雪花の夕暮れ

作者:志羽

●雪花の夕暮れ
 楽しげな、人々の賑わい。
 寒いねと笑いあいながらカップルは店先を覗き、親子連れはどれにしようかと小腹を満たす料理を相談中。
 日が暮れはじめ、きらきらと輝くイルミネーションの灯りがつき、それが導く先は広場だ。
 そこにはクリスマスの為に飾られたモミの木。
 その周囲にはテーブルとイスがいくつか用意してあり、そこで飲食を楽しんでいる人々もいる。
 まだ始まったばかりのクリスマスマーケット。
 人々が楽しい時間を過ごすそこへ――凶刃が落ちた。
 突然突き刺さった巨大な牙は、鎧兜を纏った竜牙兵へと姿を変えた。
 竜牙兵の掲げた剣が、目に付いた相手にただ無慈悲に向けられる。
 逃げ惑う人々の叫びを楽しむように竜牙兵は声をあげ、その場所は血と臓物に満たされる。
 ドラゴンへの贄とされた人々の躯が重なるその上へと、ちらちらと雪が落ちていくのだった。

●予知
 竜牙兵が現れるという予知がでたんだと、夜浪・イチ(蘇芳のヘリオライダー・en0047)は集ったケルベロス達へと告げた。
「それは、もしかして」
 問いかけるエヴァンジェリン・エトワール(白きエウリュアレ・e00968)へとイチは頷き、エヴァンジェリンさんが危惧していた場所に、と続けた。
「竜牙兵が現れるのはクリスマスマーケットで賑わう場所なんだ」
 クリスマスマーケットの中心である広場に落ちる牙。竜牙兵が現れる前に避難勧告を出すと、他の場所に出現してしまう為、事件を阻止する事ができず被害が大きくなってしまう。
 けれど、事前に警察などへ通達はできるので、竜牙兵を撃破する事に集中できるとイチは紡いだ。
「警察には根回しして避難を任せられるようにしておくね。竜牙兵への対処は、皆にお任せ」
 現れる竜牙兵は3体。
 よっぽどの事が無い限り決して遅れをとるような相手ではないとイチは言う。
 現れるのは夕暮れ時。イルミネーションが点灯し始めた頃合いだ。
 それぞれゾディアックソードを一本ずつ装備している。
「戦闘になれば、敵は逃げる事はないよ。それにこちらが仕掛ければ他の人を狙う暇もなくなると思う」
 人々を守るためにも、よろしくと紡いだイチはそうそう、と言葉続ける。
「戦いの後、周囲の様子によってはヒールもよろしくね」
 せっかくのクリスマスマーケット。それが荒れたままでは人々も楽しめないだろうから、と。エヴァンジェリンはその言葉に頷く。
「そうね。楽しみにしてた人、沢山いるものね」
「はいはい! もちろんちゃんとお仕事はしてくるんだけど!」
 と、ザザ・コドラ(鴇色・en0050)は手をあげて。
「クリスマスマーケットを楽しんで、きても……!?」
「それはどうぞ、ご自由にー」
 楽しみ、とはしゃぐザザの様子にエヴァンジェリンは小さく笑み零した。
 そして集っている仲間達へと向き直り、手を貸してほしいと紡ぐ。
 人々が楽しげに過ごすクリスマスマーケットの為にも、と。


参加者
藤守・つかさ(月想夜・e00546)
ルーチェ・ベルカント(深潭・e00804)
エヴァンジェリン・エトワール(白きエウリュアレ・e00968)
真柴・隼(アッパーチューン・e01296)
ジョゼ・エモニエ(月暈・e03878)
アラタ・ユージーン(一雫の愛・e11331)
ザンニ・ライオネス(白夜幻燈・e18810)
リヒト・ホシガミ(ほしめぐり・e40678)

■リプレイ

●雪の日の、凶刃
 賑わう広場へと――それは落ちた。
 地に落ちたものは竜牙兵へと姿を変え、人々は叫び声をあげ逃げ始める。
「ノエルには、楽しみがたくさん詰まっているものよ」
 人の想い、場所、喜び、楽しみ――なにひとつ、壊させないわとエヴァンジェリン・エトワール(白きエウリュアレ・e00968)は掌の上に一輪のダチュラを。
「無粋な子達ね。この悪夢、終わりを導いてあげる」
 月光に冴える白に、甘く濃厚な香り。両手で包み唇寄せ、高く空へと放てば蝶へと変わり前列の仲間達の守りともなる。
「ザザも、頑張りましょうね」
 エヴァンジェリンの言葉に逃げる人々の誘導は任せてとザザ・コドラ(鴇色・en0050)は告げてそちらへ。
「大丈夫、支え切ってみせるから。兄さん、行って」
 エヴァンジェリンへと頷いて返したのはルーチェ・ベルカント(深潭・e00804)だ。
「竜牙兵……差し詰めドラゴンのオーナメントみたいだねぇ」
 けれど、とルーチェは口端上げる。
 楽しめるなら丁度いい――それはいつもの温和な物腰をかき消して。
「僕も、存分に殺し合いたい気分なんだ。相手してよ……ねぇ、Sei pronto……?」
 残忍で、好戦的な光を紅瞳にもって、懐へ。そして踏み止まると電光石火の蹴りを放つ。
 続けてジョゼ・エモニエ(月暈・e03878)のバスターライフルからの砲撃。
「フン、相変わらず賤しい骨ども」
 その声にレーヴも一声鳴いて同意を返し、清浄なる翼での羽ばたきを送る。
「クリスマスシーズンにリア充スポット荒らしとは、おたくらも懲りないねえ」
 真柴・隼(アッパーチューン・e01296)の言葉に同意するように飛び出したのはテレビウムの地デジ。
 地デジは眩しい光を向け、隼は皆と同じ的狙いチェーンソー剣を唸らせながら振り下ろした。
「悪いがお前らはお呼びじゃないんだ、早々に退場願おうか」
 一番近くにいた竜牙兵へと縛霊手の掌向けたのは藤守・つかさ(月想夜・e00546)だ。
「暫くは俺達と遊んでてくれ」
 その言葉と共に放たれた巨大光弾は敵を包み込む。
 仲間達が攻撃かけるのを横目に、人々の避難の様子をアラタ・ユージーン(一雫の愛・e11331)は視界の端に。そちらは上手くいっている様子。アラタのウイングキャット、先生が尻尾の輪を敵へ向ける間にアラタも紡ぐ。
「キレイハキタナイ―――キタナイハキレイ」
 紫の薬草と花を砂糖に漬けたシロップの香り。その香りは後衛の皆の精神を安定させ集中力をコントロールする。
 その香りを感じつつ。ザンニ・ライオネス(白夜幻燈・e18810)の肩の上から青い目の、鴉のドットーレが飛びあがりザンニの手に杖となり収まって。ザンニも巨大光弾放てば敵は飲み込まれていく。
 そして、一層輝く光弾丸を放ったのはリヒト・ホシガミ(ほしめぐり・e40678)だ。
 敵の動きの幅を狭めるべく撃った一手。続けて傍らにいたボクスドラゴンのスピカは前列のアラタへとその属性を分け与える。
 戦う態勢を整えるべく手を打つ。竜牙兵との戦いはまだ始まったばかり。

●敵は果て
 周囲の避難が終わり、ザザが合流する。
 が、その時にはもう戦いの流れはケルベロス達に傾いていた。
 右手の白手袋を外し、ルーチェは茨絡む漆黒のエイワズの甲を晒す。
 ルーチェがその手で齎すは魂を喰らう降魔の一撃。それに喰らわれ、飲み込まれ。竜牙兵はぐしゃりと塵になって消えた。
 そこへ別の竜牙兵がオーラを放ち前列へと凍てる力を振りまいた。
 だがその力は存分には奮われなかった様子。
 エヴァンジェリンは回復の必要はないとみて氷結の螺旋を放つ。地を走り、敵を捕らえた螺旋はその足元より凍らせていく。
 そこへ隼が振り下ろしたのは竜槌。加速したハンマーは敵を潰すように振り下ろされた。
 その間にジョゼが紡ぐは偉大なる魔女より受け継いだ魔術。
「おいで、孤高の怪物。骨まで砕いて、呑み込んで」
 その声に導かれ頭部に角持つ白鯨の霊獣現れ巨大な胸鰭で海嘯巻き起こし、奔流は敵を閉じ込める水の牢獄となる。
 その牢獄をどうにか抜け出て、敵は攻撃をかけた。
 けれど、それを皆へは届かせないとアラタが防ぎに入った。守る分、攻撃は先生が。その爪向けてひっかきを。
「我が手に来たれ、黒き雷光」
 自らのグラビティを黒い雷に変えて。つかさの縛霊手の上を走り、竜牙兵を穿つ。
 距離を詰めたリヒトのその手は獣化して。重力を集中させ高速の、重い一撃。
 そして隙を見逃さず、ザンニはすでにぼろぼろの、倒れかかっている敵へ向かい素早く礫を放って貫く。
 その鋭い一弾は敵の身を砕いて塵へと返した。
「最後の一体だな」
 つかさが構えたバスターライフル。その銃身は敵を捕らえ、放たれた魔法光線が敵を貫く。
「穢れた腕で、抱いてあげる……」
 テノール・リリコが囁き唄う。
 ルーチェの終楽曲に導かれ、大地を侵食する深潭の闇より出でる漆黒の蛇は敵の四肢を食い破り、戒めの鎖となる。
 ぐらりと傾いた所へ隼は再びチェーンソー剣を見舞う。
 続けて地デジが凶器振り下ろし鈍い音。ザンニも狙い定めて礫放てば敵の一部を砕いていく。
 敵はまだ戦意を失わわず、剣に重力の力を乗せて振り下ろす。その攻撃を、咄嗟に庇いに入ったアラタは正面から受けた。
 リヒトは傍に走り、すぐさま敵へと魔力込めた咆哮を向け、敵の足はその場に縫い付けられた。
 思いの外、深い一撃。けれどその痛みはすぐに引いていく。
 エヴァンジェリンが己のオーラを溜め、アラタに向けて放ったのだ。
 アラタはありがとうと一瞬視線向け踏み込んだ。
 肘から先をドリルのように回転させて口出せば、敵の身にヒビが走る。
 そこへトドメと、走りこんだのはジョゼ。理力を籠めた星型のオーラを足に纏わせ蹴りこめば、最後の一体はばきりとその身を砕かれて倒れたのだった。

●冬の夕暮れ
 壊れた箇所はヒールが施され、一層クリスマスらしさを纏う。
 アラタはヒールも終わったと満面の笑み。ほら、とザザとエヴァンジェリンの背を押す。
「いざ、クリスマスマーケットへ!」
 早く行こうという声にザザはうんと笑い返す。
「二人とジィジに素敵な出逢いがあるといいな♪」
 アラタに背を押され、驚きつつもエヴァンジェリンはゆるりと笑み零し頷いた。そしてエヴァ、と己を呼ぶ声に振り向けば。
「君が居たから守られた場だ。二人の最愛の父上を想って存分に楽しんでおいで」
 エヴァンジェリンへとルーチェは柔らかな笑みを。それから、とリヒトへも視線向け。
「お疲れ様、またいつかへリポートで会えると良いな」
 一声かけて、歩み始める。するとその背に楽しみましょうねとリヒトからの声。
 その先には双子の弟、ネーロの姿があった。
「折角だから食べ歩きしようかネーロ」
 まずは、と視線巡らせて見つけた物。
 それをルーチェは示して。
「たまにはチョコラータ・カルダはどうかな?」
「ちょっと寒いからチョコラータ・カルダ、丁度良いね。そうしようか!」
 甘味が苦手なルーチェは果物と一緒に。ネーロはそのまま口にする。
 他にも折角だからとネーロはあれこれ、温かい物を見つけてはルーチェと名を呼んで強請る。
 そのおねだりに自然と口元緩めて、ルーチェも楽しそうに片っ端から応じていく。
「そうそう、飾りが欲しいのだよね」
「折角飾るならちょっと大きめのがいいかな?」
 丁度いい飾りはないものかと二人でクリスマスマーケットをぐるぐると。
 これはどうだろうと選んだのは月と雪と星。それは特別なみっつ。
「月は三日月がいいな」
「帰ったらプレセピオの隣に飾ろう」
 ふわり、ほわりと舞い降る雪に三日月の飾りをルーチェは翳す。
「帰る前にイルミネーションも見ていこうよ」
 いいねと頷いたルーチェは手を差し出し笑う。ネーロも思わず口元緩めながら、共に光を眺めに。

 すごく楽しそうな雰囲気、そして。
「なんだかおいしそうなかおり……」
 それにつられて飛び出していきそうなスピカを留め、もう、とリヒトは零す。
「スーさん。楽しいのはわかるけど勝手に行ったらはぐれちゃうよ!」
 甘いものはお買い物の後にと言うと早くと言うように尻尾が揺れる。
 その様に小さく笑ってごろーさん、とリヒトは声かける。
 と、一緒にと誘った護朗の様子伺えば甘い匂いにつられている様子。
 男が甘い物好き、というのはちょっと恥ずかしくて大っぴらに公言できない――と、思っている護朗。
 しかし、それはその行動に現れていた。それを察してリヒトは笑み浮かべる。
「ね、ごろーさん、探し物が見つかったら休憩しましょう!」
 その声にひとまずはホシガミのプレゼント探しが最優先と護朗は頷く。
「スーさんにはどんなものが良いかなぁ……」
「寒いしマフラーとかあると、外でもあったかいんじゃない? いっそホシガミも買ってお揃いにしてみるとか」
 それも良さそうと零し、リヒトは護朗へと視線向け。
「あ、ごろーさんはたまさんにどんなものを贈るんですか?」
「タマには毛糸の帽子買おうかなって」
 きっと似合うタマかわいいからと妹バカ発揮。その姿思い浮かべて護朗は表情崩す。
 そしてあれがいいこれも良いと色々探して、そして贈物決まればほっこり。
 ご一緒してくれてありがとうございます、とリヒトは紡いでホットチョコレートを差し出す。
「……!」
 それにぱっと目を輝かせ護朗がリヒト見れば柔らかな笑み。
「お礼に……はい、どうぞ」
「え、いいの? それじゃあ、ありがとう。いただきます」
 ホットチョコレートは甘くて。
 そしてそれはもう暫く、皆で過ごす一時のお供。

 飲み歩きをしてみたかったんですよね、と定番のホットワインを手にザンニは歩む。
 揺漓の手にもホットワイン。温かいと感じるのはホットワインのせいなのか、それとも雰囲気のせいなのか。
 ホットチョコも良さそうっすね~とザンニの視線はあちこちに向き、揺漓の視線もそれを追いかける。
 一足早めなクリスマスの雰囲気に心なしかウキウキ気分なのだ。
「喫茶店でもパーティしたりはするんでしょうか?」
「俺の方は贈り物を交わしたりする程度なんだが……」
 そうだな、と揺漓は零し。
「偶には本気でクリスマスツリーを飾ってみたりするのも面白いかもしれんな」
 とは言え色々種類がある。
「オーナメントを共に見繕ってはくれないだろうか?」
 折角のクリスマス、見ているだけでは勿体無いと揺漓は続ける。
 そう言うともちろんとザンニは大きく頷いて。
「オーナメントなら天辺の星と雪だるまでも探しましょう……!」
 賛成とばかりに瞳輝かせる。
 本来は家族とのんびり過ごすお祭だとしても、こんな風に楽しげな様子を見ていると幸せのお裾分けも良いものだと、思えてくる。
 ザンニはへらりと笑み零して。
「ユラさんからも一緒に過ごす楽しい時間を沢山頂いて、本当に有難いことっすよ!」
 その言葉に揺漓は瞬いて、笑う。
「楽しい時間を頂いているのは此方も同じ。有難う」
 つぎはレモネードを手に、ゆっくりと存分に楽しもうと。

 ガイストの姿を見つけ、アラタは手を振りながら迎えに行く。
「アラタ達頑張ったぞ!」
 手を挙げて応えつつ、その手が届くようになれば、ガイストはアラタの頭へと手を伸ばした。
「いつも頑張っていて偉いな」
 アラタを労うその手に笑顔を益々零し、そして袖をついと引く。
 それにアラタに任せようとガイストも歩み始める。
 一緒に歩む通りには電飾とオーナメント。
 羊や馴鹿が天使達と寛ぐ青葉敷きの屋根下。それに音楽と賑わいにアラタの心は弾む。
 アラタ達が守り抜いたからこその賑わい。それはガイストにとって我がことのように誇らしくさえ思える事。
 と、その鼻先を擽る香りにアラタの足は止まる。
「……温かい飲み物買うか?」
 ホットビールもある! とアラタは指を差す。
「温かい麦酒は飲んだことがないな。アラタこそ、温かな飲み物は良いのか?」
 漂う香りにガイストは雑貨だけの市ではないのかと気づく。
 肉に葡萄に、それから。
「……ちょこれいとの香り」
 ほっとちょこれいとの店があるに違いないと見つけた店を教えれば、アラタはそれにすると嬉しそうに。
 飲み物持つ手、指の先からまず温かくなる。
 二人並んで飲めば、あたたかな心地。息の白さに夜の冷たさはもう無い。
 ふと、人並み向こうで輝くレープクーヘンにアラタの目は止まる。
 星砂糖纏うロリポップに視線奪われ釘付けだ。
 それを追いかけたガイストはアラタに似合いそうな可愛らしい菓子店を見つけ、足向ける。
「店主、ひとつくれるか」
 そうして、ガイストが買ったものは今、アラタの目の前に。
「今日の頑張りの褒美だ」
「いいのか? ありがとう!」
 静かに温かく、自身に向けられているガイストの瞳。
 見守ってくれる大好きな瞳は――ベツレヘムの星のように見えた。

 二人で歩む通りはきらびやかだ。
 そんな輝きに目をやりつつ隼はジョゼへと頼み事。
「今年はウチもクリスマス仕様に飾り付けしようかと思ってさ。いい感じの雑貨を一緒に探して貰える?」「お洒落雑貨の発掘なら、アンタの右に出る者はいないでしょうけど」
 丁度オーナメントを買い足したかったし、とジョゼは紡ぐ。
 そしてちらっと隼を見て。
「何かお揃いの小物を買えたら、とか……」
 と、もごもごと小さく零したのだがふと、目に入ったものにジョゼは瞳輝かせそちらへ。
「馴鹿と樅の木のガーランド、氷花のリースに宝石細工のツリー」
 どれも素敵と手に取って眺めるジョゼ。
「グラスオーナメントが揺れる硝子のミニツリーとか。リースなら大人シックな雰囲気の物がいいな~」
 他愛ない話を重ねながら見る店先。
 硝子ドームの中に聖夜の街並みを再現したジオラマも素敵だしシュビップボーゲンは飛び出す絵本みたいだと隼は無邪気に笑う。
「あ、ねぇ。ペアのキャンドルホルダーはどう?」
「キャンドルか~」
「ノエルカラーのモザイク硝子が綺麗」
 男所帯の我が家じゃなかなか出番がなさそうなと紡ぎながら隼はちらっとジョゼを見て。
「……キミがうちに泊まりに来てくれるなら、使い所もありそうなんだけどナー」
「……別にいいけど。泊りじゃなくても良くない?」
 その言葉にはぐらかしたような、はぐらかされたような。
 幾つか気にいったものを手にして、歩み始めた――と思えば、ジョゼの足は止まる。
「白いお髭に赤い服……あれは、あの、もしかして」
「ああ、サンタさん?」
「……! やっぱり、サンタクロース!?」
 どうしよう本物を見るの初めて……! とジョゼは一層、瞳輝かせて。
「一緒に写真撮って貰う?」
「しゃ、写真? いいの?」
 あの長蛇の列は多分撮影待ちでしょと隼は言う。
 その言葉に撮る、並ぶとこくこく頷くジョゼ。
「嬉しい、後で先生に自慢しなくちゃ!」
 その様子に隼の笑みは深まる。
「無邪気なキミといるとクリスマスを指折り数えたあの頃の気持ちが甦ってくるよ」
 そんな小さな呟きはジョゼの耳には届いていない。
 速くと急く声が重なって、隼はジョゼについていく。

「仕事お疲れさん。今日に相応しい一杯を探しに行こうぜ」
 ひらりと手をふってつかさを労ったのはヒコだ。
「そっちもお疲れさん」
 と、つかさも笑って返す。それは先日の、儀式阻止を為してきた男への労い。
 既に一杯を楽しみにする様子に小さく笑い零れる。
「――……おっと。その前に目的を果たすとするか」
 その前に、と賑わいみせる出店をゆるりと回る。
 あった、とヒコが視線で促したのはシュトレンだ。
 店先に並ぶそれは手作り感あふれるもの。
「ふぅむ。白粉振った堅パンとはまた違う……んだよな?」
「パンというよりもケーキの分類だな」
 美味いのを毎日って楽しさもあるけど味の変化を舌で楽しむのもいいもんだとつかさが説明するのにヒコは成程と頷き、毎日少しずつってのが気に入ったとひとつお買い上げ。
「明日も明後日にも楽しみが待っている。願わくば永らく……――と、其れは流石に無理か」
 永らく、の言葉に子供かとつかさは笑う。
「楽しい事は続けば良いと思うけど、終わりがあるから次を待つ楽しみがある、だろ?」
「そりゃそうだな。さあて次の探しモンはなんだ?」
 まずは異国の伝統食と香る温かな葡萄酒か。
 告げられた言葉につかさは頼もしいと零し。
「後は、ワインと……あれば口当たりのいい日本酒、かな」
「……ん、なんだ。酒を御所望か、仕方ねえ、何から飲みに行く? 今日は一日付き従ってやるよ」
 それはひとしきり、煌めく市を楽しんだあとに。

 クグロフ、リースや飾りを買い求めつつエヴァンジェリンは微笑む。
 彼は喜ぶかな、と思いながら選ぶのは心躍らせるもの。
 色々なものを買って、最後に暖かなヴァン・ショーを一杯。
 ふと通りすがったルーチェ達に手を振りつつ、一口。
 賑うクリスマスマーケット――マルシェ・ド・ノエル。
 その様を眺めつつエヴァンジェリンの足は一歩ずつ帰り道へと向かう。
 そばにあるのにどこか遠くにあるような――瞳の奥で揺れる故郷での記憶、家族との記憶、そして喪失の記憶。
 けれど浮かぶものを、温かく甘いヴァン・ショーと一緒に全て歩み干せば、エヴァンジェリンの視線はまっすぐ、行くべきところを見詰めていた。
 大切な人が待つ、今、帰るべき場所へと。

作者:志羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。