銀猫の黄泉返り

作者:寅杜柳

●夜行の街で
 その白い影に、見覚えがあった。
 夜の街を歩くシルヴァネッロ・リヴォルティ(金色の放浪者・e34649) の鼓動が早鐘を打つ。脳裏をよぎるかつての光景を振り返る時間もなくその影は雑踏に紛れようとする。
 慌てて追いかけ、何とか姿を見失わない程度の距離を保ち追跡する。
 徐々に人気のない路地へと向かうその女の姿に不安を感じつつも、シルヴァネッロは追いかける。
 暗い曲がり角を曲がり姿が見えなくなった白い影、焦って追うも曲がり角の先には女はいない。
 悪寒を感じ、即座に前方に飛び込む。直後、頭上から白い影の振るうナイフが彼の居た場所を空振りした。
 振り返った彼はようやく目の前の存在の顔を見る。普段の女好きを気取っている彼なら軽口を叩くこともあっただろうが、今の彼は一つの言葉さえも出ない。
 やはり、似ている所の話ではない。既にこの世にいないはずのその少女とそっくりの姿は、けれども纏う気配は死神のもの。
「サルベージか……」
 漸く、絞り出すようにシルヴァネッロが吐き棄て、
「標的確認、抹殺します」
 無感情な少女の声、そしてコンクリートの地面を蹴る音と共に死神は金のウェアライダーへと踊りかかった。

「皆、手を貸してくれ! ケルベロスがデウスエクスに襲撃される予知が見えた」
 集まった猟犬達に、雨河・知香(白熊ヘリオライダー・en0259)はそう切り出す。
「襲撃されるのはシルヴァネッロというケルベロスだ。彼が夜、路地裏に入った所を死神に襲撃されてしまう。予知が見えてすぐに連絡を取ろうとしたんだが……連絡がつかなかった。相手はデウスエクス、ケルベロス一人じゃ流石に勝ち目がない」
 そこまで説明した知香はヘリオンを指し示す。
「今から急いでヘリオンを飛ばせば襲撃直後に割り込むことができるはずだ。とにかく時間がない。シルヴァネッロがまだ無事なうちに救援に向かってくれないか」
 そして知香はノートを広げると、さらさらと予知で得られた情報を記す。
「彼が誘い込まれたのは裏路地、降下する分に多少狭くはあるが、何とかできる幅はある。降下さえできれば戦闘できる位のスペースはあるから問題ないだろう。あと、周囲に灯りはないから準備はあった方がいいと思う」
 それから襲撃を仕掛けたデウスエクスについては、と知香が猫のウェアライダーと思しき少女の姿を描く。
「死神の名はアルチーナ・リンネガータ。こんな姿をしているが、中身はさっきも言った通り死神だ。元となった少女、アルチーナは暗殺者で身体能力はかなり高い。戦闘スタイルとしては生前用いていたらしいナイフと暗殺術を組み合わせたスピード重視。一撃の重さはそれほどでもないが回避と命中に優れている。……それほど重くないといっても急所を正確に狙われるとかなり危険だから注意して戦って欲しい」
 そこまで説明した知香はノートを閉じる。
「生前のアルチーナとシルヴァネッロの間には何か因縁があったのかもしれないが、今襲撃をかけてきているのはそれとは関係ない死神だ。どうか死神を撃破し、彼を救って欲しい」
 そう締め括ると知香はヘリオンに乗り込むと、ケルベロス達を連れて夜の空へと飛び立っていった。


参加者
天導・十六夜(逆時の紅妖月・e00609)
神楽火・みやび(リベリアスウィッチ・e02651)
ルベウス・アルマンド(紅い宝石の魔術師・e27820)
シルヴァネッロ・リヴォルティ(金色の放浪者・e34649)
神楽火・天花(灼煌緋翼・e37350)

■リプレイ

●切り取られた空は冥く
 月は、見えない。
「八年ぶりだな……いや、言っても仕方ねぇか」
 内心の動揺を抑え込みながら、シルヴァネッロ・リヴォルティ(金色の放浪者・e34649)は眼前の存在に対してそう言葉にする。
 少年の日に仄かに抱いた、実を結ばなかった想い。あの頃年上に見えた彼女の姿は全く変わっていない。一方で自分は成長し、背もすっかり追い越してしまった。
 言葉を続けようとした瞬間、死神が地を蹴りシルヴァネッロとの距離を詰めようとし、それを金狐の青年は迎え撃とうとし。
 けれど二人の行動は空から間に割り込んだ影達に中断させられる。空からの気配を感知したように少女は急停止し後退、青年は現れた人物を凝視していた。
「助けに来たわ、ネロくん。……大丈夫?」
 髪に咲く山茶花を揺らし、舞い降りた神楽火・天花(灼煌緋翼・e37350)が背後のシルヴァネッロを振り返り。
「遅れて申し訳ありません、シルヴァネッロさん。援軍ただいま到着いたしました」
 続いてメイド服のシャドウエルフ、神楽火・みやび(リベリアスウィッチ・e02651)は静かに一礼する。
 ランプを手にしたレプリカントのマリオン・オウィディウス(響拳・e15881)と天導・十六夜(逆時の紅妖月・e00609)がそんな二人の一歩前に出、死神の動きを見逃さぬよう注視している。
「悪いけれど、邪魔をさせてもらうわ。大人しく眠るべき場所に帰りなさい」
 そして少し遅れ、真紅の翼を広げてシルヴァネッロの後方にゆっくりと降下したルベウス・アルマンド(紅い宝石の魔術師・e27820)が無数の角銭で構成される鎖を地面に展開、守護の陣を敷く。
「どうやら死者の肉体を再利用しているようですわね……」
 普段は穏やかなみやびが、声色に嫌悪感を滲ませ呟く。本来は死んだはずの誰か、その肉体を使用しているだけのデウスエクス。
(「私、そういうのはとても嫌いですの」)
 死神はみやびにとっても因縁の種族だ。そして宿敵とは言えど、単純な恨みでシルヴァネッロを狙ったとは彼女には思えなかった。
 だから、
「ここで確実に叩き潰しておくべきでしょう」
 戦の為の音楽を奏でる為に、白薔薇と菫色の花で髪を飾ったシャドウエルフは夜空のような色合いのバイオレンスギターを構える。
 一方、十六夜にはこの二人の間の因縁がどのようなものなのかはわからない。
「此処で終焉とさせて頂こう」
 だからこそ、彼は二刀を構え冷徹に告げる。
 それを合図と見たか、白猫の少女の姿をした死神はナイフを構えケルベロス達へと駆け出す。
「お前は死神で、あの子じゃない。……今度も殺せるはずだ」
 遠くより見れば喜劇、近くで見れば悲劇とは誰の言葉だったか。金狐の青年は自嘲しながらも、かつて惚れた相手との再度の殺し合いへと臨んだ。

●闇に踊るは銀の猫
 始動は突風の様に、向かってくる死神に音もなく詰め寄ったシルヴァネッロがナイフを振るう。けれど銀にも見える色合いの猫のウェアライダーの体は何の感慨もないように右のナイフを合わせ、同時に銃を抜き引鉄を引こうとしていたシルヴァネッロの腕を下から左肘でかち上げ上方へ向けさせると勢いのままに左のナイフを無防備な胴体へと振るう。
 辛うじてバックステップで距離を取ったが、逃げ切れずケルベロスコート越しに斬撃を受ける。即座に奏でられたみやびの歌い上げる立ち止まらず戦い続ける者達の歌により傷の一部は塞がった。
(「まずはネロくんを助ける」)
 友人と目の前の死神の関係は分からないが、それを今気にしても仕方ない事。事情はその後聞けばいいのだから、と鴇を思わせる衣装の少女は半透明の御業を放つ。その御業の下を潜り回避したアルチーナは次の標的を一瞬のうちに天花へと定め、駆け出そうとする。
「天導を染め上げろ! 総餓流・曼珠沙華」
 だが、シルヴァネッロからワンテンポ遅れて飛び出していた十六夜が妨害に入る。竜氣を纏った雷切で三日月の下弦のような円弧を描くような斬り上げは、けれどアルチーナの体を捉えることはできない。低い姿勢から体のばねを使い跳躍、さらに壁を蹴り跳ね十六夜の斬撃を躱しきった暗殺者は、投げナイフを手に一瞬で戦場を見渡し標的を定める。
 唯一光源を持つマリオンは暗闇の中でも非常に目立つ。けれど、その目立つ相手をわざわざ狙う必要もないとアルチーナは考えたのか、ナイフを天花に向け投擲。だがマリオンはアルチーナの視線から標的を予測し、ナイフを受け止める。同時に攻性植物を変形させて空中のアルチーナを捕らえようとしたが、素早い動きを捉えきれない。
 だが、喪服にも見紛う黒いドレスを纏ったルベウスの胸に輝く宝石が光を帯び、暗闇に仄かに輝く。すると彼女の魔術でエゴが鎖として具現化されアルチーナへと殺到、その手足を縛り付ける。
「デウスエクス・デスバレス。不死を求めるのみならず死者を弄ぶアナタ達は決して許せない」
 死者を利用する死神、その存在自体が数あるデウスエクスの中でも嫌いな天花は、収束させたグラビティ・チェインに雷電の御業を融合させ砲弾として放つ。死神はナイフで鎖を断ち、砲弾を見切り回避しようとするが、鎖に動きを鈍らされていた影響で回避しきれない。
 衝撃に弾かれた死神はくるりと空中で一回転。たん、たんと軽快に跳ねビルの縁で一瞬停止、死神の力で傷を癒やすと共に全身に広がる呪縛を解除。仕切り直したアルチーナは再び壁を蹴り、ケルベロス達へと加速する。
 それを迎撃する為、鋼を腕に纏ったルベウスの拳が突き出される。狙い澄ました一撃ではあったけれど、軽業のような動きでアルチーナはその衝撃を受け流し、真紅のオラトリオの背後へと着地、その暗殺術により燃えるような赤髪に咲くスノーフレークが血に染まろうとしたが、
「させません」
 静かに割り込んだマリオンが防ぎ、弾き飛ばした。

 そして幾度かアルチーナとケルベロスが交錯する。
 魔法の霜の領域が音もなく展開する。触れた者を凍てつかせるルベウスの展開した魔術だが、死神は飛び跳ね接地時間を減らして影響を最小限に抑える。
 鎖も霜も、彼女の妨害の為準備していた術は広範囲を狙うもの、一人のみを相手にするには少々散漫になる。
 それでも表情を変えることなくルベウスは次を紡ぎ魔術を放つ。
(「無表情同士、少しは感情の機微は捉えやすいかと思ったけれど」)
 そして、それらを無表情のままに受け流し対応するアルチーナの思考は抑揚のない凪のよう、全く読み取れない。
「神を纏いて鳴り響け、天導流・鳴神」
 空中で回避行動を取り難くなった瞬間を狙い、十六夜の雷を纏った神速の二刀が突きこまれる。常なる相手ならそれを逃れる事も困難だろう、しかしそれすら見切り、片方をナイフの刃で受けその勢いで体を空へと再び持ち上げたアルチーナは、真上から反撃の血襖の刃を縦に振るう。舌打ちしつつ仰け反った十六夜だが、その速度に対応しきれず刃の先端を受けてしまう。白銀のロングコートにより幾分ダメージは軽減されているが、攻撃手であるが故にそれなりの傷となる。
 即座にみやびが魔法の木の葉を舞い踊らせ、傷を癒やす。本来彼女は護りを固めた後に回復に移行しようとしていたが、相手の攻撃は一人のみを狙うもの。複数人の回復では追い付かない。護り手が少ない事も合わさり思うように護りを固める事もできない。
 互いの打点を考えれば劣勢と言ってもいいかもしれない。けれど、それを嘆くだけでは始まらない。冷静にマリオンは次に狙われるはずだった天花に向けられた刃へと割り込み防ぐ。暗闇に散った赤はアルチーナの傷を癒やしたが、
「青の衛兵よ。掴み、捕らえよ」
 天花の放った半透明の御業が死神を掴む。さらに無数の霊を纏う金狐の刃がアルチーナに振るわれたが、それに対応した死神は御業を振り払い、ナイフで受け止めた。
 だが、動きが止まった瞬間に八角形の牢獄が展開される。
「Call、八角の牢獄」
 術者のマリオンの言葉と同時、深海の高圧が内側に発生。その結界はすぐに解けてしまったが、全身を押しつぶされる感覚が残っているのかアルチーナは一旦後退し、ケルベロス達の攻撃により罅の入ったナイフを収めて新たな刃を取り出し、再びケルベロス達を斬り裂かんと駆け出す。
 そのまま、戦いは一進一退のまま続く。

●血の華は闇に咲く
「汝はいかずちの翼、閃光の裔。翔べ、フェレトリウス」
 マリオンの蔓草の茂みのような攻性植物を逃れた死神に向け、天花の銃器型のロッドが五色の羽をもつ鳥へと姿を変えて魔力を纏い突撃する。回避直後のタイミングでは避け切れず命中、
「理ごと斬り刻む! 総餓流・彼岸花」
 さらにドラゴニアンの青年の竜氣を纏った雷斬りと布都御魂がアルチーナの白肌を斬り裂けば、死神を覆う呪縛が増幅される。ここが狙い目と見たシルヴァネッロが距離を詰めオウガメタルを腕に纏わせて鋼の拳を振り被る。だが、苦痛にほんの少し歪んだ死神の表情に、一瞬その腕が止まってしまう。その一瞬にアルチーナは距離を取り、死神の力で傷を修復し仕切り直す。けれどそれはケルベロス達にとっても体勢を整える時間でもあり、
「世界に響け、勇気ある誓いの賛歌」
 みやびの満天星から響く音楽が転調、変化した歌の主題は愛に満ちた理想の世界への希望。高らかに歌い上げる彼女の歌声により前衛のケルベロス達の傷が癒され戦う為の力が奮い立たされる。
 けれど、シルヴァネッロの表情は憂かない。
(「あの時は顔が見えなかったから殺せただけなのか?」)
 過去の彼女と同じ顔、それだけで好機を逃すようなそんな甘い男だったのかと青年は自問自答してしまう。
「私の目から見れば彼女は過去の残滓でしかありません」
 そんな彼に、滔々とマリオンが言葉を紡ぐ。
「……が、あなたにとってはそうでもないのでしょう、シルヴァネッロ」
 そう問うレプリカントは金狐の青年の逡巡を見て取ったようで。
 シルヴァネッロは頷く。思っていた以上の後悔がある事は認めざるを得ない。
「よろしい、あなたが何を言うか、何を為すか。決めるだけの時間は稼いであげましょう」
 そう長い時間ではありませんが、とマリオンはシルヴァネッロの前に立つ。後悔などないように、その心を定める時間を稼ぐために。
「シルヴァネッロさん、私たちはあなたの味方です。この敵が何者であっても」
 そして、そんな彼を後押しするようにアペルピシア神葬歌に納められた禁断の断章がみやびの口から紡がれる。
 ほんの少し目を瞑り、眼を開いたシルヴァネッロに迷いは無くなっていた。
 鴇色の少女が狂花景光を緩やかな弧を描く軌道で振るい死神の足を狙うが、飛び上がった死神を捉え切れず躱される。さらにワンテンポずらして飛び込んだマリオンの肘より先はきゅるきゅると高速回転しており、ドリルのような貫手を死神へと見舞うが、飛び退いた服の一部を裂いただけに止まる。
 けれどそれはマリオンの狙い通り。死神の飛んだ先、誘い込まれた先には丁度シルヴァネッロのリボルバーから放たれた弾丸が飛び込んでいた。ビルの壁に弾かれ予想外の角度から飛来したその弾丸を、アルチーナは体を捻り急所から外す。けれど攻撃手としての彼の弾丸は十分な威力。
「我が手に集え、天穹の光。輝く白銀の槍となりて、闇を穿ち悪を砕き神を滅ぼせ!」
 天花の放った白く輝く砲弾は逃れようとしたアルチーナの腕をかすめ、重力と雷電の衝撃を喰らわせる。その一撃で鈍った一瞬をケルベロス達は見逃さない。
「轍のように芽出生せ……彼者誰の黄金、誰彼の紅……長じて年輪を嵩塗るもの……転じて光陰を蝕むるもの」
 ルベウスの胸の宝石、魔力回路が光を放ち、黄金色の槍――そのような外見の魔法生物が創り出され、
「……櫟の許に刺し貫け」
 主の一言にて放たれる。明らかに物理法則を無視した角度と速度でアルチーナに迫るそれは、赤い瞳に暴力的な衝動を宿したままに目標をダーツの的の様に貫いた後、光の粒子と崩れ落ちる。
「雷神の指先よ!」
 その言葉と同時、銃器のような形状の鳳吼のフェレトリウスから目にも止まらぬ速度の雷弾が放たれる。小さな一撃はアルチーナの刃に命中、刃の鋭さを一気に奪い取る。よく狙われる天花が傷つく度にみやびが舞わせていた魔法の木の葉には、天花の妨害手としての特性を一層に増幅していたのだ。死神が反撃の刃を天花に振るったが、鈍った刃では護りを破れない。
 自身の負った傷を確認しつつ、このまま押し切れると判断した十六夜は両の刀を納める。そして深く腰を落とし、次の瞬間爆発的な加速でアルチーナとの間合いを詰め、反応させる間もなく抜刀した二刀で八刃をを刻み付ける。一太刀ごとにアルチーナの体から散る血液は暗闇に咲く蓮華のように。そして十六夜の納刀と同時に血華は霧散。
 続いて雷電を纏うマリオンの槍が続き命中。痺れさせた一瞬動きが停止する。
「ここまでは請け負いましょう。あとは任せましたよ」
 決着を、そう十六夜がシルヴァネッロを促そうとするが、その前に彼は動いていた。
 思ったよりも過去の事を引き摺っていた。そう自嘲しながらもシルヴァネッロは最後の仕事を、ケルベロスとしての役割を果たすためにアルチーナの前に立つ。
 だけれど最後の足掻きか、アルチーナは痺れた体で投げナイフを抜こうと手をかける、が、横合いからアルチーナに鎖の群が殺到。表情を変えず、ルベウスも淡々とシルヴァネッロを促す。
 真正面からアルチーナに向かったシルヴァネッロがリボルバーを構え、もう二度と死神なんかに憑かれないように。そう、柄にもない祈りを込めて。
 銃声が、一発響く。
 そして、路地裏は静寂に包まれた。

●永訣にはもう少しだけ
「助かった。有難う」
 死神が消滅した事を確認したシルヴァネッロが仲間達に感謝を述べる。
「お疲れ様」
 静かに十六夜が告げる。
 傷を癒やし終えた天花は、シルヴァネッロをその桃の瞳で見る。普段通りの彼、けれどどこか嘘があるような、そんな印象を抱く。
「ご無事でよかったです。……癒しが足りなければ一曲歌いましょうか?」
 宿敵に狙われた彼を慮り、みやびが申し出たが彼は首を振る。
「……助けてもらっておいて何なんだが……少し一人にしてくれねえか?」
 苦笑し、シルヴァネッロが言った。
「そう、ですね。それでは帰りましょうか」
 その言葉を受け、みやびは他の仲間達を振り返る。彼の意を汲んだルベウスとマリオンも同意し、五人のケルベロスは路地裏を後にした。
 路地裏を去る十六夜は穏やかに。けれどその胸には彼自身の因縁と、静かに高まる殺意。胸に押し込んだそれらを欠片も見せず、静かに帰路へとついた。

 そして、静寂を取り戻した裏路地。
 ビルの切れ間から射し込む月の光が、一人佇む金狐を柔らかに照らしていた。

作者:寅杜柳 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年5月23日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。