『バインバインバイン!』
森をナニカが突き破って来た。
弾む様に走り回る姿は、馬の様に見えなくもない。
『ボヨンボヨンボヨン!』
そいつは途中でジャンプすると、木々やら標識やらを跳ね上げて、頭突きを浴びせて上空に押し上げる。
そして落下して来たところをもう一度頭突き!
何度も打ち上げて粉砕してしまった。
まるで暴れ馬の様なナニカは、町を目指して走り去って行った。
●
「これはまさか……」
「はい。森に捨てられた家電が、廃棄家電型ダモクレスになってしまうようです」
シデル・ユーイング(セクハラ撲滅・e31157)はセリカ・リュミエールの言葉に頷きつつも、別の事を考えていた。
もし自分や友人がこの家電に座ったら、どうなるだろう?
もし他の女性が座った時。あるいは……彼女達と比べられてしまった時だ。
「郊外の森ですので幸いにもまだ被害は出ておりませんが、今からの季節は屋台などもあります。放置すれば殺されてしまう人も出るでしょうし、そのまま町へ辿りつけば虐殺が起きてしまうでしょう」
セリカはそう言って、地図にペンでポイントを書き込んで行った。
「このダモクレスは乗馬する様な形で上に乗り、その運動で痩せると言ういわゆるダイエット……」
「この様なセクハラ・マシンを許す訳には参りませんね!」
セリカの言葉を途中で遮って、シデルはセクハラ死すべし! と言い切った。
「攻撃手段は体当たりの他、女性を上に載せて振動させる……で間違いありませんか?」
「女性に限りませんが……その通りです。他に溢れる電撃を浴びせる様ですね」
シデルの剣幕にセリカは驚いていたが、ネットに詳しい者たちは苦笑いを浮かべた。
そして胸とかお腹とかを見たり、見なかったり。
その辺が揺れたら確かにセクハラだろう。もはやダイエットマシンではない。
「セクハラ死すべし! 共に女性の敵を討ち破りましょう!」
「罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。被害者出る前にお願いしますね」
「まあ時間次第と言うところさね」
「そうだな。面白い機械ではあるのだが……」
シデルの剣幕に押されながら、セリカからもらった資料をもとにケルベロス達は相談を始めるのであった。
参加者 | |
---|---|
マイ・カスタム(一般的な形状のロボ・e00399) |
葉月・静夏(戦うことを楽しもう・e04116) |
マリオン・オウィディウス(響拳・e15881) |
シデル・ユーイング(セクハラ撲滅・e31157) |
心意・括(孤児達の母親代わり・e32452) |
横星・亮登(百万回失恋した煩悩・e44125) |
阿賀野・櫻(アングルードブロッサム・e56568) |
冷泉・椛(ただの女子高生・e65989) |
●
「ダモクレスは大型だけだと思ってたんだけど、そういうタイプもいるんだぁ……」
寒空の中で冷泉・椛(ただの女子高生・e65989)は森の方をキョロキョロ。
早く帰りたいなぁ。なんて思いながら、普段は来ない道(未知)の先を眺めている。
「大型以外の方が割りと良く見るけどね。……でも、どうしてロデオマシンがセクハラになるのかな?」
「そこが判らないのよね。何がセクハラなんだろう」
葉月・静夏(戦うことを楽しもう・e04116)は説明してあげながら首を傾げる。
同じ様な疑問を抱えた阿賀野・櫻(アングルードブロッサム・e56568)も頷いた。
「もしかしてオークみたいな何かがあるのかなー? 妙な触手でもあるとか」
「流石にそれは……。しかし乗っているだけで女性に序列が生まれかねないマシンなのですよ。……何て恐ろしい」
静夏たちの姿を見比べながら、シデル・ユーイング(セクハラ撲滅・e31157)は苦笑した。
セクハラなんて良く判らないと二人は口にしたが……。
世の中には二種類の人間がいる。それは揺れる者と揺れない者だ。静夏は前者、櫻は後者に当たる。
「それに腹筋・背筋運動で腰回りの引き締め、だったかしら? 本当に痩せられるの?」
「いえ……大体、ロクに効果ないのですよ。人にも寄りますけれどね」
櫻の疑問にシデルは酷評を加えた。
普段使わない筋肉を使うことで、鍛えられるし筋肉が増えれば痩せると言うのは確かだ。
だがソレは普段使っていなければ。鍛えて増える運動量が上回れば……の話である。
「これで一般人に見られる事は……あ、いえ一般人の方が被害に合う事は無いでしょう。あとは見付け次第、抹殺あるのみ」
「あ、えと、来た見たい。とにかく虐殺を起こさせないように頑張って倒そうっ!」
シデルの呟きを聞いて居た椛は、溢れる殺気にビクリとしながら、なんでこんなに怒ってるんだろうと首をすくめる。
少女時代には判らない物ですよ。
それはそれとしてかなり先の方で森からナニカが道へ上がり、こちらに向かって来た。
「あらあらー。外での運動が厳しくなるこれからの時期に活躍する子なのに、必要とされる時期まで待てなかったのかしらー?」
「ダイエット……まあ、女子にとっては重要な事だよね。だけど、使わないのはともかく森に不法投棄するのは……」
心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)は他人事のようにその動きを眺め、マイ・カスタム(一般的な形状のロボ・e00399)は念の為に周囲を確認。
仲間達はテープで後ろを封鎖し、殺意の結界を広げている。
「むしろ寄生されても人里から遠いから被害が出なくて良い、のか? まあいい。ここの所しばらく前線を離れてたし、勘を取り戻させてもらおう」
郊外である事もあり、往来に人が居ないのも良い事かもしれない。
マイは力の化身たる相棒を構え、グラビティを注ぎ込んで砲撃態勢をとる。
「……成程、あれが世界の敵ですか」
マリオン・オウィディウス(響拳・e15881)はジっと手を見る……じゃなくて腹を見る。
変わって居ないはず。しかし……。
ミミックの田吾作にふと疑問を口にしてみた。
「時に田吾作。いつも座っている私は重いですか? そうですか」
マリオンは自分で尋ねておいて答を聞く前に小突く。
そして無表情なままに戦闘準備を整え、計測されないうちに倒すべきだろうと決意。
体型変わってないので大丈夫な筈だが……秋になって料理がおいしくなったから仕方無いね。
●
「健康器具の域を出てしまったからには、悪さをしないよう止めてあげないとねー」
「まあダモクレスになったところでなんであれ倒すだけだねー」
最後衛の括が適当な所で足を止めると静夏は走り出した。
その脇をシデルが並走し……いや、青筋を浮かべて負い抜いて行くのが見える。
「こんなセクハラ・マシンは即! 滅! 殴! です」
ドキューン!
超高速で駆け抜けたシデルの蹴りがダモクレスに決まる!
そしてインパクトした足を軸に、回転を付けながらブレーキだ。
「ソウちゃんも今のうちに攻撃しておくのよー」
括は機先を制したことで、翼猫のソウと共に攻撃をしておくことにした。
高めた気合いを集中させ、えいえい。と気の抜けそうな掛け声と共に撃ち出していく。
「そーれっと、デストローイ、ブレ、イ~ドー!」
『バインバインバイン!』
静夏の一撃と突撃するダモクレスが交錯した。
強烈な一撃を浴びせ、同様に相手も体当たりを受ける。
ダモクレスはそのまま駆け抜けて行こうとするので、リズミカルなターンを掛けて動きを止めに掛った。
(「ウヒョっ♪ 人体の奇跡が弾けてプルルンーンなのか!?」)
横星・亮登(百万回失恋した煩悩・e44125)は押し黙る他は無かった。
家政婦の視線よりも鋭く揺れるナニカを確認。
乳・尻・太股あと……うなじ。
いずれも捨てがたいが、揺れるオパーイに今は完敗。
「完敗しそうだ……。おっと。なんでもない。勝ったらラーメンで乾杯しようぜってことだ! 強敵に勝ったお祝いってことで。ナハハハ」
「そうだな。思ったよりも早くないが、その分他の能力が高そうか……当たれ!」
亮登は思った事を口に出して居た。
いかんと適当な言い訳をしつつ、マイが豪砲を放って声をかき消してくれたことに感謝する。
うひひ。こっちのネーチャンもイカスな!?
そんな事を考えながら亮登は神に感謝の祈りを捧げることにした。なんたって今日は黒一点!
「叩き潰しましょう」
「はい! その通りです! じゃなくて、いやけしからんね、うん。えっちなことはいけませんと思います。はい、ええ」
マリオンが放つ巨大な霊圧と容赦の無い言葉を聞いて、亮登は思わず口元を覆う。
ヤバイ、また何か口に出して居ないか?!
そんな事を思いながら、慌てて攻撃に参加する。
だが反省などしない!
「うおら、喰ら……しまった! 動画を取って居れば」
「え?」
ここで亮登の煩悩パワーが炸裂!
彼にとって出発点の零とは即ち煩悩京である。
今回の目的は美人のねーちゃんのえろい恰好をゴホゴホなんでもありません押忍!
「……ゲフンゲフン。戦いの成功と失敗を記録して、せいちょう。に活かせたのにってな」
「あ、なんだ。そうだよね。私達ってまだまだ先輩達に負けてるもんね。いつか追いつかないとっ」
椛はその言い訳を信じてしまった。
おそらく彼の煩悩が、サイズの問題で自身に向いて居ないからだろう。
何しろ砲撃形態にした後で、ファイヤーっ! とかやってもこっちを向いて無いしね。
マイの時は凝視して居たのは、きっと攻撃されないか気にして居たのだ(もちろんエロイ意味で)。
「ホントーかなあ……。まあいいや。何にしても被害が出る前に倒さないとね」
櫻はジト目を向けたが、ひとまず放置しておくことにした。
取り合えず仲間を護った静夏の衣装が色々と大変なので、何とかしないといけない。
一時的に暴走状態にする事で上書きし、ポロンと行きそうな姿を隠さないと……暴走?
「葉月さんをこれ以上暴走させて大丈夫なのかしら? ……まあいいや」
櫻は考えるのを止めた。
彼女に自制と言う言葉は無い。一度決めたら優先順位のまま実行するまでである。
アリガトウゴザイマース!! と誰かが言ったかもしれない。その後に鉄拳制裁喰らうこと等考えもせず、それはもう正直に……。
●
『ビビビビ』
「くっ。だが、この程度! 肩凝りがとれて、丁度良いくらいだ!」
マイは強烈な電撃を浴びつつも、手足に残る痺れを放置。
仲間を守れたのだ、この程度は無視できる!
「すぐに治すわねー」
「すまないな。ひとまず動きが元に戻れば少々の傷は構わない」
括はニコリと微笑んで、マイの傷に優しく手を当てた。
そしてナーナーと啼く翼猫のソウと共に、傷と負荷を癒して行く。
「しかし、コリもせずに計測電流……。そこまで体重を測りたいと言うのですか? そのセクハラ、万死に当たりますね! ……むむ?」
シデルは器用に掌で眼鏡をツイっと押し上げる。
なぜならばその指先には、流体金属で長い爪を作りあげるつもりだったからだ。
だが、残念ながら……オウガメタルは本日、出社して居なかった。
「技を一つ忘れていましたね。ですが問題などありません。代用など幾らでも可能なのです」
シデルは冷たい笑顔を浮かべると、帰ったら流体金属を窓際に送り込むことにした。
代わりに押し上げた眼鏡を用い、そこに様々なデータを転送。
そしてダモクレスの弱点である、破損した装甲板の穴を拡大させる!
「やっぱり警戒は重要だよねー。さっきみたいな目に会わないようにしておかないと」
「その辺は任せる。ひとまず逃がさない様にするか……これでどうだ!」
静夏が胸元から取り出した黄金の果実を掲げると、周囲に光の結界が築かれた。
その結界を回り込んで包囲する様に、マリは移動しつつ稲妻を放った。
二度三度と雷鳴が戦場を引き裂き、電撃には電撃でお返しだ!
「まだ保ちそうですね。そのまま行きなさい田吾作」
マリオンは田吾作が危険水域に無いので、治療は不用と放置する事にした。
撃鉄を引き爆音を立てて攻撃を浴びせて行く。
「うおおお! 蝶の様に舞い、蜜蜂の様に花に群がった後に撤退!」
亮登の煩悩は一周回って悟りの域に達した。
女性陣の大胸筋の活躍を眺める為に敵を利用し、殴りつけた後で森の中へ返って行く。
息を吐いてジっと我身を省みる。……だが、その生涯に一片の悔いなど無し!
「それっ! 二段加速~!」
椛は下段斬りを放つ瞬間、刀の峰を蹴り飛ばして加速させた。
そして直撃後にスイッチオン!
振動はその後に発生し、熱移動を繰り返して焼ける場所と凍りつく場所を棲み分けさせる。
「Look at me! Look at me! Look at me! Look at me! Look at me!」
ここで櫻の瞳が怪しく光り、私を見て! と常には無い情熱的な輝きを見せた。
熱暴走を思わせる視線がダモクレスを捉えたのである。
●
「さて、いい加減潰しましょうか」
それから数分の戦いが過ぎ、怒れるシデルは我慢の限界を越えた。
色々と処断したい気持ちを込めて、ダモクレスを踏み抜いていく。
ギロチンの御如くハイヒールが座席を切り裂き、思わず黒一点の誰かさんは股間を抑えた。
「大丈夫かしらねー? そろそろ倒せそうだけどー」
括は相手の体力に合わせ攻撃へと方針を転換。
揺れる胸を邪魔そうにしながら鉄拳を繰り出したのである。
『ボヨンボヨンボヨン!』
「キター!? 今度こそ! 燃えろ俺の脳内フォルダよ!」
再び巡って来た機会に亮登はこれ以上ないくらいに活性化した。
一番最初の機会は森の中で半分見過ごし、二回目は箱だったもんな!
「ヤダ、何よこれ恥ずかしい……」
「できればもうちょっと大きい人……いや、これはウホホッ!?」
櫻は下から突き上げられるような頭突きを受けて、思わず足でしがみついた。
残念ながらサイズの問題で揺れない。亮登は最初、残念そうな顔を浮かべていたのだが……。
「あれ、そっちいっちゃうんだ」
(「これは全力で脳内変換するべき時! 五段活用のりょうちゃんと呼ばれた桃色の脳細胞の出番だ!」)
なんか妙に静夏が寂しそうなのが気になった。
戦闘大好きな彼女の事である。きっと活躍できなかったことを残念に思っているのだろう。
だがしかし! 考えようによっては、女として嫉妬して居るとか……あるいはその胸を別位置にとか変換する妄想を浮かべた。
ソレに夢中に成ったせいで視てはいるものの、櫻の顔が少しだけ赤く成って居たことに気が付かなかったと言う……。
「振動には振動を。もっかいいっくよー。風・鈴・夏・残!」
静夏は拳をダモクレスに押し当てると、そのまま腕だけを動かした。
チリリと風鈴が鳴る様な音が響き渡り、少しずつ敵の体が崩れて行く。
「目標キャッチ! フレーム固定……ファイア!」
マイは静夏が拳を離した所で敵を掴んだ。
鷲掴みにして腕ごと固定するところまでは彼女の技に似ているが、そこから先は少し違う。
小型ミサイルが肩口で爆発し、その暴発した力を掌から叩き込んで行くのだ。同じ振動でも一味違う衝撃であった。
「スクラップにしてあげましょう。ここがあなたにとっての深海です、誰にも知られず潰れなさい」
マリオンはグラビティを使って正八角柱の結界を生み出した。
結界内に深海が如き高圧力を発生させるのだが……知って居るだろうか?
深海とは宇宙よりもよほど行き難い所だ。滅多にない超重力がそこに在るのだから。
ダモクレスがペチャンコになってもまだ、その余波は残り続けたという。
「やはり一筋縄ではいかなかったな」
マイはその様子を見ながら受けた攻撃を思い出し、指を開いたり握ったり。
足は遅いがそれなりの威力で、負荷はかなり強烈だった。
「怪我してる子は今の内に教えてね。治しておくから」
括は胸元から取り出した包帯を使って、一気に治療を開始。
「えがった~」
亮登は無傷なのに治療の列に加わりつつ、ブルブルと震える振動拳の余破を思い出して震えた。
本日は脳内フォルダに色々記憶する事があったのだ。これを転送できないとは、レプリカントでないのが一生の不覚である。
「……さて、ラーメン屋に寄って、ラーメンとビールでも飲みたいのですが……。その前に」
「色々とあったけど、ヒールと後片付けは忘れちゃいけない……わよね」
「ちょ。ま。何の片付け? へーるぷ!?」
シデルと櫻はめっさ良い笑顔で誰かさんの肩を掴んだ。
振動が大好きらしいので、記憶が飛ぶほどの振動を与えてあげる。どうせヒールするんだよね、うんうん。
「……うう。人前であんな恥ずかしい姿晒しちゃって。もうお嫁に行けないわ……」
「そんなこと無いって。ナイスファイっ」
ヒールも含め『全て』が終わったところで、櫻は顔を赤らめてモジモジ。
静夏はその肩を叩いて慰めてあげる。ディフェンダーだもん。良くあることだよね。
なお、あれが揺れたからアレなだけで、走りまわる高速の車だった場合、櫻は別の暴走をしたと思われる。
「じゃあみんなで食べにいこっか。美味しい塩ラーメンの屋台あったらいいなぁ~」
「そうだね。……帰り際にでもランニングシューズを買っていこう」
椛が屋台に寄ろうと提案するとマリオンは即座に頷いた。
その後でもう一度お腹を見渡し、靴の新調を決意する。
「あのスタイルでも……。乗馬マシン、効果があるなら後日にでも試してみようかな……?」
その呟きを拾ったマイは、痩せているマリオンですら気にするのだろうかと、我が身を省みてダイエットを考慮するのであった。
デウスエクスとの戦いに備える必要もあるが、スタイル維持もまた戦いなのだ。
作者:baron |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年12月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 5
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