寒い夜こそ冷たい甘味

作者:久澄零太

「やはり冬はアイスに限る」
 寒いって言ってんのに冷たい物を欲しがる鳥さんはバニラアイスのカップを手羽先に取る。
「分かるだろう? この普通なら温かいものを求めるであろうこの時期に、あえて冷たい物を頬張るというそこはかとない贅沢感……そしてなにより」
 蓋を開けた鳥オバケは天板をぺしぺし。
「炬燵とアイスの組み合わせの至高であることよ……」
 炬燵アイス。体を温める物と冷やす物を同時に揃えた鳥オバケはスプーンをぱくり。
「行くぞ同志達、この冬に至高の味を届けるのだ!」
『イエスウィンター! ゴーアイス!!』

「皆大変だよ!」
 大神・ユキ(鉄拳制裁のヘリオライダー・en0168)はコロコロと地図を広げて、とあるビルを示す。
「このビルの最上階、今は使われてないんだけど、冬はアイスこそが一番ってビルシャナが現れて、信者を増やそうとするの!」
「冬にアイスですか……」
 クノーヴレット・メーベルナッハ(知の病・e01052)の脳裏に過るのは冬限定アイスと書かれたコンビニの広告媒体。ある意味強力な敵になるかもしれない。
「信者は温かいスイーツを推すか、冬と言えばアイス全般だと思ってるから、逆に冬に食べるアイスの中でもどれが一番なのかを突きつけて派閥を作れれば勝手に目を覚ましてくれるよ」
 アイスで挑むか、ホットで挑むか、番犬側の嗜好が出るかもしれない。
「敵はアイスを見せつけて皆を誘ってきたり、無理やりアイスを食べさせて頭痛を起こさせたり、炬燵の熱を当ててアイスを欲しがらせたりしてくるよ!」
 ビルシャナっていうか、アイスとの戦いになりそうな気配が漂い始めた……。
「冬にアイスもいいけど……それとこれとは別だよね。しっかりやっつけておかないと! ……それはそれとして、バニラアイスって、いいよね?」
 じー。君たちはヘリオライダーの物欲しそうな目を見なかった事にしてもいいし、軽く聞き流してもいい。


参加者
ユーフォルビア・レティクルス(フロストダイア・e04857)
大首・領(秘密結社オリュンポスの大首領・e05082)
白石・明日香(愛に飢え愛に狂い愛を貪る・e19516)
シルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410)
主・役(エクストリームアーティスト・e44480)
ケル・カブラ(グレガリボ・e68623)

■リプレイ

●太陽機は休憩室じゃない
「コタツにアイス……否定しきれないよねー……」
「ユキさんアイス買ってきたっすよー」
「ユキちゃんにはこれだよねー」
「二人ともありが……おっきぃ! レティレティ大きすぎるよ!?」
 これ、現場に向かう途中の太陽機の中なんだぜ……。
「私も入信しちゃいそう……」
「別にいいんじゃないっすか? 入信するまではお咎めないっすよ。そのまま敵に回ると刺客が送られるっすけど」
 どてらを羽織り、炬燵に入ってバニラアイスを食べるという、アイドルどころか仕事前の番犬にあるまじき姿で脱力するシルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410)。こいつ分かってるのかな、この記録って公表されるんだけど……。
「あの、レティレティ? これどうしたらいいの?」
「食べたらいいんじゃないかな?」
 ユーフォルビア・レティクルス(フロストダイア・e04857)がもってきたのはなんと三十キロ入った業務用バニラアイス。シルフィリアス・セレナーデ(紫の王・e00583)が買ってきたアイスが飾りに見える程の圧倒的質量である。
「さすがにこんなにはいらないよ!?」
「そうでもないっすよ? いざ食べ始めたら意外といけちゃって、物足りなくなるのはお約束っす」
「確かにそういう事もあるけど、さすがにこの量はお腹が……」
「冷えるんだよね?」
 シルフィリアスの魔女の囁きにユキが遠い目をすると、シルヴィアがこっちを向いた。
「冷えるんだよね?」
 大事な事なのか二回聞いた彼女。何かを察したユキが頷くと、再びシルヴィアはへにょんと腑抜けてアイスをちびちびもくもく。女の子にお腹が膨らむとか、体重が増えるとかその手の話を振ってはいけない。さもないとゴフッ!?
「あ、すみません、手が滑りました」
 このように、後頭部にスプーンが飛んでくるからな……。
(ふむ……やはり、寒い日には鍋だな……タジンやみぞれも甲乙つけがたい……いや、ココはいっそ豆乳で……)
 女子組が炬燵アイスを楽しんでいる傍ら、大首・領(秘密結社オリュンポスの大首領・e05082)は鍋を磨き上げながら今日の献立に想いを馳せる。
(いい仕事があったものだ……しかし、なぜ子ども達はアイスを食べているのだ?)
 若干一名二十歳だけど、細かい事は気にしない。疑問を抱いたまま、大首領を乗せた太陽機は現場付近に到着。
「では参るとしよう。鍋とオリュンポスの威光を知らしめるのだ……!」
 などと降下していく大首領に番犬達が次々と続くのだが。
「……行かないの?」
「鳥オバケ、しかもふざけた教義なら、番犬が六人もいれば十分っす」
「外寒いんだもーん……出たくないー……」
 サボってアイス食べてるシルフィリアスと、炬燵布団をギュッと握ってコタツムリ化したシルヴィア。
「そっかー」
 にこっと、ユキは笑って。
「お仕事なんだから早く行きなさーい!!」
「「きゃー!?」」
 炬燵ごと二人を放り出すのだった。

●アイスは溶かすもの
「フハハハ……我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスが大首領! 此度の沙汰、鍋の大奉行と呼ばれし我が力を以て、鍋の何たるかを教えてくれよう!!」
『はい?』
 ドアバァン! 派手に現れた大首領の姿に、鳥さんと信者はポカン顔。同時に、大首領も固まった。
(おかしいな、事前情報ではもつ鍋ではなかったか……?)
 炬燵の上に広がっているのはバニラアイスである。嫌な予感がして、大首領のオリュンポスアイが窓の向こう、大通りを挟んだ向かいのビルを見やると、何か見覚えのある番犬が鍋に突っ込まれていて。
(あちらにドクターがいるという事は……こちらは鍋の依頼ではない……!? 一体どうすれば……ハッ!?)
 大首領の手元には、仲間が持ち込んだ数々のアイスと鍋用に持ち込んだ飲みやすさ重視の豆乳。
「寒い日に炬燵に陣取るべきは、やはり『アイス』すら手玉に取る事のできる『鍋』よ!」
「なぁにぃ?」
 不機嫌そうな異形の前で、果肉入りフルーツアイスを複数組み合わせて鍋に投入、そこに豆乳を加えてゆっくりと溶かし合わせてから、ココアで味を調えて。
「溶ける性質を持つアイスを選んでしまった愚かさと我が術中に嵌った者には、まさに刺客と言っても過言ではない……見よ、これこそが我らオリュンポスが誇るフルーツブロスラテよ!!」
 さりげなく組織を巻き込んで大見得切った大首領。鍋ごと出されるラテを前に異形ですら目が点。
「さぁ飲め、飲むがいい、貴様の大好きなアイスだぞ……!」
「いや、待って、そんなの入らな……んぅ!?」
 嘴に鍋をねじ込まれて異形がビクンビクン。動かなくなった隙に押し退けてシルヴィアが炬燵に収まり、はふぅ。
「寒い夜にコタツで冷たいスイーツ…確かに魅力的だよねっ!」
「何さりげなく教祖様の場所とってるの!?」
 追い出そうとする信者に対し、シルヴィアはガッと炬燵の脚を掴んでビクともしない。
「私も炬燵アイスは否定しないけど……でも、折角寒い夜なら、この時期ならではのアイスなんか良いんじゃないかな?」
 全力で引っ張ったのに微動だにしない女を前に、信者の一人が撃沈。妨害がなくなるとシルヴィアがおしることアイスを並べて。
「ってコトで、私がオススメするのはクリーム汁粉だよ! 温かいお汁粉に冷たいアイスやソフトクリームを乗っけて楽しむのは、暖かさと冷たさの温度差を楽しめるし、コタツにもアイスにも繋がる贅沢感があるよね!」
「それなら別にコーヒーフロートでも……」
「和洋折衷だからいいんじゃないかなー?」
 渋い顔をする信者に対して、ユーフォルビアは某アイス大福を取り出して。
「アイスをお餅で包んだこれって美味しいよね。つまり、アイスと和菓子を重ねる事で……あ、数がたりねーや」
 説得に使うために持ち込んだのだが、こいつは二個入り。信者やビルシャナの人数を見回して。
「悪いな信者達、このアイス一人用なんだ」
 一個食べて、一個だけ差し出すという暴挙。アイス好きの信者達による、無言の牽制戦が始まってしまう。
「で、味は何派? ボクはストロベリーミルクが好きさー」
「分かるっす、アイスはイチゴ味が一番おいしいっすよね。他の味だって悪くはないっすがイチゴにはかなうはずもないっす」
 ユーフォルビアに合わせてシルフィリアスが炬燵にイン。何で鳥オバケの炬燵に三人も番犬が入ってんだ?
「イチゴに限らずに果物系のアイスは間違いって少ないだろうしね。その中でも特にイチゴが好きなのですー……そこにミルク入りで、イチゴの甘さとミルクのまろやかさが合わさって、最高よね」
「そうっすよね……イチゴ味の良さもわからない連中はおかしいと思わないっすか?」
「え?」
 急に話を振られた信者が止まり、その隙に大福アイス争奪戦の決着がついた。

●溶かさないけど熱い
「オコタのお供に天ぷら☆」
 挑発としか思えない事を口走るのは主・役(エクストリームアーティスト・e44480)……また名前が紛らわしいのが来やがったな。お前は主役で記録するからな。
「全く、これだから最近の番犬は困るな」
 てめーもだよ大首領。
「何!?」
 おまいう状態の大首領はほっといて、主役はちらと異形の様子を見る。挑発に乗ってくるならここでペースを乱そうとしていたのだが、鳥さんは嘴に鍋を突っ込まれてそこから大量のフルーツブロスラテを流し込まれ絶賛気絶中。諦めてバニラと天ぷら粉を手に。
「アイスー♪」
「作るの!?」
 完成品ではなく、材料の方を持ってきた主役に信者がツッコむが、主役は衣を作りながら。
「仕方ないでしょー。天ぷらアイスはできたてじゃないと意味ないもの」
 その気になれば鳥さんの意識を刈り取れるんじゃないかなってレベルで凍結させたアイスを薄切りの食パンで挟み、衣をつけてサッとフライ。
「不思議食感あつひやスイーツ☆」
「おぉ……」
 主役が切って見せると、揚げたてサクサク熱々の天ぷらの中にひんやりしたバニラアイスが収まり、ジワジワと外周部分から溶けて滴るという新手のスイーツ。
「じゃあ鳥さんは特設オコタに一緒にダイブを……」
「駄目ですよ?」
 股を開かせるようにして異形を担ぎ上げた主役をクノーヴレット・メーベルナッハ(知の病・e01052)が止めた。
「デウスエクスを外に出したら、そのまま逃走される可能性もゼロではありません。そうでなくても、予知上はここで戦う未来を想定していたはず。あまり外れたことをすると、どんなしっぺ返しが来るか分かりませんよ?」
「えー……」
 不満気ながらも、主役は鳥オバケを宙に投げ、自身は壁に向かって猛ダッシュ。壁を蹴って異形の鳩尾に頭突きを叩きこみ、部屋の炬燵にシューッ!
「ゲホッゴホッ、何事!?」
「皆さんそれぞれお好みのアイスがあるようですし、折角ですから皆さんがお持ちのアイスをもっと美味しくして差し上げましょうと思います」
 目を覚ました異形が上半身だけ炬燵から出してるその反対側にクノーヴレットが収まり、取り出したのは魔法瓶。
「まずはお好みのアイスを用意しまして」
「あ、ちょ、やめ……!」
 べりっと、バニラアイスの蓋を開ける。
「そこにこちら……」
「待ってどこ触ってんの!?」
 魔法瓶の下にアイスを置いて。
「溶かしたチョコをかけます」
「ぁ……らめ、出ちゃうぅううう!!」
 トロー……溶かされたチョコは粘性があり、ゆっくりとバニラアイスの上に落ち、そしてその冷気に当てられてパリパリに固まっていく。
「冷たいものと熱いものの反作用がより甘美な味わいを齎す逸品です、どうぞお召し上がりください♪」
 信者にチョコがけのバニラを差し出すクノーヴレットだが、異形はビク、ビクビクと不規則に痙攣している。
「何であれ甘味はチョコと混ぜればより美味しくなるものです。冷たいか熱いかに関係なくそれはもう。なので皆様、チョコを食べるのです。さあ!」
「ぁんっ!?」
 クノーヴレットが身を乗り出した瞬間、異形がビクンッ!
「教祖様!? まさか炬燵の下に何か……」
 信者が炬燵布団に触れた瞬間、クノーヴレットがニコッ。
「炬燵といえば炬燵がかりですね。ええ、私で実践して下さっても構いませんとも」
「……」
 これ絶対中を覗いちゃいけないやつだ。そう確信した信者はそっと手を放した。

●正に塩対応
「フハハハ!」
 ドアを蹴り飛ばすようにして、突然脚の生えた巨大な鍋が現れた。
「我が名は世界征服を企む悪の……」
「シルフィリアスさんの偽者!?」
「誰が寸胴鍋っすか!?」
 白石・明日香(愛に飢え愛に狂い愛を貪る・e19516)は実際には声でこいつが何者なのか分かったけど、実際前が見えなくて道を間違えてこっち来たんだろうなとか思ったけど、周囲に散らばるアイスのゴミを、氷の剣に再形成して鍋オバケの周囲に展開。
「な、何だ? 何やら嫌な予感が……」
「先手必勝サヨナラよ……!」
 ゴッ!
「ぬぁああああ!?」
 最初の一振りで叩き飛ばし、窓をカチ割り外へ。落下前に二振り、三振り続けて向かいのビルまで吹き飛ばしてしまった。
「いいですか、皆さん。アイスは最中アイスこそ至高なのです」
『唐突に始まった!?』
 何事もなかったかのように最中アイスを割って見せる明日香。
「こんな風に食べやすいサイズにするのも他の人に分けるのも自由自在なことができるのも最中アイスだけですよ~……もちろん、包丁もいりません」
 生み出された氷の刃の残りが、意味深に信者の頬を撫でる!
「アイスに美味しさは当然必須な要素です。そこに食べやすさという強みが加わることで最高に見えませんか?」
「いやいや、それじゃダメでショ?」
 ノンノンと指を振るのはケル・カブラ(グレガリボ・e68623)。彼の手には白い粉末が……。
「塩デショ。アイスも恋も、甘いだけでは盛り上がりに欠けると思いマス」
 ソルトですか!?
「ただのアイスでは甘いだけデスヨ。かと言って奇抜過ぎても胃もたれになりかねナイ。ならもうナニが最適なアイスかは明白デショウ!」
「お汁粉に塩を入れると甘いんだよねー……」
「ポテチにアイスを乗せても美味しいっす」
 えへへーと蕩けるシルヴィアと、ポテチの袋を開けるシルフィリアス。ケルはフッと鼻で笑い。
「甘い、甘いデス! 塩味を加えるのではなく、塩味のアイスこそが至高なのデス!」
 ケルが見せたのは塩バニラ。一時このシリーズ凄い人気だったよな……。
「柔らかな甘みと軽く突くような塩味、それがアイスの冷たさと一緒に口の中にじんわりと染み渡る……喉の奥に一気に飲み込んだ時の幸福感は他には出せないのではないかなって思いマス。もう既に、塩味アイスが至高でアルことは揺るぎないものデスネ!」
 塩バニラのアイスを並べ、両手を広げるケル。
「さぁドウゾ! 至高の塩味アイスをドウゾ! ついでにボクもドウゾ!」
 きゃっ、言っちゃった! と両手を頬に当てて身をくねらせるケルだが、信者は虚ろ目で。
「どうぞと言われても困るんだが?」
「え、いらない? そう……」
 と、ケルが肩を落としたその瞬間、向かいのビルから高速で飛来する物体が鳥オバケにドーン!
「な、なんですか今の!?」
 咄嗟に警戒する明日香の前で、飛来した何かは消滅したらしく跡形もなくなっており、目の前にはペラペラになったのしビルシャナが……!
「それでは最後の一曲、聞いてください」
 シルヴィアがギターを鳴らし、炬燵から出たくない女の子の怠惰を弾き語る。そのメロディが進むのに合わせて、段々鳥オバケが膨らんでいく。風船のようにまん丸になった所で、クノーヴレットがチョコを塗り。
「シュピール、どうぞ」
 偽箱に噛みつかせたら、パァン!
「おろぉおおろおぉお!?」
 噛み跡から空気が抜けて、異形は空の彼方へ飛び立っていった……。
(私は鍋を作りたかっただけなんだがなぁ……)
 ひっそりため息をつく大首領の横で、主役が遠くを見やる。
「向こうは鍋かぁ、余ってたら味見させて貰えないかなー? よーし、この天ぷらアイスと交換ってことで頼んでみよー♪」
(おや、向こうはまだ食べているのか)
「仕方ない、我が配下がいるのなら迎えに行かねばならぬな、うむ」
「今日は鍋も食べれるんデスカ?」
 鍋に期待する大首領と主役、ケルが向かいのビルに向かう一方。
「あちしいらなかったじゃないっすかやだー」
「まぁまぁ、たまにはいいよね」
「なんだか語ってたら食べたくなってきちゃったねぇ」
「折角ですからチョコはいかがですか?」
 シルフィリアスとシルヴィアが炬燵でぐでーん、ユーフォルビアが残ってたアイスに手を出すとクノーヴレットが溶けたチョコを差し出して、明日香は一人帰り道。
「ユキさんにバニラアイスでも買ってあげましょうか。それ以外を食べさせるのはいづれかの機会に……」
 こうして既に三万百八十グラムのアイスを抱えたユキに追撃が加えられるのだった。

作者:久澄零太 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 3/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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