残星

作者:崎田航輝

 冷たい風が吹く夜。
 季節が移ろうに従って、空には冬の星座が見えやすくなっていた。
 けれど晩秋の匂いの残る時分であるだけ、秋の星々も未だ多く望める。いつかは中天にあった星が遠くで輝く様は、まるで消えまいとして瞬いているかのようでもあった。
 その夜空を遥かに仰ぐ丘の麓の地面でも、耀く光がある。
 星とは違う妖しい煌めきを持った円環──怪魚型の死神が宙に描く魔法陣だ。
 超常の光は、秋に消えた巨体をそこへ蘇らせる。丘の天文台の傍で死した、鎧兜のエインヘリアルだ。
 当時の面影は薄く、体は光を飲み込むかのような漆黒。面は獣の如き獰猛さと、焦点の定まらぬ鈍い眼光を湛えていた。
「知能も獣か、それ以下か──何であれ、変わり果てたものだ」
 と、呟きながら丘の麓に降り立ったもう一体の影があった。
 巨剣を佩いた、罪人のエインヘリアル。
 嘗ての同胞を興味薄に一瞥すると、視線をすぐに夜闇に注ぐ。
「さて、そんなことよりも餌を探すか」
 この戦いの衝動を満たしてくれる餌を。
 戦闘狂の眼光が期待するのは、戦いの愉しみだけ。揺らめく獣の瞳と共に、喰らうべき者を探しに歩を踏み出した。

「集まって頂いてありがとうございます」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は、予知された未来についての説明を始めていた。
 それは死神とエインヘリアルについての事件だ。
「怪魚型の死神が、ケルベロスに撃破された罪人のエインヘリアルをサルベージし、デスバレスへ持ち帰ろうとしていることが予知されたのですが──」
 サルベージされるエインヘリアルに加え、もう一体の罪人エインヘリアルが同時に現れることが判明した。
 すなわち、二体のエインヘリアルと怪魚型の死神を相手取った戦いだ。
「サルベージされた罪人エインヘリアルは、出現の七分後には死神によって回収されます」
 それを防ぎ、新たな罪人エインヘリアルの破壊活動も阻止する。そのために力を貸してください、とイマジネイターは語った。
 現場はとある丘の麓。
 その上にある天文台の近くで、サルベージされるエインヘリアルが嘗て倒されたという場所だ。
「甦った個体の名は『ブル』。今では知性もなく、変異強化された異形となっています」
 もう一体、新たな罪人エインヘリアルは『ゼムト』というらしい。知性の面ではブルには勝るが、戦闘狂であるため理屈の通じる敵ではない。
 これに加えて怪魚型死神が三体いる。これらも無論警戒は必要だろう。
 周囲の避難は既に行われているが、予知がずれるのを防ぐために戦闘区域外の避難はなされていない。ブルは戦闘開始から七分後には回収されるが、ゼムトについては放置されるために、こちらが敗戦すれば野放しになってしまうだろう。
「敵は五体、非常に厄介な相手と言えるでしょう」
 だがその分、勝利には大きな意義がある。
「無辜の人々の命も護るために……さあ、行きましょう」


参加者
メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)
目面・真(たてよみマジメちゃん・e01011)
小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080)
松永・桃李(紅孔雀・e04056)
ジェミ・フロート(紅蓮風姫・e20983)
ヨル・ヴァルプルギス(グノシエンヌ・e30468)

■リプレイ

●星下の刃
 眩い星空の下では、遠方の敵影もはっきりと捉える事ができた。
 丘に見える怪魚と巨躯。その姿を、カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)は空の機上から見下ろしている。
「エインヘリアルが死神をつれて、さらにエインヘリアルがサルベージですか。こうやって戦力を増やされると厄介ですわね」
「最近、この手のが多いよね」
 上品な溜息のカトレアに頷くのは、メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)。
 ほんの少し小首も傾げてしまうのは、そこに居るのがただの強敵ではないからだろう。
 撃破することがまた、敵の回収材料を増やすことに繋がりかねない存在──文字通りの厄介者。
 それでも、メリルディの橙の瞳に迷いは無かった。
「まあ、倒さないことにははじまらないね」
「そうですわねぇー。一先ずは賽子も擲たねばー、目は出ませんわねぇー」
 二兎追うものは一兎も得ずか、一石二鳥か、はたまた──それは判らないけれど。
 フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)の口ぶりはあくまでおっとりとしている。
 ジェミ・フロート(紅蓮風姫・e20983)も惑わず、気合を込めて拳を打ち鳴らした。
「ええ。戦いがあるなら力を賭すだけ。そして、相手がどんな布陣だろうと必ず勝つわ」
 見据える瞳は淀みなく。
 皆も同じ気持ちで頷くと、タラップから跳躍。敵の面前に着地していった。
 敵影のうちの一体、巨躯のゼムトがはじめにこちらに気づく。
「……番犬か。自ら俺を楽しませに来てくれるとは、殊勝だな」
「あら、悪いけれど──私達は貴方の娯楽の為に来たわけじゃないわ」
 妖しい魅力の笑みを返すのは松永・桃李(紅孔雀・e04056)。視線はゼムトの前に立つ巨体、ブルへ向いていた。
「天も空気も澄んだ夜。折角の舞台で廻り会う相手が獣染みた罪人なんて、嫌だもの」
 だから悪い子達は、もう一度寝かし付けなきゃね、と。
 艶やかに袖を揺らし刀を構える。
 ゼムトも好戦的に笑んで剣を握った。
「俺も、この骸も。簡単に死ぬほど雑魚ではないぞ」
「──巨躯なる者が二体ー。ならば果たして屍骸と生者のどちらが強いのやらー」
 ゆるりと口を開くフラッタリーは、歩みで目を引き、声で心を擽るように、ゼムトを挑発している。
「それとも確かめられずにー、生者の方は去ってしまうのでしょうかー?」
「確かめてみるがいい」
 ゼムトは誘われるように、大股に剣を振り上げてきた。
 だが斬撃は途中で静止する。目面・真(たてよみマジメちゃん・e01011)が砲身を素早く振り上げ、鍔迫り合うように刃を受けていた。
「何……ッ」
「オレ達も易い相手ではナイぞ」
 剣を押し戻した真は、ゼムトとは遣り合わず飛翔。高空から死神に狙いを定めていた。
「焼き魚祭りだ。ファイエル!」
 瞬間、射撃の雨で爆炎を上げて怪魚達を巻き込んでいく。
「翔之助も続け! 死神をしっかり焼くんだぞ」
 声に応えた小竜の翔之助も、闇を翔けて飛来。一体へ灼熱のブレスを浴びせていた。
 鳴き声を零す怪魚が次に見たのは、高速で迫る影。
 獄炎を零し、揺ら揺らと夜を照らすフラッタリー。
 先刻の穏やかな面影は既に無く。前頭葉の地獄が活性化され、サークレットを展開させた彼女は──金色瞳を開眼させ、顔には狂笑を宿していた。
「サア、Saア、血潮ト夜nI飾ラrEタ剣戟ヲ創メmAセウ」
 瞬間、地を蹴って腕を振り抜けば、眩い光弾が発射されて怪魚を飲み込んでいく。
 その隙に、メリルディは一振りのソードブレイカーを翳していた。美しい儀礼装飾に彩られたその刃は、星の光を収斂させて仲間へ守りの加護を与えてゆく。
 光に引き寄せられるように、ブルも攻撃を狙っていた。が、そこに夜色の影が立ちはだかる。
 漆黒の髪を靡かせる魔女、ヨル・ヴァルプルギス(グノシエンヌ・e30468)。
「申し訳御座いませんが、此処から通しは致しません」
 静やかな声音で向けるのは細身の砲。至近から放った射撃は闇色に弾け、巨躯の足を深く穿っていた。
 吹き返す風圧にも、ヨルの表情はぴくりとも動かない。腰元に結わえられた人形──モーガンとグローアも今はただ黙すだけ。
 自身と世界、刻の移ろいをヨルは感じる。けれど眼前に戦いがあるなら、邁進するのみ。
「今の内に、回復処置を」
「うん、任せて!」
 メリルディは手元に収束した魔力の輝きを治癒力へ昇華して真を回復。
 フラッタリーが紙兵を撒いて防護を固めれば、真は翼を広げ、夜空に虹を架けるが如き色彩を生み出していた。
 それは魂を震わせて士気を向上させる光。
「さあ、ここから時間との勝負だ。諸君、勇気を奮え!」
「おおきにな、全力でいくで。ちょっとはあせるけど──できることをやるだけやからな」
 声に応えるのは小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080)。
 小柄な体躯ながら、身の丈を超えるほどのガトリングガンを取り回し、銃口を死神へ。弾丸を一体に連射して蜂の巣にしていく。
「死神もだんだん弱ってきたみたいやな」
「一気呵成に行きますわよ」
 頷くカトレアは薔薇彫刻のある美しい刀を掲げていた。刹那、吹雪いた花弁の舞いが刃となって怪魚を切り刻んでゆく。
 麻痺と自身の回復に追われ、死神は反撃もままならない。その間にジェミは疾駆して距離を詰めていた。
「ここで仕留めさせてもらうわ。行きましょ!」
「ええ」
 ゆるりと頷く桃李は、二刀の刃を淡く輝かせている。
 同時、ジェミが靭やかな拳で放ったのは弾丸のような拳。弾かれたように飛ばされた怪魚へ、桃李も刃を振り抜いていた。
 優美な剣閃は、空を裂く衝撃波を生む。裁断された怪魚は鳴く暇もなく散っていた。
 動きを止めず、桃李は刺突で気の刃を飛ばして一体を貫通。その怪魚が瀕死に陥れば、カトレアがすかさず跳んでいた。
「この炎で、焼き尽くしてあげますわ」
 蹴りで放たれる薔薇の如き鮮やかな炎は、死神を跡形もなく焼き尽くす。
 最後の一体には、真奈が既に狙いをつけていた。
「これで、仕上げやな」
 空から星を落としたかのように、眩い閃きが足元へと吸い込まれてゆく。光の塊となったそれは、真奈に蹴り出されると豪速で直進。死神を貫き四散させていった。

●剣戟
「間もなく三分経過致します。皆様、改めてご留意を」
 静かな夜にヨルの声が響いたのは、死神が絶えてから程なくのことだった。
 状況は大凡、作戦通り。ただ、ゼムトが見せるのは焦りよりも不満だ。
「雑魚退治とは退屈なことをしているな。俺と剣を合わせてはくれぬのか?」
「心配せずとも、最後には斬ってあげるわ」
 桃李は薄紅の瞳を空に向けていた。
 そこには奇しくも冬の大三角──耀くオリオンと猟犬達。
「彼の星達に肖って、確と狩りを果たしてみせるから」
「ふん、言ってくれる」
 ゼムトは笑みながらも、ちらと横に目をやる。
「……貴様らこそ、先に狩られぬことだな」
 視線の先では獣と堕した巨躯──ブルが前進を始めていた。
 動物的な瞳に殺意を漲らす異形。骸でありながら、元のエインヘリアルにも劣らぬ脅威。
 真は翼で飛び上がりながら見下ろしている。
「面倒なヤツが蘇ったモノだ」
「──ええ。サルベージ、本当に、厄介で……妬ましい能力」
 そんな呟きを零したのはヨル。けれど何人の言葉もブルが解することはない。ただ真っ直ぐに突撃し、全てを破壊しようとするだけだ。
 が、真は同時に七彩の耀の尾を引いて滑空、頭上から踵を喰らわせていた。
「オマエの相手はオレだ。根競べに付き合ってもらおうか!」
 ブルは吼え声と共に顔を上げ、真を睨む。
 するとその隙に真奈が地上から肉迫。体格を活かして眼下から入り込み、旋転して強烈な足払いをかました。
「させへんで」
 体勢を崩したブルは、声を漏らして膝をつく。
 殺意をもって睨み返してくるが、それに恐怖する真奈ではなかった。
「こいつ自身、もともと戦闘狂だったんやろ? こうして見ると、変異強化されてもたいして変わらんのとちゃうか」
「そうかもね。ならば尚のこと、倒すだけだよ」
 真がさらりと言ってみせれば、真奈もバールを手にとっている。
「せやな。今度はサルベージもふせいでやるで」
 いつか逃した完全勝利は、ここで取り返す。疾走して距離を詰め、ブルの首元を強打した。
 次いで巨体の頭上へ跳ぶのはカトレアだ。
「こちらですわよ」
 純白のドレスを美しく靡かせ、ステップを踏むように巨躯の顔を蹴りつける。地に着地すると間を置かず、剣を踊らせて巨体に傷を刻んだ。
 ブルは倒れず前衛へ突撃。ゼムトも刺突を繰り出してくる──が、真は突撃を防御して威力を落とし、ジェミもまた腕を盾にして剣戟を受け止めていた。
 刃が抉る痛み。ジェミはそれでも一歩も退かない。
「絶対に、耐え切ってみせるっ……!!」
 気合十分に、地を踏みしめて倒れず留まると逆に前進。剣を弾き返してみせる。
 直後にはメリルディが右腕の攻性植物を揺らめかせていた。
「大丈夫。傷はすぐに癒やしてみせるから」
 宙へ広がる翠の蔓──それはメリルディと共棲する“ケルス”。
 仲間を包み込む『道化師の祝福』は、安らかな感覚を与えると共に身を蝕む氷をも融解させていく。
「これで、後少しで全快だね」
「ではオレがやっておこう。銀色の翼よ、皆を癒せ!」
 真は翼を広げると、夜が白む程の輝きで翼を形作っていた。銀に耀く羽根がはらりと舞い、皆を撫でるようにして傷を消滅させていく。
「さあ、反撃の時間よ!」
 拳を握り込んだジェミは、気迫を光の塊にして飛ばす。熱線の如き衝撃で腹に風穴を開けられ、ブルは悲鳴に似た声を漏らしていた。
 時間は五分を過ぎ、周囲に不穏な気配が漂ってきている。
 或いはサルベージをしようとする存在か──しかし、フラッタリーは狂気を浮かべながら疾駆。獰猛に、そして怜悧に、餌を逃すことを許さない。
「吾ヶ大腕ト石槌ノ届ク限リ、汝ラ逃ルrU道ヲ塞ガン」
 獣の如く巨体に食らいつくと、至近から砲撃。爆破の衝撃に巨躯がよろめくと、間断を作らずに煉獄から姿なき刃を形成していた。
「滅ビヲ告ゲ真セウ、静謐nAル颶風ヲ以テ」
 瞬間、一閃。滅びの太刀風『柔肌ヲ撫ゼヨInitium pereat』は、吹き抜けるように巨躯の腕を断ち切り瓦解させてゆく。
 倒れたブルを囲うのは、仄光る軍勢だ。
「喪ったものを掬う力こそ、御座いませんが──斃れるべき命を浚うことならば、召喚の術にも可能に御座いましょう」
 集う骸、蠢く刃。
 それはヨルの顕現する『夜冥の森』。招かれた【冥府の女王】が屍兵を顕し、無数の刃で巨躯を貫かせていた。
 時は六分を過ぎるが、その頃には巨体を地獄の焔が取り巻いていた。
「ここで終わりよ」
 桃李が艷やかな声音で紡ぐのは『遊欺』。
 かごめ、かごめ、と。
 戯れるように囁く程に、獄炎は熱く渦巻き龍と成ってゆく。身を焦がす炎はブルを完全に焼き尽くし、灰も残さなかった。

●星夜
 星明りに影を伸ばす巨体は、もはや唯一人。
 真奈は大男を正面から見据え、拳を真っ直ぐに向けてみせていた。
「ゼムトって言ったか? 次はあんたの番や。覚悟しいや」
「……ふん。面白い。俺を骸と同じと思うな」
 目を細めたゼムトは、それでも喜色を滲ませ切り込んでくる。
 その剣を弾くのは、ヨルの放つ砲撃。煙が上がる中、ヨルは同時に間合いを詰めていた。
「壁が巨大なれど、此方のする事に違いは有りません」
 こんなところで斃れるわけにはいかないのだから。
 大きく振るった槌は、ゼムトの顔面に痛打を加える。
 次に巨躯が目にしたのは、狂暴に駆ける影。砲を突き出しゼムトへ肉迫していた、フラッタリーだ。
「死nO淵ハ直Gu傍ニ。其ノ扉──今眼前ニ開カrEン」
 命中した砲弾は、炸裂して拡散。全身に痛打を与えてゼムトをよろめかせる。
 それでも、巨躯の体力は底をつかない。地を踏みしめ、炎の斬撃を返してきた。
 が、その刃は標的を捕らえない。滑り込んだジェミが再度自らの肉体で防御していた。
「……ッ。効くものですか! こんなもの!」
 身の焼ける感触にも、ジェミは倒れない。
 ジェミを含め、盾役は確かに弱っていた。しかし早期に整えた防備が氷や炎の負傷を抑えていたことで、気絶にはいたらない。
 同時にジェミの意志も固かった。
 守れなかった時に感じる痛みの方がなお痛いのだ。だからこそ──。
「無辜の人々の命を護るため、ケルベロスは負けられないの!」
 鍛えた体に力を込めて『-クラッシュ!-』。剣を払いのけ、気力で体力を保つ。
 更にジェミを包んだ煌めきがあった。
「白き光よ、斯の者を包みて癒したまえ!」
 それは真の『銀光』。新たな月か、或いは星が生まれたかのような美しい輝きは炎を消失させ、ジェミを限界まで持ち直させてゆく。
 同時、カトレアが敵の面前へ走り込んだ。
「その身に刻め、葬送の薔薇! バーテクルローズ!」
 喚び出した残霊と共に斬撃で薔薇を描き、刺突で花舞う爆破を起こす。
 ゼムトは呻きながらも剣風を返した。が、メリルディが星空から治癒の光を落とし、仲間の意識を保っていく。
「それ以上やっても、無駄だよ」
「おのれ……ッ」
 ゼムトは朦朧と剣を振り上げるが、既に桃李がゼロ距離に迫っていた。
「天には冴え冴えとした星の輝きを。地には温かな笑顔の輝きを──この地にあるまじき凶星は、消し去ってあげる」
 繰り出す雷光の刺突は巨躯の胸を貫いていく。
 時を同じく、真奈が拳を握り込んでグラビティを圧縮していた。
 光線にして放つそれは『無始曠劫の因果』。ゼムトの体を激しく刻み四肢を裂いていく。
「あと、頼むで」
 真奈の視線を受けたフラッタリーは、滅びの風刃を真一文字に振り抜いていた。
「星夜nI彷徨ウ咎人ノ命ヲ、此処ニ散ラSaン」
 両断されたゼムトは、言葉も発さず。ただ風に流れるように消滅していった。

「勝ったな。皆、オツカレサマ」
 真の声に、皆は頷いていた。
 丘には平和な静寂が戻ってきている。敵は全滅し、倒れた仲間もいなかった。
「皆様、大きな負傷などは御座いませんね」
「作戦通りとー、言えますでしょうかー」
 ヨルに応えるフラッタリーも、戦時の雰囲気はなくゆるりとした声音だ。
 メリルディは息をつき、風景を見回していた。
「後は、周りを直そうか」
「ええ」
 カトレアもヒールを手伝えば、丘の景色も美しく保たれた。
 それも済むと真奈は歩き出す。
「じゃ、帰ろか」
「そうね。皆が無事で終わってよかったわ」
 桃李は優しい笑みを浮かべて、それに続いていった。
 ジェミは一度空を見つめる。
「後何体こんな敵が来るかわからないけど……」
 何回だって、負けない。
 強い思いで誓うと、空が応えるように星々を瞬かせる。それを暫し見つめると、視線を下ろしたジェミは踵を返して歩いていった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月8日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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