剛剣ドゥラヘド

作者:零風堂

 時刻は、正午を過ぎたあたり。日々忙しく働く日本のビジネスマンたちの暫しの休息――昼休みの時間に差し掛かった頃だった。
 ある者はコンビニで弁当を購入し、またある者は定食屋に入っていく。そんないつもと変わらない市街地の様子は、突然の乱入者によって惨劇へと塗り替えられる。
「ハッ、こいつはいい。狩り放題じゃねえか!」
 現れたのは、3mはあろうかという巨躯の戦士。全身を焦げ茶色の薄汚れた鎧で包み、手には古びた長剣を携えている。しかし実際には巨躯の戦士が携えているだけあって、普通の人間には持ち上げることすらできない巨大剣であろう。
「俺も渇いてんだ。グラビティ・チェインをよこせ! ってやつだな!」
 巨躯の戦士はふざけた調子で言いながら、乱暴に剣を振り回して往来を進む。その度に剣で殴り裂かれた人々の血が飛び散り、恐怖の悲鳴が辺りに響いた。
「ハハハッ、死ね、死ね死ね!」
 逃げ惑う人々を嘲笑いながら、血の海の中で戦士は駆ける。こうして憩いのひと時は、惨劇の時へとその様相を変えてしまうのだった。

「凶悪なエインヘリアルが現れ、人々を虐殺するという事件が予知されました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はそう言って、集まったケルベロスたちに視線を向ける。
「現れるエインヘリアルは過去にアスガルドで罪を犯した凶悪犯罪者らしく、放っておけば多くの人々が殺害されるばかりでなく、その話を見聞きした人々に恐怖と憎悪をもたらし、地球で活動するエインヘリアルの定命化を遅らせることにも繋がるでしょう」
 急ぎ現場に向かい、敵を撃破して欲しい――。セリカの言葉にケルベロスたちも、黙って頷いた。
「敵はひと振りの長剣を携えており、3mはあろうかという巨体に、全身鎧を纏っているといいます。剣を使って衝撃波を放ったり、こちらの強化を打ち消すような強力な一撃を打ち込んでくることもあるようなので注意して下さい」
 それからセリカは、周辺の様子についても説明を加えていく。
「敵が現れるのはお昼時の市街地で、道路や商店には多くのビジネスマンをはじめとする一般人がいると思われます。該当の自治体や警察には避難の協力をお願いしておきますので、皆さんは敵の注意を引くこと、戦うことに専念していただいて問題ありません。また、このエインヘリアルは自分から撤退するような動きは無さそうです。もしかしたらエインヘリアル勢力としても、使い捨ての戦力として送り込んで来たのか、撤退させようとする動きや援護なども無いようです」
 ようは、こいつさえ何とかすればいいということだ。
「危険なエインヘリアルを野放しにするわけにはいきません。皆さんで力を合わせて、この撃破をお願いします」
 セリカはそう言って、ケルベロスたちを激励するのだった。


参加者
三和・悠仁(憎悪の種・e00349)
ロウガ・ジェラフィード(金色の戦天使・e04854)
エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)
猫夜敷・愛楽礼(白いブラックドッグ・e31454)
ミミ・フリージア(ヴァルキュリアの鎧装騎兵・e34679)
キアラ・エスタリン(導く光の胡蝶・e36085)
終夜・帷(忍天狗・e46162)
長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)

■リプレイ

「ハハッ、死ね!」
 市街地に突如として現れた、エインヘリアルの凶悪犯。逃げ惑う人々ではこの凶暴な刃を避けることは叶わず、無惨に命が砕き散らされるだけと思われた。
「我はヴァルキュリアの戦士、エメラルド!」
 だがそこに、エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)が名乗りと共に割り込んで来た。相手の剣を槍で弾き、正面に立って胸を張る。
「貴様を誅し、この場を守る為に来た!」
 言い放つエメラルドに、エインヘリアル――ドゥラヘドはじろりと視線を向ける。
「皆さん、私たちはケルベロスです。後はお任せを! 警察に従って避難をお願いします!」
 キアラ・エスタリン(導く光の胡蝶・e36085)も駆けつけてすぐに周囲に呼びかけ、一般人に避難を促す。その場に居合わせたクネウス・ウィギンシティ(強襲型鎧装騎兵・e67704)も、現在地のマップをネットで拡散しつつ、避難誘導を手伝っていた。

「ドゥラヘド、私たちが相手です。まさか無視はしませんよね? その自慢の剣が飾りでないのでしたら」
 キアラがエアシューズで加速し、流星の如き輝きを放ちながら蹴りを繰り出す。
 ドゥラヘドは片腕を立てて身構え、スターゲイザーを受け止めた。
「地球の皆さんを守るために、剛剣ドゥラヘド、今ここで滅します!」
 言い放つキアラだが、ドゥラヘドは腕を振り払っており、押し戻される形になった。それでも互いに向き合い構え、間合いを取り直していく。
「人々を守るためにも、わらわたちががんばらねばのぅ」
 ミミ・フリージア(ヴァルキュリアの鎧装騎兵・e34679)は言いながら、ちらりと周囲の様子に視線を走らせる。巻き添えに注意し、敵と自分の位置を確かめて――。
「わらわの力見せてやるのじゃ。こんなのはどうかのぅ」
 強化した猫のぬいぐるみを投げつけて、ドゥラヘドの注意を引く。同時にテレビウムの『菜の花姫』が駆け込んで、凶器攻撃を仕掛けていた。
「せっかく楽しもうってのに、邪魔するなよ?」
 不敵な笑いと共に言うドゥラヘド。その言葉に、三和・悠仁(憎悪の種・e00349)が憎悪を滾らせる。
「無駄に吠えるな、図体ばかりの使い捨て風情が」
 悠仁は踏み込むと同時に『悪漢』の名を持つパイルバンカーを突き出し、冷気を相手の身体に捻じ込む。しかし敵は怯んだ様子を見せず、無造作に剣を振り上げただけだった。
 振り下ろされた一撃が、悠仁へ――。
「――っ!」
 そこへ割り込んだのはライドキャリバーの『火珠』を駆る、猫夜敷・愛楽礼(白いブラックドッグ・e31454)だった。
「悪い人は自分の世界で裁いてください! 地球に悪い人はいりません!」
 デットヒートドライブの勢いを乗せた蹴りを叩き込み、ドゥラヘドを僅かに下がらせる。
「っこの!」
「煌めけ、決意を宿した略奪の光!」
 堪えて反撃しようとするドゥラヘドに、ロウガ・ジェラフィード(金色の戦天使・e04854)がフロストレーザーを撃ち込んだ。
「俺達はケルベロス……。ドゥラヘド、お前を討ちに来た」
 終夜・帷(忍天狗・e46162)は静かにそうとだけ告げると、ダッシュで敵の背後に回り込む。直後に放った螺旋氷縛波によって、氷の螺旋をドゥラヘドの身体に刻み込んでいく。
「わかったわかった、遊びたいんだろ? やってやるぜぇ!」
 ニヤリと笑みを深くして、ドゥラヘドが剣を振り上げる。そこにはエメラルドがフォーチュンスターのオーラを飛ばしていたが、ダメージにも構わず突っ込み、一撃を叩き付けてくる。
「くっ!」
「いけない!」
 ティニ・ローゼジィ(旋鋼の忍者・en0028)が銃を連射して牽制し、その間にエメラルドは一歩下がって体勢を立て直した。
「本当にチェインが枯渇してたら、そんなクソみてぇな振る舞いにならねえっつーの」
 長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)が入れ替わりに地を蹴り、鋭い蹴りを叩き込む。スターゲイザーは腕に命中し、僅かに敵の構えを揺るがした。

「なんだなんだ、その程度か!」
 ドゥラヘドは狂気を帯びた笑いを浮かべながら、斬撃を衝撃波に変えて飛ばしてくる。
「命をまるで玩具とばかりに弄び、自分が欲しいままグラビティチェインを貪る暴力の化身……、許してはいけません」
 キアラは月光を浴びた蝶のように輝く槍を駆使して敵の攻撃を掻い潜り、集中させたオーラでエメラルドの傷を癒していく。
「じっくり動けぬようにしてやるのじゃ」
 ミミも幾らかダメージはあったが、高速で踏み込むと同時に鋭い蹴りで、相手の脛当たりを蹴り上げてやる。これにはドゥラヘドも堪らなかったか、僅かにびくんと全身が震えた。
「渇いているというのなら、そのまま干乾びて死ね」
 悠仁がすかさず月光斬を繰り出して、敵の脇腹を輝く斬撃で薙いでいく。
「ハッ、やるじゃねえか!」
 それでもまだ軽口を叩くドゥラヘドに、悠仁は憎悪の眼差しと刀の切っ先を向ける。
「後は存分に戦うだけです!」
 周辺の避難が完了したことを確かめて、愛楽礼は小さく頷いていた。
「喜びも 悲しみも 幸せも 痛みも それが愛だと貴方が言うなら 貴方の側に居られるのなら 私は全てを受け入れます」
 それから愛楽礼は愛を謡う獣の言霊で、戦う気力を取り戻していった。
「煌めけ、闘志を宿した破壊の光!」
 味方が回復したり、狙い易い位置へ移動する時間を稼ぐように、ロウガはバスターライフルのトリガーを引き絞る。バスタービームが左肩を叩くが……。
「!?」
 直後、ドゥラヘドが前に跳び、一瞬遅れてその場が爆発する。
 帷が死角からサイコフォースで狙っていたのだが、敵意を感じ取られたかギリギリで回避されてしまったのである。
 とんでもない反応ではあったが、帷は冷静なままで自身の立ち位置を調節する。
 ――次は外さない。
 そう志しているかのように、集中力が高まっているようであった。
「武具の手入れも出来ない無頼の輩と見えるな」
 エメラルドが槍に稲妻を纏わせて、鋭く突き出す。ガキンと剣で受けられるが、直後に無数の枷がドゥラヘドの身体に絡みつき始めた。
「――絡め捕れ。焦がし尽くせ」
 千翠が倒錯する枷を発動させたのだ。僅かに生じた隙を逃さず、エメラルドは槍を捻じ込んで一撃し、大きく下がって間合いを取り直す。
「っこの野郎!」
 ドゥラヘドは苛立ちを隠さずに剣を振り回し、衝撃波をばら撒いてくる。
「空に舞って、光の胡蝶たち……。皆さんを癒して、勝利へ向かう力を!」
 痛みに耐えながらキアラは黄金の羽を羽ばたかせ、光の胡蝶を舞い飛ばしていく。傷を癒し、戦う力を取り戻した仲間たちは、足を止めずに地を蹴っていった。
「その性格も矯正できるようにしっかりおしおきしてやるのじゃ」
 ミミが菜の花姫の応援動画を受けつつ、光の翼を暴走させていく。全身が光の粒子へと変化し、高速で敵へと突撃した!
「うがっ!?」
 腹部に思い切り突撃されて、堪らずドゥラヘドが呻き声を上げる。
「喰らうは正しき時、善なる意志――」
 その間にロウガが、剣に卑石を宿らせていた。そうして繰り出した斬撃が、ドゥラヘドの鎧と身体を裂く。
「今、黄金に至りて邪を倒す――悠久なる神の刻、ヒトの刻に臥せるがいい!」
 更に掲げた剣と卑石が光の刃を生み出し、傷口へと流し込んでいった。
 今が好機。帷はその隙を逃さずに氷の螺旋を掌に集め、ドゥラヘドの傷口を狙って撃ち出した。氷の螺旋が魔力を帯びて傷口を凍てつかせ、ドゥラヘドの身体を覆っていく。
「お、のれ……」
 ガクガクと震えながら、それでもドゥラヘドは剣を振り上げる。
「下へ!」
 直後、ティニが上げた声に反応し、エメラルドは身を低くする。頭上を跳び越えるようにして、ティニがイガルカストライクを叩き込み――。
「その程度では私を倒すことは出来まい、大人しく下がれ」
 足元に踏み込んだエメラルドが、下から斬り上げるような形でナイフを突き上げる。パキバキと氷が割れて広がり、更にドゥラヘドの身体を覆っていく。
「死ぬ感覚ってやつを、俺たちが教えてやるよ」
 強引に剣を振り下ろしてくるドゥラヘドだったが、それを千翠のヌンチャク型如意棒が捌いた。反動を利用して勢いを増した如意棒で、相手の顎をがごんと跳ね上げる。
「……井から出た蛙には相応しい末路だ」
 悠仁が力を、その身に抱く地獄を解き放つ。
「牙を剥け、我が内より来たる憎悪の声、叫び、慟哭」
 それは地獄の炎に包まれた無数の黒き枝。悠仁の身体から突き出したそれが、ドゥラヘドへと絡み付いていく。
「このっ……」
 なんとか振り払おうともがくドゥラヘドだが、その剣が炎に包まれた。
「させません!」
 愛楽礼が炎を蹴り出し、ドゥラヘドの剣を叩き落としたのだ。
「潰えた夢の更に彼方、最早訪れる事無き希望を噛み殺せ。『憎悪を刻め我が枝よ』!」
 その間に枝はドゥラヘドの身体を切り裂き、獄炎を流し込み燃え盛る。
「がああああああああああっ!」
 苦呻の叫びが断末魔となり、凶悪犯は炎に処され、焼き尽くされるのであった。

「散々暴れてきたんじゃ。ゆっくり休むがよかろう……」
 ミミは灰となった敵に向けて、小さく別れの言葉をつぶやく。
「いい援護だった、ありがとう」
「皆さんの指示のお陰です」
 エメラルドはそう言って、戦いの中で連携できたティニと拳をコツンと合わせ、労いの言葉をかけていた。
「さて、被害にあった者や建物がなければいいんじゃが……。見て回るかのぅ」
「おう、力仕事があれば任せとけ」
 ミミの言葉に千翠も頷き、ケルベロスたちは周辺の被害状況を確かめることになった。
 帷はじめ、ヒールを持つ者は率先してヒールを行うつもりでいる。
 こうしてひとつの惨劇を食い止めたケルベロスたちは安堵を胸に、それぞれの帰路につくのであった。

作者:零風堂 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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