我が名はラプチャー

作者:坂本ピエロギ

 11月も終わりを迎えようとしていた、ある日のこと。
 ケルベロスの仕事を終えたラプチャー・デナイザ(真実の愛を求道する者・e04713)は、夕空を背に帰路を進んでいた。
「うう、寒い……すっかり日も短くなったでござる……」
 ドリームイーターによるハロウィン襲撃を退けたと思ったのも束の間、今度は死神勢力とダモクレスによる東京襲撃――。次から次へと湧いてくるデウスエクス勢力との戦いの行方に思案を巡らせながら、ラプチャーは重い溜息をつく。
「絶対に負けられんでござるね。拙者の心のオアシスのためにも……おや?」
 ふと気づけば、彼は人気のない場所にいた。
 大通りを離れた所にある、ラプチャーもたまに立ち寄る寂れた公園である。
 考えごとに耽るあまり、いつもの道を外れたらしい。
「これは迂闊。早く戻らねば――」
 そのときラプチャーの背後から、甘ったるい女の声が聞こえた。
「あら、帰さないわよぉ?」
「!!」
 続いて俊敏な攻撃が飛んできた。
 足を狙った精緻な一撃。ラプチャーは道に転がってそれを避けると、声の主に向き直る。
「何奴にござる!」
「なかなかいい男ね。気に入ったわぁ」
 戦闘態勢を取ったラプチャーの凝視する先には、うっとり微笑む女の姿があった。
 惜しげもなく露出した真っ青な肌。巨大な大蛇の下半身。恐らくはサルベージを果たした死神だろう。
「さっさと死んでちょうだい。そうしたら貴男のこと、沢山愛してあげるわぁ」
「くっ……! ここで死ぬわけには、いかんでござる!」
 寸分の隙も見せず楽し気な口調でにじり寄る女――『死神ラプチャー』に、ラプチャーは敢然と応戦を開始した。

「ラプチャー・デナイザさんが、死神に襲われる未来が予知されました」
 ヘリポートに集まったケルベロスを迎え入れると、ムッカ・フェローチェ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0293)は単刀直入に話を切り出した。予知された情報を伝えようと連絡を試みたラプチャーからは、いまだ何の応答もないという。
「一刻の猶予もありません。デナイザさんが無事なうちに、彼を救出して下さい」
 現場は街外れの公園だ。視界は良好で周辺に一般市民はいないため、急いで駆け付ければ二人の戦いが始まった直後に介入し、そのまま戦闘に専念できるだろう。
「敵は『ラプチャー』と呼ばれる、サキュバスをサルベージした死神です。大蛇の下半身を持つ妖艶な美女で、サキュバスミストや催眠魔眼に酷似した能力に加えて、大蛇の体で標的を拘束し、服を破る技などを駆使するようです」
 ちなみに死神は単独で行動しており、配下はいない。伏兵などを警戒する必要はないことをムッカは付け加える。
 1対1の戦いでは、ケルベロスであるラプチャーの敗北は時間の問題だ。説明を終えたムッカは集まったケルベロス達に向き直り、
「これより現地へと急行します。デナイザさんの救援、よろしく頼みますね」
 そう言って、愛機の操縦席へと歩き出すのだった。


参加者
ラプチャー・デナイザ(真実の愛を求道する者・e04713)
鬼島・大介(薩州薩摩のぼっけもん・e22433)
スノードロップ・シングージ(抜けば魂散る絶死の魔刃・e23453)
ファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)
浜咲・アルメリア(捧花・e27886)
ノルン・ホルダー(若枝の戦士・e42445)
天瀬・水凪(仮晶氷獄・e44082)

■リプレイ

●一
 夕刻の公園を、弓弦のように張りつめた空気が満たしていた。
「さぁ、観念しなさぁい?」
 灰色の砂地に黒い影を落とし、蛇女の死神ラプチャーがじわじわと標的へ迫る。
 瓶底眼鏡にボサボサ頭、チェック柄のシャツの上に膨らんだリュックを背負った青年――ラプチャー・デナイザ(真実の愛を求道する者・e04713)へと。
「どうやって死にたい? 体中の骨を砕かれて? それとも――」
「この技と感じ、そうか、お主……」
 サルベージされた体が発したとは思えないほど艶やかな誘惑の声に、しかしラプチャーは応じなかった。死神の顔を、どこか呆然とした表情で見つめていた。
 それを動揺と受け取ったのか、死神はますます誘惑の色を強めてラプチャーへと迫る。声だけでなく全身で秋波を送りながら。
「ふふふ……死体になった貴男、きっと素敵だわぁ……」
「ふむ。では拙者も、少々趣を変えようでござる」
 そして――。
 気弱そうな青年の口調が、ふいに一変する。
「とうとう出会えたな……この日を待ってたぜ、『ラプチャー』」
 サッと下ろされる瓶底眼鏡。
 リュックから出たケルベロスコートを一動作で羽織る。
 紫色の瞳に敵意を込め、サキュバスの翼を広げ、ラプチャーは吐き捨てるように言った。
「くっそ久しぶりだな、くそ姉。楽しそうで何よりだ、此方は最悪な気分だけどよ」
「あらぁ、いい顔。まずは服を剥いであげようかしらぁ?」
 言い終えるや、死神はとぐろを巻いた下半身に身を沈めて跳躍する姿勢を取った。ヘビが獲物を捕食するときに用いる、狩りの体勢だ。
「……ちっ!」
 仕留めに来るか――そう覚悟したまさにその時、ラプチャーの眼前へ人影が割り込んだ。
「待ていっ! 助太刀じゃ!」
 声を響かせたのは、レオンハルト・ヴァレンシュタイン(医龍・e35059)だ。彼を追い掛けるように、応援に駆け付けた仲間達の足音が重なり合って響いてきた。
「ラプチャー・デナイザだな? 待っていろ、いま回復する」
 天瀬・水凪(仮晶氷獄・e44082)はゾディアックソード『main gauche』を地面に突き立てて、守護星座を描き始めた。
「ちょっとラプチャー、何やってんの? 油断してんじゃないわよ!」
 そう言って尖った声をラプチャーに向けるのは、浜咲・アルメリア(捧花・e27886)だ。同じ旅団の仲間へと向ける非難めいた言葉は、彼女なりの心配の裏返しだった。
「遅れてごめんね。助太刀するわ」
「来てくれたのか……」
「と……当然でしょ」
 オウガメタル『百合白皓』を身にまとい、油断のない表情で敵との間合いを計りながら、アルメリアは静かに誓いを立てる。
 この戦い、自分はラプチャーを守り抜く盾になる――と。
 同じ思いで戦場に臨むのはアルメリアだけではない。ノルン・ホルダー(若枝の戦士・e42445)もまた同じだ。対峙する死神をノルンは真正面から睨みつけ、
「お前が死神ラプチャーだね? おまえにラプお姉ちゃんは、渡さない!」
 そう言ってのけるも、
「ん、お姉ちゃん……だと?」
「え!? ……あ、ごめん、素で間違えた。ラプお兄ちゃんは渡さない!」
 首を傾げる鬼島・大介(薩州薩摩のぼっけもん・e22433)の一言に慌てて赤面しながら、ゾディアックソード『シュヴェルトラウテ』で守護星座を描き始めた。自分の危機を幾度も助けてくれた大事な仲間を、絶対に守ると誓いながら。
(「ラプお兄ちゃん。今度はわたしが助ける番だから!」)
「『くそ姉』……? ふうん、アレがラプチャーサンの『姉』デスカ」
 対峙する死神へと視線を投げ、スノードロップ・シングージ(抜けば魂散る絶死の魔刃・e23453)が物騒な笑みを浮かべて刀を抜き放った。魔刀『血染めの白雪』――魔術の触媒となる、スノードロップ愛用の日本刀だ。
「ま、相手が誰でアレ、敵対するならぱぱっとkill斬るシマスデスデス」
「……ははっ。毎度の事ながら、頼れる女に護られてばっかだな、俺」
 いつもと変わらず肩を並べる仲間の前で、ラプチャーは小さく苦笑する。
 自分の素顔を彼らが見たら――そんな不安を一瞬でも抱いた、自分に向けたものだった。
「みんな……ホント、サンキューな」
 バトルオーラの気を最大に練り上げ、必殺の気合で己を満たしていくラプチャー。
 あの死神は、殺すべき敵以外の何者でもない。この日のために、何もかもを変えた。
 そう、己の名前すらも。
「では参ろうか――竜王の不撓不屈の戦い、括目して見よ!」
 張りつめた空気を弾けさせる様に、レオンハルトが扇子をパチンと鳴らす。
 それが、戦闘開始の合図となった。

●二
「ふふっ。美味しそうな子がいっぱいねぇ、嬉しいわぁ」
 ケルベロスの増援に囲まれても、死神はまるで動じた様子を見せなかった。
 むしろ誘惑できる相手が増えて嬉しいとばかり、舌なめずりして跳躍の体勢を取る死神をラプチャーの『妄想世界』が捕らえ込む。
「くそ姉、決着つけようぜ。二度と生き返れないようにしてやるよ!!」
 魔力空間の力に導かれて、バトルオーラのエネルギー弾が次々と発射された。
 情も躊躇も動揺もない、純粋な抹殺の意思に満ちたラプチャーの弾は、機敏な回避機動を取る死神を嘲笑うように次々とその肌に傷を刻み込んでいく。
 だが、無論死神もこのまま終わらせる気はない。
「隙ありぃ♪」
 ラプチャーの攻撃が止んだ一瞬の間隙を突いて、蛇の体が襲い掛かった。標的を絡め取り絞め殺す一撃を、レオンハルトが横合いから割り込んで庇う。
「ヴァレンシュタイン!」
「ぐ……案ずるな、大事ないのじゃ。それよりデナイザよ」
 蛇の身をかき分けるように顔を出し、レオンハルトは口を開いた。
「良いか。一人で頑張り過ぎるものではない。仲間を信じるんじゃ……!」
「いっただきまーす♪」
「ぬうぅっ――!?」
 死神の上半身が、這い出たレオンハルトを黙らせた。蠢く蛇皮の肌触りか、はたまた顔を覆い被す胸の谷間が心地よいのか、服を破る鋭い爪の攻撃にもまるで堪えていない様子だ。
「ん~、この角、ちょっと邪魔ねぇ?」
「うひょひょ、これはたまらんのじゃ~って、あだだだだだ! 骨が、骨が折れる!!」
(「……何をしているのだ、まったく」)
 抱きしめられながら服を破られ、蛇の体に締め付けられて悲鳴を上げるレオンハルトに、水凪は呆れ交じりの溜息を吐くと、守護星座を完成させた。
「さて、回復は手厚くゆこうぞ!」
「ラプお兄ちゃん。援護は任せて!」
 前後して輝く水凪とノルンの守護星座が前衛を保護し、低下したレオンハルトの防御をも回復させていった。ジャマーである死神との戦いにおいて、分厚いBS耐性の守りは大きなアドバンテージだ。
「フレイヤ! 属性インストール!」
 ファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)もまた、箱竜に回復支援を命じると、ブレイズクラッシュを死神へ見舞い、レオンハルトを拘束から引きずり出した。
「危なかったな。支障はないか?」
「い……いたた、かたじけないのう。ゴロ太、反撃じゃ!」
 レオンハルトはオルトロスのソードスラッシュで死神を牽制させると、自身のいる前列に紙兵を散布する。最も攻撃に晒されるディフェンダーを、少しでも多く保護するためだ。
「どんどん攻めなさい! 私がフォローするんだから、失敗したら許さないわよ!」
「ではお言葉に甘えて。あの蛇女の快楽、叩き斬ってみせまショウ」
 アルメリアの散布するオウガ粒子と、ウイングキャット『すあま』の清浄の翼が送る風を浴びて、スノードロップが攻めに転じた。
「快楽を感じる間もなく魔剣で斬り伏せて魅せマショウ――追い詰めろ、血染の白雪」
 ひと跳びで死神との距離を詰め、スノードロップの剣光が一閃。呪怨斬月の横薙ぎで切り開かれた蛇の下半身が、大介のサイコフォースの爆発で焦げ跡を作る。
「満足かよ、くそ姉? そんな姿になって!?」
 鱗に覆われた下半身へ旋刃脚を叩き込みながら吠えるラプチャー。防御をかなぐり捨てたラッシュは、しかしゴムの塊を蹴ったような手応えに阻まれた。
 ラプチャーとの絆が発動したアルメリアは、それを見て『弐輪・蓮華』を発動。攻撃力の強化を施す。
「磨け、《不語仙》。叢雲流霊華術、弐輪・蓮華!」
 紅色の蓮の花が咲き乱れ、強壮の気がラプチャーの肉体と精神を強化していく。
 そこへ死神が放ったのは、狂喜の魔眼だ。
「ふふふ……さぁ、殺し合いなさい?」
「ラプお兄ちゃん、危な……っ!?」
 身代わりで魔眼を浴びて催眠に囚われたノルンを、水凪の死霊魔法『暁光』が包み込み、死者の無念を癒しの力へと転換。乱れた精神をすぐさま正気に返す。
「我もフォローに回ろうぞ! 回復は万全に、じゃ!」
 それに続いて、レオンハルトのメディカルレインが、踊るファルゼンが魔い散らす花びらのオーラが、魔眼のダメージを一分の綻びもないように癒していった。

●三
 鉄壁の守りを築き上げたケルベロスは、次々に攻撃へと移り始めた。
 ブレイクを持たない死神は、一度付与された効果を剥ぎ取る力を持たない。投げキッスに魔眼に締め付け……勢いの衰える事が無く繰り出される死神の猛攻を、水凪とファルゼンの回復支援はたちどころに回復していく。
「ちっと止まってな!」
 大介がドラゴニックハンマー『ミョルニル』を変形させて、轟竜砲を発射。機敏な動きを鈍らせる死神へ、ケルベロスの攻撃が次々と殺到する。
「いくよ。槍神解放!」
「アタシもとっておきを見せちゃるデース!!」
 槍神を身に降ろしたノルンが、深紅に燃えるブリュンレイスの突きを嵐のように放った。最後の一突きで放たれる炎が龍へと変わり、死神を飲み込んだ。
「わが声に従い現れヨ!! 抜けば魂ちる鮮血の刃!! ダインスレイブ!!」
 さらにスノードロップの魔術、『魔剣招来・絶死の魔刃』が召喚した魔剣が、獲物の生き血を求めて食らいつくように殺到し、死神を防戦へと追い込んでいく。
 執拗な死神の攻撃を浴び続け、回復不能の負傷に覆われるラプチャー。だが、そんな彼の戦意は、衰えるどころかますます強さを増していくようだった。
 目の前の敵を殺す――ただそのためだけに懸命に食らいつくサキュバスの青年に、死神は恍惚の表情を浮かべながら、慈愛に満ちた視線を投げかける。
 ――何時までそちら側に居るつもり?
 ――自分を偽るのは生き苦しいでしょう、ディビ?
 投げキッスと共に、そんな誘いの声までもが、ラプチャーには聞こえるようだった。
「……黙れ」
 微かに震える声でシャウトを飛ばす。傷跡を、迷いを叱咤し、残らず消し去るように。
「俺はケルベロスとして、ただやるだけだ。大人しく眠ってろ、くそ姉」
 ファルゼンのアプリが起爆したブレイブマインを合図に、ケルベロスの猛攻撃はいっそう激しさを増していく。
「……さあ、もう逃げ場はない」
「死神に殺された者達ヨ。怨め、喰いつけ。魔刃一閃、呪怨斬月」
 スノードロップが、水凪が、呪怨斬月で死神へと斬りかかる。二頭の猟犬が繰り出す剣の乱舞が、死神の上半身をたちまち傷で覆っていく。
 距離を開け、再び攻撃を試みる死神。その真正面からノルンの突きが稲妻を帯びて迫る。
 もはや一回たりとも攻撃を許すまいと、オウガメタルをまとうアルメリアとレオンハルトが鋼の鬼となって次々に拳を繰り出した。
「お主の弟を害してなんとする? 姉とは弟妹を守るために先に生を受けたる存在じゃ!」
 鱗を剥がれ、服を破られ、追い打ちで叩き込まれる大介のサイコフォース。
 死神はケルベロスの攻撃を強引に振り切り、紫色の霧で体を覆う。初めて見せた、守りの姿勢だった。
 そこへ飛び込み、旋刃脚を叩き込むラプチャー。傷つこうが血を流そうが、お構いなしの捨て身の攻撃だった。援護で発射されたノルンの石化魔法光線が、死神の体を貫く。
「やれやれ、まったく無茶をする――全ての穢れを祓う黄金の光よ!」
 レオンハルトが描いた『天』の文字がラプチャーの背中に張り付き、その傷をたちどころに癒していった。
 後列から放たれるのは、水凪の気咬弾とスノードロップの絶死の魔刃。ファルゼンが幾度も重ねがけしたブレイブマインの効果によって、その威力は大幅に上昇している。
「これで終わりデース!」
 赤い刃の描く軌跡は曼珠沙華の花弁にも似て、死神を切り刻み、着実に追い詰めていく。
「今よラプチャー!」
「砕け散れ! その魂までも!」
 旋刃脚のラッシュを撃ち込みながら、アルメリアがラプチャーに告げる。
 二人の連係によって生じた僅かな隙を、さらに大きくこじ開けるように『神槌の一撃』を叩き込む大介。それは仲間達が作り出した、最大最後の好機だった。
(「マジで……マジでサンキューな。皆!」)
 1秒の迷いもなかった。
 ラプチャーは妄想世界を展開、己が魔力空間で包み込んだ死神を凝視する。
「此処は此方の世界……故に全ては思い通りに……!」
 ラプチャーの全てを込めた、叩きつけるような言霊と共に、エネルギー弾を発射。
「――あばよ、くそ姉」
「あぁん……これから……なの、に……」
 石化によって身動きを封じられ、がら空きになった体へ吸い込まれるラプチャーの魔球。心臓を穿たれた死神は、糸の切れた人形のようにぷつりと地面に倒れ伏し、そうして二度と動かなくなった。

●四
 全てが終わった時、辺りは夜になっていた。
「水凪嬢。そちらは終わったか?」
「ああ。お疲れ様、レオンハルト」
「ところで水凪嬢。この後食事でもどうじゃ」
 首肯と一緒に投げられた目配せに、レオンハルトは口を閉じる。
(「む……そうじゃった、いかんいかん」)
 二人が戻ると、ちょうど仲間達も帰りの支度を済ませたところだった。ベンチに腰掛けるラプチャーと、そんな彼の身を案じる仲間達の顔を、修復された街灯がぼんやりと照らす。
「ラプお兄ちゃん、怪我はない?」
「べ、別に心配なんかしてないわ。たまたま通りかかっただけよ……ね、すあま」
「ああ……二人ともありがとな、それに皆もな……」
 ノルンとアルメリアに微笑みを作り、仲間達にも礼を述べると、ラプチャーはリュックを手に立ち上がった。
「ラプ兄ちゃん……?」
 槍神モードでラプチャーを励まそうとしたノルンが、一瞬立ち止まる。
 ――せっかくだし、ご飯でも食べに行かない? もちろん、ラプ兄ちゃんのおごりで。
 喉まで出かかったいつもの言葉が、どうしても出てこない。
「悪い、帰るわ。……ああ、親にも連絡しとかねえと、一応」
 浮かない顔のまま公園の門へと歩き出すラプチャー。夜の闇へと溶けるように遠ざかっていく彼の背中は、なぜか酷く儚く見えた。
「俺は……どっち側なんだろうな」
 サキュバスの青年の呟きだけを残して、ケルベロス達は帰路へと就く。
 冬の冷たい足音は、すぐそこまで迫っていた。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年12月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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