シングル・プラン

作者:土師三良

●静夜のビジョン
「クリスマス・イブ――それはすべてのしがらみから解放され、一人きりで静かに過ごせる贅沢な夜なんだよ」
 冷たい夜風が吹き込む高架下の空き地で、サンクロースの扮装をしたビルシャナが語っていた。
「だから、僕もイブは一人で過ごすんだ。あ? 誤解しないでね。カノジョがいないからじゃないよ。たとえカノジョとかがいたとしても、僕は絶対に一人で過ごす。一人のほうが楽しいもん。ホント、楽しいもん。めちゃくちゃ楽しいもーん」
『楽しいもん』という言葉を何度も繰り返すビルシャナ。哀しい現実から目を背け、自分自身を必死に騙しているのだろう。
 必死に騙している(そして、騙されている)者は他にもいた。
 彼の前に並ぶ十人の男女だ。
「あたしも一人で過ごす! そして、乙女ゲーをやりこむの!」
「僕はバイト! あえてイブに夜勤のシフトを入れたんだ!」
「一人で読書三昧! 良い機会だから、積ん読を消化するわ!」
「俺も一人で消化するぜ! 撮り貯めしたテレビ番組を!」
「残業しまーす! サビ残だけど、気にしませーん! むしろ、こっちが金を払ってでも会社で過ごしたいでーす!」
 十人はイブの予定を次々と口にした。
 誰かに訊かれたわけでもないのに。
 楽しそうに。
 とても楽しそうに。
「うんうんうんうん。君たちは正しい。実に楽しい」
 と、ビルシャナは何度も頷いた。
 そして、己が主張を改めて叫んだ。
「そう! クリスマス・イブは一人で過ごすべきなんだぁーっ!」

●淡雪&ザイフリートかく語りき
「山口県山口市にビルシャナが出現した」
 時は夜。ところはヘリポート。
 ヘリオライダーのザイフリートが凛とした声で事件の発生を告げれば、彼の前に立つケルベロスたちもまた凛とした声を――、
「あー、はいはい。ビルシャナですかー」
 ――返すかと思いきや、琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)のテンションは低かった。
「どうせ、アレでしょう? この時期だから、クリスマスがらみの教義を広めようとしているビルシャナなのでしょう?」
「その通り。『クリスマス・イブは一人で過ごすべき』と主張するビルシャナだ」
「なんだか共感してしまいそうな主張ですわ。もしかして、私の生霊かドッペルゲンガーがビルシャナ化してしまったのでしょうか?」
「いや、それはないと思うが……そのビルシャナは男だからな」
 首をかしげて、ザイフリートはそう言った。どうにも真面目である。
「さて、そのビルシャナは十人の一般市民を洗脳し、自分の信者としている」
 と、真面目なヘリオライダーは話を本題に戻した。
「ビルシャナを倒すこと自体は難しくないだろうが、その前に信者を説得して洗脳を解くことが望ましい。そうしないと、ビルシャナとの戦闘に信者が介入してしまうからだ」
「説得の指針のようなものはありますか?」
「やはり、『イブは誰かと一緒に過ごすほうが楽しい』と思わせるのが基本だな。『誰か』というのが恋人である必要はない。家族や友人でもいいだろう。ケルベロス同士で実際に楽しそうに振舞ってみせるのも効果的かもしれん」
「リア充アピールをするだけの簡単なお仕事ですね。仲間と一緒に楽しい時を過ごせる上に信者も説得できるなんて一石二鳥ですわー」
 淡雪は初めて笑みを見せた。マネキンじみた作り笑いだが。
 そして、その笑顔をキープしたまま、声のトーンを落とした。
「でも、淡雪、知ってる。これ、逆のパターンの説得もあるやつ」
「うむ。『イブを一人で過ごすのはとても寂しい』と思い込ませるという説得法もある。インパクトのある作り話で攻めるもよし。よりインパクトのある実体験を交えて語るもよし」
「実体験ですか……信者の命は救えるかもしれませんが、ケルベロスの心は死んでしまうかもしれませんわねぇ」
 声のトーンを更に落とす淡雪であった。


参加者
大弓・言葉(花冠に棘・e00431)
天道・晶(喰らう髑髏・e01892)
琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)
新条・あかり(点灯夫・e04291)
比嘉・アガサ(のらねこ・e16711)
瑞澤・うずまき(ねこさんのペット・e20031)
鍔鳴・奏(あさきゆめみし・e25076)

■リプレイ

●悲しみだけが夢を見る
 魂までもが凍てつきそうな夜。
 だが、高架下の空き地に集うビルシャナと信者たちは寒さに震えてなどいない。朗らかに笑いながら、『イブを一人で過ごすこと』の楽しさを語り合っている。なんと気持ちの良い光景だろう。
 ……というのは、数分前までの話。
 今は違う。
 この平和な空間を地獄に変えるべく、悪魔の使いのごときケルベロスたちが現れたのだから。
「独り飯って、寂しいわよねー」
 悪魔の使いの一人――オラトリオの大弓・言葉(花冠に棘・e00431)がビルシャナと信者たちを見回した。豪奢な馬車の窓越しに貧民窟を眺める貴婦人のような眼差し。後方に控えるボクスドラゴンのぶーちゃんはなぜか目を輝かせているが。
「とくにイブの独り飯はねー。みんなが仲良く七面鳥やケーキを頬張ってるって時に一人で黙々と……そう、ただひたすらに黙々と夕飯だなんてねー」
 二度の『黙々と』の部分に嫌な力が込められている。
 訂正しよう。彼女たちは悪魔の使いではない。
 悪魔そのものだ。
 そんな悪魔兼オラトリオの残酷な述懐に合わせるかのように、物悲しい音楽がどこからともなく流れてきた。
 いや、これも訂正しよう。『どこからともなく』ではない。ヴァルキュリアの鍔鳴・奏(あさきゆめみし・e25076)がバイオリンを弾いているのだ。彼の前には譜面台が置かれており、その横でボクスドラゴンのモラが短い手でかいがいしく譜めくりをしている。
「BGM係までいるのかよ! 用意が良すぎるだろ!」
 ビルシャナがさっそくツッコミを入れた。
 しかし、その怒気に気圧されることなく――、
「本当に一人がいいの?」
 ――と、瑞澤・うずまき(ねこさんのペット・e20031)が信者たちに問いかけた。
「街中がお祭りみたいに輝いて、皆がハッピーに過ごすイブに……一人? たった一人? たった……一人……」
 問いかけておきながら、答えを待たずに畳みかけた挙句、うずまきは黙り込んだ。
 バイリオンの演奏が止まった。
 冷たい風が吹き抜け、高架上を走る電車の音が通り過ぎ、その余韻が消えぬうちにまた風が吹き、新たな電車の音が……そんなサイクルが五回ほど繰り返された後、うずまきはようやく口を開いた。
「……さびしくないの?」
 ここで再び鳴り出すバイオリン。
「BGM係、良い仕事しすぎだろ!」
 ビルシャナがまたもツッコミを入れた。
 そして、すぐに三回目のツッコミを披露することとなった。
 うずまきの目が涙に潤み始めたからだ。
「待て、こら! なんで、この流れでおまえが泣き出すんだよー!?」
「だ、だってぇ……」
 しゃくりあげながら、指先で涙をぬぐううずまき。その頭上ではウイングキャットのねこさんが澄まし顔を決め込んでいる。対比を生み出して、うずまきの泣き顔をより悲痛なものに見せようとしているのか。あるいは本当に興味がないのか。
「ボクが……もし、そこの可哀想な人たちと同じような立場だったら……なんて思ってたらぁ……ほ、本当に寂しくなってきちゃって……」
「いや、『可哀想な人たち』とか言うなや。もっと別の言い方があるやろ」
 と、どこか疲れた声で抗議するビルシャナ(なぜか標準語を放棄していた)を無視して、うずまきは――、
「……ふぇーん! 晶くーん!」
 ――傍らにいた恋人の天道・晶(喰らう髑髏・e01892)の服の裾を掴み、涙に濡れた顔を肩に押し当てた。
 そう、この娘は恋人同伴で今回の任務に参加したのだ。
 ここまで来ると、悪魔どころではない。
 魔王である。
「あの、マキさん。そんなにくっつかれるとですね……味方まで敵に回しそうなんですが……」
 まごつく晶であったが、うずまきが裾をより強く引っ張り、顔をより強く押し当ててくると、優しい溜息をついて、彼女の頭を撫でた。
「もう泣くなよぉ。大丈夫、大丈夫。マキには俺がいるし、俺にはマキがいる」
「うん! いつまでも一緒だよ! 約束ね!」
 恋人の肩に押し当てていた顔をあげ、とっておきの笑みを見せるうずまき。
 まさに平成最後にして最強のバカップル。いつの間にか、もの悲しいBGMも甘い旋律に変わっている。そして、この状況においてなお、ぶーちゃんは目を輝かせ、ねこさんは澄まし顔を決め続け、言葉は念仏を思わせる妙なアクセントで『黙々と……』と唱えていた。ビルシャナならずとも、ツッコミを入れたくなる光景だ。
 しかし、哀れなビルシャナの行動を待つまでもなかった。
 彼に代わって動いたのは、死んだ魚のごとき目でバカップルを見る二人のケルベロス――残念なオラトリオのリーズレット・ヴィッセンシャフト(ツキナミ・e02234)と、残念のサキュバスの琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)だ。そう、晶が危惧したとおり、味方までもが敵になったのである。
「……」
「……」
 負のオーラを全身から発しながら、二人は無言でバカップルに近付いていく。ゾンビのような足取りで。ゾンビがなすことよりも惨たらしい結果をもたらすために。
 そんな二人の歩みに合わせて、BGMが有名なサメ映画のテーマ曲に変った。
 だが、BGM係の奏もさすがに危機感を抱き――、
「よーし、止まれ、そこの二人。ちっちゃい子供が見たら、確実にトラウマになるような惨劇を引き起こす前に!」
 ――とても『じょーず』な演奏を中断し、残念コンビの襟首を掴んだ。
「はっ!? なにをしていたんだ、私は?」
 我に返るリーズレット。
 その横で淡雪も正気に戻り、冷や汗を拭っている。
「もう少しで毒心者のダークサイドに落ちるところでしたわ!」
『いや、もう落ちてるじゃん』というリアクションを誘っているのかもしれないが、誰もなに言わなかった。言えるわけがなかった。
(「……ビルシャナより先に仲間を止めなきゃいけないって、どういうこと?」)
 と、仲間たちが抱えてる闇の深さに改めて戦慄する奏であった。

●淋しいのはお前だけじゃない
「あのね……」
 信者たちに向かって、シャドウエルフの新条・あかり(点灯夫・e04291)が語りかけた。その両肩には猫に似た生き物が乗っている。右肩にいるのは、動物変身した玉榮・陣内。左肩にいるのは、陣内のサーヴァントのウイングキャット。
 リーズレットと淡雪の負のオーラに圧倒されていた信者たちであったが、あかりの声を聞くと、ほんの少しだけ表情を緩ませた。期待しているのだろう。『シャドウエルフの少女+(猫×2)』という愛らしい数式がこの地獄のような状況を変えてくれることを。
 しかし、あかりは悪意を微塵も感じさせない声で――、
「イブを本当にボッチで過ごしたい人は、こんな鳥なんかと群れずに一人でこっそり且つしっかりとエンジョイするんじゃないかな」
 ――信者の期待を粉々に打ち砕いた。
「『一人が良い』っていう主張さえ一人でできない人は、そもそも一人ではいられないと思う」
「うん、確かに。わざわざ徒党を組んだ上でボッチ宣言とか……普通はしないよね」
 と、あかりの辛辣な意見に頷いたのは比嘉・アガサ(のらねこ・e16711)。イリオモテヤマネコの人型ウェアライダーである。先程の数式に猫がもう一匹加わったわけだが、この猫娘もまた信者たちの期待に応えてはくれなかった。
「あかりちゃんの言うとおり。あんたたち、本当は一人ではいられないんでしょ?」
 猫特有の針のような瞳を信者たちに向けて、冷ややかな声を投げかける。
「だけど、一緒に過ごしてくれる恋人もいないんだよね? だったら、友達を誘えばいいのに……って、まさか友達いないとか? だったら――」
 アガサは手早く髪をアップにまとめ、エプロンを纏った。
「――家族と過ごしたら? こんな風に」
 奏がまたバイオリンを弾き出した。今度はホームドラマ風のBGM。
 エプロン姿のアガサの横にあかりが並び、リーズレットが並び、淡雪が並び、そして、ヴァオ・ヴァーミスラックス(憎みきれないロック魂・en0123)が並んだ。
 一同の前をテレビウムのアップルがちょこまかと通り過ぎていく。『ヴァーミスラックス一家物語』というタイトルを表示した液晶画面を信者たちに向けて。
「これが私の家族。夫と三人の娘」
 状況を飲み込めずに(『ディスられていたと思ったら、変な芝居が始まった』という状況を飲み込める者など、そうそういないだろうが)呆然としている信者たちの前でアガサは家族の紹介を始めた。棒読みではあるが、母親役が妙に板に付いている。普段から大きなコドモ(淡雪だのヴァオだの)の相手をしているからだろうか。
「だけど、とても自慢できるような家族じゃない。長女と次女は行かず後家をこじらせた挙げ句に二次元の世界へ迷い込んでいるとうか積極的に突き進んでるし、三女は一見するとまともで可愛らしいんだけど、年齢の割には方向性がちょっと暴走してるし、旦那に至っては……」
 家族紹介を中断し、溜息をつくアガサママ。
「……なにも言いたくない」
「いや、言えよ! 『良き夫であり、良き父です』って言えよー!」
 ヴァオパパが駄々っ子のように両腕を振り回した。
 彼に続いて、三人の娘たちも――、
「ちゃうねん。私は行かず後家とちゃうねん」
「どうして私と姉様をセットにして語るんですか!?」
「僕の方向性って、そんなにおかしい?」
 ――紹介コメントへの不満や疑問を口にしたが、その中でも最も沈痛な面持ちしているのは長女のリーズレットだった。
「行かず後家とちごうて、行けず後家やねん。行きたくても行けへんねんって……」
「なんで、関西弁なんだよ?」
 と、自分のことを棚にあげてビルシャナがツッコミを入れた(なぜか標準語に戻っている)が、このホームドラマに彼が入る余地はなかった。
「行かず後家とか行けず後家とか傾(かぶい)てらっしゃいますけど――」
 次女の淡雪が所謂『ジト目』でリーズレットを見た。
「――姉様はとっくの昔に行ってるじゃないですか。お母さんが仰ったように二次元の世界へ! あまりにも二次元ラブすぎて、まわりもドン退きですわ。二人連れの男性を町で見かける度に『どっちが攻めだと思う?』とか訊いてくるし……」
「ああ、そうさ」
 リーズレットが自嘲気味に笑った。
「淡雪の言うとおり、私は貴腐人……いや、貴腐神だ」
「まさかの神レベル!? それはさておき、関西弁キャラを押し通せよ!」
 またもや自分のことを棚に上げるビルシャナ。
 当然、またもや無視された。
「貴腐神たる私が出した答え――それは『やっぱり、ひとりぼっちは寂しい』ということだ」
 信者たちに語りかけながら、貴腐神のリーズレットは晶とうずまきを指し示した。
「あれと見比べたら、どんなに寂しいか判るだろう? 同じケルベロスだというのに、全身から放射されているオーラがいろんな意味で別次元だ。おまえたちなら、どっちのオーラに包まれたい? あの二人のラブラブオーラか? 私と淡雪の寂しいオーラか?」
「だから、セットにしないでくださいな! ……と、言っても無駄ですわね」
 淡雪もまた自嘲気味に笑った。
「結局のところ、私も姉様の同類。この悲しい写真がなによりの証拠」
 淡雪はスマートフォンを取り出し、そこに表示されている写真を見せた。写っているのはリーズレットと淡雪。画面がスワイプされると、次の写真が現れた。またもや、リーズレットと淡雪。そして、その次の写真も、次の写真も、次の写真も……。
「姉妹だけの写真で七十枚を超えますのよ。男っ気はゼロ……いえ、マイナスと言ってもいいかもしれませんわ。この悲しい写真群を見て心を抉られない者のみが胸を張って『一人のほうが楽しい』と言いなさい!」
「……とまあ、こんな問題児ばかりの家庭ではあるけども」
 と、アガサママが強引にまとめに入った。
 優しい微苦笑を浮かべながら。
「それでもクリスマス・イブには必ず一緒に過ごすのが決まりなの」
「そうそう! やっぱ、家族は一緒でないとな!」
 ヴァオパパがアガサママの傍に寄り、肩に腕を回した。
 もちろん、夫を愛するアガサママはその腕を振り解いたりしない。信者たちから見えない角度でヴァオパパの脇腹に肘を突き込み、尻に蹴りを入れ、足を踏みつけはしたが。
「これが家族の絆、幸せってものなのよ。一緒に過ごしてくれる人がいない貴方たちには判らないでしょうけど」
 信者たちの前で幸せ振りをアピールするアガサママ。
 その横で必死に痛みをこらえるヴァオパパ。
 そんな仲睦まじい(?)両親をにこにこと眺めながら、三女のあかりが信者たちに言った。
「シングルライフ満喫中のお姉ちゃんたちと違って、僕には『好きだ』って言ってくれる人がいるんだけど、それでもクリスマスは特別。ママの号令のもと、皆で過ごすんだ」
「シングルライフがどうこうというくだりは必要ないですよね?」
 次女がクレームをつけたが、あかりには聞こえていないようだ。
「クリスマスツリーの根元に埋まってるギフトも嬉しいけど、愛してる家族、愛されてる実感――これに勝る贈り物なんて、ないんじゃないかなぁ?」
 あかりが首をかしげてみせると、両肩にいた陣内とウイングキャットが地面に降り、オルトロスのイヌマルとともに信者たちへと近付いた。
 そして、彼らの足下に身を寄せた。そっと静かに。悪魔のごときケルベロスたちにさんざん痛めつけられた心を癒すかのように。
 あの数式の「猫×2」の部分(「+犬」も加わっている)がようやく活かされた。

●君はまだ歌っているか
「妹へのプレゼントはなんにしようか……なんて迷っていたら、こんなに買い込んでしまったよ」
 と、いきなり話に加わってきたのは通りすがりの月杜・イサギ。クリスマスプレゼントが入っているであろう買い物袋を両手に下げている。
「誰だ、おまえ!? しれっと入ってくんじゃねえよ!」
 ビルシャナが幾度目かのツッコミを入れた。その激しい怒号から『どうせ、おまえも無視すんだろ』という諦観が感じられるのは気のせいか?
「もちろん、妹も私にプレゼントをくれるはずだ」
「案の定、無視しやがったな!」
「妹のプレゼントはとてもセンスが良いんだよ」
「知らんわ!」
「それにケーキも焼いてくれる」
「俺はおまえを焼き殺したい! こんがりと焼き殺したい!」
「あ、そうそう。ケーキといえば――」
 と、言葉があざといアニメ声を発し、皆の注意を自分に向けた。
「――じゃーん! ブッシュドノエルを持ってきたのー! みんな、食べるー?」
「うわぁぁぁぁ! かーわーいーいー!」
 うずまきが歓声を響かせた。
「ねえねえねえ! ボク、写真撮っていい? 思い出に残していい?」
「わーい! ケーキ、ケーキ! 皆で食べると、超おいしんだよねー!」
 勢い込んでスマートホンを構えるうずまきの横でリーズレットもはしゃいでいた。ケーキに魅せられ、うずまきに感化されて、負のオーラが完全に消え去っている。
 そして、ぶーちゃんもハイテンションで翅をはばたかせていた。ずっと目を輝かせていたのは、主人がブッシュドノエルを用意していることを知っていたからなのだろう。
「伏線の仕込み期間、長すぎぃ!? チビドラゴンのお目々キラキラなんて、誰も覚えてねーし! 書いてるやつも今の今まで忘れてたに決まってるし!」
 と、ビルシャナは必死にツッコミ役を続けていたが、信者たちはブッシュドノエルに……いや、そのブッシュドノエルを取り囲むケルベロスたちを羨望の目で見ていた。バカップルや負のオーラやホームドラマや癒しの犬猫によって人恋しさを刺激され、『イブは一人で過ごすべき』という信念(『痩せ我慢』や『負け惜しみ』とも言う)が揺らぎ始めたらしい。
「悟った風な顔してたら損すんだよ、こーゆーのは。フツーに『混ざっていい?』とか訊けねえもんかねぇ」
 ブッシュドノエルを切り分けながら(うずまきの分を大きく切っている点は見逃そう)、晶が更に揺さぶりをかけた。
 そして、『混ざっていい?』という問いかけが投げられるまで待つことなく、奏が信者たちに微笑みかけた。
「俺のところの喫茶店でイブにパーティーをやる予定なんだよ。こうして会えたのもなにかの縁だから、おまえらも参加してみないか? 食べ放題&飲み放題だぞ。それに――」
 思わせぶりに間を置く奏。
「――もし参加するなら、家族や知人に『イブには予定があるから』と言えるぞ。堂々と、嘘偽りなく、後ろめたさを感じることなしに!」
「バカめ! 俺の信者たちは皆、鋼のごとき意志を持ってるんだ! おまえたちのつまらない誘いに乗るわけないだろうが!」
 そう叫ぶビルシャナを押しのけて、信者たちがブッシュドノエルに殺到した。

 ケルベロスとビルシャナの戦闘はクリスマスの特番並みに熱く盛り上がり、後者の死によって終わった。
「任務は無事に終えましたが……心は寒いままですわ」
 ビルシャナの死体の傍で淡雪が微笑に口を歪めた。先程は自嘲の笑みだったが、今度は自虐の笑みだ。
「琴宮ちゃん、がんば!」
 と、言葉が淡雪を励ました(ちなみに言葉には恋人がいる)。
「琴宮ちゃんはいい人なんだから、いつか必ず素敵な出会いが……」
「ありがとうございます」
 感謝を伝えながらも、淡雪は心の中で叫ばずにいられなかった。
(「『いつか』って、いつなのぉーっ!?」)

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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