが息まいた。


参加者
大弓・言葉(花冠に棘・e00431)
久遠・薫(一罰百戒・e04925)
佐藤・非正規雇用(ひび割れた赤い瞳・e07700)
アリシア・マクリントック(奇跡の狼少女・e14688)
萩原・雅浩(金銀絢爛なる忌み子・e35820)
椚・暁人(吃驚仰天・e41542)
九条・カイム(漂泊の青い羽・e44637)

■リプレイ

「さぁ布教活動ですよ~!!」
 ナナが羽を広げる。と、
「ちょっと待ったぁ~」
 六枚の翼を羽ばたかせ大弓・言葉(花冠に棘・e00431)がゆっくりと屋上に降り立った。ふわりと浮くドレススカートを、きゃっと小さく声をあげ押さえる。こほんと咳払いひとつして、改めて言葉は待ったをかけた。
「ちょっと待った、焦っちゃダメダメ! 私達ケルベロスの言うことも聞いて欲しいの」
「ぶぶー!」
「そうだ鳥野郎!」
 ボクスドラゴン『ぶーちゃん』とガデッサが扉の屋上扉の奥から猛々しく同意の声をあげ、言い終えると即座に隠れた。冷たい目を一人と一匹に投げかけながら久遠・薫(一罰百戒・e04925)は溜め息と共に言葉をはいた。
「その通り、選択肢は多いほうがいいと思います」
 乱入者達に信者は耳を傾けたが、ナナは叫び声をあげる。
「ちょっと、私の邪魔しないでください!」
「それはこっちの台詞だって」
 みんなの予定を邪魔しちゃ駄目だろ。椚・暁人(吃驚仰天・e41542)がたしなめるように言うとナナは頬を赤くしてそっぽを向いた。鳥ながらも女、暁人のかもす雰囲気にほだされてナナはもごもごと口を動かした。
「わ、わかりました。じゃぁ話くらいは聞きます」
「信者の皆さんはもちろん、うざったい鳥さんも聞いてください。まず私が言いたいのは家族の定義です、これをハッキリさせたいですね」
「定義って……家族は家族ですよ!」
 薫が再び溜め息をつく。
「……例えば血の繋がっている人だけを家族とするのか、という意味です」
「そうですよっ、肉親とか親戚までなの? みんなのペットやうちの『ぶーちゃん』だって家で一緒に暮らしてるし、ぬいぐるみは毎日側にいてくれるよ! 毎年来てくれるサンタさんだって親戚の伯父さんみたいなものだし!! それなのに血が繋がってないってだけで家族じゃないっていうの!? ってゆーかリア充に嫉妬しているだけなんじゃないの!?」
 続けるうちにヒートアップしてきたのか、言葉がとんでもないことを言い出した。
「いやサンタはな……」
「ちょっと無理があるよねぇ」
 佐藤・非正規雇用(ひび割れた赤い瞳・e07700)と萩原・雅浩(金銀絢爛なる忌み子・e35820)が顔を見合わせた。
「まぁ」
 と薫がまとめ、言葉の主張を引き取る。
「私が言いたいことも大まかにはそういうことです。誰にも明かせない秘密を共有していたり、肉親の縁よりも深い関係の友人は『家族』と言っても差し支えないのではないでしょうか? そういった関係が転じて夫婦や恋人、後にあなたの主張する『家族』となるわけですし」
 道理の通った説得にナナが詰まる。うんうんと薫の論に頷きつつリーズレット・ヴィッセンシャフト(ツキナミ・e02234)も熱弁を奮った。
「そうだぞ! お前の言う温かい食卓を囲む『家族』も! 肉親のようなサーヴァントも!! そしていずれ家族になるかもしれないような恋人も!!! 一切居ない人はどうすると言うのだ! 一人で『メリークルシミマスっ!』とか言ってボッチでホールケーキ食えって言うのか!? 明るい家族計画なんて縁がない人は!? そんなのってないっ、あんまりだ!」
 もはや説得の本筋から外れている気もするが、誰も止めることは出来なかった。口を抑え膝をつき嗚咽をもらすリーズレット。屋上に吹く冷たい風が、なお彼女の孤独をさいなむ。と、ようやくその場にいる全員の視線に気づいたのか、恥ずかしげに咳払いひとつして立ちあがる。
「と、私は独り身の気持ちになって代弁を熱心に伝えたわけだ。そんな独り身を殺しにかかる布教なんて広めるワケにはいかない! 決して私がそうだと言うワケではないぞ。うん、決してな」
「いやっ、それも無理があるだろう」
「なんか大変なんですねぇ、同情します」
 つい九条・カイム(漂泊の青い羽・e44637)がツッコミをいれると、ナナも心底からというふうに口にした。まさかビルシャナにまで憐れまれるとは思っていなかったのだろう、リーズレットは屋上の隅に座り込んでしまう。
「どうせ私なんて……」
 地面に指で字をかいている。これはちょっと難しいことになったなぁ。思案し、非正規雇用は信者の方を向きつつリーズレットにも届ける気持ちで出来るだけ優しく声をかけた。
「まぁ、久遠さんの言う通り。いま恋人がいる人は勿論、まだいない人もこれから誘ってみたらどうだ? 案外、向こうも待ってるかもしれないぞ」
「……本当にそうでしょうか?」
 眉尻を下げて不安げに信者の少女が問いかけた。少女のうるむ視線にどぎまぎしながら彼は返す。
「アンタみたいな、その……可愛い子を、放っておく男はいない。俺が断言する! それになんだ。もし相手がいなくても、ここに一人で暇してるケルベ」
「ありがとうございます、ドラゴンさん!」
「いや、俺はドラゴニア――」
 非正規雇用の一言に顔をぱぁっと明るくさせ、少女は屋上の扉から駆けおりていった。
「うん、言葉に心が籠ってたね。真に迫っていたというか。とても男らしかったよ!」
 暁人がとびきりの笑顔で言い放つ。扉へ腕を伸ばし固まったままの非正規雇用の肩にリーズレットが手を置いた。
「こっち側へ、ようこそ」
 屋上の隅に座り込む人間が二人に増える。
「いいんだ、俺なんてどうせ」
「信者をひとり減らせはしたが、仲間が更に減るとはな」
 カイムが悩ましげにつぶやく。
「本物の天然って怖っ」
 誰にも聞こえぬような声で言葉がぼそり。アリシア・マクリントック(奇跡の狼少女・e14688)は悲しげにうなり二人に駆け寄った。
「ふたりとも、へいき?」
「……とにかく説得を続けましょうか。さ、言いたいことがある人はどうぞ」
 教壇に立つ教師よろしく薫が促すと、それじゃぁと暁人が信者の眼前に躍り出た。
「俺はさ、友達とのクリスマスってやっぱ楽しいんだよね。欠席しそうなヤツはしょうがないけど、独り身で集まって愚痴るのも一興だよ。純粋に多人数でパーティしたりするのは家族も他人もないと思う。見たかんじ学生っぽい子もいるし……来年も同じメンバーで集まれるか分からないからこそ、集まりたくない?」
 ティーンの少女たちにとってはなるほど納得できる話だ。それに、と暁人が続けた。
「たいていお正月は実家だよね。俺は実家から離れて暮らしてるけど……家族で、はやっぱりお正月のイメージかな」
「うちもお正月は家族かなぁ」
 少女が口にすると周りも同意するように首を縦に振る。
「じゃあ、お正月を友達と過ごす人は?」
 誰もが押し黙る。
「1週間後に家族と過ごす大事な時間があるんだから、なにもクリスマスに競って家族と過ごさなくてもいいんじゃないかな」
「いや待て、そもそも。そもそもだ!」
 暁人の言葉には信者だけでなくカイムも耳を傾けていたようである。ぐっと拳を握りナナを睨み付ける。
「家族がいない人のことをお前らは考えたことがあるのか?」
「あ、それは俺も思うなー。ケルベロスだけじゃなくてさ、一般の人の中にも『家族』つまり肉親がいない人は結構多いよ。みなしご的なさ」
 軽く笑いつつ口にする雅浩に対し、カイムは至って真剣な表情である。握り拳の力そのままに声をふるう。
「そもそも俺のようなヴァルキュリアはな、ほんの数年前まで『家族』といえば人質だったり、殺されていたり、奴らの慰みに殺し合いをさせられたり……。奴隷になって永遠に拷問を受け、洗脳で家族もわからない。それがなんだっ。『家族』だと!? 貴様らはヴァルキュリアに喧嘩でも――いだだだだっ!」
 喧嘩腰を通り越し、柄に手を掛けそうになったカイムをレリエル・ヒューゲット(小さな星・e08713)が抑え込んだ。制止役に馴れているのか腕を掴み後ろ手に捻り上げ、体を密着させ肩を上から押しこむ。
「駄目だようカイム。ケルベロスとしてはわかるけど……それを一般の人達にわかってもらうのは難しいもん」
「わかった、わかったから。手を放してくれレリエル」
 姉のように慕うレリエルの言葉を聞いてカイムは大人しくなる。どうも彼も熱しやすいらしい。その境遇はわかるけどな、雅浩は心中で思いつつ信者達へと眼を向けた。
「事情があって家族と別れてる、そんな人も無理矢理引き合わせるとか言っちゃう? 家族なら分かり合えるとかさ。家族ってのは暖かくて優しくて……それだけが全部じゃないんだよ。君達はまだ若いし、そんな現実も知らないんだろうけど、だからこそあんまり派手なこと言っちゃ駄目だよ」
 ナナの主張に心中穏やかざるものがあったが雅浩はあくまで笑みを絶やさなかった。すると『家族』を思い出してしまったか、アリシアが信者に近づきその身を寄せた。
「アリシア、かぞく、おかあさん、だけ。でも、おかあさん、いない。おかあさん、うつ、された……だから、いない」
 大ぶりの瞳に涙が溢れる。狼に変身したガデッサが頬を舐めた。
「アリシア、ひとり。ひとり、さみしい。だから、みんな、いっしょ、したい……だめ?」
 信者たちを見上げながら訴えかけるとアリシアはさめざめ泣いた。信者には少女の純粋な涙に対抗する術がなかった。どころか、一番号泣しているのはナナである。
「あなた達って色々大変なんですね。わたし、もう泣けちゃって泣けちゃって」
 涙を拭き々、言葉をつむぐナナ。が、薫がそれをバッサリと斬った。
「いやいや。原因はあなた達ですからね」
「うん、デウスエクスが出て来るから行事すらまともに行えないんだよ」
「ほんっとーに迷惑だよね、おイタばっかして」
 レリエルと言葉が加えて口にすると、信者だった少女たちまで非難がましい視線をナナに向ける。
「えっ、ちょっと。なんか私が悪者みたいになってます!」
「元凶なんだからさ。もうちょっと自覚してよ」
「そうだね。人間にとっても俺達にとっても迷惑だよね」
 内心好意を寄せていた雅浩と暁人にまで言われたので、ナナは取り乱し、さっと羽の内から棍棒のような七面鳥の丸焼きを取り出した。
「わっ、わたし悪者なんかじゃないです!」
 両腕の七面鳥をナナが振り回す。すると大粒の涙をこぼしていたアリシアがきっと凛々しく立ち塞がり、ナイフを咥えナナに飛びかかった。
「はやく、にげる!」
 レリエルが信者の少女たちを庇いながら扉の向こうへ消える。アリシアは七面鳥に吹き飛ばされ鉄柵に当たり体を強く打ったが、同時にナイフを投擲しナナの手首深くに突き刺した。七面鳥が手から落ちる。ガデッサが七面鳥を咥えて扉の奥へ下がっていった。
「うわぁ、臆病ね……。ぶーちゃん、お願い!」
 言葉の声に応え、ぶーちゃんは小さな羽と勇気をふるわせナナの後方からタックルをしかけた。つんのめって来るナナに言葉がすかさず肉薄し、刀身に炎をたぎらせた鎌を斧のように叩きつけた。空高くへ投げ出されるナナ、その脚に鎖が巻き付き大きく上方へたわみ振り子のように屋上の床へ落とした。
「錯乱した状態で、こいつが下に落ちたらマズイよね」
「あっ、そうだったね。ちょっと強くやりすぎちゃった。はんせいはんせい」
 頭をこつんと拳で叩く言葉。作ったような可愛らしい仕草にリーズレットがうっとたじろいだ。自分とはまるで正反対だ。胸は同じくらいでも背は高いし。私もあれくらいの身長があればもっと凛々しく……そうすれば恋人も? 思うほどに無念が込み上げてくる。
 屋上の隅から腰をあげ、リーズレットは暁人の鎖を掴むとドラゴンの幻影から生み出した炎を鎖伝いにはしらせた。鬱憤をたっぷりと籠めた炎がナナを燃やし、火柱をあげる。
「鳥は焼くと良い、誰かが言ってたんだ。幸いクリスマスも近いしな!」
「おっ、いい連携だね。だったらオレも対抗しちゃうよぉ」
 両手をかざした雅浩の袖口から一人でに包帯が蠢きだし、未だ鎖に足を取られるナナに巻き付いた。柔軟ながら強靭な血染めの包帯は硬く結ぶのではなく柔く幾重にも敵を包み閉じ込める。
 叱るように鳴き声をあげオルトロス『店長』がずいずいと屋上の隅から非正規雇用を押し出すと、ようやく彼も頬を叩いて立ちあがった。
「だああっ! ずっと落ち込んでてもしょうがないな。いっちょうやってやるぜ!」
 気を取り直し如意棒を自在に変化させ非正規雇用がナナを強襲する。棒、ヌンチャク、三節棍と次々に形を変えながら上下左右に打ち分ける。鎖に包帯、二つの足かせに身動きがとれず打たれるままにナナがよろめいた。そこへアリシアが助走をつけて飛び蹴りをくらわせると、暁人と雅浩は互いの獲物を外し勢いのままナナを吹き飛ばした。その先に白刃を煌めかせるカイムの姿があったからである。
「同属の痛み、受けろ!」
 すれ違いざま喰霊刀が一閃、ナナの翼を斬り裂く。叫び声もあげられぬうちナナを鋼糸が縛りあげた。薫が密かに地面に這わせていた鋼糸は敵が脚を踏み入れた途端、獰猛に牙を剥いたのである。いや、縛るだけでは飽き足らない。鋼糸はナナの体をすり潰さんと肉を分け入り骨までも達する。
「あっ、グロ注意です。苦手な方は目を閉じて耳を塞いでください」
 淡々とした口調で言われ、目と耳を塞ぐケルベロス達。きょとんとするアリシアの視界はガデッサが体で塞ぎ、耳は肉球で閉ざした。薫はこっそりと、ナナに耳打ちするように告げた。
「個人的な話になりますが私にも肉親はいません。私を妹と呼び親しんでくださる方がいますが、その方との家族としての繋がりと聞かれたら『義妹』という言葉に頼らざるをえません。私は血の繋がりのない姉達が大好きです。あの人たちとの繋がりを断つことになるなら、私は徹頭徹尾あなたの主張を正しいと思えません」
 薫が指をくっと曲げると鋼糸が締まり、骨が軋み折れ、肉を突き破った。地面をのたうちながらビルシャナはただの肉塊となった。


「なんかちょっとお腹減っちゃったかも」
 言葉が腹を撫でて宥めているとリーズレットがにっこりとして通りにある看板を指さした。フライドチキンのチェーン店だ。
「だったら腹ごなしと行こう! クリスマスの分まで七面鳥を食べるぞ!」
「え~と……」
 乙女というには豪快すぎる提案な気もしたが、いまにも声をあげそうな腹をいつまでも宥めすかす事は出来なそうである。うん、ちょっとだけ、ちょっとだけなら乙女の沽券にはかかわらないはず。言葉は心で決めるや否やすぐさまリーズレットに並んだ。リーズレットも内心で握り拳をつくる。女子力の秘密を探る機会だ!
 眼前では狼とアリシアが駆け回っている。匂いに釣られたか行く先は同じらしい。
「早く行かないと食い尽くされるかもしれないな」
「まさか……」
 言いつつも言葉は思い浮かべた。餓えた狼と狼少女が片っ端からチキンを食べてゆく様を。
「いっ、急がないと!」
 リーズレットの腕を引いて言葉が走った。

 乙女二人が走り抜ける横では雅浩と暁人が女性達に囲まれていた。困っちゃうなぁ、言いつつ雅浩は既に約束を取り付けている。同じ輪に囲まれながら暁人はそれと正反対で、黄色い声をあげる少女達を扱いかねているようだった。苦笑しつつ『はたろう』に救いを求めるような目をやっていたが、知るか、という風にはたろうは口を閉ざして地面に座っていた。
「こういうのはさ、とりま楽しんでおいた方がいいんだって」
 雅浩は暁人の肩に手を回し、かしましい声を引き連れて通りを離れていった。

 見やりながらカイムは首を捻る。
「女に囲まれて何が楽しいんだ」
 心底からの言葉は朴念仁らしい考え方だろう。
「だからカイムは彼女が出来ないんじゃない?」
 レリエルが言うと、ふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向く。そのくせ二人は仲睦まじげである。つかず離れず、時に笑ったり怒ったりしながら、結局は笑顔のまま通りを歩いていった。

 そんな二人を眺めていた黒住・舞彩(鶏竜拳士・e04871)はひそやかに笑い、お目当ての背中に近づいた。
「久遠、無事に済んだみたいね」
「まいあさん」
 薫の顔がほっと和らいだが、同時に強張りもした。
「まさか……あれ、聞いてましたか?」
 なにも言わず舞彩はくすりと微笑んだ。それは言葉より明らかに答えを表している。子供のようにむくれる薫の腕を掴み、舞彩は小さくつぶやいた。
「嬉しかった……私も大好きよ、久遠」
 言い慣れない言葉にすぐさま顔が赤くなる。薫も面と向かって言われると気恥ずかしく、視線を左右に散らしながら口をもごもごさせた。
「あのぅ久遠さん……今年のクリスマスなんだけど」
 突然沈黙を破って非正規雇用が声をかけると、
「「あ~」」
 と二人は声を揃えて辺りを見回し、サーヴァント『店長』を抱き上げ、咥えている看板を見せた。強烈なボディーブローを受けたようにうずくまり、
「酷いっ!」
 叫ぶと非正規雇用は走り去ってしまう。店長はただついてゆく『お帰りはこちら』という看板を持ったまま。
「ちょっと悪いことしちゃったかしら」
「なんだかんだ、佐藤さんはモテますから。それにクリスマスは今年も賑やかに過ごす予定ですし」
「今頃でなんだけど」
 やっぱり家族で過ごすのもいいわよね。舞彩が柔らかく瞳を揺らした。

「実は俺ぇ甘いもの大好きぃ~。ケーキ食べ放題!! ……ひとりで~」
 余談であるがこの日、珍妙な歌をうたい涙目でケーキバイキングを貪り食うドラゴニアンが目撃されたとか……。

作者:東公彦 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 3
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