不法投棄の根絶というのは、なかなかに難しいらしい。
場所は北海道。雪で少々白化粧を施された山奥にも、不法投棄の『穴場』が存在する。
壊れた家電ばかりが転がるこの場所に、新たな客人が現れた。正確には『客ダモクレス』である。
かさかさ、とクモのように家電に近づいた小型ダモクレスは、これでもない、あれでもない、と吟味するように家電たちを渡り歩いた後、1つの家電の前で動きを止めた。
箱である。正面、と呼べる側には、小さな穴が幾つも空いている。家庭用の電動製麺機である。
これを目的の物と定めると、ダモクレスは機械的ヒールを開始した。その力を受けた製麺機は巨大化。箱の底、4つの角からそれぞれ足が生えた。
「メーン! メーン!」
短い4本の足を駆使して、製麺機ダモクレスが歩き出す。その行く手には、市街地があった。
人々の住まう場所……グラビティ・チェインの宝庫が。
「製麺機が襲来します」
「せいめんき?」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が口にした単語を、レーニ・シュピーゲル(空を描く小鳥・e45065)が繰り返した。
「はい。家庭用の電動式のもので、生地をこねた上で、にゅるりと麺の形に絞り出してくれる機械ですね。そして事件の元凶は、ダモクレスです」
当然、目的は美味しい麺を作ることではない。人々を殺戮し、グラビティ・チェインを奪い取ることだ。
「せいめんきは、そのために利用されちゃったのね」
「そうです。そこで皆さんには、ダモクレスの侵略から、人々を守っていただきたいのです」
製麺機ダモクレスは、麺を飛ばして攻撃する……わけではない。
「製麺機には、アタッチメントを付け替える事で、ラーメンやパスタなど、麺の種類や太さを変更する機能があります。それを攻撃に転用した結果、様々なビームを発射する事が可能なのです」
細めんのように発射されるビームは周囲を薙ぎ払い、おまけに『ラーメン食べたい催眠』に陥らせる。
また、平めん状のビームは、命中した相手をしばらくの間縛り上げる効果を発揮。
そして必殺の太めんビームは、威力もさることながら、高い追尾能力を持つ。
ポジションはスナイパーだ。
「声は少々緊張感に欠けていますが、油断しないよう、お願いします」
釘を刺すセリカだったが、少し表情を緩めると、
「現場となる山のふもとには、知る人ぞ知るラーメンの名店があるそうです。首尾よく事件を解決できたら、ここで空腹を満たすのもよいと思いますよ」
参加者 | |
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比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024) |
宇原場・日出武(偽りの天才・e18180) |
影月・銀(銀の月影・e22876) |
レヴィン・ペイルライダー(四次元のレボリューション・e25278) |
リーネ・シュピーゲル(空に歌う小鳥・e45064) |
レーニ・シュピーゲル(空を描く小鳥・e45065) |
沫雪・ありす(泡沫の白・e62457) |
如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384) |
●敵との対メン
件の山に立ち入った影月・銀(銀の月影・e22876)は、殺気を放ち、無関係の人々が近寄れぬよう不可視の結界を展開した。
同じく殺界形成を終えた比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)は、金平糖をいくつか口に入れた。戦闘前の、軽い栄養補給だ。
人の気配がないのを確かめ、キープアウトテープを張り巡らせるリーネ・シュピーゲル(空に歌う小鳥・e45064)や、沫雪・ありす(泡沫の白・e62457)。
「世の中には様々な機械があるのですね。捨てた人が悪いんであって、製麺機は何も罪もありません。偶々ダモクレスに寄生されただけですし。ただ、人々に害を及ぼすなら何とか止めませんとね」
キープアウトテープを貼り終えた如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)は、再び皆と合流。決意を口にした。
「せいめんきは、麺を作る機械なんだから、ビームを作っちゃうのはダメだと思うの! そういうの『魔改造』って言うんだって! ちゃんと元に戻して『おつかれさまでした』してあげないとね」
きっちり事件を解決しようと、心に決めるレーニ・シュピーゲル(空を描く小鳥・e45065)。
「でも、ラーメン、食べてみたいな。スープに入ってるんだよね? スープパスタとどう違うんだろう。すすって食べる…って教えてもらったんだけど、レーニちゃんわかる?」
「任せてリーネ、ちゃあんと予習してきたの……って、だ、大丈夫! ちゃんとお仕事してかららーめん食べるよ!」
そんな風にやりとりしていたリーネとレーニの耳が、妙な音をとらえた。
妙に威勢のいい声の方を目指すケルベロスたち。すると、木々の合間を縫って進撃する存在を、視界に飛び込んできた。
「メーン! メーン!」
山道を器用に歩く、製麺機ダモクレス。一歩ごとに生じる震動が、木々を覆う雪を振り落としていく。その進路が人里に向いているのは、明らかだった。
「便利な機械が増えるのは良いけど、捨て方に困って不法投棄が増えるのにはまいったもんだな……。この製麺機自体は悪くないけど、人を襲うって言うならオレ達も手加減しないぜ!」
言うが早いか、レヴィン・ペイルライダー(四次元のレボリューション・e25278)がリボルバーを抜いた。
「メーン! メーン!」
ケルベロスに気づいたダモクレスは、顔、というか『砲口』を向けて来た。
それに立ち向かう宇原場・日出武(偽りの天才・e18180)は、小細工無用! ……と言いたいところだが、正面からぶつかるのは蛮勇すぎるので、相手の死角に回り込むのだった。
●敵の脅威を正メン突破!
製麺機ダモクレスからは、常に機械音が響いている。駆動のそれだけでなく、ビームの発射準備……すなわち『製麺』が行われているためと思われた。
ならば、麺が仕上がる前に、ダメージを与えねば。
山の地形を生かし、黄泉が木の上からキックを繰り出した。敵は四肢に力を込めこらえるが、黄泉の勢いの方が勝った。
ぐらり、わずかに揺らいだ敵の側面に、レーニの光弾が命中する。力場が敵を覆い、グラビティが中和され、攻撃の出力が低下する。
何とかそれから逃れたと思いきや、今度は沙耶の方から光弾が飛来した。更にダモクレスのエネルギーが減衰していく。
仲間の攻撃に紛れるようにして、日出武が大斧を振りかざす。ルーンの輝きを、力任せに叩きつけてやる。
次々ヒットする攻撃。リーネの歌声が、前衛のケルベロスたちの狙いを精密にしてくれる。
「メーン! 細メーン!」
準備完了と共に、ダモクレスがビームを発射した。その太さや色は、まさに細めん。繊細さすら感じられる光線が、前衛のケルベロスたちを薙ぎ払った。
「なにぃ!?」
細めんビームを、まともに喰らうレヴィン。大丈夫かと気遣う声が飛んでくるが、
「大丈夫だ……それよりラーメン食べに行こうぜ……!」
いい笑顔で答えるレヴィンの目は、やべー奴のそれだった。これが噂のラーメン食べたい催眠。
皆、元々ラーメン食べたい欲が高まっていたとはいえ、任務まで放棄させようとするとは恐るべしである。
こちらは大丈夫かと、心配される日出武。
「痛くもかゆくもない! 天才なので!」
日出武は、ダモクレスに指を突きつけ、
「細めんはダメだ! やはりラーメンは太めんに限る!」
自信たっぷり。が、実は超絶ガマンしていた。ダモクレスにはバレていない。味方はどうだろうか。
「せいめんき……なるほど、こういう機械なのね。せめて、手を汚さないうちに、おやすみさせてあげましょ。ね、グリ」
敵の攻撃手段を確認したありすにうなずくと、ボクスドラゴンのグリが、敵へと果敢にタックルを仕掛けた。
後方では、銀が、ゾディアックソードを華麗に振るった。敵を傷つける斬撃とはまた違う剣技だ。使い手の技巧を反映して精密に描かれた陣が、輝きを放つ。
それを浴びた仲間たちは、催眠攻撃に対する守りを固めた。同じ手は二度喰わない。
「人のいのちをつなぐ食事を作っていたものが、人のいのちを奪おうとするなんて、皮肉なことね」
舞い踊るありす。ワンステップごとに花が咲き、やがてそれらは優しい吹雪となって、皆の傷に添えられると、癒しの効力を発揮した。
仲間の回復のお陰で我に返ったレヴィンが、攻性植物を操り、敵の体を拘束していく。相手が麺なら、こちらはツタだ。
●メン倒なビームをしのぎ切れ
敵の狙いにならぬよう、側面や背後からの攻撃を心がける日出武。よきところでルーンアックスをぶつけ、その衝撃と虚勢で、敵を威圧する。
「本来なら美味しい麺を作っていたのだろうけど、人に被害を出すなら破壊するよ」
パイルバンカーのブーストと共に、黄泉が突撃を敢行した。これまでの攻防で機動力を削がれていたダモクレスの回避行動を上回り、ビーム発射口近くに風穴を開ける。
沙耶が、魔法のステッキ型ライフルの設定を即座に変更した。撃つ。よけようとするも、駆動系の異常がかさんだせいで反応が遅れた。攻撃は命中、一瞬で凍結が発生した。
攻撃、防御、両面での劣化は、もう目に見えるものになっている。
レーニの銃口から、逃れようとするダモクレス。だが、一撃がその装甲をかすめると、氷が新たに発生し、ダモクレスを蝕んだ。
そしてリーネが、ナイフで敵を不規則に切り裂く。これまでに皆で刻みつけた損傷の数々が、みるみる増していく。
「メーン!」
ダモクレスの麺射出部が、突如、分離した。
どこからともなく別のパーツが飛んで来たかと思うと、ばりばりと光を放ち、射出部に合体・換装される。チェンジ・太めんモード!
それから、四本の足をパイルバンカーのように地面に付き刺し、体を固定。
「太メーン!」
勢いよく発射された太めんビームは、後方で狙いをつけていた沙耶を襲った。ぎゅん、と追跡し、その体を吹き飛ばす。
ビームから小麦の香りをほのかに感じつつ、レヴィンがキックを放つ。鱗粉のような粒子と共に命中、ダモクレスにくっきりと星マークを刻みつけた。
敵の注意が逸れているのを確かめたありすが、オーラを癒しの力に変えて、沙耶に注ぎ込んだ。
飛び散る土埃を眉1つ動かさず振り払い、銀がステップを踏んだ。妖精の魔力に導かれ、巻き起こる花吹雪で、皆のビームに焼かれた体を癒していく。
回復するケルベロスたちとは裏腹に、ダモクレスの損傷はみるみるかさんでいく。劣勢だった。
●お役御メンの製麺機
自ら破壊した装甲を狙い、レヴィンの精密射撃が、敵を貫通する。
「今のうちに、宜しく頼むよ」
「わかりました」
うなずきを返すと、銀が素早く印を組んだ。
負傷した仲間の輪郭がぶれたかと思うと、その身が幾重にも分かれた。これで、敵は標的をうまく定められまい。
実際、ダモクレスのビームは、あさっての方向を薙ぐ。命中を低下させられた事もあるだろう。
日出武とて、ただ敵の攻撃を避けてきたわけではない。見つけ出した急所を突く。その一撃はダモクレスの回路を伝って、内側から爆発を起こした。
ダモクレスから受ける傷、そして痛みは、ありすの花嵐が取り去ってくれる。グリのブレスを真正面から吹きかけられ、ダモクレスはひるんだ。
沙耶の占術によって指し示された運命が、ダモクレスにのしかかる。『皇帝』の権限という不可視の力に制限され、ダモクレスの身動きが止まった。
それは、リーネに祈りの時間をくれる。ダモクレスの周りを、雷雲が囲んだ。ばりばりと雷光が閃き、ダモクレスの回路を焼き、痺れさせた。
それを見て、レーニが水彩絵筆を振るった。不思議な景色の中に取り込まれるダモクレス。機械には理解しがたい揺らぎの世界が、ダモクレスの行動と判断を鈍らせる。
別オプションに付け替えようと試みる敵目がけ、黄泉が跳躍した。ルーンアックスを思い切り振り下ろし、損傷だらけの体を粉砕する。
「め、メーン! ゴメーン!」
それが、最期の言葉となった。
ダモクレスは、内部から崩壊を始めると、やがて爆散した。
飛散する破片に混じっていたのは。元の製麺機である。
被害者ともいえるそれを回収した後、銀たちが周囲を片付け、ヒールを施していく。
あらかた片付いたところで、黄泉が、おもむろに口を開いた。
「この近くに美味しいラーメン屋さんがあるって聞いたから、皆で食べに行ってみようよ」
「ラーメンは未知の物なんですが、拘りの味は、食べてみたいですね」
賛成する沙耶。人里離れた生活を長らく送っていたため、興味がある。
他の皆も次々とラーメン屋行きを表明する中、ありすがおずおずと手を挙げた。
「わ、わたしたちも、一緒にいってもいいかしら!」
もちろん、と答える者、黙ってうなずく者。いずれにせよ、異論を唱える者はいなかった。グリと顔を見合わせ、笑顔になるありす。
昼時を過ぎていた事もあり、ラーメン屋は、賑わいこそあれど、全員が着席する事ができた。
「何味にしようかな、濃いとんこつが良いかな」
メニューとにらめっこする黄泉。メインのラーメンはもちろん、トッピングを何にするのかも悩みどころである。
「リーネ、らーめん一人前は多いから半分こしよ? そのかわり、この餃子とかも頼んじゃおうよ」
「うん!」
1つのメニュー表を一緒に見るレーニとリーネ。
「どれにしましょうか……あまり量は食べられませんから、できれば小盛がいいですね」
メニューから自分に見合ったものを探す銀。辛いものでなければ、ラーメンは好きな部類に入る。
「決めたか? オレのトッピングは味玉だー!」
レヴィンのテンションも上がっている。今度は正気である。
それぞれ注文を終え、出来上がりを待つ。他の客が麺をすする音や、熱気や湯気の香りが、皆の食欲を刺激する。
「へいお待ち!」
次々と丼が運ばれて来る。スピードが命だ。
「あ、お箸はまだあまりじょうずじゃないので、ちゃんとマイフォークを持ってきたです。抜かりはないのですよ」
リーネと同じタイミングで、練習用補助付きのマイ箸を取り出すレーニ。
いざ、いただきます!
ラーメンを知る者も、またそうでない者も、その美味しさに目を見張る。
沙耶やありすも、舌鼓を打つ。
「好評のようだが、わたしは天才なのでよほどのラーメンでないと納得せんぞ!」
ずずっ。麺をすすった日出武が、かっ、と目を見開いた。
「……うまい! うまいですよ~!」
そう言っていただけると何よりである。
作者:七尾マサムネ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年12月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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