灯音クリエイト

作者:朱凪

●隣人の謀
「ねえきみ、知ってる。イヴって『夜』って意味なの。『前日』って意味じゃないの」
 いつもよく出くわす喫茶店で、文庫本を読みながら湯気の立つカップを口許に運び掛けていた鱗の翼を持つ青年は「はぁ、」宵色の三白眼を瞬いた。
「昔の一日の区切りは、日暮れから日暮れまで。──だから24日の夜が、本当のクリスマスの夜、なの。知ってた」
 上がらない語尾の疑問文にも、彼はもう慣れている。
「……ええ、あ、いえ。知りませんでした」
 なぜか少し笑って首を振る青年の回答に、ぴっ、と己の背中の二対の光の翼が広がるのを感じた。
 これなら。
「あのね、それでね。クリスマスの夜には、キャンドルを灯すんでしょ」
「まあ、必ず、ではありませんが……灯すと素敵ですね。本来ならお祈りのために、とか、暗い夜を明るく過ごすために、とか理由はあるようですが」
「うん。難しいことは、いいの」
 彼の言わんとすることを察して肯くと、青年も微笑んで肯き返す。
「……それで?」
「みんなを誘いたいの。呼んでくれる」
 その疑問文に彼は「いいですよ」もう一度肯いた。そして小さく零した。
「随分と口実が巧くなりましたね、Dear」
「……?」

●夜の燈火
「キャンドル、作ろ」
 ヘリポートに集まってくれたケルベロス達へと、ユノ・ハーヴィスト(宵燈・en0173)は相変わらずの無表情で両手をきゅ、と握って告げた。
「あのね。今回作るのは、ジェルキャンドルって呼ばれる、透明なやつなの」
 作業の手際には気を配る必要があるものの、作業の過程自体は簡単だ。
 ジェルワックスと呼ばれるキャンドルの素を溶かし、蝋燭の芯を立てた器の中に注ぎ込み冷やして固めるだけ。
 彼女の言葉に応じて暮洲・チロル(夢翠のヘリオライダー・en0126)も手帳を繰った。
「溶かしたワックスに塗料を落とせば蝋燭に色が付けられますし、アロマオイルを少し入れれば香りをつけることもできます。色を付けたジェルワックスと無色や他の色のワックスを重ねて器に注げば、グラデーションも作れるようですね」
 熱に溶けない素材なら、器に入れて蝋燭の中に物語を閉じ込めることもできる。
 種々のカラーサンドに、硝子細工の動物や小物、貝殻。器を重ねて二重の構造にすれば、ドライフラワーを浮かび上がらせることも可能だ。
「器もね。ジャムみたいな瓶でもいいし、お皿みたいな形のものに注ぐのも、かわいいよ。お菓子作るみたいに色んな形のモールドに注ぐとね、冷えて固まったらキャンディみたいなのもできるんだって」
 だからね、と。
 ユノはペリドットの瞳を輝かせる。
「今年も、きみ達の隣に居させてくれると、嬉しい」


■リプレイ

 聖夜と言えばキャンドルだと。
 意気込んだものは良いものの、ゼレフ(e00179)は丸い硝子瓶を前に、景臣(e00069)と顔を見合わせた。
「まあ、複雑なものさえ避ければ」
「……なにかあったらサポートお願いしますね?」
 不器用を自負するふたりが綴る、物語。
 溶けた蝋やら花弁の張り付いた掌から、視線を『上げた』世界は──、
 金色の望月が遠く輝き、ゆぅらりゆらり、牡丹雪のように群青の空に降る白いカスミ草。
「どう、中々浪漫あるだろう」
 とぽん、と。
 物語の中から浮上して告げたゼレフに、景臣は「ええ、とても素敵です」穏やかに首肯を返す。
 彼の手にある丸い硝子の夜は、まるで地続きのように白い蝋を刷いて──宵の中で一頭の白熊が、ふいと顔を上げた。
 雪の下で芽吹き待つカモミールの香り漂う世界は、淋しさの中にも温かく。
「この白熊、良い夢を見られるだろうねえ」
「そうだと、良いですね」
 灯る火が待ち遠しい想いは、きっと同じ。

「んー……魚がほしい。星も」
 まんまるモールドの半球に、震える指先で硝子の魚を、
「……擽ってやろうか」
「っ、ずれる、やめろ」
 悪戯帯びた果実色の瞳を輝かせイェロ(e00116)がわきわきと指先を脇腹に伸ばすのから、身をよじるキース(e01393)は割と本気だ。器用な彼とは違うのだ。
 ぷは、と息を吐いて隣を見遣れば、まんまる硝子の中に敷かれた白い砂、星の輝くモミの木と、硝子の貝殻。注いだあおいろ、泡のような雪のような白の中を泳ぐのは悠々とした鯨。
 ──今にも漣が聞こえてきそう、
 視線に気付いて、くつくつとイェロは笑う。
「俺の思う海」
 清涼なミントの香る、いつか見た海に幻想を滲ませたセカイ。
 点けるのが勿体ないと笑う彼に、キースはモールドから外した色とりどりのキャンドルを掌に零し。
「なら、先にこちらのあめ玉を食べないか?」
 力作ゆえ火を点してもきっとうまいぞ、と。
 バニラ香るあまいそれをひと粒、だいすきなきみに!

 平らな容器にさらさらと流し入れた白の砂は、
「む……結構難しいな。メイはよく綺麗にできるな」
 願う形に整えるのに苦心する滉(e16794)の向かい側、得意げにメイ(e00954)はボウル型の容器に赤、緑、白の層を作り上げて。
 ちょん、と置いた硝子細工のクリスマスツリー。「んー、」少し悩んで、ちょんちょん、とサンタとトナカイも並べ置く。
 ──笑顔を届けてくれるサンタさん、大好きだもの。
「滉君はどんなの作ってるの?」
「六月に一緒に見たあの浜辺を……どうだろう、似てるか?」
 薄桃色の貝殻をそっと置いて、青空描くみたいにワックスでグラデーションを作れば。
「うん、あの時の海と空の色にそっくり!」
 手を叩いてメイが楽しかったよねと笑う。
 想い出をキャンドルに写したことが、また想い出になって。
「心の中で、ずっとキラキラが続くね」

 灼けた砂と、白い雪。
 青く晴れた空と、澄んで透る空。
 サボテンと、松毬。
 巣穴から顔を覗かせるフェネックと、雪の上に凛々しく立つ白い仔狐。
 過ぎればむせ返る甘いバニラと、樹木の香りのシダーウッドの香料を落とせば完成。
「ふふ。こうして見ると私達の故郷は、真逆のようで似ているな」
 空色の瞳和ませるクー(e13956)の台詞に、本当ですねとルムア(e13489)が肯く。
「そろそろ固まったか? 、っ」
「あ、きっとまだ──と、遅かったですね。大丈夫ですか、火傷していませんか?」
 無造作に硝子瓶に触れた指先を咄嗟に引っ込めた彼女の手をルムアが取るが「キャンドルは……?!」クー本人はそれどころではなく。
「良かった、無事──」
 気を抜いた一瞬、指先に触れた柔い感触。
 ぱっ、と己の手を見返れば、ルムアが悪戯気に触れた唇を離して笑う。
「火傷に効くおまじないです」
「……っ!」
 ますます指先に燻ぶる熱はきっと、気のせいじゃない。

 ふたりで素材を選ぶ時間さえ、しあわせで。
 見付けた三日月の形した器に描く物語は、
『ひとりとぼとぼ歩いていた黒猫の前に落っこちた綺羅星。驚きつつも近付いた猫の温かさに、広い広い空をひとりで旅して来た星も嬉しくなって。──長く長く感じていた夜に、暁のいろが滲んでいく。』
「……コレは君と俺だよ」
 薄縹に黄昏の空はそれぞれの瞳。星と黒猫は彼らそのもの。ラウル(e01243)の言葉に、本当だ! とシズネ(e01386)は手を叩いてはしゃぐ。
「へへ、眩しい星がいたら独り占めしたくなっちまうなっ」
 悪戯っぽい笑顔へラウルも柔らかく相好を崩した。隣に寄り添うその温かさに、どれだけ救われているだろう。
「まるで俺達だけの世界だね」
「! ……そっかあ……。じゃ、大切に飾っとこうぜ!」
 ぱぁ、と顔を輝かせたシズネが一瞬淋しさを眉に乗せた真意は、心の底。
 ──だって、オレ達だけの世界が溶けて消えてしまうのが、惜しくなっちまったんだ。

「ユノ、ユノ」
 可愛くてあったかいよとメイからふわもこ羊なルームシューズを。人気商品らしいぞと滉からクリスマス仕様のドーナツの詰め合わせを。それぞれ抱えたユノ(en0173)を手招いたのは眠堂(e01178)。
 少女の髪飾りの横に添えた、白いツノゴマの造花。
「おっ似合うな、かわいいぞ」
 誕生日おめでとうと。相好崩す彼のまっすぐな褒め言葉に少女が唇引き結び頬を赤らめるのに気付かず、彼はあれこれと造花を宛てがって、
「戸惑ってるぞ、眠堂」
「ヒノト」
 呆れた笑顔でヒノト(e00023)が声を掛ければ眠堂は「……すまん、楽しくて」と我に返ったが、ユノは首を振った。
「ね、それ、どうやるの?」
 そんな彼女の前。スノードーム風キャンドルの雪に、エヴァンジェリン(e00968)が問う。これはねとユノは砂とラメを上から撒き、気泡が入らぬようにくるり掻き回した。
「なるほどなぁ」
「おお~、綺麗だ~」
 周囲から感嘆の声が上がり、なるほどと肯いてエヴァンジェリンが作るのは、広がる湖と居並ぶ木々、緑の草原に、ドライフラワーで飾った北欧の家。
 灯火の彼と、己の記憶の中の故郷を重ね合わせた世界。
「……これをクリスマスプレゼントにしたら、喜んでくれるかな」
 ──喜んで欲しい。笑って、欲しい。
 学んだ雪を降らせながらぽつり告げる彼女の口許は自然と綻んで。
 これにしようとジャム瓶のような形を手に取ったベーゼ(e05609)に、「あら、お揃いですね」とミニュイ(e05648)が微笑む。
 選んだ色も揃いの甘やかなオレンジで。
 灯る前から暖かさと、ちょっぴり美味しさを感じるようなものになればいいなと思うから。
「こうするとなんだかママレードのようで素敵だと思いませんか?」
 ドライスライスオレンジを添えれば「おいしそうっすう」ベーゼの瞳も輝く。となれば香りも欲しくなる。
「おれのは、はちみつ、梅……うう~ん。ユノだったらどれがすきっす?」
「はちみつ」
 思い掛けない即答に、ベーゼは笑って香料を手に取って。
 傍では眠堂が先の造花を器に入れ、隣に愛らしい一角持つ白馬を添え置いた。「ちょっと似てねえ?」と彼は言う。
「かわいいし、勇敢で癒しのちからがあって」
「……ほめすぎ」
 また朱の昇った頬を叩くユノに、眠堂が薄緑のグラデーション作って笑う前で、ヒノトは首を捻る。同じく移り変わる色を生みたいが。
「な、どんな色がいいと思う?」
 彼の問いにユノは少し迷う。でも用意された白い花弁を見て、その目許に指を触れた。
「この色」
 『彼女』の色で『彼』のあいした色。瞬いた彼は、判ったと笑って応じた。
「……ありがとう。たすけにきてくれて。隣に、あの場所に、いてくれて」
 そーっと、とワックスを注ぎ込みながら、ベーゼが零す。
「ユノがああ言ってくれなかったらおれ、きっと独りでウソツキになってたんだ」
 だからおめでとうを籠めて、へにゃり笑う。
「困ったときは、また、たすけてくださいねえ」
「うん。……何度も、たくさん力を分けてもらった分、俺からもユノに力添えができたらと思ってる」
 彼と逆側の隣からヒノトも祝いを添えて言うから。
 ユノは彼らの手に掌を添えた。
「何度だって、たすける。……だから。僕のことも、たすけてね」
 ミニュイからも祝ってもらう姿を眺め、グレイン(e02868)は隣のチロル(en0126)と共にモールドからころころ、とりどりのキャンドルを取り出す。
 それは彼にとって、この一年を象徴する色達。花火の赤、花弁の薄紅、ミントの緑に夏の日の──。
「あんたにゃこの一年はどうだった?」
「そうですね。色々視ましたが──」
 くすり苦笑を浮かべたチロルだったが、結局三白眼を和ませた。
「楽しかったですよ。だからひとつください、俺のもあげますから」
「だからってなんだよ……構わねぇけどな」

 さみぃし真夏の山作るわ。
 そう言って黙々と制作するサイガ(e04394)と「これも入れるといい」「んー……」なんてやりとりのティアン(e00040)が「おや、」瞬く。
「その白いの砕いてしまうの?」
 先に固めた白と僅かな濃灰のマーブルを敢えて雑に割るキソラ(e02771)は口角を上げて肩を竦める。
「壊してるワケじゃねぇよ」
 シィラ(e03490)も見守る中、まぁるい硝子に詰めて無色のワックスを流し込めば。
「雪雲だよ。灯せば光が透けて溶けてくトコとかそれっぽいデショ」
「やっぱり個性が出るね。キソラの雪空もティアンの海の景色もとても雰囲気がある。こういうのセンスがいいって言うのかな」
 ぱちぱち金の瞳瞬くアガサ(e16711)の言葉に、
「空が一番イメージしやすかったンだもの」
「ティアンもか? そうか」
 灰色の娘の手には鉱石型モールドの中の白の砂と、透明な碧。硝子の魚の配置に迷う途中なことを思い出し、それを手にしたまま再度見渡す。
 シィラのまるい器は硝子のスライスフルーツが鮮やかに彩る。黄薔薇の花弁も降らせ、華やかな赤いワックスを泳がせて最後にベルガモットで香りを付ければ、
「うん、美味しそう!」
 手を合わせた目の前には、彼女が望んだクリスマスのゼリーみたいなそれ。
「「「美味しそう」」」
「はよ『食べられません』のラベル貼っとけ」
 ぴったり重なった声にぴしゃり言いつつサイガは首を傾げる。
 陽を返す金の砂に青々としたドライリーフ据え、茂み作って鳥や兎を配置して──なぜかぴんとこない。
「足ンないならどーぞ」
「やめろっ俺の山にムシはいねえんだよ! わ、蝶もいつの間に!」
「ティアンがさっき渡した」
「……夏山には虫がいてもおかしくないと思う」
 ごく真面目に言うアガサの手許には小さい松ぼっくりや可愛い緑の葉っぱ、鮮やかな赤いドライフラワーを詰めた器。雪に見立てて薄めた白にバニラの香りを落としたら、
「蝶はアガサのが似合うだろ」
「あ」
 蒼い蝶が甘い花へと舞い降りて。
 サイガの山で晴れた昼から夕へと移る空が偶然滴った橙の夕陽を抱く頃には、ティアンのモールドはすっかり冷えていた。
「ハイ完成記念撮るよー」
「、」
 キソラの声に咄嗟に手を空け、シィラに身を寄せた彼女は知らない。
 夏空泳ぐ、魚のことを。

 とろり柔らかな薄色の青を群青の上に注ぎ入れながら、ノル(e01639)は隣の同じ形の器を覗き見る。
 淡いピンクと白、温かな優しさ滲む色を浮かべ、注ぐワックスにはあまい花の香。ブーケみたいなそれに、わくわくする。
 作業に戻るその横顔を、今度はグレッグ(e23784)が見遣っては、眦を和らげた。
 今は、と一年前に答えをもらった色は、今も変わらないらしい。鮮やかに移り変わる夜空に金と白のラメとドライフラワーが散って、陽のぬくもりを伝えるそれは、やはり彼にこそ『暖かくて優しい炎』が相応しいと感じさせた。
 だから寄り添っていたいと願う想いは、関係が変わり互いに最愛の伴侶となった今、更に強くなっている。
 そしてそれは、相手も同じだったよう。
「ね、グレッグ。……来年もまた、こうして過ごせたらいいね」
「……過ごそう。一緒に。来年だけじゃなく、これからもずっと」
 それが最高のしあわせだって、言われなくても判ってるから。

 ──泉さんは、どんなキャンドルに?
 湯気立つ紅茶のカップを両手に包んで澪(e03871)が隣をそっと窺えば、視線に気付いた泉(e00031)がにこり、笑う。
 共にゆっくり出掛ける機会は久し振りで。
 初めこそただ目が合うだけで、どきどき、心臓が壊れちゃいそうだったけれど。
 ──やっぱり貴女の隣は嬉しくて、安らぐから。
 一番背の高いキャンドルには彼岸花の葉を、二番目は続く長さに花芽を、三番目が続いて蕾を、一番小柄なそれには花を閉じ込めて。
「来年は、貴女と一緒にこの蝋燭に火を灯すことができるように、と思いまして」
 わあ、とカップを置いて両手を揃え、彼女が霞み帯びる蒼の瞳輝かせたのは、籠めた願いが同じだったから。
 ころりころり、転がす宵色の星々は同じ空でも彩り様々に数を四つ。
「折角ですから、イブに泉さんのと私のをひとつずつ灯しましょうか」
 来年も、再来年も、その先も。そうやって一緒に過ごせるよう願いを込めて。

 カクテルグラスみたいな背の高い器の底に勿忘草を咲かせ、順を追って蒼を深くして夜の帳を描いて。
 煌めく星を丁寧にゆるり沈めれば、
「どうですか? なかなか綺麗に出来たでしょう」
 ぱっといつも通りに隣を見たクィル(e00189)の瞳に、同じく星の煌めきが宿るのを見付けてジエロ(e03190)は口許を和らげる。
「……うん、綺麗だ」
 薫る勿忘草と広がる星空。忘れもしない景色、二人の思い出。
 使ってしまうのが勿体無いなあ、と零す彼に、ジエロはどうですか、と覗いた彼の手許の丸い皿には桜と貝殻、月に雪──巡るひととせをまるで時計のように映し出し、刷いた白と金の砂が星々を象る。
「願わくば、また一回り。共に過ごせるように」
 瞼伏せて静やかに告げる彼の低い声音が心地良くて、クィルはふにゃりと相好を崩す。
「ふふ、すごく綺麗で……うれしいよ」
 香りはもちろん、揃いの勿忘草。
 忘れることなどない、ただふたりだけの宝物の時間に華やぎを。

 出来上がったのは、同じようで異なる、違うようで等しい夜空。
 ふた星の真珠色淡く光る流星が航るのは、細やかな星々の煌めく深い群青。
「綺麗だ」
 いつか見た満天の星空を泳ぐふたりの魂のような──そんな世界に、嘘偽りなく夜(e20064)が褒めれば、アイヴォリー(e07918)のショコラの瞳が僅かに揺れた。
「……貴方のも」
 静謐の沈む白い雪に横たわる澄んだ硝子の星と月。濃紺から群青へと色を移す空がそれらを包み込み、更に雪が舞い落ちる。
 伝えはしないがそれは星々の棺。終焉の物語。
 いつか迎える最期を過ぎても彼女の傍らに在りたいと。有りもしない『永遠』に我知らず微かな自嘲浮かべた彼の手を、そっとアイヴォリーが両手で包む。
 ――果てない遠くまで、ふたりで生きたい。
 ――終りの静寂の底があるのなら、ふたりで沈みたい。
 だから口許にその指先を触れる。
 ──その刹那さをすら、凡てください。
「……あなたを、あいしています」

「うーん……?」
「そこの端っこをつついたりとか……あ、そう、ラカさん上手!」
「おお。ありがとうなぁ」
 すごく好きなの、と千鶴(e58496)が告げた夜空は、ラカ(e28641)の手によって燻銀の蔦巻き付く硝子の中、三日月と星を抱えて朝に向かい、青から金の光帯びる。
 隣のきみはと彼が見遣る桜花型の瓶。薄桜色の中を泳ぎ煌めくラメを弾く藤の花は、竜の鱗にも見えて、
「……もしかして、わし?」
「そう、ラカさんだよっ、見える?」
 花咲いた笑顔が眩しく。面映ゆいとラカは笑いつつ頬を軽く掻いて、燈した火に翡翠色の瞳を緩ませた。
 小さいのに温かく、心を揺らすそれに祈るとしたら?
「そうさな……お前さんも皆も、倖せである様」
 博愛ながらもどこか軽薄にすら映りかねないその願いに、けれど千鶴は「優しいなぁ」と微笑んで、
「じゃあ私は、その皆にラカさんが含まれますようにっ」
「、……困ったなぁ」
 きみには勝てないと、痛感してしまうよ。

 特別な夜を照らす特別な灯りを、特別なひとと作る。
「ふふ、この時間も特別なもののように思えるよ」
 ふたりで居れば、すべてが特別になってしまうみたいだと笑うレッドレーク(e04650)の言葉にクローネ(e26671)もこくこくと肯いて、特別なキャンドルを、さあ、作ろう。
「……む、これはこっち側に載せた方が、……いやでもそれなら、」
「む、きれいに飾るのは難しいな!」
 真剣に向き合った器に挑むふたりの手許は揃ってぷるぷる。「「、」」それに互い気付いて笑い合ったりして。
 出来上がったキャンドルを試しに灯したなら、
「おお、これだけでクリスマスパーティの気分だな!」
 ポインセチアみたいな赤の円錐に金のラメと星を散りばめたクリスマスツリーと。
 白、赤、白と砂を重ね、飾った苺やお菓子みたいな星がつやめくクリスマスケーキ。
 揺れる小さな燈火はやさしくて。
「なんだか、心にも温かな光が灯ったみたい……」
 ひとつ息吐いて彼女の蕩ける金色の眼差しに、だから彼も口角を緩めた。
 ──ああ、確かに特別だ。

作者:朱凪 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月24日
難度:易しい
参加:33人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 1
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